超小型自律制御放電加工装置の開発
1. はじめに
放電加工では,電極と工作物の間に パルス状の電圧を印加し,電極と工作 物の間(極間)の任意位置で生じる単 発の放電を繰り返させることによっ て,材料除去が行われる.したがって,
加工速度を上昇させるためには,材料 除去に寄与する単発放電の単位時間当 たりの発生数を可能な限り多くする必 要がある.これを実現させるため,放 電加工機は,電極と工作物の距離(極 間距離)が常時適切な距離になるよう に,極間の電圧と電流の測定値をもと に電極の位置をフィードバック制御に
よって調整している.当然のことなが ら,このような制御系の構築には,極 間電圧・電流の測定器や電極位置の制 御機器などの装置が不可欠となる.
これに対し,筆者らのグループは,
測定器や制御機器などを必要とせず,
自律的に極間距離を制御することに よって放電加工を実現する超小型装置 の開発を目指し,極間距離自動制御機 構(Automatic Discharge Gap Con- troller: ADGC)を開発した.本稿で は,ADGC およびその小型化と性能 向上について紹介する.
2. ADGC の構造と動作
図 1に ADGC の基本構造と動作過 程 を 示 す. こ の 図 に 示 す よ う に,
SMA(Shape Memory Alloy)製のば ねとばね鋼製のバイアスばねが互いに 拮抗するように組み立てられている.
このアクチュエータはバイアス式 2 方 向性素子と呼ばれ,その入力と出力は それぞれ SMA の温度昇降と軸の移動 である.ADGC は,その素子の軸に 電極が取り付けられ,かつ,放電加工 時に発生する電流が SMA を流れるよ うに設計されたものである.SMA は 通電加熱が可能であるため,同図に示 す過程のように,電極の位置は自動的 かつ自律的に制御され,安定な放電加 工が実現される極間距離となるように 常に調整される.なお,この過程の実 現には,加熱・冷却時の SMA の温度 がその変態温度をまたぐように設計す る必要がある.
3. 試作機と改良機
試作機(1)では,バイアス式 2 方向性 素子の SMA ばねとバイアスばねをそ れぞれ 3 本の引張コイルばねと 1 本の 圧縮コイルばねとしたため,複雑な設 計と困難な組立を余儀なくされた.こ の問題を解決するための改良を施し た.図 2(a)に改良機の構造を示す.
改良機(2)では,そのバイアス式 2 方向 性素子の SMA ばねとバイアスばねを それぞれ 1 本の圧縮コイルばねとして も,ADGC としての機能を発現でき る設計解を見出して採用した.図 2(b)
に試作機と改良機の外観比較を示す.
両図とも同じ縮尺であるため,試作機 に比べて改良機が大幅に小型化された ことがわかる.
4. 改良機の性能検証実験
図 3に ADGC の極間距離制御性能 を検証する実験の方法を示す.図 3(a)
に示すように,ADGC を極間距離制 御機能を停止させた放電加工機の主軸 に取り付け,加工電圧の印加状態を維 持したまま,極間距離を放電が発生し ない最小距離とする.次に,図 3(b)
に示すように,主軸を速度
v
で距離h
だけ工作物の方向に移動させ停止させ る.すると,ADGC により極間距離 は制御され,放電加工が開始される.その後,図 3(c)に示すように,深 さ
h
の穴が加工され,放電加工が終了 する.このとき,ADGC が短絡せず に放電加工を完了できる接近距離の最 大値h
maxを,その ADGC の有する極 間距離制御性能の指標とした.図 4に試作機と改良機の
h
maxの比較 および電極の設計可動範囲に対するh
maxの割合の比較を示す.接近速度v
は 1.2mm/min とした.試作機と改良 機 のh
maxは そ れ ぞ れ 50μm と 850μm となり,劇的に極間距離制御性能が向 上していることがわかる.また,設計 電極動作範囲はそれぞれ 1 000μm と 850μm であり,改良機が設計された 電極動作範囲の 100%を使用できてい ることから,改良機が設計どおりに動 作していることがわかる.5. おわりに
自律的に極間距離を制御することに より放電加工を実現する機構すなわち 極間距離自動制御機構(ADGC)の開 発およびその小型化と性能向上につい て紹介した.今後は,ADGC の各種 設計パラメータと動作特性や放電加工 特性の関係を明らかにすることによっ て,さまざまな用途に適した ADGC の設計製作方法および運用方法を提案 できるようなシステムを構築したいと 考えている.
(原稿受付 2010 年 1 月 26 日)
〔石田 徹 大阪大学〕
●文 献
( 1 )石田 徹・竹内芳美,自走式放電加工機構 による曲がり穴加工 ―電極間距離の自動 制御機構―,精密工学会誌,65-2,(1999),
245-249.
( 2 )北 正彦・石田 徹・寺本孝司・竹内芳美,
曲がり穴放電加工用マイクロロボットの開 発 ―極間距離自動制御機構の改良による 小型化と性能向上―,精密工学会誌,75-11
(2009),1355-1359.
図 1 極間距離自動制御機構の基本構造 と動作過程
バイアス式 2 方向性素子
バイアスばね
工作物に接近
工作物 へ接近
放電 極間距離過小
極間距離拡大 極間距離縮小
常に適切な極間距離に収束 適切な極間距離
自律的で安定な放電加工の実現 極間距離過大 放電電流増加
放電加工電源
放電加工電源
放電加工電源
:放電
形状記憶合金
通電加熱 形状記憶合金 冷却 放電電流減少 電極 形状記憶合金ばね
工作物 軸
図 2 改良機と試作機
筐体 上スリーブ
下スリーブ バイアスばね
(圧縮コイル ばね)
SMA ばね
(圧縮コイルばね)
T 形軸 放電電流 供給ケーブル メカニカル
ストッパ
電極
電極
20mm 電極 20mm バイアス式
2 方向性素子
バイアス式 2 方向性素子
(a)改良機の構造 (b)改良機と試作機の外観の比較
(ⅰ)改良機 (ⅱ)試作機 王冠形
絶縁体
図 3 極間距離制御性能の検証実験
加工機 主軸 ,
極間距離 制御動作
電極
工作物
(a)初期状態 (b)主軸の接近と停止 (c)加工終了後
:放電 加工液
図 4 極間距離制御性能の比較
1 000 800 600 400 200
0 0
50 100 %
試作機 改良機
最大加工可能接近距離:max µm
電極の設計可動範囲に対する 最大加工可能接近距離の割合
392 日本機械学会誌 2010.5 Vol.113No.1098
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