第
1
章 はじめに1.1
単位1.1.1
国際単位系(SI)物理学を含めて,広く世界的に使用される単位系として,
1960
年の国際度量衡総会にお いて,MKSA
単位系を拡張した国際単位系(略称 SI)が採択された.国際単位系は,4 種の基本量を含む7個の基本単位と,2個の補助単位から構成される.また,基本単位から,物理学の法則,定義に基づく乗除のみで導かれる 組立単位がある.
基本単位
時間 秒(
second, s
) 133Cs
原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する 放射の9 192 631 770
周期の継続時間.長さ メート ル(
metre, m
) 光が真空中で1 / (299 792 458) s
の間に進む距離.質量 キログラム(
kilogram, kg
) 国際キログラム原器の質量電流 アンペア(
ampere, A
) 真空中に1 m
の間隔で平行に置かれた,無限に小さい 円形断面積を有する,無限に長い2本の直線状導体のそれぞれを流れ,これらの導体の長さ1 m
ごとに2
×10
−7N
の力を及ぼし合う一定の電流.温度 ケルビン(
kelvin, K
) 水の三重点の熱力学温度の1/273.16
.温度間隔にも同じ 単位を使う.物質量 モル(
mole, mol
)0.012 kg
の12C
に含まれる原子と等しい数(注:アボガド ロ数)の構成要素を含む物質量.モルを使用するときは,構成要素(原子,分子,イオン,電子など )を指定しなければならない.
光度 カンデラ(
candela, cd
) 周波数540
×10
12Hz
の単色放射を放出し所定の方向の 放射強度が1/683 W
·sr
−1 である光源の,その方向における光度.補助単位
平面角 ラジアン(
radian, rad
) 円の周上で,その半径の長さに等しい長さの弧を切り 取る2本の半径の間に含まれる平面角.立体角 ステラジアン(
steradian, sr
) 球の中心を頂点とし,その球の半径を1辺とす る正方形に等しい面積を球の表面上で切り取る立体角.1
組立単位 基本単位から,物理法則,定義に基づく乗除のみで導かれる単位 固有の名称をもつSI組立単位を表に示す.
表
1.1
固有名称をもつSI組立単位量 単位 記号
周波数 ヘルツ(
Hertz
)Hz s
−1力 ニュートン(
newton
)N J/m m
·kg
·s
−2 圧力,応力 パスカル(pascal
)Pa N/m m
−1·kg
·s
−2 エネルギー,仕事,熱量 ジュール(joule
)J N
·m m
2·kg
·s
−2 仕事率,電力 ワット(watt
)W J/s m
2·kg
·s
−3 電気量,電荷 クーロン(coulomb
)C A
·s s
·A
電圧,電位 ボルト(
volt
)V J/C m
2·kg
·s
−3·A
−1 静電容量 ファラド(farad
)F C/V m
−2·kg
−1·s
4·A
2 電気抵抗 オーム(ohm
)Ω V/A m
2·kg
·s
−3·A
−2 コンダクタンス ジーメンス(siemens
)S A/V m
−2·kg
−1·s
3·A
2 磁束 ウェーバー(weber
)WbV
·s m
2·kg
·s
−2·A
−1磁束密度 テスラ(
tesla
)T Wb/m
2kg
·s
−2·A
−1インダクタンス ヘンリー(
henry
)H Wb/A m
2·kg
·s
−2·A
−2 光束 ルーメン(lumen
)lm cd
·sr
照度 ルクス(
lux
)lx lm/m
2 放射能 ベクレル(ecquerel
)Bq s
−1 吸収線量 グレ イ(gray
)Gy J/kg m
2·s
−2 線量当量 シーベルト(sievert
)Sv J/kg m
2·s
−2天気予報などで気圧を表すのに使われる
hPa
(ヘクトパスカル),周波数を表すのに使われ るMHz
( メガヘルツ),原子・分子の世界の長さを表すのに使われるnm
(ナノメートル ) など,単位の10の整数乗倍を表す接頭辞が決められている.表
1.2
単位の10の整数乗倍の接頭辞名称 記号 大きさ 名称 記号 大きさ
エクサ(
exa
)E 10
18 デシ(deci
)d 10
−1ペタ(
peta
)P 10
15 センチ(centi
)c 10
−2テラ(
tera
)T 10
12 ミリ(milli
)m 10
−3ギガ(
giga
)G 10
9 マイクロ(micro
)µ 10
−6 メガ(mega
)M 10
6 ナノ(nano
)n 10
−9 キロ(kilo
)k 10
3 ピコ(pico
)p 10
−12 ヘクト(hecto
)h 10
2 フェムト(femto
)f 10
−15 デカ(deca
)da 10
1 アト(atto
)a 10
−181.1
単位3
1.1.2
原子核物理学でよく使われる単位と物理定数SI以外の単位 種々の分野では,慣習として,また,便利であるので,SI以外の単位 が使われている.ここでは,原子核物理学を中心とした分野で使われている単位だけを示す.
長さ
フェルミ(
fermi, fm
)= 1 fm
天文単位(
astronomical unit, Au
)= 1.495 978 70
×10
11m
.はじめは地球の公転軌 道の平均半径(長半径)と定められた.現在は,重力定数と太陽質量の積をもとにしてケプ ラーの第3法則を用いて定義されている.パーセク(
parsec, pc
)= 3.0857
×10
16m
.1天文単位が1秒の角を張る距離.面積
バーン(
barn, b
)= 10
−28m
2= 100 fm
2.原子核物理学において,断面積を表すのに用 いられる.質量
原子質量単位(
atomic mass unit, u
)= 1.660 540 2
×10
−27kg
.核種12C
の1つの原 子の質量の1/12
.仕事,エネルギー
電子ボルト(
electron volt, eV
)= 1.602 177 33
×10
−19J
.真空中において,1 V
の 電位差を横切ることによって電子の得る運動エネルギー.keV = 10
3eV
,MeV = 10
6eV
,GeV = 10
9eV
も用いられる.原子核物理学では,エネルギーの単位
MeV
と長さの単位fm
:1 MeV = 10
6eV, 1 fm = 10
−15m
また,物理定数として,プランク定数
¯ h
と光速c
,及び 微細構造定数α
:¯
h = h
2π = 6.582 118 89 (26)
×10
−22MeV s (1.1)
c = 299 792 458 m s
−1(1.2)
α = k
ce
2¯
hc = 1
137.035 999 76 (50) (1.3)
が用いられる.微細構造定数
α
は無次元の定数である.なお,比例定数k
c は単位系で異な り,有理MKS
単位系ではk
c= 1/(4π
0)
,CGS
静電単位系ではk
c= 1
である.微細構造 定数が無次元であるのは,電気素量e
の値が単位系で異なるからである.たとえば,質量の単位として
MeV/c
2,運動量の単位としてMeV/c
が用いられる.また,変換定数(
conversion constant
)¯
hc = 197.326 960 2 (77) MeV fm
≈200 MeV fm (1.4)
がしばしは現れる.自然単位(
natural unit
)素粒子物理学・原子核物理学では
¯ h = c = 1
とする自然単位がよく用いられる.この単 位系では[
エネルギー] = [
質量] = [
長さ]
−1= [
時間]
−1 となる.1.2
原子核とは5
1.2
原子核とは原子核は,陽子と中性子を主な構成要素とする,自己束縛量子多体系である.
核種の記法
原子核の種類,すなわち,核種は,陽子数(
proton number
)Z
と中性子数(neutron number
)N
とで指定される.A = Z+N
を質量数(mass number
)という.陽子数は原子番号(atomic
number
)に等しく,それぞれに記号(元素記号)が割り当てられている.たとえば,原子番号
1
の水素の元素記号はH
,26
番目の元素である鉄の元素記号はFe
である.原子核(核 種)は下の図のように表記する.元素記号の左上に質量数A
を,左下に陽子数Z
を,右下 に中性子数N
を書く.ただし,陽子数と中性子数を省略することが多い.元素記号から陽 子数は一意的に定まり,質量数が明示されていれば中性子数はN = A
−Z
でわかるからで ある.Nuclear Symbol
Fe
26 30
56
proton number atomic number
=
neutron number mass number
原子核の構成要素
陽子と中性子はスピンが
1/2
の粒子であるが,Dirac
粒子とは言えない.たとえば,電子は−
e
の電荷をもつDirac
粒子であるので,電子のg-
因子はg = 2
に極めて近い.もし,e
の 電荷をもつ陽子もDirac
粒子であるならば,陽子のg-
因子もg = 2
のはずであるが,実際 は5.58
である.また,電荷を持たない中性子はg = 0
のはずであるが,現実には有限の値g =
−3.83 をもつ.陽子と中性子を合わせて核子という.核子は強い相互作用をするハドロンである.従って,図
1.1
に示すように,たとえば,陽 子はあるときは中性子とπ
+ になっていると考えられる.すなわち,π
中間子の『衣を着 た』陽子や中性子なのである.原子核の主な構成粒子は陽子と中性子であると言えるが,原 子核の中にはπ
±やπ
0 などが存在していると考えられる.しかし,原子核の性質を考える ときには,ほとんどの場合,『衣を着た』核子から構成される系として問題は生じない.特殊 な状況や物理量,あるいは,実験データとの定量的な詳細な比較が必要なときには,中間子 の自由度を考慮することもある.現在の素粒子物理学の視点では,核子は構造をもつ複合粒 子であり,真の意味の素粒子ではない.クォーク模型では,陽子は2つのu
クォークと1 つのd
クォークからなり,中性子は1つのu
クォークと2つのd
クォークからなる.p p
p
π0
p n
p
π+
n n
n
π0
n p
n
π−
図
1.1: π
中間子の衣を着た陽子と中性子 自己束縛系原子核を支配するハミルトニアンは,運動エネルギー項
T
と2体の相互作用項V
からなる:H = T + V (1.5)
後者は,2つの核子が近い距離にあるときだけ作用する強い相互作用と,2つの陽子のあい だに作用する到達距離の長い
Coulomb
相互作用とからなる.Coulomb
相互作用は斥力であ り,強い相互作用,特に,陽子と中性子のあいだにはたらく力は引力である.強い相互作用 だけを考えれば,陽子と中性子を同数ずつもつ原子核が安定であるが,陽子数の増加とともに
Coulomb
斥力の効果が大きくなる.従って,陽子数が多い原子核では,それより多い中性子をもつことによって安定になる.陽子数と中性子数のバランスが悪くなると,原子核は 強い相互作用に対して安定でなくなる.たとえば,陽子数が中性子数に対して多くなりすぎ ると,強い相互作用によって,1つ,あるいは2つの陽子を放出する.逆に,中性子数が陽 子数に対して多くなりすぎると,強い相互作用によって,1つ,あるいは2つの中性子を放 出する.また,質量数が多くなると,アルファ粒子(4
He
)を放出したり,核分裂したほう がエネルギー的に特であり,アルファ崩壊や自発核分裂によって質量数の小さい核種へと変 換していく.このように,陽子数と中性子数が適当な範囲にある限り,外力の助けを借りず に,核子間に作用する強い相互作用によって束縛状態を構成する.こういう意味で,原子核 は自己束縛系である.原子核が原子核反応実験によって生成されても,極めて短時間(たとえば
10
−20 秒)の 後に粒子を放出して他の核種に変わってしまう場合は,その原子核が存在するとは認識しが たい.しかし,たとえ粒子の放出に対して不安定であっても,崩壊するまでの寿命が10
−3 秒程度の長さであれば,その原子核が存在すると言える.このような意味で,原子核として 存在する核種は約6000
種あると推測される.現在までに確認されている核種はその約半分 である.現在までに確認されている最も原子番号の大きい元素は
Z = 116
である.1999
年に,Z = 118
の原子核が発見されたという報告があったが,その後の追試はすべて否定的な結果1.2
原子核とは7
であり,1999
年の報告は撤回された.それより原子番号が小さい元素に関しては,Z
≤112
,Z = 114
は確認されているが,Z = 113, 115, 117
の核種は確認されていない.量子多体系
原子核は,半径が
1-7 fm
程度の大きさをもつ系である.このようなミクロの世界を記述 するのは量子力学である.たとえば,原子核を記述する際に現れる角運動量の大きさは,
Planck
定数¯ h
を単位として= 0 - 5
程度であり,量子化された角運動量が重要な役割を 果たす.一方,原子核内の核子の運動のエネルギーは100 MeV
程度であり,これは核子の 質量に相当するエネルギーmc
2 ≈10
3MeV
に比べると小さい.従って,原子核内の核子は 非相対論的に扱うことができる.すなわち,原子核の状態は,核子の系に対する非相対論的Schr¨ odinger
方程式を解くことによって求めることができる.束縛状態のエネルギー固有値は離散的である.
核子は
Fermi
粒子でありPauli
の排他原理に従う.原子核の単純な模型としてFermi gas
模型がある.有限な領域に閉じ込められたFermi
粒子は,規格化により,限定された運動 量をもつ状態にあり,Pauli
原理により同じ運動量をもつ状態には2つの核子( スピンの自 由度を考慮して)しか入れない.また,核子の1粒子描像がかなりよく成り立つ.それは平 均場としての1粒子ポテンシャルが定義され,そのポテンシャル内のエネルギー固有状態と して1粒子状態が存在する.この場合もPauli
原理は重要な役割を果たし,結果として,原 子核に特有な魔法数が出現する.このように,原子核というミクロな系は量子力学的世界で あり,また,核子がFermi
粒子であるため,Pauli
の排他原理が顕著に現れる系である.原子核はたかだか
300
個程度の核子からなる系である.しかし,すべての核子の自由度 を考慮して原子核の構造を記述することは難しい.古典力学でも知られているように,2体 問題(2つの質点からなる系)は厳密に解ける.3体問題は,何らかの制限があるときは解 を解析的に求めることは可能であるが,一般には数値的に解かなければならない.その数値 的解法も,現在のコンピュータの能力をもってしても,5体か6体系くらいまでが限界であ ろう.この困難の原因の一つは,原子核には中心となるものがないことである.たとえば,中心に圧倒的に質量の大きい原子核がある原子の場合とは,根本的に異なる点である.その ため,原子核の構造を記述するさまざまな模型が提案され,また,改良や精密化がなされて いる.
1.3
原子核の状態の量子数原子核のエネルギー固有状態は,原子核を支配するハミルトニアンがもつ対称性から,い くつかの保存する量子数をもつ.
エネルギー(質量)
原子核の最も基本的な物理量である.原子核は量子束縛系であるので,エネルギーは離散的 である.1つの原子核の中で最もエネルギーが低い状態を基底状態(
ground state
),そ れ以外を励起状態(excited states
)という.すべての励起状態と多くの原子核の基底状態は安定ではない.ほとんどの励起状態はガン マ線を放出して,エネルギーの低い状態へと遷移する.あるいは,弱い相互作用によって原 子番号が1単位異なる原子核へとベータ崩壊したり,強い相互作用によって陽子,中性子,
あるいはアルファ粒子を放出して他の核種になる.この意味で,原子核のほとんどの状態の エネルギーは虚部をもつということができる.しかし,ほとんどの場合,実部に比べて虚 部は極めて小さく,実数のエネルギー
E
をもち,虚部の逆数に対応した崩壊寿命をもつと いう.角運動量
角運動量は空間(座標軸)の回転対称性に由来する量子数である.原子核を支配するハミル トニアン
H
は,角運動量演算子の2乗,及び,その成分と可換である.ただし,角運動量 の3つの成分は互いに可換ではない:[ J
i, J
j] =
k
i ε
ijkJ
ki, j, k = 1, 2, 3 (1.6)
ここで,
(x, y, z) = (1, 2, 3)
に対応し,ε
ijkは完全反対称テンソルである:ε
ijk=
−ε
jik=
−ε
ikjε
123= 1 (1.7)
通常,z
成分が保存するように量子化の軸をとる:[ H,
J2] = [ H, J
z] = 0 (1.8)
原子核の状態は角運動量J
を良い量子数としてもつ.また,角運動量のz
成分が良い量子 数となるような表現をとる.原子核の変形という言葉を使うことがある.たとえば,ラグビーボールのような形に変 形した原子核がある.対称軸に
z
軸をとると角運動量のz
成分は保存するが,角運動量は 保存しない.すなわち,角運動量を良い量子数としてもたない.しかし,これは,原子核に 固定した座標系でみた場合であり,それに対して,現実に我々が観測するのは実験室系であ る.ラグビーボールのように変形した原子核が回転すると,回転は量子化されて,変形した 原子核に特有のエネルギースペクトルが観測される.原子核が変形していても,実際に観測 する原子核の状態は角運動量を良い量子数としてもつ.1.3
原子核の状態の量子数9
パリティパリティは空間反転に対する対称性に起因する量子数である.空間反転演算子を作用させた とき,もとの状態と同じになる状態は正のパリティをもつといい,符号が変わる状態は負の パリティをもつという.あるいは,前者はパリティが
+
,後者はパリティが−であるとい う.原子核を支配する強い相互作用は空間反転に対して不変であるので,原子核の状態はパ リティを良い量子数としてもつ.角運動量とパリティを合わせて,
J
π と表すことが多い.陽子数と中性子数がともに偶数 である原子核の基底状態は,例外なくJ
π= 0
+である.弱い相互作用は空間反転に対して不変ではない.従って,同じ角運動量をもち,反対のパ リティをもつ状態が,偶然にエネルギー的に極めて接近して現れるとき,両者のあいだには たらく弱い相互作用によってパリティが混合する(パリティを良い量子数としてもたない)
ことがある.しかし,弱い相互作用は強い相互作用に比べて何桁も弱いので,パリティの混 合が観測されるのは極めて希なことである.
アイソスピン
アイソスピンは荷電空間における回転対称性に由来する量子数である.従って,アイソスピ ンの3つの成分は,角運動量の3つの成分と同じ交換関係を満たす:
[ T
i, T
j] =
k
i ε
ijkT
ki, j, k = 1, 2, 3 (1.9)
アイソスピンは,陽子と中性子が良く似た粒子であることから導入された概念である.ど ちらも,スピンが
1/2
の粒子であり,質量も0.1%
くらいの違いしかない.すなわち,アイ ソスピンがT = 1/2
である粒子(核子)があり,その第3成分がT
3= +1/2
の状態が中性 子で,T
3=
−1/2
の状態が陽子であると考える:|
n
=
1
0
,
|p
=
0
1
(1.10)
荷電空間における昇降演算子は
T
±= T
1±i T
2(1.11)
で定義され,降演算子によって中性子は陽子に変わる:
T
−|n
=
|p
(1.12)
注意:素粒子物理学・ハドロン物理学では,上とは逆に,
T
3= +1/2
を陽子,T
3=
−1/2
を 中性子とする.核子からなる原子核に関しては,アイソスピンの第3成分は
T
3= N
−Z
2 (1.13)
で与えられる.通常,陽子数より中性子数のほうが多く,このとき
T
3> 0
となる.アイソ スピンT
の値は陽子数と中性子数だけからは決まらない.アイソスピンの結合から(角運 動量の結合と同じ ),アイソスピンの値としてはT =
|N
−Z
|2 ,
|N
−Z
|2 + 1,
· · ·N + Z
2 (1.14)
が可能である.核子にはたらく強い相互作用の性質から,アイソスピンの値が小さい状態が 低いエネルギー領域に現れる.従って,通常,基底状態とその近くの状態では,アイソスピ ンの値と第3成分の値は等しく,
T = T
3= (N
−Z )/2
である.例外がN = Z =
奇数 の 原子核である.基底状態の近くにT = 0
とT = 1
の状態が現れる.Fermi
粒子である核子 に対する反対称化から,T = 0
である状態の角運動量は奇数であり,T = 1
である状態の角 運動量は偶数である.荷電空間での回転対称性については,荷電対称性 と 荷電独立性という言葉が区別して 用いられる.前者は,荷電空間における第2軸のまわりの
180
◦ 回転に対する不変性を意味 する.一方,荷電独立性は荷電空間における任意の回転に対する不変性を意味する.アイソスピンは完全な保存量ではない.それは,ハミルトニアンとアイソスピン演算子 が近似的に可換であるためである:
[ H,
T2]
≈0 (1.15)
この交換子が
0
にならない主な部分はCoulomb
相互作用である.2つの陽子のあいだには
Coulomb
斥力がはたらくが,2つの中性子のあいだ,あるいは陽子と中性子のあいだには作用しない.このため,陽子数が多くなるに従い,アイソスピンは良い量子数でなくなる と考えられたが,質量数の大きい原子核までアイソスピンは保存していることが実験によっ て確かめられた.実際には,基底状態近傍では,質量数が
A
≈40
のあたりでアイソスピン の混合は0.3%
で最も大きいようである.ただし,励起状態においてはアイソスピンが異な る状態がエネルギー的に近くに現れることは偶然ではなく,アイソスピンの混合が起こりや すい.2つの陽子だけのあいだに