大学院研究年報 第20号 2017年 2 月
古 賀 千 恵
*──映画『Shall We ダンス?』の表現を事例として──
日米間の家族観とその文化背景の研究
本小論は日本映画とそのアメリカのリメイク版 の『Shall We ダンス?』の内容表現を比較し,
日米両文化の深層における相違が象徴的に表現さ れている部分を抜き出し検討することで,より深 いレベルからの日米文化理解の必要性を提示しよ うとするものである.
というのも,かつては沢山の比較文化に関する 本などが出版されたり,大学などでもそういった 名前の学部が人気を博していたが,現在ではグ ローバル化という名で,文化の差よりもその差が 縮小しているという認識が重視され,文化の差異 への関心は薄れている.事実,国際化に代わり現 在はグローバル化,つまり「地球一体化」が標榜 されていることにも象徴的に表れている.特に日 本社会では,日本の戦後復興,国際化を主導して きた米国文化への自己同一化によって,さらには,
IT
技術の急激な発展による情報革命がこの傾向 を一段と促進することとなっている.そのために 日本人の多くが日米の文化的な差異は,特定の文 化領域以外は,概ねその差異は小さくなっており,考慮に値しないほどに近づいているかのように感 じている.少なくとも,日米においては,多くの 価値を共有し,両者はまるで文化的な共同体であ
るかのように感じている.確かに,ここ数年急激 に日本でも普及しつつあるアメリカ発のハロウィ ンの習慣などは,この象徴的な事例であろう.
しかし,実際はどうであろうか? 本小論は,
過去数十年の日本社会の欧米化,さらに言えばア メリカ化を通じて形成された文化的な自己同一化 という一種の幻想,思い込みに対する再検証を通 じてより深い日米の文化理解への必要性を提唱し たい.
つまり,本小論を通して,『Shall We ダンス?』
の日本原作とアメリカリメイク版を比較し,その 表現の違いを明確にすることで両者の差異を再認 識することを目指している.例えば,アメリカ版 が「終わりよければすべてよし」なのに対し,日 本版はその時々の感情によって動いている様子が 印象的だった.これは一般的なイメージとはまる で逆で,アメリカ人は後先考えずに感情的に動く タイプで,日本人は冷静によくよく考えて慎重に 動くタイプが多いというイメージがあると思う.
しかし映画の中の主人公たちは,その逆の感性で 行動していた.
このように,主人公の設定,性格だけを考えて みても多くの差異が見つかる.リメイクという状 況で変更された部分は,その国の文化に即したス トーリーづくりのための変化だと言える.これま での日本社会の欧米化,さらに言えばアメリカ化
* こが ちえ 総合政策研究科総合政策専攻博 士課程前期課程修了
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を通じて,形成された文化的な自己同一化という 一種の幻想,思い込みに対する再検証を,映画を 通じてより深い日米の文化理解への必要性を提唱 したい.
参 考 文 献
〈書 籍〉
上野千鶴子他著(₁₉₉₆):『岩波講座 現代社会学 第₁₉ 巻 <家族>の社会学』岩波書店
大林太良編(₁₉₈₂):『文化摩擦の一般理論』巌南堂書 店
村上泰亮・公文俊平・砂糖誠三郎(₁₉₈₄)『文明として のイエ社会』中央公論社
南博(₁₉₉₄):『日本人論:明治から今日まで』岩波書店 宮城音弥著(₁₉₉₂):『アメリカ人の性格,日本人の性格』
山手書房新社
ルース・ベネディクト著:『菊と刀:日本文化の型』社 会思想社
ジョン・サージャマキ著・井上勇訳(₁₉₅₄):『アメリ カの家庭』時事通信社
和辻哲郎著(₂₀₁₁):『日本倫理思想史(一,二,三,四)』
岩波書店
浅野素女著(₂₀₀₄):『踊りませんか?―社交ダンスの世 界』集英社新書
小寺猶吉著(₁₉₂₈):「日本と欧州の娯楽的舞踊の比較」
『民俗芸術』創刊号,₅₁︲₅₃頁
近藤富枝著(₁₉₈₃):『鹿鳴館貴婦人考』講談社 永井良和著(₁₉₉₁):『社交ダンスと日本人』晶文社 関西大学経済・政治研究所編(₁₉₉₉):「植民地都市の社
交ダンス(資料集)―大連での勃興期を中心に―」
『調査と資料』第₉₂号 ₃ 月 邦正美(₁₉₆₈):『舞踊の文化史』岩波書店
中野京子(₂₀₁₁):『印象派で「近代」を読む 光のモ ネから,ゴッホの闇へ』NHK出版
〈論 文〉
加藤周一(₁₉₉₁):「日本社会・文化の基本的特徴」『日 本文化のかくれた形』岩波書店,₁₇︲₄₈頁 長野太郎(₂₀₁₄):「₂₀世紀アメリカ合衆国におけるペ
アダンス―ピューリタン的禁欲主義がダンスフ ロアに与えた影響について―」『清泉女子大学人 文科学研究所紀要』₃₅,₂₂₂︲₂₄₂頁
野島正也(₁₉₈₄):「社交ダンスの社会史ノート( ₁ )」
『生活科学研究』 ₆ ,₅₈︲₆₈頁
同著(₁₉₈₆):「社交ダンスの社会史ノート( ₂ )」『生活 科学研究』 ₈ ,₃₁︲₄₅頁