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チャールズ朝演劇のための覚え書き

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Academic year: 2021

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チャールズ朝演劇のための覚え書き

秋 田大 学 佐 々木 和貴

本稿では、初期近代英国演劇研究の中でも、これまで とりわけ手薄 だ ったチャールズ 朝演劇 (特 に喜劇)に関 して、近年新たな批評の動きがあったことを受け、それを筆者 なりにマッ ピング してみたい。つ ま り、なぜ、今、チ ャールズ朝演劇な のかを明確にし、

今後の研究へ向けての方向性 と課題を確認することが本稿の 目的と言えよ う。

アルフ レッド・ハーベ ッジ

( Al f r e dHa r ba g e )

といえば

shak e s pe ar el SAudi e n c e( 1 9 41 )

あるいは

Shak e s pe ar eandt heRi v alT r adi t i on( 1 9 5 2)といった名著を著 し、二十世紀前半

の研究の動 向に大きな影響力を持 ったルネサンス演劇研究者である。したが って、彼が 主としてチ ャールズ朝演劇を論 じた

Cav al i e rDr aJ M ( 1 93 6)のなかで 、その特徴をいわ

ゆる

Ca v a li e r

たちによる宮廷上演で代表 させ、しか も彼 らの作品を 「殆 どすべてが質に おいて劣る(

ne a r l ya llCa va li e rpl a ysa r ei n f e r io ri nq ua li t y) 」( p. 2)あるいは 「

相互に判別 し がたいほどテーマが類似 してお り .‑ 芸術的な欠陥は明らか

( s os i mi l a ri nt he mt ha ti ti s h a r d…t od i s t i ng u i s honef r oma not her , a ndt he i ra r t i s t i cwe a k ne s si s . . . ma ni f e s t) 」( p. 2 )と総拓

したことは、研究史において決定的な重みを持つことにな った。た とえば彼以降約半世 紀に渡 って、チャールズ朝の演劇 (と りわけ喜劇)を トータル に論 じよ うとする試みは、

ほとん ど後 を絶って しまったのである。もちろんハーベ ッジ 自身の意 図は、単純にチャ ールズ朝演劇をおとしめることにあったわけではな い。む しろ

Ca va l i e rDr a ma

という切 り口か ら、従来の演劇史観 とは異なる視点を提示 し、チャールズ朝か ら内乱期、そ して 王政復古期 (特にジ ョン ・ドライデ ンの ヒロイック ・ドラマ)へいた る、初期近代英国 演劇の連続性を描 くことが主眼だ ったのだが、結果的に、彼の描いた 「宮廷主導で稚拙

というチャールズ朝演劇のイメージのみが一人歩き して しまったことは、研究史の上で は大きな不幸だったといえるだろ う。

さて この強力な 「八一ベ ッジの呪縛」がようやく解 けたのは、1

980

年代のことであ った。直接 のきっかけはア ン ・バ ー トン(

An nBa r t on)

の画期的論文

' ‑ Ha rki ngBa c kt o El i z a be t h:Be nJ o ns ona ndCa rOl i neNos t a lg ia

( 1 9 81 )であろう。彼女はチ ャールズ朝期のジ

ョンソン喜劇を当時の歴史的 コンテクス トに置き直 し、それが ドライデ ンの言 うような いわゆる 「

( dot age)ではな く、む しろこの時代の懐古的な雰 囲気 と密接に結び

ついた ジョンソンの ドラマツルギー再編の産物であると指摘することで、チ ャールズ朝 演劇研究に新 しい視点を導入 したのである。そ してその背景 には、ステ ィーブン ・グリ

‑2 0‑

(2)

は彼が依拠 したオーゲル流の初期ステユアー ト朝宮廷文化の政治的読解なのだ。仮面劇、

詩、絵画などを、すべてステユアー ト朝王権の公的な プロパガンダと して読み込むオー ゲル らの方向性 を r重大な誤解を招 く

( s e r ious l ymi s l e a d i ng) 」( p. 5)もの として批判する

スマッツは、初期ステ ユアー ト朝宮廷文化およびポ リティックスの形成を、よ り大きな コンテクス ト、とりわけ大陸諸国 (スペイン、イタ リア、フラン ドル、フランス)との 影響関係の中で捉えてみせる。つま り、スマ ッツは シャープとは異な る方向か ら、しか し同様 にバ トラー的な政治的読解の網の目の粗 さ (つ まりどこを切って も金太郎飴的な 読み)を修正 して いるのだ。そ して、直接 に演劇を論 じていないとはいえ、彼の初期ス チュアー ト朝宮廷文化 に対するよ りバランスの取れ た説明が、結果的には当時の演劇を 読み直すための新 しい参照枠 になることはいうまで もないだろう。

さて、こうして互いに関連 しあいながら

80

年代 に新 しい読みを提示 して頭角を現 し てきた この

3

人の批評家たちは、90年代以降、方向性を共有する文学 および歴史学の 研究者たちと、よ り緊密なネ ッ トワークを形成 しなが ら、初期ステユアー ト朝文化に対 する新 しいアプローチを展開 していくことにな る。

まずバ トラーは、た とえば論文集

Th ePol i t i c so fT r agi c ome d y( 1 9 92)に f

.

L如eJ o n . s on"

という前出のバ ー トンの議論を受けた重要な論考 を寄稿するなど、あいかわ らず精力的 な仕事を展開 して いる。 しか しそれ以上に注 目すべ きは、90年代後半 におけるバ トラ ーの弟子ジュ リー ・サ ンダース

( J ul i eSa nde r s )の活躍だろう。後期ジ ョンソン喜劇に焦

点を当てた

Be nJ ons onl sThe at r i c alRe pu bl i c s( 1 998)で は、共和主義言説 と絡めた政治的

読解を展開 し、また

Cwol i neDr ama ( 1 9 9 9)では、近年の批評動向を とりいれたチャー

ルズ朝演劇の コンパク トな見取 り図を描くなど、師の仕事の発展的な継承をはかってい る点は、注 目に値する。

一方、9

0年代以降の シャープのまさに八面六菅 の大活躍 については、指摘するまで

もないだろう。 まず特筆すべきは、チャールズ一・世の

Pe r s on a lRu l e期を扱 った千頁に

も達する大著、その名 もずば り

ThePe r s onalRul eo fCh ar l e sI( 1 9 92)の刊行である。

pe r s o na lRu l e期社会の複雑な諸相を膨大な一次資料 を駆使 して描きき った この仕事は、

今後のチャールズ朝演劇研究にとって、汲めども尽 きぬ宝の山になる ことだろう。また 歴史家 ピーター ・レイク(

Pe t e r

I.

a ke )

と共同編集 した

cu l t ur ean dPol i t i c si nEar l ySt u ar t Engl and( 1 99 4)も、重要性はそれに優るとも劣 らぬ ものがある。つま りこの論集 にはシ

ャープ、バ トラー、スマ ッツの三人がそろい踏み して いるほかに、文学史家デ ヴィッド・

(3)

わば彼 らのマニフェス ト的な論集の編者が 、他な らぬシャープである ことの意味は大き いだろう。

さらにスマ ッツも

TheSt u ar tCour tandEur o pe ( 1 9 96)

とい う、投稿者の顔ぶれか らし て、やは り同様の新 しい方向性の研究者ネ ッ トワークの産物 と思われ る優れた論集の編 者を務めているOだが、ここでむ しろ注 目 したいのは、その三年後に彼が出 した

Cul t ur e an dPowe ri nEn gl andI 1 58 51 168 5( 1 999)

とい う政治文化史である。二百貢程度の小冊子と はいえ、シ ドニーの死か らチャールズ Ⅰ世の死までの百年 という斬新な時代区分で、

初期近代英国の政治的文化 をひとつの連続 体として捉えよ うとするこの研究書 には、従 来のホ ウィッグ的あるいはマルクス主義的な 目的論に基づ くものではな く、よ り多様な 文化的要素を総合 した政治文化史を構築 しようとするスマ ッツのね らいがコンパク ト な形なが ら見事に結実 しており、今後のステユアー ト朝宮廷文化研究 に対 して、スマッ ツがもた らす影響力を予感 させるにたる優 れた出来映えとな っている.

以上か ら

、8 0

年代 に始 まった初期ステ ユアー ト朝の文化 ・政治の読解に関する新た なアプローチが、90年代 に入 り、文学 と歴 史学の相互乗 り入れ的な様相を呈 しなが ら、

さらに発展 して、今や英国初期近代 における新 しい政治文化史を構築 しつつある状況と、

この展 開の核 とな って いる研究者集 団の存 在がある程度明 らかにな ったともの と思わ れる。従 って、これか ら我々が取 り組むべ き批評的課題は、彼 らのこうした成果を受け て、我々の初期ステユアー ト朝文化 ・政治 をめぐる研究にそれをどのよ うな形で反映さ せ、またどのような批判的 レスポ ンスを返 す ことができるか ということになるだろ う。

そ してそのために、た とえばバ トラー (サ ンダース)的な路線の政治的読解に未来はあ るのか、あるいは八一ペ ッジ再評価を通 じてチャールズ朝の演劇を王政復古期演劇の前 段階と して位置づけるほうが実りある成果 が得 られるのかな ど、いわば手持ちのどのツ ールが実際に使えるのかを改めて検証すべ き段階が、今まさに、訪れて いるといえるの ではな いだろうか。

*本稿の原形は、第

41

回 日本シェイクス ピア学会 セミナー 4 チャールズ朝の喜劇」

(〇二年 於 東京女子大学)の発表原稿 にある。貴重な助言をいただいたセ ミナー メンバー (未虞幹、南隆太、福士航)の皆 さんには、この場 を借 りて心か らの感謝の意 を表 したい。

‑2 3‑

(4)

参考文献表

(本稿で取 りあげた主たる研究書および論文を挙 げてある。なお、今後のチャールズ 朝演劇研究の手かが りとなるよう、簡単なコメン トも付 した。)

Ba r t on, An ne

・''H

a r k i ngBa c kt oEl i z a be t h・ 'Be nJ o ns ona ndCa r ol i neNos t a l gi a , f TELH 4 8 ( 1 981 ) : 70 6‑ 731 .

キャロライン ・ジョンソン、ひいてはチャールズ朝演劇見直 しの口火を切った、

碩学バ ー トンらしい視野の広い論文。

But l e r , Ma rt i n. The at r eandCr i s i s : 1 6 32‑ 42. Ca mbr idg e:Ca mb r idg eUni ve r s i t yPr e s s ,1 98 4.

商業演劇への徹底 したポ リティカル ・リーデ ィングでハーベ ッジのパ ラダイムに対 する有力な代案を提示 した画期的論考。少々読みが荒いの と依拠す る歴史観が古い のが難点。

.I

l . a t eJ o ns on, ' 1 ThePol i t i c so fT r agi c o me d y

,

Eds .Cor donMc Mul l a n a nd J ona t ha n Hope

,

Lon don&Ne wYor k:Ro ut l e dg e,1 992,1 66‑ 88.

バー トン論文 と併読すると、チャールズ朝期のジ ョンソンを取 り巻 く人脈がよく見 えて くる。

Ha r ba ge, Al f r e d・Cav al i e rDr ama:AHi s t or i c alaf u iCr i t i c alSu ppl e me ntt ot heSt u d yo ft he El i z abe t h an&Re s t o r at i onSt age .1 936: r e p. Ne wYor k:Rus s e l l &Ru ss e 1 1 , 1 96 4.

今で も味読に値するチ ャールズ朝演劇研究の定番。不幸なのは、その後半世紀めぼ しい対案が出なかった こと。

Sa nd e r s , J ul i e . Be nJ on s on. sThe at r i c alRe pu b l i c s . NewYor k: Pa lgr

ave

,1 998.

後期 ジ ョンソン見直 し論議の現時点での最もまとま った成果。共和主義言説 と絡め た、新歴史主義系とはひと味異な るジョンソン像 は新鮮。

.Car ol i neDr amaIThePl a ys o fMas s i n ge r ,FoT T d,Shi r l q andBr ome.Pl ymo u t h . I Nor 也c ot eHous e,1 9 99.

100貢足 らずの小冊子だが、新 しい批評動向を取 り入れて手際よくまとめ られ てお り、味読するにたる出来。

Sha r pe,Ke vi n. Cr i t i c i s m&Co〝 甲I i me nt・ Ca m br idg e :Ca mbr idg eUm ive r s i t yPr e s s ,1 98 7・

バ トラーの二項対立的図式を補正するかたちの、よ り繊細な政治的読解でチャール ズ朝演劇研究の新 しい方向性を示唆 した記念碑的著作。

.Th ePe r s on al Rul eo fCh ar l e sI . Ne wHa ve n& Lond on:Ya l eUni ve r s i t yPr e s s ,1 992・

チャールズ一世の

Pe r s ona lRu l e

を膨大な一次資料か ら再現 した労作。今後の研究の

(5)

新 しい方向性の研究者が結集 した、90年代を代表する必読 の論文集。

Smu t s , Ma lc o l m. Cour tCul t ur eandt heOr i gi nso faRo y al i s tT r a di t i oni nEar l ySt u ar t Engl and・ Ph i l a de l ph i a:Uni ve r s i t yo fPe nns yl v a ni aPr e s s ,1 987.

チャールズ朝宮廷文化 およびポ リテ ィックスの形成 をよ り広 い影響関係の文脈で捉 えるスマッツの仕事は、広い意味でのチ ャールズ朝演劇読み直しのための参照枠。

Smu t s

,

RI Ma lc ol m( e d. ) , TheSt u ar tCou r tandEur o pe . Ca mbr idge:Ca mb r idg eUni ve r s i t y Pr e s s ,1 99 6.

これ また新 しい方向性 か ら生 まれた好論文集。視野が王政復古以降の後期ステユア ー ト朝全体 にまで拡大 して いる点 も貴重。

.Cul t ur l ean dPowe ri nEn gl an d I1 58 5‑ 168 5. London:Ma c mi l l

a

n,1 999.

概説書の体裁だが、時代 区分 も記述の視点も実 に斬新。200頁程度の小冊子 に、

新たなステ ユアー ト朝政治文化史研究の ヒン トが詰 まって いる。

‑25‑

参照

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