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―歴史資料に対する習熟の観点から―

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【研究論文】

「歴史総合」担当教員の資質向上と能力養成

―歴史資料に対する習熟の観点から―

The improvement of nature and the training of the abilities of teachers who conduct

“Integrated History”: From the viewpoint of skill in historical materials

藤波 潔

Kiyoshi FUJINAMI

1.はじめに

(1)「歴史総合」の新設

2016(平成28)年12月21日の中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支

援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(以下、「中教審答申」と表記)をうけて、

文部科学省は、2018(平成30)年3月30日、「高等学校学習指導要領の全部を改正する告示」(平成30 年文部科学省告示第68号)を公表し、文部科学事務次官から各都道府県教育委員会教育長他に宛てて、

同日付で通知(29文科初第1784号)した。これにより、高等学校は2022(令和4)年度から新しい学 習指導要領(以下、「新指導要領」と表記)が本格実施されることとなった。

「新指導要領」作成の根拠となった「中教審答申」では、「初等中等教育全体を通じた資質・能力育 成の見通し」の中で、高等学校の地理歴史科その他教科における「科目構成の見直し」が必要だとさ れた1。歴史関係科目に関しては、現行指導要領における「世界史」の必修が見直され、「世界とその 中における我が国を広く相互的な視野から捉えて、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考 察する」ための「歴史総合」が新たな必履修科目として設定され、選択科目として「日本史探究」「世 界史探究」が設定されることとなった2

こうした科目再編は、「世界史未履修問題」後に展開された高等学校歴史教育のあり方についての 議論の帰結だと捉えることができる3。2006(平成18)年に社会問題化した「世界史未履修問題」をう けて、高等学校での歴史教育のあり方をめぐるさまざまな議論が展開されたが、その議論の中心的な 役割を果たしたのが日本学術会議である。日本学術会議は2度にわたって提言書を発表し、従来の「日 本史」と「世界史」を統合した「歴史基礎」の新設とその意義を示した4。この議論を前提として、中

1 「中教審答申」、46頁。

2 「中教審答申」、108109頁。

3 日高智彦「高校世界史のゆくえ」歴史科学者協議会『歴史評論』第819号、校倉書房、2018年、4153頁。

4 日本学術会議心理学・教育学委員会・史学委員会・地域研究委員会合同高校地理歴史科教育に関する分科会「新しい高校地理・歴史教育の 創造−グローバル化に対応した時空間認識の育成−」2011年8月3日(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t130-2.pdf);日本学術 会議史学委員会高校歴史教育に関する分科会「再び高校歴史教育のあり方について」2014613日(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/

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央教育審議会での議論が展開され5、今回の科目開設にいたったのである。

しかし、今回の学習指導要領改訂が従来の改訂と異なる点は、同時期に「高大接続改革」と大学に おける教職課程の再課程申請が実施された点にあると考える。すなわち、「新指導要領」における新 設科目とその指導方法は、高大接続改革で今後実施されることとなる入学者選抜のあり方と密接に関 連するのみならず6、新設科目を担当することとなる教員養成の新しいあり方とも連動したのである。

(2)「新指導要領」をめぐる研究動向

こうした大改革であるだけに、「新指導要領」における歴史教育のあり方をめぐっては、大阪大学 歴史教育研究会の熱心な活動7に加え、『歴史評論』誌上や高大接続歴史教育研究会等の関係学会で精 力的に論議されている8

これらの論稿の中で、今野日出晴は、新学習指導要領が「資質・能力」の育成を中心に位置づけた 結果として、教育全体が「徳育化」されていると指摘した上で、「「歴史総合」などの歴史系科目も、

高校教育全体を「道徳教育の場」とするような趨勢(「規範」の内面化)の一翼を担っている」とし ている9。さらに、地理歴史科の授業がこうした「資質育成」を目指すものである限り、「主体的・対 話的で深い学び」も「内容の創造」もその枠内で実施されるのであって、そこで発揮される教員の「主 体」は「「動員」のもう一つのかたち」10であるであると批判し、池谷壽夫の論に依拠しながら、「次 期学習指導要領は「主体性」という名の下での従属、すなわち、“自発的従属” を促すものであり、「主 体的=従属的動員型社会」の実現を目指すものと展望される。こうして育成されていく「主体」とは 果たして何なのか、何のための「主体」なのか、本来的には、それこそが問われなければならない」11

kohyo-22-t193-4.pdf)、ともに2019107日閲覧。

5 20141120日に文部科学大臣より中央教育審議会に宛てて発出された「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」

(26文科初第852号)では、「高等学校教育について,中央教育審議会における高大接続改革に関する議論や,これまでの関連する答申等も踏 まえつつ」改善を図るべき事項として、「日本史の必修化の扱いなど地理歴史科の見直しの在り方」が示されている。(http://www.mext.go.jp/b_

menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1353440.htm)2019107日閲覧。

6 独立行政法人大学入試センターは、20186月に発表した「共通テスト」の問題作成の方向性の中で、「解答が前問の解答と連動し正答の組

み合わせが複数ある問題のイメージ」の例として、幕末の日本史に関する年表を活用した問題を示している。「「大学入学共通テスト」における 問題作成の方向性等と 本年11月に実施する試行調査(プレテスト)の趣旨について」20186月18日(https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.

php?f=abm00033406.pdf&n=%E5%85%B1%E9%80%9A%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3

%82%8B%E5%95%8F%E9%A1%8C%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%81%AE%E6%96%B9%E5%90%91%E6%80%A7%E3%81%A8%E6%9 C%AC%E5%B9%B411%E6%9C%88%E8%A9%A6%E8%A1%8C%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E8%B6%A3%E6%97%A8.pdf)

2019年10月7日閲覧。また、令和3年度入学者選抜における共通テストの問題作成方針の中で、歴史関係科目については「事象に関する深い 理解に基づいて、例えば、教科書等で扱われていない初見の資料であっても、そこから得られる情報と授業で学んだ知識を関連付ける問題、仮 説を立て、資料に基づいて根拠を示したり、検証したりする問題や、歴史の展開を考察したり、時代や地域を超えて特定のテーマ について考察 したりする問題などを含めて検討する」としている。「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」20196月7(https://

www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00035971.pdf&n=R3%E5%85%B1%E9%80%9A%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88%E5%95%8F%E 9%A1%8C%E4%BD%9C%E6%88%90%E6%96%B9%E9%87%9D.pdf)2019107日閲覧。

7 「第Ⅰ部 阪大史学の挑戦」大阪大学歴史教育研究会・公益財団法人史学会編『教育が開く新しい歴史学』山川出版社、2015年、984頁;

桃木至朗「現代日本の「世界史」」秋田茂・永原陽子・羽田正・南塚信吾・三宅明正・桃木至朗編著『「世界史」の世界史』ミネルヴァ書房、2016年、

368389頁。

8 例えば「特集 歴史教育の担い手をどう育てるか」歴史科学協議会編『歴史評論』第774号、校倉書房、2014年;「特集 高校世界史から市

民の世界史へ」歴史科学協議会編『歴史評論』第781号、校倉書房、2015年;「特集 安倍政権の教育政策と歴史教育の未来」歴史科学協 議会編『歴史評論』第791号、校倉書房、2016年;「特集 教育・教育改革の危機と歴史教育の課題」歴史科学協議会編『歴史評論』第819号、

校倉書房、2018年;「特集 歴史教育の「転機」にどう向き合うか」歴史科学協議会編『歴史評論』第828号、校倉書房、2019年、など。

9 今野日出晴「内面化される「規範」と動員される「主体」」歴史科学協議会編『歴史評論』第828号、校倉書房、2019年、7頁。

10 今野、同上論文、10頁。

11 今野、同上論文、10〜11頁。また、鈴木哲雄も「過去の歴史に責任を負う主体は、歴史を学ぶ私たち一人ひとりなのである」と、歴史学習の

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と、鋭く指摘している。

他方、新学習指導要領の構造化を肯定的に捉える主張もある。日高智彦は、新学習指導要領の改訂 で「「何を学ぶか」よりも「どう学ぶか」「何ができるようになるか」を明示する方針」によって「学 習活動を具体的に想定した文言」が加わったが、こうした変化は「思考力育成に向けたこれまでの議 論が反映された」12結果だと指摘している。

成田龍一は、新設された「歴史総合」が有する<「問い」→「知識」「思考力・判断力・表現力等」

の修得→「現代的な諸課題」>という構造が、「「なにを」を重視し、「答え」を提示してきた歴史教 育の軸足が移動しており、「事実」の提供―その歴史的な意義を説いてきた歴史教育の大きな改革が 促されている」13と指摘した上で、「いまは歴史学と歴史教育の改革の機会」14であると捉えている。

また、池尻良平は「社会的事象の歴史的な見方、考え方」を働かせて課題を探究するために、新学 習指導要領では「問いの設定」が重視され、具体的な問いが例示されていることを指摘して、「これ により、「思考力、判断力、表現力等」の育成に向けた具体的な活動を授業で実施しやすくなってい る点は、新指導要領のメリットといえるだろう」15と評価している。

こうした知識活用能力の重視について、近藤孝弘はOECDが「コンピテンシー」と呼ぶ学力観が根 底にあると指摘した上で、歴史学習においては「自ら調査・研究を進めたり、歴史の知識を活用した りして今日の社会ないし世界に対して何らかの言動を行うという形をとることになる」とし、「教員 の支援」に基づいて生徒が「より高次な課題に効果的に取り組めるように」なることに対し、一定の 評価を示している16

その一方で、勝山元照が神戸大学附属中等教育学校での実践を踏まえつつ、「「問い」の例示につい ては評価がわかれる」だろうとし、その理由として、学習内容・方法の大転換に際して「マニュアル 的文書を求める現場の声」があるだろうとの推察と、「横並び主義や正解主義の立場」から「独創性」

を回避しようとする「現場の現実」があることを挙げ、「現場では「例示」「参考」を教条とし、「問い」

「主題学習」の画一化が進むのではないか」との懸念を示されている17。こうした勝山の懸念は、今野 が指摘した「主体性の動員」という問題と軌を一にするものである。

今野が指摘した高等学校の歴史教育における「主体性」の問題は、「資質育成」という、「新指導要 領」の根幹と結び付くものであり、大変重い指摘であると言えよう。しかし、筆者は、今野の指摘す

主体性について言及している。鈴木哲雄「社会科歴史教育論からみた新学習指導要領−小中高を通じた歴史学習の課題−」歴史科学協議会編『歴 史評論』第819号、校倉書房、2018年、39頁。

12 日高智彦、前掲論文、45頁。

13 成田龍一「『学習指導要領』「歴史総合」の歴史像をめぐって」歴史科学協議会編『歴史評論』第828号、校倉書房、2019年、15頁。

14 成田、同上論文、16頁。

15 池尻良平「学びの過程からみる歴史教育」歴史科学協議会編『歴史評論』第828号、校倉書房、2019年、42頁。

16 近藤孝弘「新自由主義改革と歴史教育の課題」歴史科学協議会編『歴史評論』第819号、校倉書房、2018年、911頁。

17 勝山元照「「歴史総合」事始め−実践的諸解題をどうとらえるか−」歴史科学協議会編『歴史評論』第828号、校倉書房、2019年、56頁。

これに関連して、黒川みどりは、歴史教員養成の「現実」が「歴史をかならずしも専門的に学ぼうという意志を持っているわけではない学生に、

中学社会・高校地歴の教員免許を出し、かつそこから実際に中学や高校の社会科教員が送り出される」ものになっていると指摘している。黒川 みどり「教員養成の立場から歴史教育を問う」歴史科学協議会編『歴史評論』第774号、校倉書房、2014年、44頁。また、西村嘉高も教員が「個 性に応じた授業方法を(中略)創意工夫すること」が重要であると指摘している。西村嘉高「新しい高等学校学習指導要領をめぐって−「歴史総合」

を中心に−」歴史学研究会編『歴史学研究』第979号、績文堂出版、2019年、49頁。

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る以前の段階で、新学習指導要領に基づく歴史教育は「主体性」を発揮しえないのではないかと危惧 している。それは、成田が指摘した「歴史教育の改革」に、学校現場の多くの先生方が対応できない のではないかという懸念である。

この懸念の大きな要因は、大学の教員養成課程の問題に直結する。佐久間亜紀は、「歴史学を専攻 しない学生を対象とした歴史教育」には「自らの歴史認識を鍛える教育が必要」であり、「歴史学を 専攻する学生を対象にした専門教育」には「歴史学とはどのような学問かについての巨視的な視座を 得るための教育も必要」で、これが「歴史科を教える中高の教師が必要とする知識基盤にもなりうる」

としている18

これと関連して、小嶋茂稔は、「教育職員免許法」や「教育職員免許法施行規則」に基づく歴史教 員養成の課題を指摘した上で、「優れた歴史教育の担い手養成のための歴史学系の学部学科における 具体的教育課程」を提言している19

しかし、多くの歴史教員を養成している教員養成系学部や非歴史学系学部学科においては、教員養 成課程における教育課程のあり方はさらに深刻な問題ともいえよう。このことは「どんな科目を配置 するか」という問題にとどまらず、「どんな内容の科目を配置するか」という問題に波及する内容を 含んでいる。すなわち、大学教職課程における歴史系科目のほとんどが、「教育職員免許法施行規則」

の「一般的包括的内容を含む科目」の条項を遵守する必要性もあって、通史的な内容の科目がほとん どであるのに対して、「新指導要領」が求める「問い」を基軸として主体的に歴史を探究するような 内容とも、そうした資質の向上や能力の育成につながる内容ともなっておらず、加えて、教員養成課 程を有する大学の教員の量的にも、質的にもそうした体制がほとんど整っていないのが現状である20 鈴木哲雄はこうした状況を「このところ進む「大学改革」では、教員を目指す学生のほんとうの意味 での「主体的・対話的で深い学び」の実現が疎かにされている」と指摘し、歴史学担当教員の人員削 減によって、新学習指導要領のすべての大項目を指導することのできる教員の養成が可能なのかと疑 問を投げかけている21

(3)本論の課題と構成

前節でまとめた研究動向によって析出される課題は、大学の教員養成課程(場合によっては教員養 成課程以外も含めた)における歴史教育のあり方である。そこで本論では、「新指導要領」において 必履修科目として新設される「歴史総合」を担当する教員の養成に焦点を絞りこの課題について論じ ていく。

18 佐久間亜紀「教員養成における専門教育の課題」歴史科学協議会編『歴史評論』第774号、校倉書房、2014年、16頁。

19 小嶋茂稔「現行教員免許制度における教員養成のあり方をめぐって−力量ある歴史教師を育てるための一提言−」歴史科学協議会編『歴史評論』

774号、校倉書房、2014年、3628頁。

20 西村は「大学のカリキュラム改革が急がれる」と指摘する一方で、「肝心の大学教育も厳しい状況にある」ことに言及し、「大学で「歴史総合」

を意識した講義をするためには、さまざまの分野の教員に協力を仰ぐ必要があるだろう」としている。西村、前掲論文、51頁。

21 鈴木哲雄、前掲論文、39頁。また、日高智彦も、教員養成の観点からの問題を指摘している。日高智彦、前掲論文、45頁。

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第2章では、「歴史総合」という新設科目の特徴を検討した上で、「歴史総合」を担当するうえで重 要なポイントとなる「歴史資料」の活用と資料に基づく「問い」の設定が有する問題について論じて いく。そして、第3章では、「歴史総合」を担当する教員にとって必要な資質・能力について検討する。

その上で、第4章で、そうした資質を向上し、能力を育成するための養成段階での課題について論じ ていく。

2.「歴史総合」における歴史資料の位置づけ

(1)科目の目標と歴史資料

「歴史総合」の目標のうち、柱書として示された目標は下記の通りである22

このうち、下線部分については、「新指導要領」の解説において、「「歴史総合」の学習において、主体的・

対話的で深い学びを実現するために、課題を設定し、その課題の追求のための枠組みとなる多様な視 点に着目し、課題を追究したり解決したりする活動が展開するように学習を設計することが不可欠で あることを意味している」23と説明されている。すなわち、「歴史総合」という科目自体が「課題(問い)」

の「追究」によって成立するのである。

「課題(問い)」の設定や、設定された「課題(問い)」の追究については、その視点や方法を何に 基づいて、どのようにおこなうのかが重要になる。このことに関連して、「歴史総合」における「知 識及び技能」の資質・能力に関する目標(1)は、次のように示されている24

下線部で示された技能は「課題の解決に向けて必要」なものと明記され、具体的には、社会的事象 に関する情報を収集する技能、収集した情報を社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせて読み取 る技能、読み取った情報を課題の解決に向けてまとめる技能、の3つの要素で構成されていると説明 されている25

22 「新指導要領」、58頁。

23 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 地理歴史編(以下、「新指導要領解説」と表記)』東洋館出版社、2019年、125頁。

24 「新指導要領」、5859頁。

25 「新指導要領解説」、125〜126頁。

 社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせ、課題を追究したり解決したりする活動を通して、

広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有 為な形成者に必要な公民としての資質・能力を次のとおり育成することを目指す。〔下線は筆者に よる〕

 近現代の歴史の変化に関わる諸事象について、世界とその中の日本を広く相互的な視野から捉 え、現代的な諸解題の形成に関わる近現代の歴史を理解するとともに、諸資料から歴史に関する 様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。〔下線は筆者〕

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さらに、「歴史総合」の学習における情報は、「様々な資料」によって収集されるとし、その資料は「文 献や絵図、遺物や遺構、地図、統計など歴史学習に関わる様々な性格の資料」と「作業的で具体的な 体験を伴う学習によって得られた幅広い資料」であるとされている26

また「思考力、判断力、表現力等」の資質・能力に関する目標(2)は、次のように示されている27

このうち、下線①については、「社会的事象の歴史的な見方・考え方に沿った視点の例」と説明さ れるとともに、「これらの視点に着目して設定された課題(問い)に導かれて、課題を追究したり解 決したりする活動が展開される」28としている。したがって、目標(1)と関連させて考えると、「課題(問 い)」を設定するにあたっては、下線①で示された視点が反映された歴史資料に基づくことが必要と なる。

また、下線②に関連して、歴史事象自体が多様な側面を有すると同時に、多様な視点、多様な立場 からの追究が可能であるものなので、「目標(1)で示した、資料を適切に収集、選択、活用し、資料に 基づいて考察したり、複雑な課題を把握して、解決を視野に入れて構想したりすることが大切」29 とされている。すなわち、「課題(問い)」の追究に際しても、歴史資料の活用に基づく学習活動を設 計すべきことが提起されている。

以上のことからわかる通り、「歴史総合」の学習活動の根幹となっている「課題追究活動」において、

その「課題(問い)」の設定においても、「課題(問い)」の追究においても、根拠とすべき歴史資料 と結び付いて学習活動が展開されるべきこととされているのである。

(2)大項目A「歴史の扉」の設定

前節では、「歴史総合」の学習活動が、歴史資料を根拠とした「課題(問い)」の設定と「課題(問い)」

の追究を中核としていることを確認したが、本節においては、こうした学習活動がどのような順序で 展開されるのかを項目構成によって確認するとともに、この学習過程における歴史資料活用の位置づ けについて考察する。

ところで、高等学校入学時点で、生徒は歴史資料の活用の技能をどれくらい修得しているのだろうか。

確かに、中学校社会科歴史的分野の学習指導要領では、内容の取扱いのイとして「(前略)年表を

26 「新指導要領解説」、126頁。

27 「新指導要領」、59頁。

28 「新指導要領解説」、126頁。

29 「新指導要領解説」、126頁。

 近現代の歴史の変化に関わる事象の意味や意義、特色などを、①時期や年代、推移、比較、相 互の関連や現在とのつながりなどに着目して、②概念などを活用して多面的・多角的に考察したり、

歴史に見られる課題を把握し解決を視野に入れて構想したりする力や、考察、構想したことを効 果的に説明したり、それらを基に議論したりする力を養う。〔下線と丸数字は筆者による〕

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活用した読み取りやまとめ、文献、図版などの多様な資料、地図などの活用を十分に行うこと」30 示され、技能を身に付ける学習の重視がうたわれている。また、このことを踏まえて、「歴史総合」

で修得すべき「技能」について、「小学校や中学校の社会科での学習を踏まえ、生徒が身に付けた技 能を繰り返し活用して習熟を図るように指導することが大切」31とされている。また、「指導計画の作 成と指導上の配慮事項」においては、「中学校社会科との関連と指導内容の構成について」32という項 目が設定されている。

しかし、この項目で指摘されているのは、学習内容の関連性についてであり、中学校社会で修得さ れる歴史資料の取り扱いに関する技能を踏まえた学習活動については何ら言及されていない。加えて、

「歴史総合」で取り扱うべきとして例示されている歴史資料は、その形態、内容そして範囲がとても 多岐にわたる33ため、そのすべてに対して習熟した技能を有していることを前提とした授業設計と展 開は、実質上困難と言わざるを得ない。したがって、「歴史総合」の学習に際して、再度、歴史資料 の特性や、歴史資料を活用した「課題(問い)」の設定、追究についての学習を実施する必要が生じる。

実際、「歴史総合」は4つの大項目(A〜D)で構成され、A、B、C、Dの順序で取り扱うこと とされている。そして、「歴史総合」で最初に学習する大項目であるAは「歴史の扉」と題され、こ の科目の導入として位置づけられており、「高校の歴史学習への動機付けと以後の学習に必要な歴史 学習の基本的な技能や学び方を身に付ける項目」34とされている。この大項目は2つの中項目によっ て構成されており、そのうち「(2)歴史の特質と資料」において、「資料を活用し、歴史学習に必要な 基本的な技能などを身に付けるとともに、資料と歴史の叙述の関わりについて理解する」35ことがね らいとなっている。

この中項目に関しては、具体的に下記のことが規定されている36

30 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)』東山書房、2018年、53頁。

31 「新指導要領」、124頁。

32 「新指導要領解説」、186頁。

33 歴史資料の形態については、「(前略)資料とは、遺跡・遺構、碑文、日記、手紙、新聞・雑誌などの様々な文書、著述、文学・芸術作品、風刺画、

ポスター、写真、映像、後述記録(オーラルヒストリー)など、過去を知る手がかりとなる様々な歴史資料を意味している」と明記されている。「新 指導要領解説」、138頁。内容や範囲については、後述する。

34 「新指導要領解説」、135頁。

35 「新指導要領解説」、135頁。

36 「新指導要領」、59頁。

 日本や世界の様々な地域の人々の歴史的な営みの痕跡や記録である遺物、文書、図像などの資 料を活用し、課題を追究したり解決したりする活動を通して、次の事項を身に付けることができ るように指導する。

 ア 次のような知識を身に付けること。

 資料に基づいて歴史が叙述されていることを理解すること。

 イ 次のような思考力、判断力、表現力等を身に付けること。

 複数の資料の関係や異同に着目して、資料から読み取った情報の意味や意義、特色など を考察し、表現すること。

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すなわち、本中項目では、歴史資料にはどのような種類のものが存在し、それら歴史資料を読み解 くためにはどのような技能が必要であり、歴史資料の種類に応じてどのような点に注意して当該資料 を読み解けばよいのかといった、「史料論」や「史料講読」といった内容を主目的とはしていない点 に注意する必要がある。本中項目の目的は、歴史事象が叙述されるにはその根拠としての資料が必ず 存在すること、その資料の解釈の相違が歴史叙述の相違につながること、この2点のみを修得するこ ととなっている。誤解を恐れず言えば、「歴史資料のリテラシー」を修得することが目的だと言えよう。

このことは、「新指導要領解説」に示されている学習例に明確に表れている。学習例では、資料と 叙述の関係を資料と解釈との関係を理解させることを意図して、2種類の学習課題に基づく授業展開 を示している。まず資料と叙述の関係については、次のように提起されている37

この授業例において、生徒が取り組むべき学習活動は、諸資料から「それぞれの時期における・・・

生活の様子」を読み取ること、読み取った情報に基づいて「その間の変化を捉え」ること、そして認 識した変化を「文章に表現」することとなる(上記の二重線a)。こうした学習活動を通して、生徒は「資 料に基づいて歴史が叙述されていることを理解」(上記の二重線b)することが本中項目のねらいと なっている。すわなち、「歴史総合」を学習する最初の段階で、生徒は諸資料を読み取り、異同を捉え、

表現する能力が備わっていることが前提とされているのである。確かに、中学校社会科の歴史的分野 においても、歴史資料の読解等に関する技能の育成はおこなわれる38が、「歴史総合」が必履修科目 である以上、すべての高校生が一定以上の水準で歴史資料の読解技能を修得していると想定すること は甚だ困難であり、上述の授業例で示される授業活動を円滑に実施するには、授業を担当する教員に 相当周到な授業計画の作成が求められることとなる。

他方、上述の授業例で教員に求められることは、「様々な資料を取り上げ」ること(下線①)、「豊 富な資料を教材」とすること(下線②)、および「資料の状況によっては叙述が困難である場合があ ること」に気づかせるようにすること(下線③)となっている。このうち、下線③については、上述

37 「新指導要領解説」、139頁。

38 中学校社会科歴史的分野で育成される資質・能力のうち「知識及び技能」に関する目標(1)について、『中学校学習指導要領(平成29年告示)

解説 社会編』では、「諸資料から歴史に関する様々な情報を効果的に調べまとめる技能」には、「収集した情報を社会的事象の歴史的な見方・

考え方を働かせて読み取る技能」が含まれており、こうした技能は「生徒が身に付けた技能を繰り返して活用して習熟を図るように指導すること が大切である」としている。

(前略)例えば、過去の人々の日常生活について読み取れる①様々な資料を取り上げ、「各時期の 資料から、人々の日常生活はどのように変化したと捉えられるだろうか」などの課題(問い)を 設定して、②過去の異なる時期の絵画、文書、日記、新聞・雑誌、写真、映像等の豊富な資料を 教材として、(a)それぞれの時期における衣食住、労働、余暇、教育などの生活の様子を読み取り、

その間の変化を捉えて、文章に表現する。このような学習を通じて、(b)資料に基づいて歴史が叙 述されていることを理解する。その際、③資料の状況によっては叙述が困難である場合があるこ とにも気付くようにする。(下略)〔下線と丸数字は筆者による〕

(9)

の「歴史資料のリテラシー」に関係して生徒に働きかける内容だが、下線①と下線②については、教 員が歴史資料についての豊富な知識と深い造詣を前提とし、その上で、担当する生徒の実態に応じて 適切な歴史資料の活用ができることを求められているのである。

もっとも、「内容の取扱い」において関係諸機関との連携について明記されており、「専門家や関 係諸機関などとの円滑な連携・協議を図るため、積極的な働きかけ」39をすることが求められており、

博物館、公文書館および図書館等の協力を得ながら授業を展開する工夫が必要とされている。また「活 用する資料の選択について」の項目においては、「生徒が自身との関わりについて実感したり、具体 性をもって考察したりできる資料を提示できる」ことや、「学校や地域の実態の中から、生徒が主体 的に考察できるような資料を選択して示すこと」が大切とされていて、「資料の選択に際しては十分 な配慮が必要」であると明示されている40

確かに、歴史資料の取り扱いに関するこうした能力は、歴史研究においては基礎的なものであるし、

地域に所在する公文書館・博物館等を活用する能力は教員にとって最低限の能力かもしれない。しか し、歴史研究者は自らの研究分野に関連した歴史資料に関心が特化されることが一般的であり、「歴 史総合」が対象とする近代以降の世界中の歴史事象に関する資料についての知識と造詣、取扱いの習 熟といった能力は、相当高いレベルの能力であると指摘せざるを得ない41。また、学校外の公的機関 の専門家とのネットワークを有している高等学校教員は現状では限定的であると想定されるため、公 的機関の活用さえも「歴史総合」を担当する教員に不可欠な能力として、新たに開発をすることが必 要となってくる。

3.資料の活用と問いの設定の関連

(1)中項目の連関における問い

前章では、「歴史総合」という科目全体に関わる、歴史資料の位置づけについて検証した。その上で、

本章では、具体的な学習活動における歴史資料の取り扱い方と、その際に教員に求められる能力につ いて検討する。

「歴史総合」における歴史資料の活用は、前章で述べた「歴史資料のリテラシー」能力の育成だけ を目的としているのではない。「歴史総合」の学習活動の主軸となる「課題追究活動」を実施するう えで不可欠な「課題(問い)」を設定する際にも、歴史資料の活用が求められている。

例えば、「新指導要領解説」の「2 内容とその取扱い」の<「歴史総合」の学習の構成>では、「⑤ 課題(問い)の設定と資料の活用」の項目がたてられている。そこでは、「歴史総合」の学習全般に

39 「新指導要領」、66頁。

40 「新指導要領解説」、189頁。

41 米山宏史は、「この科目〔歴史総合のこと=藤波註〕を創造的に発展させる方途を探るならば、それは多様な資史料を活用し、さまざまな問い

や探究活動を通じて思考力・判断力・表現力を育む授業をつくることである」と指摘している。米山宏史「学習指導要領の改訂と高校「社会科」

教育の課題」歴史学研究会編『歴史学研究』第979号、績文館出版、2019年、43頁。

(10)

おいて課題追究学習が求められていることを明示した上で、「この学習で重要であるのは、第一に課 題(問い)の設定であり、第二に課題(問い)の追求を促す資料の活用である」42と明記され、「課題(問 い)の設定例が、科目の目標に示された「社会的事象の歴史的な見方・考え方」との関連で、下表の ように示されている43

また、「②大項目BからDまでの中項目の構成」の項目では、各大項目が(1)から(4)までの中項目で 構成されており、この中項目が次のような学習展開を構成していることを説明している44。(表中の太 字は筆者による)

上述の通り、すべての中単元において「主題」「問い」の設定、表現がおこなわれることとなっている。

とくに中項目(1)で表現される「問い」については、中項目(2)や(3)において、「中項目(1)の生徒が表 現した問いを踏まえ、主題を設定し、資料を活用して課題を考察する。主題の設定に当たっては、学 習のねらいに即した考察を導くようにするとともに、生徒の課題意識を深めたり、新たな課題を見い

42 「新指導要領解説」、131〜132頁。

43 「新指導要領解説」、132133頁。

44 「新指導要領解説」、128〜129頁。

歴史的な見方・考え方 視点 課題(問い)の例

時系列に関わる視点 時期や年代 それはいつの出来事だろうか。

過去の理解 当時の人々はなぜそのような選択をしたのだろうか。

諸事象の推移に関わる 視点

変化と継続 このことで何が変わったのだろうか。

諸事象の比較に関わる 視点

類似と差異 その事象と他の事象を比較すると、どのような共通点と 相違点を見いだすことができるだろうか。

意味や意義と 特色(特徴)

その事象は、当時どのような意味を持っていたのだろう か。

事象相互のつながりに 関わる問い

背景や原因 なぜ、その事象は起こったのだろうか。

影響や結果 この事象の結果、どのような変化が生じたのだろうか。

現在とのつながりに関 わる問い

歴史と現在 現在の事象と、どのような点が関連しているのだろうか。

歴史的な見通し、

展望

この事象は、後の人々にどのような考えや課題をもたら すと考えられるか。

自己との関わり この事象を学ぶことは、あなたにとってどのような意味 があると考えられるか。

中項目 特徴 内容

(1)

身近な資料から考察 する、過去への問い

資料を活用する能力を身に付ける。

歴史の大きな変化に伴う生活や社会の変容について考察する。

問いを表現する。

(2)(3)

主題を踏まえた考察

と理解

主題を設定する。

資料を活用して課題を考察する。

(4)

歴史の大きな変化と 現代的な諸課題

現代的な諸解題の形成に関わる歴史的な状況を考察するための観 点を活用して主題を設定する。

現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察し、表現する。

(11)

だしたりすることができるように留意する」45とされている。さらに、こうして設定された主題が「学 習上の課題とするための問いに設定」46することとなっていることから、中単元(1)において、どのよ うな歴史資料に基づき、どのような視点で、どのような問いが表現されるかが、その後の大項目全体 の学習に大きな影響を与えることとなるのである47

(2)中項目 (1) における資料と問い

それでは、大項目BからDの中項目(1)において、どのような内容を、どのような歴史資料に基づ いて取り扱おうとしているのだろうか。この点についてまとめたのが、後掲(16

18頁)の表となる。

まず、「活用すべき資料の内容(例)」の列によれば、大項目B「近代化と私たち」では「交通と貿易」

等6項目、大項目C「国際秩序の変化や大衆化と私たち」では「国際関係の緊密化」等5項目、大項 目D「グローバル化と私たち」では「冷戦と国際関係」等7項目の合計18項目のテーマが掲げられている。

この18項目は内容的にもとても多岐にわたっている。

さらに、「活用すべき資料の内容(例)」ごとに、「教師が提示する資料(例)」が複数存在しており、

その項目数は60にも及んでいる。加えて、「教師が提示する資料(例)」は、「貿易額や貿易品目の推移」

のように、複数の資料が必要となる項目が多数存在しており、実際の資料はさらに増加することとな る。また、資料の形態も統計、年表、地図、文書、風刺画、新聞、雑誌他、相当広範な種類が提示さ れている。

とくに指摘しなければならいないのは、大項目Dの内容である。この項目は、1950年代から現在に 至る時代を対象としているが、これらの内容は、従来、「現代社会」や「政治・経財」といった公民 科の科目の中で主として取り上げられてきたものである。これまでの「日本史」「世界史」の教育に おいて、第二次世界大戦以降の歴史がおざなりにされてきた傾向が強いことを考えると、これまで公 民科の科目を担当した経験の乏しい教員にとっては、こうした時代に関連し、しかも生徒の実態にあ った資料を自ら集めることは、非常に大きな課題と言ってもよいであろう。

いずれにせよ、「歴史総合」を担当する教師には、膨大かつ多様な資料の中から、生徒の実態に応 じて適切な内容を選択し、その内容に適合する資料を提示して、大項目が対象とする時代の特徴や影 響を読み取らせ、考察することが求められているのである。このことを実現するには、歴史資料に対 する広く、深い知識と、歴史資料読解の深い習熟を備えていることが教員に求められる。この点につ いて、中尾浩康は「全体的なバランスを考えながら、「子どもたちと何を学ぶのか」自ら考え構成す る力を教師は常に磨かなくてはならない。その背景・基盤となるのが歴史学の専門的学知である。そ

45 「新指導要領解説」、129頁。

46 「新指導要領解説」、129頁。

47 こうした学習のあり方については、第1章で言及したように「主体性」の観点からの批判に加え、註14の勝山論文で指摘されている「現場の問

題」の指摘も存在する。米山も「生徒の多様な学習方法と学び方を、画一的な学習方法に制約する危険性がある」と指摘している。米山、前掲 論文、42頁。

(12)

れは学生時代のみで養えるものではなく、教師自ら歴史学の成果を真伨に学び続け、日々の教材作り や生徒に誠実に向き合う中でこそ磨かれる力である」と指摘している48

しかし、こうした資質を向上し、能力を育成する取り組みが、教員養成の段階でも、あるいは現職 教員研修においても十分に実施されているとは言い難いと言わざるを得ない49

4.「歴史総合」担当教員の資質向上と能力育成

ところで、2017(平成29)年11月17日付で通知された「教育職員免許法施行規則及び免許状更新講 習規則の一部を改正する省令の公布について」によって教育職員免許法施行規則が改正された。改正 後の教員免許法施行規則では、第5条で高等学校教諭の普通免許取得における「教科及び教職に関す る科目」の単位修得の条件について規定されており、そのうち「教科及び教科の指導法に関する科目」

については「教科に関する専門的事項」と「各教科の指導法(情報機器及び機材の活用を含む。)」の 2つの項目から構成され、一種免許を取得するには24単位以上の修得が必要とされている。

そして、備考第1号において、「教科に関する専門的事項に関する科目の修得方法は、免許教科の 種類に応じそれぞれ定める教科に関する専門的事項に関する科目についてそれぞれ一単位以上修得す るものとする」とされ、地理歴史科の「専門的事項に関する科目」については「日本史、外国史、人 文地理学・自然地理学、地誌」の4区分であると規定されている。この規定は、改正前の教育員免許 法施行規則第5条に掲げられた表の第一欄(免許教科)の地理歴史における第二欄(教科に関する科目)

の内容であった「日本史、外国史、人文地理学及び自然地理学、地誌」と実質的には変わっていない。

教科内容の修得に関わる科目の履修に関する規定の内容が実質的に無変更であったということは、

「歴史総合」を担当することになる地理歴史科の教員養成課程のあり方と「歴史総合」という科目の 指導において求められる資質・能力との間に大きな乖離を生み出すことになると指摘せざるを得ない。

具体的に次の点があげられる。

第一に、教育職員免許法上求められる履修単位の科目内容の関係である。

改正後の教育職員免許法施行規則第4条の備考第2号は「前号に掲げる教科に関する専門的事項 は、一般的包括的な内容を含むものでなければならない(次条第一項の表の場合においても同様とす る。)。」と定めている。すなわち、地理歴史科の免許取得においては、上述の4区分(人文地理学と 自然地理学はそれぞれに)ついて、少なくとも1科目以上の「一般的包括的な内容を含む」科目を設 置しなければならなないのである。これらの科目が半期・2単位で修得できることを前提とすると、「教 科に関する専門的事項」の24単位中10単位が「一般的包括的な内容を含む」科目を履修しなければな らいことになる。

48 中尾浩康「歴史教育と専門的学知」歴史科学協議会編『歴史評論』第774号、校倉書房、2014年、27頁。

49 現職教員研修や教員免許状更新講習の全国的な状況いついては未詳だが、少なくとも管見の限りにおいて、沖縄県では現時点で「歴史総合」

に特化した取り組みは実施されていないと思われる。

(13)

文部科学省初等中等局教職員課が再課程認定用に作成した「教職課程認定申請の手引き」によれば、

「教育職員免許法施行規則第4条第1項表備考第2号に規定する「一般的包括的な内容」とは、その 科目の学問領域をおおまかに網羅するものであること、特定の領域に偏っていないものであることと し、学生の科目履修の際に一般的包括的な内容が担保されているものであることとする」50とされて いる。どの科目を「一般的包括的内容を含む科目」とするかは、教職課程を開設している大学の判断 となるが、学習指導要領を1つの指標として科目を指定することが必要だとの指摘もある51。この指 摘に従えば、「日本史」「外国史」の区分においては、「歴史総合」のみならず「日本史探究」「世界史 探究」を見通した概説的な内容の科目を設置することが求められることとなる。したがって、地理歴 史科免許の教職課程では、「日本史概説」「世界史」といった通史科目が優先的に設置されることとな り、「歴史資料に対する広く、深い知識と、歴史資料読解の深い習熟」といった資質の向上と能力の 育成を十分におこなうことは困難だと指摘せざるを得ない52

第二に、地理歴史科の「教科に関する専門的事項に関する科目」の科目区分の問題である。

上述の通り、歴史に関する科目は「日本史」と「外国史」に区分されている。しかし、「新指導要領」

策定の原点となった「中教審答申」において、「歴史総合」は「世界とその中における日本を広く相 互的な視野から捉えて、近現代の歴史を理解する科目」とすることが適当だとされている53。すなわち、

独立した「日本史」と「世界史」を単純に足したものではなく、「世界史」と「日本史」を融合的な ものとして理解しようとすることが意図されているのである。

他方で、教育職員免許法施行規則の科目区分は、改正前後で実質的には変わっておらず、したがっ て「世界史」と「日本史」を融合的なものとして理解する能力を育成することを目指す科目の設置は 形式上義務づけられていない。もちろん、免許課程設置大学が「世界史」と「日本史」の融合を目指 す内容の科目を設置し、履修指導上の必修科目とすることは可能であろうが、施行規則における科目 区分が、「歴史総合」と適合的ではないことは明らかである。

第三に、教科の指導法に関する科目との関係である。

教科の指導法に関する科目は、教職課程コアカリキュラムの中に位置づけられており、その全体目 標は次のように設定されている54

50 文部科学省初等中等教育局教職員課『教職課程認定申請の手引き(教員の免許状授与の所要資格を得させるための大学の課程認定申請の手 引き)(平成31年度開設用)【再課程認定】(最新更新日平成30年1月15日)』文部科学省Webサイト「教職課程再課程認定について」(http://

www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afi eldfi le/2018/01/16/1399047.pdf)20197月13日閲覧。

51 小野勝士・村瀬隆彦・上西浩司・中井俊樹編『大学の教員免許業務QA』多摩川大学出版部、2014年、72頁。

52 この点について、小嶋は歴史系学部学科においては、「教師養成の実質化」のためにも「本来の学士課程」の設置科目と「上手く融合」させる

ことを指摘している。小嶋、前掲論文、37頁。

53 「中教審答申」、134頁。

54 教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会「教職課程コアカリキュラム」2017年、7頁。

 当該教科における教育目標、育成を目指す資質・能力を理解し、学習指導要領に示された当該 教科の学習内容について背景となる学問領域と関連させて理解を深めるとともに、様々な学習指 導理論を踏まえて具体的な授業場面を想定した授業設計を行う方法を身に付ける。

(14)

この全体目標には2つの一般目標が設定されており、そのうちの「学習指導要領に示された当該教 科の目標や内容を理解する」との目標には5つの到達目標があり、その4は「当該教科と背景となる 学問領域との関係を理解し、教材研究に活用することができる」とされている55。すなわち、養成段 階における教科教育法の授業では、単なる教科指導の技術だけではなく、背景となる学問領域との関 係性を理解させることが求められているのである。

確かに、教育職員免許法施行規則第5条第1項表備考第2号は、「各教科の指導法(中略)は、学 校教育法施行規則第八十四条に規定する高等学校学習指導要領に掲げる事項に即し、育成を目指す資 質及び能力を育むための主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に資する内容並びに包括 的な内容を含むものとする」と定められている。また、「教育職員免許法施行規則及び免許状更新講 習規則の一部を改正する省令の交付について(通知)」では、留意事項等の1つとして「教科に関す る専門的事項と教科の指導法の連携の強化について」が掲げられ、「両者を統合する科目を開設したり、

教科に関する専門的事項を単独で開設したりする場合であっても、学校現場の教育内容を踏まえた授 業を実施する等の取組が、各養成課程の自主的な判断の下、行われることが期待される」56としている。

上述の通知の趣旨を踏まえ、「歴史総合」を担当する教員にとって必要な資質・能力である「歴史 資料のリテラシー」能力と、「課題探究活動」を実施するうえで不可欠な「課題(問い)」を設定する 能力の基盤に位置づけられる「歴史資料に対する広く、深い知識と、歴史資料読解の深い習熟」が育 成できるような内容の科目を、各大学の教職課程に開設することが理想であることは言うまでもない。

こうした教育を受けた学生が教員として「歴史総合」を担当することで、「生徒と教師がともに資史 料に向き合い、生徒間、生徒と教師間の学び合いを進め」57るような授業が可能となり、「「歴史総合」

をだれが担当するかは大きな問題」58との懸念も解消されるだろう。

しかし、実際には、学士課程教育にはそれ自体のポリシーが存在しており、教職課程が必要とする ものと必ずしも一致するとは限らない。したがって、「歴史学の立場から積極的に教員養成に関する 新たな科目や研究領域を開拓」59することが必要になる。

5.おわりに

以上述べてきた通り、「歴史総合」の新設にあたって、担当教員に求められる資質の向上と能力の 育成は、従前の歴史教員の養成ではほとんど対応できていない。志高く、意欲のある高校の先生方の 個人的な努力だけに依存していては、「新指導要領」が導入されてもその目指すところが十分に実現

55 教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会、前掲書、7頁。。

56 文部科学省初等教育局長高橋道和「教育職員免許法施行規則及び免許更新講習規則の一部を改正する省令の公布について(通知)」(29

科初第1113号)、201711月17日、文部科学省Webサイト「告示・通達」(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1398706.htm)2019 7月13日閲覧。

57 米山、前掲論文、43頁。

58 西村、前掲論文、50頁。

59 小嶋、前掲論文、3738頁。小嶋は例として「教科書の短い叙述の背景にある学問的蓄積を実感させる講義・演習」の開設や、教育学の研

究者との協働による「歴史教師養成学」の開拓などを挙げている。

(15)

できない。本論では論じることができなかったが、現職教員に対する研修は喫緊の課題であると指摘 せざるを得ない。

他方で、歴史教員の養成課程を設置している大学にとって、「歴史総合」担当教員養成を念頭に置 いた新たな科目、授業方法60、カリキュラムの開発が課題として挙げられる。筆者自身も、勤務校の 教職課程開設科目である「外国史Ⅰ」「外国史Ⅱ」において、2018年度より通史だけでなく、歴史資 料の読解、歴史資料の読解に基づいた個別の歴史事象の意義の考察を内容として加えたものに授業を 一新した。「歴史総合」担当教員の養成にとってのこの取組の有効性については、授業実践を蓄積し た上で改めて検証したい。

60 教職課程との関係の有無にかかわらず、大学における歴史教育の方法論や実践研究は、『歴史地理教育』誌掲載の実践論文や、註4で指摘し

た大阪大学の取組に関する刊行物、各大学で実施されているFDとの関連等を除けば、管見の限りとても低調である。ただし、歴史資料に関す る習熟を促す大学での歴史の授業のあり方として、次のものは参考になる。森谷公俊『学生をやる気にさせる歴史の授業』青木書店、2008年;

星乃治彦「「学生報告」という実験」歴史科学協議会編『歴史評論』第781号、校倉書房、2015年、3543頁。

(16)

大項目中項目活用すべき資料の 内容(例)教師が提示する資料(例)資料から生徒に読み取らせる内容(例)考察すべき事項(例)

B   近代化と私たち

︵1︶   近代化への問い

交通と貿易

貿易額や貿易品目の推移 鉄道や蒸気船の急速な普及の理由、貿 易によって豊かになった国々の特徴貿易の拡大による世界の結び付き鉄道の敷設距離の推移や航路の拡大と所要日数 の推移 工場数の推移 産業と人口

人口動態のグラフ 新たに発達した産業の特徴、人口増加 がもたらした社会への影響工業化の進展と社会の変容の関わり工業化の進展を示す年表 農業生産と工業生産の推移の比較 都市の景観やその拡大を示す図版や地図 権利意識と政治参 加や国民の義務 啓蒙思想家の主張 納税や兵役が全国民の義務となった理 由、参政権を求める運動の背景国家が国民に義務を課すことと権利を 保障することとの関わり

自由民権運動など政治参加を求める文書 地租改正や徴兵制度など税や軍事に関する資料 政府の政策に対する風刺画 学校教育

各国の識字率の変化を比較するグラフ 教育が国民の義務となった理由、教育 の普及が人々の考えや意識に与えた影

義務教育の普及と生活や社会の変容の 関わり教育制度の変遷を示す資料 就学率など教育を受ける民衆の側の対応を示す 資料 労働と家族

都市社会の様子を記録した文書 工場労働者の増加による社会の変化や それに伴う女性の役割の変化労働や家族の在り方と社会の変容との 関わり労働時間や賃金などを示す資料 当時の家族構成や家族内の男女の役割の変化を 示す資料 移民年代や地域ごとの人口の移動を示す資料大規模な人口移動が起こった背景、受 け入れた国に与えた影響移民の増加と社会の変容との関わり 移民を受け入れた国の人口動態を示す資料

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