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ICRP )が述べる「放射線防護」の目的は「便益をもた

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(1)

Dental Medicine Research 31

(3):249 260, 2011

250

 1.はじめに

 放射線は人類に多くの恩恵をもたらす.レントゲン博 士による

X

線の発見以来,

X

線は医療の現場で診断や 治療になくてならないものとなっている.放射性同位元 素も同様で,そこから生じるガンマ線は診断と治療に利 用されている.しかし一方で,放射線は何らかの障害 を人に引き起こす.現在の問題は比較的少ない線量を 一時的であれ継続的であれ被曝する場合である.統計 学的に検出できないからといって,生物学的な観点か ら安全ということにはならない.国際放射線防護委員 会(International Commission on Radiological Protection,

ICRP )が述べる「放射線防護」の目的は「便益をもた

らす放射線被曝を伴う行為を不当に制限することなく人 の安全を確保すること」であり,そのためには,(1)放 射線被曝を伴う行為は十分な便益がある場合でなければ 導入してはならない(行為の正当化),そして(

2 )正当

化された行為に関連したある特定の線源からの個人の被 曝線量,被曝する人数,被曝の可能性(潜在被曝)を経 済的および社会的要因を考慮して合理的に達成できる程 度に低く保つ

(防護の最適化)

を図ることが求められる.

私たちはこれを医療における放射線利用という視点から 捉えてきたが,今回は原子力産業そのものが問われてい る.私はかつて先輩教授の退任記念集で以下のことを述 べた

(「私の放射線防護 :

島野達也先生の退職を記念して」

1997

7

月).「わが国のエネルギー資源の数十%を原 子力に頼っているのを知っているが,我々が現在そして 近い将来に必要とするエネルギー量,代替エネルギーの 開発程度,その開発研究費についてあまり知らない.日 本人がどのくらいの不便を許容すれば原子力発電所を 永遠に封鎖できるのかを知らない.日本中から

vending

machine

を全て取り払うだけで原子力発電所の

1

基くら

い封鎖できるというのなら,我々は喜んでその不便を許

容すると思う.科学技術庁等の関係各庁は原子力産業に ついての情報を公開し,同時に今後のエネルギー開発に ついて広く国民的な合意を形成して行くべきであろう.

個人的には可及的に早急に原子力発電所を封鎖するため に,代替エネルギーの開発に多額の研究費をつぎ込んで もらいたいと念じている.安全である筈のない原子力発 電所が安全などというキャンペーンは止めて,いかに危 険かを示しさえすれば,研究費は何とかなるのではない かと思う.」電力会社や政府が醸し出した原発安全神話 の下でこうした議論は先送りされたか封印されてしまっ たといえる.しかし,原発が正当化されるかどうかは放 射線防護に関わる最も基本的な事項であるので,客観的 な資料とその公開をはかり,最終的には国民投票等によ り,国民自ら決定を下せる機会を与えるべきである.

 2.放射線とは?

 放射線とは電離能力を有する電磁波や粒子線である.

放射線が物質(例えば水)を通過するときに,その物質 を電離する.電離とは原子の軌道電子をはじき飛ばすこ とによって,原子を陽イオンと電子に分離することであ る.放射線を出す能力を放射能と呼び,放射能を持つ物 質を放射性物質とよぶ.

X

線は電磁波で放射線であるが,

X

線発生装置を用いるので,放射能という概念はない.

 放射線は粒子放射線(アルファ線,ベータ線,陽子線,

中性子線)と電磁放射線(ガンマ線,エックス線)に分 類される.放射線にはものを透過する能力があるが,そ れは放射線の種類により様々である.アルファ線は紙

1

枚程度で遮蔽できるが,吸収されその場に多量のエネル ギーを与える.例えば,呼吸により肺に入ったラドンガ スはアルファ線により肺癌を引き起こす.一方,放射性 物質から放出されるガンマ線は

X

線と同様,透過力が 強く,エネルギーによっては鉛すら透過する.注意すべ き点は放射線がからだを透過するということは,からだ

公開講座

どうして放射線被曝が危険なのか?

岡 野 友 宏

 昭和大学歯学部歯科放射線医学講座

(2011

7

12

日受理)

 要旨:私たちはいま,放射線とは何なのか,からだにどう影響するのか,その結果,私たち自身や子供 たちにどんなことが生じるのか,ということに大きな関心がある.ここではこのような放射線影響の科学 的知見,加えて私たちの生活や健康のために必要不可欠となっている放射線との関わり,そしてその被曝 についての基本的な考え方についても言及する.

(2)

251 Radiation and Effects

Dental Med Res. 31

からみると何もなかったことであり,これは障害を引き 起こさない.からだにそのエネルギーが吸収されて初め てイベントが生じる.

 ここでいくつかの用語を整理する.まずは「放射性物 質」であるが,これは放射能をもつ物質,ないし放射線 を放出する物質を指す.例えば,ウラン(U, 原子番号

92)は原子炉の燃料として利用される.天然には

238

U

が主で,235

U

がわずかに含まれる.235

U

が原子炉で核分 裂を起こす.プルトニウム(Pu, 原子番号

94)は

235

U

核分裂で生じた中性子を 238

U

が捕獲してその後,239

Pu

となる.239

Pu

が原子炉で核分裂を起こす.核分裂の結果,

生成される物質の代表がヨウ素

131

とセシウム

137

であ る.天然にはヨウ素

127

として海藻に含まれ,またセシ ウム

131

は自然界に存在する.

 つぎに「放射性同位元素」である.同じ元素であって も質量数の異なる元素があり,そのうち放射線を出して 他の種類の原子核に壊変する同位元素を放射性同位元素

( Radioisotope, RI )と呼ぶ.簡単な例が水素である.水

素は原子核に陽子が

1

つ,軌道電子が

1

つというのが一 般的であるが,原子核に中性子が

1

つないし

2

つ,加わっ たものがあり,これらは互いに同位元素と呼ぶ.原子核 に陽子

1

つと中性子

2

つある水素を三重水素(トリチウ ム)を呼び,これは崩壊してヘリウムになる放射線同位 元素である.ヨウ素

131

β

崩壊し,キセノン

131

とな

るが,その際,

0.36 MeV

のガンマ線を放出する.ここで,

1

秒間に崩壊する原子核の数を

Bq(ベクレル)といい,

放射能の大きさを示す.

Bq

の値が大きいほど放射能は 高く,したがって放射線量は多くなる.また原子核の数 が半分になるまでの時間を半減期といい,ヨウ素

131

8

日,セシウム

137

は約

30

年である.

 3.線量とは?

 線量の単位の基本は吸収線量(Gy, グレイ)である.

物質の単位質量あたりに吸収されたエネルギーの量であ り,質量

1

㎏の物質に

1J(ジュール)のエネルギーが

吸収された場合を

1 Gy

とする.しかし,同じ

1 Gy

の吸 収であっても人体影響は異なるために,等価線量(

Sv,

シーベルト)という単位が定義された.これは,吸収線 量×放射線加重係数(発がん

遺伝的影響の相対的効果,

例;

X

1 ,陽子線 2 ,中性子 2.5-20 )で表す.局所の

被曝線量を表すためにはこの等価線量が用いられること が多い.一方,全身の被曝における放射線被曝リスクを 考えるときには,放射線被曝による発癌で死亡する可能 性は臓器によって異なる.放射線による臓器の

「感受性」

とそこに発生した癌の致死率などを勘案した線量単位が 実効線量(

Sv,

シーベルト)である.組織ごとの等価線 量×組織加重係数(組織臓器ごとの発がん・遺伝的影響

の相対リスク)で算出する.なお,等価線量と同一の単 位,

Sv

を用いるので注意が必要である.実効線量を放 射線の医療被曝に応用する時には以下の事項に注意する

(ICRP 2007).(1)医学利用の放射線によるリスクは,

個々の組織に対する適切なリスク値(被曝線量とリスク 係数)と,その検査法を受けた集団の年齢・性別分布を 考慮して評価すべきである,(2)対象とする患者集団の 年齢・性別分布が類似している場合に限って,異なった 検査法による比較,異なった病院・国における同一の検 査法による比較,同じ検査法に関する異なった技術間で の比較など,被曝線量の相互比較に有用である,(

3 )被

曝線量分布が極端に不均一な検査や透視ガイド下のイン ターベンショナル検査の評価・解釈には注意を要する,

以上である.

 4.被曝のしかた

 ひとが放射線に被曝する形式には内部被曝と外部被 曝がある.内部被曝の代表はヨウ素

131

が食事等で体内 にはいるとヨウ素のため甲状腺に特異的に集積し,その 甲状腺が被曝する.同様にストロンチウム

90

が体内に 取り込まれると骨に集積するので骨髄の被曝が問題とな る.一方,外部被曝は地面にたまった放射性同位元素か らのガンマ線による被曝である.医療での

X

線画像検 査は外部被曝であるが,原発事故に伴う被曝は食物や吸 入によって放射性物質が体内に取り込まれるので外部被 曝だけではなく内部被曝が加わる.したがって公衆の被 曝線量は両者の和として表現されるべきであるが,現時 点では内部被曝の線量の推定が困難である.

 一方,放射線に身体の一部がさらされる場合と全身が さらされる場合がある.前者は局所被曝といい,医療に おけるX線検査はその代表である.原発建屋内に残留し た放射性物質に被曝した作業員は局所に大量に被曝した ので,これも局所被曝である.一方,地表に広く散布さ れた放射性物質による被曝は全身被曝となる.例えば足 だけが

5Sv

被曝した場合,皮膚の発赤程度で済むが,全 身に

5Sv

被曝すると重篤な骨髄障害から致死に至る可能 性がある.

 5.放射線障害の機序

 放射線は生体を構成する主たる水を電離(イオン化)

し,反応性の高いラジカル(水酸化ラジカル・過酸化ラ ジカル)を生成する.このラジカルが生体の基本構成物 質である

DNA

を損傷する.損傷を受けた

DNA

の多く は生体の防御機構により修復されるが,修復されない場 合は染色体異常や細胞の死を引き起こす.最終的には,

組織の機能低下,悪性腫瘍の誘発,個体の死を来す.一 般に

X

線やガンマ線による

DNA

損傷は疎に起こるので 修復しやすいが,中性子や陽子線では損傷が密なため正

(3)

T. Okano

252 Dental Med Res. 31

しく修復するのが困難になる.前者の放射線を低

LET

放射線,後者を高

LET

放射線と呼び,後者は前述の放 射線加重係数が前者の基準である

1

より高い値となる.

 6.放射線障害の分類

 放射線障害は以下のように分類する.障害の現れる個 人という点から被曝した本人に現れるものとして「身 体的影響」と,将来の世代への影響という点での「遺伝 的影響」である.後者は人では証明されていない.影響 の出る時期によって,早期影響と晩期影響とがある.大 線量を被曝して局所に生じる組織損傷や,全身に被曝し たときに生じる急性放射線障害は早期影響である.一 方,白内障の発生,出生時にみられる発生異常や発癌は 晩期影響である.もうひとつの分類法は線量反応関係に 基づくもので,確定的影響と確率的影響である.前者は

1 )被曝量がしきい値を超えてはじめてでる, 2 )しきい

値が超えた場合,被曝量が増えれば増えるほど,その影 響の程度はひどくなる,

3 )皮膚の損傷,白内障,不妊,

胎児被曝による奇形,全身被曝による急性放射線障害な どである.重要なものは奇形の発生と重度な精神発達遅 滞であり,そのしきい値は

0.1 0.2 Sv

とされる.一方,

後者は

1 )線量の増加とともに,影響の起こる確率が増

加する,2)しきい値がない,3)発がん,遺伝的影響,

である.

 7.確率的影響のリスクの推定

 放射線発癌が重要な問題である.「しきい値のない直 線仮説」では,がんの発生にはある線量以下では発生し ないというしきい値はなく,しかもがんは線量の増加と ともに直線的に増加する.現時点では低線量であっても,

直線仮説以上に信頼に足る仮説はないとされる.最近の 知見では「

50 100 mSv (慢性 ), 10 50 mSv (急性)以

上の被曝について,ヒトでの疫学データから,線量の増 加がある種のがんのリスクを増加させる.10 mSv以下 では現時点では不明,ただし無視してよいということで はなく,大集団を対象としたときには,わずかなリスク があると考える(Brenner DJ. PNAS, 100: 13761 13766,

2003 ).これに基づくと,放射線被曝が加わった場合,

増加する致死がんの数は

100mSv

の被曝で

1,000

人中,

5

人と推定される.米国科学アカデミー(NAS)は

2005

6

月,低線量放射線による健康影響について報告した

(BEIR

Ⅶ).低線量被曝に伴う発がんについての研究の 結果,現時点ではしきい線量があるという結論を引き出 せなかった.診断用放射線による健康へのリスクは非常 に低いもので,必要な検査を躊躇するべきではないが,

従来からのリスク推定の考え方を支持した.つまりそれ 以下であれば癌を誘発しないというしきい線量は無さ そうだということである.さらに生涯にわたる

100 mSv

の被曝により,100人中の

1

人に癌が生じ,その半数は 致死的であると推定した.前述の推定と同じである.な お,10 mSvの放射線被曝をした場合の発がんのリスク

0.1%であり,その検出には約 62

万人に上る追跡調査

をすることが必要という考えも提示されており,この疫 学的研究の困難さを窺わされる.

 8.線量限度

 線量限度は職業被曝と公衆被曝に対して設定される.

職業被曝に対する年間の線量限度は,ICRP勧告

60

では

20 mSv/年である.この値は従来から安全産業の基準と

されている職業上での年間平均死亡率

10

−4を超えるこ とがないという了解の上から出された値である.さらに 毎年ほぼ一様に被曝する場合は生涯線量が約

1 Sv

を超 えないようにし,

5

年平均で

20 mSv

であり,その間の

1

年間に

50 mSv

を超えてはならないとしている.なお,

女性の職業被曝は男性と区別されていないが,妊娠後は 胎児を公衆とみなして,出産の期間中に腹部の表面で

2 mSv

が勧告されている.

 一方,公衆に対する線量限度は,公衆には妊婦や子供 などが含まれる,公衆は被曝に対して選択の自由がない,

被曝によって利益を受けない,個人管理を受けない,被 曝以外に自分自身の職業の危険に曝されている,被曝期 間が職業被曝に比べて長い,などの理由から,職業被曝 のそれより低く設定し,

1 mSv/

年である.

 しかし緊急の場合,ICRPは各国政府が特例措置をと れるように配慮し,今回の福島での事故では

3

21

付の

“ Fukushima Nuclear Power Plant Accident ”

という 報告(ICRP ref: 4847-5603-4313)で既勧告通り,住民に 対して緊急事態発生中で

20 100 mSv,事故が安定化に

向かう時期では

1 20 mSv

の範囲で線量限度を設定でき るとし,しかしその後は

1 mSv

に戻すとしている.ま た救助等作業者の線量限度は骨髄死などの急性障害が発 生しない

500 1,000 mSv

とし,加えて救命に当たっては 承諾した志願者であれば救命の利益の方が高い場合に 限って限度を設けないこともできるとした.

 9.最後に

 福島で今なすべき医学的対応は以下の通りである.1.

個人の被曝線量の測定.これまでの被曝線量は既に

10

mSv

を超えている住民が多数いると思えるが,その線 量を市民の行動形態等から推定するべきである.今後の 線量についても地域の線量測定を行うことにより,市民 の線量を逐次,推定する.

2 .内部被曝線量の推定.こ

れも個人の被曝線量の測定ではあるが,困難さがあると 思われる.推測と共に,既に開始しているホールボディ カウンター等での実測を追加する.内部被曝量をより正 確に把握する研究を加速させる.3.今後

50

年にわたる

(4)

253 Radiation and Effects

Dental Med Res. 31

継続的な健康診断の実施.広島

長崎の原爆被爆者に行っ たものと同様な健康診断を,ある一定以上の被曝のあっ た市民に実施する.健康診断の頻度は被曝線量の大きさ や年齢を考慮して行う.なお,健康相談には心理的な相 談が可能な体制を必要とするであろう.

4 .市民一人一

人に被曝した線量と今後,この地に過ごす場合に加わる 線量を示し,予想されるリスクを説明し,その上で市民 自らが定住なり,疎開なりを判断する.そういう環境設 定と経済的支援が必要である.

参照

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