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現場と研究者をつなぐ : 韓国農楽の2010年代の研 究動向

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現場と研究者をつなぐ : 韓国農楽の2010年代の研 究動向

著者 神野 知恵

雑誌名 民博通信

巻 163

ページ 24‑24

発行年 2018‑12‑28

URL http://doi.org/10.15021/00009317

(2)

民博通信

2018 No. 163

24

現場と研究者をつなぐ

―韓国農楽の2010年代の研究動向

 韓国では2010年代に入ってから、民俗芸 能である「農楽」(プンムルクッとも呼ばれ る)に関する研究会が盛んに開かれるように なった。本稿では、その研究動向を紹介す る。

農楽研究における当事者と研究者の関係  筆者が身を置く民族音楽学では、研究者 自身が音楽の実践を行ったり、当事者との綿 密な対話を行うのはもちろんのこと、研究 成果を再び当事者と共有して理解を深める ことが理想とされている。しかし韓国でも日 本でも、研究者が各自の視点から論じた見 解を当事者と共有することなく終わるケー スは少なくない。農楽の研究もこれまで現 場と研究者に大きな隔たりがあった。

 そもそも、農楽は日本人研究者によって 植民地期に言及されるようになり、その後は 主に国文学者によって民謡や仮面劇などの 研究の流れのなかで扱われてきた。また、そ の後は個々の地域の事例報告が増えたが、こ れをもとに農楽という芸能の特色や時代に よる変化を丹念に考察するような研究は少 ない。またこれまで研究者と当事者の対話 が持たれる研究会もほとんどなかった。

2010

年代の農楽研究会の動向

 ところが、韓国では2011年頃から農楽の 実践者が関わる研究会が増え始めた。その 理由のひとつに、農楽を主題にして博士学 位を取得した若手研究者が現れ始めたこと が挙げられる。そのほとんどは大学の農楽 サークル(韓国では1980年代に学生運動が盛 んになり、その一環として農楽サークルが活 発になった)の出身者で、現在も農楽の担い 手として現場に関わる人々である。

 まず、

2011年6月にプンムルクッ学会が発

足した。創立当初は、村祭りや巫俗儀礼、民 謡などの幅広い分野の研究者たちが一堂に 会することに重きが置かれた。

 この学会発足後の12月に、「若手プンムル クッ研究者による学術クッパン」が別途開か れた。この集まりは、先述のプンムルクッ学 会とは異なり、実際に農楽の演奏経験や知 識を持つ者同士で深みのある意見交換の場 を持ちたいという設立意図があったという。

「クッパン」というのは儀礼や祝祭の場とい う意味であるが、ここであえて学会という言 葉ではなく民俗的な用語を用いているところ

も、現場主義の構成員たちのアイデンティ ティを示しているといえる。この研究会は全 羅北道の高敞農楽保存会の共催により、高 敞郡で開かれた。その後も2012年には南原 農楽保存会、2013年には霊光右道農楽保存 会の共催で、それぞれの伝承地で催された。

 この頃の研究会で発表されたテーマには、

農楽のリズム、歌、舞踊、チャプセクと呼ば れる道化役が登場する演劇、村祭りや保存 会、伝授教育システムのあり方などの分析 があった。最近ではより具体的な現場を伝 える報告も加わった。2018年8月19日に筆 峰農楽伝授館で開催されたプンムルクッ学 会では、カナダ・オーストラリア・日本・中 国の韓国系移民や現地の人々による農楽団 体や交流事業など、各文化圏での農楽の多 様化が注目された。また、農漁業を基盤と した村落社会の持続が難しい現代において、

「村の無い村祭り」をいかに伝承していくべ きかについて熱い討論が交わされた。

高敞農楽保存会による学術的プロジェクト  筆者が研究や活動のパートナーにしてい る高敞農楽保存会も、やはり2011年から3回 にわたって高敞農楽に特化した学術大会を 開催し、その成果を書籍として刊行した。さ らに注目すべきは2018年に開催された「人 文学コンサート」のシリーズである。このシ リーズでは研究者による特定テーマの講演 と、それに関連する農楽の演目の上演を行っ ている。第1回は旧正月の村祭りがテーマ で、地元出身の歴史研究者が高敞地域の民 間信仰について解説し、筆者も旧正月におけ る日韓の門付け芸能について発表した。そ の後で門付けの農楽が上演された。そのほ かにも、農楽の楽器に注目した回など全4回 の公演を行った。研究発表と演奏がセットに なっていることによって、観客が農楽につい ての理解を深め、感動を得られる有意義な 内容になっている。高敞農楽を学ぶ大学生 たちや、地元の農楽愛好家などの関心も集 め、好評を博した。

 また、同保存会では「農楽の目名唱・耳 名唱プロジェクト」と題した事業も行ってい る。「目名唱・耳名唱(ヌンミョンチャン・

クィミョンチャン)」とは、歌や楽器の名人 だけでなく、芸能に造詣の深い「名人級」の 観客たちこそが芸能を支えているという意 味のことばで、伝統芸能の世界でしばしば

用いられる。この企画は、研究者などを高 敞農楽の舞台公演に招待し、批評文を書い てもらい、それを新聞やSNS、ホームペー ジなどに記載してさらなる意見交換を目指 すというものである。近年では農楽も舞台 化が進み、ミュージカル風に構成された作 品などもつぎつぎに創作されている。この プロジェクトは、このような新たな動向にも 着目し、多様な意見を交換できる「目利き」

の層を育てる効果もあるといえるだろう。

 日本でも近年「民俗芸能の創作」に関す る研究は散見されるものの、依然として創 作に否定的な研究者も多く、学会でも主な 関心テーマにはなりにくい。また保存団体な ど芸能の担い手側から、伝承の現状に関す る意見を発信できる場もあまりない。それ は、日本の民俗芸能が依然として地域コミュ ニティのなかでのみ保存・継承されている 場合が多いからだといえるだろう。韓国の場 合は戦争や高度経済成長を経て、地域コミュ ニティ内での民俗芸能の継承が困難になり、

学生などの外部の人々が地域を訪れて学ん だり、プロの演奏者がこれを舞台化するな ど、日本とは異なる状況が見られる。そのた め、必然的に民俗芸能の創作に関する研究 者の関心度も高まっているといえるだろう。

日本でも今後は韓国での状況を見習いつつ、

研究者がもっと柔軟に現場と協力し合い、現 代社会に息づいている芸能の研究を展開し ていかねばならないだろう。

文・写真 神野知恵

国立民族学博物館学術資源研究開発センター 機関研究員。専門は民族音楽学、民俗芸能研 究。

2006

年より韓国の農楽の研究を続けてい る。現在のテーマは専門芸能者による門付け 芸能の日韓比較。著書に『韓国農楽と羅錦秋

─女流名人の人生と近現代農楽史』(ブック レット「アジアを学ぼう」

43

、風響社

2016

年) 高敞農楽保存会主催「人文学コンサート」

2018

10

25

日、韓国全羅北道高敞郡)。

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