博 士 ( 環 境 科 学 ) 河 原 哲 平
学 位 論 文 題 名
黄金色藻Ochr077/l07zas dan むロから得られた クロロスルフォリピッド類の立 体化学に関する研究
学位論文内容の要旨
黄 金 色 藻 (Chrysophyceae) Ochromonas danica は , 不 等 毛 植 物 門 (Heterokontophyta) に 属 す る 単 細 胞 遊 泳 性 の 植 物 性 鞭 毛 虫 で あ る . 1964 年 に Ochr omonas 属 か ら 魚 毒 性 が 示 さ れ て 以 来 , 動 物 プ ラ ン ク ト ン や 魚 類 に 対 す る 毒 性 , バ ク テ リ ア 成 長 阻 害 活 性 , 赤 血 球 溶 血 作 用 な ど が 報 告 さ れ て い る . 毒 性 物 質 は 界 面 活 性 剤 様 の 極 性 物 質 だ と 示 唆 さ れ た が , 単 離 さ れ て お ら ず 構 造 は 不 明 で あ っ た , 一 方 で , O . danica は , ク ロ ロ ス ル フ ォ リ ピ ッ ド (CSL) と 呼 ば れ る 含 塩 素 長 鎖 脂 肪 族 硫 酸 エ ス テ ル 化 合 物 を 大 量 に 有 す る こ と が 知 ら れ て い る . リ ン 脂 質 二 重 膜 を も た な い 〇 . danica に と っ て , 双 極 性 の 脂 質 で あ る CSL 類 は , 生 体 膜 構 成 成 分 と み な さ れ 毒 性 評 価 の 対 象 と さ れ な か っ た . ま た , 粗 画 分 を 加 水 分 解 し て 得 ら れ た CSL の 推 定 構 造 は 10 個 以 上 報 告 さ れ て い る が , 天 然 の 状 態 で 単 離 さ れ て い な い た め 生 理 活 性 評 価 は ざ れ て お ら ず , そ の 後 研 究 は 途 絶 え て い っ た , 近 年 , ア ド リ ア 海 産 の イ ガ イ か ら 細 胞 毒 と し て 得 ら れ た CSL は , そ の 構 造 の ユ ニ ー ク さ と 貝 毒 と の 関 係 か ら 滓 目 さ れ , 2009 年 に 全 合 成が報告さ れた.
本 研 究 は , 微 細 藻 類 な ど の 抽 出 物 を 対 象 と し て ブ ラ イ ン シ ュ リ ン プ に よ る ス ク リ ー ニ ン グ を 行 い
( 第 1 章 ) , 強 い 毒 性 を 示 し た 〇 , danica の 毒 性 物 質 解 明 を 目 的 と し た , ま た , 各 種 ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー に よ る 分 離 で 得 ら れ た 化 合 物 の 立 体 化 学 構 造 の 解 析 ( 第 2 , 3 , 4 章 ) と , 構 造 活 性 相 関 の 評 価 お よび生合成 経路の考察(第5 章)を行な った.
〇 , ぬ を ロ の 培 養 液 (430L ) を 遠 心 分 離 で 培 地 を 除 去 し , 藻 体 を 有 機 溶 媒 で 抽 出 し た . ヘ キ サ ン , ク ロ ロ ホ ル ム , 酢 酸 エ チ ル , ブ タ ノ ー ル , 水 で 分 画 さ れ た 粗 抽 出 物 を 生 物 試 験 し た 結 果 , ク ロ ロ ホ ル ム,酢酸エ チル,ブタノール の3 画分に 毒性が確認された ,
第 2 章 で は , 〇 . danica の 抽 出 物 か ら 得 ら れ た 酢 酸 エ チ ル 可 溶 性 画 分 に 含 ま れ る 毒 性 物 質 の 分 離 と 構 造 解 析 を 行 な っ た , シ リ カ ゲ ル お よ び ODS カ ラ ム ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー で 分 画 し , ELSD 検 出 に よ る 逆 相HPLC で 精 製し た結 果 ,主 要なCSL である2 ,2 ,11 ,13 ,15 ,16‑hexachlorodocosane‑l ,14‑disulfate(1 ,LCso 2.2l‑l,g/mL) とともに、2 ,2 ,11 ,13 ,15 ,16‑hexachloro‑14‑docosanol‑l‑sulfate (2 ,LCs0 0.27 Ug/mL) と2 ,2 ,11 , 13 , 15 , 16‑hexachlorodocosane‑l , 14‑di01(3 , LCso 冫 30 Ug/mL) が 得 ら れ た . こ れ ら は , HR‑ESI‑MS で 分 子 式 (1: C22H4008Cl6S2 , 2 : C22H4005Cl6S , 3 : C22H4002Cl6) が 決 定 さ れ , IR か ら 1 と 2 に 硫 酸 エ ス テ ル の 存 在 カ ミ 示 さ れ た . 1D お よ び 2D NMR ス ペ ク ト ル か ら 3 つ の 部 分 構 造 を 決 定 し , ESI‑MS/MS に よ り 部 分 構 造 間 の メ チ レ ン 鎖 長 を 決 定 す る と 共 に 塩 素 と 硫 酸 エ ス テ ル の 結 合 位 置 を 確 認 し た . 立 体 構 造
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の 決 定 は , 1H‑NMRか ら 得 ら れ る 3JHHと , 異 種 核l´ 分 解 ス ペ ク ト ル か ら 算 出 し た 遠 隔CHカ ッ プ リ ン グ 定 数 を 組 み 合 わ せ て 立 体 配 置 を 求 め るJBCA法 を 用 い た . 電 気 陰 性 度 の 高 い 塩 素 原 子 はJBCAに お い て 酸 素 原 子 と 同 様 に 扱 え る こ と か ら , こ れ を 応 用 し 相 対 立 体 構 造 を 決 定 し た . 絶 対 立 体 構 造 を 明 ら か に す る た め に1を 酸 加 水 分 解 し て 得 ら れ た ジ オ ー ル 体(1a)を ぽ ) ‐ お よ び(S)‑MTPAClで 処 理 し ,(S)‑お よ び(R)‑MTPAジ ェ ス テ ル を 得 た . ニ っ の MTPAエ ス テ ル の 1H NMR化 学 シ フ ト を 比 較 し た 結 果 , 硫 酸 エ ス テ ル が 結 合 す る 不 斉 炭 素 が S配 置 だ と 決 定 で き , す べ て の 不 斉 中 心 の 絶 対 立 体 が 明 ら か に な っ た . 化 合 物 2を 加 水 分 解 し て 得 ら れ た ジ オ ー ル 体 2aと 3は , 1aと1H NMRス ペ ク ト ル が 一 致 し た た め , こ れ ら が 同 じ 相 対 立 体 配 置 を 有 す る こ と が 示 さ れ た , さ ら に 、 こ れ ら が す べ て 右 旋 性 を 示 し た こ と か ら ,絶 対 立体 配 置も 一致 す ると 決 定し た .
第 3章 で は , ブ タ ノ ー ル 可 溶 性 画 分 か ら 毒 性 物 質 を 探 索 し た . 化 合 物 の 分 離 は 第2章 に な ら っ た が , CSL類 が 高 極 性 で 粘 性 の 高 く ,ODSな ど の 一 般 的 な HPLCカ ラ ム で は ピ ー ク が ブ ロ ー ド に な り 分 離 が 困 難 で あ っ た . カ ラ ム を 種 々 検 討 し た 結 果 ,MeOI‑UH20,MeCN/H20溶 媒 系 で は , C30カ ラ ム が 良 好 な 分 離 を 示 し た . そ の 結 果 , 主 要 成 分 の1と 共 に11,13,15,16‑tetrachlorodocosane‑l,14‑disulfate(4),11,1 3,15‑trichlorodocosane‑l,14ーdisulfate(5),13‑chlorodocosane‑l,14‑disulfate(6),14‑chlorotetracosane‑l,15‑di sulfate(7), docosane‑l,14‑disulfate(8)が 得 ら れ た . こ れ ら は1と 同 様 に ,2D NMR,ESI‑MS/MS,JBCA 法 に よ り 平 面 構 造 と 相 対 立 体 構 造 を 決 定 し た . 化 合 物 4‑7の 絶 対 立 体 配 置 は , 新Mosher法 に よ り 決 定 し ,8は 旋光 度 を文 献 値と の比 較 によ り 決定 し た.
第 4章 で は , 低 極 性 な が ら 活 性 を 示 し た ク ロ ロ ホ ル ム 画 分 の 分 離 を 行 っ た . 活 性 を 指 標 と し た 各 種 ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー に よ る 分 離 の 結 果 ,1と 新 規CSLの2,11,13,15,16‑pentachlorodocosa‑l‑ene‑l,14‑disul fate(9), お よ び ポ ル フ ィ リ ン 骨 格 の pyropheophorbide a(10)が 単 離 さ れ た . 化 合 物9の 平 面 構 造 は 他 の 化 合 物 と 同 様 に 決 定 し た が , NMR測 定 中 に 分 解 し た た め 立 体 化 学 配 置 は 未 決 定 で あ る . 化 合 物 10は , 標 品 と1H NMRが 一 致し たこ と によ り 同定 し た.
単 離 し た 化 合 物 の う ち , 最 も 強 く 活 性 を 示 し た の は , 10(LCs0 0.025 Vg/mL)で ,CSLの 中 で は ,2 の み が 強 い 活 性 を 示 し た . 他 の ニ 置 換 硫 酸 エ ス テ ル 化 合 物 の 活 性 は ,LCs0 2.2‑6.9 yg/mLで あ っ た , こ の 結 果 は , 活 性 に は 硫 酸 エ ス テ ル が 必 要 で , 塩 素 原 子 の 有 無 や 数 に 依 存 し な ぃ こ と を 示 し た ,Pyr opheophorbideaは 強 い 毒 性 を 示 し た が , こ の 化 合 物 の 含 有 量 が CSLsと 比 較 し て 微 量 で あ っ た こ と と , 低 極 性化 合 物で あ るこ とか ら ,CSLが 本 藻の 主 要な 極性 毒 性物 質 であ る .
今 回 得 ら れ た CSLsの 立 体 配 置 は す べ て 同 じ で あ っ た . こ の こ と は , 同 一 生 合 成 経 路 上 に あ る こ と を 示 唆 す る と 共 に , ア リ フ ァ テ ィ ッ ク 硫 酸 ジ ェ ス テ ル か ら 段 階 的 な 塩 素 化 が 行 な わ れ , 最 終 生 成 物 が 生 合成 さ れる こ とを 示唆 す る.
本 研 究 に よ り , 1960年 代 か ら 問 題 と な っ て い た 本 藻 由 来 の 毒 性 物 質 が CSL類 で あ る と 示 さ れ た . ま た ,本 研 究で 初 めて 主要 毒 性成 分1の 絶対 立 体配 置が 決 定さ れ た.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
黄金色藻Och7‑07n07zas da7zica から得られた クロロスルフォリピッド類の立体化学に関する研究
ク 嵒 ロ ス ルフ ォリ ピッ ドは 、1970 年 頃か ら知 られ る黄 金色 藻Ochronionas dan 丘誼 が生 産す る多 数の 塩素 と硫酸 エステルを有する特異な構造の脂質である。クロロスル フォリピッ ドが 、仇 ぬ伽 ―餌 こ報 告さ れ た毒 陸の 本体 であ るこ とが 示唆 され たが 、単離さ れておらず 毒陸 を確 認で きな かった 。混合物から化学分解後平面構造が決定されたが、立体 化学にっい て も 不 明 の ま ま で あ っ た 。 長 く 報 告 が 途絶 えて いた が、 2000 年前 後に アド リア 海産 の貝 毒で 知ら れる イガ イから 細胞毒陸物質として構造類似のクロロスルフォリピッド が報告され た。 特異 な構 造と 貝毒の 関係から注目されるようになり、イガイのクロロスルフ ォリピッド は2009 年 に全 合成 が幸 1 モ告 され た。 海洋 環境 の観点からも、有機化学の観報か らも非常に 注目 され てい る彡 手子で ある。しかしながら、最も代表的なクロロスルフォリピ ッドである 仇 由 伽 m 伽 as 由 来の 本脂 質は 、単 離に す ら成 功せ ず、 約40 年経 過し てい た。 そこ で、 申請 者は、本課題に取り組んだ
ま ず、 申請 者が 本課 題に 取 り組 んだ きっ かけは、 学位論文第1 章に示されるよ うに微細藻 類に対するブラインシュリンプ毒陸のスク リーニングの結果であった。〇丑mmD .ぬas の毒陸 物質 を探 索す るこ とは、 長年謎のままであるクロロスルフエリピッドの単離に取 り組まをけ れ ば な ら な い こ と が 予 想 さ れ た が 、 申 請 者 は 果 敢 に そ の 課 題 に 取 り 組 む こ と と し た 。 〇.出n え誼 を抽出後、溶媒分画したところ、毒陸は複数の画分に分散したが、丁寧に各画分 か ら 毒 陸 成 分 の 精 製 に 取 り 組 ん 尨 毒 陸 成分 の高 速液 体ク ロマ トグ ラフ イー によ る検 出は ELSD を用 いる こと で成 功し 、 C30 のカ ラム を最 終的に用いることで、長辞ニ不司 能であった 仇ゐ田りm 伽as のクロロスルフォリピッドの単離を成し遂げた。結果的 には、毒陸のある複数 の画 分か ら精 製し 、塩素 6 個を有する主要成;分を含 む9 種類のクロロスノレフォ リピッドと p 卩0pheoph ()m )idea を単離した。クロロスルフォリピッド類の分子式の決定にあたっても、
過去 には 混乱 があ った が、 ESI ー MS ‐ MS に より 明快にそれぞれの塩素茄よぴ硫酸 工ステルの
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