短期留学生の日本適応能力向上についての研究 短 期留学経験者の職場での日本語使用および過去の留 学に対する評価(研究プロジェクト 短期留学生の 日本適応能力向上についての研究)
著者 林 奈緒子
雑誌名 東西南北
巻 2010
ページ 114‑133
発行年 2010‑03‑18
URL http://id.nii.ac.jp/1073/00001562/
1──
はじめに和光大学では、2001年度より上海大学から特別聴講生を迎えている
2)
。大学で は、学生支援室における留学生支援、日本人学生による留学生サポーターの活動 をはじめ、2006年度からは特別聴講生を対象とした日本語講座3)
を開講するなど、日本での生活への適応を図り、充実した大学生活を送れるよう、さまざまな支援
──────────────────
1)本稿は、共同研究者である経済経営学部教授鈴木岩行、非常勤講師水谷利律子とともに和光大学総 合文化研究所研究プロジェクトとして実施した調査をまとめたものである。
2)特別聴講生は例年5月に来日し、和光大学で様々な授業を履修しながら10ヶ月あまりを日本ですごす。
ほとんどの学生が日本にいる間に日本語能力試験を受験し、1級ないし2級に合格して帰国する。
3)特別聴講生を対象とした日本語講座は、大学生活に必要な日本語能力の向上を目的として、来日直 後の5月から11月末までの実質5ヶ月間、週3コマ開講されている。
研究プロジェクト:短期留学生の日本適応能力向上についての研究
短期留学経験者の職場での 日本語使用および
過去の留学に対する評価 1)
林 奈緒子 共同研究員/和光大学非常勤講師
【要旨】和光大学で特別聴講生として学んだ短期留学経験者の多くは、
帰国後日系企業に就職している。短期留学経験者は勤務先においてど のような場面で日本語を使用しているのだろうか。また自らの現在の 日本語能力、勤務先での今後の日本語使用についてどのような意識を もっているのだろうか。さらには、日系企業をはじめ企業で働く上で、
日本への短期留学の経験をどのように評価しているのだろうか。これ らを明らかにするために、元特別聴講生を対象としてアンケート調査 を実施し、それに基づいて上海でフォローアップインタビューをおこ なった。
職場での日本語使用に関する調査では、「話す力」において先行研 究に一致する結果が得られたが、「読む力」「書く力」においては、先 行研究からの時間的な経過を反映し、やや異なった傾向が見られた。
過去の短期留学への評価は、概ね肯定的なものであったが、留学生 教育・留学生支援の改善につながるような有効な指摘が得られた。
がおこなわれている。
特別聴講生の来日時の目的は、日本語能力を向上させること、日本での生活を 経験すること、日本で自らの専門に関わる授業を履修することなど様々であるが、
この短期留学経験者の多くは、日本での留学経験を活かし、帰国後日系企業へ就 職している。近年、日本の大学を卒業し日本で就職する留学生が増加しており、
和光大学を卒業して日本で就職する留学生も少なくない。留学生の身分、留学期 間に関わらず、将来の進路を見据えた留学生支援が重要であることはいうまでも ないが、特別聴講生は日本ですごす期間が短く、習得できる日本語、日本文化に 関する知識も限定的である。短期留学経験者が、勤務先においてどのような場面 で日本語使用を求められているか、また勤務をおこなう中で過去の留学経験をど のように評価しているかを知ることには、今後の短期留学生支援をより充実した ものとする上で重要な意義が認められよう。
本調査では、以下に挙げる 2 つを目的とし、さらに、その結果をもとに、日系 企業で働く上で短期留学に期待できる効果、今後の短期留学生支援において求め られる改善点についても考えてみたい。
1)日系企業で働く短期留学経験者の職場での日本語使用の実態および意識を 明らかにする。
2)日系企業で働く短期留学経験者による過去の日本留学に対する評価を探る。
日系企業に勤務する現地社員がどのような場面で日本語を使用しているかに言 及している先行研究として、島田・澁川(1999)が挙げられる。島田・澁川
(1999)は、アジア 5 都市の日系企業におけるビジネス日本語のニーズを明らか にすることを目的としたものであるが、現地社員がどのような場面で日本語を使 用しているかについても、具体的で精緻なアンケート調査がおこなわれている。
島田・澁川(1999)の調査は、短期留学経験者を対象として実施されたものでは ないが、設けられている質問項目は現地社員の職場での日本語使用を把握する上 で有効であると考えられる。本調査では、島田・澁川(1999)の調査項目を参考 にしながら、過去の留学経験に対する評価を問う項目を加えて、質問紙によるア ンケート調査を実施し、それをもとにフォローアップインタビューをおこなった。
また、本調査では上海で働く短期留学経験者を調査対象としているが、同じ上 海で日系企業にインタビュー調査をおこなった研究に、堀井(2009)がある
4)
。 堀井(2009)は上海における元留学生の採用・就職の実態とそこで生起する問題 点の洗い出しを目的とし、実施したインタビューの内容分析をおこなっているが、──────────────────
4)本調査は2008年7月から9月に実施されたものであり、実施に際して堀井(2009)を参考とすること はできなかった。なお、堀井では、日系企業に勤務する元留学生、人材派遣会社に対するインタビ ューも実施されているが、考察の中心となっているのは、日系企業から得られた意見であり、本稿 ではこれを取り上げて本調査の結果について考察をおこなう。
上海の日系企業が中国人社員にどのような能力を求めているか、日本留学にどの ようなメリットを認めているか、留学経験者にどのような役割を求めているかと いう点についても言及が見られる。本調査では短期留学経験者が過去の留学をど のように評価しているかにつても質問を設けたが、先行研究において示された企 業の側の評価・見解との間に共通点が見られるかどうかについても検討してみた い。
2──調査
の方法
特別聴講生として和光大学で学んだ短期留学経験者を対象として、以下の方法 でアンケート調査を実施した。
実施時期:2008年 7 月、8 月
実施対象:2001年度から2007年度まで和光大学に在籍した上海大学からの特 別聴講生、100名
実施方法:質問紙によるアンケート調査
5)
回収できた回答は37件であり、勤務先企業の属性は、日系企業23名、欧米系企 業 6 名、中国企業 3 名、不明が 5 名であった
6)
。寄せられた回答をもとに、上海 においてフォローアップインタビューを実施した。インタビューへの協力が得ら れたのは、13名である7)
。実施日:2008年 9 月12日および13日 本調査は、日系企業....
に勤務する短期留学経験者を対象として、職場での日本語 使用の実情および過去の留学に対する評価を明らかにすることを目的として実施 したものである。しかし、職場での日本語使用に関するインタビューを通して、
欧米系企業や中国企業に勤務している留学経験者であっても、取引先企業や顧客 などが日本企業、日本人であったり、勤務先の日本部門で働いているなどの理由 から職場で日本語を使う機会があることがわかった。そこで、本稿では勤務先の 属性に配慮しつつ、回収された回答すべてを考察の対象とする。
以下で、まず短期留学経験者が勤務先においてどのような場面で日本語を使っ ているか、その実情について報告し、続いて短期留学経験者が 1 年間という限ら れた期間での日本への留学経験をどのように評価しているかについて考えてみた い。
──────────────────
5)調査に使用した質問紙を文末に資料として掲載する。実際の質問紙は、WordファイルとしてE-mail で配布し、回収した。
6)ここでいう「日系企業」は、日中合弁企業を含む。これは、日中合弁企業に勤務する回答者が1名で あり、「日中合弁企業」という項目を別に立てることが回答者の特定につながるためである。また
「不明」は、この質問への未回答数を示す。
7)なお、13名とは別に、2名の回答者にアンケートへの回答について尋ね、E-mailでの返信という形で 答えてもらった。
3──短期留学経験者
の職場
での日本語使用
1. 使用頻度と使用場面
アンケート調査では、職場での日本語使用について、「話す」「読む」「書く」と いう 3 つの観点から、その使用頻度、使用場面、現在の能力に対する満足度など について質問している
8)
。表 1 は、「職場で日本語を話すことはありますか」とい う質問への回答をまとめたものである。37名のうち半数以上の21名(56.76%)が「毎日話す」と回答しており、「頻繁 に話す」7 名(18
.
92%
)をあわせた 回 答 数 は 、「 た ま に 話 す 」 7 名(18
.
92%
)、「あまり話さない」2 名(5
.
41%
)を大きく上回っている。これを勤務先の属性別に見てみる と(表2)、やはり日系企業に勤務して いる回答者が職場で日本語を話す機 会が多いことがわかる。しかし、先に も触れたとおり、欧米系企業、中国企 業に勤務する回答者であっても、職 務上の様々な事情から日本語を話す 機会があり、「あまり話さない」と 答えた回答者はわずか 2 名である。
また、表 3 、表 4 に示すとおり、「職 場で日本語を読むことはあります か」「職場で日本語を書くことはあ りますか」という質問への回答でも、
「毎日読む」が37名中21名(56.76%)、
「頻繁に読む」が 9 名(24
.
32%
)であ るのに対して、「たまに読む」は 4 名(10.81%)、「あまり読まない」は 3 名
(8.11%)、「毎日書く」が37名中21名
(56
.
76%
)、「頻繁に書く」が 7 名(18
.
92%
)であるのに対して、「たまに──────────────────
8)日本語の能力については「聞く力」を含めた四技能が問題とされることが多いが、島田・澁川
(1999)では「話す」「読む」「書く」の3つが取り上げられている。企業で日本語を使用する際、
「話す力」「聞く力」を単独で使用する場面は限定的であると考えられることから、島田・澁川に従 った。
毎日話す 21 ( 56.76%)
頻繁に話す 7 ( 18.92%)
たまに話す 7 ( 18.92%)
あまり話さない 2 ( 5.41%)
計 37 (100.00%)
表1「職場で日本語を話すことはありますか」
N=人数
毎日書く 21 ( 56.76%)
頻繁に書く 7 ( 18.92%)
たまに書く 7 ( 18.92%)
あまり書かない 2 ( 5.41%)
計 37 (100.00%)
表4「職場で日本語を書くことはありますか」
N=人数 毎日読む 21 ( 56.76%)
頻繁に読む 9 ( 24.32%)
たまに読む 4 ( 10.81%)
あまり読まない 3 ( 8.11%)
計 37 (100.00%)
表3「職場で日本語を読むことはありますか」
N=人数 日系 欧米系 中国 不明 計 企業 企業 企業
毎日話す 16 2 - 2 21
頻繁に話す 5 1 - 1 7
たまに話す 2 2 2 1 7
あまり話さない - 1 1 - 8
計 23 6 3 5 37
表2 勤務先属性別「話す」頻度 N=人数
書く」は 7 名(18.92%)、「あまり書かない」は 2 名(5.41%)にとどまっており、
「話す」「読む」「書く」いずれにおいても職場で頻繁に日本語を使用する機会が ある回答者が多いことがわかる。
なお、「毎日話す」「毎日読む」「毎日書く」という回答はいずれも21名である が、それぞれの回答は同一回答者によるものではない
9)
。また、島田・澁川(1999)を参考に、具体的にどのような場面で日本語が使用 されているかについても調査をおこなった
10)
。「話す」「読む」「書く」のそれぞ れの選択肢について、該当するものを全て選択してもらった。まず、どのような場面で日本語を「話す」かについて見てみると、図 1 にまと めたとおり、島田・澁川(1999)で多くの回答者が選択していた「挨拶」「社内 での一般会話」「電話のと
りつぎ」
11)
は、本調査でも 回答数が多かった上位 3 つ の項目であり、「挨拶」を 選 択 し た 回 答 者 は 3 0 名(16.13%)、次いで「電話の とりつぎ」28名(15.05%)、
「社内での一般会話」24名
(12
.
90%
)となっている 。 また、島田・澁川(1999)で「挨拶」「社内での一般 会話」「電話のとりつぎ」
に次いで回答が多かった
「社内での会議」「取引先と の打ち合わせ・会議」「接
──────────────────
9)「毎日話す」「毎日読む」「毎日書く」の3つ全てを選択した回答者は14名(勤務先企業の属性ごとに、
「日系企業」10名、「欧米系企業」2名、「不明」2名)、2つを選択した回答者は9名(「日系企業」
6名、「中国企業」1名、「不明」2名)、1つを選択した回答者は3名(いずれも「日系企業」)で ある。
10)本調査では、島田・澁川(1999)の調査結果との比較をおこなう目的から、島田・澁川(1999)で 設けられている項目は全て盛り込んだ。さらに、島田・澁川(1998)で「電話」として設けられて いた項目が(1999)で「電話のとりつぎ」となっていることに配慮し、新たに「本社とのやりとり」
を設けた。しかしながら、島田・澁川(1998)でも触れられているとおり、「話す」「読む」「書く」
場面としてどのような項目を設定するのが妥当かという点については、検討の余地が残る。例えば、
島田・澁川(1998)(1999)で設けられている「プレゼンテーション」については、「社内での会議」
「取引先との打ち合わせ・会議」「商談・交渉」など、他の項目として挙げられている場面でおこな われることも十分想定できるものである。
11)島田・澁川(1999)はアジア5都市における現地社員の日本語使用の実態を調査したものであり、
日本語の使用場面も都市によって回答の分布が若干異なる。しかしながら、回答数の多少などの点 で5都市には共通した特徴が見られる。
30 24 20
22
0 10 20 30 40
本社とのやりとり 電話のとりつぎ 28 接客 14 取引先との打ち合わせ・会議 20 プレゼンテーション 10 商談・交渉 15 その他 3 社内での会議 社内での一般会話 挨拶
図1 「どのような場面で日本語を話しますか」
N=186(単位:人)
注:回答は該当するもの全てを選択する複数回答形式。
客」を選択する回答数は、本調査でも「社内での会議」20名(10.75%)、「取引先 との打ち合わせ・会議」20名(10.75%)、「接客」14名(7.53%)であり、「話す」
技能については島田・澁川(1999)と本調査で共通した傾向が見られる。
本調査で調査対象とした短期留学経験者は、入社 1 年目から 7 年目の若い社員 である。「挨拶」「社内での一般会話」「本社とのやりとり」など、社内において 日本語を使う場面や、一般的に若手社員にも求められる「電話のとりつぎ」とい った場面で回答数が多いのは、ごく自然なことであろう。一方で、対外的な業務 である「接客」「プレゼンテーション」「商談・交渉」は相対的に見て回答数が少 ない。また、「社内での会議」「取引先との打ち合わせ・会議」は、いずれも20名 が選択しているが、打ち合わせや会議といった改まった場では、若手社員である 回答者が中心となって発言をする機会が少ないことが背景として考えられそうで ある。
一方、図 2 および図 3 に示すとおり、「読む」「書く」技能については、本調査 の約10年前に実施された島田・澁川(1999)とは異なった傾向が観察される。
島田・澁川(1999)の調査では、「読む」「書く」いずれにおいても、「業務上の 文書・書簡」「
FAX
」で回答数が多かったが、本調査で最も多く選択されている のはインターネットの普及およびそれに伴って利用される機会 が増えた「
(30
.
00%
)、「どのような場面で日 本語を書きますか」という質問 において34名(36.17%)と、他 の場面を上回っている。また、「読む」技能における「新聞記 事」については、島田・澁川
(1999)では「メモ」同様、「業 務上の文書・書簡」「
FAX
」に 次いで多かった項目である。本 調査ではこの場面の回答数は 8 名(7.27%)と少なかったが、イ ンターネットを利用したWeb
サ イトによるニュースの閲覧や業 務に関わる情報の収集などが従 来の方法に取って代わっている ことの影響が考えられる12)
。19 15
34 25
0 10 20 30 40
業務上の文書・書簡 その他 1 E-mail FAX メモ
図3 「どのような場面で日本語を書きますか」
N=94(単位:人)
注:回答は該当するもの全てを選択する複数回答形式。
17 21
33 28
0 10 20 30 40
業務上の文書・書簡 新聞記事 8 その他 3 E-mail FAX メモ
図2 「どのような場面で日本語を読みますか」
N=110(単位:人)
注:回答は該当するもの全てを選択する複数回答形式。
2. 現在の能力に対する満足度
「話す」「読む」「書く」の 3 つの技能について、現在の能力に対する満足度を 尋ねた。図4にまとめたとおり、「読む力」については「やや満足している」と いう回答が37名のうち18名(48.65%)で最も多く、「満足している」と答えた回 答者も 3 名(8.11%)見られたが、「話す力」「書く力」については、「やや満足し ている」がそれぞれ13名(35
.
14%
)、「満足している」と答えた回答者はおらず、満足度が相対的に低い。「読む力」が受動的な技能であるのに対して、「話す力」
「書く力」が表出に関わる能動的な技能であり、その違いが満足度の差に反映さ れているものと思われる。
これについてインタビューで尋ねた。「話す力」については、日々の業務で日 本語を使用しており留学中より流暢だという印象を受ける回答者であっても、ビ ジネスの場で求められる日本語に自信が持てない、場面による使い分けを身につ けたいなどの意見が多く聞かれた。「書く力」についても、能力の向上に難しさ を感じているようで、使用頻度が高い「
なお、アンケートでは今後向上させたいのはどの場面での日本語かについても 尋ねたが、その結果を、「どのような場面で日本語を話しますか(読みますか/書 きますか)」という問いに対する回答と比較してみた。二つの質問への回答数の
──────────────────
12)インタビューでも、「聞く」技能の向上のためにテレビ番組などを視聴している、「読む」技能の向 上のために日本語サイトを閲覧しているなど、日本語の学習にインターネットを利用しているとの 意見が聞かれた。インターネットを利用する機会の増加はプライベートでの日本語学習に限った傾 向ではないだろうと考えられる。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
話す力
図4 「話す力」「読む力」「書く力」の満足度
N=94(単位:人)
満足している 読む力
書く力
やや満足している あまり満足していない 満足していない
13
13 19 5
3 18 14 2
0
0
18 6
差がそれぞれの場面における満 足度を反映していると考えたた めである。図 5 に「話す力」、
図 6 に「読む力」、図 7 に「書 く力」について、それぞれまと めた。
図 5 のⅠは「どのような場面 で日本語を話しますか」という 質問に対する回答を、Ⅱは「今 後向上させたいのは、次のどの 場面での『話す力』ですか」と いう質問に対する回答をそれぞ れ示している。それぞれの回答 の上位 3 つに注目して考えてみ ると、Ⅰで回答の多いもの、す なわち日本語の使用頻度が高い 場面である「挨拶」、「社内での 一般会話」、「電話のとりつぎ」
に関しては、Ⅱで回答数が大き く下回っており、この場面にお ける自らの日本語能力に対する 満足感が窺われる。一方、Ⅱの 回答の上位 3 つを占める「社内 での会議」、「取引先との打ち合 わせ・会議」、「商談・交渉」を 見てみると、「社内での会議」、
「取引先との打ち合わせ・会議」
が実際の使用頻度も高く、普段 日本語を使用する中で能力向上 の必要性を感じているものと見 られるが、「商談・交渉」の使 用頻度は高くはなく、今後取り 組んでいきたい目標と捉えられ ているものと推察される。
図 6 の「読む力」についても、
Ⅰは「どのような場面で日本語 を読みますか」という質問に対
30 6
24 9
20 22 22 17
28 14
9 20
26 10
15 15
34 3
1
0 10 20 30 40
本社とのやりとり 電話のとりつぎ 接客 取引先との打ち合わせ
・会議 プレゼンテーション 商談・交渉 その他 社内での会議 社内での一般会話 挨拶
図5 今後向上させたい「話す力」
(使用頻度との比較) N=人数
11
Ⅰ:「どのような場面で日本語を話しますか」
Ⅱ:「今後向上させたいのは、次のどの場面での『話す力』ですか」
0 10 20 30 40
業務上の文書・書簡 新聞記事 その他 E-mail FAX メモ
図6 今後向上させたい「読む力」
(使用頻度との比較) N=人数
17 8
21 6
33 13
28 32 8
23 3
3
Ⅰ:「どのような場面で日本語を読みますか」
Ⅱ:「今後向上させたいのは、次のどの場面での『読む力』ですか」
0 10 20 30 40
業務上の文書・書簡 その他 E-mail FAX メモ
図7 今後向上させたい「書く力」
(使用頻度との比較) N=人数
19 7
15 6
34 23
25 34 1
2
Ⅰ:「どのような場面で日本語を書きますか」
Ⅱ:「今後向上させたいのは、次のどの場面での『書く力』ですか」
する回答を、Ⅱは「今後向上させ たいのは、次のどの場面での『読 む力』ですか」という質問に対す る回答をそれぞれ示している。二 つの質問への回答の差から、「メ モ」、「
Fax
」、「が高く、「業務上の文書・書簡」は使用頻度も高いことから、業務をおこなう上 で必要を感じる力、「新聞」は今後の目標と考えられよう。
図 7 の「書く力」においても、より難しいと考えられる場面において二つの回 答の差が小さい。「
使用頻度の高さが向上させたいとの意識につながっていると考えられる。
以上から、「話す力」「読む力」「書く力」のそれぞれについて、短期留学経験 者が自らの日本語能力に対して、どの場面での力に満足しており、どの場面での 力の向上を課題として捉えているかが明らかとなった。
では、短期留学経験者は、職場で自らの日本語能力が十分に活かされていると 感じているのだろうか。「現在の業務において、自分の日本語能力が十分に活か されていると思いますか」という質問に対する回答を 表 5 にまとめた。「やや思 う」と答えた回答者が37名のうち15名(40
.
54%
)と最も多いものの、「思う」と「あまり思わない」が10名(27.03%)と同数で続き、回答の分布にばらつきが見 られる。これには、勤務先の属性による影響は見られない。また、本調査では勤 務先で主に担当している業務の内容も尋ねているが、業務内容も関与していない ように見受けられる。
一方、今後自らの日本語能力をより活かせる業務を担当したいと思うかどうか を尋ねた質問には、37名のうち31名(83.78%)が「思う」、6 名(16.22%)が「や や思う」と答えており、職場における日本語使用に対する意欲が感じられる。
4──短期留学経験者
による過去
の留学評価
次に本調査への回答から、短期留学経験者が就職する上で、また職場で働く上 で日本への留学をどのように評価しているか考えてみたい。
本調査では、日本語が使えること、留学経験があることが就職する際に有利に 働いたかどうかについても尋ねた。「日本語が使えることは、日系企業に就職す る際に有利だったと思いますか」という質問
13)
には、37名のうち35名(94.
59%
)──────────────────
13)先に触れたとおり、回答者の中には非日系企業に勤務している人も含まれているため、この質問は
「日本語が使えることは、現在の勤務先に就職する際に有利だったと思」うかどうかを問うたものと いうことになる。以下同様。
思う 10 ( 27.03%)
やや思う 15 ( 40.54%)
あまり思わない 10 ( 27.03%)
まったく思わない 2 ( 5.41%)
計 37 (100.00%)
表5「現在の業務において、自分の日本語能力が 十分に活かされていると思いますか」N=人数
が「思う」、1 名(2.70%)が「やや思う」と答えており、日本語が話せることが 就職活動において役立ったと肯定的に評価されていることがわかる。また、「日 本への留学経験があることは、日系企業に就職する際に有利だったと思いますか」
という質問にも、27名(72
.
97%
)が「思う」、9 名(24.
32%
)が「やや思う」と答 えている14)
。インタビューで、日本語が使えることで就職する際に有利だったと考える理由 を尋ねた。最も多かったのが、日本語で面接がおこなわれたというものである。
また、日本で受験し合格した日本語能力試験の結果を履歴書に記載できたことを あげる回答者もいた。日本への留学経験があることで企業に就職する際に有利だ ったという評価は相対的に低いが、この理由として留学期間の短さを挙げる回答 者が見られた。「思う」でなく「やや思う」と答えた回答者からは、職場では短 期留学経験者、さらに日本の大学を卒業して帰国する留学経験者も少なくないた め、それほど有利だとは感じなかったとの意見も聞かれた。一方、留学経験が就 職に際して有利だったとする意見として、留学することで日本語能力が向上した ことを挙げる回答者もあった。
さらに、表 6 に示したとおり、日本への留学経験が現在の業務をおこなう上で 役立っていると感じるかどうかについても尋ねた。回答は、「とても役立ってい る」が37名のうち15名(40.54%)、「役立っている」が18名(48.65%)であり、「あ まり役立っていない」2 名(5
.
41%
)、「まったく役立っていない」1 名
(2.70%)を大きく上回っている。
職場で日本語を「話す」「読む」
「聞く」ことがあるかどうかを尋 ねた質問への回答から、半数以上 の回答者が職場で日本語を話し、
読み、聞いている実態が明らかと
──────────────────
14)この2つの質問に対して、それぞれ1名が「まったく思わない」と答えている。この回答者にイン タビューで理由を尋ねたところ、非日系企業に就職しており、取引先・顧客ともに日本企業・日本 人ではないため、職場で日本語の使用を求められることもないとの答えが返ってきた。
留学によって、日本語能力が向上した 28 ( 29.79%)
留学によって、日本の文化・習慣に対する理解が深まった 32 ( 34.04%)
留学によって、日本企業やビジネス習慣に対する理解が深まった 14 ( 14.89%)
留学によって、日本や日本企業に対して親しみが持てるようになった 19 ( 20.21%)
その他 1 ( 1.06%)
計 94 (100.00%)
表7「『とても役立っている』『役立っている』と感じるのはなぜですか」
N=人数
注:回答は該当するもの全てを選択する複数回答形式。
とても役立っている 15 ( 40.54%)
役立っている 18 ( 48.65%)
あまり役立っていない 2 ( 5.41%)
まったく役立っていない 1 ( 2.70%)
未回答 1 ( 2.70%)
計 37 (100.00%)
表6「日本への留学は、現在の業務に役立って
いますか」 N=人数
注:回答は該当するもの全てを選択する複数回答形式。
なったが、そのような環境に身をおいていることが、「とても役立っている」「役 立っている」との肯定的な回答の選択につながっているのではないか。
「とても役立っている」「役立っている」と答えた回答者は、どのような理由か ら留学経験が現在の業務をおこなう上で役立っていると評価しているのだろうか。
実際に尋ねてみた(表7)。
28名(29.79%)が「留学によって、日本語能力が向上した」を、14名(14.89%)
が「留学によって、日本企業やビジネス習慣に対する理解が深まった」を、19名
(20
.
21%
)が「留学によって、日本や日本企業に対して親しみが持てるようにな った」を選択しているものの、最も多く選ばれた回答は「留学によって、日本の 文化・習慣に対する理解が深まった」32名(34.04%)であった。これに関して、インタビューで以下のような意見が聞かれた。
・テレビなどのメディアを通じて日本については留学前から予備知識があった が、実際に生活する中で経験することができたのはよかった。
・職場には自分と同じくらい日本語が話せる同僚もいるが、留学経験はない。
留学して実際に日本の文化・習慣に触れられてよかったと感じている。
いずれも、日本の文化や習慣を知識として知っているだけでなく、実際に経験 することの利点について述べたものである。これ以外に、日本に住みアルバイト なども経験することによって、日本人の考え方やビジネス習慣に触れられたとの 意見があった。
一方、日本への留学が「あまり役立っていない」「まったく役立っていない」
理由についても尋ねた。表 8 は、その結果を示したものである
15)
が、最も多かっ たのは31名中約半数の15名(48.39%)が選択した「留学期間が短かった」である。──────────────────
15)アンケートによる調査では、「あまり役立っていない」「まったく役立っていない」との回答が少な かったため、その理由を問う質問自体が有効ではなかった。インタビューでは「とても役立ってい る」「役立っている」と答えた回答者にも、回答への協力を求めた。その際、「留学について良くな かったと感じるのはどれですか」と質問し、選択肢から該当するものを全て選択してもらった。表 8はその回答を合わせてまとめたものである。
留学期間が短かった 15 ( 48.39%)
勉強したい内容の授業が少なかった 2 ( 6.45%)
日本人との交流の機会が少なかった 10 ( 32.26%)
大学の施設が不十分だった 0 ( 0.00%)
大学の留学生への支援が不十分だった 1 ( 3.23%)
その他 3 ( 9.68%)
計 31 (100.00%)
表8「『あまり役立っていない』『まったく役立っていない』と感じるのはなぜですか」
N=人数
注:回答は該当するもの全てを選択する複数回答形式。
留学の期間そのものについては受け入れ側である大学のみで解決を図ることは難 しい。短い期間に効率よく学んでもらえるよう、留学経験者が留学中に何を学び たいと考えているかを把握し、授業や留学生支援に反映させることが求められる
16)
。ついで回答が多かったのは「日本人との交流の機会が少なかった」で、10名
(32.26%)が選択している。これについては、普段短期留学生と接する中で感じ ている印象をそのまま示す結果となった。大学には留学生サポーター制度があり、
サポーターである日本人学生が中心となって、留学生向けの様々なイベントを企 画している。短期留学生も、サポーター制度に登録している日本人学生との交流 はあるものの、授業など普段の学生生活を送る中で日本人学生と交流する機会は 多くないようである。以下に、インタビューで得られた短期留学経験者の意見を いくつか挙げてみたい。
・日本人の友人をつくりたかった。日本人と一緒のクラスに出席しても、話を する機会がなかった。
・上海に戻って就職した今は、日本にいる間にもっと積極的に日本人と交流す ればよかったと感じる。しかし、日本人と一緒の授業に出席していても、い きなり話しかけるのもおかしい気がして、なかなか話しかけることができな かった。
交流に対して消極的なのは短期留学生ばかりでなく、留学生に積極的に話しか ける日本人学生も少ない。留学生の自主性に任せたままでは、日本人学生との交 流が深まるとは考えにくい。授業を利用したきっかけ作りなど、改善が望まれる 課題である。
次に、現在企業で働く中で留学中にもっと学びたかったと思うことは何かを尋 ねた質問に対する回答をまとめたものが、表 9 である。留学が現在の業務をおこ なう上で「とても役立っている」「役立っている」と回答した理由として「留学 によって、日本の文化・習慣に対する理解が深まった」を選択した回答者が最も 多かったことから、この質問に
対する回答として「日本の文 化・習慣」を選択する回答者が 多いのではないかと予想したが、
実際には「日本語」を選択した 回答者が30名(43.48%)と最も多
──────────────────
16)特別聴講生は留学中、学部生を対象とした授業を履修するとともに、特別聴講生を対象とした「日 本語講座」を受講する。特別聴講生のみが受講する「日本語講座」であれば、短期留学経験者の希 望を反映させることもできよう。
日本語 30 ( 43.48%)
日本の文化・習慣 17 ( 24.64%)
日本企業やビジネス習慣 21 ( 30.43%)
その他 1 ( 1.45%)
計 69 (100.00%)
表9「日本企業で働いていて、留学期間にもっと 学びたかったと感じることは何ですか」N=人数
く、「日本企業やビジネス習慣」が21名(30.43%)でこれに続く。「日本の文化・
習慣」を選択しているのは17名(24.64%)である。
選択肢
c.
「日本企業やビジネス習慣」についてインタビューで尋ねたところ、様々な意見が聞かれた。日系企業に勤務する回答者からは、ビジネス習慣やマナ ーについては入社後の研修で学ぶ機会があるので、留学中は少し学べる程度でよ いという意見が出る一方で、非日系企業に勤務する回答者からは、日系企業に就 職しない限り学ぶ機会がないという意見も出た。「日本企業やビジネス習慣」に ついては勤務先の属性などによってやや意見が分かれたが、「日本語」について は就職先の企業の属性に関わりなく、その必要性が感じられているようである。
アンケートでは、この質問とは別に、現在業務をおこなう上で必要を感じてい る能力・知識についても尋ねている
17)
。その結果を示したものが表10であるが、最も多く選ばれているのは「日本語を話す力」の31名(26.96%)であり、「日本 語を書く力」「日本企業やビジネス習慣に関する知識」が同数の28名(24.35%)
でこれに続き、4 番目に多く選択されている「日本語を読む力」16名(13.91%)
との間には開きがある。
この結果は、表 9 に示した留学中にもっと学びたかったことを尋ねた質問の回 答分布に対応したものと見ることができる。すなわち、現在業務をおこなう上で
「日本語」「日系企業やビジネス習慣に関する知識」に必要性を感じているゆえに、
留学中にもっと学びたかったという思いが生じていると考えることが可能である。
さらには、「日本語」能力の中でも「日本語を話す力」「日本語を書く力」を重視 する回答者が多いことと、現在の日本語能力に対する満足度を尋ねた質問で「読 む力」に比して「話す力」「書く力」における満足度が低かったこととの間にも 関連性を見いだせようかと思う。以下に述べるとおり、多くの回答者が現在も日 本語の学習を様々な形で続けているものの、インタビューで実際に話を聞いてみ ると「話す力」「書く力」を向上させることに難しさを感じている回答者も少な くない。業務をおこなう上で必要を感じながらも、「話す力」「書く力」の向上に
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17)この質問では、選択肢から3つを選択してもらう旨指示したが、実際には1つ、あるいは2つしか 選択しなかった回答者や、逆に4つ以上を選択した回答者があった。
日本語を話す力 31 ( 26.96%)
日本語を読む力 16 ( 13.91%)
日本語を書く力 28 ( 24.35%)
日本の習慣や文化に関する知識 11 ( 9.57%)
日本企業やビジネス習慣に関する知識 28 ( 24.35%)
その他 1 ( 0.87%)
計 115 (100.00%)
表10「現在、業務をおこなう上で必要だと感じるのは何ですか」
N=人数
難しさを感じていることが、留学中にもっと学べればよかったとの思いにつなが っているものと考えられる。
アンケートへの回答およびインタビューから、留学経験者の多くは自らの日本 語能力、特に「話す力」「書く力」を向上させたいと感じていることが見てとれ るが、彼らは現在日本語の学習にどのように取り組んでいるのだろうか。また、
今後の学習についてどのような希望を持っているのだろうか。「今後も、機会が あれば日本語を学びたいと思いますか」との質問に対して、37名のうち21名
(56
.
76%
)が「思う」、1 名(2.
70%
)が「やや思う」と答えており、「現在も学ん でいる」と答えた回答者も15名(40.54%)あった。「現在も学んでいる」と答えた回答者の学習方法は、表11のとおり 8 名(36.36%)
が選択している「市販のテキストを使って自分で」が最も多く、5 名(22
.
73%
) の「日本語学校で」がこれに続く。「その他」の回答からは、小説やインターネ ットを利用したり、漫画や雑誌をとおして日本語に触れる様子が窺われる。また、業務をおこなう中で学んでいるとの回答も見られた。
なお、再び日本で学んでみたいかとの質問には、37名中30名(81
.
08%
)が「思 う」、6 名(16.22%)が「やや思う」と答えており、勤務先の属性に関わらずほと んどの回答者が機会があれば再び日本で学んでみたいと思っているようであるが、どのくらいの期間、どのように学びたいかは、一様ではない。
「思う」と答えた回答者のうち、インタビューへの協力が得られた回答者に、
日本で学ぶ場合留学と企業における研修とのどちらを望むか、またどのくらいの 期間学んでみたいかを尋ねた。留学での再来日を希望する回答者では、2 年以上 の期間を望む意見が目立った。また、研修では、1 ヶ月、2・3 ヶ月、半年、1 年 とその希望は様々であった。
特別聴講生として短期留学を経験した回答者の中には、実際に再び来日し日本 の大学院で学んでいる人も見られる。一方、留学でなく研修を望む回答者からは、
同僚が資格取得の目的で日本で研修を受けており、自らも現在の業務に直接関わ るような資格や技能を研修によって身につけたいという意見が聞かれた。
日本語学校で 5 ( 22.73%)
個人教授で 1 ( 4.55%)
ラジオやテレビの講座で 3 ( 13.64%)
市販のテキストを使って自分で 8 ( 36.36%)
その他 5 ( 22.73%)
計 22 (100.00%)
表11「『現在も学んでいる』と答えた方に質問します。どのように学んでいますか」
N=人数
注:回答は該当するもの全てを選択する複数回答形式。
5──
まとめここまで、アンケートおよびインタビュー調査の結果を見てきた。これを短期 留学経験者の職場での日本語使用および意識、短期留学経験者による過去の留学 評価という観点からまとめ、それをもとに今後の留学生教育および留学生支援の 可能性について考えてみたい。
1. 短期留学経験者の職場での日本語使用および意識
短期留学経験者の多くは、日系企業に就職しており、職場で日本語を使用する 機会が多い。しかし、欧米系企業、中国企業に勤務する回答者であっても、取引 先・顧客が日本企業・日本人であるなど日本語を使用する機会は少なくない。企 業に勤務する短期留学経験者の日本語使用場面については、次のようにまとめる ことができる。
・日本語を「話す」場面については、先行研究同様、「挨拶」「社内での一般会 話」「電話のとりつぎ」で回答数が多い。
・一方、日本語を「読む」「書く」場面については、ビジネスで利用されるメ ディアの変化を反映し、いずれも「
また、現在の自らの日本語能力に対する評価については、次の点が指摘しうる。
・「話す力」「読む力」「書く力」の満足度を比較すると、「話す力」「書く力」
の満足度が相対的に低い。
さらに、職場で日本語を使用する中で、日本語能力向上の必要性が感じられて いる場面については、次のようにまとめられる。
・「話す力」では、「社内での会議」「取引先との打ち合わせ・会議」などより 改まった場面で、日本語能力向上の必要性が感じられている。
・「読む力」では、主に「業務上の文書・書簡」を読む場面において、日本語 能力向上の必要性が感じられている。
・「書く力」では、「業務上の文書・書簡」、次いで「
堀井(2009)では、上海でのインタビューをもとに雇用者側である日系企業が 留学経験者に望む能力についてまとめているが、本調査の回答者の認識との間に
共通点が見いだせるだろうか。堀井(2009)によると、「日本留学中に大学でし てほしい教育」として上海の日系企業から挙がっている意見は様々だが、日本語 教育に直接的に関わるものとしては、「待遇表現」「ビジネスライティング」があ る。これは、業務に直接関わるより改まった場面での「話す力」「書く力」の向 上を望んでいる本調査の回答者の認識と一致するものである。雇用者側の企業が 留学経験者に期待する能力を、留学経験者自身も十分に認識しているといえるだ ろう。
2. 留学経験者による過去の留学評価
特別聴講生として日本で学んだ短期留学経験者は、過去の留学経験を次のよう に評価している。
・就職の際に、日本への留学経験があることで有利だったが、日本語が使える ことがさらに重要であったと捉えられている。
・業務をおこなう上で向上の必要性を感じている項目として、「話す力」「書く 力」および「日本企業やビジネス習慣に関する知識」が挙げられる。そのた め、日本への留学時にもっと学びたかったことを問う質問でも、「日本語」
が第一に挙げられている。「日本企業やビジネス習慣」がこれに続くが、そ の一方で就職後の研修で十分だとの意見も見られる。
・日本への留学に関しては、日本の文化・習慣への理解が深まった、日本語能 力が向上したとの理由からも、一定の評価を得ている。
・一方で、留学期間の短さ、留学中の日本人との交流の少なさを問題点として 挙げる意見が目立った。
短期留学経験者による過去の留学に対する意見も、雇用者側である日系企業の 認識と共通するものが多い。堀井(2009)によると、上海日系企業では、日本留 学経験者を「日本人的な考え、日本人の習慣が分かっている」点で評価しており、
自国と日本の双方に精通し両国の橋渡しとなることができる「ブリッジ人材」と しての役割を期待している。留学の利点として「日本の文化・習慣に対する理解 が深まった」ことを挙げる本調査の回答者の認識と一致するところである。
また、堀井(2009)で日系企業が「日本留学中に大学でしてほしい教育」に
「ビジネスマナー」「チームワーク力育成」などの「日本人の社会習慣、ルール」
を挙げていることも、本調査での留学経験者の意識と重なるところである。
こうして雇用者側である企業と留学経験者の意見を照らし合わせてみると、双 方には共通点が多く見られる。これはすなわち、企業で働く日本留学経験者にお いて、職場で自らに何が求められているか、どんな能力が評価されているのか、
どんな能力を向上させるべきかについて、適切な理解が得られていることを示し