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Academic year: 2021

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1.緒言

金属微粒子(特にナノサイズの “ナノ粒子”)は、

バルク体にはない多くの特異的な性質を示し、幅広 い分野において研究と利用が展開されている。例え ば、化学分野において金属微粒子を “触媒” として 利用した反応は、(i)炭素化反応(例:カーボンナ ノチューブ(CNT)

1)

の合成触媒)や、(ii)基質分 子の電気化学的酸化/還元反応(例:燃料電池等の 電極触媒)等が挙げられる。優れた触媒機能の発現 には、粒子のナノ化やサイズの制御に加え、担体へ の均一な担持やコーティングといった厳密な調製プ ロセスが必須であり、簡易化が望まれている。

当研究室では、無機素材そのものが持つ個性(組 成、構造、表面形態など)を活かし、簡易な処理を 加えることで、種々の機能性の発現へとつなげる新 しいタイプのクリーンな材料創製を試みている。例 えば、触媒の原料(前駆体)として、成分に種々の 金属を含む天然鉱物に着目した研究を、テーマの一 つとして継続的に行っている。天然鉱物は鮮やかな 色彩をもつものが多く、その一部は “天然岩絵具”

としても古くから利用され、我々にとっても馴染み 深いものになっている。本研究では、広く流通し比 較的安価に粉体を入手可能、という観点から、特に 天然岩絵具として利用されている鉱物に焦点を絞 り、原料として用いた触媒の開発について、得られ ている知見を紹介する。特に、上記の(i)に対応 するCNTの合成触媒としての利用および、(ii)に 関連して、電気化学的なグルコースの酸化触媒とし ての検討を例に、話題提供をしたい。

2.研究の背景と原料の選定

本研究で用いた鉱物粉末は、黄

きへきぎょく

碧玉および松

まつばろくしょう

葉緑青 という天然岩絵具である。カラー写真と走査型電子顕 微鏡(SEM)による各粒子の観察画像を図1に示す。

ここではそれぞれについて、研究背景と岩絵具の選定 理由を解説する。

2.1 CNTの合成触媒について

先端材料であるCNTの合成に天然鉱物を利用し た研究としては、例えば遠藤らによるガーネットを 用いた合成が知られている

2)

。CNTの合成触媒と してはFeやCo、Niといった金属のナノ粒子(また はその前駆体)が一般的に使用されるが、例えば ガーネットの場合は、成分として含まれるFeが成 長の起点として機能したと考察されている。天然鉱 物には成分としてFeを含むものは多く、いくつか の岩絵具については検討を進めているが、今回は特 に、珪酸塩鉱物由来

3)

の黄

きへきぎょく

碧玉(原石:エピドート

(緑

りょくれんせき

簾石)Ca (Fe, Al)

2

(Si

3 2

O

7

) (SiO

4

)O(OH)、番手:

8番(粒径:~50 µm、SEMにより確認)、世界堂

(株)より購入)を用いたCNT合成の試みについて 紹介したい。

2.2 グルコース酸化触媒について

グルコースセンサは臨床診断や食品分析の場面で

広く利用される。しかしグルコース酸化触媒として

一般的に酵素(グルコースオキシダーゼなど)を利

用しているため高価であり、また高温安定性や長期

耐久性に乏しいという課題が挙げられている。最近

は金属系の無機電極触媒の探索が行われており、な

かでも銅酸化物(CuO)をはじめとする金属酸化物

が、特にアルカリ条件下において糖類を電気化学的

に酸化する触媒特性を有することが明らかになって

いる

4-6)

。これらの金属酸化物は原料が安価で化学

的安定性にも優れているため(酵素のように失活し

ない)、将来的にはグルコースセンサへの適用が期

待されている。今回は天然岩絵具の中でも知名度が

高く、炭酸水酸化銅の鉱物由来

3)

の松

まつばろくしょう

葉緑青(原

キーワード:天然鉱物、岩絵具、カーボンナノチューブ、グルコースセンサ、熱処理

(2)

石:マラカイト(孔

くじゃくいし

雀石)Cu

2

CO (OH)

3 2

、番手:

11番(粒径:~20 µm、SEMにより確認)、得應軒

(有)より購入)を原料に用いた触媒の合成につい て紹介をする。

3.実験と結果および考察

3.1 黄

きへきぎょく

碧玉(緑

りょくれんせき

簾石粉末)を用いたCNTの合成 実験に使用する天然岩絵具の黄

きへきぎょく

碧玉粉末につい て、 蛍 光X線 分 析 装 置(SHIMADZU EDX-8000)

により実際の含有成分を調べたところ、Siが37%

と最も多く、次いでCaが26%、Feが21%、Alが 11%、Kが2%、Tiが2%であり(全て質量%、C とOを除く)、他はSr、Mn、Zr等が微量含まれた。

CNTの合成は、樟脳(カンファー、C

10

H

16

O)を 炭素源に用いた化学気相成長法(CVD法)

7-9)

によ り行った。管状型電気炉にセラミックス炉芯管を挿 入し、岩絵具の粉末を少量乗せた燃焼ボートを電気 炉中央部に設置した。炭素源の樟脳1.5 gを乗せた 燃焼ボートを電気炉入口側に設置し、キャリアガス のArを50 mL/minの流量で流入して合成温度(電 気炉中央部の温度)T=750℃で15分間合成を行っ

た。実験後の鉱物粒子表面の生成物は走査型電子顕 微鏡(SEM、JEOL JCM-5100)および電界放出形 透 過 電 子 顕 微 鏡(TEM/STEM、JEOL JEM- 2100F)により観察をし、エネルギー分散型X線分 光法(STEM-EDS分析)により生成物中に含まれ る金属微粒子を分析した。

実験後の黄

きへきぎょく

碧玉粉末の表面のSEM画像を図2に 示す。粒子は炭素質に覆われており、所々に繊維状 生成物が確認された(図2(a))。図2(b)の高 倍率画像からもわかるように、繊維状生成物は直径 がナノオーダーであり、やや曲がりくねった形態の ものが多く見受けられた。

TEMによる繊維状生成物の内部構造の観察と STEM-EDSによる内包粒子の分析も行ったので、

紹介をする。まずTEMによる観察結果を図3に示 す。図3(a)は、低倍率での観察による、粒径1 µm程度の小さい鉱物粒子と繊維状生成物のTEM 画像である。これより、繊維状生成物は確かに粒子 の表面から生成していることがわかる。また図3

(b)の高倍率画像のように、繊維状生成物の内部 には明確な中空構造があり、その壁面はグラフェン 図1 実験に使用した天然岩絵具(黄

きへきぎょく

碧玉および松

まつばろくしょう

葉緑青)の写真と粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像.

図2 (a)黄

きへきぎょく

碧玉の粒子表面の生成物のSEM画像.(b)高倍率画像.

(3)

層(グラファイトの一層のこと)が重なった構造が 見られることから、多層のCNTであることが明ら かになった。CNTの直径にはばらつきがあったが、

外径は20-50 nm程度であった。CNTの内部には節 状構造も観察され、全体の傾向としてはSEMによ る観察結果と同様に、湾曲した構造をもつものが多 く見受けられた。

図4には黄

きへきぎょく

碧玉粉末に生成した多層CNTの暗視 野STEM像とSTEM-EDSによる元素マッピング画 像を示す。暗視野STEM像では重い元素ほど明る く反映されるが、CNTの内部には金属微粒子の内 包が多く見られた。この金属微粒子を、原石である 緑

りょくれんせき

簾石の主要成分であるSi、Ca、Fe、Al(および 参考としてC)について元素マッピングを行ったと ころ、Feのみが顕著に検出された(Feの存在が青 色のドットで示されている)。このことからCNTに

内包されている金属微粒子は主にFe含有の粒子で あることが明らかになり、すなわち原石の成分の中 で、Feが選択的にCNT内に取り込まれたことを示 している。これは上述した遠藤らの報告

2)

とも一致 した結果である。

Fe系触媒を使用した一般的なCVDプロセスの場 合、CNTの生成機構としては、①炭素源(今回は 樟脳)がFe微粒子上で触媒的に熱分解をし、生成 した炭素原子が触媒微粒子に溶解する、②炭素で飽 和したFe微粒子からCNTが析出・成長する、と考 えられている

8、9)

。本実験では、黄

きへきぎょく

碧玉(緑

りょくれんせき

簾石)

中に含まれるFeが、Fe粒子として選択的にCNT の生成触媒として機能し、その後CNTの内部に残 留したものと推測される。CNTが生成するために は、触媒粒子のサイズが非常に重要であり、適切な サイズは一般に数nm~数十nm程度と考えられて

図4 黄

きへきぎょく

碧玉の表面に生成した多層CNTの暗視野STEM像およびSTEM-EDSによる各元素のマッピング画像.

(4)

いる(それより大きいと中空構造が無くなったり、

または繊維状構造が形成しない)。本研究のように、

組成中に含まれる成分により合成過程において適切 なサイズの触媒粒子が自己形成し、機能すること は、非常に興味深い。また本研究では炭素源に樹木 由来の樟脳を利用していることもあり、プロセスを 通じて化石燃料や化学試薬に頼らない、クリーンな CNTの合成法の確立という観点からも、継続的に 研究を進めていく予定である。

3.2 松

まつばろくしょう

葉緑青(マラカイト粉末)を用いたグル コース酸化触媒の創製

実験に使用する天然岩絵具の松

まつばろくしょう

葉緑青について、

蛍光X線分析装置により成分を調べたところ、Cu 以外にはPが1%程度、またPb、V、Coがごく微量

(0.05%以下)含まれていた(全て質量%、CとOを 除く)。粉体をそのまま、または大気下で熱処理を した後、触媒として用いた。

触媒とカーボンペースト(導電材)を2-プロパノー ルと共に混錬してスラリーを作製し、カーボンペー パー(CP)にキャストし、乾燥したものを電極に用 いた。作製した電極について、電気化学測定装置

(BASモデル2325バイポテンショスタット)を使用 して、サイクリックボルタンメトリー(CV)

*1

によ りグルコース酸化特性の評価を行った。電解液に は、D(+)-グルコース(C

6

H

12

O

6

)が1-10 mMとな るように溶解した0.1 Mの水酸化ナトリウム水溶液 を使用した。

図5に熱処理なしの未処理試料と、現状で最も良 好な特性を示している400℃、1時間熱処理をした 試料の、それぞれの岩絵具/CP電極を用いたサイ クリックボルタモグラム(CV図)を示す。まず、

それぞれのボルタモグラムが囲む面積に注目する

と、熱処理試料を用いた電極の方が大きいことがわ かる。このことは、熱処理試料を用いた電極の方が 表面積(正確には、電気化学的表面積)が大きいこ とを意味している。次にそれぞれの電極について、

グルコース(10 mM)添加の有無におけるボルタ モグラムの違いを比較すると、グルコース添加系は 電位が高くなるにつれて電流値が増大していること がわかる。すなわちその際のグルコース未添加系と の電流値の差が、電気化学的なグルコースの酸化電 流値に相当することになる(電極の単位面積あたり の電流値に変換するため、厳密には “電流密度j

(mA cm

-2

)” となる)。今回の結果では、特に熱処 理 試 料 を 用 い た 電 極 に お い て、0.6 V(vs. Ag/

AgCl)の電位においてミリアンペアオーダー(~3 mA cm

-2

)の顕著なグルコース酸化電流が見られ、

グルコース酸化触媒として機能していることが示唆 された。

原石であるマラカイトは炭酸水酸化銅(Cu

2

CO

3

(OH)

2

) で あ る た め、 大 気 下 の 熱 処 理( 今 回 は 400 ℃、1時 間 ) に よ りCuOが 生 成 す る[Cu

2

CO

3

(OH)

2

→ 2CuO+CO

2

+H

2

O](試料のX線回折測 定からも、原料がCuOに変化したことを確認して いる)。熱処理により生成したCuOの微粒子が触媒 として機能し、電気化学的なグルコースの酸化反応 を促進したと考えられる

4-6)

。触媒機構については 未だ不明確な点もあるが、高電位において生じる高 酸化状態のCu(Cu

3+

)に還元糖でもあるグルコー スから電子が渡されることによる酸化反応(グル コースはグルコノラクトンやグルコン酸となる)と して考察されることが多く

5、6)

、本系においても同 様の機構と考えている。特に400℃熱処理系では大 きい酸化電流が得られたが、さらに高い熱処理温度 では電流値は減少したため、特性には熱処理条件の 図5 岩絵具/CP電極を用いたサイクリックボルタモグラム.(a)未処理試料を用いた電極および(b)熱処理試料

を用いた電極.電解液:0.1MNaOH(+10mMグルコース),走査速度:10mV/s,室温下.

(5)

違いが影響を与えることも示唆され、解析と考察を 進めている。

参考として、400℃熱処理系の試料を用いた電極 について、グルコース濃度が1-10 mMの電解液中 でそれぞれCVを行った結果を図6に示す。グル コース濃度の増加とともに酸化電流値も増大をし た。今後は生理学的な血糖レベル(3-5 mM)を含 む範囲で検量線を作成することに加え、感度や検出 限界の評価、また触媒の耐久性やグルコース以外の 血中成分に対する応答の調査(干渉試験)など、将 来的なグルコースセンサへの適用を見据えた様々な 特性評価を行っていきたい。

4.まとめと今後の予定

天然鉱物の中でも岩絵具に焦点を当て、粉体をそ の ま ま、 も し く は 簡 易 な 熱 処 理 を す る こ と で、

CNTの合成触媒やグルコースの電気化学的な酸化 触媒としての特性発現を見出した。鉱物に微量に含 まれる成分やその割合は産地に依存するが、各特性 に影響を与える可能性もあるため、それらの点も考 慮した検討と考察は、今後必要である。本研究は、

天然資源の有効利用かつ、既存法と比べて低環境負 荷の合成プロセスの提案へとつながるが、それ以外 にも、天然鉱物のように敢えて複数の元素を含む原 料を使用することは、例えば触媒のナノ化や多孔質 化、またその他の高い機能性を有する触媒創製への 新しい設計の指針やヒントを与え得る、学術的にも 興味深い実験系と考えられる。特性の最適化を進め ていく中で、今後はそれらの可能性も探っていきた

【注】

1.サイクリックボルタンメトリー(CV):基本的 な電気化学測定法の一つであり、電解液中で作 用極(今回は岩絵具/CP電極)の電位を一定 の速度で変化させ、流れた電流とその電位の値 から、作用極表面で起こっている種々の電気化 学反応(主に酸化・還元反応)を知ることがで きる。電位の基準としては、今回は銀/塩化銀 参照電極(Ag/AgCl電極)を使用した。

参考文献

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楽しい鉱物図鑑

,草思社,東京,1992.

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Satou: Self-formed nanocatalyst layers on Ni–

Cu alloy substrates and their characteristics for electrochemical glucose oxidation. Jpn. J.

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7) M. Kumar, Y. Ando: A simple method of producing aligned carbon nanotubes from an 図6 岩絵具(熱処理系)/CP電極を用いた各グルコー

ス濃度におけるサイクリックボルタモグラム.

電解液:0.1 M NaOH+グルコース(黒:未添 加,赤:1 mM,青:3 mM,緑:5 mM,橙:

10mM),走査速度:10mV/s,室温下.

(6)

unconventional precursor - Camphor. Chem.

Phys. Lett., 374:521-526, 2003.

8) M. Kumar, Y. Ando:Chemical Vapor Deposition of Carbon Nanotubes: A Review on Growth Mechanism and Mass Production. J.

Nanosci. Nanotechnol., 10:3739-3758, 2010.

9) 神戸大,山口宣朝,山際清史:樹木由来の炭素 源を用いたカーボンナノチューブのCVD合成.

帝京科学大学紀要

,15:129-133,2019.

参照

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