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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 武 田 貴 志

     学位論文題名

    Unusual Covalent Bonding at Peri ―position of Naphthalene Derivatives: Ultralong Carbon ―Carbon     Bond and IsolableC ― HBridged Carbocation

(ナフタレン誘導体のベリ位における特異な共有結合性:極度に伸長した      炭 素 ― 炭 素 結 合 と 単 離 可 能 な C ー H 架 橋 カ ル ボ カ チ オ ン )

学位論文内容の要旨

   ヘ キサ フェ ニル エタ ン 型化 合物はアリール基間の 立体反発により エタン結合 が標準値(1 .54 A) と比 べて 伸 長 す る こ と が 知 られ てい る。 この よ うな 長い 結合 はジ ラ ジカ ル性 やプ ロ トン の挿 入な ど、 結 合解 離エ ネル ギ ー が 小 さ い 弱 い 結合 とし ての 特 異な 物性 や反 応性 を 示す こと が期 待 され る。 これ まで に 1.7A を超 える 非 常 に 長 い 炭 素 一 炭素 結合 を有 する 化 合物 がい くっ か報 告 され てき たが 、 結合 伸長 に由 来す る 特異 な反 応の 探 索 は十分に行われてき たとはいえない。本研究では 、1 ,1 ,2 ,2 .テトラアリ ールアセナフテン1 を基本骨 格と し て 持つ 新規 なへ キサ フ ェニ ルエ タン 誘 導体 が、 極度 に伸 長 した 炭素 一炭 素結 合を有することを明らかに し、

結 合 伸 長 の 由 来 の 解明 を行 った 。ま た 、結 合が わず かな エ ネル ギー によ っ て大 きく 結合 長を 変 える 、結 合の ソ フト 性 を見 出し 、 長い 結合へのジラジカル性 の寄与について詳細に検討し た。この誘導体の伸長した C ―C 結 合 に 対 し て プ ロ ト ン が 挿 入 し た と み な せ る カチ オン 種2 +は 、ナ フタ レ ンの ペリ 位に 非常 に 近接 した C ー H

… C+ 部 位 を 有 す る こと から 三中 心二 電 子結 合を 形成 する こ とが 期待 され る 。ヘ テロ 元素 化合 物 の場 合と は対 照 的 に 純 有 機 的 な [ C − H − Cl+ 型 三 中 心 ニ 電 子 結 合 の 研 究 例 は 非 常 に 限ら れて おり 、 McMurry やSorensen ら に よ っ て 超 強 酸 中 で そ の 発 生 が 報 告 さ れ て い る が 、 い ま だ に 単 離 は さ れ て い な い 。 そ こ で 、 単 離 可 能 な

[C ―H ―C]+ 型架橋カチオンの発生・単離と 構造 解析 を目 指 し、 一連 の誘導体2 +の単 離 と 固 相 及び 溶 液中 での 構造 解析 を 行っ た 。 本 論 文は 以 下の ニ章 より 構成 さ れて ぃ`る。

  

A

2 (FormA

   第 1 章で は新 規 にデ ザイ ンした1 ,1 , 2 ,2 .テトラアリールピラ セン誘導体を合成し、これら が普遍的に1 .7A を 超 え る 長 い 炭素 一 炭素 結合 を有 する こ とを 明ら かに し た。 はじ めに ジア リ ール メチ レン 部位 と なる スピ ロ (10‑ メチ ルア クリ ダン ) がニ っア セナ フテ ン 骨格 に組 み込 ま れた la か ら研 究を開始し、この ものが1 .696(3)A と い う 非 常 に 長 い 結 合 を 有 す る こ と を 低 温X 線構 造解 析 によ って 明ら かに し た。 更に 、も う一 方 のペ リ位 を 五 員 環 に よ っ て 縮 環 し た ピ ラ セ ン 骨 格 3a に す る こ と で 更 な る 結 合の 伸長 が 認め られ た[1.707(2)1.771(3)

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A] 。ここで認 められた1.771(3)A の結合長 は、これまでに報告されている信頼性のあるX 線構造解析で決定 さ れた 結合 長の 中で最長の値である。先のla と3a の大きな違いは、la のアセナフテン骨格では、ねじれ ることでスピ ロアクリダン間の立体反発を避けることが出来るのに対し、ピラセン3a では、もう一方のぺ り位に五員環 が縮環していることによってねじれ配座が取りにくくなっていることである。更に3a では同 一結晶中に配座の異なる分子が共存し、それらの間で大きく結合長が異なるという珍しい現象が観測された。

X 線構造解析によるとニつのアクリダン部位が重なった分子は結合が伸長し[1.771(3) ,1.758(3) Al 、ねじれ た配座の分子は結合が短い[1.712 (2) ,1.707(2) A] ことが確かめられた。これはアリール基間での立体反発を 3a では結合の 伸長、もしくはねじれ配座をとることのいずれかで解消 していることを示している。DFT 計 算[B3LYP16‑31G ^]によると、重なり形、ねじれ形の両配座間の相対エネルギー差はlkcal/mol 以下であり、

両配座がとも にエネルギー極小構造であることから、結晶中では格子工ネルギー程度の小さな摂動によって 両配座が共存 したと考えられる。ジヒドロピラシレン骨格を有する4a についても、結晶中での両配座の共 存、重なり形 においてより長い結合長とをるという特徴が確認された。la の電解酸化をUV‑ Vis スベクトル で追跡すると 、長い結合の切断を伴い、対応するジアクリジニウムヘ変換されていく様子が観測され、エレ クトロクロミ ズム系となることが確かめられた。またこれら誘導体は、パラトルエンスルホン酸やトリフル オロ酢酸のよ うなBrransted 酸を作用させ ると長い結合が切断されジカチオンへと変換された。3a において は酢酸程度の 弱酸でも解裂が起こることから、長い炭素ー炭素単結合への直接的なプロトン付加の可能性が 考えられたが 、NMR 追跡によってこの反応 は長い結合へのプロトンの挿入を経ずに、酸によって促進され る酸素分子による酸化反応であることが確かめられた。

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   次に長い結合に対するジラジカル性の有無を明らかにすることを目的とし、アリール基上にラジカル安定 化能の異なる種々の置換基を導入した1 ,1 ,2 ,2 .テトラアリールピラセン誘導体3b‑3j を合成した。3 に対しジ ラジカルの寄与がもしあれぱ、より大きな原子間距離を持っジラジカル化学種が共存する結果として、見か け上結合が伸長したX 線構造が得られることになる。即ち、ラジカルを安定化する置換基を組み込んだもの がより長い結合を持っという測定結果が得られるはずである。しかし、低

温 条件 での X 線構造解析の結果、 すべての誘導体で1.7A を超える非常に 長い炭素一炭素単結合を有しているものの、その結合長の置換基効果は上 記の予想と は全く一致しなかった。また、フェニル体 3h においてラジカ ル 捕捉 材で ある Bu3SnH や Et3SiH を作 用さ せても全く反応せず、ジラジ カル性は無 視できるほど低いことが確かめられた。

73―

Ar substituents

4‑Me(3b), 4‑Me0(3c), 4‑Cl(3d) 3,5‑Me2(3e), 4JBu(3f),3‑Me(3g) H(3h), 4‑F(3i), 3‑F (3j)

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  第2章 で は 、 初 め て の 単 離 可 能 な [C−H―C] + カ チ オ ン を 目 指 し 、 分 子 内 ト リ ア リ ー ル メ タ ン ― ト リ ア リ ー ル メ チ リ ウ ム 錯 体 の2a ‑e+ 単 離 を 行 っ た 。 la, 3aの 長 い 結 合 ー の 直 接 の プ ロ ト ン 化 に よ る 合 成 は 不 可 能 で あ っ た こ と か ら 、 最 終 段 階 で あ ら か じ め 左 右 を 非 対 称 化 し た 前 駆 体 か ら カ チ オ ン を 発 生 さ せ る 段 階 的 な 合 成 を 行 い 、 目 的 の カ チ オ ン を 単 離 す る こ と に 成 功 し た 。 こ の こ と に よ っ て 、pKR+の 大 き な ト リ ア リ ー ル メ チ リ ウ ム 部 位 を 組 み 込 む こ と で 架 橋 型 カ チ オ ン を 安 定 化 し 、 単 離 可 能 に す る と い う 分 子 設 計

M e

2a+:R=H      2d+:Ar=An 2b+ : R‑R = CH2‑CH2         2e+ : Ar= Ph 2c+: R‑R = CH=CH

の 有 効 性 が 確 認 さ れ た 。 こ れ ら の 固 相 及 ぴ 溶 液 中 で の 構 造 に つ い て はX線 構 造 解 析 、 温 度 可 変NMRに よ っ て 詳 細 に 解 析 を 行 っ た 。X線 構 造 解 析 に よ れ ば 、 一 方 の ト リ ア リ ー ル 炭 素 部 位 の 結 合 角 の 和 が360° とsp9混 成 の 平 面 構 造 を 有 す る 一 方 で 、 他 方 はC―C―C結 合 角 の 和 が340゜ 程 度 とsp3混 成 の 標 準 値 に 近 い 値 を と っ た 。 ま た 、C―H…C+部 位 の 架 橋 水 素 と 両 端 の 炭 素 と の 原 子 間 距 離 は ト リ ア リ ー ル メ タ ン 側 が 通 常 のC−H結 合 の 値[2a+: 0.97(6)A,2b+: 1.03(3)A,2c+: 0.99(4)A,2d+mむ1:0.91(5)A,2d十m01.2: 1.22(7)A,2e+:0.95(2)A]を示 す 一 方 で 、 ト リ ア リ ー ル メ チ リ ウ ム 側 は そ れ よ り も は る か に 大 き な 値[2a+: 2.12(5)A,2b+: 2.13(3)A,2c+ : 2.19(3)A,2d+I110111:2.39(4)A,2d十mol・2:2.15(3)A,2e+: 2.35(2) A]を 有していた。これ らの結果より固体 状態で はFor rriAの よ う に 水 素 原 子 は 片 側 に 局 在 化 し て い る こ と が 確 か め ら れ た 。 ま た 、 溶 液 中 室 温 で 測 定 し た NMRス ペ ク ト ル は 三 中 心 結 合 を 有 す る と 考 え て 矛 盾 の な い の ャ 対 称 で あ っ た 。 し か し 、 低 温 で は 岱 対 称 の ス ペ ク ト ル を 与 え 、 ピ ー ク の 分 裂 が 観 測 さ れ た 。 こ の よ う な 温 度 に よ る ス ペ ク ト ル の 変 化 は こ れ ら の カ チ オ ン が 非 局 在 化 構 造FormBで は な く 局 在 化 構 造FormAを と り な が ら 分 子 内 で ヒ ド リ ド シ フ ト し て い る こ と を 示 し て い る 。acetone‑心 中 で の シ フ ト の 活 性 化 障 壁 は 、2a+( く8kcal/moDく2b+ (10.1 kcal/moDく2c+

(10.9 kcal/moDの 順 に 大 き く な り 、 こ れ は 結 晶 構 造 解 析 で 求 め た 炭 素 … 炭 素 原 子 間 距 離[2a+: 2.951(9)A, 2b+:3.004(4)A,2c+: 3.031(4) A]と 正 の 相 関 が あ る 。 一 方 で 、 フ ェ ニ ル 体2d+、 ア ニ シ ル 体2e+の 比 較 か ら は 、 ト リ ア リ ー ル メ チ リ ウ ム 部 位 のpKR+と 活 性 化 障 壁 の 相 関 は 認 め ら れ な か っ た(2d+: 9.8 kcal/mol,2e+: 9.6 kcal/mol in CD2Cl2)。 完 全 に 非 局 在 化 し た [CーH―C]+型 カ チ オ ン の 構 築 に はC―H…C+部 位 を よ り 近 接 位 に 強 制 さ せ る 分 子 設 計 が 必 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、2b,c゛ に お け る 低 温 で の13C NMRス ペ ク ト ル で は ア ク リ ダ ン 、 ア ク リ ジ ニ ウ ム のC9位 の 化 学 シ フ ト は そ れ ぞ れ ア リ ー ル ア ク リ ジ ニ ウ ム 、 ア リ ー ル ア ク リ ダ ン 部 位 を 持 つ4+,5の も の と ほ ぼ 等 し く 、 ア ク リ ダ ン のC−H結 合 定 数 も 前 駆 体5の 場 合 と ほ ぼ 同 一 で あ っ た 。 ま た 架 橋 水 素 を 重 水 素 化 し た2a‑cび を 合 成 し こ れ ら の9H NMR測 定 を 行 い 、 ヒ ド リ ド シ フ 卜 反 応 の 活 性 化 障 壁 の 差 が 重 水 素 体 と 軽 水 素 体 と の 間 で 非 常 に 小 さ い こ と を 確 か め ( 〜 lkcal/moD、 こ の ヒ ド リ ド シ フ ト に お い て は ト ン ネ ル 効 果 が な い こ と を 明 ら か に し た 。 ま た 、 重 水 素 体 と 軽 水 素 体 で の そ れ ぞ れ の 架 橋 プ ロ ト ン の 化 学 シ フ ト に 有 意 な 差 が 認 め ら れ な か っ た こ と は[A8(lH,2H)= −0.01Nー0.02 ppml、 こ の カ チ オ ン で は 非 局 在 化 し た 三 中 心 結 合 が エ ネ ル ギ ー 極 小 構 造 に な ら な い こ と を 示 唆 し 、 ニ つ の 炭 素 の ど ち ら か 一 方 に 水 素 が 局 在 化 し て い る ダ ブ ル ミ ニ マ ム の 構 造 で あ る こ と を 示 し て い る 。 以 上 の 結 果 は す べ て 、 固 体 構 造 と 同 様 、 溶 液状 態においても局在 化構造(Form心を有している ことを示すものであ る。

7 4 ‑

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S ザ ぎ 冲 。

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学位論文審査の 要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授 准教授

鈴 木 孝 紀 澤 村 正 也 稲 辺    保 加 藤 昌 子 藤 原 憲 秀

     学位論文題名

    Unusual Covalent Bonding at Peri ―position of Naphthalene Derivatives: Ultralong Carbon ―Carbon     Bond and IsolableC − HBridged Carbocation

(ナフタレン誘導体のベリ位における特異な共有結合性:極度に伸長した      炭 素 一 炭 素 結 合 と 単 離 可 能 な C ― H 架 橋 カ ル ボ カ チ オ ン )

   学位申請論文で申請者は、有機化学の最も基本的ぬ特性である炭素一炭素間の共有結合の新た

な側面を引き出しました。これまで合成された約 2000 万種類の有機化合物で、炭素―炭素単

結合の長さは15 4pm でありほとんど変化することはありません。一方、立体的な反発など特

殊な状況を分子に付与することで、結合が伸びることは知られていますが、容易に結合切断が起

こる不安定な物質になってしまうため十分な研究は行われてきませんでした。申請者は、結合切

断が起こった場合にも、それに続く化学変換反応が起こりにくいように工夫しながら分子設計を

行うことで、結合長が177pm と世界で最も長い結合を持つ物質の発生、単離、詳細な構造解

析に成功しました。このような究極の物質を提示することで、結合が長くなると結合エネルギー

は直線的に減少するというこれまでの考えが正しくないことを実験的に示し、更には、非常に伸

ぴた結合は容易にその長さを変化させられるという「共有結合のソフトな性質」を見出していま

す。また、 2 つの炭素原子間に水素原子が挿入された形の架橋型炭素陽イオン種は、3 中心2 電

子結合を形成しえるモチーフとして、以前超強酸中での発生とNMR を用いた溶液中での挙動の研

究がされていましたが、単離不可能な不安定種であったため、スペクトル測定、理論計算以外の

研究は進んでおりませんでした。申請者はその化学種を安定化できる新たな分子設計を行い、単

離可能な初めての誘導体を発生させ、これにより溶液状態での検討ばかりでなく、結晶構造解析

を通じた詳細な構造解析に成功しています。それらはいずれも架橋水素が一方の炭素原子により

近い、非対称型の構造でありましたが、化合物の系統的な検討から、非局在化した3 中心 2 電子

結合を得るための指針を導くことにも成功しています。以上は構造有機化学および物性有機化学

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分野において非常の高く評価される成果であり、よって申請者は、北海道大学博士(理学)の

学位を授与される資格あるものと認めます。

参照

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