弘大農生報 No.
9
:68 - 79,2006は じ め に
近年における中国のリンゴ生産の増大は世界の果実生 産の歴史において驚異的なものであり,その輸出の激増 によって,世界のリンゴ生産とリンゴ経営に大きな影響 を及ぼしている。本論文では,中国のリンゴ生産の激増 と生産過剰の下でリンゴ輸出の急増の背景を探る。
つぎに,日本における果汁輸入の増大がリンゴ価格の 低下などを通じてリンゴ経営に極めて深刻な影響を及ぼ しており,恐慌状態にあることを分析する。
最後に,りんご経営とりんご産業が当面している課題 と今後の展望について,青森県の代表的なりんご地域相 馬村の農協を中核とした取り組みによるリンゴ産業構造 立体化の事例によって検討したい。
1 中国のリンゴ生産の激増とその背景
表
1
は,世界の主要国のリンゴ生産量の変化を示した ものである(統計表の原典が明示されていないが,最新 のデータが掲載されているので,概要を把握する意味で 以下この統計を利用する)。2003 -
5
年平均の世界のリンゴ生産量は,6,189
万t
で あり,10年間に26
%も増加した。地域別にはアジアの 伸びが著しく,ことに中国は2
倍以上の驚異的な伸びを 記録している。中国は,今や,2,326
万t
に達し,世界の38
%を占めるに至った。他方では,米国,ヨーロッパ,日本,韓国などでは生産がかなり減少している。日本 は,99万
t
から82
万t
へと17
%も減少している。ヨー ロッパではポーランド,南米ではチリが中国に次ぐ高い 伸びを示し,注目される。中国における生産の増大は,短期間のうちに
4
つの段 階を経ていることが,図1
に示されている。(4)すなわち,①
1980
年代前半の栽培面積の急増と生産の緩やかな増 大期,②1988
年から91
年にかけての停滞期,③92
年か ら96
年にかけての栽培面積と生産量の大躍進期,④97
年以降の栽培面積の減少と生産量の増加・停滞・減少期 という具合にめまぐるしく変化してきている。特徴的なことは永年木の果実生産であるにもかかわら ず,面積,収量が短期間に急激な増減を記録しているこ
リンゴ果汁輸入の急増が日本のリンゴ経営に与えた影響
− リンゴ過剰恐慌輸出によってもたらされた経営危機 −
宇 野 忠 義
地域資源経営学講座
(2006年
10
月10
日受付)表
1
リンゴの主要国別生産量の変化と変化率(1993~2005)変化率
(%)
平均生産量(千 ㌧)
国 名
割合(%)
2003
-5 1993
-5
125. 6 100. 0
61, 892 49, 265
世界計
87. 3 156. 0 203. 9 115. 5 128. 1 120. 2 83. 3 56. 6 84. 4 94. 1 89. 8 153. 1 101. 3 7. 0
2. 1 37. 6 3. 9 3. 9 2. 4 1. 3 0. 6 3. 5 3. 2 2. 6 3. 8 0. 8 4, 323
1, 300 23, 264 2, 417 2, 400 1, 470 822 368 2, 159 1, 981 1, 590 2, 333 488 4, 954
833 11, 411 2, 092 1, 874 1, 223 988 649 2, 557 2, 105 1, 770 1, 524 482
米 国チ リ 中 国 トルコ イラン インド 日 本 韓 国 フランス イタリア ドイツ ポーランド ニュージーランド
注:中央果実基金『海外の果実生産・貿易状況
2006
年版』(2006.
3
)10頁より作成。図
1
中国リンゴ栽培面積と生産量の推移資料:中国統計年鑑(1
9 8 1
-1 9 9 1
),中国農業年鑑(19 9 0
-2 0 0 3
)とである。第
3
段階には面積の増大よりも生産量の増大 が大きく,単位面積あたり収穫量が顕著に増大してきて いる。これは,剪定,摘花,摘果,袋かけ,摘葉などの 着色管理といった生産技術がリンゴ生産に広く導入さ れ,良品種がいっそう普及したことの結果である。第4
段階の98
年以降も労働集約的な生産技術の改良が進展 し,単位面積あたり収量の増大が目立つ。この第
3
段階において,生産の増大に国内の需要の増 加が追いつかず,たちまち過剰生産を引き起こすことに なった。その結果,リンゴ及び果汁の輸出増大を迫ら れ,低価格生産を梃子として,米国やアジア諸国に輸出 を急激に伸ばしている。もう一つの特徴は,山東省,陝西省への生産の拡大・
集中と旧産地遼寧省の相対的な後退といった地域的分化 を伴っていることである。
そして最大の特徴と言うべき点は,農業請負生産責任 制の下で,典型的な零細農家経営によるきわめて労働集 約的な生産であることである(零細分散耕地に基づく平
均栽培面積は
1
戸当たり4
ムー=26. 7
a
~5
ムー=33. 3
a
と言われる)(2)。中国農業大学農学院 陳青雲教授による『中国におけ るリンゴの生産・流通事情調査報告書』には山西省,陝 西省,山東省,河北省,河南省の五カ所の調査結果が報 告されている。1999年~
2001
年の平均値で10
a
当たり 投下労働日数が150
日に及んでいる。青森県の約5
倍に 達する極めて労働多投的な栽培といえる。54日~245
日という大きな幅で地域差があるが,摘み花,摘果,袋 かけ,摘葉などの作業労働に多くを費やしているところ が投入量が多く,逆に,労働投入の少ない地域は労働集 約的技術が導入されておらず,伝統的な技術段階に止 まっていると指摘されている。(3)10
a
当たりの粗収入は表2
で示したように,5地域平 均で1999
年=3251
元,2000年=2879
元,2001年=2449
元へと2
年間で24. 7
%も減少している。これは過 剰基調の下での価格低下が影響している。粗収入から農林特産税(10
a
当たり331
元であり,経 表2
リンゴ園10
アール当たりの粗収入及び純収入(中国)榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(単位:元/
10
アール)2001
年2000
年1999
年 地域純収入 粗収入
純収入 粗収入
純収入 粗収入
965 1, 430
1, 361 2, 067
1, 640 2, 466
山西省臨猗
683 1, 640
971 1, 967
2, 345 3, 339
陝西省白水
3, 311 4, 892
3, 000 4, 364
2, 571 3, 710
山東省栖霞
2, 342 3, 702
3, 185 4, 419
3, 335 4, 640
河北省順平
-
2, 956 582
567 1, 580
842 2, 102
河南省霊宝
1, 401 2, 449
1, 817 2, 879
2, 146 3, 251
平均
注:前掲『中国におけるリンゴの生産・流通事情調査報告書』20,
21
頁より引用。表
3
リンゴ農家一人当たりの年収入(中国)榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(単位:元/人)
平均
2001
年2000
年1999
年地域
3, 498 2, 553
3, 602 4, 340
山西省臨猗
2, 439 1, 286
1, 766 4, 267
陝西省白水
4, 244 4, 745
4, 300 3, 686
山東省栖霞
2, 734 2, 168
2, 948 3, 086
河北省順平
386
-
297 556
900
河南省霊宝2, 660. 2 2, 091. 0
2, 634. 4 3, 255. 8
平均
64 81
100 1999
年比注:同上
21
頁より引用。営費の
31
%を占める),農薬,化学肥料,光熱水道費,袋代,技術サービス料などを差し引いた純収入は,1999 年=
2146
元,2000年=1817
元,2001年=1401
元へと2
年間で34. 7
%も減少している。所得率は66. 0
%から57. 2
%へと大きく低下した。これは粗収入の減少の中で 農薬,肥料などの購入資材費などの増加によって経営の 悪化がより進んだことを意味している。そのため,農家一人当たりの年間純収入は表
3
で示し たように,5地域平均で1999
年が3256
元(1元15
円と し て48
,840円),2000年 が2634
元(同39, 510
円),2001
年が2091
元(同31, 365
円)へと2
年間で35. 8
%も 大幅に減少している。また,販売価格について見ると,表
4
のように,生食 用リンゴ(一級着色系「ふじ」)の流通段階別の価格は,山 東省煙台および河北省高陽における調査では1
kg
当た り生産者価格が1999
年には5. 5
~6
元,卸売価格が6. 5
元,小売価格が10. 6
元である。2003年では生産者価格 が4. 9
~5
元に低下し,卸売価格が5. 5
~6
元,小売価格 は10
元に低下している。低下率は生産者価格が一番大 きく,ついで卸売価格,小売価格の順となっており,生 産地サイドに影響,しわ寄せがより大きく現れている。小売価格の低下は小幅といえる。
なお,「中国農業情報ネット
2004
年果実市場形勢分 析」によれば,2002年以降「ふじ」系リンゴ価格及び「国光」の卸売価格は低下傾向にあり「ふじ」(等級なし)
の価格は
2003
年から2004
年では,2元~3
元の範囲で 推移している。また,「国光」(等級なし)の2003
年から2004
年の卸売価格はおおよそ1
~2
元の間で推移して いる。品質・等級差があるので単純に比較は出来ないが,2002
年以降も価格が低下傾向にあり,ことに下級品価格 の下落が見て取れる。なお,加工用原料価格は統計がないので不明である が,一部農家の聞き取りでは
2001
~2003
年の調査では1
kg
当たり0. 3
元から0. 6
元で販売している。(4)また,近年の価格については,需要が供給を上回るほ ど評判の良い陝西省における
2005
年の農家販売価格は,リンゴ
1
kg
当たり3
から3. 5
元(同45
円~52. 5
円)で あり,加工用価格はその10
分の1
程度と言われている(陝西省果樹管理局長王振興氏の説明による)。
このように,今後も成園化が進み,技術向上とともに 供給過剰が予想されるもとで,価格低下と経営の恐慌的 状態が現れている。零細経営の下で増産を図ればますま す過剰が激化し,悪循環を招くことになろう。そのはけ 口がリンゴと原果汁の急激な輸出の増大となっている。
また,高品質リンゴの生産こそが供給過剰の下で激しい 市場競争を勝ち抜いていく基礎と考えられている。それ 故,国内の競争力上昇のための集約的技術の導入,高品 質生産への努力は,同時に国際的な市場競争力を高める ことになり,輸出圧力を強めることにもなる。
ただし,高品質生産のための労働集約的技術の導入の ためにさらなる労働投入を図ればいかに低賃金とはい え,コスト高要因となってくる。その意味では中国にお いては,リンゴ品種の適切な選択,栽培管理技術さらに は貯蔵,輸送技術やそれらのシステムの改善が引き続き 重要な課題となっている。また,経営費増大をいかに低 下させていくか,そのための組織的な取り組みも重要な 課題である。
2004年から農業税,農林特産税は廃止されたが,きび しい産地間競争は続いており,それは輸出圧力ともなっ て,海外のリンゴ産業に大きな影響を与えることとな る。
2 中国産リンゴ及び果汁の輸出の激増
2004年における世界のリンゴ生産量は
6, 321
万t
であ り,そのうち10
%の643
万t
が輸出されている。表5
のごとく,90年代まではフランス,米国が最大の輸出国 であったが,輸出量は停滞,減少傾向にあり,逆に,2004
年には輸出新興国の中国,チリが上位に躍進し,70 万トン台の輸出量となっている。ヨーロッパではイタリ ア,ポーランドが輸出を増大しており,ニュージーラン ドも増加傾向にある。輸出を巡る各国の盛衰,競争の激 化が伺える。つぎに,リンゴ果汁の輸出について検討したい。表
6
は,濃縮果汁の輸出量の推移を示したが,世界計では50
万t
から87
万t
へと年率5. 5
%の高い増大率が注目され る。ヨーロッパ諸国が主要な地位を占めており,ことに 表4
生食用リンゴ(一級着色系「ふじ」)の流通段階別の価格動向榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(単位:元/
kg
)2003
年2001
年1999
年生産地 小売
価格 卸売
価格 生産者
価 格 小売
価格 卸売
価格 生産者
価 格 小売
価格 卸売
価格 生産者
価 格
10 5. 5
4. 9 11
6. 1 5. 6
10. 5 6. 5
5. 5
山東省煙台10 6
5 11
6. 4 5. 8
10. 5 6. 5
6
河北省高陽注:中央果実基金 海外果樹農業情報
No. 84
『中国におけるリンゴの生産・流通事情調査報告書』(2005.6
)29頁より 引用。ポーランドが
22
万t
と際だっている。ここでは中国は登場しないが,非濃縮果汁の輸出で は,表
7
に示すように,1998年以降中国の輸出量が激増 し,2004年には49
万t
に及び,世界の43
%を占めてい る。図1
で示したように,1997年以降中国の栽培面積 は減少しているが,結果樹面積は増大しており,他方で は,中国国内の生食用消費量は,1999年に1860
万t
と ピークになり,以後1700
万t
から1800
万t
前後に減少 しており,増加した生産過剰分が加工仕向けと輸出に 回っている。2003年の加工仕向け量は230
万t
,輸出量 は61
万t
に及ぶ。こうして,98年以降果汁輸出が激増している。
1995年にはドイツや米国が果汁輸出の主要国であっ たが,90年代末以降新興輸出国に取って代わられた。
1998
年には,米国は中国産果汁の米国への低価格輸出に 対し反ダンピング訴訟を起こし,51.74
%の追加賦課を 課したが,一時減少後も輸入が増大している。米国では 果汁価格が1995
年の1
ガロン(3.8
ℓ)7.63
㌦(約221
円/ℓ)から98
年には3. 57
㌦(約103
円/ℓ)へと53
%も低下しており,米国のりんご生産者団体は危機感を 強め,ダンピング提訴に踏み切り,あるいは日本への輸 出圧力を強めた(5)。また,これ以降,中国は日本への果 表5
主要国のリンゴ輸出量の推移(1995~2004
年)榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(千 ㌧,%)
年成長率
2004
2001 1998
1995
国 名2. 30 6, 426
5, 326 5, 118
5, 187
世 界 計22. 18 5. 17
-
1. 32 3. 31
-
1. 88 14. 87
-
1. 98 1. 44 774
739 628 542 492 407 388 358 304
615 778 533 715 246 234 262 170
576 766 540 582 169 339 292 109
433 768 499 635 139 412 302
中 国チ リ フランス イタリア 米 国 ポーランド オランダ
ニュージーランド
注:中央果実基金『海外の果実生産・貿易状況
2006
年版』(2006.3
)108頁より作成。表
6
主要国のリンゴ果汁(濃縮)輸出量の推移(1995~2004
年)榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(千 ㌧,%)
年成長率
2004
2001 1998
1995
国 名5. 52 871
700 553
503
世 界 計11. 60 34. 99 5. 49 5. 50 9. 99
-
3. 51 1. 66 222
80 75 54 55 48 44 43 192
8. 3 70 62 0 73 79 37 104
9. 1 58 34 0 73 55 51 85
8. 8 43 31 0 91 67 30
ポーランドスイス オーストリア チ リ ハンガリー ドイツ アルゼンチン トルコ
注:同上
147
頁より作成。年成長率は2004
年の数値と1995
年の数値の対比である。表
7
主要国のリンゴ果汁(非濃縮)輸出量の推移(1995~2004
年)榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(千 ㌧,%)
年成長率
2004
2001 1998
1995
国 名11. 72 1, 139
808 579
409
世 界 計48. 49 16. 03 30. 27 9. 84 487
283 68 58 229
116 18 25 81
84 12 19 18
78 6 29
中 国ドイツ オーストリア イタリア
注:同上
148
頁より作成。汁輸出を増加させることになる。
3 日本のリンゴ及び果汁の輸入状況
1971年,日本では,リンゴの輸入が自由化された。し かしながら,日本では未発生のコドリン蛾,火傷病など は植物防疫法に規定された輸入禁止品に該当し,発生国 からは許可されず,当初は,未発生国の韓国からのみ少 量が輸入された。その後,米国,ニュージーランドから 輸入解禁の申し入れが続いたが,日本は禁止してきた。
1993年
6
月,植物防疫法の改正により,火傷病の発生 国ニュージーランドからの輸入が6
品種について解禁さ れた。続いて,93年8
月,米国の火傷病など3
病害虫の 防除データの提出を受け,同法施行規則の一部改正によ り,1994年8
月,米国産リンゴ2
品種の輸入が解禁され た(6)。世界第
2
位の生産・輸出国である米国からは,1995年 に94
年産リンゴが8, 935
t
,14.6
億円の輸入がなされた。ところが,米国からの輸入量が多かったのはその
1
年の みであり,以後は,400~100
t
台に激減し,2002年以 降は輸入が途絶えている。95年産以降の米国リンゴ輸入の減少理由は,①食味が 劣る割に価格が安くない,②日本で人気のない品種,③ 日本で使用禁止の農薬防燻剤
TBZが 94
年産から検出 されたことなどである。こうして,1995年を除き,日本のリンゴ生果実市場に おいては,生産者の品種転換と高品質生産並びに販売努 力や消費者の志向等により,海外産生果実の輸入を防い
できた。
しかしながら,リンゴ果汁輸入の激増によるリンゴ産 業への影響は非常に大きい。1990年
4
月にリンゴ果汁 の輸入自由化が決定され,それ以降輸入量が増加を続け た。表8
及び脚注に示したように,1995年には7
万5
千t
(生果換算で約66
万t
,国産果実の6
割を超える量)に達し,以後も変動を続けながらも増加基調にあり,台 風被害のあった
2004
年には94
千t
の輸入量となってい る。生果・果汁合計の生果換算輸入量が80
万t
,国内加 工仕向け量の5
倍に達し,リンゴ全体の自給率は60
% を割り込むところまで低下している。果汁の輸入先は,米国産果汁がトップであったが,
1998
年から中国産果汁が最多となり,リンゴ果汁輸入量 の50
%前後を中国産が占めるようになった。4 リンゴ果汁輸入の増大がリンゴの価格に与えた影響 リンゴ果汁輸入の増大が日本のリンゴの市場価格及び 加工用リンゴ価格に及ぼした影響について,日本のリン ゴ生産の
50
%以上を占める青森県を対象にして検討し たい。表
9
に示すように,リンゴ価格は1992
年以降低下傾 向にあるが,収量・需給変動を反映して不安定である。1997
年には,生果の産地市場価格が1
㎏ 当たり140
円 へと21
%も低落し,また,果汁用価格は1
㎏19円へと55
%も激落した。その後,生果の価格は少し回復する が,果汁用価格は低下したままであり,採算割れ価格で ある。ことに,2002年産に至っては9
円という投げ売 表8
主要国のリンゴ果汁(濃縮)輸入量の推移(1995~2004
年)榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(千 ㌧,%)
年成長率
2004
2001 1998
1995
国 名9. 91 1, 019
732 516
444
世 界 計4. 47 5. 26 12. 51 16. 73 322
151 94 86 50 40 268
202
*
100 42 47 0 220
124
*
65 36 23 0 193
90
*
75 34 29 0
米 国ドイツ 日 本 英 国 オーストリア ロシア
注:同上
147
頁より作成。日本の2002
.2003年の輸入量は75
千 ㌧ となっている。なお,日本の
1995
~2001
年は,誤記入と思われる「非濃縮」果汁輸入量として示されて いる数値を「濃縮」果汁輸入量としてここに表示した。表
9
リンゴ1
㎏ 当たりの産地、消費地市場平均価格の推移並びに果汁用加工原料価格の推移(青森県)榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(円)
2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990
158 268 24 124 229 9 131 218 18 177 322 32 164 274 19 161 337 12 140 227 19 177 277 42 160 288 35 176 319 22 172 264 36 162 295 42 264 463 33 181 354 35
産地市場価格消費地市場価格 果汁用加工原料価格
注:青森県りんご果樹課『りんご流通対策要項』各年産版による。2004年度はそれぞれ,196円,312円,30円に回復した。
り同然の大赤字価格となってしまった。
この背景には,リンゴ果汁輸入量の増大がある。リン ゴ加工業は,生食リンゴの下級品に付加価値をつけるこ と,並びに生食リンゴの価格安定,需給調整という役割 を担っていたが,その役割を果たせなくなった。1990年 のリンゴ果汁の輸入自由化以降安価な海外果汁の流入に よって国内産加工リンゴの需要が減り,生産農家は収入 維持のためそれまで加工に振り向けていたリンゴを生果 市場にまわすと,生果市場がダブつき価格低迷へとつな がる。
また,円高を利用して,加工業者や大手ボトラーは輸 入原果汁への依存を強め,あるいは,すぐ販売できる製 品の輸入や,海外の加工場で生産し,逆輸入するメー カーも増えてきており,青森県内の加工場に対する大手 ボトラーからの原果汁の注文が減ってきている。
青森県りんご果樹課の資料によれば,青森県内の果汁 加工用リンゴ販売量は,輸入自由化以前の
5
年間の平均 で年間12
万5200
t
であったが,自由化以降減少し,2000
年からの5
年間では年平均8
万5200
t
となり,10 年間で32
%も減少している。(7)こうして,生果需要自体の減少傾向の下で,供給の増 加は大幅な価格低下をもたらすことになる。さらにま た,加工用リンゴ需要が減少し,供給がダブついて価格 が激落している。
このようにリンゴ農家はダブルパンチを受けることに なる。
また,流通構造の変化についても指摘しておきたい。
需要の停滞傾向の下で,1999年の卸売市場法の改正に より公認された「先取り相対取引」により,量販店主導 の値決めに移行し,市場の建値による価格形成が機能低 下していること,また,量販店の競争激化で,低価格競 争に拍車がかかっていることも注目すべき点である。(8)
5 青森県のリンゴ農家の経営の悪化による恐慌的状態 つぎに,青森県のリンゴ農家の経営の悪化について検 討し,今後の対策について触れたい。
表
10
は,農水省の生産費調査及び経営動向調査に よって青森県のリンゴ園10
a
当たりの収益性の推移を 示しているが,粗収益は収量・価格の変動・低下を反映 して,1990年以降,ことに97
年以降減少が著しい。1990
年の50. 3
万円から95
年の42. 0
万円,99年の34. 8
万円に
30
%も減少している。またそれ以上に注目され ることは,所得の減少がいっそう大きいことである。1990
年の10
a
当たり31. 7
万円に対し,95年には24. 3
万円に23
%も減少し,さらに1999
年には15. 7
万円へと50
%も減少している。2003年の所得低下はさらにひど く,10a
当たり12. 5
万円に激減し,リンゴ経営の困窮状 態をもたらした。1日(8時間労働)当たり家族労働報酬は,1990年に は
11
,047円であり,地域の現業労働平均賃金を70
%ほ ど上回っていたが,1995年には1
日当たり6811
円に低 下し,地域の平均賃金9000
円を24
%も下回るように なった。表示していないが,それ以後も更に低下し,2000
年以降5000
円台以下となり,平均賃金の半分以下 に激減している。そして,2003年には4272
円という最 低賃金水準以下に落ち込んでいる。学生のアルバイト賃 金をもかなり下回る驚くべき低水準である。2004年に は台風被害による収量減少,価格回復により収益性は改 善したが,2005年はまた悪化している。リンゴ経営が比較的に順調であった果汁の自由化以前 の労働報酬に比較して,その
40
%以下という「ワーキン グ・プアー=働いても,働いても楽にならざる」状態に 追い込まれている。リンゴ史上かってない状態である。リンゴ生産者は専業的従事者が多いが,その労働の対 価・評価のあまりの低落と価値実現条件の劣悪化は驚異 的であり,悲惨とも言うべき状態である。この数値をみ れば恐慌的な価値破壊とさえ言えよう。
10
a
当たり生産費では,農薬,光熱動力費,建物及び 土地改良設備費,諸材料費が増加している。粗収益の低 下,減少にも関わらず,これらの生産費の増大が持続し ているところに経営収益に関わる構造的問題がある。昭 和初期の恐慌の際のシェーレ現象を思い起こさせるもの である。(9)生産費調査及び経営動向調査によって,青森県のリン ゴ経営について,仮に企業的会計計算をすれば,1990年 では,10
a
当たり10
万円の利潤があったが,1995年に は10
a
当たり8
万円の赤字となり,2000年以降では,15
~16
万円の赤字へとさらに悪化している(1995年以 降は公表数値がないので,労賃水準及び家族労働の評価 については著者の試算である)。企業経営であれば倒産 状態が続いている。もちろん,家族経営でも経営のまと 表10
青森県リンゴ農家の10
㌃ 当たり収益性の推移榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(千円)
2004 2003
2002 2001
2000 1999
1995 1990
361 172 308
125 333. 3
148. 6 343. 3
161. 4 352
167. 6 347. 5
157. 3 420
243. 1 502. 8
317. 1
粗収益所 得
注:1990,1995年は農水省の生産費調査による。96年以降は経営動向調査による。
もな再生産ができる状態ではない。異常なまさに危機的 な恐慌状態といえよう。
その要因について,青森県の資料を利用して経営内部 からもう少し分析しておきたい。
2000年以降,青森県が県内のリンゴ地域の記帳農家か ら抽出された
14
戸のリンゴ農家を継続して調査してい る。その結果によって,2004年度までの5
年間の経営分析をしておこう。表
11
は調査農家の5
年間の経営成 果の1
戸平均値の推移を示している。暦年で集計しているので,当該年産のリンゴの販売が 翌年にまたがり,また,農協出荷などではプール計算に より翌年に精算されるので,それらの集計事情には注意 を要する。
調査したリンゴ農家の
1
戸平均では1. 7
ha
の作付け規 表11
青森県りんご経営農家の経営成果(2000~2004
年 平成12
~16
年)榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(kg;円)
16
年の12
年対比16
年の前年対比
12
年平均10
a
当たり13
年平均10
a
当たり14
年平均10
a
当たり15
年平均10
a
当たり16
年平均10
a
当たり 項 目106 101
169 172
173 178
179
作付面積 榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎(a)112 84
1, 884 2, 332
2, 427 2, 493
2, 101
販売量1
収入0 0
0 0
26 0
経営仕向量
2
60 88
30 26
21 21
18
家計仕向量3
105 132
206 166
154 164
216
販売単価4
116 111
394, 284 391, 428
376, 014 411, 305
458, 000
販売・家計金額((1+3
)×4
)5
1 79
8, 253 0
776 137
109
副産物等販売額6
114 111
402, 537 391, 428
376, 790 411, 442
458, 109
粗収益合計(5+6
)7
147 150
1, 768 1, 269
568 1, 724
2, 593
種苗費費用
95 103
16, 033 15, 095
13, 986 14, 731
15, 226
肥料費112 104
36, 683 36, 446
41, 402 39, 558
41, 136
農薬費120 83
22, 766 33, 305
36, 134 32, 811
27, 396
諸材料費120 121
10, 802 11, 437
10, 076 10, 739
13, 003
光熱水費119 110
4, 529 5, 928
5, 424 4, 918
5, 401
租税公課166 111
8, 758 12, 159
11, 460 13, 156
14, 547
修繕費58 124
5, 210 3, 709
4, 364 2, 451
3, 031
小農具費103 225
1, 315 1, 294
5, 691 602
1, 355
土地改良水利費87 109
10, 034 8, 993
9, 006 7, 983
8, 701
農業共済掛金54 89
9, 644 14, 411
8, 489 5, 857
5, 240
賃料料金169 96
23, 823 26, 358
32, 748 41, 672
40, 200
雇用労働費0 0
57 30
63 70
0
借地料140 115
1, 430 4, 380
2, 034 1, 737
2, 005
支払利子99 110
3, 164 2, 119
2, 338 2, 835
3, 132
農用被服費112 82
13, 892 25, 972
18, 536 18, 866
15, 507
その他95 91
7, 480 7, 596
11, 022 7, 822
7, 119
建物施設却費113 89
18, 702 17, 771
21, 882 23, 774
21, 107
機械償却費160 99
697 802
1, 076 1, 121
1, 112
動物・植物償却費78 89
79, 193 69, 285
78, 397 69, 558
61, 594
出荷経費105 96
275, 980 298, 359
314, 696 301, 986
289, 405
経営費合計88 97
264, 343 271, 002
251, 467 237, 608
231, 488
家族労賃見積額96 97
540, 323 569, 361
566, 163 539, 594
520, 892
費用合計82 97
225 215
201 190
185 10a
当たり家族労働時間分析指標
133 154
126, 557 93, 069
62, 094 109, 456
168, 704 10a
当たり農業所得117 138
31 24
16 27
37
所得率 榎榎榎榎榎榎榎榎榎(%)46 49
-
137, 786
-
177, 933
-
189, 373
-
128, 152
-
62, 784
農業純収益162 158
4, 500 3, 463
2, 469 4, 607
7, 288
家族8
時間当たり所得注:1 青森県農林総合研究センター資料による。
2 小規模
4
経営,中規模5
経営,大規模5
経営(計14
経営)の調査結果である。3 担当した普及センターは五所川原,弘前,黒石,鰺ヶ沢,三戸である。
4 家族労働費は
1
時間当たり1, 250
円で計算した。5 生産コスト=経営費+家族労働費である。
模である。総販売単価が
2000
年の1
kg
206
円から2002
年の154
円,2003年の164
円へと暴落したにもかかわ らず,経営費は逆に増大している。表に見られるごと く,農薬費,諸材料費,雇用労働費,機械償却費の増大 が目立っている。また,出荷経費が極めて大きいことが 経営悪化に拍車を掛けている。その結果10
a
当たり所 得は2000
年の12. 7
万円から2002
年の6. 3
万円へと半減 し,所得率も31
%から17
%というかって経験したこと のない低さに低落している。家族労働8
時間当たり所得 は2000
年の4500
円という最低賃金水準からさらに低下 し,2500円(2002年)という恐るべき低水準に到ってい る。なお,2004年には,収穫期に
2
度の台風襲来があり,収穫量が
10a
当たり2101
㎏ と前年比で16
%も減少し,他産地の収量減と競合青果物の収量減,品薄からリンゴ 価格が
1
㎏ 当たり216
円に高騰し,数年前の水準に回復 した。その結果,収量の減少よりも価格の上昇がより大 きく,粗収益が増大した。また,収量の減少により,出 荷経費や諸材料費が減少したことも経営収益にプラスに 作用した。2004年には,経営費合計に対する出荷経費の比率は
21. 3
%にまで低下した。2000年には29
%と言う高い出 荷経費比率であったが,減収が流通経費の減少に好影響 をもたらしている。それでも支出項目の中で最大の額を 占めている。出荷経費の削減対策の重要性が指摘でき る。農協や生産者団体を挙げて取り組むべき課題の一つ である。つぎに,家族労働
8
時間当たり所得についてみると,前述の生産費調査結果よりも更に低くなっている。2000 年の
4500
円という最低賃金水準からさらに低下し,2002
年には2500
円という恐るべき低水準に到り,もっ とも危機的な状態であった。2003年には4600
円と最低 賃金水準に戻り,台風被害のあった2004
年には7288
円 へと数年ぶりに7
千円台に復帰した。それでも地域平均 賃金水準には及ばない。所得率も37
%に回復した。しかしながら,翌年の
2005
年には平年作水準を回復 し,価格が前年比で20
%以上も低落し,再度経営が劣悪 化している。「豊作貧乏」から更に「平年作貧乏」とも言 うべき状態に追い込まれている。荒廃園の出現や協同防 除の維持存続が現実の問題となり,また,果樹の伐採が 進行している。リンゴの再生産基盤は果樹園・樹体にお いても,労働力においても確実に掘り崩されてきてお り,農家の懸命の努力も限界に来つつある。耕作放棄が 出ても不思議ではないが,リンゴ農家はじっと耐えてい る(10)。6 今後の課題と展望 −相馬村における農業を核とし た産業構造立体化の取り組み−
最後に,今後のリンゴ経営及びリンゴ産業の課題と展 望について,津軽の代表的なリンゴ生産地域である相馬
村(2006年
2
月に合併して現在は弘前市に含まれる)の 事例によって検討しておきたい。(11)旧相馬村は津軽平野の南方,弘前市の西隣,秋田県境 の山岳地帯に接し,三方を国有林に囲まれた農山村地帯 である。最初に,2000年センサスにより相馬村の農業 概況に触れておきたい。農家戸数
582
戸,耕地面積1040 ha
(1戸あたり179
a
),うち86
%が樹園地で895
ha
,1 戸あたり165
a
で県下で1
位の樹園地規模である。水田 は132
ha
(所有農家289
戸,1戸あたり46
a
)にすぎな い。所有耕地面積の規模別分布をみると,1
ha
未満が163
戸,28 %,1~2
ha
が195
戸,34 %,2~2. 5
ha
が80
戸,13.7
%,2.5
~3
ha
が62
戸,10.7
%,3~4
ha
が54
戸,9.3
%,4~5
ha
が15
戸,2.6
%,5ha
以上が11
戸,1.9
%を占めている。2.5
ha
以上層がやや増加傾 向にある。農業労働力についてみると,2000年の販売農家
547
戸のうち専従者がいる農家は495
戸,90 %に達する。そのうち男女の専従者がいる農家は
384
戸,77 %に及 ぶ。基幹的農業従事者の平均年齢は56. 4
歳であり,県平 均の59
歳より2
歳ほど若い。農業就業人口1365
人(1 戸あたり2. 50
人)を年齢別にみると,男子642
人の中,20
歳 代21
人,30歳 代71
人,40歳 代97
人,60歳 代196
人,70歳 以 上122
人 と な っ て お り,65歳 以 上 が50
%を占めている。耕地規模と労働力を対比すれば,耕地
1. 5
ha
以上の農 家全戸が,また,リンゴ栽培農家1
ha
以上の370
戸全部 に男女の専従者がいることになる。リンゴ園は傾斜地,山間地がほとんどであり,収穫は手作業であり,一人当 たり千箱が限度である。それ故,リンゴ
2
ha
以上の栽 培農家においては通常2
世代,4人の労働力を必要とし ている。相馬村では,2000年当時,リンゴ経営については,40 歳代以上の労働力は確保されているが,39歳未満では 手薄になってきている。これは,1980年代前半までは リンゴ経営が現在ほど厳しくなく,若い後継者が確保で きていたが,その後は次第に困難となってきており,品 質を維持,高めつつ省力栽培を採用している。無袋栽 培,葉採らずリンゴ,わい化栽培,低農薬栽培などに集 団で取り組み,また,農協が仲介して農協間の労働力交 換やアップルヘルパー制度を導入している。さらに,村 レベルで青年農業者の会が組織されており,リンゴ農家 の自主的組織であるりんご協会主催の研修会などに積極 的に参加し,高い技術水準を維持し,その継承を図って いる。その結果,相馬村では優良銘柄の確立と多くの受 賞を記録し,篤農家を輩出してきた。
しかしながら,長期不況と農産物需要の頭打ち,後退,
他方での農産物輸入の増大と農産物価格の低落といった 経済状況の下で,農業予算も削減され,農業所得の減少 は顕著である。その克服のためには,農業を核として,
農産物加工や農業の多面的機能を発揮させるような二次 産業,三次産業への展開とそれらを包摂した産業構造の 立体化が必要となっている。(12)
相馬村における産業構造立体化の取り組みは,農協を 中核としたリンゴ,米などの生産,加工,販売の指導体 制と高い系統利用率による立体化が特徴的である。
農協は非合併を決断し,「小さな
J A
,大きな貢献」を 目標にし,「みんなが集まるJ A
」を基本理念にして,地 域と一体となった取り組みを特徴としている。JAの米
取り扱い率100
%,リンゴの取扱量93
%,その他主要事 業ともおおむね80
%を超える高い利用率を実現してい る。そして,産業構造の立体化としては,農協がリンゴ ジュースの加工など
2
次産業面に取り組んでおり,さら に農協運営による農産物直売所を開設している。その他 にCA
貯蔵庫,冷蔵庫,選果場,農産物加工施設,リン ゴジュース加工場,育苗施設,ライスセンター,石油ス タンド,機械化センター,事務所などを揃え,2005年度 末では,正職員44
名,常傭的臨時雇用者27
名で運営さ れている。農家家族や地元民の雇用の機会を提供してい る。また,何よりも,特徴を持った農産物の生産と付加 価値を付けた有利な販売に工夫を重ねて取り組んでお り,その結果として高い系統利用率と健全な収益性を実 現している。他地域同様に,農産物の販売額はこの
20
年近く,停 滞,減少してきているが,リンゴジュースの加工を拡大 し,ほぼ順調な軌道に乗っている。これは,品質の良さ,積極的販路の拡大,農協内での生産者・加工部門・販売 所の三者にそれぞれ収益があがるような価格調整・作業 調整,バランスのとれた管理運営を農協担当指導者が計 画・勘案し,経験を積み上げてきた成果である。
また,直売所も売り上げを伸ばし,1997~
99
年度に は3
億円を超え,3億4400
万円に達し,組合員の農産 物・加工品の売り上げも9000
万円に近づいた。2000年 度以降は,リンゴの宅配とリンゴジュースの特産販売を 別事業に移行したため,「りんごの森」売上高は,形式的 には後退したように見えるが,2000年度の1. 87
億円か ら2004
年度には2
億5423
万円の販売額へと順調に増大 している。94年の発足当初は余った農産物を売るとい う意識であったが,現在では「売れる農産物,買ってく れる商品づくり」を目指している。いわば,需要に対応 したまた需要創造型の生産・販売を目指しているといえ る。そのためにも,全農家が「農作業記録簿」に記帳して おり,トレーサビリティを確立し,また薬剤散布回数の 削減や減農薬なども含めて「J
A相馬村農産物信頼シス
テム」を独自に構築していることが特筆すべきことであ る。これは,2006年1
月からりんごでは全国初めてと なる2
次元バーコード(QRコード)を導入しており,携帯電話で
2
次元バーコードを読み取ると生産履歴が一目で分かるというシステムである。これについては,
「トレーサビリティを確立して安全を確保し,消費者に 信頼してもらうというのは今では当たり前の話であり,
信頼を裏切る産地は成り立ちません。これからは,更に 信頼を超えた感動を実感してもらうことを考えていま す。」と
J A相馬村事業推進部長兼販売本部長の田沢俊則
氏は語っている。(13)こうして,J
A相馬村の 2004
年度の事業総利益は6
億1698
万円,事業管理費は4
億9930
万円,事業収益は1
億1769
万円を実現している。これに事業外収益を加え,法人税など諸課税を差し引いた当期剰余金は
1
億2200
万円の実績を残している。農協は経営の健全性を図る上 で内部留保を増強し,正組合員一人当たり106
万円の出 資となっており,自己資本比率は実に38. 8
%に達する。県内トップクラスを堅持している。全国的に見ても非常 に優れた実績を上げている。
前述したように,価格低下などを反映した経営の悪化 が進行しているので,かかる農協の経営余剰をも利活用 した特別の経営安定対策などの取り組みが更に必要であ る。
相馬村における農業を核とした産業構造の立体化はま だ展開途上にあるが,多くの困難な重い課題を抱えてい る。中でも重要なことは,リンゴ農家の経営安定対策で ある。1997年のリンゴ価格の激落を契機に青森県の単 独事業で
99
年に発足した「青森県生食用りんご価格安定 制度」は,2001年からは国も加わった「果樹経営安定対 策事業」として継続している。緊急不可欠のものであり,不十分ながらも価格の暴落に対して一定の補填がなさ れ,激減している所得の一部が補償されている。2001,
02
年産の価格暴落時に合計64
億円の支払いがあり,損 失の一部補填がなされ,ひと息つくことが出来た。しか し,金額・量などでまだ不十分であり,また,何よりも 加工用リンゴが全く対象とされておらず,底に穴が空い ているバケツのようなものである。それは,前述したよ うに,生果の価格下落に強く連動しているからである。しかも,その措置も
2005
年度より廃止されることにな り,日本のリンゴ生産の将来は不安と暗雲が立ちこめて いる。(14)リンゴ農家の後継者の確保,農家労働力の再生産を保 証するものとして経営安定対策の継続・拡充は緊急不可 欠のことである。また,付加価値生産の拡大を図る産業 構造の立体化を実現していく上でも,密接な関係を持つ リンゴ果汁の生産・流通に対する価格保証を含めた行政 施策も緊急不可欠となっている。銘記すべきことであ る。
要 約
本論文では,中国のリンゴ生産の激増と果汁輸出の急 増の背景を探った。農業請負生産責任制の下で,極めて