不動産レポート 2018 5
都市未来総研の 30 年、
不動産市場の 30 年
はじめに
2017 年の 12 月 21 日に、 都市未来総合研究所 (以下、 本文中では都市未来総研。)
は設立から 30 年を迎えた。
株 式 市 場 の 経 験 則 と し て 「7の 年 は 株 価 が 暴 落 す る 」 「7の つ く 年 は 相 場 が 荒 れ る 」
な ど と い わ れ る と お り、都 市 未 来 総 研 が 設 立 さ れ た1987年 は、10月 に ニ ュ ー ヨ ー ク 証
券取引所で発生した株価暴落 (ブラックマンデー) が世界的な株価下落に波及した年
で あっ た。その10年後、 今から20年前の1997年は、 アジ ア通貨危機に続いて日本
では深刻な金融危機が発生した。さらに今から 10年前の 2007 年はアメリカのサブプラ
イム ・ ローン問題が顕在化し、翌 2008 年 9 月のリーマン ・ ブラザーズ ・ ホールディング
スの破たん (リーマン ・ ショック) と世界的な金融危機に繋がっていく。
国内外で経済環境や景気情勢が大きく変化したことと併せて、 日本ではこの 30 年間
に 少 子 高 齢 化 が 進 み 総 人 口 が 減 少 に 転 じ た こ と や、長 ら く 続 い た ( 続 い て い る ) デ フ
レ経済の下 『フォーマル、 インフォーマルな社会制度面、 (中略) 個別企業や個々人
のビヘイビアやマインドセット面の両方』
1
において 『市場機能の停滞と市場規律の喪失』
が生じたこと、このため、リスクテイクし、その結果を合理的に評価する態勢が衰微したこと、
金融機関や企業の行動様式において 『形式への集中、過去への集中、部分への集中』
2
が進み、 本質/将来/全体への視点が薄れたこと、 企業において 「攻めのガバナンス」
よりもリスクの回避 ・抑制や不祥事の防止といった側面が強調され、 健全な企業家精神
の発揮が疎かになった 3
ことなど、" 縮み志向 " の弊害が生じたと考えられる。2012 年以
降のアベノミクスによる成長期待の形成政策は、経済心理的には"縮み志向"に対峙
するものであったに違いない。
そして、 これらの環境変化に直接または間接の影響を受けて、不動産市場も様変わり
した。
以下本稿は、 この 30 年間に生じた " 基調と考えるもの " の変化について、不動産市
場の分析者の視点で整理し考察するものである。また、 過去に関する考察と併せ " これ
から " について、筆者なりの見通しを述べたいと思う。初めにお断りしておくが、このよう
な論考の性格上、本稿における考察や意見は筆者の私論 ・私見であり、必ずしも都市
未来総研やその株主を含む関係者の見解ではない。
執筆者 : 常務執行役員 主席研究員 平山重雄
1 株式会社産業再生機構 代表取締役専務(当時) 冨山和彦氏「産業再生機構の経験ー市場規律と経営統治の再構築」2006 年 2 月 21 日(独
立行政法人経済産業研究所 BBL セミナー資料 p11)、続く 『市場機能の停滞と市場規律の喪失』 も同じ
2 金融庁 「金融モニタリング有識者会議第一回会合 森金融長官による問題提起」 2016 年 8 月 24 日。金融危機時の対応として行った金融検査・
監督の手法をそのまま継続した場合のリスクとして、この三点を挙げた。
3 金融庁 コーポレートガバナンス ・ コードの策定に関する有識者会議 「コーポレートガバナンス ・ コード原案 ~会社の持続的な成長と中長期的
な企業価値の向上のために」2015 年 3 月 5 日では、『いわば 「攻めのガバナンス」の実現を目指すものである。本コード (原案) では、会社
におけるリスクの回避 ・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的
都市未来総合研究所 6
1. 1987 年、
1Q87
(1)
都市未来総研の設立経緯
今から 30 年前の 1987 (昭和 62) 年 12 月 21 日、東京都中央区で都市未来総研が
設立された。
安 田 信 託 銀 行 ( 当 時。 現、み ず ほ 信 託 銀 行 ) が 主 唱 し、「 同 社 は じ め 株 主 各 社 が
蓄積した (中略) 都市開発・地域開発及び新事業開発に関するあらゆるノウハウを結集、
(中略) 調査 ・研究 ・コンサルティング機能をきわめて実践的かつ具体的に発揮するこ
とを目指し」
4
たもので、金融機関による不動産分野の研究体制として先鞭
5
をつける もの
であった。 市場背景は今と異なるものの、 当時から都市未来総研は、 金融と不動産、 (不
動産を用いて展開される) 事業 6
が重なり合う領域を自社の活動領域と捉えていた [ 図表
1-1]。 また、 資本系列の枠組みを超えて41社の株主企業の参画を得て設立され、 主
要各社から出向者を迎えて業務にあたったことは、旧財閥系の 「ケイレツ」 が強く意識
された当時としては珍しく、 今流に、かつ多少の自画自賛を込めていうならば企業間の
共同研究 (Co-Innovation) や共同開発 (Co-development) の試みでもあった。
図表 1-1 都市未来総合研究所の会社案内
(1988 年 10 月時点)
出所 : 都市未来総合研究所 「会社案内」 1988 年 10 月 31 日付
4 都市未来総合研究所 「会社案内 ~知、情、意を尽くして未来を拓く」
5 翌 1998 年の 7 月に、信託銀行系の不動産分野の研究所 1 社と生保系で不動産分野を対象に含む研究所 1 社が設立された。
6 筆者が 1988 年秋の中途採用に応募した際、求人広告には 「起業家 (アントルプルヌール) 求む!」 とのヘッドコピーが大書きされ、不動産
不動産レポート 2018 7
(2)
当時の時代背景
① ブラックマンデーの影響を乗り越えて上昇続けた株価
さて1987年といえば、10月19日 (月曜日) にニューヨーク証券取引所を発端にし
て起きた株価の大暴落 「ブラックマンデー」 によって世界は同時株安に見舞われた [ 図
表 1-2]。一方、 日本では 10 月 20 日に日経平均株価が 14.9%下落
7
したものの、 年が
明けた 1988 年の初めから他の主要国に先駆けて反転上昇を始め、1988 年 4 月初旬に
はブラックマンデー前の株価を取り戻した。以降も株価は上昇を続け、1989 年の 12 月
29 日には終値で 38,916 円となる最高額に到達する。
図表 1-2 不動産市場に影響を及ぼしたとみられる、
30 年間の主な出来事
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000
1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017
過去30年の主な出来事と日経平均株価
(円)
(年) ブ ラック マンデ ー
1987.10.20
終値21,910
株価ピー ク 1989.12.29
終値38,916
バブ ル後最安値 2009.3.10
終値7,055
バ
ブ
ル
崩
壊
バ
ブ
ル
景
気
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ジ
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バ
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同
時
多
発
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1982年以降の最安値更新
2003..4.28
終値7,608
サ
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IT上
場
開
始
不
動
産
ミ
ニ
バ
ブ
ル
2017.10.5
終値20,629
データ出所 : 日経平均株価は YAHOO! Finance (https://inance.yahoo.com/)
② 昭和から平成の資産バブル
独り日本が活況であった背景はバブル景気、 すなわち、低金利と資金調達の容易さ
を 背 景 と し た い わ ゆ る 財 テ ク の 増 大 と、株 や 不 動 産 等 の 資 産 価 格 の 上 昇[図 表1-3]、
資産効果と所得増を背景にした消費行動の増長、これらの相互作用による資産価格の
上昇加速であった。
1985年 の 「 プ ラ ザ 合 意 」 に 基 づ き、 外 国 為 替 市 場 で の 協 調 介 入 ( ド ル 安 誘 導 ) と
海外製品に対する市場開放、民活推進、 内需拡大等を旨とする政策が採られ、ドル安
の結果生じた副作用 (輸出の減速等による円高不況) 等への対策として公定歩合が連
続的に切り下げられたことが低金利環境を創出した。1987 年 2 月 23 日には当時として
過去最低値となる2.5%の超低金利に切り下げられ、この金利は1989年5月まで据え
置かれた [ 図表 1-4]。
③ 景気高揚と不動産開発ブーム
こうした時代背景からみてとれるように、 資産バブルによる景気の高揚と国内各所での
不動産開発プロジェクトの隆盛が、都市未来総研の設立の背景の一つであったことは想
像に難くない。総合研究開発機構 (NIRA) 「シンクタンク年報 2004」 によると、収録さ
れた 311 機関 8
のうち 1987 年に設立されたものが 12 機関、 前後の 1986 年と 88 年の設
7 ニューヨーク証券取引所のダウ 30 種平均は前週末比で 22.6% 下落
8 組織形態が株式会社等の営利法人のものが141機関(45.3%)、財団法人が123機関(39.5%) で太宗を占める。なお、大学付属政策研
都市未来総合研究所 8
立が各11機関で合計34機関がこの3年間に設立されている。 拡大する景気の中で、
様々な分野の法人が母体となって社会科学分野の研究機関を設立した時期であった。
バブルのさなかに誕生した都市未来総研は、その後のバブル崩壊と金融ビッグバンに
始まる不動産市場の転換と拡大、そして世界金融危機後の収縮と再興について、 「(中
の人ではないが) 極めて近くにいて観測し考察する役割を自覚した存在」 として目の当
たりにすることになったのである。
図表 1-3 資産バブルで増大した地価とその後の収縮
0 50 100 150 200 250 300 1 9 8 7
年
1
9
8
8
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1
9
8
9
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1
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0
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2
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3
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4
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5
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0
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2
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2
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0
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7
年
東京圏平均 大阪圏平均 名古屋圏平均 地方圏平均 全国平均
圏域別にみた地価指数の推移(商業地) (1987年=100)
データ出所 : 国土交通省 「地価公示」 1987 年を 100 とし、各用途別 ・ 圏域別の平均変動率を乗じて指数化したもの
図表 1-4 資産バブルの背景の一つとなった昭和末期の金融緩和
-1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 9 8 7
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1
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8
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2
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1
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0
0
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0
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0
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0
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0
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6
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2
0
1
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年
公定歩合と10年物日本国債の流通利回り
( %)
4.936%
(1987年12月21日)
0.043%
(2017年10月5日)
8.105%
(1990年9月28日)
国債流通利回り
公定歩合
( 基準割引率および基準貸付利率)
データ出所 : 日本銀行 「基準割引率および基準貸付利率 (従来 「公定歩合」 として掲載され
ていたもの) の推移公表データ一覧」、財務省 「国債金利情報」
不動産レポート 2018 9
2. 1987 年から 2017 年に起きたこと ~不動産市場側の視点から
(1)
少子高齢化に伴う消費需要と労働供給の構造変化
日本の年齢階層別人口構成は、[ 図表 1-5] に示すとおり 1987 年から 2017 年にかけて、
30 歳代以下で若年層に向かうほど人口が少なく 60 歳代後半と 40 歳代が突出した歪 いびつ
な
形状となった。少子高齢化として括られることの多い人口構造の変化であるが、少子化
は今もって若年層が減り続けるという現在進行形かつ先が見えないのに対して、高齢化
はある程度先が見えるが該当する人口ボリュームが大きい事象、という違いがある。言い
換えると、少子化で減る人口は 「声を上げることがない (主体者がいない)」 のに対して、
高齢化する人口は 「大勢の声がある (主体者が人口構成において多数)」 という違いで
ある。これが、 少子化に対する政策 ・行政施策が推進力を欠いてきた背景の一つでは
なかろうか。
ことの本質論はともかく、 少子高齢化は、 年齢階層別の消費 ・サービス需要や労働
供給等について、増減両面の変化をもたらした。以下、 不動産市場に係る観点から筆
者が考える要点を整理する。
図表 1-5 30 年で歪化が進んだ年齢階層別人口構成
15,000 10,000 5,000 0 5,000 10,000 15,000 0 ~4
5 ~9 10 ~14 15 ~19 20 ~24 25 ~29 30 ~34 35 ~39 40 ~44 45 ~49 50 ~54 55 ~59 60 ~64 65 ~69 70 ~74 75 ~79 80 ~84 85 ~89 90 ~94 95 ~99 100歳以上
1987
年
2017
年
1987年と2017年の年齢階層別人口
(千人) (歳)
データ出所 : 総務省統計局 「人口推計 (年齢5歳階級別、各年 10 月 1 日現在)」
① 顕在化した需要増加と供給対応
特定の年齢階層で人口ボリュームが増加すると、 係る年齢階層向けの商品 ・ サービス
に対する需要が増加した。需要増加は事業機会の拡大に繋がり、供給側は積極的かつ
速 や か に 反 応 し た。し か し、供 給 者 側 の 対 応 は 個 別 最 適 に な ら ざ る を 得 ず、需 要 と 必
要性があるものに対して総量を抑える (規制する) 発想は官民ともに採りようもなかった。
例えば、団塊世代と団塊 Jr. 世代
9
の入学前 (1960 年代と 80 年代) に高校新設が急
増した。しかし、 需要が沈静化した後の2000年代には閉校が相次ぎ、 既設校数の減
少が続く状況に転じた[図表1-6]。 80年代の設立校の中には僅か20~30年の事業
期間で閉校したものもある。現在の高齢者の増加に対しても同様で、介護関連のサービ
ス ・ 施設需要に対して介護事業者が急増したのは周知のところである。
都市未来総合研究所 10
図表 1-6 団塊世代と団塊 Jr. 世代にあわせ高校数が急増、
2000 年代は減少に
-100 -50 0 50 100 150 200
1
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2
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6
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7
2
7
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7
6
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0
8
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6
8
8
9
0
9
2
9
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9
6
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0
0
0
2
0
4
0
6
0
8
1
0
1
2
1
4
1
6
高等学校 大学
高等学校と大学の学校数の対前年増減
(年) (校)
1962~64年: 団塊初年(1947年生) が14~16歳
1983~86年: 団塊Jr.初年(1971年生) が12~15歳
データ出所 : 文部科学省 「学校基本調査」
② 低成長が覆い隠した労働供給の減少
少子化で労働力人口
10
が減少することは、今にしてみれば [ 図表 1-5] に示した 1987
年時点の人口構成から明らかであった。団塊 Jr. 世代の年齢階層部分は膨らんでいるが、
これを除けば 30 歳代半ばより若い層は少なく、中でも 10 歳未満は歳を追って減少して
いる。しかし、少子化問題が社会的に強く意識されたのは 1990 年の 1.57 ショック
11
以降
であり、1.57 ショックを契機に 1994 年に 「エンゼルプラン」
12
が策定され、政策面では少
子化対策が起動することとなった。
経済活動の実態面においては、労働力不足の問題がクローズアップされたのは 2010
年代の建設労働市場であった。バブル崩壊後続いてきた建築着工の減少が世界金融
危機後に底打ちし民間の建築工事が増加する中で [ 図表 1-7]、2011 年の東日本大震
災等の被害に対する復旧 ・ 復興工事と 2013 年の第二次安倍内閣 「大規模な公共投資
(国土強靱化)」 13
による公共工事で建設需要が増大し、建設労働者の不足が顕在化し
た。1990年代から続く低成長と公共工事の縮小で労働需要が縮退していたこと、 団塊
世代の労働力が存在していたことなどが、水面下にあった労働力不足の問題を見えにく
くした。
③ 今後も人口減少は必定
人口構成に関しては、移民の受入促進等の劇的な政策変更がない限り短期的な変化
は起こりえない。この意味で既に将来像は予測しうる。今後、想定外の大家族ブームが
起きるなどして少子化傾向が大きく改善することがなければ、2040 年頃に向けて人口構
成比の大きい高齢者層で死亡者数が増加し (多死社会)、総人口が減少する。
10 15 歳以上の人口のうち、収入を伴う仕事に少しでも従事した者 (就業者。休業者を含む) と完全失業者の合計
11 『1990 年の 1.57 ショックとは、前年 (1989 (平成元)年) の合計特殊出生率が 1.57 と、「ひのえうま」 という特殊要因により過去最低であっ
た 1966 (昭和 41) 年の合計特殊出生率 1.58 を下回ったことが判明したときの衝撃を指している』(内閣府 「平成 19 年版 少子化社会白書」)
12 文部、厚生、労働、建設の 4 大臣合意による「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」 1994 年 12 月 16 日
不動産レポート 2018 11
図表 1-7 世界金融危機後に底打ち反転した建築着工
0 10 20 30 40 50 60
1
9
8
0 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99
2
0
0
0 01 02 03 04 05 06 07 80 09 10 11 21 13 14 15 16
床面積の合計 工事費予定額
床面積( 千万㎡) 工事費予定額( 兆円)
建築着工面積と工事費予定額
( 年)
データ出所 : 国土交通省 「建築着工統計調査報告」
(2)
団塊世代によるブーム
(需要膨張)
と収縮
① 団塊世代の住宅需要がバブルを促進
現在の深堀された金融緩和状況からわかるとおり、金融緩和だけでは必ずしもバブル
は生じない。金融緩和によって生じた運用資金が株式やその他の金融商品、不動産な
ど特定の資産に向かう理由があること、(その一要素であるが) 企業収益や賃金等のフ
ローの増加、さらに、 これらの現象が合理的なものであると市場参加者が信じる舞台装
置が背景に必要と考えられる。
バブル期には、 先述した団塊世代が 30 歳代後半から 40 歳代前半で、マス ・ ボリュー
ムとして存在していた。また、その子世代である団塊 Jr. 世代が 10 歳代で団塊に次ぐボ
リュームを形成していた。その構成のもとで、『1980 年代初頭から始まったバブル期には、
戦後最大の住宅需要が発生していた。団塊世代が経済の中心となることで、経済全体
にボーナスがもたらされていたのである』
14
との見方があり、実際に住宅ブームと団塊世代
の住宅取得年齢は時期が重なる [ 図表 1-8]。住宅取得は家電や家具、 自家用車等の
耐久消費財の購入促進につながり、これらの販売量の増加は企業業績をさらに上向か
せ、賃金を引き上げ、他の商品 ・サービスの消費を底上げする。団塊世代だけがこの
増加循環の原動力であったわけではないが、人口のマス ・ボリュームであったこと、消
費波及効果の大きい住宅の取得年齢層にあったこと、40 歳前後で応分の可処分所得が
あったとみられること、今と比べて将来の所得上昇期待が大きく、消費に対する抵抗感
や不安が少なかったとみられること [ 図表 1-9] などから、バブル経済下の各種の需要形
成において団塊世代が相当の推進力であったと推察する。
また、 団塊Jr.世代が住宅取得年齢層に入った2000年代の半ば頃も住宅着工が活
況で、分譲マンションの価格が高騰した [ 図表 1-10]。 賃貸オフィスビルや賃貸マンショ
ンなどに投資する不動産投資ファンドの組成が活発で、不動産ミニバブルやファンドバ
ブルなどといわれた時期であった。塊の大きさからくる影響力は団塊世代ほどではない
が、人口のマス ・ボリュームが住宅取得に向かうことが不動産市場や景気に影響を与え
たとみられる。
都市未来総合研究所 12
② 需要の急増によって価格上昇が発生
昭和末期から平成初めの住宅ブームでは、分譲マンションや建売住宅などの購入希
望 者 が 供 給 を 上 回 り、 物 件 に よ っ て は100倍 以 上 の 申 込 み 倍 率 で 抽 選 を 行 っ て 購 入
者を選出する状況となった。 伴って分譲価格は大幅に上昇したが、分譲住宅に当選す
ることは宝くじに当選したのに近しい幸運でもあった
15
。後の地価下落で担保価値が下落
すると、 住宅ローンで資金調達した購入者は含み損を抱えることとなり、後の買い替え
の困難化と消費マインドの悪化に繋がった。
③ 一時的な需要膨張に対応して施設ストックを供給したことで、 後に稼働低下
不動産を用いて行う施設事業などの装置産業では、団塊世代後に需要ボリュームを
後継する世代がおらず、 その後需要の反動減が必至となった。具体的には、先述した
学校のほか、 ブームで異業種参入が相次いだレジャー施設 16
やその他のサービス業の
施設など、一時的な需要増加に対応する量のストックを供給した施設業種で団塊世代
後の稼働低下が問題となった。
図表 1-8 住宅着工の増加時期と団塊世代の年齢
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
1
9
8
0 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99
2
0
0
0 01 02 03 04 05 06 07 80 09 10 11 21 13 14 15 16
分譲住宅
社宅・ 寮
貸家
持家
1987~90年: 団塊初年(1947年生) が40~43歳
( 万戸)
( 年)
1994~96年: 団塊初年が47~49歳
2005~6年: 団塊Jr.初年(1971年生) が
34~35歳 新設住宅の着工戸数
データ出所 : 国土交通省 「建築着工統計調査報告」
図表 1-9 バブル期に増加した可処分所得、
高い消費性向
66 68 70 72 74 76 78 80 82
0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000
1
9
7
0
7
1 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 58 86 87 88 89 90 91 29 93 94 95 96 97 98 99
2
0
0
0
0
1 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 勤労者世帯の可処分所得と平均消費 性向
( 可処分所得: 円)
1980年代
( 年)
( 平均消費性向: %)
1世帯あたりの1か月間の平均可処分所得
平均消費性向
データ出所 : 総務省統計局 「家計調査 (家計収支編) 時系列データ (二人以上の世帯のうち勤労者世帯)」
15 筆者が郊外の新興住宅地に現在の住居を購入したのが 1990 年 2 月、抽選の倍率は 60 倍ほどであった。
不動産レポート 2018 13
図表 1-10 バブル期の人口構成と団塊世代の年齢
15,000 10,000 5,000 0 5,000 10,000 15,000
0 ~4
5 ~9
10 ~14
15 ~19
20 ~24
25 ~29
30 ~34
35 ~39
40 ~44
45 ~49
50 ~54
55 ~59
60 ~64
65 ~69
70 ~74
75 ~79
80 ~84
85 ~89
90 ~94
95 ~99
100歳以上
1987
年
2005
年
1987年と2005年の年齢階層別人口
(千人) (歳)
団 塊 の世代
団 塊 の世代
団 塊Jr.世代
団 塊Jr.世代
住 宅 取 得の中心的年齢階 層
データ出所 : 総務省統計局 「人口推計 (年齢5歳階級別、各年 10 月 1 日現在)」
(注) 団塊の世代は 1947 年から 1949 年生まれ、団塊ジュニア (Jr.) 世代は 1971 年から 1974 年生まれと定義。それぞれ
の生まれ年を含む年齢階層を該当する世代として、図中に表示した。
(3)
不動産投資市場の創生と混乱、
成熟化
法人が行う不動産投資において、 現在は不動産証券に対する集団投資スキーム、す
なわちプロが組成し管理運用する不動産投資信託 (J-REIT、私募 REIT) の投資口や
私募不動産ファンドの匿名組合出資持分などの不動産金融商品に少数ないし多数の投
資家 (資金拠出者) が集団で投資する形態が主流である。
1990 年代半ばまでは、 投資主体が金融機関から相
あ い た い
対で融資を受けて実物不動産等
を取得または建設する形態が中心であった。投資に係る利害関係者の牽制機能や物件
を含む運用管理の専門会社の有無、賃料水準や利回りなどの不動産の投資運用に関
する情報、投資用不動産の価格評価方法などが未整備または低水準で、荒野に例える
ほど投資環境の合理化レベルは低かったといえよう。
① 1990 年代半ばまでの 「不動産投資の荒野」
1990 年代半ばまでの不動産投資を振り返ると、収益還元法に基づく価格評価は一般
的ではなく、近隣の売買価格等の限られた情報を主な判断材料として、いわば航路図
も計器もないような状況の中で、主に不動産価格の上昇 (キャピタルリターン) 期待に
依存した不動産投資が行われていた。東京都区部の地価と建設費、オフィス賃料水準
を用いて推計すると、当時は高金利であったため金利差し引き後の運用収益はマイナス
の逆ザヤ (ネガティブ ・イールド) の状態で、マイナスをキャピタルリターン (あるいは
その期待) でカバーする状態が続いていたと考えられる [ 図表 1-11 左 ]。
投資収益の大部分を物件価値の上昇 (キャピタルリターン)に依存し、高金利でもあっ
たため運用収益 (インカムリターン) の低収益性を容認、市況や運用実績に係る情報
が不十分な状況で投資判断を行うことが少なくはなかった。その結果、利払い後の運用
都市未来総合研究所 14
図表 1-11 長期金利と不動産投資利回りのイールドスプレッド
0 1 2 3 4 5 6 7 8
1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
オフィス ビルの推計投資利回りと長期金利(2 003 年まで )
東京23区大規模オフィスビル の 投資利回りの推計値
(%)
(年)
逆
ざ
や
状
態
開国~ 不動産市場ver.1.0
不
動
産
投
資
へ
の
リ
ス
ク
プ
レ
ミ
ア
ム
増
大
低 金 利
長期金利( 長期国債流通利回りの年平均値)
1987年以降は10年物国債、86年以前は最長期の国債
2
0
0
3
2
0
0
4
2
0
0
5
2
0
0
6
2
0
0
7
2
0
0
8
2
0
0
9
2
0
1
0
2
0
1
1
2
0
1
2
2
0
1
3
2
0
1
4
2
0
1
5
2
0
1
6
オフィス ビルの投資利回りと長期金利(20 03年以降)
J-REITが東京都心5区で 取得したオフィスビルの月別平均鑑定利回り
( 東京都心5区のオフィスビルの取得時鑑定評価で用いられたキャップ レート、
時点は売買予定時期。デ ー タのない月の値を補間して作成)
10年国債の流通利回り( 月末時点)
(年)
データ出所 : 財務省 「国債金利情報」、オフィスビルの利回りは都市未来総合研究所推計 ( 左 ) および同 「ReiTREDA」
② 不動産証券化の制度整備から不動産投資市場が創生
バブル経済の崩壊以降、金融機関の不良債権が増加、金融システム不安が広がった。
不良債権処理の必要性が高まる中、 米国勢を中心とした外資系ファンド等は、担保不
動産の処分を含む不良債権処理について、本国での実績・ノウハウとビジネス期待を持っ
て 1990年代中盤から日本市場へ参入した。 その際、 収益還元法に代表される米欧流
の不動産評価手法が日本市場にもたらされた [ 図表 1-12]。不良債権の処理について、
当該担保不動産を収益還元法で評価することによって、簿価を大きく下回る時価の合理
的な値付けが可能となり、これを実際に売却することで金融機関は損切りが可能となった。
この結果金融機関の不良債権処理が加速し、不動産担保付債権を対象に不動産投資
市場が形成された。また、 この時期に、当該債権の取得者に向けて物件評価や案件組
成 の 支 援 業 務、管 理 受 託 等 の サ ー ビス を 提 供 す る こ と を 目 的 と し て 国 内 に 不 動 産 投 資
顧問会社が設立され、後の不動産投資運用会社に事業展開することとなる。
1996 年 10 月に政府の「担保不動産等関係連絡協議会」が発足し、翌 97 年 3 月に「担
保不動産流動化総合対策」 を発表した。その中で 「担保不動産等証券化パッケージ」
として、 信託並びに SPC (特別目的会社) を活用して担保不動産の証券化を進めるこ
ととし、商法上の解釈確認による国内 SPC の即時利用と SPC の枠組みの法的整備等の
早急な検討がうたわれた。97年9月には大蔵省が 「SPC法のあり方に関する懇談会」
を発足、そこでの議論等を経て 「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律
(SPC 法)」案が 1998 年 3 月に衆参両院に提出され、6 月に成立・公布、9 月施行と急ピッ
チで証券化の環境が整えられた。
以上は不良債権問題を軸にみた不動産証券化の創生の流れである。もう一つ、滞留
する個人金融資産を資本市場 (直接金融) を通じて成長産業に誘導するという市場改
革 の 流 れ が あ り、J-REITを は じ め と す る 公 募 型 の 不 動 産 投 資 市 場 の 創 造 に 繋 が っ た。
この 2 つの流れは 1996 年 11 月に示された 「金融ビッグバン (金融システム改革)」 が
起点であり、金融ビッグバンが不動産市場にいかなる影響と効果をもたらしたかについて
不動産レポート 2018 15
図表 1-12 日本の不動産投資市場の創生と、
関係する法人の動き
年 概 況
1 9 9 5 年 ・不 動 産 特 定 共 同 事 業 法 施 行 / 4 月 ・不 動 産 投 資 顧 問 会 社 2 社 設 立 ・ 創 業 ( ケ ネ デ ィ・ウ ィ ル ソン ・ジ ャパ ン 、パ シ フィックマ ネ ジ メン ト) 後 に 外 資 か らデ ュー ・デ ィリジ ェン ス 業 務 を 受 託 1 9 9 6 年 前 夜 ~ 金 融 ビ ッグ ・ABS・ABCP解 禁 (資 産 担 保 証 券 が 証 取 法 上 の 特 定 ・クリー ド設 立
バ ン 有 価 証 券 に 指 定 )/ 4 月
・第 二 次 橋 本 内 閣 が 「金 融 ビ ッグ バ ン (金 融 制 度 改 革 )」 を 提 唱 / 1 1 月
1 9 9 7 年 外 資 ファン ド本 格 ・担 保 不 動 産 等 関 係 連 絡 協 議 会 が 「担 保 不 動 産 流 動・シ ン ガ ポ ー ル 政 府 投 資 公 社 が 汐 留 B地 区 を 1 ,3 8 0 億 円 で 参 入 化 総 合 対 策 」を 策 定 / 3 月 落 札 ( 投 資 ア ドバ イ ザ リー は 三 井 不 動 産 の 資 産 情 報 運
・三 洋 証 券 が 会 社 更 生 法 適 用 申 請 、北 海 道 拓 殖 銀 行 用 部 )
が 経 営 破 綻 、山 一 證 券 が 自 主 廃 業 を 決 定 / 1 1 月 ・東 京 三 菱 銀 行 が 不 動 産 担 保 付 不 良 債 権 を カ ー ギ ル の 子 会 社 や ロ ー ン ・ ス ター 、ゴ ー ル ドマ ン ・サ ックス ( GS)ほ か 出 資 の 米 ファン ドに バ ル クセ ー ル ・セ キ ュア ー ド・キ ャピ タル ・ジ ャパ ン 設 立 、三 井 不 動
産 投 資 顧 問 設 立
1 9 9 8 年 不 良 債 権 担 保 不 動 ・特 定 共 同 事 業 法 改 正 / 2 月 ・大 京 の マ ン シ ョン 1 2 0 0 戸 (簿 価 3 5 0 億 円 )を MS 産 、SPC法 ・大 手 銀 行 2 1 行 に 公 的 資 金 総 額 1 兆 8 ,1 5 6 億 円 を 注 入 ( Mo r g a n St a n le y Re a l Es t a t e Fu n d が 設 立 した
/ 3 月 D.P.Pr o p e r t ie s )が 1 2 0 億 円 で 取 得
・改 正 外 為 法 施 行 / 4 月 ・日 本 初 の ノン リコー ス ロ ー ン (上 記 案 件 に JPモ ル ガ ン ・自 民 党 「土 地 ・債 権 流 動 化 トー タル プ ラン 」 が 7 6 億 円 融 資 )
/ 4 月 ・大 和 生 命 ビ ル の 流 動 化 (GSの MB部 門 が 投 資 ) ・金 融 監 督 庁 発 足 / 6 月 ・ダ ヴ ィン チ ・ア ドバ イ ザ ー ズ 設 立
・自 民 党 「金 融 再 生 トー タル プ ラン 」/ 6 - 7 月 ・SPC法 に 基 づ く第 一 号 商 品 (東 京 建 物 の 高 輪 ア パ ー ト ・SPC法 施 行 / 9 月 メン ト:発 行 総 額 6 5 億 円 )
・債 権 譲 渡 特 例 法 施 行 / 1 0 月
・金 融 再 生 法 お よ び 早 期 健 全 化 法 が 成 立 / 1 0 月 ・長 銀 破 綻 (特 別 公 的 管 理 銀 行 化 ) / 1 0 月 ・私 募 投 信 、会 社 型 投 信 の 解 禁 (旧 投 信 法 施 行 )
/ 1 2 月
1 9 9 9 年 「証 券 化 」元 年 ・サ ー ビ サ ー 法 施 行 / 2 月 ・日 本 初 の 格 付 つ き CMBS発 行 (JPモ ル ガ ン が 昨 年 3 月 の ・RCC発 足 / 4 月 MS Re a l Es t a t e Fu n d へ の ノン リコー ス ロ ー ン を 証 券 ・産 業 再 生 法 施 行 / 1 0 月 化 )
・商 業 用 不 動 産 担 保 証 券 で 日 本 初 の 格 付 取 得 (東 京 建 物 の 高 輪 ア パ ー トメン ト:発 行 総 額 3 0 億 円 )
・米 REITが 合 弁 で 日 本 法 人 設 立 (チ ェル シ ー ・ジ ャパ ン )
・日 本 初 の 不 動 産 担 保 付 不 良 債 権 の 証 券 化 ( モ ル ガ ン ・ス タン レ ー の In t e r n a t io n a l Cr e d it
Re c o v e r y - Ja p a n On e Lt d . :7 0 0 物 件 の プ ー ル で 発 行 総 額 2 1 0 億 円 )
2 0 0 0 年 流 動 化 が 活 発 化 ・連 結 会 計 導 入 / 3 月 ・ア セ ットマ ネ ジ ャー ズ 事 業 開 始 ・民 事 再 生 法 施 行 / 4 月 ・マ イ カ ル 1 0 店 舗 の 流 動 化 ( 4 9 8 億 円 )
・そ ご う民 事 再 生 法 申 請 / 7 月 ・大 成 建 設 、日 本 初 の ホ テ ル 証 券 化 (シ ェラトン 4 0 0 億 ・オ フバ ラン ス 5 % ル ー ル 導 入 / 8 月 円 )
・不 動 産 投 資 顧 問 業 登 録 規 定 施 行 / 9 月 ・チ ェル シ ー ・ ジ ャパ ン の 御 殿 場 プ レ ミア ム ア ウ トレ ッ ・改 正 SPC法 施 行 / 1 1 月 トが 開 業
・投 信 法 施 行 / 1 1 月 ・ダ イ エ ー 碑 文 谷 店 の 流 動 化 ( 7 7 億 円 ) ・西 武 池 袋 店 の 流 動 化 ( 1 ,0 8 0 億 円 )
・日 立 厚 生 年 金 基 金 が 銀 座 の 商 業 ビ ル に 投 資 (c w/ 三 井 不 動 産 )
2 0 0 1 年 J- REITの 登 場 ・東 証 J- REIT市 場 を 開 設 / 3 月 ・東 証 に J- REIT2 法 人 が 上 場 (9 月 ) ・マ イ カ ル が 民 事 再 生 申 立 / 9 月 ・整 理 回 収 機 構 に よ る ラン デ ィック大 手 町
ビ ル の 証 券 化 ・KDDI本 社 ビ ル ほ か 証 券 化
制 度 改 正 動 向 ・産 業 界 の 主 な 出 来 事 市 場 動 向
出所 : 各種の公開情報に基づき都市未来総合研究所が作成
③ 「不動産市場 ver.1.0」
1990年 代 半 ば 以 降 は、金 利 の 低 下 が 進 む 中、 バ ブ ル 経 済 崩 壊 を 背 景 に 不 動 産 投
資に対するリスクプレミアムが上昇し、投資の期待利回りが上昇したことなどから、順イー
ルドに転換した [ 図表 1-11 右 ]。2001 年の J-REIT 上場開始以降、不動産投資に係る
開示情報が質量ともに充実したこともあり、世界金融危機時も含め投資利回りは 1990 年
代半ばまでと比較して安定的に推移している。
このようにして、 収益還元法に代表される分析方法と法制度の整備、ノウハウの蓄積、
情報の流通が具体的な道具立てとなり、不動産投資が米欧流の定量的かつ合理性を指
向するものとなった。「不動産投資」 という言葉自体が一般化もした。漸く、現代日本の
不動産市場 (ver.1.0) が起動したといえよう [ 図表 1-13]。
不動産市場の変化の中で、 都市未来総研も変貌を遂げた。不動産市場 ver1.0 の環
境変化の中で、業務内容と情報資産、株主構成が以下のとおり大きく変化した。
大規模で面的な不動産開発プロジェクトが下火となったことで、 計画策定を支援する
都市未来総合研究所 16
や計画の再構築、資産の有効利用等に関する受託業務など、実利的で実際的な業務
にシフトした。 また、不動産証券化に係る応用研究や将来の不動産市場予測など、 金
融や投資市場に密接した分野で業務対応が求められるようになった。 これら外部環境の
変化にあわせて、安田信託銀行を母体とする株主構成に変更したのが 1997 年度のこと
である。
業務内容の変化に伴って実証データの必要性が高まり、不動産の売買取引に関する
デ ー タ ベ ー ス (1996年 に 一 部 開 始。 1997年 度 か ら ) や 東 京 都 心 オ フ ィ ス ビ ル の 成 約
賃料データベース(1999 年度から)、J-REIT の運用資産に係る時系列分析のためのデー
タベース 「ReiTREDA」 (2002 年度から) など、都市未来総研独自のデータベースを整
備し、調査研究の背景を堅固にする志向が顕在化したのもこの時期であった。
図表 1-13 不動産投資の荒野から市場 ver.1.0 へ
-400 -200 0 200 400 600 800 1,000 -20% -10% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 1 9 7 5 1 9 7 6 1 9 7 7 1 9 7 8 1 9 7 9 1 9 8 0 1 9 8 1 1 9 8 2 1 9 8 3 1 9 8 4 1 9 8 5 1 9 8 6 1 9 8 7 1 9 8 8 1 9 8 9 1 9 9 0 1 9 9 1 1 9 9 2 1 9 9 3 1 9 9 4 1 9 9 5 1 9 9 6 1 9 9 7 1 9 9 8 1 9 9 9 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3 2 0 1 4 2 0 1 5
不動産投資の荒野( 言葉すら一般的でなかった時代)
地価変動率
記事登場回数
不動産市場ver1.0 ver.2.0
( 変動率)
( 年) ( 回)
不動産投資の認知度(「 不動産投資」が新聞記事に登場した回数)
地価変動率 : 三大都市圏における公示地価の対前年平均変動率
記事登場回数 : 日本経済新聞の朝夕刊において 「不動産投資」 という単語が使用された
記事の年間件数
データ出所 : 国土交通省 「地価公示」、日本経済新聞社 「日経テレコン」
④ 世界金融危機による混乱とその後の成熟した 「不動産市場 ver.2.0」 への展開
2001年9月 にJ-REITが 初 上 場 し、 以 降、 不 動 産 投 資 の 裾 野 の 拡 大 に 繋 が っ た。
投 資 家 層 の 拡 大 と い う 意 味 で、ま た、J-REITに 物 件 を 売 却 す るこ と を 目 論 ん で 不 動 産
投資運用会社や不動産流動化会社が不動産投資市場に参入し私募の事業規模が拡大
したという意味でも、J-REIT の効果は大きかった。
一方で、 投資運用と資金調達の両面で、積極性は急速に高まった。投資運用会社
等は、当初は物件調査や流動化アレンジ等の役務提供業務や私募ファンドの運用受託
か ら 事 業 を 開 始 し、 資 金 調 達 力 が 増 大 す る と、セ イ ム ボ ー ト 出 資 の 延 長 線 上 で 高 収 益
な自己勘定投資に注力した。 取得者層が拡大して投資対象物件が品薄化したため、投
資対象地域や対象用途を拡大、さらに建て替えや更地からの開発型の投資も行い、 投
資 案 件 に よ っ て は リ ス ク が 増 大 し た。 融 資 面 で も、 低 利、 高LTV で の 不 動 産 融 資 や
CMBS
17
を用いた回転融資で、 短期転売を目論む事業者などに循環的な資金供給が行
われた。
不動産レポート 2018 17
2007 年以降、アメリカのサブプライム ・ローン問題に端を発した金融危機が深刻化し
海外の大手金融機関が破たんしたことなどから、世界金融危機が発生。金融機関の間
で流動性が枯渇する状況となって、不動産業向けの融資も急速に減少。資金調達が難
化 し て 不 動 産 売 買 が 成 立 し に く く な り、資 金 の 借 り 換 え も 難 し く な っ た こ と か ら、 投 資 期
間が限られた不動産投資スキームで債務不履行による破たんが続出した。J-REIT でも、
資金繰り難で投資法人の破たんが起きた。
世界金融危機以降の不動産投資市場では、 国際的な金融規制と市場参加者のリスク
意識などから危機前と比較してリスクを抑える形が主流となり、金利が低位で十分なイー
ルドギャップを期待できたこと、安定収入が見込めることなどから、中長期の投資を目的
とした投資家による不動産投資が続いている。
2013年からは第二次安倍内閣が掲げたアベノミクス政策を背景に円安と一層の金融
緩和が進み、日本の不動産市場は急回復をみせた。 投資利回りは世界金融危機前の
水準に低下 (≒価格は上昇) した。 最近では国内外の政府系資金運用主体や公的年
金基金などが不動産投資枠の拡大を発表しており、長期に安定的な運用を求める投資
家の層は徐々に厚みを増している。
図表 1-14 不動産市場の展開過程
不動産投資の荒野 90 不動産市場ver.1.0 不動産市場ver.2.0
年
代
バ
ブ
ル
の
崩
壊
「 開国」
・外資系本格参入 ・収益還元法適用
・SPC
「 成熟へ」
・低水準の賃料上昇 ・キ ャ ップ レー トのボック ス化 ・物件流通の循環化
世
界
金
融
危
機
「ゲーム」の理論もデータもない時代
短期的投資
成長段階の小さな市場
収益の増加期待
中長期的投資
一段階成熟した市場
収益低成長
都市未来総合研究所 18
⑤ (参考) 超低金利が続く中で、地価変動は株価変動との関係性増大
投資の際のキャップレートが金利とリスクプレミアムで構成されると考えるのと同様にし
て、地価の変動を長期金利の変動+リスクプレミアムの変動 (日経平均株価の変動) と
概 念 化 し、指 数 (1987年 を100) を 作 成 し た[図 表1-15]。 簡 単 化 の た め 金 利 指 数 と
株価指数を 1 : 1 で合成した値を用いて地価指数との相関係数を求めると 0.946 (対象
期間 1987 年から 2017 年) であった。
高金利の頃には地価指数に対して金利指数が多くの割合を占めたが、超低金利の今、
図の地価指数は株価指数に依存している。 表面的な整理に過ぎないが、不動産価格(地
価) に対して金融政策 (金利) の影響が低下し、 資本市場や景況 (株価) に依って
いることとの類似性がうかがえる。
図表 1-15 地価と金利、
株価の指数推移
-50 0 50 100 150 200 1 9 8 7 8 8 8 9 9 0 9 1 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 9 7 9 8 9 9 0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0 8 0 9 1 0 1 1 1 2 1 3 1 4 1 5 1 6 1 7
東京圏の商業地地価( 指数)
長期金利( 指数)
日経平均株価( 指数)
地価と金利、株価の推移(1987年を100とする指数)
(1987年=100)
( 年)
データ出所 : 商業地地価は国土交通省 「地価公示」、 長期金利は財務省 「国債金
利情報」 の 10 年物国債流通利回り、日経平均株価は Yahoo! Finance (https://
inance.yahoo.com/)
図表 1-16 地価変動は金利変動と株価変動の合成値と近似
-50 0 50 100 150 200 250 300 1 9 8 7 8 8 8 9 9 0 9 1 9 2 9 3 9 4 9 5 9 6 9 7 9 8 9 9 0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0 8 0 9 1 0 1 1 1 2 1 3 1 4 1 5 1 6 1 7
日経平均株価( 指数)
長期金利( 指数)
東京圏の商業地地価( 指数)
金利と株価の合成指数(1:1)
地価指数と金利・ 株価の合成指数(1987年を100) (1987年=100)
( 年)
データ出所 : 商業地地価は国土交通省 「地価公示」、 長期金利は財務省 「国債金
利情報」 の 10 年物国債流通利回り、日経平均株価は Yahoo! Finance (https://
不動産レポート 2018 19
(4)
縮む不動産、
拡大する投資
① 縮む不動産の時価総額
資産バブルの崩壊以降、 全国ベースでは地価下落が続いており、 不動産の時価総
額 が 低 下 し た[図 表1-17]。 土 地 を 除 く 固 定 資 産 は 新 規 投 資 等 に よ っ て1995年 か ら
2015 年の 16 年で年率 0.84% (幾何平均) 増加したが、土地が同じく 2.54% (同) 減
少したため、合計で年率 0.81% (同) の減少であった。 伴って国民一人あたりの不動
産時価も1994年の2,736万円か ら減少し て おり、2013年以降の 固定資産 (土地を 除
く) の増加と人口減少によって僅かに盛り返したが、2015年は2,267万円 (1994年比
82.8%) となった [ 図表 1-18]。
名目 GDP に対する不動産価額の倍率は 6.8 倍(1994 年)から 5.4 倍(2015 年)に低下、
両年比較では名目 GDP が 5.7%増加しているため、不動産価額の下落と併せて倍率低
下が強調される格好となった [ 図表 1-18]。
同 様 に、 名 目GDPに 対 す る 地 価 の 倍 率 は1994年 の3.9倍 か ら2.2倍 (2015年 )
に 低 下 し た。 国 際 比 較 の 観 点 で い う と、 諸 外 国 で は1980年 代 か ら90年 代 に か け て1
倍前後で推移してきたとされ 18
、 この水準と比較すると密集国土である日本の倍率は地価
下落が進んだ今でも高い。2000 年代前半の地価高騰期のフランスは約 3 倍 (2006 年)
で、バブル期では日本に近い倍率に達したとみられる。
企 業 の 総 資 産 に 占 め る 不 動 産 ( 土 地 お よ び そ の 他 の 固 定 資 産 ) の 割 合 は1994年
の 59.4%から47.3% (2015年) に低下した [ 図表 1-19]。地価下落の影響に加えて、
2000 年代前半の低下は、所有不動産の流動化などの結果が反映されたものと考えられ
る。
図表 1-17 縮小が続く日本の不動産の時価、
特に土地
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000
1
9
9
4
9
5
9
6
9
7
9
8
9
9
0
0
0
1
0
2
0
3
0
4
0
5
0
6
0
7
0
8
0
9
1
0
1
1
1
2
1
3
1
4
1
5
固定資産( 土地を除く) 土地
※総資産、土地、生産資産(固定資産)はす べて時価
生産資産(固定資産)にはソ フ トウェア等の無形固定資産が含ま れる。
( 各年末時点)
( 兆円) 日本の不動産の時価総額
データ出所 : 内閣府 経済社会総合研究所 「2015 年度国民経済計算 (2011 年基準 ・ 2008SNA)」
18 成蹊大学経済学部 井出多加子教授著 「不動産バブルとマクロ経済」(一財) 土地総合研究所発行 「土地総合研究 2010 年夏号」 p21。地
都市未来総合研究所 20
図表 1-18 名目 GDP に対する不動産の価格倍率は低下して 5.4 倍
2 3 4 5 6 7
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
1994 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 国民一人あたりの不動産価額( 時価) : 縦棒
名目GDPに対する不動産( 時価) の倍率: 折 線
名目GDPに対する地価( 時価) の倍率: 折線
国民一人あたりの不動産価額と、名目GDPに対する不動産および地価の倍率
6.8
5.4
( 年)
( 時価: 万円) ( 倍率: 倍)
※不動産の時価は、国民経済計算(ストック )における土地と生産資産(固定資産)の合計
生産資産(固定資産)には、ソ フ トウェア等の無形固定資産が含ま れる。
2,736
2,267
2.2 3.9
データ出所:内閣府 経済社会総合研究所「2015 年度国民経済計算(2011 年基準・2008SNA)」、総務省統計局「人口推計、
各年 10 月 1 日現在)」
図表 1-19 企業の総資産に占める不動産の割合が低下
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%
非金融法人企業の総資産に占める不動産の割合
( 各年末時点)
※総資産、 土地、 生産資産( 固定資産) はすべて 時価
生産資産( 固定資産) には、 ソフ トウ ェア等 の無形 固定資 産が含ま れる。
25.8%
59.4%
47.3%
12.3%
総資産に占める土地の割合 総資産に占める土地および生産資産(固定資産)の割合
データ出所 : 内閣府 経済社会総合研究所 「2015 年度国民経済計算 (2011 年基準 ・ 2008SNA)」
② 不動産投資は増大
一方、 不動産投資セクター 19
が取得する不動産の額は、 公表されて明らかになった事
例だけで年間 3 兆 5 千億円
20
に上り [ 図表 1-20]、不動産投資市場の規模拡大が続い
ている。日本で法人によって売買される不動産のおよそ 8 割を不動産投資セクターが取
得した恰好である。
19 本稿において不動産投資セクターとは、業として不動産投資を行う企業 ・ 法人が多くの割合を占めると想定される業種で、具体的には次の業
種を対象とする。J-REIT、私募 REIT、私募ファンド (SPC、TMK 等)、不動産 ・ 建設業、外資系法人
不動産レポート 2018 21
図表 1-20 法人間の不動産取引で、
取得額の 8 ~ 9 割が不動産投資セクターに
よるもの
60% 65% 70% 75% 80% 85% 90% 95% 100%
0 1 2 3 4 5 6
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
J-REIT SPC・私募フ ァント ゙等 建設・不動産
その他の事業法人等 公共等・その他 外資系法人
不明 不動産投資セク ター の構成比
国内で公表された不動産売買取引における買主セクター別の取得額 (兆円)
(年度)
※2017年度は4~9月
データ出所 : 都市未来総合研究所 「不動産売買実態調査」
(5)
市場のグローバル化
海外機関投資家の国際分散投資指向と国内不動産市場のアクセス改善 (定期借家
制度の導入、市場の透明化、 外為法改正等)、円安と低金利などの要因によって、 日
本の不動産市場で外資による投資が存在感を高めている。筆者らが 1998 年にシカゴの
ラサール ・パートナーズ社 (当時) を訪問した際には、日本の不動産に対する投資意
向を (少なくとも言葉の上では) 否定していたことからすると様変わりの感がある。以下、
その際の日本の不動産投資に関するインタビューの要点を記す。
・ 日本の不動産に対する投資実績はない。
・ 市場に関する知識が必要で、 人を置く必要がある。日本進出の調査等は行った。
・ 日本の賃貸借慣行 (6 カ月で解約可能、賃貸借契約期間の短さなど) が制約要因
現在は、 海外の年金基金や政府系ファンド、 富裕層などの国際分散投資ニーズに対
応して、外資系不動産投資運用会社などによる日本国内の不動産投資が定着化し増加
傾向にある [ 図表 1-21]。1990 年代には担保不動産付不良債権を対象として、破たん・
不稼働 ・低稼働資産に対するオポチュニスティック投資が中心であったのに対して、国
内 金 融 機 関 の 不 良 債 権 処 理 が 一 巡 し た2000年 代 は 稼 働 中 の 実 物 不 動 産 へ の 投 資 に
シフトしている。当時の外資系の期待投資利回りは国内勢より高かったため、大規模オ
フィスビルなどは対象となりにくく、ホテルや商業施設など比較的利回りの高い物件属性
に取得の比重が置かれた。現在はこれらの用途への投資が一巡し、コア型の投資方針
に基づく長期 ・ 安定型の投資などへと対象範囲が広がっている。
外資系法人による不動産投資の特徴として、 国内不動産市況が活況で将来の不動産
価格の上昇が狙える (と考える) 時期で、為替が円安傾向で取得時に本国通貨ベース
で割安感がある時期に、取得が増加する傾向がある [ 図表 1-22]。 また、2013 年度以
降、取得額の増加に後追いして売却額が増加している。アベノミクス政策の影響などか
ら不動産価格が上昇しており、世界金融危機前の価格高騰期に取得した物件の売却処
理や、2010 年から 2012 年ごろに割安取得した物件の利益確定などが進んだことが背景
都市未来総合研究所 22
図表 1-21 日本の不動産投資市場で外資系法人の存在感が拡大
0% 5% 10% 15% 20% 25% 30%
0 1 2 3 4 5 6
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
外資系による取得額 国内系による取得額 外資系の取得構成比
※2017年は9月末ま で ( 年)
( 取得額: 兆円) 外資系法人による日本の不動産の取得状況 ( 構成比)
データ出所 : 都市未来総合研究所 「不動産売買実態調査」
図表 1-22 不動産市況の活況期、
かつ円安環境下で外資系法人の不動産取得
額が増加
40 50 60 70 80 90 100 110 120 130
-12,000 -10,000 -8,000 -6,000 -4,000 -2,000
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
取得額 売却額 純取得額 年度末為替レート
為替レートと外資系法人による日本国内の不動産売買公表額
(年度) 売却額はマイナスで表示した。
(不動産売買額:億円) (為替レー ト:円/米$)
注) 外資系法人とは、海外の投資資金を中心に組成したと思われる SPC やファンド、海外 REIT 等と、当該企業またはそ
の親会社の本社所在地が海外で、日本企業の子会社等に該当しないことが明らかな会社等の法人をいう。ただし、日本の
株式市場等に上場している (いた) 法人は除く。
不動産レポート 2018 23
(6)
染みついた縮み志向 ~ Mr. デフレ
21
が賃料上昇を阻む
この 30 年間に起きた変化の中で、 " 基調なるものの変化 " という点で最も特徴的なも
のがデフレであろう。近代日本が初めて遭遇した経済事象であり、不動産市場において
も、地価神話の崩壊や賃料と不動産価格のデフレスパイラルといった過去にない環境変
化 が 生 じ た。現 在 に お い て も デ フ レ か ら 脱 却 し た 訳 で は な く、 後 で 述 べ る よ う に、 企 業
内部でコスト圧縮優先と先行投資回避の意識が続いているとみられる。
① 世界金融危機後の不動産市場で賃料と不動産価格が下落スパイラル化した理由
世界金融危機後の不動産市場で生じたデフレ現象について、 市場参加者の行動の
点から以下整理する。
世界金融危機の後、 不動産市況が悪化する中、 先行き賃料が下落する見通しの下
でビルオーナーや管理者の多くが賃料を引き下げてテナントを確保する戦術を採った。
先行して例えば募集賃料を引き下げても、市場賃料の成り行きの低下に従うよりは実損
が 小 さ い と い う 考 え 方 に よ る も の で あ っ た[図 表1-23上]。 2000年3月 に 法 施 行 さ れ、
徐々に市場での浸透が進んでいた定期借家契約を積極的に利用したことも、当初の賃
料低下を促したとみられる。すなわち、 契約終期で市場の賃料水準が上昇していれば、
テナントの入れ替えか契約の結び直しで契約賃料を洗い替えることができ、賃料改定に
よる緩慢な上昇よりもアップサイドを享受しやすいためである [ 図表 1-23 下 ]。このような
賃料引き下げ行動は当該オーナーの経済行動として合理的であっても、多くが同じ動き
をとることで市場賃料が下落するという合成の誤謬を生んだ。
不動産価格の下落スパイラルについても、 賃料デフレを反映して、 以下のとおりと考
えられる。
収益還元法が定着して以降の不動産市場では、 不動産の賃貸収益 (=賃貸純収入)
をキャップレート (期待利回り) で割って不動産価格を算定する直接還元法が一般的に
用いられるようになった。賃貸収益が変わらなければ、分母であるキャップレートが小さ
いほど、計算上不動産価格は大きくなる。
キャップレートは期待収益率 (予想するリターンの率) から収益の期待成長率を差し
引いたもの
22
と考えることができ、収益の期待成長率が大きいほどキャップレートが小さく、
不動産価格は大きくなる。ここで賃料デフレを反映して収益の成長率をマイナスと予想す
ると、キャップレートは大きくなり不動産価格が小さくなる [ 図表 1-24]。加えて、価格算
定者が不動産価格の下落を読み込んで収益の期待成長率に将来のキャピタルロスを含
めることで、キャップレートはさらに大きくなり不動産価格がより一層小さくなるという再帰
現象が起きる。この結果、 価格のデフレスパイラルが生じたと考えられる。
21 よしもとクリエイティブ ・ エージェンシー所属の芸人で 「オレたちひょうきん族」(フジテレビ) に出演していた Mr. オクレ氏に掛け合わせた都市
未来総研の造語。日本の個人FX 投資家を意味する俗称の 「ミセス ・ワタナベ(Mrs.Watanabe)」 と同じく、一定の属性を持つ人々を意味する
架空の個人名である。
22 併せて、無リスク金利 (例えば 10 年物国債利回り等) に、不動産の市場リスクと物件固有のリスクをリスクプレミアムとして付加し、キャップ
都市未来総合研究所 24
図表 1-23 世界金融危機後のビルオーナーの賃料設定
(概念図)
15,000 20,000 25,000
①賃料引き下げ
②テナント確保
③将来の賃料下落をヘッジ (円/坪)
賃料相場
契約賃料
募集賃料の低下を先取りしてテナントを確保、将来の賃料下落をヘッジ
1 5 ,0 0 0 2 0 ,0 0 0 2 5 ,0 0 0
(円/ 坪)
④定期借家契約満了 ⑤賃料上昇
賃料相場
契約賃料
出所 : 都市未来総合研究所が作成 (みずほ信託銀行 「不動産トピックス 2013 年 4 月号」 掲載)
図表 1-24 マイナス成長を予想することによる不動産価格の下落
(概念図)
不動産
価格
賃貸収益
=
期待収益率
-
収益の期待成長率
マイナス