4.1 児童の実態
4.プロジェクト実習実践の実際及び考察
4.1 児童の実態
実践に先立ち,児童の実態を把握するため,実践学年である現任校の6年生に対して,
表4−1の設問を用意した。(テスト問題は巻末資料皿参照)
この調査は,現任校の児童の,「叙 述を根拠にして自分の考えを述べる こと」の実態を把握する目的で行っ た。また,同様のテストを授業実践 後にも行い,結果を比較して変容を
表4−1読解力測定テスト(事前)の設問データ 問題番号 側面
問一 情報の取り出し 問二① 解釈の展開 問二② 情報の取り出し 問二③ 解釈の展開 問三 幅広い理解の形成 問四 内容の熟考・評価
問題形式 短答
多肢選択 自由記述 自由記述 自由記述 自由記述
捉えることも行う予定である。よって,この調査を「事前調査」,実践後の調査を「事後 調査」と呼ぶ。検証の対象とする設問は,「叙述を根拠にして自分の考えを述べること」
を問う,表4−1の「内容熟考・評価」(説明)とした。
測定テストに使用した文章は「ごんぎつね」(新美南吉・作 東京書籍『新しい国語 四年下』所収)の中の一場面である。問四の設問文は次の通りである。
回の場面で,ごんは「うなぎのつぐない」として,いわしやくりや松たけを兵十の家 に持って行きました。もし,あなたがごんで,「うなぎのつぐない」をしょうと思っ たら,何をしますか?ごんがとった以外の方法を考え,それがなぜ「つぐない」と言 えるのか,物語の内容にふれながら説明しましょう。
この熟考・評価の設問が内容に即して解答できるよう,それ以前の設問(問一〜問三)
において,ごんが兵十に対してつぐないを行う動機の解釈を促している。そのため,ここ に至るまでに,児童はなぜごんがつぐないをしょうと思ったのかを理解している。よって,
「ごんが取った以外の方法」を思考させることで,「自分の知識や経験とテキストの内容 を結び付ける」思考活動が生まれるように仕組んでいる。
以下に,この間四の採点結果等を元に,現任校の児童の「叙述を根拠にして自分の考え を述べること」についての実態の分析を行う。
4,1児童の実態
■問四(熟考・評価の設問)の採点基準
表4−2 間四における採点基準
採点の種類 採点基準
正答
部分正答 誤答
①意見を明確に述べている②根拠となる叙述を引用し ている③内容に即した理由を述べている④自分の経 験と結び付けているの4要素を満たした記述となってい
る。
意見を明確に述べた上で,残り3つの要素のうち1つ以上 の要素を含んだ記述となっている。
意見以外の要素がない,または無答。
熟考・評価の設問である問四の採点基準を表4−2のように設定した。①〜④の要素は,
「自分の考えを述べるワザ」に即したものである。
■問四(熟考・評価の設問)の採点結果
表4−3 問四の採点結果別人数集計
採点
舘貧答笹鱒誤 △刀頭部〒止
正答
解答の類型 問いに対して無答(白紙)
題意に即していないなどの,完全な誤答
自分の考えは書けるが理由や根拠が無いか,または書いていても内容に即 していないなど不適切
「引用」「適切な理由づけ」
自分の意見を示している
「経験との結び付け」のうち1っ以上を示しながら 根拠を示しながら自分の意見を明確に述べている
人数 2名 5名 12名
9名
0名
熟考・評価の設問である二四の採点結果は表4−3の通りであった。無答率は低く,自分 の意見や解釈を表現しようとする意欲は高いものの,叙述をもとに読もうとする意識が低
く,そのために主観や憶測に基づいた解釈が多かった。
特徴的な誤答例(図4−1,図4−2)と部分正答例(図4−3)を次頁に示す。
76
4.1児童の実態
■熟考・評価の設問における特徴的な記述の例
、
方法ばぐ ち弘彦︑と︑ぎ魂
渠3やざり乞あげる
・琴か釜あ羨レξ魯ら宙き っ2唇ハ挫蕪 G 7
ノ
﹁兵十がしょぽんとしている﹂ことを示す叙述は存在せず︐根拠のはっきりしない主観や憶測で﹁理由﹂を述べている︒r ㌧
︑ ノ﹁自分の考え﹂︵方法︶がそもそも題意︵ごんがとった以外の方法︶に即していない︒ ㌧
ノ方法 ン∠︑を頭じ都︑箋・︑芝・甘口丸
締. ュ三三讐嚢等
「引用」「理由」が不適切な誤答例 記述が題意に即していない誤答例 図4−2
図4−1
事前調査では,根拠に基づいて熟考
・評価できたと判断できた児童は一人
もいなかった。
自分の考えの理由を説明した児童は
多数いたが,「何でもあり」の憶測に過ぎない解釈に陥った児童が大半を占め た。これは,特定の根拠となる叙述を 示さないために,叙述から離れて憶測 で考えたためと思われる。叙述に即し て妥当性のある解釈をすることができ ていない,という児童の実態が浮き彫
りになった。
τー二塁一 ノ
方
彰に謝賢雪丸
理由 レにた︸ミ
︑
一
︑屡εて馨気韻ち︽ちをつ︑9です
1
、
ノ
〆 ﹁理由﹂が内容に即しており︐主観や憶測とは言えないが︐﹁根拠﹂が見当たらず︐なぜごんが反省しているかが見えてこない︒ ﹂
「理由」が適切であるが,
部分正答例
「引用」がない 図4−3
4.2 単元の構想
4.2 単元の構想
1 単元名 自分の意見をせっとくカを持って言おう/ドラガンが名人と言えるか評価しよう 皿 使用教材 主教材「ばらの谷」(高山貴久子・作 東京書籍「新しい国語 6年上」)
副教材「あいさつ」(工藤直子)
皿 単元の目標
○ 複数の解釈が可能な課題に対して,根拠となる叙述を示し,その叙述の言葉の意味 を説明しながら自分の意見を述べることが自分の主張の説得力が増すという,叙述 を根拠に自分の考えを述べることのよさに気づいている。(言語についての知識・
理解・技能)【技能目標:プレ単元】
○ 物語の人物に対する自分の評価を,叙述を根拠にして述べている。(言語について の知識・理解・技能)【技能目標:本単元】
○ 中心人物・ドラガンの言動や様子を表す叙述を基に,ドラガンの考え方や変容を読 み取り,自分の生活や経験と関連づけながら,ドラガンが名人として相応しい人物 かについての自分の考えをまとめている。(読むこと)【内容目標:本単元】
N 基 盤
O教材観(教材分析表に基づく教材分析は,巻末資料IX参照)
本研究は,「叙述を根拠に示しながら叙述への意味づけを行い自分の考えを述べるこ と」を生かした読みの力を育むことをねらいとしており,本単元は一連の指導の導入と なる位置づけである。本学級の児童は,こうした指導を今までに受けているわけではな く,先に示した実態把握からも,丁寧な指導が必要であると思われる。そこで,本単元 では教科書に所収されていない「あいさつ」(工藤直子・作)を教材文として,「根拠と なる叙述を示しながら叙述への意味づけを行い自分の考えを主張すること」自体と,そ のよさを理解する学習活動を,単元の冒頭で指導するように位置づけた。「あいさつ」
を選んだ理由は,教材分析によって明らかとなった「描かれている生き物の名前が明ら かになっていないが,特徴を示す叙述がいくつもあり,複数の解釈が可能な学習課題を 作るのに適している」「文量が短くて言葉遣いも平易であり,ねらいとする学習活動が 成立しやすい」という教材文の特徴からである。
主教材「ばらの谷」は,中心人物・ドラガンが何年もの月日を重ね「ばらの美しさ」
を最大限に引き出そうと情熱を傾け続け,村の人々はこぞって褒め称えるが,満足のい く色のばらがっくれずに倒れてしまい,再び起きたときに目に入った自然のばらの色の 美しさに気づくという物語である。本教材は,ドラガンの行動や心情描写を中心にして 物語が進行していく。卓越した技術を持っていることがうかがえるばら職人であるドラ ガンは,村人を見下すような言動があったり,思いこみが激しく狭隆な人物像がうかが えたりする一方,自然本来の美しさに気づいたときに幼児のような純粋さをもった人物 として描かれてもいる。本作品は,ドラガンの人物像が読み取れる叙述が多数ある。そ
一 78
4.2 単元の構想
れらの叙述からは,ドラガンについて「傲慢さ」や「思い上がり」という捉え方もでき るが,一方で「純粋」「探求心がある」という捉え方もできる(表4−4参照)。つまり本 作品は,ドラガンという人物について相反した評価を持てるという特徴がある。この特 徴は,読み取った人物像を自分の生活経験や知識と関連づけながら評価するという,熟 考・評価を行うのに適していると言える。
表4−4文章から捉えることができるドラガンの人物像
〈段落〉 〈人物像が読み取れる主な叙述〉
団i,あいつらには,ばらのことなど,何も
〜1分かりはしないんだ。」「そうだ,白い色 ユ〜1こそ,ばらにはふさわしい。」等
回i l
<叙述が許容する人物像の読み>
r写π筋7簾訂二蘇認証
1−Cがある,勉強家樋,孤独
:囮1夜明けから日ぐれまで,ぶつぶつ独り言
コ〜1を言いながら,青いばらを作ることばか
〜1り考えていました。「…そもそも,ほかの コ〜1花にまねのできない色でなければいけな
〜iいんだ…」張りつめた糸がぶつんと切れ
〜iるように,とうとうたおれてしまいまし
コ囹1た。等
,
(一)他者を見下す傲慢さ,自信過剰,
1自己中心的,プライドが高い,短気等隔
㍉麓,一ノ_._._,_.A「/ ノ,.一,_,」)
c寄τ郷二嶽τ1 諒錠;貸
1ばれる努力家,純粋,健気,一本気質1
1(一)思い上がり,傲慢さ,集中力が1
\ 、
隔︑亀\
ある,根性がある,職人気質,気難し1
1い,視野が狭い 等 簡
l l
l l
、」V!」一.!一! !n!一!一!窟!AV!一!」Vノ」J
ドラガンの変容→自然本来のもつ美しさへの気づき
囹iドラガンははだしのまま畑へ飛び出すと,
コ〜1その小さなばらにかけ寄りました。「これ コ〜1が,ばらの花なのか……。」「これまで,わた 〜1しは,いったい
コ囮1何をしてきたのだろう……。」等
1
π写照魏『覇7灘劇軍、
聖
隔 亀㌧置ノ」■r,n,躍.一.置.耀.耀,躍,層ワ層r/2
︑陶︑陶\唾︑亀
なお,中心人物ドラガンの問題(欠損・追求)は,「今作っているあわいピンクのば らの美しさに満足できず,さらに美しい色のばらを作り出すこと」ことである。また,
ドラガンの解決(充足・発見)は,「自然に咲いているあわいピンクのばらの美しさに 気づいたこと」である。このことから,本作品は物語スキーマの枠組みに即した構造を
しており,ドラガンの問題と解決を把握することで,ドラガンの変容の因果を理解させ ることができることが分かった。
O児童観
本学級は男子17名,女子14名,計31名の学級である。本学級の児童は素直で明るい性 格の児童が多く,それが授業にも反映され自由なつぶやきがよく出る雰囲気がある。一
4.2 単元の構想
方で,学力的,情緒的に支援を要する児童のために,簡潔で分かりやすい指示や個別の 対応が求められる場面もある。担任ではないため個々の学習状況は把握できていないが,
読解力測定テスト・事前調査の結果(4.1参照)からは,熟考・評価の設問に対して「根 拠を示しながら自分の意見を明確に述べている」ことができた児童は一人もいないこと が明らかとなった。解答の記述では,叙述に基づいて文章を読む姿勢が充分に確立され ておらず,憶測に過ぎない解釈に陥る傾向が見られた。これらのことは,本学級の児童 は,叙述に即して妥当性のある解釈をすることが,あまり得意ではないという実態を示
している。
O指導観
本単元は,まず叙述を根拠に自分の考えを述べる「有用性」を感じさせることをねら いとする,副教材を使用するプレ単元を行い,その後,本教材を使用して熟考・評価に 取り組む通常単元を行う。
プレ単元では,短い詩「あいさつ」(工藤直子・作)を提示し,多義的な解釈が可能 で平易な学習課題(「ここにえがかれている生き物は何でしょう」)について,まず考え
させる。そして,思い思いに解釈を発表させたあとで,「誰の意見が説得力がありまし たか。」と投げ掛ける。そうすることによって,説得力を持つ意見の「ヒミツ」を探る 活動へと視点が移り,宝探しのようにその要素を見出す作業が行われる。「○○さんみ たいに考えると説得力のある意見が言えるんだよ」という頭ごなしの指導をするではな く,説得力の鍵となる「□□さんの意見の説得力のヒミツは,○○と△△にあるに違い ない」と言った要素を,児童から「引き出す」ことが鍵である。この過程を踏むことが,
第3章の手立てiの項でもふれた,井上(2007)1)の「思考を要するような問題場面・問題 状況の設定」「経験したことをまとめて抽象化・一般化し,知識という形での定着」,北 尾(1991)2)の「自己を高めたいという欲求」,及び,佐藤(2007)3)の「活用のよさや活用 することの意義を実感する」という,思考力の定着や転移を促す条件を満たしていると 考えるからである。以上のことは,第3章で示した「手立てi」に相当する。
本教材「ばらの谷」を使用する学習では,プレ単元でその有用性を理解した,「叙述 を根拠に自分の考えを述べること」をねらいとして指導する。学習課題については,中 心人物・ドラガンの人物像が,プラスイメージ・マイナスイメージの二面性が読み取れ ることが教材分析により分かった(前掲表4−4参照)ことから,「ドラガンはばら作りの 名人と言えるか」と設定した。単元を貫く言語活動を設定し,その中で繰り返し取り組
1)井上尚美『思考力育成への方略 一メタ認知・自己学習・言語論理一〈増補新版〉』,明治図書,2007年,pp.
27−28
2)北尾倫彦『学習指導の心理学:教え方の理論と技術』,有斐閣,1991年,pp.1−3
3)佐藤佐敏「思考スキルが転移する可能性:文学作品を解釈する思考スキルは,他の作品を読むときに転移 するか」,全国大学国語教育学会発表要旨集112,2007年,pp.119−122
一80一
4. 2 単元の構想
むことによって「自分の考えを述べるワザ」の定着を目指す。以上のことは,第3章で示 した「手立てi」に相当する。
「ドラガンはばら作りの名人と言えるか評価しよう」を単元を貫く言語活動の課題と すると,学習者は,評価の材料となる叙述を見出したり,叙述への意味づけをしたりす るなどの読むための目的が生まれ,そのように読もうとする。その反復の中で,ドラガ ンの心情や考え方,変容という学習指導要領「C読むこと」の指導事項を身につけてい
くことが期待されるのである。以上のことは,第3章で示した「手立て血」に相当する。
以上のことから,単元の目標を達成するための指導の手立てを次の3点とする。
i叙述を根拠に主張することのよさを,経験を通して実感させる。(プレ単元)
li叙述を根拠に自分の考えを述べることを伴う言語活動を設定し,単元を貫いて目的 意識を持たせる。(本単元)
世 「述べ方のワザ」を継続的に言語活動の中で活用させ,読むカとともに定着させる。
(本単元)
なお,本単元について教科書が設定している学習課題は「物語が強く語りかけてきた ことを考えながら読もう」であり,中心人物の変容などを手がかりに,物語の中心的な テーマを捉えることが学習活動として示されている。このことを考慮し,ドラガンの変 容を捉える指導も学習指導過程の中に位置づけたい。
以上の指導内容について,ドラガンを評価することは,学習指導要領「C読むこと」
内容の指導事項「工 登場人物の相互関係や心情,場面についての描写を捉え,優れた 叙述について自分の考えをまとめること」及び「オ 本や文章を読んで考えたことを発 表し合い,自分の考えを広げたり深めたりすること」と整合している。
V 単元の観点別目標
○ 登場人物の心情や変容,場面の情景について,叙述に根拠を求めながら読み取ろう としている。(国語への関心・意欲・態度)
○ 中心人物の生き方や考え方を読み取り,自分の生活や経験と関連づけながら,名人 として相応しい人物かについての自分の考えをまとめている。(読むこと)
○ 人物の心情や変容,場面についての描写を捉え,物語の中心的なテーマを捉えてい る。(読むこと)
○ 中心人物が名人として相応しいかについての自分の意見について,根拠となる叙述 を明確にしながら書いている。(書くこと)
○ 叙述に根拠を求めながら解釈や意見の理由を説明している。(言語についての知識 ・理解・技能)
4.2 単元の構想
VI 単元の評価規準
表4−5 「あいさつ」「ばらの谷」の単元の評価規準 国語への
ヨ心・意欲・態度 書く能力 読む能力
言語についての m識・理解・技能 ア叙述に根拠を求め ア ドラガンが変容した因 ア叙述を基に人物の心情や相互関 ア叙述に根拠を求
ることの有用性 果を元に,物語のあ 係を読み取っている。 めながら自分の に興味を持って らすじを書いている。 イ読み取ったことを元に,ドラガ 考え(解釈や詠
いる。 イ ドラガンが名人として ンが名人と言えるかどうかにっ 価)を説明する イ登場人物の心情や ふさわしいかについ いての自分の考えをまとめてい ことの良さを理
変容,場面の情 ての自分の意見を, る。 解している。
景について,叙 説得力を持たせるよ ウ物語の大まかな内容を捉え,印 イ叙述を根拠にし 述に根拠を求め うに気をつけながら 象に残ったところや疑問に思っ て自分の考えを ながら読み取ろ 書いている。 たことを読み取っている。 述べている
うとしている。
皿 二時の目標及び評価の計画(プレ単元(先行学習)1時間,本単元8時間,計9時間)
表4−6 「あいさつ」「ばらの谷」の単元における各時の目標及び評価の計画 次プレ①
@
@
@ 時
1
1
2
3
4・
5
6
7
8
各時の目標
叙述を根拠に理由を説明しながら自分の意 見を形成することの有用さに気づくことが
できる。
初読後における,物語に対する印象が残っ た場面・表現や,疑問に思ったことなどを 感想として発表する。
叙述の語り方の違いによる人物像の捉えを 意識しながら,ドラガンが名人と言えるか
どうかについての評価を行う。
展開場面において,ドラガンのばら作りに 対する考え方や倒れた時の心情,村人たち のドラガンへの思いを読み取り,ドラガン が何ができて,何が足りなかったのかとい う視点から読み取ったことを判断材料とし て,ドラガンが名人と言えるかどうかにつ いての評価を行う。
ドラガンの変容を根拠にして,自然の美し さに気づいたドラガンが名人と言えるかど うかについての評価を行う。
ドラガンが変容した原因を捉え,あらすじ
を書く。
ドラガンが名人と言えるかどうかについて の自分の評価について,叙述を根拠に説明 することができる。
評価基準
叙述に根拠を求めながら解釈や意見を説明すること の有用性を理解している(言語ア)
印象に残ったところや疑問に思ったことを感想とし て書いて発表している。(関ア)
物語の大まかな内容を捉え,印象に残ったところや 疑問に思ったことを読み取っている。(読工)
ドラガンのばら作りの技術や考え方,もしくは,村 人のドラガンに対する思いを読み取った上で,自分 なりの基準を明らかにしながらドラガンを名人かど
うか評価している。(読ア・ウ)
叙述を根拠にして自分の考えを述べている。(言語イ)
ドラガンがなぜあわいピンクのバラが美しく見えた かについて読み取った上で,自分なりの基準を明ら かにしながらドラガンを名人かどうか評価している。
(読ア・ウ)
ドラガンが変容した原因を読み取り,物語の中心的 なテーマを捉えている。(読イ)
ドラガンが変容した因果を元に,物語のあらすじを 書いている。(書ア)
ドラガンが名人としてふさわしいかについての自分 の意見について,根拠を示し,その叙述の言葉の意 味を説明しながら自分の意見を論述している。(書イ)
一82一
4.2 単元の構想
V皿 単元の指導計画(この単元で使用した主なワークシートを巻末資料Xに掲載する)
表4−7 「あいさつ」「ばらの谷」の単元の指導計画 次
プレ単元 時 1
−・2
1
2
3
4
1
2
主な学習内容
①工藤直子「あいさつ」の詩を音読し,
この詩に描かれている生き物の名前を 推論する。
②考えたことを発表し合う。
③どのような説明が説得力があると感じ たかについて,各自で思ったことを伝 え合う。
④学習のまとめをする
教師の支援
・「ヒントになる文が必ずあるから探し てごらん」と声掛けを行う。
・根拠をもとに理由を説明している児 童を例として取り上げ,事前に準備 した根拠や理由のない意見を提示し 比較させ,そのよさを感じ取らせる。
研究の視点 叙述を根拠に 自分の意見を 述べることの 内容及びよさ の理解
手立てi 叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性の理解
①自分なりの「名人とは」の基準を持ち,
発表し合う。
②教師の範読を聞きながら物語の大まか な内容を捉え,初発の感想を書き,交 流する。
①第1・2場面を音読する。
②叙述の語り方の違いに着目して,人物 像がうかがえる叙述を探し,人物像を 読み取る。
③ドラガンの人物像についてのイメーージ を形成して発表し合い,1回目の評価を 行う。
①第3・4・5場面を音読する。
②ドラガンのばら作りに対する考え方と 繰り返しばら作りを模索する姿,村人 のドラガンへの態度を表す叙述から,
ドラガンの人物像を形成する。
③ドラガンの2回目の評価を行う。
①第5場面を音読する。
②ドラガンができたこと,ドラガンに足 りなかったことに着目し,ドラガンの 人物像を読み取る。
③ドラガンの3回目の評価を行う。
①第6・7場面を音読する。
②ドラガンの変容について,物語の前後 と結び付けながらその原因を考える。
③ドラガンの4回目の評価を行う。
①ドラガンの変容をストーリーマップに まとめ,物語の中心的なテーマをとら える。
②ストーリーマップを参考にして物語の あらすじを書く。
①ここまでの言語活動を基に,構想メモ を立てた上で,ドラガンについての評 価文(簡易ブックレポート)を書く。
・友だちと基準が違っててもいいので 自分で考えることを強調する。
・「ドラガンってどんな人?」と投げか け,「だれがそう言っているの」と 問うことで語り方に着目させる。
・児童の反応に合わせながら,「地の文」
「村人の会話文」「ドラガンの様子 や言動の叙述」の違いに着目させ,
それぞれの観点ごとに区別して人物 像を整理させる。
・「そんなドラガンのことをどう思う か」と考えさせることで,評価させ やすくする。
・ワークシートに評価の尺度(線分図)
を示し,評価させやすくする。
・根拠となる叙述や理由がない場合は,
「どこに書いてあるの?」「なんで そう思うの?」と声掛けを行う。
・必要があれば,「私は……と思います。
理由は,……と書いてあるので,…
・と思ったからです。」といった,
叙述を根拠に自分の意見を提示する 文型を提示し,自分の意見を持たせ
やすくする。
・自然本来の持つ美しさに気づけなか つたドラガンが,気づくようになつ たことを押さえる。
・ストーリーマップにマッピングする ことで,中心人物の変容についての 因果を分かりやすく把握させる。
・評価は,途中の評価ではなく,全部 を読み終えた今の評価にすることを
伝える。
熟考・評価に つながる,自 分なりの判断 基準の形成
活動ごとに,
「情報の取り 出し」一「統 合・解釈」一
「熟考・評価」
のプロセスに 沿って考えさ
せる。
手立て②単元動
4.3 授業の展開及び学習評価と指導評価
4.3 授業の展開及び学習評価と指導評価
ここから,プロジェクト実習実践の学習評価と指導評価を行う。学習評価とは,児童の 学習目標に対する評価を,指導評価とは授業者(筆者)の指導の妥当性の評価を指す。そ れぞれ,資料(ワークシートの記述や発話記録)に基づいて,客観的に評価する。
4.3.1 プレ単元「あいさつ」の学習の展開及び学習評価と指導評価
表4−8 プレ単元授業計画
学習活動
1.「あいさつ」の詩を音読し学習のめあてを確認する匿魎 主発問「この詩の生き物は何なのか,できるだけせっとく力のあ
る説明をしよう。」
2.あいさつをしている生き物を個別に推論する。
3.考えたことを発表し合う。厘:蓋鋼
〈予想される児童の反応〉
・「しっぽによびかける」と書いてあるから,しっぽのある生き物だと思うから,犬(ネ コ,うさぎ,牛,馬,等)だと思うよ。
・「むこうのくさむらから」答えが返ってくるということは,頭としっぽが離れているわ けだから,へび(とかげ,しっぽの長いネコ,等)だと思うよ。
・「ぼくはあんしんして」と書いてあるから,散歩中はしっぽの姿は草むらにかくれて見 えていないから,ヘビだと思うよ。
4.どのような説明が説得力があると感じたかについて,各自で思 ったことを伝え合う。
5.学習のまとめを行う。匠麺
あいさつ
さんぽをぼくは﹁おおいするとしつぼが﹁げんきぼくは しながらしつぼに よびかけるげんきかあ﹂むこうの くさむらからハキハキ へんじするびんびん﹂あんしんしてさんぽをつづける
図4−4 詩「あいさつ」
(工藤直子・作)
あいさつをしている生き物を個別に推論する一人学びで,児童は表4−9のように捉えた。
表4−9 学習者の一人学び段階(学習活動の2)の様子
・児童が推論した生き物の候補(複数解答あり)
へび・・・・・・・・・・… 13名 トカゲ・
ヤモリ・・・・・・・・・… 4名 犬…
きつね,カメ,草,犬が二匹・各1名
・推論に対する理由が書けていた児童・・・… 4名
名名
8 り白表4−9の通り,推論に対する理由を28名中24名の児童が書けていなかった。児童間の通 り,自分の考えの理由を述べることが苦手な児童が多いことがうかがえた。
84
4.3授業の展開及び学習評価と指導評価
■授業(学習活動の3及び4)の流れの概略
授業は,主に次の2名の児童の意見を中心として展開していった。
A児:トカゲかヤモリだと思いました③。理由は,「むこうの草むらから①」って書い てあるから,しっぽがとれるからあてはまる②し(周囲から「しっぽが切れることだ よ」と説明が入り,「あ一」という声があがる)「元気びんびん①」というのも,切れ たしっぽがびくびくするから②,そうじやないかな,と思いました。
B児:ぼくはAさんに反対でヘビだと思います③。「さんぽをしながら①」と書いてあ りますが,しっぽを切るときはだいたい天敵から逃げるときで,そんなのんきに散歩 なんかしない②と思います。ヘビは全体的に長いので,しっぽが遠くにあって②「むこ
うの草むら①」から「元気びんびん」って言っているのにも合っていると思います。
授業ではこのあと,「頭」と「しっぽ」の距離が近いか遠いかについて考えさせた。そ の中で,子どもたちは生き物の「おおい」というセリフに着目し,かなり遠くにむかって さけんでいる様子を読み取ることによって「遠いと思う」と判断した。このように,叙述 を根拠として考えさせることを意識しながら授業を進め,比較的胴が長い生物である「ト カゲ」でも「ヘビ」でもあてはまることに徐々に気づいていき,この2名の児童の意見に は説得力があったということに落ちついた。
授業の最後に,「今のAさんとBさんの意見は説得力があると思いました。つまりこの 中に,なるほど!と思わせる秘密が隠されています。どんな秘密が隠されているか探して 下さい。」と投げかけた。その際,「ぼくはネコだと思います。何となくそう思ったから です」という架空の意見も並べ,この二者の意見と対比させることで有効な要素を探り当 てる手がかりとした。
児童からは,次の意見が出てきた。
C児:AさんとBさんの中には,文章の中で使われている文(下線部①)が入ってい
る。
D児:AさんとBさんの意見には,説明(下線部②)がある。
この際,具体的に二名の児童のどの記述を指しているかを全員で確実に共有するために,
C児,D児両名が言っているのが黒板の二名の児童の記述のどこにあたるか,サイドライ ンを引かせた。そうすることで,「説得力のある意見に含まれる要素」を全体で確認する ことができた。最後に,こうした活動を通して獲得した知識を一般化するために,「文章
4.3 授業の展開及び学習評価と指導評価
の中で使われている文」を「しょうこの文」(または「根拠となる文」)とよぶことと,「説 明」を「理史」とよぶことを全体で確認した。また,残りの部分(下線部③)を「意見」
とよぶことも確認した。
最後に,本隊の学習評価として,授業後の児童の感想の記述を分析してみた(表4−10)。
これら児童の記述より,学習用語としての「しょうこの文」「理由」が定着していたこ とや,叙述を基に自分の考えを述べることへの関心や理解が高まったことがうかがえた。
表4−10 授業後の児童の感想記述の類型化に基づく本時の学習評価
①叙述を根拠に自分の意見を述べることへの関心・意欲・態度が高まった記述 ・これからしょうこの文や理由を使っていきたいと思った・… 5名 ・説得力のある説明ができるようになりたい・・・・・・・… 3名 ・勉強したことを生かしていきたい・・・・・・・・・・・… 2名
i(例)私は最初,あいさつをしている生き物はなにかのところで分からなかったけど,i i しょうこの文が分かればやりやすいことが分かりました。これから,こういつたi 文章をやるときは,勉強したことを生かしたいです。
(例)人に何か説明するときは「ああ」とか「わかりやすい」と言ってもらえるように・
がんばりたいと私は思いました。
一 旧 讐 一 _ _ _ 一 帰 r 一 一 一 一 _ 一 一 昂 9 t 一 一 曽 一 _曽 _ 一 一 暉 騨 騨 一 一 冒 一 曽 一 一 ρ _ 暉 騨 _ , 曜 一 一 一 一 , 一 一 一 _ _ 一 一 _ _ } 辱 , _ 曜 − 一 一 J
②叙述を根拠に自分の意見を述べることに対する理解が高まった記述 ・しょうこの文を示すことで説得力が高まることが分かった… 9名 ・理由を示すことで説得力が高まることが分かった・・・・… 8名 ・○○さんが説得力のある説明をしていた・・・・・・・・… 6名 ・説得力があると自分の意見に自信が持てることが分かった… 1名 ・説得力のある説明の仕方が分かった・・・・・・・・・・… 1名
(例)今日の勉強で分かったことはしようことなる文や理由があれば,せっとく力のあi る意見が言えるということです。
(例)私はトカゲと思ったけどそんなにしょうこの文や理由が見つけられなくて,Aさ,
んやBさんはすごいなあと思いました。
(例)しょうこの文があることで,相手にどれくらいせっとくさせられるか,と言うこ とがわかりました。常にこのことを意識していきたいです。
1瞬騨}冒一凹一_一_甲,}一一 一藺 ____,騨一9層一_一_,r 胃層一一一一____一一一,}胴一顧_一__一__一一用 一一一 讐___一_一一甲_雫一騨一卿一,一一曽_一一一J
③叙述を根拠に自分の意見を述べることに関して自分を振り返ったことがうかがえる記述 ・しょうこの文をぬき出すのは苦手だと思った・・・・・・… 1名
・自分は説得力がないから勉強になった・・・・・・・・・… 1名 ・しょうこの文や理由を考えて書くことはむずかしかった・… 1名 ・自分の意見を持つことは苦手だと思った・・・・・・・・… 1名 ・せっとく力のある説明をすることはむずかしいと思った・… 1名 ・今日のめあてが達成できたと思った・・・・・・・・・・… 1名
(例)私は今日の勉強のめあてが達成できたと思います。自分の意見をもつのはにがてi だけどがんばることができました。 1 (例)ぼくはせっとく力がないけど今日でほんの少しだけじしんがもてました。あと今i 日はじめてしったたいせつな言葉はしょうこの文です。ばくはしようこの文をぬi
きだすのがにがてだからです。 i
1
一86一
4.3授業の展開及び学習評価と指導評価
4.3.2 プレ単元「あいさつ」の学習の指導評価
(1)結論
本項では,プレ単元における授業者(筆者)の指導の妥当性の評価を分析する。分析が 長くなってしまったため,結論から述べる。わずか1時間の取り組みではあったが,詩「あ いさつ」を用いて,叙述を根拠に自分の考えを述べることの有用性を感じさせるための指 導が有効だったかどうかについて,発話記録を元に考察結果,指導が概ね有効であり,有 効だった指導の要因として次の5点が導き出された。
①教材文が多様な解釈を生み出すのに適していた。
②「説得力」というキーワードを結び付け,授業のねらいと位置づけた。
③鍵となる叙述へ着目させることができた。
④引用や理由づけがない意見を同時に示し,対比させることで重要な要素を見出させ ることができた。
⑤学習用語として身近な言葉へ置き換えた。
この5点を導き出した考察の詳細について,(2)で示す。
(2)「あいさつ」の学習の指導評価の分析
授業では,指導のねらいに即した見本とも言える意見(詩に登場する生き物の推論)が 出てきたことで,「しょうこの文」や「理由」などの,着目させたかった要素を児童が見 出すことができた。こうした理想的な意見が児童から出てこなかったら,本時の活動は成 立しない。そこで,まず,児童から理想の意見が出てきた要因を考察した。
一つ目に,教材文が多様な解釈を生み出すのに適していたことが挙げられる。本甲でも へび,トカゲ,ヤモリ,犬,きつね,カメ等,様々な生き物が意見としてでてきた。二つ 目に,「説得力のある意見を出しましょう」と児童に投げ掛けたことが挙げられる。この 時,「説得力のあるという意味は,みんなに「なるほど」と思ってもらえる意見のことで すよ」と言って黒板に掲示した上で,「今日の授業は,これを身につけるためのワザを身 につけてもらいます。」と,本甲が何のための授業であるのかを明確に告げていた。こう した,児童に抽象的ながらも引き出したい意見の要素に結び付くような言葉がけを行った ことと,「説得力」というキーワードを結び付け,授業のねらいと位置づけたことが,根 拠を基にした意見を児童から引き出したことにつながったと思われる。三つ目は鍵となる 叙述へ着目させられたことである。本時では,へび,トカゲ,ヤモリ,犬,きつね,カメ などが詩にえがかれている生き物の候補として児童から出ていた。しかしながら,頭が「む こうの草むら」にいるしっぽに「おおい」と呼びかけているところがら,頭としっぽには
4,3授業の展開及び学習評価と指導評価
一定の距離があることが分かる。つまり,しっかりと叙述の意味を考えれば,出ている意 見の中でもさらに妥当性が高い意見はそれか,つまり,どの意見が説得力を持っているか が絞られるため,ここを気づかせることができるかどうかが鍵だと思っていた。そこで,
児童が頭としっぽの距離感にこだわりだしたらしっかり考えさせようと思っていた。この 部分の発話記録を表4−11に示す。
表4−11 プレ単元授業の頭としっぽの距離感が話題だった部分の発話記録。ゴシックは指導についての評価で,
Oは有効だったと,△は課題があると思われる教師の発言。以下同じ。
C2:「むこうの草むら」をC1さんはすごく遠くって感じているんだけど,ぼく的にはあまり遠くではない 感じなので…
T:他の人どう思う?
○ここの「むこうの」という叙述からいだく距離感が,登場している生き物を推論する大きな手がかり である。また,叙述に即して読むことにもつながる。よって,ここで機を捉えて立ち止まり,児童に 思考を促したことはよかった。
△ただ,授業者からの切り返しが,「どう思う」という抽象的な言い方。「何を」考えればよいのか具体 的に言わないから何を言っていいのかが分からない児童もいたはず。例えば,「他の人は,「むこう」
は遠く感じる?近く感じる?」と具体的に問い返すべきであった。そうしないと,置いてきぼりにな る児童が出てくる。
C4:草むらが近かったら「そこ」とか雷うと思う C5:近くても遠くても「向こう岸」とか言うから
C2:草むらのかたまりが1こ2こ3こ,というのを想像していて,ヘビのしっぽがとなりの草むらにあ れば,ヘビから見れば向こうの草むらと言える
T:何が何に呼びかけているの?「おおいげんきかあ」は?
C:あたま
T:「げんき びんびん」は?
C:しっぽ
T:あたまやしっぽは,今,草むらにいるのいないの?
C5:頭はいない。草むらに呼びかけていてしっぽも草むらから言っているから,同じところにはいない C6:もし頭が草むらにいなかったら,しっぽは「向こうの草むら」とは言わないよ。
O「AかBか」といった具体的な二項対立の投げ掛けをすると,児童は思考の根拠を叙述に求めようと する。叙述に即して思考する手がかりとして具体的な二項対立ば有効な問い方である。
T:草むらの中に絶対あるのは何?
C:しっぽ
T:草むらの中にしっぽはある。頭は?
C:分からない。 C:どっちもあり。
T:大事なのは…頭がしっぽにどう呼びかけていますか C:「おおいげんきかあ」
T:近い?遠い?
0やはり二項対立で思考させることによって,叙述に即して読もうとさせている。
一88一
4.・3授業の展開及び学習評価と指導評価
C:ちかい……あ,いや,遠い T:なぜそう思うの
C:「おおい」って書いてあるから
○「理由」を問う「なぜそう思う?」と,根拠を問う「どこからそう思う」は常に意識して切り返した い。ここでは,根拠となる叙述を見出させることができている。
T:「おおい」って近いの遠いの?
C:遠いと、思う。
T:もう一つ,遠いことの証拠があるよ C:「むこう」
△理由の突っ込みが足りない。改善例;T:「なぜ,おおいって呼ぶのが遠いと思うの?」C:「声を張り 上げているから,遠くの方に話しかけているように思える」など。根拠となる叙述を見出すまでだけ では読解したことにならないのではないか。叙述に即したイメージ形成を促す言葉がけが必要だった。
「むこう」も同様。
C2児が,直前のC1児の発言の中の「むこうの草むら」が気になり,距離感の話題を出し た機を逃さず,授業者が全体に切り返したことがうかがえる。切り返し方が上手くはなか ったものの,その後C4, C5などにこの話題が全体に広がっていったことがその後の記録か らうかがえる。その後も,「近い?遠い?」といった二項対立で思考させるなどしてこだ わり続けた結果,距離感を根拠に,「トカゲかヤモリ」を提示したC1児の意見と,「ヘビ」
を提示したC2児の意見が全体から支持された。つまり,教材分析の結果見出した鍵となる 叙述に児童を出会わせ,叙述にこだわって生き物を考えさせることができた点が,最終的 に理想的な意見を児童から引き出すことが出来たことにつながったのだと考える。
続いて,引き出した意見から,「根拠となる叙述の引用」や「理由づけ」という「説得 力のある意見の要素」を抽出し,一般化する活動である。ここで有効だったと考える手立 ては,「わざとこれらの要素がない意見文を同時に示し,対比させることで重要な要素を 見出させる」ことだと考える。こちらも,発話記録を表4−12に示す。なお,この授業場面 では,C1案とC2案,そして対比対象の意見(「ぼくはネコだと思います。何となくそう思 ったからです。」)の3っの文章が黒板に書かれている。
表4−12 説得力があると思う要素を抽出する活動の冒頭場面の発話記録。
T:勉強にもどるんだけど,今日の勉強のめあては何だった?
C:説得力のある意見を言おう
T:説得力のある説明をしょうと言うことだったよね。今のClさんとC2さんの意見は説得力があると思い ました。つまりこの中に なるほどと思わせる秘密が隠されています。どんな秘密が隠されているか 探して下さい。
4.3授業の展開及び学習評価と指導評価
○「根拠となる叙述の引用」と「理由の提示」などを見出させる言葉がけとして,「ヒミツを探そう」と くだいた言葉で児童に投げ掛けている。「しょうこ」と同様,子どもにとって身近で,かつ,イメー ジしゃすい言葉に置き換えることで活動に入りやすくさせている。
T:さあ,これを見て下さい。(対比対象となる意見の提示)
ぼくはネコだと思います。何となくそう思ったからです。(並河作成・黒板に掲示)
T:これは説得力があると思いますか?
C:ないと思う。(多数)
T:そうですが。では,こちらになくて,二人の意見にあるものを探してみることで,ヒミツを探し当て て下さい。
0ただ単に「秘密を探しましょう」ではなく,対比して考えさせるという思考方法も提示しているため,
児童は考えやすいと思われる。
△ここですぐに挙手・発表に移ろうとしている。ここは時間を取って考えさせないといけなかった。
このあと,児童は「引用」「理由」の要素を発見した。その際,つまり,これら説得力 を引き出す要素を知識として一般化する際,全体に確実に理解させるため,「強調」「リ フレイン」「身近な言葉への置き換え」を行い,丁寧に指導した。以下,「引用」につい ての授業場面の発話記録を表4−13に示す。
表4−13 根拠となる叙述の引用が説得力のある意見のための要素であることを児童が発見した場面の発話記
録。
C7:C2 ん C1 の には, 章の ・われてい が っている。
T:今,C7さんが言ったことはどこに書いてありますか。前に出て線を引いて下さい。(注:黒板にC2・C1 の意見が板書してある)
C7:(前に出て,「むこうの草むら①」「元気びんびん①」「さんぽをしながら①」にサイドラインを引く)
T:みんなどう?
C:同じです。
O思考したことを一般化・抽象化して知識として定着させる重要な場面なので,確実に活動内容を理解 させたかった。C7は,「根拠となる叙述の引用」に気づいていた。そのことを発表したが,発言(音声)
だけでは全員が確実に理解できるとは思えなかったため,視覚的に共通理解できるよう板書された文 にサイドラインを引かせた。こうすることで,「ヒミツ」を具体的に理解させることができた。
T:ではみんなに聞きます。C7さんが言ったことをもう一度聞きます。 C2さんやClさんの意見の中には,
何があるのですか。もう一回誰か言ってください。
C8: からぬ した
○さらにくどいくらい強調している。
T:これがあると,説得力が強くなると思われます。これが第一。でもこの言い方は長いので,誰かもっ と短く言えない?
C4:しょうこ
T:しょうこ… C:(口々に)の文!
一90一
4.3授業の展開及び学習評価と指導評価
T:「しょうこの文」が一つ目です。
○学習用語を曖昧にせず,確実に押さえようとしているところはよい。なお,「根拠となる文」という言 い方は難しく感じるのではないかと思い,本実践では「しょうこの文」という言い方をした。
以上の検証より,押台の授業は,準備した手立ても展開もほぼ授業者の理想どおり進ん だことがうかがえた。また,前掲の表4−10に示した児童の感想に基づく学習評価からも,
適時における指導が,叙述を根拠に示すことで説得力のある意見の有用性を理解し,それ を使おうという意欲の醸成につながったと考える。
(2)で示した分析より,叙述を根拠に自分の考えを主張することの有用性を実感させ るための指導評価(指導において有効だったと考えられたポイント)をまとめると,(1)
で示した5点であると言える。
改めて,分析の結論として,この5つの指導ポイントを示しておく。
①教材文が多様な解釈を生み出すのに適していた。
②「説得力」というキーワードを結び付け,授業のねらいと位置づけた。
③鍵となる叙述へ着目させることができた。
④引用や理由づけがない意見を同時に示し,対比させることで重要な要素を見出させ ることができた。
⑤学習用語として身近な言葉へ置き換えた。
4.3.3 「ばらの谷」の学習の展開(第二次第1時)と学習評価
ここからは,「ばらの谷」を用いた授業の展開と学習評価を行う。授業の展開では,授 業でどのような活動が行われたかを,発話記録などで明らかにすることを目的とする。ま た,学習評価は,物語の内容面を読み取る「内容目標」についての評価と,本研究のねら いである「述べ方のワザ」の定着を目指した「技能目標」についての評価を行い,児童が どの程度目標を達成できていたか,典型的な個人または全体の割合から明らかにすること を目的とする。
対象とするのは,第二次の4時間に絞った。第二次では,「ばらの谷」の中心人物,ド ラガンの人物像を読み取り,ドラガンは名人と言えるのかについて,毎時間評価する活動 を行った。考察は,発話記録やワークシートなどの資料に基づいて,授業目標や研究目標 に対する学習評価を客観的に行った。なお,指導評価については細かいものについては時 折述べているが,大きいものについては別項(4.3.8)にまとめた。
4,3 授業の展開及び学習評価と指導評価
まず,第二次第1時から考察を行う。授業計画は表4−14の通りである。
表4−14 第二次第1時授業計画
学習活動
①第1・2場面を音読する。
②人物像がうかがえる叙述を探し,人物像を読み取る。
主発問:「ドラガンってどんな人ですか。説得力があるように説明してみましょう」
③ドラガンの人物像についてのイメージを形成して発表し合い,1回目の評価を行い,
発表し合う。
■学習の流れの概略
最初は,ドラガンを肯定的に捉えた発言が多かった。ただし,意見のみ発言する児童も 多く,「なぜそう思ったの?」「どこからそう思ったの?」と切り返す場面が多かった(表 4−15)。その後,ドラガンの言動を根拠にした発言ばかり続いたので,村人がドラガンを
どう思っているか,ドラガンが村人をどう思っているかに着目させ(表4−16),ドラガン と村人の相互関係を一言で表現させることで端的に捉えさせた(表4−17)。
表4−15 第二次第1時発話記録(1)
【例】
C1:「あいつらにはバラのことなど…」と書いてあるから,ばら作りの名人と言ってよいくらい力がある。
T:なぜそう思ったの?
C1:他の人は分からないってことは自分は全て知っていると受け取れるから
表4−16 第二次第1時発話記録(ll)
C2:村人はドラガンのことを,ばら作りの名人だから尊敬している。
C3:逆だと思う。尊:敬されていないように思う。最初の所に「ドラガンの畑にはばらの精がいるさ」って書 いてあって,その続きで「へえ,たしかにそうでなけりゃ〜」って書いてあるから,なんか,信じられ てないみたいな,なんか,ばらの精みたいなこと。
C4:それくらいすごいってこと。
T:一方の,ドラガンから村人はどうでしょうか C5:何も分からないど素人。
T:どこからそう思いましたか。厳しいね。 C5:「あいつらには,ばらのことなど〜」と書いてあるから。
表4−17 第二次第1時発話記録(皿)
T:今,尊敬とかぴたっと来る言葉があったけど,こんな,一言でパッと「ドラガンは村人をこう思ってい る」ということを一言で置き換えられる人いる?
C6:不安 C7:虫(虫けらのよう) C8:言い過ぎ C10:上から目線 T:上から目線のことを何と言う?
C9:格下 T:おもしろい言葉だね C11:見下す T:そう!
発話記録から,児童が根拠となる叙述を捉えながら発言をしていることがうかがえる。
本時は,根拠となる叙述を示しながら読んだり述べたりする活動の1回目である。にもか
一92一
4.・3 授業の展開及び学習評価と指導評価
かわらず,児童が当然のように根拠となる叙述を示しながら発言をしている。その要因と して,次の二点が挙げられる。
・プレ単元の指導が効果的だったから。
・「どこからそう思いましたか」といった,根拠となる叙述を意識させるような教師 による切り返しがあったから。
つまりこの二点は,物語文で叙述を根拠に自分の考えを持つ学習活動にスムーズに入る ための,有効な指導のポイントと言えよう。
■学習の評価
(1)内容目標についての学習評価
ここで時間が来たため,ここまでの材料を元に1回目 表4−18評価の種類(1回目)
の評価を行わせた。1回目は,「名人と言える」「名人と 評価の種類 人数 は言えない」の評価がきれいに分かれた(表4−18)。設 肯定的評価 9亀 甲場面のドラガンの人物像は,「村人からばら作りの巧 どちらとも言えない 8名 否定的評価 11名 みさを賞賛され,尊敬を受けている。一方,ドラガンは
そんな村人を見下し,思い上がっている。」という相反する評価が可能であるという,教 材分析の通りの結果となった。一方で,「どちらでもない」を選ぶ児童も多かった。
即時における代表的な児童の記述を表4−19に示す。
表4−19 第二次第1時におけるドラガンの評価の記述例。「児童の変遷」項目は,4回の評価活動におけるその 児童の評価の変遷を表している。5が肯定評価,3が中立,1が否定評価の5段階評価。O印が学習した 時間のもの。(以後,同じ)
児童 意見の変遷 本時におけるドラガンの評価の記述
C4 @一一2−4−4
C17 @一3−2−4
C19 e3一一1−1
C21 (3)一1−3−5
C14 @一2−4−5
ドラガンは村人を見下すような人だしあいつらにはばらのことなど何も分かりはしないん だって書いてあるから,自分が全て知っているんだと感じてぼくが思う名人ではないなと 思ったから。
ドラガンは今,ばらが好きじゃないと思います。自分が作ったばらを「このばらがうつくし いだって?」って言って美しいと思ってなくて,ばらが好きじゃなかったら名人と言えない と思います。
私の名人のイメージは「少し人に厳しい,がんこ,その分野のことをとても好きだと思って いる」というイメージがあります。私から見れば「村人たちに厳しすぎる,バラを全てつみ 取ってしまっている。」からです。特に,「バラを全てつみ取っている」ことは,養ほう家 にたとえるとハチを殺していることと同じです。養ほう家にとって,ハチは自分の子どもの ようなものです。
名人は,作るだけでなくそのものを好きということでほんとの名人になるけど,ドラガンは つくるのはじょうずだけどそのばらをすぐつみ取ってしまうということはすきじゃないとい うことだからどちらでもない
技術1よ1行や2行にも書いてあったように,みんなからもみとめられているし,名人だと思 うけど,村人を見下したりしていてえらそうなので,人としてだめだと思うので,まあ言え るにしました
ドラガンに肯定的な評価をした児童は一様に,C14のように全面的に肯定したわけでは なく,二面性を捉えた上で肯定感が勝ったという判断をしていた。いずれも,素直に叙述