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駒澤大学 小林ゼミ 2006年度 卒業論文

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東京ディズニーリゾートのリピーター獲得戦略

森戸 雄輔1 1 序論 2 ディズニーリゾートとは何か 2.1 ディズニーリゾートの概要 2.2 「テーマパークからテーマリゾートへ」 3 東京ディズニーリゾートの成功理由 3.1 空間づくり 3.2 話題づくり 3.3 マジックを生むクオリティ・サービス・サイクル 4 ディズニーリゾートの人材教育 4.1 キャストとゲスト 4.2 優秀な人材づくり 4.3 サービスの基本姿勢 5 結論 文献一覧

1. 序論

90 年代初めからテーマパークが日本全国で建設された。しかし、バブル経済崩壊から長 いあいだ日本経済は長期の不況下にあり、一時は脚光を浴びたテーマパークが相次いで休 園、倒産を余儀なくされた。現在、日本のテーマパーク産業は、東京ディズニーリゾート の一人勝ちであり、テーマパーク全体としては右下がりの傾向にある。このような状況下 で、なぜ東京ディズニーリゾートが日本人から圧倒的な人気を得続け、リピート率 90%以 上という数字を出せるのかを、東京ディズニーリゾートの作る「舞台」「話題」「従業員」 から考えてみた。 第 2 章ではアメリカと日本における「ディズニーランド」から「ディズニーリゾート」 への発展、そして現在の「東京ディズニーリゾート」の形成を説明する。 第 3 章では東京ディズニーリゾート内の建物から看板、舞台裏などのセットづくりの徹 底ぶりや、ショー、イベントの打ち出し方から東京ディズニーリゾートの魅力について述 べる。 第4 章では東京ディズニーリゾートの最大の魅力と言っていい従業員について考えてみ る。東京ディズニーリゾートでは他のテーマパークの従業員と比べ、サービスや接客に大 きな違いがある。このことは、どんなセットや話題性にも勝るものであると考える。この 1 もりと ゆうすけ 駒澤大学経済学部商学科4 年 ER3229

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論文の核となる章である。 以上 3 項目の考察を経て、なぜ東京ディズニーリゾートがここまでのリピート率を誇る ことができるかを探ってみたい。

2.ディズニーリゾートとは何か

2.1 ディズニーリゾートの概要 アメリカ合衆国のウォルト・ディズニー社2は来場者の長期滞在を計るために、テーマ パーク単体運営から、複数のテーマパークとホテルなどから成る長期滞在型の「リゾート」 への展開を進めてきた。 1971 年にオープンしたウォルト・ディズニー・ワールド(現ウ ォルト・ディズニー・ワールド・リゾート)は当初からテーマパークとホテル(リゾート) の複合体であり、その後の同様の複合施設、ユーロ・ディズニーランド(現ディズニーラ ンド・リゾート・パリ)などの展開の基礎になった。その後パーク単体だったディズニー ランド(アメリカ、カリフォルニア州)と東京ディズニーランドもそれぞれ第二パークと ホテルを増設し名称もそれぞれディズニーランド・リゾート、東京ディズニーリゾートと なり現在にいたる。 2005 年オープンの香港ディズニーランドは名称こそ「リゾート」の 文字が入っていないもののウォルト・ディズニー・ワールドやユーロ・ディズニーランド 同様オープン当初からホテルとの複合体であり、第二パークおよびショッピングエリアな ども当初から計画に組み込まれておりその敷地も確保されていることから事実上「リゾー ト」としての形態をなしている。 上記のように現在、世界 5 カ所のディズニーテーマパ ークすべてがそれを核に事実上「リゾート」化されている。 「東京ディズニーリゾート」は千葉県浦安市舞浜にあるテーマパークを中心としたリゾ ート施設群である。2 つのディズニーテーマパークとディズニー関連ホテルを核にショッ ピング施設などから構成される。経営・管理・運営はオフィシャルホテルをのぞき株式会 社オリエンタルランド(OLC、Oriental Land Company)および同社の関連会社で構成さ れる「OLC グループ」が行っている。世界のディズニーリゾートでは唯一、ディズニーの 資本が全く入らない他社のライセンス契約による所有・運営を行っている。 2.2 「テーマパークからテーマリゾートへ」 1983 年 4 月 15 日、アメリカ国外では初となるディズニーテーマパーク、「東京ディズニ ーランド」が開園した。1970 年代に立て続けに発生したオイルショックの後の、ゆるやか な経済成長時にオープンしたこの「テーマパーク」は、「余暇をいかに楽しむか」を考え る余裕が出てきた日本人の心をつかみ、初年度は 1036 万人もの入園者を数えた。その後、 「科学万博つくば 85」の開催や、バブル景気に影響されて全国各地に建設されたスキー場 やゴルフ場、遊園地の中でも、強い独自色を発揮し、着実に入園者数を増やしていった。 1986 年 1 月、ウォルト・ディズニー社は、パークの運営母体であるオリエンタルランドに、 舞浜地区全体の開発を目指した「東京ディズニーワールド構想」(当時ディズニー社では 2 1923 年にウォルト・ ディズニー によって創業されたアメリカ合衆国のエンターテインメント会社。

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テーマパークとホテルなどの複合体を「リゾート」とは呼んでおらず、唯一複合体をなし ていたのはフロリダのウォルト・ディズニー・ワールドだけであった)を提案してきた。 オリエンタルランド社内での検討の末、1988 年4 月 15 日に開かれた東京ディズニーラン ド開園 5 周年の記者会見の席上で、当時の高橋政知会長が「第 2 パーク構想」について発 表した。人々にモノではなく経験を与えてきた東京ディズニーランドは、また一つ化けよ うとしていた。そのテーマは「テーマパークからテーマリゾートへ」というものである。 「イクスピアリ」「ディズニーアンバサダーホテル」「ボン・ヴォヤージュ」などが開業し、 ついに 2001 年 9 月「東京ディズニーランド」に次ぐディズニー史上初、海をテーマにし た最新のテーマパークである「東京ディズニーシー」が開園した。その間を、全長 5kmの モノレール「ディズニーリゾートライン」が結び、現在の「東京ディズニーリゾート」を 形成している。

3. 東京ディズニーリゾートの成功理由

3.1 空間づくり ディズニーリゾートは他のテーマパークとどのような点で違うのか。一つには空間作り が挙げられるだろう。「夢と魔法の王国」が売りのディズニーリゾートにとってその点は 非常に重要である。 東京ディズニーランドに入園して最初に通過するのはアメリカの古い建物が並ぶ「ワー ルドバザール」である。19 世紀末から 20 世紀初めにかけてのビクトリア王朝風の建物を 模した町並みは、大掛かりな映画のセットに入ったような印象を受ける。建物の中にはお 土産の商店やレストランがあり、店の看板はすべて英語である。東京ディズニーランドは アメリカのディズニーランドやディズニーワールドの忠実なコピーである。「本場の雰囲 気をできるだけ楽しんでいただく」として、店の看板だけでなく、人形たちのせりふや歌 の日本語化も最小限にしている。まさに「ここは日本ではなく、アメリカである」という ことを訴えかけようとしているかのようである。また、ワールドバザールのアーケードを 抜けると中央公園の「プラザ」に出る。ここでは、半世紀以上前のオムニバスやクラシッ クカーが雰囲気をより盛り上げてくれる。 この導入部の巧みさはディズニーランドの秘密の一つと言えるだろう。大掛かりな舞台 装置が、ショーの始まる前に、早くもショーの成功を裏付けている。これまでの遊園地は こうした導入部を考えず、乗り物などの娯楽設備の性能に力を入れてきた。しかし、ディ ズニーランドはゲスト3が楽しめる雰囲気を作り上げている。もちろん、各テーマのアト ラクションにおいてもこの導入の巧みさは見事に生かされている。 こうした導入の巧みさは、もちろんウォルト・ディズニー自身の考えによる。ディズニ ーランドを最初に建設する時、遊園地を長年経営していた関係者からは、ディズニーラン ドの入り口に計画されていた「タウンスクエア4」は予算やスペースばかりとって収益に 3 ディズニーリゾートではお客のことをゲストと呼んでいる。 4 アメリカ・フロリダ州にあるマジック・キングダムのメインストリートに入る前にある広場。園内を 一周する鉄道の発着駅などがある。

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はつながらないから無駄であるという意見があがっていた。しかしウォルトは、計画を変 えなかった。映画の世界で育ったディズニーにとって、娯楽とは一つひとつの「点」では なく、楽しみの流れる「線」だった。したがって、導入部の巧みさは、実はクライマック スの盛り上がりの巧みさであり、最後の終わり方の巧みさでもあった。 「夢と魔法の王国」というのがディズニーランドの宣伝文句である。ゲストたちは、ア メリカ本家の忠実なコピーである東京ディズニーランドを回りながら、アメリカの古き良 き時代の夢を追体験する。様々なアトラクションはこの夢を育むための道具であるし、こ の夢を持続させるために、様々な工夫がなされている。 映画のセットや演劇の舞台と同じく、東京ディズニーランドにも舞台裏がある。パーク の外縁を回る道路と隣接する建物がそれにあたる。道路は資材などの運搬用のもので、建 物は倉庫や従業員の食堂などの施設である。外縁の道路は、ディズニーランドの南側に隣 接しているオリエンタルランド社に通じている。上下二車線の舗装道路はディズニーラン ドの入り口近くまで続いているが、パーク内のゲストの目には見えないようになっている。 パーク内のクラシックな建物や樹木が目隠しになっているからである。ゲストが古き良き 時代の夢に浸っている建物のすぐ裏側をトラックが走っているのである。 また、外部の車を見ることができる個所が一箇所だけあるが、ここはゲストが反対側に 注意を寄せる工夫や、状況を見て車を止めるといったことまで徹底して行っている。キャ スト5たちは園内の表舞台では、様々なサービスやショーを行ったりしているが、舞台裏 に退いた時には、食事をしたり、着替えたり、休息を取ったりする。ディズニーランドは バックステージを設けることで、こうした日常性をステージから完全に隔離させている。 裏方を見せない工夫としてもう一つあげられるのが、バックステージから園内の施設に 通じるトンネルの存在である。食料品などは通常、夜間や早朝等の閉園時間内に各施設に 運ばれるが、ジュース類やアイスクリーム類などはこれだけでは間に合わず、開園中にも 搬入が必要になる。多くのレストランはバックステージと背中合わせに設計されているた め、そこにはトンネルは必要ないのだが、そうではないレストランにはこのトンネルが不 可欠なのである。搬入のトラックが開園中の園内を走り回れば、せっかくの夢の気分も壊 されてしまうだろう。しかし園内にトンネルがあれば、一般のゲストにはまったく気付か れることなく様々な資材を園内に運ぶことができるのである。 トンネルそのものはそれほど驚くものではないが、ディズニーランド側はこのトンネルを 一切公開せず隠そうとするため、かえって「トンネル神話6」が出来上がっている。つま り、その神話も「魔法の国」イメージ作りの意図に入っているようである。このように、 あらゆる点で雰囲気作りを考えていくのが他のテーマパークとの大きな違いだろう。 アトラクションを見ても、ディズニーランドのメリーゴーランドの白馬の馬具が実にき れいに黄金色に輝いていると思った人は多いだろうが、23 金だと知っている人はほとんど いない。そして様々なキャラクターの衣装。これも本物の昔の布や製法を使った手縫いの、 5 ディズニーリゾートでは従業員のことをキャストと呼んでいる。 6 東京ディズニーランドの地下には「トンネルが網の目のように張り巡らされ、迷子になる」との噂が ある。実際には外周のバックステージに隣接しない、いくつかのレストランへのトンネルが数本あるだ けである。

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本物に近い複製だ。だから他の遊園地やテーマパークとは一味もふた味も違う。建物は念 入りに調査し設計し、綿密に材料を吟味し、はるか彼方から取り寄せた本物を使っている。 着ている物の、置いてある物の、建っている物の、全てが凝りに凝った本物に極力近い複 製である。コストがかかり過ぎるとは全く考えていないのだ。 人の目はごまかせない。本物が漂わせる気品や色や味わいは違う。たとえ言葉でどんな に人の頭をごまかせても目と心はごまかせない。本物に囲まれたとき人は自分で自分を演 出することができる。物と人とのコミュニケーションはこうして図られている。 3.2 話題づくり リピート力の強さの秘密は、その打ち出し方にもある。最近では、東京ディズニーラン ドの20thアニバーサリー、東京ディズニーシーの5thアニバーサリーなどである。このよ うに、次々に話題を作っていることが分かる。 東京ディズニーリゾートは「記念」が大好きである。「~アニバーサリー」などの連続 である。キーワードの一つとして「記念」、例えば20周年アニバーサリー、ミッキー生誕 70周年、来場者3億人記念などで、次々テーマを打ち出してくる。このことで、いつでも ゲストを呼び込むようにしていて、ディズニーリゾート全体が常に鮮度を保っているとい えよう。数ヶ月前に行ったことある人も、また行かなくてはと思ってしまうようにしてい るのである。 また、大人も行きたいテーマパークであるということも強みである。それまでのアミュ ーズメント施設では、ゴールデンウィーク、夏休み、冬休み、春休みなど、主に子供が休 みのシーズンに的を絞って、イベントを打ち出しているのが常識であった。つまり、テー マパークというものは子供が行くものだという固定観念があり、基本的には子供が行く場 所に決まっていたのだ。 東京ディズニーリゾートでも、ゴールデンウィーク、夏休み、冬休み、春休みの時期は かきいれどきなので、当然ながら集客に力を入れるが、東京ディズニーリゾートの違いは ゲストを子供だけに限らず、大人を主要なターゲットとしているので、子供の休日に限定 しないで毎日いつでもイベントを打ち出せるパークだということである。 このように次々とあらゆる時期にイベントを設け話題を自ら作り出すことが、リピート 力を生み出すパワーの一つと言えるのではないか。 3.3 マジックを生むクオリティ・サービス・サイクル リピーター率が 70% を超え(日本の東京ディズニーランドでは 97.5%)、お客様満足 度 ナ ン バ ー1 を誇る超優良企業ディズニー。そのディズニーの原動力になっているのは 「Disney Magic(魔法)」。しかし当たり前の話だが、Magic(手品)には必ずタネと仕掛けが ある。客である我々ゲストからすれば「魔法」のような体験であっても、従業員であるキ ャストからみれば、それは「手品」と同様に、再現可能な手順を踏み、狙い通りの効果を 生み出してゲストを喜ばせる、極めて現実的な仕事に他ならない。つまり、ゲストである 我々が、ディズニーの優れたサービスによって驚き、そして幸せになるのは、企業とその 従業員による日常的な努力の結果なのである。 しかし、こうした「お客様に感動を与える」のは通常は属人的になりがち。つまり、一

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部の優れた従業員(トップパフォーマ)はお客様に感動を与えられるが、みんなが出来る わけではない、というのが一般企業の姿。日々高まるゲストの期待を常に超えて、すべて のキャストがゲストに毎回必ず感動を与えるにはどうしたらよいのだろうか。 すべてのキャストが必ずゲストの期待を超えて感動を提供することができる、サービス 提供の共通的な枠組みを確立するサイエンス(科学)。それを研究・開発しているのがデ ィズニーにあるディズニー・インスティチュートという組織である。この組織が生み出し た「クオリティ・サービス・サイクル」という手法である。クオリティ・サービス・サイ クルとは、質の高いサービスを提供し続けるための「仕掛け」のことで、以下の 4 要素 を定めて実践することによって実現されるものである。 (1) サービステーマ 企業・組織としてのビジョン。ディズニーの場合には、「最上のエ ンターテインメントを提供することで、すべての場所ですべての年代の人々を幸せにする」 というのがサービステーマである。これはゲストへの約束になり、キャストにとっての働 く目標となる。 (2) サービス基準 上記のサービステーマを実現する際、企業や従業員の具体的な行動指 針となるもの。ディズニーの場合には以下の 4 項目を掲げており、常にこの基準に則っ た行動をすることが求められる。各サービス基準には優先順位も定められていて、相反す る場合には必ず上位のサービス基準を優先するように定められている。 ① 安全 遊園地として、ゲストの安全性の確保をなにより優先させる。 ② 礼儀正しさ すべてのゲストを VIP として扱い、決して失礼のないよう、おもてな しの心(ホスピタリティ)で接する。 ③ ショー 滞在の最初から最後まで、継ぎ目やほころびのない優れたエンターテイン メントを提供し続ける。 ④ 工夫、効率 業務上の効率化を図り、リゾートをスムーズに運営する。 ディズニーランド運営の理念はSCSE だという。Safety(安全性)、Courtesy(礼儀正しさ)、 Show(ショー)、Efficiency(工夫、効率)の頭文字である。この四つは重要性の順になってい る。安全性が最初にくるのは、子供が集まる遊園地なので当然としても、効率のE が最後 にくる。効率を重んじるあまり、ぞんざいにゲストに接して、客が離れてしまっては元も 子もないというのである。効率は重要だが、それは結果。目的はあくまで顧客満足の向上 であるという考えがこめられている。SCSE というこの 4 つの基準ですべての状況に対応 できるというわけではないが、簡単な基準を設けることによって従業員一人ひとりに判断 させるというアメリカ式の方針をとっているのだろう。 (3) 伝達システム 優れたサービスをゲストに提供するための手段を整える。提供手段は 大別して以下の 3 つがあるが、これらすべてにおいて工夫を図り、優れたサービスをゲ ストに提供し続けられるようにする。 ① キャスト オリエンテーションや独自の用語を通じてキャストの自覚を育て、具体 的な行動上のコツ(Performance Tips)を整理する。そして、企業全体にパフォーマン ス重視の風土を作り上げる。 ② セット ビジネスを行う場にも最新の注意を払う。特にリゾート内の建物などはす べて物語やテーマに合わせて、ゲストの五感すべてに訴えるセットを用意する。一つで も余計なものや間違いがあるとすべてが台無しになるため、細部にまでこだわって設計、

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開発する。 ③ プロセス 日常的な作業を常に見直し、改善を図る。特にトラブルやクレームはプ ロセス改善のよい契機になる。 (4) 統合マトリクス (2)と(3) の各要素を 4×3 のマトリクスとして整理し、見落としの排 除やクォリティ・サービスの設計・改善を行う。

4.ディズニーリゾートの人材教育

4.1 キャストとゲスト ディズニーランドでは従業員はすべてキャストと呼ばれている。それぞれが与えられた 役割を演じる出演者という考え方である。ゴミを拾うことも、車を誘導することも、すべ てショーという様々な役割を演じるという点では、演劇の世界に通じる。ショーが成功す るかどうかは、主役だけでなく脇役も含めたキャスト全員の演技にかかっている。パーク 内でゲストの目に触れる部分が「オンステージ」であり、そうでない部分が「バックステ ージ」と呼ばれるのも、ディズニーランドの劇場性を物語っている。つまり、スタッフ一 人一人が与えられた「仕事場」=「劇場」で、「仕事をする」=「ショーを行って表現す る」という意味になる。 日本に東京ディズニーランドが誕生してから「ゲスト」と「キャスト」という表現が日 本に浸透するようになった。ゲストはディズニーリゾートに遊びに来てくれたお客を意味 するが、ゲストという表現を使っていると、ディズニーリゾートが人々を招待してくれて もてなしてくれているような感じになる。キャストとはパークで働く人々のことだが、そ こには従業員という意味以上に役者というニュアンスが隠されている。ディズニーリゾー トには、従業員が客を楽しませる役に徹するという理論がある。いわば、ディズニーリゾ ートの総体が1つの劇団なのである。 ディズニーリゾートでは直接ゲストと関わるキャストだけでなく、細かい仕事にもしっ かりとこだわっている。例えば、いわゆる掃除係にあたる「カストーディアス」と呼ばれ る係にもしっかりと存在の役割がある。東京ディズニーランドの場合、カストーディアス は600人が働いていて、その掃除の仕方にもしっかりとマニュアルがある。ダストパンと いう手から吊り下げるようなチリトリは肌身離さず持ち歩き、ゴミがあると腰を屈めずに 立ったままゴミを入れる。一見、動きはユーモラスだが、それだけではなくゲストの安全 も考慮に入れている。綺麗な建物が並ぶパーク内ではゲストはついつい足元に注意が回ら ないこともあり、チリトリが道に置いてあったりカストーディアスがしゃがんでいたりす るとぶつかってしまう可能性もある。また、走り回る子供がチリトリにぶつかって転びで もしたら大変なことになるからである。 創業者のウォルトは、ディズニーランド建設に当たってとにかくゲストからの目線とい うのを重視した。それは自分も含めた大人が楽しめるものにするためだが、もちろん子供 から見た目線にも気を配り、建設中は時折しゃがみながら、子供の目になりきってパーク 建設の指揮をとっていた。ウォルトの凄いところは、そのような建物だけではなく、作っ ただけでは目に見えてこないハズの従業員の理想の在り方までも、全て完璧にまで仕上げ

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たところにある。今、東京ディズニーランドでは、夢をゲストに売るために何百人ものキ ャストが、日々自分の「役」を精一杯演じているのである。 4.2 優秀な人材づくり 接客のマニュアルはディズニーランドに限らずサービス産業ではかなり広まっている。 しかし、ディズニーランドのようにアドリブが生かされているところは少ない。なぜなら、 他のところにはマニュアルを超えた何かを伝えようという意欲を持った従業員がそれほど 多くないからである。ディズニーランドが誇る異空間の雰囲気はキャストにも伝染してい る。「ここはアメリカ」とゲストが意識してしまうのと同じく、キャストも「ここはアメ リカ」と意識して、オーバーアクションの従業員を気取ってしまうということである。 東 京 デ ィ ズ ニ ー ラ ン ド の キ ャ ス ト た ち の 気 持 ち の 良 い 応 対 ぶ り は サ ー ビ ス の マ ニ ュ ア ルとキャストのアドリブによってできている。これがディズニーサービスの秘密だが、そ れならこのマニュアルを手に入れて読ませれば、どの遊園地の従業員でもサービスが向上 するかといったらそうでもない。マニュアル通り実行するためには、そのためのトレーニ ングが必要だからである。 ディズニーランドは、このトレーニングのために人手と時間をかけている。アルバイト を含め従業員は最初にオリエンテーションを受ける。通常は 12 時間、一日半の日程であ る。その内容は、ディズニーランドを運営しているウォルト・ディズニー・プロダクショ ン7の歴史から、ディズニーランドの基本理念、各テーマパークの説明、最後はキャスト の心構えについてなどである。このオリエンテーションが終わると、各部に配属される。 ここで一日かけて部全体の仕事の説明を受けると、実地教育が行われる。期間はポップコ ーンの売り子やカストーディアルなど比較的やさしい仕事でも、オリエンテーションから 含めて 3~4 日かかる。トレーニング期間中はお客にサービスを提供しないため見返りが ない。つまりディズニーランドは、それだけ余計にコストをかけているのである。 キャスト達の言葉使いは、はきはきしていてトレーニングの成果がうかがえる。身だし なみにおいてもディズニールックという基準がある。女性はマニキュアやイヤリングは禁 止であるし、男性も髪が耳にかからないように注意される。また、ディズニーランド特有 のスマイルも好印象をゲストに与えるのではないだろうか。 「パーク内のあらゆるものがショーであり、毎日がショーの初演」というのがディズニ ーの考えである。掃除係や操作係など裏方を含めた全職種にコスチュームをつけさせ、表 舞台に立たせているのも、この考えからである。ディズニーランドは遊園地産業をショー ビジネスに変えたと言われるのもそのためであろう。つまり、コスチュームを身につけ、 自分の役割を懸命に演じるキャスト達を育てることで、これまでの遊園地をはるかに越え たのである。 4.3 サービスの基本姿勢 リピーターゲストを増やすためには施設に金をかけることも必要だが、「迎える側の人 間がいかにゲストに感動を与えることができるか」がもっと大事なポイントとなる。ディ

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ズニーリゾートでは「人は、人とのコミュニケーションによってのみ感動する」と考えて いる。 ディズニーリゾートでは「群衆」という言葉を使わない。たとえ多くの人たちでも「か たまり」とは考えてはいけないのである。別々の顔と名前と考えを持った別々の人として 応対する。ディズニーリゾートでは招待状を出し招待した訪問者として一人一人を大切に 考え、接遇しているのだ。キャストが心がけている大切なことは「一人一人のゲストとき ちんと応対する」ということなのである。 「コミュニケーションから楽しみが始まる」というのが、キャストがゲストに接するサ ービスの基本理念である。それが「ゲストを心からもてなすことがディズニーランドの最 高の商品」になる。なので、キャストはできるだけゲストに声をかけるように努めている。 「いらっしゃいませ」ではなくて「こんにちは」と呼びかけるのは、それがコミュニケー ションのきっかけになるからである。パーク内には案内板がない。分からなければキャス トに聞くことで、そこから新たなコミュニケーションが始まるからである。 ゲストの期待に対し「個別対応」をしているのはディズニーリゾートだけではない。た とえば一流のソムリエは、ワインを注ぎに回る時には客の期待を見抜いた上でサービスを するそうである。楽しそうに話をしているカップルにはあまり近づかず、反対に会話の少 なそうな熟年のご夫婦に対しては、会話を提供するために何回もテーブルを訪れる。 ここで大切なことは、客の期待を見抜く力の養成である。「個別の相手」が何を求めて いるかを知り、それに「個別に対応」する、これこそがディズニーランドのホスピタリテ ィの原点であり、ディズニーリゾートのキャスト達の仕事そのものであるといえよう。 東京ディズニーランドで働くキャストの基本理念は「コミュニケーションを大切にする」 という考えをベースにしている。これを土台として、職種ごとに詳細で具体的なマニュア ルがつくられている。それは日本人キャストが使いやすいように翻訳したもので、その数 は 400 種になる。そこには、キャストがやるべき業務内容や行動基準がいくつもの項目に わたって書かれている。マニュアルの目的は、それぞれの状況に応じて、個人の素質にか かわりなく同基準のサービスを提供することだ。マニュアルどおりのサービスなんて真の サービスとはいいがたいが、サービスの質が低下し、「心からのサービス」が期待できな くなった日本のサービス産業のすき間をついて、アメリカ流を取り入れたサービス産業が いつの間にか幅を利かせるようになったのである。つまり東京ディズニーランドで提供し ているサービスは、元々の日本式サービスと異なり、アメリカ式サービスを取り入れたも のなのだ。 そのディズニーランドのマニュアルの中で面白いのは、「~してはいけない」などとい う言葉が続くのではなく、「~をしなさい、そうすればゲストが喜ぶ」というポジティブ な文章で書かれているということだ。例えば、ゲストがチップをキャストにあげようとし た場合、マニュアルには「私こそ、お客様のおかげで楽しい時間を過ごすことができまし た」や「どうぞそのお金でお土産をお買いになって下さい」といったように具体的な対応 が書かれている。キャストにとっても、その場の自己判断に任せるという旨の指導をされ るよりも、歯の浮くようなかっこいい応対を覚えてそれを使うほうが、仕事をして楽しい はずである。運営当初には「マニュアルだけで管理するのは人間味がない」という意見が 外部から多かった。しかし、ディズニーランドのマニュアルはただの社会常識を連ねたも

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のではなく、ゲストに夢を与えるための理想が詰まったバイブルになっていて、ただの金 儲けのためのマニュアルではなく、劇を行うための台本を兼ねている。面白い例では、レ ストランや売店で店員は「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と声を掛けろとい う項目がある。「いらっしゃいませ」だと客と一方通行の会話になってしまうのが、「こ んにちは」になると客との会話になるのだという。実際、マニュアルという基盤があるに しても、長くキャストを続けていると次第にその役になりきるようになり、役にぴったり のアドリブが出来るようになるという。

.結論

東京ディズニーリゾートの強さを示す指標の一つにそのリピーター率の高さがある。現 在、東京ディズニーリゾートの来園者の 90%以上がリピーターである。実際、東京ディズ ニーリゾートではリピーターを増やすためにさまざまな工夫を行っている。たとえば、「毎 年、アトラクションを新設し、来園者にとって飽きられないようにする」「時期ごとのショ ーやイベントを開催する」などリピーターの増加につながる手を繰り返し打っている。 このような集客の起爆剤としての戦術以外に、東京ディズニーリゾートでは開園当初か らリピーターの増加のために力を注いでいることがある。それは、キャストによる演出と ゲストに対する接客である。東京ディズニーリゾートが、ゲストにとって常に気持ちのよ い場であるために、キャストはゲストに対して最高のもてなしをすることを心がけている。 キャストとゲストの心地よい出会いの場を東京ディズニーリゾートで演出しつづけること こそ、リピーターを増やす原動力となっている。 東京ディズニーリゾートという場でのキャストの演出や接客は、ゲストの満足度を左右 するぐらい役割は大きい。そのため一人一人の顧客満足を追う一方でキャストのモチベー ションを高める方法もとらてれている。それは従業員一人一人と常に至近な距離にいてそ の能力を評価し「認める」ということである。「スピリット・オブ・TDL8」と「ファイブ スタープログラム9」という 2 つの制度を設け、キャストの仕事ぶりが同僚や上司から目 に見える形で評価される工夫は、キャストのやる気を引き出すことにつながる。また、東 京ディズニーリゾートを訪れるゲストの立場から見ても、キャストが活き活きと働いてい ることは気持ちよく、来訪するたびにゲストの目に新鮮さを与えるはずである。 ディズニーランドでアルバイトをしたいという人は多い。それは職場としての東京ディ ズニーリゾートにも人が魅力を感じているからなのではないか。そこにキャストのやる気 を引き出すもう一つの工夫がある。人に満足を提供し収入を得ているということ自体が、 人間として有意義なことをしているのだという満足感につながり、次へのモチベーション となる。ゲストの満足はキャストの満足につながる。そのようなキャストを認め、一人一 人がその大きな「満足」のシステムの中でそれを支える「役」になっているという実感は、 8各キャストがゲストへの接し方がとても優れていると感じた者の名前をメッセージカードに記入して 投票するという制度。得票数の多かったキャスト上位数百人が表彰される。 9園内を訪れた社長やマネージャーが、丁寧な接客や働きぶりが目にとまったキャストに一枚のカードを 渡す。受け取ったキャストは、食事会に招待されるというもの。

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また次のモチベーションに発展し、働く者にとっての最高のインセンティブになるのでは ないか。 今回は東京ディズニーリゾートのリピーター獲得の秘密を、キャストに光を当てて考え てみた。キャストの仕事ぶりを周りが評価する工夫によって、短期雇用の準社員であって も東京ディズニーリゾートで働くことに満足感を抱き、職場としての東京ディズニーリゾ ートに対するロイヤルティすら生み出している。そして、キャスト達は、ここで働いた経 験が将来の自分の目標に一歩でも近づくという期待と夢をもって働いている。 短期的には、新しいアトラクションを増設することが集客に効果的かもしれない。しか し、会社が長期的に発展拡大していくためには、従業員にとって働く場が魅力的であるこ とと、従業員のやる気を周囲が目に見える形で評価することこそが重要であると思う。 東京ディズニーリゾートの徹底さは他ではみることができない。設備にしろ、従業員にし ろ、決まりにしろ、いかにゲストに「夢と魔法の王国」を体験させてあげる事ができるか を第一に考えている。どのテーマパークにも真似できないディズニーランドの「こだわり」 がそこには存在する。それゆえ、ゲストもそれに応え、何回もそこに足を運びたいと思う のではないだろうか。 魅力的なアトラクション。ディティールまでこだわった街並。暖かいキャストのサービ ス。それらを生み出す東京ディズニーリゾートに遊びに行った時の独特の幸せで楽しい気 持ち。「Disney Magic」と称えられるほどの魔法の時間。これは、アトラクションや街並 みやキャストのサービスから生まれている。しかし、それだけではないと思う。それは東 京ディズニーリゾートに遊びに来た「ゲスト」自身からも生まれていると思う。 「ウエスタンランドを歩いていると、目の前をウエスタンリバー鉄道が通り過ぎていく。 よく見てみると小さい女の子がこちらに向かって一生懸命手を振っている。照れくさい が自然と手を振り返すと、にっこり笑った女の子の笑顔が見える。」 アトラクションに乗っていて手を振る側か、手を振り返す側か。どちらかの立場に立っ たことがある人も多いと思う。このようなことにこそ人の気持ちを幸せにする魔法がある のではないか。ほかにも、「ディズニーランドにいると何か親切な人間になってしまう気 がする」など、なぜかディズニーリゾートの空気に包まれると、優しい気持ちになれる。 私達が東京ディズニーリゾートに何度も足を運ぶ理由は、アトラクションに乗ったり、シ ョーやパレードを観たり、と色々あるが、このような「みんなの幸せな顔を観る」という ことも理由の一つだったのではないか。 文献一覧 1. 有馬 哲夫『ディズニー千年王国の始まり』NTT 出版 2001 年 2. 粟田 房穂『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社 2001 年 3. 河野 英俊『ディズニーランドの接客サービス』ぱる出版 2003 年 4. 小松 浩一『ディズニーランドの超人材活用術』ぱる出版 2004 年 5. ディズニー・インスティチュート (月沢 李歌子訳)『ディズニーが教えるお客様を感 動させる最高の方法 』日本経済新聞社 2005 年(原書 2001 年)

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6. 富田 隆『ディズニーランド深層心理研究』こう書房 2004 年

7. 西村 秀幸『 ディズニーランドの魔術商法に学ぼう』エール出版 2004 年

8. ハミルトン、リッチ (箱田 忠昭訳)『ウォルト・ディズニーの成功ルール』あさ出版 2005 年(原書 2003 年)

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