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昭和大学口腔ケアセンターの取組み

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Academic year: 2021

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特  集 昭和大学の医療連携における歯学部の役割について

昭和大学口腔ケアセンターの取組み

病棟での歯科医師・歯科衛生士のサポートが退院を早める

昭和大学口腔ケアセンター センター長

  弘中 祥司

は じ め に

 わが国の歯科保健行政ならびに日本歯科医師会を はじめとする関連団体の永年の努力により,健康な 高齢者が 80 歳で 20 歯以上持つ割合は 50%を超え ました(図 1)

1)

 これは国民一人ひとりに口腔疾患の予防啓発が普 及した賜物であり,自ら健康へと行動する,WHO の提言するヘルスプロモーションやわが国の健康日 本 21(第二次)にも繋がる良い傾向であると筆者 は喜んでおります.しかしながら,本データは健診 会場に自ら歩いて来られた人のデータであり,入院 患者や施設入居の認知症や要介護高齢者のデータを 含みません.それでも,ライフステージを通じて,

歯科保健予防活動を実践してきたからこそ,わが国 は国民自らセルフケアを実践できている時代に突入 したとも言えます.ところが,前述の認知症やこれ から述べる入院患者・要介護高齢者の口腔ケアは,

自ら行うことが難しく,医療関係者や福祉関係者を はじめ,口腔の健康に知識が少ない家族等,多くの 方に口腔のケアを任せなければならない点に大きな 相違があり,またその知識の差によって,患者さん の口腔は良くも悪くもなります.

病院は病気を治す所?!

 もちろん,病気を治すために患者さんは入院して きます.心臓なら心臓病患者の病棟,癌なら癌患者 の病棟に患者さんは,不安とともに家族と入院され ます.そして,最新の知識と技術を駆使して,病気 の根源を治してくれます.今の治療技術は 20 年前 とは比較できないくらい治療成績も予後も良くなっ

けではありません(一部疾患は除く).昭和大学病 院(急性期病院・超急性期病院)でも平均在院日数 は 10.8 日(平成 29 年度)ですから,手術直後また は亜急性期で口腔ケアを行うのは,病院の医療ス タッフに依存されます.

 少し古い話ですが,平成 16 年 1 月 13 日の朝日新 聞に,「重病でも口をきれいに」

2)

というコラムが掲 載されました.歯科診療所が過剰と言われ始めたそ の時代に,「病院内は無歯科医村なんです」という 衝撃的な内容が掲載されていました.確かに,現在 でも全国の一般病院 7,314 施設のうち,歯科・歯科 口腔外科を標榜する病院は 1,100 施設(約 15%)し かありません

3)

.したがって,歯科を持たないおよ そ 6,200 もの病院は看護師さんが必死になって口腔 ケアをしてくれているのが現状です.本学の歯科衛 生士,横塚あゆ子らの報告(2012 年)

4)

によると,

急性期・慢性期病棟の看護師さんたちにアンケート 調査を行ったところ,口腔ケアに困っていることが

「ある」と回答したものは 88.8%にものぼり,歯科 に協力を求めたいことが「ある」と回答したものは 69.6%にものぼりました.現在,3,155 床の病床数 を抱える本学でも,これは由々しき事態であるた め,昭和大学口腔ケアセンターは平成 20 年 4 月に 発足して,入院患者さんの口腔の健康を守る取組み を本格的に始動しました.

病院で働く歯科医療関係者

 病院で働く歯科医療関係者は,自らの外来の診療

も行いつつ,病棟の口腔ケアを行い,さらにさまざ

まなチーム医療に参画して入院患者や家族をサポー

トしています(図 2).RST は呼吸器チームの略号

(2)

内を清潔に保ち,人工呼吸器関連肺炎(VAP)を 予防します.NST:栄養サポートチームは近年注 目されているチームで,病気や怪我が治癒するのに 必要な栄養素を検討して早期離床や退院に貢献する チームです.その他,摂食嚥下や褥瘡,緩和ケアに も口腔(機能)管理が注目されており,病院内でも 欠かせない存在となっております.

なぜ口腔ケアは退院を早めることができるのか?

 では,なぜ歯科のチームが退院を早めることがで きるのでしょうか?前述のように,患者さんは病院 に病気を治すために入院してきます.退院は,手術 して,治れば可能になりますが,大きな手術には,

身体に大きな負担をかけます.全身の免疫を総動員 して治癒に向かう最中,口腔内の汚れが,挿管され たチューブの脇から,無意識下の無防備な気道に侵 入することで肺炎を引き起こし,または歯周病の病 巣から血行性に菌血症を起こし,治癒の延長や肺炎 治療によって,予定外に入院が長引くことがありま す.その「予定外」の入院を減らすために,平成 24 年 4 月から「周術期口腔機能管理」を医科歯科 保険点数に設定し,入院患者さんの早期退院を目指 しております(注:平成 26 年 4 月に改正

5)

してさ らに評価).口腔機能管理の名の通り,単に口の中 を綺麗にするだけではなく,入院加療中動かさない 口腔内をマッサージ(口腔の機能的なケア)するこ とで,廃用等を予防し,なるべく早くからの経口摂 取により,身体と心の健康を保持し,よって早期に 退院することが可能となります.

昭和大学口腔ケアセンターの役割

 昭和大学口腔ケアセンターは,医系総合大学の昭 和大学が学部を超えた連携を基盤にして,附属病院 の患者様や社会に貢献できる先鞭となるチーム医療 の具現化を目指しています.目指す内容は以下の 3 つを柱とします.

 1.チーム医療への貢献

 昭和大学関連 8 病院の入院患者様の口腔健康管理

(口腔ケア)の徹底を図ることで口腔疾患の改善お よび肺炎等の呼吸器感染症を予防し,在院中の医療 を円滑に行うことに貢献するとともに,口腔機能の 向上や口臭などに対する専門的な医療対応を病棟の

医師,看護師,薬剤師等のスタッフの協力を得て行 い,入院患者様の QOL の向上に貢献します.

 具体的には,①周術期における口腔健康管理(口 腔ケア),②人工呼吸器患者様の VAP(人工呼吸器 関連肺炎)予防,③一般病棟や慢性期疾患の病棟に おける口腔衛生管理,④口腔衛生管理にプラスして 可能な限り摂食嚥下機能の回復による早期の経口摂 取を目指した口腔機能管理を行います(図 3).

 2.教育への貢献

 医系総合大学の昭和大学への教育貢献として,将 来のチーム医療の一員として活躍できる医療人を教 育することを目的に,各病院の院内におけるチーム 医療としての口腔健康管理(口腔ケア)を学ぶ場と して,昭和大学の 4 学部の学生及び臨床研修医等の 研修・実習に資するものとします.

 3.地域医療連携への貢献

 口腔ケアセンターが昭和大学 4 学部のチーム医療 の核の一つとなり,入院患者様の在院中の QOL の 向上を目指しますが,同時に退院後の生活する場

(在宅,施設など)の医療施設と連携して地域医療連 携を推進します.院内周術期口腔機能管理(クリニ カルパス)から地域連携(クリニカルパス)に口腔 健康管理(口腔ケア)を導入することによって,連 携医療によって在院日数の短縮や機能回復に加えて 社会復帰や健康の維持増進を図ります.在院中の口 腔健康管理から地域包括ケアシステムに繋ぎ,口腔 の医療面から地域における連携医療に貢献します.

口腔ケアと口腔健康管理  1.口腔健康管理(狭義の口腔ケア)とは

 種々の疾患により入院中の患者は,服薬も多種類

にわたることが多く,唾液分泌の低下やケアの困難

さから口腔内の乾燥,出血などに加えて呼吸や嚥下

機能の減退などにより歯科疾患や感染症罹患しやす

い状態にあります.このような口腔環境の中で,歯

科疾患や呼吸器感染を予防し機能減退への対応を行

うのが「専門的口腔ケア(Professional Oral Health 

Care)」とされてきました.本口腔ケアセンターで

行う口腔健康管理は所謂この歯科医師・歯科衛生士

が行う「専門家による口腔ケア」を指しており,多

職種連携で用いる広義の口腔ケアとは明確に区別さ

れる専門性の高いものです(図 4)

6)

(3)

 1)口腔衛生管理

  ( 器質的口腔ケア:口腔疾患および呼吸器感染 の予防を目的とした口腔のケア)

 入院を必要とする患者は,感染に対する抵抗力が

落ちることが多く,種々の感染症に罹患しやすくな ります.歯垢や歯周疾患の原因菌である嫌気性菌の 多くは肺炎の起因菌としても知られており,肺炎等 の呼吸器感染症の予防には口腔内の清掃が必須とな

図 2 病棟におけるさまざまなチーム 図 1 平成 28 年歯科疾患実態調査

(4)

ります.

 このような疾病を予防して健康を維持するための 適切な口腔清掃を中心にした器質的口腔ケアが口腔 衛生管理です.

 2) 口腔機能管理

  ( 機能的口腔ケア:口腔機能の維持・回復を目 的とした口腔ケア)

 口腔の機能減退を早期から評価して,口腔衛生管 理とともに機能減退を補う口腔の機能療法などによ り機能の回復を目的にしたケアが口腔機能管理で

す.口腔機能管理を行うことによって摂食嚥下機能 を改善して誤嚥と誤嚥性肺炎を予防するばかりでな く,手術後などにおける早期の経口摂取を促すこと も目的としています.

昭和大学口腔ケアセンターの実際

 では,実際にどのような患者さんが来ているのか,

数字で見てみましょう.図 5 は 2017 年度の依頼状 況です.周術期等口腔機能管理の実際は,地域連携 歯科の丸岡教授にお任せするとして,当部門(口腔 衛生学部門)が実際に稼働した数字となります.

 診療科別は各附属病院に特徴があり,一概に言い 表せませんが,心臓血管外科や食道外科では,口腔 の不潔が治療成績を左右するために,手術前には必 ず歯科を訪れることになっています.心臓血管外科 を訪れた患者さんは,皆口を揃えておっしゃいま す.「私は心臓の手術をするのになぜ歯科に行くの ですか?」と.当病院のクリニカルパスにも口腔診 察の項目がありますが,心臓の弁置換術等では,口 腔内細菌の血行性移行が問題となっている等を説明 すると,皆喜んで口腔清掃をしていただけます.ま た,食道外科では,術野がまさに口腔咽頭を通過し てくる先のため,患者さんの理解も早いです.しか し,その分介入もこまめに行わないとなりません.

図 5 2017 年度の昭和大学口腔ケアセンター(口腔衛生学部門)活動 図 4 口腔健康管理の効果

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お わ り に

 これまで,入院患者の多くは,高齢者で総義歯装 着者が多く見られていましたが,8020 運動の推進 により,歯が多く残っている患者が多くなっていま す.これは喜ばしいことなのですが,反面,意識が 無く,挿管されて治癒を待っている入院患者

7)

をケ アする側にとっては,不潔域が拡大したこととな り,複雑な補綴物も医師・看護師にとっては理解を 超えるものもあります.冒頭,6,200 もの歯科を標 榜していない病院があると述べましたが,まだわれ われ歯科医療関係者が手を付けていない分野がたく さんあることに気づかされます.在宅の歯科医療も 連携がカギとなっています.広く医療職の一員とし て,またチーム医療の昭和大学の一員として,これ からの時代に必要とされる歯科医療者でありたいと 切に願っております.

文  献

1) 厚生労働省.「平成 28 年歯科疾患実態調査」の 結果 (概要).(2020 年 8 月 26 日アクセス) https:// 

www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html 2) 朝日新聞.重病でも口をきれいに.平成 16 年 1

月 13 日.p4.

3) 厚生労働省.平成 30(2018)年医療施設調査の 結果の概要.(2020 年 8 月 26 日アクセス) https:// 

www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/18/

dl/02sisetu30.pdf

4) 横塚あゆ子,隅田好美,日山邦枝,ほか.病棟 看護師の口腔ケアに対する認識 病棟の特性お よび臨床経験年数別の比較.老年歯医.2012;27: 

87‑96.

5) 厚生労働省.周術期における口腔機能の管理 等,チーム医療の推進.(2020 年 8 月 26 日アクセ ス)http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/ 

iryouhoken15/dl/gaiyou̲2.pdf

6) 日 本 歯 科 医 師 会. プ レ ス リ リ ー ス 活 動 報 告 No.050 健康寿命の延伸と歯科医療.2018 年 6 月 5 日.(2020 年 8 月 26 日アクセス)https://

www.jda.or.jp/jda/release/180605.html

7) 大岡貴史,井上吉登,弘中祥司,ほか.口腔清 掃方法の違いが経口挿管患者の口腔衛生状態に 与える影響の検討.障害者歯.2013;34:626‑636.

参照

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