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1.1 神経伝達物質の作用... - 1 -

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(1)

神経突起伸展と退縮時における 細胞内カルシウムシグナルによる アクチン細胞骨格制御に関する研究

平成

19

年度

本間 耕平

(2)

目次

1

緒言

... - 1 -

1.1 神経伝達物質の作用... - 1 -

1.1.1 神経伝達物質の発見... - 1 -

1.1.2 神経伝達物質の種類... - 2 -

1.2 神経伝達物質による細胞内Ca

2+動員

... - 3 -

1.2.1 細胞内Ca

2+動員と排出

... - 3 -

1.2.2 Ca

2+関連タンパク質

... - 4 -

1.3 細胞内Ca

2+によるシグナル伝達

... - 5 -

1.3.1 細胞内Ca

2+による遺伝子発現制御

... - 5 -

1.3.2 細胞内Ca

2+による細胞骨格制御

... - 6 -

1.4 本論文の目的 ... - 7 -

1.5

本論文の構成... - 7 -

2

蛍光による細胞内分子動態測定... - 15 -

2.1 蛍光イメージング技術... - 15 -

2.1.1 蛍光のメカニズム... - 15 -

2.1.2 蛍光物質の種類... - 15 -

2.1.3 蛍光測定技術... - 17 -

2.2 蛍光指示薬による細胞内イオン濃度測定法... - 18 -

2.2.1 イオン濃度感受性蛍光指示薬... - 18 -

2.2.2 細胞内イオン濃度測定... - 19 -

2.3 蛍光タンパク質によるタンパク質動態の測定... - 21 -

2.3.1 目的タンパク質遺伝子cDNAのサブクローニング ... - 21 -

2.3.2 修飾タンパク質のDNA作製 ... - 21 -

2.4 蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)測定技術 ... - 22 -

3

細胞内Ca2+による神経突起伸展促進効果... - 44 -

3.1 はじめに ... - 44 -

3.2 実験方法 ... - 45 -

i

(3)

3.2.1 細胞培養 ... - 45 -

3.2.2 神経突起伸展測定... - 45 -

3.2.3 細胞内Ca

2+イメージング

... - 46 -

3.3 実験結果 ... - 46 -

3.3.1 神経伝達物質 5-HTによる神経突起伸展促進 ... - 46 -

3.3.2 5-HTの短期刺激による神経突起伸展促進 ... - 47 -

3.3.3 神経成長因子(NGF)による分化と 5-HTによるCa

2+動員

... - 47 -

3.3.4 Ca

2+動員の経路

... - 47 -

3.3.5 Ca

2+動員と神経突起伸展促進

... - 48 -

3.3.6 神経突起伸展促進に関わるCa

2+関連シグナル... - 48 -

3.4 考察 ... - 49 -

3.4.1 5-HT3

型受容体によるCa2+動員... - 49 -

3.4.2 NGFによる分化における 5-HTによるCa

2+動員増強... - 49 -

3.4.3 Calcineurinを活性化による神経突起伸展の促進 ... - 49 -

3.4.4 生体内における 5-HTの神経突起伸展への影響 ... - 50 -

3.5 第 3

章のまとめ... - 51 -

4

細胞内Ca2+によるアクチン細胞骨格の制御... - 61 -

4.1 はじめに ... - 61 -

4.2 実験方法 ... - 62 -

4.2.1 蛍光融合タンパク質の作製... - 62 -

4.2.2 細胞培養と遺伝子導入... - 62 -

4.2.3 タイムラプスビデオ蛍光観察... - 63 -

4.2.4 細胞内イオン濃度測定... - 63 -

4.2.5 FRET測定... - 64 -

4.2.6 ウェスタンブロッティング法... - 64 -

4.3 実験結果 ... - 65 -

4.3.1 融合タンパク質Cofilin-Venusの作製 ... - 65 -

4.3.2 ATP刺激によるコフィリンロッド形成... - 65 -

4.3.3 コフィリンロッドによるアクチン細胞骨格の再編成 ... - 65 -

4.3.4 FRETによるコフィリン-アクチン相互作用の測定 ... - 66 -

4.3.5 ATPによるCa

2+動員

... - 66 -

4.3.6 Ca

2+動員とコフィリンロッド形成

... - 66 -

4.3.7 コフィリンロッド形成に関わるCa

2+関連シグナル... - 67 -

4.4 考察 ... - 67 -

4.4.1 ATP刺激によるコフィリン-アクチンロッド形成... - 67 -

4.4.2 ATPによるCa

2+動員で誘導されるコフィリンロッド形成... - 68 -

ii

(4)

4.4.3 コフィリンロッド形成へのP2X受容体の関与... - 69 -

4.4.4 Calcineurinの活性化とコフィリンロッド形成 ... - 69 -

4.5 第 4

章のまとめ... - 70 -

5

結言

... - 85 -

5.1 結果のまとめ ... - 85 -

5.2 NGFシグナルと細胞内Ca

2+による神経突起伸展制御... - 86 -

5.3 Rhoファミリーシグナルと細胞内Ca

2+による細胞骨格制御

... - 87 -

5.4 FRETによる細胞内シグナル測定 ... - 88 -

5.5 本研究の意義と今後の展望... - 88 -

5.4 本研究の結言 ... - 89 -

参考文献

... - 93 -

公刊論文目録および口頭発表目録 謝辞

iii

(5)

略語一覧

5-HT: 5-hydroxytryptamine (serotonin) ADF: actin depolymerizing factor AP-1: activator protein-1

ATP: adenosine 5’-triphosphate Arp2/3: actin-related protein 2/3

BDNF: brain-derived neurotrophic factor CBP: CREB-binding protein

CICR: calcium-induced calcium release CK: casein kinase

CRE: cAMP response element CREB: CRE-binding protein CaM: calmodulin

CaMK: calmodulin-dependent kinase CaN: calcineurin

CaRE: calcium response element DG: diacylglycerol

DMEM: Dulbecco’s modified Eargle’s medium DRE: downstream regulatory element

DREAM: DRE antagonist modulator Drf: diaphanous-related formin

EPSP: excitatory postsynaptic potential ER: endoplasmic reticulum

ERK: extracelluler signal-regulated kinase FRET: fluorescence resonance energy transfer GAP-43: growth associated protein-43 GDI: guanine nucleotide dissociation inhibitor GEF: guanine nucleotide exchange factor GFP: green fluorescence protein

GPCR: G-protein coupled receptor

iv

(6)

Gp: G-protein

IEG: immediate early gene IP

3

: inositol-trisphosphate

IPSP: inhibitory postsynaptic potential IRS: insulin receptor substrate

ITR: ionotrophic receptor JNK: c-jun N-terminal kinase KRH: Krebs-Ringer-HEPES LIMK: LIM domain kinase

MAP2: microtubule associate protein-2

MARKS: myristoylated alanine-rich C kinase substrate mDia: mammalian diaphanous

MEK: MAPK-kinase

MLCK: myosin light chain kinase NFAT: nuclear factor of activated T cell NGF: nerve growth factor

PAK: p21-activated kinase PC12: pheochromocytoma PCR: polymerase chain reaction

PI4P5K: phosphatidylinositol 4-phosphate 5 kinase PIP

2

: phosphatidyl inositol 4,5-bisphosphate PKC: protein kinase C

PLC: phospholipase-C

ROCK: Rho-associated kinase

Ras-GRF: Ras guanin-nucleotide release factor SRE: serum response element

SRF: serum response factor SSH: slingshot

TESK: testis-specific protein kinase TIRF: total internal reflection fluorescence Trk: tropomyosin receptor kinase

VDCC: voltage-dependent calcium channel WASP: Wiskott-Aldrich syndrome protein

WAVE: WASP family verprolin-homologous protein [Ca

2+

]

i

: intracellular calcium ion concentration

v

(7)

1

緒言

1

緒言

本論文では,神経伝達物質であるセロトニン(5-HT)とアデノシン3リン酸(ATP)によ って誘導される細胞内Ca2+動員が引き起こすシグナル伝達が神経細胞の突起伸長に及ぼす 影響について議論する.そこで,本章ではまず,神経伝達物質の概念とその作用について まとめ,神経伝達物質の引き起こす細胞内Ca2+動員のメカニズムとシグナル伝達経路につい て概説する.

1.1

神経伝達物質の作用

1.1.1

神経伝達物質の発見

神経伝達物質の概念,すなわち化学的シナプス伝達を初めて提唱したのは,

Thomas Renton Elliottといわれる.Elliottは,1904年英国生理学会にて,末梢交感神経を刺激したときの効

果がアドレナリンを注射したときの反応と酷似していることを発表した.その後,実験的 な証明は1921年のLoewiの実験によってなされた.

Loewiはカエルの心臓灌流実験において,

支配神経を刺激して心臓活動が抑制されるときには,神経伝達物質(Daleが後にアセチルコ リンと確認)が放出されており,活動が促進されているときにはアドレナリン様物質(後 にノルアドレナリンと判明)が放出されていることを明らかにした.

これらの実験結果が出てきてはいたが,1930-1940年代にかけて,神経筋接合部における 情報伝達が化学物質によるか電気的なシグナルによるかという論争(化学説-電気説論争)

が続けられており,その時点では神経伝達物質の役割は明確ではなかった.1950年代にな ると,電子顕微鏡の発明によりシナプスの微細構造が明らかになったことと,細胞内微小 電極の開発により局所的な神経伝達物質の適用による電位変化が測定され,ようやく論争 の決着がついた.

神経筋接合部において神経伝達物質が小胞から放出されるという小胞仮説を初めて提唱 したのはKatzらである.彼らは,カエルの神経筋接合部で一定量のアセチルコリンの集団的 な素量的放出(quantal release)が起こることを細胞内微小電極による脱分極測定から明らか

- 1 -

(8)

1

緒言

にした.また,神経筋伝達にCa2+が必要であることは19世紀から既知であったが,Katzらは カエルの神経筋接合部やヤリイカの星状神経節の巨大シナプスにおける神経伝達物質の放 出でシナプス前終末の脱分極によりCa2+の透過性が上がり,Ca2+濃度が増加すること,シナ プス前終末にCa2+を泳動的に注入すると伝達物質の放出が起こることを明らかにした.

1933年,Daleはアセチルコリンを伝達物質とする神経伝達をコリン作動性(cholinergic)

伝達,アドレナリン様物質によるものをアドレナリン作動性(adrenergic)伝達と呼ぶこと を提唱し,解剖学的分類とは別に,神経伝達物質の種類による生化学的性質によって分類 し,新しい視点で神経系を捉えなおした.また,神経の含有する神経伝達物質について,

Daleは一つのニューロンから同じ物質が放出される可能性を指摘した.この後,Ecclesらは

脊髄前角運動ニューロンの逆方向性抑制の機序が,Renshaw細胞の同じ伝達物質(アセチル コリン)によって起こることなどの知見から“一つのニューロンから同じ伝達物質が放出 されること”をDaleの法則(Dale’s principle)と呼ぶことを提唱した.これは必ずしも“一 つのニューロンは一種類の神経伝達物質しか放出しない”という意味ではない.今日では,

アセチルコリンとペプチド伝達物質,ノルアドレナリンとATPなど,複数の伝達物質が同時 に放出されることも確認されており,“一つのニューロン内における神経伝達物質の組み合 わせは同一である”という意味で解されている.

1.1.2

神経伝達物質の種類

神経伝達物質の条件として次のような性質が挙げられる.

1)

神経細胞のシナプス前終末部に局在している.

2)

神経伝達物質の前駆物質と生合成酵素がシナプス前終末部に存在する.

3)

神経刺激によって神経伝達物質の生理的に有効な量の放出が起こる.

4)

シナプスへ直接に物質を作用させると神経入力側を刺激した場合と同じ反応を起こす.

5)

神経終末部に近接して特異的な受容体が存在する.

6)

神経伝達物質が受容体と結合すると,EPSP(excitatory postsynaptic potential)やIPSP

(inhibitory postsymaptic potential)が発生する.

7)

その物質の受容体との作用を生理的に必要な時間で終了させるような,特異な不活性化 の機序を持つ.

8)

シナプス後部で何らかの阻害または不活性化したときの効果は,神経刺激でも伝達物質 による刺激でも差が見られない.

(神経伝達物質-アミノ酸とアミン,高垣玄吉郎,永津俊治編,1981)

神経伝達物質と極めて類似しているが,シナプス伝達に直接には関与していない物質を 神経修飾物質として区別されているが,神経伝達物質,神経修飾物質の両方の性質を持つ 物質も多く存在する.

神経伝達物質とホルモンの類似点も多く認められる.ホルモンはホルモン産生細胞(内

- 2 -

(9)

1

緒言

分泌細胞)で前駆物質より特異的生合成酵素によって産生され,血中に分泌されて血流に のって特定の受動細胞にある特異的な受容体と結合して生理作用を発現する物質と定義さ れる.しかし,実際には,神経伝達物質としてもホルモンとしても作用する物質も多く存 在する(表1.1).

1.2

神経伝達物質による細胞内

Ca

2+動員

歴史的には,

Ca

2+が細胞内の情報伝達に必要であると初めて報告したのは,

1882

Ringer

である.彼はカエルの心臓の収縮に細胞外

Ca

2+が必須であることを示した.しばらくして

後,

1928

Heilbrunn

が,細胞の部分損傷実験における観察により,Ca2+が細胞の様々な生

理過程において役割を担っていることを提唱した.しかし実際に

Ca

2+による細胞応答の分 子機構が初めて明らかになったのは,江橋によって骨格筋のトロポニンに対する

Ca

2+の制 御が発見されたときと言える(Ebashi et al., 1967).その後,垣内らによって

Ca

2+結合タンパ ク質である

calmodulin

が発見され(Kakiuchi and Yamazaki, 1970),非筋細胞でも

Ca

2+が細胞内 シグナルとして機能することが明らかになった.また西塚らによるプロテインキナーゼ

C

(PKC)の発見や(Takai et al., 1977),イノシトールリン脂質による

Ca

2+動員経路が解明され るなどを経て(Guillemette et al., 1987),細胞外刺激に対する細胞内

Ca

2+動員の重要性が明ら かになってきた.

1.2.1

細胞内

Ca

2+動員と排出

細胞外からのCa2+流入

細胞外のCa2+濃度は1 mM以上であるのに対して,細胞内のCa2+濃度は50 nM程度に低く抑 えられている.このため,

Ca

2+チャネルのようなCa2+の通過孔が開くと濃度勾配に従って細 胞内にCa2+が流入する.Ca2+チャネルは,神経伝達物質などの各種リガンドが結合すること によって開く受容体作動性Ca2+チャネル,細胞膜の脱分極によって開く電位依存性Ca2+チャ ネル,細胞の伸展などに応じる機械感受性チャネルなどがある.

細胞内Ca2+ストアからのCa2+放出

各種リガンドに対する代謝型受容体が活性化されると,

Gタンパクを介してホスホリパー

ゼC(PLC)が活性化され,これによりイノシトール三リン酸(IP3)が産生される.滑面小 胞体上にはIP3受容体が存在し,この受容体が開くことによって小胞内からCa2+が放出され る.またIP3受容体はCa2+濃度によっても活性化され,

Ca

2+誘導性Ca2+放出(Ca2+

induced Ca

2+

release; CICR)も引き起こすことが知られる.また,IP

3受容体と類似した一次構造を持つ,

リアノジン受容体もCICRを引き起こす受容体である.ミトコンドリアも細胞内Ca2+ストア

- 3 -

(10)

1

緒言

であると考えられており,細胞内Ca2+動態への役割が示唆されている.

Ca

2+排出機構

細胞内Ca2+濃度が上昇すると,Ca2+の排出機構がすぐに働きはじめる.細胞膜上及び小胞 体膜上にはCa2+ポンプが存在しており,ATPを利用して濃度勾配に逆らってCa2+を細胞外に 汲み出したり,小胞体内に取り込んだりする.また,Na+

-Ca

2+交換体はNa+の濃度勾配を利 用してCa2+を排出する.細胞内Ca2+が一定のリズムで変動するCa2+オシレーションやCa2+ ェーブを起こすのにはこれらCa2+排出機構は必須である.

1.2.2 Ca

2+関連タンパク質

細胞内Ca2+動員は,多くの生理過程に関わっているが,この作用はCa2+結合タンパク質を 介したシグナル伝達による.Ca2+結合タンパク質は大きく以下のように分類できる.

1) EFハンドタンパク質

Kretsingerらがパルブアルブミンの構造解析の結果命名した.現在これに属する多くの

タンパク質が発見されている.

2) Ca

2+

/リン脂質結合タンパク質

Conventional PKC(cPKC)はCa

2+

/リン脂質が結合するC2部位をもつ(それ以外のPKC

はC2部位を持たない.).その他,PLC,synaptotagmin,annexinなどがある.

3)

γ-カルボキシグルタミン酸含有タンパク質

血中に含まれる血液凝固因子,骨組織に含まれるオステオカルシンなど,Ca2+はγ-カ ルボキシグルタミン酸に結合し,もう一方でリン脂質のリン酸基と結合し,タンパク質- リン脂質を架橋していると考えられている.

4)

リン酸含有タンパク質

カゼイン,ホスビチンなど,唾液,消化液,血液,骨,卵,ミルクなどに含まれるタ ンパク質でタンパク質-リン脂質と相互作用して結合している.

5) Ca

2+貯蔵タンパク質

横紋筋小胞体にあるcalsequestrinや,平滑筋や非筋肉系組織の小胞体にあるcalreticulin,

endoplasminなど,これらのタンパク質はCa

2+との親和性は低いが多くのCa2+との結合部位

が存在する.

(カルシウムイオンとシグナル伝達,御子柴克彦,遠藤實,宮本英七編,1998)

これまでに明らかになってきた膨大なCa2+関連タンパク質の中で,ここでは特に本研究で の細胞内Ca2+動員に関連する,

EFハンドタンパク質と(表1.2,表1.3),このタンパク質に属

するcalmodulinにさらに結合するタンパク質を示した(表1.4)

Calmodulin

は,

Ca

2+依存性の生理過程の多くに関与していることがわかっている .

Calmodulinは, N,C末端にそれぞれ2つのEFハンド構造をもち,各EFハンド構造にCa

2+が結

- 4 -

(11)

1

緒言

合するので,一分子に計4つのCa2+が結合する.

CalmodulinはCa

2+と結合してコンフォメーシ ョン変化することで活性型になる.多くの場合,活性型calmodulinは,他のタンパク質に結 合して,その標的タンパク質の活性を変化させる.

Calmodulinは, calmodulin dependent kinase

Ⅱ(CaMKⅡ)によるタンパク質リン酸化や,calcineurinによる脱リン酸化によって転写制 御することが知られている.また,

Calmodulinは,直接的な細胞骨格タンパク質への結合や,

間接的なCaMKⅡやcalcineurinなどを介して,細胞骨格系を制御する.

1.3

細胞内

Ca

2+によるシグナル伝達

細胞内Ca2+は,筋肉の収縮,エキソサイトーシス,視覚機能,受精・発生,血小板活性化,

アポトーシスなど,多種多様な生体機能のシグナルに関わっているが,ここでは特に本研 究に関連する細胞内Ca2+の遺伝子発現制御と細胞骨格制御について概説する.

1.3.1

細胞内

Ca

2+による遺伝子発現制御

最初期遺伝子(immediate early gene; IEG)である

fos

ファミリーと

jun

ファミリーは,成 長因子添加後数分に発現が誘導される.

Ca

2+による遺伝子発現の例として,このファミリー

の中で

c-fos

がよく調べられている.この遺伝子のプロモーター領域には

Ca

2+応答配列

(calcium response element, CaRE: TGACGTTT)がある.この配列は

cAMP

応答配列(cAMP

response element, CRE: TGACGTCA)と相同性が高く,CREB(CRE-binding protein)も同じ

ように認識する.ラット褐色細胞種である

PC12

細胞を用いた研究から,細胞内

Ca

2+動員に

より

calmodulin

が活性化し,CaMKを活性化させ,さらにこれが

CREB

をリン酸化すなわ

ち活性化して

c-fos

遺伝子の転写を引き起こすことが示された(Sheng et al., 1991).なお

Ca

2+

による

c-fos

遺伝子の発現には,血清応答配列(serum response element, SRE)に結合する

SRF

(serum response factor)も関与していることが明らかになっている(Bading and Greenberg,

1991; Gille et al., 1992).このシグナル経路には ERK(extracellular signal-regulated kinase)と CaMK

が関与していると考えられている.

一方,タンパク質の脱リン酸化を引き起こす

calcineurin

CREB

とは別の経路で遺伝子 発現を引き起こすことが知られている.例えば,小脳顆粒細胞で,Ca2+濃度上昇による

calcineurin

の活性化によって,細胞増殖,細胞遊走,神経突起伸展など,未分化な神経細胞

に関連する遺伝子が発現されるが,

calcineurin

を阻害すると,シナプス伝達などの既に分化 した神経細胞に関わる遺伝子が発現される(Nakanishi and Okazawa, 2006).また

calcineurin

活性化によって

IP

3受容体,

Ca

2+ポンプが発現されてくることも明らかになっている(Carafoli

et al., 1999).しかし,これらの遺伝子発現制御に関わるタンパク質については明らかではな

い.

calcineurin

によって転写因子である

NFAT

(nuclear fator of activated T cell)が脱リン酸化

- 5 -

(12)

1

緒言

して核移行が促進されるが(Canellada et al., 2006; Graef et al., 2003; Shibasaki et al., 1996),小脳 顆粒細胞においてもこのような機構が働いているのかもしれない.また,EF ハンドタンパ ク質に属する転写抑制因子

DREAM(downstream regulatory element antagonist modulator)に

細胞内

Ca

2+が結合することによって直接的に転写を制御する機構が明らかになっている

(Carrion et al., 1999).このように Ca

2+による遺伝子発現には,いくつかのタンパク質を介し

たシグナルが複合的に組み合わさっていると考えられる.(図

1.1)

1.3.2

細胞内

Ca

2+による細胞骨格制御

Ca

2+は直接的に(表

1.2,表 1.3),あるいは calmodulin

等の

Ca

2+結合タンパク質を介して

(表

1.4),いくつかの細胞骨格タンパク質を制御し,神経突起伸展などに影響を与えると

考えられている(図

1.2).

Myosin light chain kinase(MLCK)は,Ca

2+

calmodulin

が結合することによって活性化 して,神経突起の先端の成長円錐の動態を制御している(Jian et al., 1994).MLCK

PKC,

CaMKⅡなどによるリン酸化によって calmodulin

との結合が抑制される(Ikebe et al., 1985;

Ikebe and Reardon, 1990). Calpain

Ca

2+によって活性化されるプロテアーゼであり,成長円 錐の先端のフィロポディアに起こる

Ca

2+ウェーブにより活性化されフィロポディアを退縮 させることが示されている(Robles et al., 2003).

Calpain

は脳スペクトリン(calspectin, fodrin)

などの細胞膜裏打ち構造を形成するタンパク質複合体を分解すると考えられている(Sobue

et al., 1982). PKC

はラット胎児脳における

Semaphorin 3A

による成長円錐の退縮に関係して

いる(Mikule et al., 2003).また

PKC

の阻害剤は,

GABA

受容体のアゴニストなどによる成長 円錐のターニング応答を反発から誘引に転向させる(Xiang et al., 2002).このターニング応答 の転向には,成長円錐内の

cAMP

cGMP

の割合が関係していると考えられている

(Nishiyama et al., 2003).

Calmodulin

は,

calmodulin

が直接結合するか,

calmodulin

依存性の酵素活性によって,(ま たは両方の制御によって)細胞骨格を制御している.

Caldesmon

は,アクチンフィラメントと結合してアクチン-ミオシン相互作用を抑制する

が,この結合は

Ca

2+活性化

calmodulin

によって阻害される

(Sobue et al., 1985).MAP2

(microtuble associate protein-2)と

tau

タンパク質は,微小管を構成する

tubulin

に結合し,

微小管重合を促進するが,

Ca

2+活性化

calmodulin

との結合や

CaMKⅡなどによるリン酸化に

よって重合能が抑制される(Sobue et al., 1981).GAP-43(growth associated protein)は,アク チンキャップタンパク質でありアクチンフィラメントの伸長を阻害するが,PKC によるリ ン酸化によりアクチンのキャップはできなくなり,伸長を促進する(He et al., 1997).

GAP-43

のリン酸化は

calmodulin

と結合すると抑制される(Alexander et al., 1988).また,リン酸化さ

れた

GAP-43

は,calcineurinによって脱リン酸化されることも知られている(Lautermilch and

Spitzer, 2000).MARKS(myristoylated alanine-rich C kinase substrate)はアクチンフィラメン

- 6 -

(13)

1

緒言

トの脱重合を引き起こすが(Mikule et al., 2003),PKCによるリン酸化によってタンパク質の 機能の一部は抑制される.Calmodulin との結合により,MARKS のリン酸化が阻害される

(Graff et al., 1989).

Calmodulin

CaMKⅡや calcineurin

を活性化させるが,

CaMKⅡは,細胞接着因子や FGF

(fibroblast growth factor)による神経突起伸長促進効果に関わっている(Williams et al., 1995).

また

calcineurin

は,

Xenopus

脊髄神経細胞の自発的

Ca

2+スパイクによる神経突起伸長速度低

下に関わっている(Lautermilch and Spitzer, 2000).最近

calcineurin

は,Slingshot(SSH)とい うタンパク質を脱リン酸化して活性化することが分かった(Wang et al., 2005).

SSH

は,アク チンフィラメントを脱重合する

ADF/cofilin

を脱リン酸化させることによって活性化させる

(Niwa et al., 2002).

以上のように,遺伝子発現制御や細胞骨格制御において,個々の現象に対する細胞内カ ルシウムの役割は明らかになってきているが,これらのカルシウムシグナルがどのように 統合されて神経突起の伸長または退縮を制御しているかについては未だ明らかではない.

本論文では特にカルシウム関連タンパク質として,calmodulin,calcineurin の経路に注目し て,これらの制御系による現象について調べた.

1.4

本論文の目的

細胞内

Ca

2+シグナルは,神経発生において神経突起伸展を促進するときもあれば,逆 に退縮させるときもある.しかし,このシグナルが細胞内でどのように逆の現象を制御 しているかについては明らかではない.本論文では,

PC12

細胞を用いて細胞内

Ca

2+を動 員する神経伝達物質である

5-HT

ATP

の刺激による長期的な神経突起伸展促進と短期 的な退縮のシグナル伝達について調べることによって,同様の細胞内

Ca

2+動員を引き起 こす二つの神経伝達物質がそれぞれどのようなメカニズムで神経突起の伸展を制御し ているかを明らかにする.

1.5

本論文の構成

1

章は緒言で,神経伝達物質の役割と神経伝達物質が引き起こす細胞内

Ca

2+シグナ ルについて従来の研究をまとめ,本研究の背景を説明した.

2

章では,蛍光による細胞内分子動態測定法として本研究で用いた,蛍光指示薬に

- 7 -

(14)

1

緒言

よる細胞内イオン濃度測定,蛍光タンパク質を用いたタンパク質動態解析,蛍光共鳴 エネルギー転移(

FRET

)を利用したタンパク質-タンパク質の相互作用解析法につい て説明した.

3

章では,

5-HT

の細胞内

Ca

2+動員による神経突起伸展促進効果について議論した.

5-HT

による細胞内

Ca

2+動員は,

NGF

による分化誘導により増大するが,この細胞内

Ca

2+動員は,

イオンチャネル型受容体である

5-HT3

型受容体の活性化によって膜電位が脱分極し,細胞 膜上の電位依存性

Ca

2+チャネルが開くことによって起こることを,Ca2+イメージングを用 いて薬理学的に示した.また,

5-HT

による

NGF

神経突起伸展の促進は,先に示した

5-HT3

型受容体,電位依存性

Ca

2+チャネルを介した細胞内

Ca

2+動員に依存すること,さらに

Ca

2+

シグナルの下流にある

calmodulin

calcineurin

が神経突起伸展促進効果に関わっているこ とを示した.

4

章では,

ATP

刺激に伴う細胞内

Ca

2+動員によるアクチン細胞骨格制御について議 論した.

ATP

P2X

受容体と

P2Y

受容体によって細胞内

Ca

2+動員を引き起こす.そこ

ATP

P2X

受容体を介した細胞内

Ca

2+動員によって,アクチン結合タンパク質であ るコフィリンを活性化し,コフィリン-アクチンの結合を促進することを

Ca

2+イメー

ジングと

Cofilin-Venus

の蛍光タンパク質動態解析によって明らかにした.また,

Cofilin-Venus

Cerulean-actin

の共発現によるコフィリンとアクチンの同時可視化から アクチン細胞骨格の再編成が起こることを示し,コフィリン-アクチンの結合の度合

FRET

によって見積ることに成功した.また,コフィリン-アクチンの結合促進には,

calmodulin

calcineurin

が関与していることを薬理学的解析から明らかにした.

5

章では本研究を総括し、

5-HT

ATP

による細胞内

Ca

2+シグナルの神経突起の伸 展・退縮を制御する遺伝子発現と細胞骨格制御について議論した.

- 8 -

(15)

1

緒言

表1.1 神経伝達物質一覧

化学的分類 神経伝達物質/ホルモン ホルモン 神経伝達物質 アミン系 ドーパミン

ノルアドレナリン(ノルエピネフリン) アドレナリン(エピネフリン)

チラミン オクトパミン フェニルエチルアミン フェニルエタノールアミン

セロトニン トリプタミン ジメチルトリプタミン

5-メトキシトリプタミン

ヒスタミン アセチルコリン

アミノ酸系 γ-アミノ酪酸(GABA)

グルタミン酸 アスパラギン酸

グリシン タウリン セリン プロリン

プリン系 アデノシン

ATP

脂肪酸系 プロスタグランジン類

ペプチド系 エンケファリン エンドルフィン サブスタンスP ニューロテンシン

ボンベシン カルノシン

アンジオテンシンⅡ

(◎:比較的明確なもの,○:推定されるもの)

神経伝達物質-アミノ酸とアミン,高垣玄吉郎,永津俊治,1981より抜粋

- 9 -

(16)

1

緒言

表1.2 哺乳動物のEFハンドタンパク質(単独型)

タンパク質名 機能

<細胞内>

calbindin family calcineurin family

calcium-binding protein p22 calcyphosine (CCBP-23) calmodulin, NB-1

caltractin/centrin, caltractin2

myosin regulatory light chain 2 family parvalbumin family

GCAP1,2 hippocalcin NCS-1 recoverin visinin like 1-3 sorcin family S100 family

SNK interacting protein 2-28 troponin C family

<小胞体・ゴルジ>

ERC55, reticulocalbin calumenin

cab45/SDF4

ビタミンDにより誘導

ホスファターゼ2Bの制御サブユニット イオン輸送の制御

cAMP-Ca

2+

PI経路に関連

多機能性調節タンパク質

細胞骨格タンパク質,中心体や紡錘体 ミオシンATPaseの制御

骨格筋の弛緩に関連

cGMPの合成を刺激,GCの制御

海馬での情報伝達に関連

K

+チャネルの制御

ロドプシンのリン酸化の阻害(桿体細胞)

ロドプシンのリン酸化の制御(錐体細胞)

膜結合性制御因子 多機能性調節タンパク質

インテグリンαⅡb結合タンパク質 筋収縮のCa2+センサー

His-Asp-Glu-Leu型の小胞体局在 His-Asp-Glu-Phe型の小胞体局在

ゴルジ・小胞体でのCa2+依存性活性制御 カルシウムイオンとシグナル伝達,御子柴克彦・遠藤實・宮本英七編,1998より作成

- 10 -

(17)

1

緒言

表1.3 哺乳動物のEFハンドタンパク質(複合型)

タンパク質名 機能

<細胞外>

BM-40/SPARC/osteonectin SC1

thrombospondin 4

cartilage oligomeric matrix protein trichohyalin

repetin profilaggrin

vitronectin receptorα (intrgrin αⅤ)

<細胞内>

α actinin 1

plastin T, I, L calpain family

diacylglycerol kinase

α, β, γ

EGF receptor substrate 15 Erb2

major vault protein (mvp) phospholipase Cγ,

δ

protein phosphatase PP2A spectrinα, brain type

ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase t-3

<核>

nucleobindin, NEFA

probable transcription factor PML-2 DNA-directed RNA polymeraseⅡ33kD zinc finger protein hrx (all-1)

<ミトコンドリア>

glycerol-3-phosphate dehydrogenase mitochondrial stress-70 protein (hsp a9)

リン酸化タンパク質 マトリックス糖タンパク質 糖タンパク質,細胞接着に関与 マトリックスタンパク質 毛包に存在

角質化した細胞の外被に存在 上皮のケラトヒアリン顆粒に存在 膜タンパク質

F-アクチンクロスリンクタンパク質

アクチン結合タンパク質

Ca

2+依存性システインプロテアーゼ 情報伝達に関連,膜結合性

チロシンキナーゼの基質,細胞増殖に関連 チロシンキナーゼ,膜タンパク質

5%は核孔に存在する

情報伝達に関連,膜結合性 セリンスレオニンホスファターゼ 細胞骨格タンパク質

ユビキチンC末端チオエステル水解酵素

細胞質にも存在,細胞外にも分泌される 転写因子

mRNA合成酵素

転写因子

エネルギー代謝酵素 熱ショックタンパク質

カルシウムイオンとシグナル伝達,御子柴克彦・遠藤實・宮本英七編,1998より作成

- 11 -

(18)

1

緒言

表1.4 Calmodulin結合タンパク質

タンパク質名 機能

caldesmon MAP2 tau protein

spectrin (calstectin, fodrin) synapsinⅠ

4.1 protein

GAP-43 (neuromodulin) MARKS

myosinⅤ EGF receptor Insulin receptor

Insulin receptor substrate (IRS-1) Ras-GAP protein

NMDA receptor mGlu receptor Ca

2+

-ATPase IP

3

receptor ryanodine receptor adenylyl cyclase phosphodiesterase NO synthetase CaMK

Ⅰ, Ⅱ,

MLCK

phosphorylase kinase calcineurin

アクチン-ミオシン制御因子 微小管重合制御

微小管重合制御

細胞膜裏打ちタンパク質

シナプス小胞放出関連タンパク質 細胞骨格タンパク質

アクチンフィラメントキャップタンパク質 アクチンフィラメント脱重合

細胞内輸送

EGFシグナル伝達

インスリンシグナル伝達 インスリン関連シグナル伝達

Rasシグナル伝達

グルタミン酸シグナル伝達 グルタミン酸シグナル伝達

Ca

2+ポンプ

細胞内ストアからのCa2+動員 細胞内ストアからのCa2+動員

cAMP産生

リン酸ジエステル加水分解

NO産生

タンパク質リン酸化 ミオシン活性制御

セリンスレオニンキナーゼ ホスファターゼ

カルシウムイオンとシグナル伝達,御子柴克彦・遠藤實・宮本英七編,1998より作成

- 12 -

(19)

1

緒言

図1.1 Ca2+シグナルによる遺伝子発現制御

カルシウムイオンとシグナル伝達,御子柴克彦・遠藤實・宮本英七編,1998

(Nakanishi and Okazawa, 2006)

より作成

VDCC, voltage-dependent calcium channel; ITR, ionotrophic receptor; GPCR, G-protein coupled receptor; Gp, G-protein; CaM, calmodulin; CaN, calcineurin, CaMK, calmodulin-dependent kinase;

Ras-GRF, Ras guanin-nucleotide release factor; PLC, phospholipase-C, IP

3

, inositol-trisphosphate;

ER, endoplasmic reticulum DRE, downstream regulatory element; DREAM, DRE antagonist modulator; NFAT, nuclear factor of activated T cell; ERK, extracelluler signal-regulated kinase; SRE, serum response element; SRF, serum response factor; CaRE, calcium response element; CRE, cAMP response element; CREB, CRE-binding protein; CBP, CREB-binding protein

- 13 -

(20)

1

緒言

図1.2 Ca2+シグナルによる細胞骨格制御

カルシウムイオンとシグナル伝達,御子柴克彦・遠藤實・宮本英七編,1998

(Bolsover, 2005; Nakanishi and Okazawa, 2006; Oertner and Matus, 2005)

より作成

VDCC, voltage-dependent calcium channel; ITR, ionotrophic receptor; GPCR, G-protein coupled receptor; Gp, G-protein; CaM, calmodulin; CaN, calcineurin, CaMK, calmodulin-dependent kinase;

PLC, phospholipase-C, IP

3

, inositol-trisphosphate; ER, endoplasmic reticulum; DG, diacyl glycerol;

PKC, protein kinase C; MLCK, myosin light chain kinase; MAP2, microtubule associate protein-2;

GAP-43, growth associated protein-43; MARKS, myristoylated alanine-rich C kinase substrate; SSH, slingshot

- 14 -

(21)

2

蛍光による細胞内分子動態測定

2

蛍光による細胞内分子動態測定

2.1

蛍光イメージング技術

2.1.1

蛍光のメカニズム

分子を構成している電子のエネルギーレベルは飛び飛びの値をとっている.ある分子の 電子が,外的要因により,励起状態になり基底状態に戻るときに光を放出するとき,この 光を発光(emission)といい,これには熱放射とルミネッセンス(luminescence)の二つが ある.ルミネッセンスの中で,励起状態と基底状態のスピン多重度が同じときに起こるも のを蛍光(fluorescence),異なるものを燐光(phosphorescence)という.

たとえば蛍光分子の電子は,一重項の基底状態S0から入射光の光子エネルギーを吸収して

(スピン多重度が同じ)一重項の第一励起状態S1に遷移する.励起された電子はフランク・

コンドン状態と呼ばれる不安定な状態で,その後過剰な振動エネルギーは散逸して,1013

~1011秒程度で第一励起状態S1の最低次の振動レベルに落ちる(分子内緩和過程).第一励 起状態S1の最低次の振動レベルでは電子は安定な状態であり,

10

9~108秒程度で基底状態 に遷移し,この過程で光子エネルギーを放出し,蛍光分子は発光する(発光過程;図2.1).

このような吸収・発光の過程で,励起の際に吸収した光子のエネルギーと比較して蛍光と して発光する光子のエネルギーは,分子内緩和過程で失った分低くなっているため,蛍光 波長は吸収波長よりも長波長側にシフトする(Stokes’ sift).また,基底状態S0と第一励起状 態S1の振動レベルのエネルギー準位の相似性により,吸収スペクトルと発光スペクトルは近 似的に鏡像関係を持つ(図2.2).

2.1.2

蛍光物質の種類

生体内部分子プローブ

生体内で自然に合成される分子に蛍光団を含むものがあり,これを内部プローブ(intrinsic

fluorophore)という.たとえば,タンパク質中に含まれるトリプトファンは280 nm付近の光

- 15 -

(22)

2

蛍光による細胞内分子動態測定

を吸収して320~350 nmに極大をもつ蛍光を出す.神経伝達物質のセロトニン(5-HT)は,

280 nm付近の光を吸収して350 nm付近の蛍光を出す.他に,補酵素のNADHは340 nm付近の

光を吸収し,

450 nmに極大の蛍光を出す,フラビンモノヌクレオチド(FMN),フラビンア

デニンジヌクレオチド(FAD)は450 nm付近の光を吸収し,

515 nm付近の蛍光を出す,など

が知られる(図2.3).これらの蛍光は基質結合,タンパク質同士の相互作用,タンパク質変 性などによって,その蛍光スペクトルを変化させる.

蛍光色素物質

生体内に外部から蛍光色素を加えることによって,タンパク質,核酸,細胞膜,細胞骨 格,細胞内小器官などを選択的にラベルする方法が確立されており,多くの蛍光色素が市 販されている(図2.4).これらの蛍光色素は,蛍光を出す蛍光団と生体分子に結合する反応 基とからなり,用いる蛍光団の蛍光波長と反応基の種類を組み合わせることによって,多 重染色が可能となる.また,細胞内イオン,膜電位,酵素活性などに対する反応基を用い ることによって,反応基の共鳴構造変化による蛍光スペクトルの変化を利用して蛍光プロ ーブとして用いることができる(図2.5).

蛍光タンパク質

オワンクラゲ由来のタンパク質green fluorescence protein (GFP)は,1960年代に下村脩によ って発見・分離精製されたExtraction, purification and properties of aequorin, a bioluminescent

protein from the luminous hydromedusan, Aequorea.J Cell Comp Physiol. 1962.さらに1992年 Prasherらによって遺伝子が単離されてその有用性が非常に高まったPrimary structure of the Aequorea victoria green-fluorescent protein.Gene. 1992. GFPは, 11個のβシートで編まれたバレ

ル構造の中に1本のαへリックスが上下に含まれる.蛍光団はポリペプチドが折りたたまれ るときにαへリックス上に形成される(図2.6).このタンパク質の合成に酵素的な合成過程 は必要ないので,どのような細胞内でもGFPの蛍光を観察できる.また,GFPの遺伝子を特 定のタンパク質の遺伝子に組み込むことによって,

GFPとの融合タンパク質を細胞内で発現

させることができる.野生型のGFPでは400 nmと475 nm付近の光を吸収し,

505 nm付近に極

大の蛍光をもつが,近年これをアミノ酸置換により変異させ,他の吸収・蛍光波長領域を 持つ,BFP(青),CFP(シアン),YFP(黄)などが作製されている(図2.7).これらの改変GFP を用いて蛍光共鳴エネルギー転移(FRET,2.4参照)を測定することによって,タンパク質 の構造変化,タンパク質同士の相互作用を計測や,タンパク質の反応基を用いて,細胞内 イオン濃度などのシグナルに対するタンパク質蛍光プローブとして用いることができる.

量子ドット

数nm程度の球状構造の半導体を加工することによって蛍光団として用いることができる

(量子ドット,quantum dot,Qdot).生体内ではポリマーコーティングして親水性を高めて

- 16 -

(23)

2

蛍光による細胞内分子動態測定

用いる.量子ドットは,1)発光強度が強い,2)長時間の励起光照射でもほとんど褪色し ない,3)Stokes’ siftが大きいためバックグラウンドが抑えられる,4)蛍光波長スペクトル 領域が狭いのでUV励起で数種類の異なる波長領域の量子ドットが同時に使用できる,など の利点があり,新しい蛍光色素として今後様々な応用が期待されている.現在では,量子 ドットと抗体を結合させ,免疫抗体染色などに利用されている.

2.1.3

蛍光測定技術

落射蛍光顕微鏡

現在では最も一般的な蛍光顕微鏡で,レーザー光または特定の波長の励起光をダイクロ イックミラーで反射させ,試料を照明する.試料から出た蛍光は対物レンズによって集め られ,ダイクロイックミラーと吸収フィルターを通すことによって散乱光と分離された後,

結像レンズによって像を結ぶ(図2.8).

全反射蛍光顕微鏡(TIRF microscope)

電磁波(光)が反射するときに,強度が指数関数的に減衰する局在化した電磁場を形成 し(エバネッセント場),微小領域を局所励起できる.この現象を利用した顕微鏡が全反射 顕微鏡(TIRF microscope,total internal reflection fluorescence microscope)である(図2.9) エバネッセント場は,境界面からの深さ方向に指数関数的に減衰する局所場であり,強 度をI,深さをzとすると,次のように表せる.

d

e

z

I z

I ( ) = ( 0 )

/

( )

1

[

12

]

1/2

2 2 2

0

sin

4

= n n

d θ

π

λ

(2)

るので,その分レーザー光の強度を下げてバックグラウンド光を抑 ることもできる.

こでλ0は真空中の波長,n1は溶液の屈折率,n2はガラスの屈折率,θは入射角である.

エバネッセント場で蛍光物質を励起すると,散乱光や蛍光のみを伝播光として検出でき るので,バックグラウンドの光が極めて少なく,1分子の蛍光イメージングによく用いら れる.また,本研究のように入射角を調整して,臨界角付近にすると,境界面での光強度 が4倍近くに増強され

焦点レーザー顕微鏡

通常の蛍光顕微鏡では試料全体を一様に励起したが,共焦点蛍光顕微鏡ではレーザー光 を試料の一点に集光させて,その位置を走査することによって画像を取得する.レーザー

- 17 -

(24)

2

蛍光による細胞内分子動態測定

光で励起した点から出た蛍光は,ダイクロイックミラーで反射され,吸収フィルターを通 過した後,結像レンズでピンホールの位置で像を結び検出器で検出される.レーザー光を 集光した点以外から出た蛍光はピンホールで排除されるため検出器には到達しない.レー ザー光の集光点を走査することによって試料の二次元断層像を得ることができる.また,

これらの二次元像を重ね合わせて三次元立体画像を構築することができる.レーザー光を 走査する方法として,(1)ガルバノミラーでレーザーの集光位置を変えて走査する方法,(2)

ニポウディスクと呼ばれる多数のピンホールの空いた円盤を回転させる方式がある.前者 は単一のピンホールを用いるため,漏れ蛍光の影響が少なく,高分解能の画像を取得する のに適しているのに対して,後者はディスクを高速回転させることにより,高速スキャン

可能になる(図2.10).

2光

る面しか励起しないので蛍光色素の褪色が遅く,細胞へのダメージ 少ない(図2.11).

蛍光指示薬による細胞内イオン濃度測定法

.2.1

イオン濃度感受性蛍光指示薬

Ca

起波長,蛍光波長),Ca2+との解離定数(Kd

),などにより選択す

ことができる(表2.1)

子励起レーザー顕微鏡

1つの蛍光分子に2つの光子を同時に吸収させることによって,光子エネルギーの2倍のエ

ネルギー準位に励起することができる(2光子励起,一般に複数の光子で励起することを多 光子励起という.).2光子励起は1931年にM. Gepert-Mayerによって予言されていたが,高い 光子密度が得られるレーザーの発明によって確かめられた.2光子励起を用いることによっ て近赤外光で可視域に吸収を持つ蛍光分子を励起することができる.このため光の透過性 が高く,厚い試料の内部を励起することができる利点がある.また,光子密度が高い焦点 でのみ蛍光分子の励起が起きるので,共焦点レーザー顕微鏡のように断層像を取得するこ とができ,観察してい

2.2

2

2+蛍光指示薬

細胞内Ca2+はセカンドメッセンジャーとして,様々なシグナル伝達に関わっていることが 明らかになってきているが,それらの多くの研究に,細胞内Ca2+蛍光指示薬は用いられてい る.反応基に

Ca

2+キレーターであるEGTA, APTRA, BAPTAなどを用いてRoger TsienらがCa2+

選択的な蛍光指示薬を作製して以来(Tsien, 1980),彼らやその他の研究者によって,fura-2,

fluo-3, calcium-green, fura-redなど,多くのCa

2+蛍光指示薬が開発されている(Katerinopoulos

and Foukaraki, 2002).これらのCa

2+蛍光指示薬は,化学的形状(塩,AM複合体,dextran複

合体),実験系との相性(励

- 18 -

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