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競争と固定資本

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Academic year: 2021

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(1)

Competition and Fixed Capital

宮澤 和 敏

はじめに       ないという関係は,剰余が存在しない場合と マルクス経済学では,固定資本の償却はそ   変わらない。剰余が存在する世界で固定資本 の耐用年数にわたって毎年均等に行われると   の償却の仕方が均等償却でなくなるとすれ 想定されることが多い。実際,マルクスは,  ば,そのような償却の仕方の変化は,労働者 しばしば均等償却の数値例をあげている(た   がどのような生活資料を取得するかという問 とえば,K.H,S.184,訳⑥287−288頁)。こ   題との関わりではなく,資本家間で剰余がど の想定には次のような根拠があると考えられ   のように分配されるかという問題との関わり る。すなわち,剰余が存在せず,等労働量交   で,生ずるわけである。とすれば,資本家と 換が成立している世界では,固定資本の償却   労働者の関係を一般的に扱う理論領域では,

は毎年均等に行われなければならないのであ   資本家間の分配関係に立ち入る必要がないの る。このことは,機能が同じで,使用され始   であるから,均等償却を想定することに方法 めてからの年数が異なる二つの固定資本を   上の問題はないことになるであろう。

使って生産された,同じ種類の生産物の価値    しかし,資本主義経済の現実的動態過程を を比較してみれば理解されよう。労働者がそ  分析するさいに,均等償却の想定を維持する れそれの固定資本を使用して同じ時間労働を   ことには問題がある。なぜなら,償却の仕方 行った場合,労働によって新たに形成される   は動態過程の中で決まる一方,償却の仕方に 価値は互いに等しく,労働によって生産され   応じて,動態過程に異なる影響が及ぼされる る生産物量も互いに等しい。したがって,固   からである。均等償却を想定すれば,動態を 定資本からの価値移転部分の大きさが互いに   左右する重要なファクターが捨象されてしま 等しくなければ,同じ種類の生産物の価値が   うことになる。

異なることになってしまう。つまり,等労働    では,剰余が存在する世界において,資本 量交換と両立しうる固定資本の償却の仕方   家間の剰余の分配関係を明示的に考慮した場

は,均等償却だけなのである。        合,固定資本の償却はどのように行われるの けれども,剰余が存在し,等労働量交換が   であろうか。この問題を考察するうえで一つ 成立していない世界では,均等償却が成立す   の手がかりになるのは,P.スラッファの考

る必然性はない。実際,資本主義経済におい   え方である。スラッファは主著『商品による ては,均等償却が一般的に行われているとは  商品の生産』において,年々同じように繰り いえないであろう。とはいえ,資本主義経済   返される投入産出の技術的体系を基礎にして を分析するための基礎理論の一定の領域にお   価値と分配の問題を考察し,利潤率が与えら いて,均等償却を想定することには次の点で   れたとき,「生産手段の補填と均一の利潤率 意味がある。       の支払とを可能ならしめるという本源的な条

すなわち,たとえ剰余が存在しても,労働   件」(Sraf旧a[1960]p.64,訳107頁)を満た

者が必要労働の生産物を取得しなければなら   す固定資本の償却の仕方は,一義的に定まる

(2)

と論じた。そこでは,たとえば各年の均等な   る。どのようにそれが「決定される」のかに 償却は,利潤率がゼロでない限り,「本源的   ついては論じられていないが,ともかく何ら

な条件」に反すると捉えられている。     かのメカニズムによって決定された貨幣利子 ただし,スラッファのいう「本源的な条   率と等しい水準に,利潤率が決まると捉えら 件」は,実はマルクス経済学で通常想定され   れているのであろう。このように利潤率と利 ている条件とは異なる。マルクス経済学で   子率を等しいとみるスラッファにおいて,固 は,利潤率として投下総資本にたいする利潤   定資本の償却資金として回収された貨幣は,

の割合を考えるのが一般的である。すなわち   固定資本による生産活動とは離れて,独自に そこでは,固定資本についてはそれを最初に   利子を取得しうる元本となるのであるから,

購入したときの全額が考慮される。それにた   当然利潤率の分母からはずれることになるの いしてスラッファのいう利潤率は,流動資本   である。

価値と残存固定資本価値の合計にたいする利    このようなスラッファの固定資本論をふま 潤の率である。つまり,スラッファにおい   えてみると,これまでのマルクス経済学で て,固定資本の償却分として回収された資金   は,固定資本の償却資金の回収が利潤率にた        ■

ヘ,利潤率の分母からはずれるわけである。   いしてどのような意味をもつかという点につ この相違の背景には,利潤と利子の関係に   いて,必ずしも正面から検討されてこなかっ ついての基本的な考え方の違いがあると思わ   たことに気づく。すなわち一方では,償却の れる。マルクス経済学の場合,利子は利潤か   程度いかんにかかわらず,固定資本の償却資 ら支払われ,平均的な利子率は,ゼロと一般   金と残存固定資本価値は,いわば一体になっ 的利潤率の間のどこかに決まるが,それは   て投下総資本を構成するとみなされ,他方で

「どんな法則によっても全然規定することの   は,償却資金をもとに得られる利子収入につ できないもの」(K.m,S.374,訳⑩613頁)   いては捨象されてきたのではないかと思われ と理解される。このように,その平均的な大   る。もちろん,固定資本の償却資金が再び投 きさを理論的に捉えにくい利子率にたいし  下されるまでの期間自由に利用されることは て,一般的利潤率は生産に直接かかわる現実   重視されてきたし,その資金が信用制度の形 資本の安定的で客観的な条件によって規定さ  成にとっての基礎になることも強調されてき れると理解される1)。このような利子率と利   た。しかし,その資金による利子の取得が投 潤率の性質の違いをふまえ,価格変動の重心   下総資本の利潤率に影響を与え,その結果市 を考察するときには,利子は捨象され,利潤   場における価格関係や競争関係に変化が生じ 率と価格との関係に焦点が当てられる。たと   うるということについては論じられてこな

えば,生産価格論や市場価値論においては,   かったといえよう。こうした方法の一面性を 利子を捨象したうえで,価格変動の重心とな  事実上明らかにしている点で,スラッファの るべき価格について論じられる。こうした方   固定資本論は重要な問題を提起していると 法は,固定資本を捨象した場合ばかりではな   いってよい。

くそれを捨象しない場合にも,基本的に維持    とはいえ,スラッファのように利子率と利 されてきたといってよい。      潤率を等しいとみることはできない。これま

それにたいしてスラッファにおいては,利   でマルクス経済学で考えられてきたように,

潤率は「生産の体系の外部から,とくに貨幣   利潤率と利子率は決定の機構が異なり,一般 利子率の水準によって,決定される」   には利潤率の方が利子率よりも高いのであ

(Sraf飴[1960]p.33,訳57頁)とみなされ   る。そこで問題は,利潤率と利子率の相違を

(3)

ふまえたうえで,固定資本の償却についてど    ・・・・・・・・・・・・・・・・…

のように理解したらよいかという点にある。   (AkPa十BkPb十…  十KkPk)(1十r)

スラッファが利潤率と利子率とを等しいとみ   十Lkw=KPk

なしたことによって,彼の理論にどのような   体系は自己補填状態にあると想定される。

難点が生じているかを検討することが,この   つまり,各商品の生産量は,各商品が生産手 問題に接近する一つの手がかりとなるであろ   段として消費される量以上であると仮定され う。そこで本稿では,スラッファの固定資本   る。価格を表す標準として,体系の純生産物 論に含まれる問題を手がかりにして,資本主   の価値が1に等しいとみなされる。すなわ 義経済の現実的動態過程において固定資本の   ち,次の式が成り立つとするわけである。

償却がどのようになされるか,また,固定資   [A−(Aa十Ab十…  十Ak)]Pa十[B 本の償却のなされ方によって,動態過程にど   一(Ba十Bb十… 十Bk)]Pb十… 十 のような作用が及ぼされるか,という問題を   [K−(Ka十Kb十…  十Kk)]Pk=1 考察してみたい。      以上より,方程式はk十1個,それにたい

する未知数は,k十2個(k種類の各商品の 1スラッファの問題提起      価格,賃金,利潤率)となる。方程式よりも

(1)スラッファ理論の枠組み         未知数が多いから,方程式だけから各未知数 まず,スラッファ理論の基本的な枠組みを   の値は確定しない。どれか一つの未知数の値 みておこう。スラッファは固定資本の分析に   が外生的に与えられれば,他の未知数の値も 入る前に,それを捨象した社会的再生産を取   確定することになる。たとえばスラッファが り上げ,そこで成立する価格関係を「生産方   最終的にそうしたように,利潤率が外生的に 程式」によって次のように定式化する。まず   与えられると考えれば,その結果賃金と各商 社会には,a,b,…  ,kという商品が   品の価格が一義的に定まる。こうして,社会 あり,各商品は個々の産業によって生産され   的再生産における価格関係は,自由度1を る。aの生産量をA, bの生産量を   もって動く方程式体系として定式化されたわ B,…  と表す。また,Aを生産する産業   けである。

によって年々用いられる各商品の数量を,A    この「生産方程式」の重要な含意は,分配 a,Ba,…  Ka,Bを生産する産業に   関係の決定とは独立に,あるいはそれに先 よって年々用いられる各商品の数量を,A   立って,商品の価格を,したがってまた「資 b,Bb,…  Kb,などと表す。各商品   本」の大きさを決めることはできないという の単位価値をPa,Pb,…  ,Pk,各産   点にある。この認識は,限界生産力説の基盤 業において用いられる労働量をLa,L   を揺るがすものであった。なぜなら限界生産 b,…  Lk,労働1単位あたりの賃金を   力説は,分配関係の決定に先立って「資本」

w,利潤率をrと表す。以上を用いて,ス   の大きさが確定されうるということを前提と ラッファは次のような「生産方程式」を構成   して,分配関係の決定メカニズムを説明しよ する。      うとする理論だからである。スラッファ理論

(AaPa十BaPb十… 十KaPk)(1十r)   が,実際に限界生産力説批判の理論的基礎と 十Law=APa       して,1960年代に展開されたケンブリッジ資

(AbPa十BbPb十… 十KbPk)(1十r)   本論争で重要な役割を果たしたことはよく知 十Lbw=BPb       られているであろう2)。

・・・・・・・・・・・・・・・・… @    ところで,この「生産方程式」の構造は,

(4)

労賃が後払いになっているという点を除け   を年収の一部分として計算しなければならな ば,マルクス経済学において,価値から生産   い」 (Malthus[1936:1836]p.269)と述べ 価格を導出する,いわゆる転形問題で用いら   る。またマルクスもこのマルサスの論述を引 れる式の構造と基本的には同じである3)。た   用しつつ,「生産物価値の産出のために前貸 だし,転形問題では,通常,固定資本は捨象   しされたものとして,われわれが計算に入れ

されたままであることが多い4)のにたいし   るのは,機械設備がそれの機能によって失 て,スラッファは次の段階で「生産方程式」   う,それゆえそれが生産物に引き渡す54ボン に固定資本を組み込む。その結果,スラッ   ド・スターリングの価値のみである。もしわ ファの固定資本論は,固定資本が存在する世   れわれが,蒸気機関などとしてもとの形態の 界で生産価格を考える場合に,これまでは表   まま存続する1000ポンド・スターリングを算 面に現れなかった問題,すなわち固定資本の   入するとすれば,われわれは,それを両方の 残存価値と償却資金をどう考えるかという問   側に,すなわち前貸価値の側と生産物価値の 題が存在していることを示すことになった。   側とに算入しなければならない」(K.1,

S.227,訳②361頁)と述べている。以上のよう

(2)固定資本の導入       なマルサスやマルクスの論述においては,た 通常,年々繰り返される社会的再生産にお   しかに中古の固定資本が結合生産物として捉 いて,年々生産される生産物といえば,年々   えられているといってよいであろう。

新たに生産され,販売される生産物を指すで   ところで,年々の生産物の循環として社会 あろう。これにたいしてスラッファは,年末   的再生産を図式的に捉えるという点では,ス に残される中古の固定資本を,年々生産され   ラッファの「生産方程式」とマルクスのいわ る新たな生産物とともに生産された,いわゆ   ゆる再生産表式とは共通性をもつ。ただし再 る結合生産物として取り扱う。このようなス  生産表式では,固定資本についてはその償却 ラッファの固定資本の扱い方は,かなり特殊   部分だけが考察の対象となり,固定資本の残 であるようにみえるかもしれない。けれど   存価値は捨象される。このような再生産表式

も,客観的に存在する物的な投入産出関係と   を組み立てるときには,どのように固定資本 してみれば,たしかに,年末に残される中古   の価値が償却されるかは問われない。いいか の固定設備はその年の産出物であり,その固   えれば,再生産表式は,固定資本の償却の仕 定設備が翌年の生産過程にも役立つのであれ   方について,何らかの方式がすでに存在する ば,それはさらに翌年の投入物であるといえ   ことを前提として成立しているのである。し よう。      かし,固定資本の償却の仕方そのものを問題

スラッファによれば,中古の固定資本を結   にする場合には,あらかじめ固定資本の償却 合生産物として取り扱う捉え方は,「リカー   部分のみを取り出すのは,その大きさがまだ ドの学説を批判する途中で,トレンズによっ   確定していない以上,不可能である。つまり て最初に導入され」 (Srafεa[1960]p.94,   その場合には,中古の固定資本を含めて投入 訳157頁),その後,リカード )やマルサスに   と産出の関係を分析し,物的な投入産出関係

よって,さらにマルクスによって採用された   が価格関係をどのように規制するかについて という。       考えなければならない。

たとえばマルサスは,「われわれが充用固    さて,スラッファにおいては,異なった年

定資本の価値を前貸資本の一部分として計算   数を経過した同一の機械は,その経過年数の

する場合には,年末にはこの資本の残存価値   数だけの異なった生産物として扱われ,それ

(5)

それがそれ自身の価格をもつとみなされる。   現在価値をもつ,n年間の確定年金に等し それだけ未知数としての価格の数が増加する  い。年々の粗利潤を,確定年金として計算す が,その分,各経過年数の中古の機械を産出   るという方法は,たとえばリカードが使用し する過程が加えられ,方程式が未知数の数と   ており7),古典派経済学においてすでにしば 同数だけ増加する。それゆえ,価格関係は,   しば使用されていた方法といえよう。そうし 固定資本がない場合と同様に,自由度1を   てみると,年々の粗利潤を計算するための方 もって動くことになる。具体的に方程式に   法としては,スラッファの方法は,従来の年 よって表してみよう。      金アプローチと結論が異なるわけではない。

年々商品のある数量G(g)を生産するた   では,スラッファの方法にはどのようなメ めに必要とされる機械の数量を,機械が新品   リットがあるのだろうか。

であるときにはM。,1年たったときには    スラッファは,年金アプローチが効率不変 M1,それが機能する最後の年にはM_1と表   という場合にのみ成り立つのにたいして,

す。機械の単位当たりの価格を,それぞれ,   「結合生産方程式」の方法は,そうでない場 pm。, pml,…  , pm〔、−1)と表す。機械   合にも成り立つ点に長所があるという。たし の効率がその耐用年数を通じて一定であると   かにそうした長所はあるが,現代の機械設備 すれば,機械「m」の使用による商品「g」   は,その寿命の尽きる直前までほぼ一定の効 の生産を表す「結合生産方程式」は,次のよ   率を保つことが多いと考えられるから,この

うになる。      長所は必ずしも大きなものではないであろ

(M。pm。十Agpa十・・十Kgpk)(1十r)十   う。むしろ「結合生産方程式」の方法の積極 Lgw=G(g)pg十Mlpml         的な長所は,年々の再生産を重視する観点か

(Mlpml十Agpa十・・十Kgpk)(1十r)十   ら年金アプローチを基礎づけ,さらに年金ア Lgw=G(g)pg十M,pm 2         ブローチでは必ずしも明瞭ではなかった減価

・・・・・・・・・・・・・・・・・… @   償却分と利潤との区分を,理論的に明示化し

・・・・・・・・・・・・・・・・・… @   たことにあるように思われる。スラッファは

(M。−lpm(.一、)十Agpa十・・十Kgpk)(1  減価償却と利潤との関係について次のように 十r)十LgwニG(g)pg      述べている。

年々の商品価額G(g)pgのうちには,流   「利潤率がゼロであるならばう連続する年の 動資本の回収分とそれにたいする利潤(Ag  均等効率に対する均等減価割当額という基準

pa十… 十Kgpk)(1十r),および賃金   が,生産物を生産する機械の経過年数いかん Lgwに加えて,機械の減価償却費と機械に   にかかわりなく,同一の生産物の諸単位に均 たいする利潤とが含まれている。スラッファ   等な価格を保証することになる。しかし,利 は,機械の減価償却費と機械にたいする利潤   潤率がゼロ以上に上がるや否や,等しい減価 の合計を,機械にたいする「費用」といって   割当額は,異なった経過年数の機械に対して いるが,本稿ではこれを機械にたいする粗利   は,異なった費用(『費用』は減価プラス利 潤と呼ぼう。この粗利潤は,効率が機械の耐   潤から成る)をともなうであろう。なぜな 用年数を通じて一定であるこの場合,各経過   ら,与えられたどんな利潤率においても,よ 年数について等しくなり,次の値をとる6)。   り古い,いくぶん価値の下がった機械に対し

pm。r(1十r)n/{(1十r)L1}      ては,より少ない利潤を支払うべきであろう

ところでこの値は,利潤率rを基礎として   から。したがって,均等減価は,その生産物

計算された,機械の当初の価格pm。と等しい   のすべての単位に対する均等な価格とは両立

(6)

しないであろう。/それゆえ,年々の減価割   (3)分配関係と固定資本の残存価値

当額を,新しい機械に比べて古い機械につい    こうしたスラッファの固定資本論によっ て増加せしめて,異なった経過年数における   て,利潤率の変化が固定資本の残存価値に与 費用の均等を回復させるばあいに,はじめて   える興味深い効果を明らかにすることができ 価格の均等を維持することができるのであ   る。利潤率が上がれば,残存価値の大きい新

る。」(Sraf£a[1960]p.69,訳116頁)     しい機械に支払われる利潤量と,残存価値の すなわち,一定の利潤率を前提とする場   小さい古い機械に支払われる利潤量との差 合,価値の低下した古い機械については,そ   は,たとえ残存価値の差が一定でも拡大する の低下した価値にたいして利潤率が計算され   であろう。それゆえ利潤率が上がったとき,

るから,その機械にたいして支払われる利潤   新しい機械の減価償却割当額を減少させ,古 の量は少ない。そこで,利潤量が少ない分だ   い機械の減価償却割当額を増加させなけれ け,古い機械の減価割当額を増加させること  ば,生産物価格の均等を維持することはでき によって,はじめて年々の機械の「費用」,   ない。その結果,各経過年の機械の残存価値 すなわち機械にたいする粗利潤が等しくな   は,利潤率が上がれば上がるほど高くなるの

り,生産物価格の均等を維持することができ  である。たとえば,耐用年数50年の耐久的用 るというわけである。こうしてスラッファに   具の残存価値の減少の仕方は,利潤率の変化 おいては,機械によって取得される利潤は年   に応じて下の図のようになる。

数を経るにつれて小さくなるのにたいして,    したがってスラッファによれば,利潤率の 機械の減価償却割当額は,年数を経るにつれ   上昇は,年々再生産がなされる生産物の分配 て大きくなるのである。       関係において,資本への分配分を増大させる

1.00

華…      梅

警α8°      擁窩…値       へ毎

Jα6°     篠告

縞α5°        へ・

倉…

して 0.30

│。、。値

0.10

0      5      10     15     20     25     30     35     40     45

50−n 耐久的用具の経過年数(t年)

図 種々の利潤率における耐久的用具の帳簿価値

(用具は一定の効率で50年の耐用年数をもつと仮定される。)

(出所:Sraf飴[1960]訳119頁)

(7)

ばかりではない。それはさらにストックであ   ることができるであろう。

る固定資本の残存価値をも,増大させる効果    ここであらためて,スラッファの置いた前 をもつのである。       提条件の現実性を検討してみよう。まず,市

これまでマルクス経済学では,利子率が変   場で売買される生産物については一物一価が 化することによって擬制資本の価値が変化す   その時々で成立する傾向がある。したがっ

ることは明らかにされてきた。けれども,利   て,市場で売買される生産物に関する限り,

潤率が変化することによって現実資本として   均一の価格を想定することは現実の傾向に基 の固定資本の残存価値が変化することは,あ   ついた捉え方であるといってよい。また,生 まり注目されてこなかったのではなかろう  産手段の補填という条件については,スラッ か。スラッファ理論は,ストックである資本   ファのいうようなかたちで「均一の利潤率」

の価値が分配関係から独立に決定されないこ   が現実に生ずる傾向があるのであれば,固定 とを明らかにした点で,資本論争において有   資本を更新する場合にもその利潤率が確保さ 効性を発揮したが,この点はまた,マルクス   れうることになり,資本の行動によって補填 経済学にたいしても再検討を要する問題を提   が行われることになる。そこで問題となるの 起しているように思われる8)。        は,「均一の利潤率」を保証する機構が現実

とはいえ,資本主義経済の動態過程におい   に存在するかどうかである。

て,固定資本の減価償却割当額は,年数を経    これまでみてきたように,スラッファは るにつれて大きくなるのであろうか。このよ   「均一の利潤率」という概念の中に,異なる うな償却の仕方は,資本主義経済で現実には   部門の利潤率が均一になることと,同一部門 行われがたいように思われる。現実にしばし   で異なる経過年数の固定資本をもつ資本につ ば行われるのは,均等償却ですらなく,経過   いて,回収された償却資金を分母からはずし 年数の少ないうちにできるだけ多くの償却を   た利潤率が均一になることとをともに含ませ 行う加速償却であるといえよう。現実に加速   ている。けれども,これらのふたつのことを 償却がしばしば行れるとすれば,なぜスラッ   ただちに同一視することはできないであろ

ファの考えたようにならないのであろうか。   う。なぜなら,利潤率が均等化するさいの機 この点について,動態過程の諸条件を具体化   構が異なるからである。

しながら考えてみよう。       たとえば,前節(1)で取り上げた,流動資本 のみから成る「生産方程式」では,各部門の 2 固定資本と資本主義経済の動態      利潤率は均一と想定されている。部門間で利

(1)前提条件の現実性      潤率が異なる場合には,資本は低利潤率部門 スラッファの捉え方は,彼の置いた前提条   から高利潤率部門へ移動するから,利潤率が 件を認める限り,理論的には正しいように思   均一化する傾向が現実にも存在する。その意 われる。つまり,「生産手段の補填と均一の   味で,各部門の利潤率を均一と想定すること 利潤率の支払とを可能ならしめるという本源   には現実的根拠がある。

的な条件」(Sraf旧a[1960]p.64,訳107頁)   では,前節(2)で取り上げた固定資本の「結 を満たし,さらに生産物の価格が均一になる   合生産方程式」で定式化されているように,

という条件を満たす償却の仕方は,スラッ   異なる経過年の固定資本をもつ生産過程にお

ファの説いた償却方法しかありえないのであ   いて,回収された償却資金を分母からはずし

る。それが現実には成り立たないとすれば,   た利潤率が均一化する傾向は存在するのであ

前提条件が現実に成立しないことによるとみ   ろうか。たしかにこの傾向は,一定の条件の

(8)

もとでは生じうるといってよい。その条件と   「連続的な経過年数群に属する用具は,その は,固定資本の寿命が確定的であるというこ   価格が有効であるためには,実際に販売され とを前提としたうえで,異なる経過年の固定   ねばならぬという必要もない。なぜなら,こ 設備を売買するための摩擦のない市場が存在   れらの価格がたとえ帳簿価値にすぎないとし することである。      ても,それは各経過年数群のばあいに,利潤 ここで,前節(2)で取り上げた固定資本の   の割当と減価の酌量とを正しく行なうための

「結合生産方程式」から導出され,前節(3)の   基礎となるからである。ここで『正しく』と 図に例示される各経過年の固定設備の価格   は,生産手段の補填と均一の利潤率の支払と

を,固定設備の均衡価格と呼ぶことにしよ   を可能ならしめるという本源的な条件を正し う。固定設備を使用して生産された生産物の   く果たすという意味である。」(Sraf飴 価格が一定に保たれ,また賃金も一定に保た   [1960]p.64,訳107頁)と述べている。つ れているとすれば,いずれの経過年の固定設   まりスラッファにおいては,固定設備の中古 備にせよ,固定設備を均衡価格よりも安く購   市場の有無にかかわらず,「均一の利潤率」

入した資本は,「均一の利潤率」以上の利潤   に基づいて,固定資本の残存価値に応じた利 率を上げることが可能になる。逆に均衡価格   潤を支払うことが「本源的な条件」であると

よりも安く固定設備を販売した資本の利潤率   みなされているのである。

は「均一の利潤率」よりも低くなるであろ   しかし,この「本源的な条件」が現実の償 う。それゆえ,各年の固定設備の価格がその   却の仕方を規制するかどうかは,市場の有無 均衡価格よりも高ければ,各年の固定設備の   に決定的に依存する。なぜなら市場が存在し 供給が増加して需要が減少し,逆の場合には   なければ,資本家がそのような償却を行う必 逆になるから,固定設備は均衡価格で売買さ   然性がないからである。たとえば,資本家 れる傾向が生ずることになろう。その結果,  は,現実に売ればある価格以下でしか売れな 異なる経過年の固定資本をもつ生産過程にお   い固定設備を,その価格をもつとみなして,

いて,スラッファのいう意味で均一の利潤率   その価格まで償却が行われれば満足するとい が成立する傾向が生ずるわけである。      うような行動はとらないであろう。スラッ しかし現実には,摩擦のない中古の固定設   ファは,現実の市場に支えられてはじめて生 備の市場は存在しない。それがまったく売買   ずることを,市場がなくても生じうるように

されないというわけではないが,たとえば倒   仮定して理論を組み立てているといってよ 産した企業の固定設備が売買される場合のよ   い。

うに,現実に売買されることは稀であり,売    この仮定を置くか置かないかは,利潤率と 買されるときの価格は一般にきわめて安い。  利子率を等しいとみるかどうかの一つの重要 つまり,中古の固定設備の市場は,それを販   な分岐点をなしている。この仮定を置けば,

売するためのコストも購入するためのコスト  たとえば,少額の貨幣を短期間しか流用しえ も極めて高い,摩擦の大きい市場なのであ   ない者でも,寿命が尽きる直前の安価な固定 る。それゆえ,中古の固定設備の市場は,ス   設備を購入し,その期間はその額にたいして ラッファの理論が事実上前提としているよう   「均一の利潤率」を取得しうるかのようにみ なかたちでは存在しない。         なされることになる。さらにこの仮定を徹底

ただし,スラッファは,固定設備の中古市   すれば,いかなる額でも一定期間手放すこと

場が現実に存在するかどうかは大きな問題と   により「均一の利潤率」が得られるというこ

は捉えていない。すなわち,スラッファは,   とになろう。現実の市場の有無にかかわら

(9)

ず,貨幣を一定期間手放すことにたいして一   は不可能である。とはいえ資本家にとって 定の利潤率が支払われるべきであると捉える   は,利潤率のみならず,償却をいかに速く行 ならば,結局利潤率と利子率とは等しくなっ   いうるかという点も,固定資本投資を行うか てしまうのである。       どうかを判断するさいの重要な基準となる。

この仮定に基づく理論からみれば,市場が   つまり資本家は,需要の長期的な動向を予測 存在しなかったり,市場に大きな摩擦があっ   しつつ,償却をある程度速やかに行ったうえ たりすることは,現実の市場経済のいわば不   で平均的な水準以上の利潤を確保しうると判 純性を示すと捉えられるであろう。その場   断した場合にのみ固定資本投資を行うにちが 合,理論の本体においては,そうした不純な   いない。個々の資本家がそう判断する限りで 要素は捨象されるにちがいない。しかし本来   固定資本投資が積極的に行われ,そうでなけ 説明されるべき問題は,そうした現実に存在   れば固定資本投資は抑制されるわけである。

する摩擦の作用を受けて,たとえば利潤率と   もちろん,各資本家が意図した通りの利潤の 利子率の差が生ずるように,市場経済の側に   獲得と固定資本の償却に成功するとは限らな 一定の構造が形成される点にある。このよう   い。彼らがどの程度それに成功するかは,需 に摩擦のある世界では,スラッファの説いた  給動向にかかわる諸条件によって規定され ような償却の仕方は,資本家の行動を規制す   る。とはいえいずれにせよ,年数を経るにつ る原理とはならないのである。        れて償却額を大きくしていくというスラッ

さらに,スラッファは捨象しているが,固   ファの説いた償却方法は,資本家によって意 定資本の償却の仕方に大きな影響を及ぼすも   図的に採用されることはないのはもちろん,

う一つの要因がある。マルクスが「資本主義   意図せざる結果としてそれを資本家に強制す 的生産様式の発展につれて,生産手段の変化   る社会的機構もないといってよい9)。

も,それが肉体的に生命を終わるよりもずっ   こうして,同一部門で異なる経過年数の固 と前から無形の損耗のために絶えず補填され   定資本をもつ資本について,回収された償却 る必要も,増大する。」(K.H,S.185,訳⑥   資金を分母からはずした利潤率は,スラッ 290頁)と述べたように,固定資本の寿命   ファの想定とは異なって均一にはならない。

は,物理的要因ばかりではなく,経済的要   償却をスラッファの説くよりも速く進めるこ 因,つまり,より生産力の高い技術が開発さ   とに成功した資本にとっては,生産物価格が れるかどうかという要因によっても影響され   一定である限り,この意味での利潤率は償却

る。固定資本の寿命については,物理的寿命   が進む過程で高くなるのである。

よりも短くなる可能性が常に存在するわけで    では,投下総資本にたいする利潤率は償却 ある。技術の開発を予測することはほとんど   にともなってどのように変化するのであろう 不可能であるから,固定資本の寿命をあらか   か。これは,償却の進行速度と利子率とに

じめ確定的に予測することはきわめて困難で   よって高くなることも低くなることもありう あるといえよう。       る。ただし,生産物価格が一定という条件の

摩擦のない中古の固定設備の市場が存在せ   もとで均等償却が行われるならば,利子率が ず,固定資本の寿命が不確定であるならば,   安定的である限り,投下総資本利潤率は上昇 資本家はできる限り速く償却を行おうとする  する傾向があるだろう。なぜなら,年々の粗 はずである。もちろん,償却を速く行おうと  利潤が一定に維持され,年々の償却割当額も すれば生産物の価格を高く設定しなければな  一定に維持されるので,年々の利潤も一定に

らないから,極端に短期間で償却を行うこと   維持されるが,それに加えて利子収入の元本

(10)

となる償却資金が次第に増加するからであ   まず,生産力の上昇をともなわない場合,

る。さらに,均等償却以上の速度で償却が行   どのような条件があれば固定資本の補填投資 われるならば,生産物価格が一定に維持され   がなされるかを検討してみよう。先にみたよ て粗利潤が一定に維持される限り,償却の進   うに,生産力の上昇がない場合,固定資本の 行にともなう年々の償却額の減少は年々の利   償却を速やかに進めた資本の利潤率は固定資 潤量の増大を意味するから,たとえ利子率が   本の補填にともなって下落する可能性が高 ゼロであったとしても,利潤率は上昇するこ   い。それにもかかわらず補填がなされるとす とになろう。こうして,同一の生産方法を用   れば,それは,たとえ利潤率が低下したとし いる資本であっても,先に固定資本投資を   ても,低下した補填後の利潤率が平均的な利 行って固定資本の償却を速やかに進めた資本   潤率よりも高いからであろう。こうした事態 と,後から固定資本投資を行う資本との間   は,生産物にたいする需要が長期的に拡大し に,有利不利の関係が生じうることになるの   つつあり,生産物価格が高く維持される傾向 である。つまり,物的な生産性は変化しない   がある場合にのみ生じうると思われる。いい にもかかわらず,利潤率を尺度としてみる   かえれば,需要が先行的に拡大して需要の側 と,資本家が速やかに償却を行う限り償却の   の競争が相対的に強く,平均的な利潤を確保 進行にともなって生産性が上昇するかのよう   したうえで償却を速やかに行いうるという見 な外観が生じうるわけである。        通しが得られるほど生産物価格が上昇してい このことは,興味深いことに,固定資本の   るときに,補填投資がなされるわけである。

償却を速やかに進めた資本が償却を完了して   もちろんこのときには追加投資も積極的にな 固定資本の補填を行うさいには,生産物価格   されるが,補填投資の有利不利を規定する条 が一定に維持されているとすれば利潤率は低   件は,追加投資の有利不利を規定する条件と 下することを意味するであろう。とすれば,  基本的には同じだといえよう。

固定資本の補填は,資本家の行動によってい    ところで一般に生産物にたいする需要は,

つでも必ず満たされる条件であるとはいえな   その生産物が社会の構成員の生活手段とし くなるのではないであろうか。需給の調整過   て,あるいは生活手段を生産するための生産 程にそくして検討してみよう。        手段として,社会に普及しつつある過程で

は,社会的再生産の拡張速度よりも急速に拡

(2)補填の条件      張すると考えられる。とすればこの過程では スラッファは,固定資本を含む生産手段が   需要が先行的に拡大し,その生産物の生産に 補填されるべきであるという条件を,「本源   使用される固定資本について,補填投資や追 的な条件」の一つとみていた。たしかに,生   加投資が積極的に行われるであろう。それに 産手段の補填がなされなければ,社会的再生   たいしてその生産物が普及してしまえば,す 産の規模が縮小してしまう。それゆえ生産手   でにそれを所有している主体の買い換え需要 段の補填がなされることは,社会の構成員が   が中心となって,需要の拡張速度は社会的再 それまでと同様の生活を維持していくために   生産の拡張速度とほぼ同じか,むしろそれよ 必要な経済の原則の一つである。しかしこの   りも遅れることになろう。そうなれば,今度 条件が満たされるかどうかは,資本家の行動   は供給者の側の立場が相対的に弱くなって,

にかかっている。いいかえれば,資本家に   供給側の競争が相対的に強まることにな

とってメリットがなければ,この条件は満た   る1°)。このとき,償却を速く行っている資本

されない。      家のなかには,ある程度価格を下げても,平

(11)

均的な利潤以上の利潤をあげつつ予定の償却   わずに従来の固定設備を用いつつ価格を下げ を行いうる資本家が多かれ少なかれ必ず存在   て売り上げを伸ばそうとする行動をとる可能 するであろう。供給側の競争圧力が強いとい   性が高い。こうした行動は,補填投資をます

う状況においては彼らが値下げを行い,生産   ます困難にするであろう。

物価格は低下する傾向が生ずるにちがいな    もちろん,需要が停滞ないし漸減している い。補填投資を予定している資本家からみれ   状態では,償却を終えた資本においても平均 ば,補填後に平均的な利潤率を確保しつつ償   的な利潤を取得することは必ずしも容易では 却を速やかに行いうるという見通しを得るこ   ないと考えられる。そうした状態であるにも とは次第に困難になる。それゆえその場合,   かかわらず補填投資がなされるためには,補 生産力の上昇をともなわない補填投資が見送   填に際して生産力が上昇し,補填によって利 られる可能性は次第に高まるであろう。    潤率が下落しないことが必要になる。すなわ もとより,補填を行わなければ供給が減少   ち,生産物の価格が低い水準に抑えられてい するから,需要が停滞状態にあっても補填が   る状態で,固定資本の償却を速やかに行いつ 見送られることによって,価格はある程度回   つ平均的な利潤を取得しうるという見通しが 復する可能性がある。しかし,需要が長期的   得られるほど,従来と比較して生産力を飛躍 に拡張傾向にあるときの価格の動きと,需要   的に上昇させなければ,固定資本の補填を行 が停滞状態にあって供給が減少したときの価   うことは資本家のメリットとはならないわけ 格の動きとは,明らかに異なるであろう。な   である。

ぜなら,供給の減少によって価格が上昇した    以上のように,固定資本の償却を速やかに としても,供給が元の量にもどれば,価格は   進めた資本にとって,固定資本の補填がメ 再び下落に転ずることになるのであり,供給   リットのある行動となるためには特殊な条件 の減少による価格上昇は,長期的な趨勢には   が必要とされる。すなわち,需要が長期的に なりえないからである。そうとすれば,供給   拡張傾向にあって,生産物価格が高く維持さ の減少による価格上昇をみて,多くの資本家   れているという条件か,生産力が飛躍的に上 が,長期的に貨幣を前貸ししなければならな   昇するという条件かのいずれかが必要なので い固定資本の補填投資を行うとは考えにく   ある。このうち,より基本的な条件は,生産 い。       力についての条件であろう。なぜなら需要の

さらにそもそも固定資本の償却が終わって   長期的拡張は,もとをただせば生産力の飛躍 も,供給が減少しない可能性がある。これま   的上昇が新たな需要を発掘することによって でみてきたように,資本家は固定資本の償却   もたらされると考えられるからである。そう 期間を物理的寿命よりも短く設定するから,   してみると資本主義経済において,生産手段 固定資本の償却資金がすべて回収されても,   を補填するという経済の原則は,長期的に 固定資本は物理的に使用可能である場合がし   は,生産力の上昇という契機に支えられるこ ばしば生じうる。このとき,従来の価格が維   とによってはじめて可能になるといえるであ 持されているとすれば,粗利潤がすべて利潤   ろう。

となるのであるから,利潤率はもっとも高く

なりうる。たとえ価格がかなり下落しても,  (3)補填の困難と不況期の停滞

利潤率が平均的な率よりも下がるとは限らな    このように固定資本の補填に特殊な条件が

いわけである。それゆえ,需要が停滞してい   必要とされるという点は,好況期の積極的な

るときには,償却を終えた資本家は補填を行   資本蓄積との対比において,不況期の停滞を

(12)

分析するうえで重要な意味をもっている。ま   されることは注目されてこなかった。そのた ず好況期には,各部門で需要が多かれ少なか   め,好況の分析と整合的に不況期の停滞の原 れ供給に先行して拡張する結果,固定資本の   因を分析することが困難になっていたように 追加投資とともに補填投資も積極的になされ   思われる。

る。この時期は,需給の不均衡が比較的速や    たとえば宇野弘蔵氏は不況期について,

かに解消され,市場メカニズムがうまく機能   「賃銀の切り下げだけは特別のものとして考 する時期であるといってよい。とはいえそれ   慮されなければならない。勿論それも再生産 は,産業予備軍が豊富に存在し,剰余価値率   過程の停滞によって生じたものであって,特 が高ければ必ずもたらされる事態というわけ   に賃銀だけが低落するわけではないが,しか ではない。この時期には,固定資本の償却を   し他の商品と異って,需要が減退したからと 速やかに進めた資本にとって,生産力の上昇   いって供給を減ずるわけにはゆかないし,商 をともなわない固定資本の補填が利潤率の下   品として販売しないからといって労働者は生 落を招くという関係は,需要の拡張という条   活しないわけにもゆかないので,その低落は 件の存在によって,投資行動を制約しない。   特に激しく,永びくことにならざるを得な それゆえ,そうした速やかな需給調整が可能   い」(宇野[1974]110頁)としつつ,「しか になっているのである。また,積極的な固定   しその切り下げによっても利潤率を恢復せし 資本投資はさらに需要の増大をもたらし,結   めることは出来ない。資本は自らの活動を停 果的に次の投資を容易にすることにもなって   滞せしめられることによって,かかる切り下 いる。      げもなし得るに過ぎないからである。かくて

それにたいして不況期には,社会の多くの   資本の競争は,…結局は生産過程における生 部門で需要が停滞することによって,好況期   産方法の改善による生産費の低下に脱却の道 の固定資本投資を支えていた条件が失われ   を求めざるを得なくなる。そしてこれこそ恐 る。そのため,たとえ産業予備軍が豊富に存   慌の根本的原因を解除し,新たなる展開を与 在し,剰余価値率が高くなっていても,固定   えるものとなるのである。」(同上)という。

資本の追加投資はもちろん,補填投資も延期    しかし不況期には,恐慌の根本的原因と される傾向が生ずる。また,それがさらなる   なった労働力にたいする資本の過剰蓄積が,

社会的な需要の停滞を招くことにもなる。こ   失業者の増大と賃金の下落によって解消され

のときかりに固定資本の補填投資が積極的に   る。それにともない,剰余価値率は回復して

行われれば,生産手段需要や労働者の消費需   いるはずである。それにもかかわらず,なぜ

要の増大を媒介にして次第に追加投資も行わ   好況期とは異なって不況期には資本の活動が

れるようになり,不況はやがて好況に転化す  停滞するのであろうか。宇野氏は,賃金の低

るであろう。しかし,社会的に需要が停滞す   下が資本の活動の停滞によってもたらされる

るなかで補填投資を行うためには,生産力の   ために,賃金の低下は利潤率を恢復させない

上昇をともなうことが必要になる。このよう   という。ここには,賃金と利潤率とは,一方

に,生産力の上昇をともなわない固定資本投   の減少が他方の増加に結びつくという単純な

資を可能にした好況期の条件が不況期には失   対抗関係にないことが示唆されている。しか

われることが,不況期の停滞の一因となって   し,賃金の低下がなぜ利潤率の増加に結びつ

いるわけである。      かないかは,資本活動の停滞がその理由とし

けれども,従来の景気循環論の研究におい   て言及されているだけで,なお十分に明らか

ては,固定資本の補填に特殊な条件が必要と  にされていないように思われる。

(13)

この点を解明する試みは,大きく分けてふ   には,たとえ実質賃金率が低下しても平均的 たつの方向からなされてきた。一つは,不況   な利潤よりも少ないというのが,多くの部門 期に賃金,正確には実質賃金率が低下すると   の状態ではないか。なぜなら,需要が停滞し いう前提条件を疑う見解である。すなわち,   ている以上,競争は供給側で相対的に強くな 資本の活動が停滞するのは,失業者が増大し   り,より有利な生産条件による供給が,つま ても実質賃金率が下落せず,利潤率が低いか   り償却の進んだ旧来の固定資本による供給が らだと捉えるわけである。たとえば馬場宏二  価格を規制することになると思われるからで 氏は「不況による賃銀切下げと労働強化が賃   ある。実質賃金率が下落しただけで補填投資 銀コストを充分に圧し下げてしまえば剰余価   が行われなければ,さらなる消費需要の減少 値率が回復してしまうから,技術革新的合理   がもたらされる可能性も高い。需要の停滞が 化投資は不要にもなり兼ねない」(馬場宏二   固定資本の補填を妨げているとすれば,不況

[1978]111−112頁)としつつ「問題は物価   を脱するために必要なのは,生産力を上昇さ と賃銀のいずれが速く下るかである」(同113  せることによって,補填を行うことが利潤率 頁)と問い,「どちらがヨリ速く下るかいち   の下落に結びつくという関係を断ち切ること がいにはいえず,投機の反動によって物価が   なのである。

ヨリ速く下るばあいがかなりあるとするほか   不況期の停滞を説明するもう一つの方向性 はない」(同上)と論じている。そして「現   は,不況期の実質賃金率の下落を認めたうえ 実にも実質賃銀率が不況期に上るばあいが多   で,社会的な需要にたいする固定資本の過剰 い」(同114頁)と述べ,「そうであればこそ   な生産能力に注目する見解である。たとえば 資本は,死の飛躍的投資によってでも労賃コ   伊藤誠氏は,不況期の停滞の原因について,

ストを切下げよう」(同上)とするという。   「収縮した消費需要や生産手段への需要にた たしかに,不況期には賃金の切り下げが消費   いし過剰な固定資本としての生産能力が諸産 需要の減少を介して生産物価格の下落をもた  業にもちこされているため」(伊藤[1989]

らすという因果関係が働く過程で,実質賃金   202頁)と捉えている。先にみたように,た 率が低下しない可能性はある。不況期に実質   とえ実質賃金率が下落しても補填投資が行わ 賃金率が下落していなければ,それは不況期   れずに不況が深化する可能陛があることをふ の停滞の一因になる。不況期に実質賃金率が   まえれば,伊藤氏のいうように,不況期の資 低下するかどうかは,理論的にも実証的にも   本の過剰は,基本的には,労働力にたいする なお検討を要する課題であろう 1)。      過剰というよりもむしろ社会的需要にたいす

しかし,たとえ実質賃金率が低下したとし   る過剰と考えるべきであろう。それを確認し ても,不況期の停滞は容易に解消されないよ   たうえで,その過剰を解消する契機となる補 うに思われる。実質賃金率が低下すれば,旧   填投資が,なぜ積極的に行われないかが問題 来の固定資本を使用している資本の利潤率は   になる。たしかに「不況期の停滞の根底に

ある程度回復する12)。しかし,そのこと自体   は,既存の固定資本に制約されて有望な生産 はさしあたり旧来の固定資本を使用し続ける   方法や産業部面に諸資本がただちに移転しえ ことを支えるにとどまる。固定資本の償却を   ない状況がある」(同上)とはいえ,既存の 速やかに進めた資本にとって,生産力を上げ   固定資本が「有望な生産方法や産業部面」の ずに補填を行えば利潤率が下がるという関係   出現自体を阻害していることが無視されるべ

に変化はない。補填を行ったら得られるであ   きではない13)。

ろう利潤率は,需要が停滞しているこの時期    たとえばスラッファの説いたように,固定

(14)

資本の投資がなされた後,次第に償却額を増   では,それにたいする需要は社会的再生産の 加させていくような償却方法を強制する社会   拡大速度よりも急速に伸びると述べたが,そ 的機構がかりに存在するとすれば,不況期と   の普及過程はかなりの長期に及ぶと思われ いえども生産物の価格は容易に低下しない。   る。したがって,固定資本投資が停滞する不 それゆえ,生産力の上昇をともなわずに固定   況期にも,需要が長期的に拡大する傾向にあ 資本の補填を行うことも必ずしも困難ではな   る生産物が存在することは稀ではない。そう いであろう。しかし実際には,むしろ反対   した生産物が存在する場合にはその部門であ に,固定資本投資の直後に多額の償却を進め   まり大きな技術革新がなされなくても,固定 ることに成功する資本家が多かれ少なかれ存   資本の補填投資が行われることになろう。そ 在する。とりわけ好況期には,そうした資本   れは不況を脱するための契機になりうる。

家が数多く形成されるであろう。そのこと    しかし,需要が長期的に拡大傾向にある生 が,不況期の激しい価格競争を可能にすると  産物が存在しない状態で不況に陥れば,いず ともに,補填投資を困難にしていると考えら  れの部門で固定資本の補填を行うためにも,

れる。      飛躍的な生産力の上昇が必要とされる。かり したがって,「既存の固定資本は,好況期   に飛躍的な生産力の上昇が行われれば,新技 とは異なり,もはや資本として十分な価値増   術に基づく補填投資により利潤率が上昇する 殖をなしえないため,その償却更新が個別諸   から,資金を蓄積している諸資本は競って補 資本にとっても重要な課題となる」(同上)   填投資を行うことになろう。それは,投資が とは必ずしもいえない。既存固定資本は,償   投資を呼ぶ好循環を起動させうる。また,生 却がある程度進んでいるために粗利潤の多く  産力の上昇による価格の大幅な下落は,新た

を利潤とすることができるという意味では,   な社会的需要の構造を形成することになるで 新しい固定資本よりも効率的な価値増殖を   あろう。しかし,飛躍的な生産力の上昇が可 行っている面がある。たとえ固定資本の購入   能かどうかは,歴史的諸条件によって左右さ 価格が下落していても,その下落幅以上に償   れる。需要が長期的に拡大傾向にある生産物 却を進めている資本家にとっては,既存の固   が存在しないにもかかわらず,それが可能で 定資本を利用し続けるほうが有利である場合   なければ,不況は長期化・深刻化することに が多いであろう。まして償却が完了すれば,   なる。こうして不況の性質は,社会的需要の 粗利潤はすべて利潤として取得しうる。それ  動向と,生産技術の改善の程度との,それぞ ゆえ,需要が停滞しているという状況のもと   れ歴史性を帯びた要因相互の関係によって規 では,たとえ償却が済んでも更新(補填)は   定されるのである。

ただちに資本にとっての課題にならない可能

性があるわけである。こうした償却と更新の      く注〉

時間的ズレを含みつつ,固定資本の寿命がそ   1) 利潤率と利子率の相違については,伊藤[1989]

の物理的な寿命よりもどの程度短くなるか   181−182頁を参照せよ。なおそこで,「現実資本は は,不況期の諸条件によって規定されること   それぞれに追加的な信用の利用による事業の拡大 になる14)。      からえられると期待される利潤率が一般的利子率 各部門の不均質性を視野に入れて考えれ    より低ければ事業拡大を抑制し,高ければ事業拡 ば,不況期といえども,すべての生産物につ   大を促進することになろう」(伊藤[1989]181 いて需要が停滞しているとは限らないであろ   頁)とされているが,「事業拡大」のためには,ま

う。先に,ある生産物が社会に普及する過程   とまった大きな額をかなり長期間にわたって借り

(15)

入れなければならず,資本が「一般的利子率」で    存在すると想定し,各部門の不変資本をci,

その借入を行いうるかどうか。利子率と利潤率の    可変資本をvi,剰余価値をsiと表す。単純再生産が行 相違を考えるとき,一方では「事業拡大」が小さ    われているとすれば,c1十v1→−s1=Σci,c2十v2十s2

な単位で連続的に行われえないこと,他方では,    =Σvi,c3十v3十s3=Σsiが成り立つ。これを前提 借入の額が大きくなり期間が長期化するにつれて,    としたうえで,不変資本1単位の価格がその価値

「一般的利子率」にいわばプレミアムが付加され    のx倍,賃銀財1単位の価格がその価値のy倍,

ること,が重要な論点になると思われる。それゆ    奢修財1単位の価格がその価値のz倍になると え,伊藤氏のようにいわば限界的な利潤率と利子    し,一般的利潤率をrとして次の三つの式が成り 率の関連を考えるときには,限界利潤率がどのよ    立つ。

うな意味で現実性をもつか,限界利潤率が現実性    I clx十vly十r(clx十vly)=xΣci をもつとすればそれと比較される利子率はどのよ    H c2x十v2y十r(c2x十v2y)=yΣvi うな利子率なのか,という点をさらに分析する必    皿 c3x十v3y十r(c3x十v3y)=zΣsi

要があるように思われる。       この三つの方程式には,四つの未知数(x,

2) 資本論争の学説史的位置づけについては,    y,z,r)がある。スウィージー以降,この方 Dobb[1973]第9章を参照せよ。ドッブはそこ    程式をどのように閉じて価値の生産価格への転化 で,。分配についての説明が経済学的論議のなかで    を説くかが論争の焦点となった。論争の過程でそ まだ「審理中」であることを強調しているが,こ    の後次第に,均衡価格の決定論にとどまらないマ の指摘は今日でも妥当するように思われる。      ルクス価値論の意義が考察されるようになって 3) ロンカッリアの指摘するように,賃金後払い    いったのである(c£伊藤[1981]第4章第2節)。

の仮説は「賃金と利潤率の間に線型の関係を確立     さて,スラッファの「生産方程式」が物量ター するのには不可欠である」が,「外生的に与えられ    ムで表示されるのにたいして,上の三つの方程式 た一つの分配数と相対価格の関係を研究する場    では,C,V,Sは労働量タームで測られる。し 合,資本家がさまざまな生産手段…  を前払い    かし,「生産方程式」から各生産物に対象化され するという想定がなされさえすれば,賃金が生産    た労働量は確定可能であるから,賃金後払いとい 期間のはじめに支払われるとするかあるいはおわ    う仮定を除けば,「生産方程式」と上の三つの方程 りに支払われるとするかは,少なくとも原理的に    式は同じ構造をもつ。ところで上の三つの方程式 は,ほとんど相違をもたらさない」(ロンカッリア    では,固定資本は捨象されている。この式の枠組

[1977]45頁)といえよう。とはいえもちろん正    みのなかで考察がなされる限り,固定資本の残存 確には,生産手段ばかりではなく労働者が消費す    価値をめぐる問題は問われないわけである。

る生活資料もまた,社会的にみて前貸し資本の構    5) リカードは,『経済学および課税の原理』第 成要素と考えるべきである。       3版において,ある人が100人を1年間雇用して1 4) スラッファの「生産方程式」との対比におい    台の機械を建造し,その翌年その機械を使用しつ

て,転形問題論争が展開されたさいの議論の枠組    つ100人の援助を得て綿製品を製造したとすれば,

みをごく簡単にみておこう。欧米における転形問    「綿製品製造業者のもつ財貨と機械とを合計した 題論争は,スウィージーが,ボルトキェヴィッチ    ものは,…2年間にわたる100人の労働の結果」

によりつつ転形問題を次のように定式化したこと    (Ricardo[1951]p.33,訳37−38頁)であると述

を契機として活発化した(c£Sweezy[1942]chap.   べている。しかしここでいう「機械」が中古の機

7,訳第7章)。すなわち,社会には,生産手段を    械を意味するとは明示されていない。スラッファ

生産する第1部門,労働者の生活手段を生産する    のいうように,2年後に資本家の手許にある,新

第H部門,資本家の奢修財を生産する第皿部門が    たに生産された綿製品と1年間使用した機械との

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