長崎大学工学部研究報告 第25巻 第45号 平成7年7月
長崎県南部地域の気象観測
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薦 田 鹿 章*・武 政 剛 弘*
古 本 勝 弘*・
M
e t e o l o r o gi c a lObs e r va t i o no ve rt heSo ut hPa r t o fNa ga s a kiPr e f e c t ur e
by
HiroakiKOMODA*,TakehiroTAKEMASA*
andKatsuhiroFurumoto
*
TheseaandlandbreezesoverthesouthpartofNagasakiprefecturearesimulatedbythreedimen‑
sionalnumericalmethod.InthisreglOn,theirregularseashorelinesandmoutanioustopography influencethelocalmeteolorogicalcharacteristics.
Therefore,weusethez*axisinordertoestimatetheeffectsofmoutainoustopography.
Moreover,wealsocarriedoutthefieldobseⅣations,thentheobserveddataarecomparedwiththe numericalresult.
1.まえがき
海陸風は,一 日を周期 として 日中は海か ら陸へ向か う海風 と,夜間は陸か ら海へ向か う陸風が交代する風 系である。 この凧糸は,主 として海陸間の温度差に起 因す る。すなわち,太陽の短波放射 によ り,一般 に 日 中は陸地の温度が海 よ り高 く,夜間では これ と逆 にな るか らである。 さ らに,陸地部分の山地形状や海岸線 の幾何学形状,季節,緯度な どによ り,複雑な影響 を 受ける。また,海岸地方では,海風が入 る と気温の上 昇は停止 し,内陸に比べて 2℃前後涼 しくなることも あ る。 したがって,局地気象を考 えるうえで重要な風 系である。
周囲を海 に囲まれたわが国の気象 においては,はば 全域 が海 の影響 を受けてい る とい って も過言 ではな い。中で も,九州西部 に位置する長崎県は,一方は複 雑な海岸線 を有 し,他方 は急峻な山地で囲まれている。
さ らに,長崎県を南北 に分割する と,北部地域では, 海岸形状は複雑であるが,山地 は比較的穏やかである。
平成7年4万30日受理
*社会開発工学科 (DepartmentofCivilEngineering)
一方,南部地域は,海岸形状は北部地域 よ りも滑 らか であるが,山地形状は急峻である。長崎県南部地域の 中心 に位置する長崎市 も,東西両側 が急峻な山地で囲 まれた谷間に形成 されている。 したがって,長崎県南 部地域 も,北部地域 と同様 に海陸風の影響を強 く受け ているもの と思われる。
海洋や山地が局地的な気象 に与える影響 を調べ るた めに,海陸風 に関する3次元数値モデルを導入 し,シ ミュレーシ ョンを行 った。その際,計算 を簡素化する ために,静水圧分・布を仮定 し,地形効果 を考慮するた めに,新 しい鉛直座標 Z*を用 い基礎式 を誘導 した。
さ らに,長崎市街地 におけ る気象観測 を1994年12月 2日か ら11日にかけて行 った。そ して,それ らの観測 結果 と計算値 との比較 ・検討 を行 った。
2.基礎方程式
基礎方程式 は,風速 に関す るNavier‑Stokesの方 程式,熱の輸送方程式お よび連続式である。
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基礎方程式は,以下の ことを仮定 して簡略化 してい る。
・地球大気を非圧縮性流体 とみなす。
・浮力の項以外は密度は一定 と考える (ブシネスク近 似)0
・鉛直方向の圧力分布は静水圧分布 とみなす。
Mahrerお よびPielkel)や大河 内 ら2)と同様 の方 法を用いて上述の方程式を誘導する。まず,鉛直座標
Zの代 わ りに地形効果 を考慮 した新 しい鉛直座標 Z*
を導入する。 ZとZ*との間には次の関係が成 り立つ。
Z*‑子音 ≡ (1)
ここに, zGは地表面の高度であ る。 また,Dは相対 的な流体層の厚 さで,流体層上部の高 さをzTとする
と,次式で示 される。
D‑聖二餐
ZT (2)
Z*座標 を採用する と,すべての地表面では Z*‑ 0と なる。また,計算領域の上限では,Z*‑zTとなる。
ここで,読(2)のzTを一定 とみな し,前述の静水圧 分布 を仮定する。 さらに,基礎式は,平衡値か らの変 動量 に関 して,保存系で定式化する。
したがって, Z*座標系で表示 した水平方向の運動 方程式および熱輸送方程式は次式 となる。
慧‑一去 ・孟(Du2ト 去 ・孟(Duv)
一
志 (uw*)・恒 産 ・gS‑(1
一
芸 )慧 +去 ・孟 (DK叢 )・去 ・孟 (DKig)+慕 (K憲 )Di (3) 慧 ‑一去 ・孟(Duvト 去 ・孟(Dv2) 一志 (vw*)
‑fu一轄 ・g; (1‑Zi)普 +去 ・孟 (DKLS)
・去 ・孟 (DKS ・畠 (K量 )去 (4)
笠 ニー去 ・孟(Duo,)一去 ・孟 (DuO′ト 畠 (W*O,)
‑DS
w * ‑( u 獣 %)
・S(1‑a; )‑AO・・去・孟(DK # )・去 ・孟(DK% )+慕 (堵 )義 (5) なお, Z軸は一般には鉛直上方に とるので,右手系 を満足するように,ここでは Ⅹ軸および y軸はそれぞ れ南北方向,東西方向に とる。
静水圧分布を仮定 しているので,鉛直方向の風速成
分Wに関する運動方程式は,次式のようにエクスナ関 数の平均値rlか らの変動量打′を用いて簡素化すること ができる。
宗‑ggp (6)
ここに, u, Ⅴ,Wは風速成分,♂′は温位 の平均値
㊥か らの変動 量 , Sは温位 の鉛 直安定度 (S‑d㊥
/dz),KH,Kvはそれぞれ水平方向,鉛直方向の渦拡 散係数, fはコリオ リパ ラメータおよびgは重力加速 度である。
また,非圧縮性流体 に関す る連続式 をZ*座標系 に 変換すると,次式 となる。
a(Du)・i(Dv)・& (Dw*)‑0 (7) ここに,W*ほ風速のZ*成分で,次式で示 される。
W*‑岩 語 ・zZ T(u慧十% ) (8) エクスナ関数7Tお よび温位郎まそれぞれ次式で示 さ れる。
冗‑Ca(pf)R/Ca (9)
0‑ca
(
pi )R/CaT (10)ここに,Tは絶対温度,pは気圧,poは標準気圧, R お よびCaはそれぞれ空気の気体定数 および定圧比熱 である。
3.数値計算方法および境界条件
基礎方程式は,空間的には図‑ 1のスタギ ャ‑ ドグ リッ ドを用いて差分法で離散化する。変数の配置を同 図に示す。水平方向の格子間隔は,それぞれ一様に2 Kmとした。流体層 に関 しては,式(2)の鉛直計算額域 の上限zTを2900mとし,最下層の厚 さを100m,それ 以上の層の厚 さは一様 に200mとした。流体層の格子 数は32×32×16である。また,地中の鉛直格子はそれ ぞれ5cm,15cm,35cmお よび55cmの位置 に置 き, 最下層における熱輸送フラックスはないもの とした。
境界条件 としては,風速成分は地表面では 0を与え, 計算領域の上限zTでは水平運動はない もの とした。
また,計算領域の周辺では,風速の法線方向の変化は ないもの とした。
つぎに,温度に関 しての境界条件 としては,海洋に おける水温は,空間的にも時間的にも一定 とし,地温 は,太陽放射の入射量を与 え,地表面 におけるエネル ギーバ ランス (短波放射 ・有効長波放射 ・地面か ら大 気中への熱輸送 ・地面への熱伝導) より決定 した。
薦 田 鹿章 ・武政 剛弘 ・古本 勝弘
Fig.1 Staggeredgrid・
すなわち,海陸風が周期的に起 こるのは,海陸間の 温度差が生 じることに起因する。 日中は陸の地温が海 洋の水温 よりも一般に大 き く,夜間はこれ と反対の現 象が起 こる。いずれに して も,この温度差 を作 りだす 入 力 エネル ギー は 日変化 す る太 陽 の短波 放 射 であ る3)。 したが って,海 の温度は一定 とし,陸側 では, エネルギーバ ランスより地温 を決定 した。
また,領域の上限zTでは,温位お よびエクスナ関 数の変動量は 0とし,計算領域の周辺では,風速 と同 様にそれ らの法線方向の勾配を 0とした。
式(3)〜(5)の渦拡散係数については,水平方向は一様 な値104m2/Sを与 えたが,鉛直方 向に関 しては,KE Ypsタイプ4)に従 い,各層での大気の成層の安定 状態を加味 して決定 した。
初期条件 としては,快晴で無風状態を仮定 した。す なわち,すべての風速成分を 0とした。 さらに,温度 に関 しては,標高がOmの地点では,観測値 をもとに 海を含め全域で9℃を与えた。標高が 0でない陸地の 地点では,大気の成層は安定 しているもの とみな し, 各高度における温位 を与えた。また,計算期問はすべ で匪晴 とみな し,太陽の天頂角は,1994年の12月5日 の視赤緑 (∂ニー220 ) お よび緯度 (¢‑32・670)を用 いて計算 した。
時間積分 に関 しては3段階のleap‑frog法 を採用す る。時間の差分間隔は12秒 とした。 この時間ステップ はノイマン型の安定条件を満たす。
また,地表面の高度zGは,国土地理院の1/25000の
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地図を用い,20m間隔で読み とった。
4.数値計算結果
計算対象領域は長崎市を中心 とする長崎県南部地域 である。それを図‑2に示す。同園のメ ッシュ間隔は 前述のように2Kmである。
i II J 1 I I h
i 莱 由層 I l 1
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Fig.2 ComputationalreglOn
この地域の地形的特徴 としては,複雑な海岸線形状 と急峻な山地である。海岸線形状が複雑な ことは図‑
2か らも容易に分かるが,西海岸 においてその傾向が 著 しい。また,長崎市北西部 に位置する西彼杵半島, 南西部 に位置する長崎半島は比較的急峻な山地か らな り,さらに,大村市北東部 には1000mを越す多良岳山 系がある。
つ ぎに, この地域の中心に位置する長崎市に着 目す ると,東西側には,長崎半島および西彼杵半島の延長 線上にある金比羅山,稲佐山があ り,市街地は中島川 および浦上川によって挟 まれた南北の谷間地形 に形成 されている。また,市街地の周囲にある急峻な斜面地 には,標高200‑300m付近まで住宅地が密集 している。
これ らの ことが,他の地方都市 と大 き く異なる点であ る。
1994年12月5日天文データーを基 に,午前6時を計 算開始時刻 とし,以後30時間の計算を行 う。初期条件 は無風状態 を考 え, 1時間ごとに計算結果を出力 し, 異常がないことを確認 したのちに次の計算を行 った。
計算開始時刻か ら10時間経過 した16時か ら4時間 ごと の風速ベク トルを図‑ 3に示す。
この図か らは, 日の出 とともに,ほ とん どの領域に おいて,海か ら陸へ と向かう流れ海風が生 じることが
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Fig.3‑a Horizontalwindfieldatz*‑loom.T‑16 Fig.3‑d Horizontalwindfieldatz*‑loom,T‑4
LST. LST.
Fig.31) Horizontalwindfieldatz*‑loom,T‑20 Fig・3‑e Horizontalwindfieldatz*‑loom,T‑8 LST.
Fig.3‑c Horizontalwindfieldatz*‑loom,T‑0 Fig・3‑f Horizontalwindfieldatz*‑loom,T‑12
LST. LST.
薦 田 鹿章 ・武政 剛弘 ・古本 勝 弘
分かる。太陽放射 により,海陸間に温度差が生 じてい ることを示す。太陽が南中する正午頃に海風はピーク に達 し,多良岳や西彼杵半島の山岳地帯,長崎市北東 部 に位置する長崎バイパ スの山岳地帯な どに風は収束 するが,複雑な流れを皇 している。 さ らに時間が経過 し日没 を迎 える と,海風は弱ま り,次第 に陸風 に変わ る。そ して,その ピークは午後10時頃に達する。 この 風の流れは,海風 と異な り複雑ではない。
温度分布は陸地のみを計算対象 とし,長崎市街地の 2点 (旭大橋,稲佐山山腹)の地温 と野外観測の実測 値 とを比較 した。数値計算 よ り得 られた稲佐山山腹の 地温の経時変化 を図‑4に示す。
aJnld.JaduaT
6:0012:0018:00 0:00 6:0012:00 Dec.5 Dec・6 time
Fig.4 Variationoftemperature.
5.野外における気象観測および観測結果
急峻な山地地形が局地的な気象に及ぼす影響 を調べ るために1994年12月2日か ら11日にかけて,浦上川を 挟む東西両斜面の金比羅山山麓 と稲佐山の東斜面の8 地点で気象観測 を行 った。測定項 目は気温および風向
・風速であ り,すべて 1分間隔で記録 した。地上気温 は,地上1.5mに設置 した百葉箱 内で 自記温度計 (M DL)を用いて測定 した。また,上記8地点中,3地 点では,MDLを数個取 り付けた係留気球 を用いて, 高度80mか ら150mまでの気温の鉛直分布を測定 した。
それ らの観測値 と数値計算 よ り得 られた結果 との比 硬では,夙 については,風向は数値計算 と実測値 とは ほ とん ど一致す るが,風速は一致 しない。 これは数値 計算では,初期条件 として,無風状態 を仮定 した こと, また,境界条件 として,計算領域周辺でノイマン型の 条件 を用いたことな どによるもの と思われる。
気温 については,実測値の 日較差は10℃以上 になる
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が,数値計算ではその1/3程度 しか評価 していない。
これは,数値計算で用いた地表面 におけるエネルギー バ ランスに問題があ るもの と思われる。
5.結 論
長崎南部地域の海陸風数値計算を行 うことにより以 下の ことが明 らかになった。
・陸風 に比べ海風の平面ベク トル図は複雑である。 こ れは Z*座標 を採用 し,3次元地形効果 を考慮 したた め,様 々の方向か ら山岳地帯 を上昇す る流れが発生す ることを意味する。
・海風 は陸風 に比べやや大 き くなる傾 向がある。そ し て,その最大値は約5m/Sであ る。 さ らに,海風は, 海岸付近か ら起 こり,徐 々に内陸方 向へ進む。
・陸風のピーク時は正午頃に,海風のピーク時は午後 10時頃に迎 える。その中間時に無風状態 (凪)が起 こ
る。
また,今回行 った数値モデルの問題点 としては,以 下の ことが考 え られる。
・基本式を諌導 した過程での近似処理は妥当なのか。
その中で も,ブシネスク近似および静水圧近似を施 し た ことに問題はないのか。
・水平方向のメ ッシ ュ間隔は2Kmとしたが, このス ケールでZ*座標系を採用で きるのか。
・水温 を一定 とした こと。さ らに,陸地では,土地利 用状況や高度 に拘わ らず,アルベ ドを一定 とした こと。
以上の ことより,さらに,数値モデルを改良す る必 要があるもの と思われる。また,同時 に放射 を含めた 気象項 目の微細な実測が必要である。
謝 辞
今回の数値計算シ ミュレーシ ョンは八代高専の大河 内康正先生の開発 されたプログラムを用いた。 また, 貴重なるご助言を頂 いた。記 して謝意 を表 します。
参 考 文 献
1.Mahrer,Y.and Pielke,R.A.:The effectof topographyonseaandlandbreezesinatwo‑ dimensionalnumericalmodel,Mom.Wea.Rev., 105,pp.1151‑1162,1977.
2.大河内康正,和方吉信 :山岳地形 をもつ海陸風の 三次元数値モデル,八代高専紀要 ,第4号,pp.
9‑18,昭和57年3月.
3.大河内康正 :海陸風のシ ミュレーシ ョン,局地気 象研究会講演論文集,第10号, 日本農業気象学会 局地気象研究部会,pp.21‑33,1994
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4.Rondo,H.andGambo,冗.:Theeffectofthemix‑
inglayerontheseabreezecirculationandthedif‑ f
usionofthepollutantsassociatedwithland‑Sea breezes,∫.Meteor.Soc.Japan,57,560‑575, 1979.