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 では,「移動」は,どのように遺伝子に刻み込まれているのだろうか? 

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Academic year: 2021

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はじめに

iv ■ ホルモンから見た生命現象と進化シリーズ

はじめに

 動物は,生活史の中のさまざまな段階で,さまざまな理由により,さまざ まな距離を移動する.たとえば,渡り鳥は,子育てや繁殖のために,一年の なかのある特定の時期に繁殖地と越冬地の間を行き来し,サケやウナギは,

孵化後,川と海をまたぐ何千 km にも及ぶ水域を回遊して一生を終える.渡 りや回遊における「移動」は,摂食,成長,生殖や体液浸透圧調節などの生 理機能に密接に関連し,季節の移り変わりに応じて起きている.また一方で,

人間活動や気候変動による餌や水の枯渇など,予期せずに起こる生息環境の 変化に対応するためにも,動物は移動する.いずれにしても,「移動」は動 物が生まれながらにもっている生存戦略の 1 つであり,「移動」を起こさせ る体のしくみは,動物の進化の過程で遺伝子に刻み込まれてきた.また, 「移 動」は,遺伝的な要因だけで起こるわけではなく,経験や学習によっても柔 軟に変化し,それが子孫に受け継がれていくなかで,その種に特異的な生物 現象として発達し,それが遺伝子にも新たに刻まれていくと考えられる.

 では,「移動」は,どのように遺伝子に刻み込まれているのだろうか? 

この問いに答えられる「移動」の例,すなわち,その遺伝子プログラムの全 貌が明らかになっている「移動」はまだない.ただ,その一端を明らかにし ようとする研究は,これまでに数多くなされてきた.本巻は,回遊と渡りに 代表される「移動」のしくみをホルモンという面から解明しようとする研究 の成果を基にして,水圏から陸,空のさまざまなフィールドで繰り広げられ る動物の生き生きとした「移動」の様を紹介しようと企画された.「移動」が,

生理機能と密接に関連した環境適応の働きの 1 つとすれば,内分泌系,神経 系や神経内分泌系で機能するさまざまな化学情報伝達分子が,その調節に重 要な役割を担っていることは間違いない.しかし,1 章で述べられているよ うに,内分泌機構まで研究が進んでいる「移動」の例は,実はまだわずかで ある.野外を巡っている動物を相手にして,その移動ルートを明らかにし,

その体の中で起こっていることを明らかにすることは容易ではない.

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第Ⅵ巻 回遊・渡り -巡-■ v はじめに

 本巻では,2 章で回遊・渡りを理解する上で基礎となる神経内分泌学を概 説した後,チョウ(3 章),回遊魚(4, 5 章),両生類と爬虫類(6 章),鳥(7 章),

クマ(8 章)の「移動」を取り上げた.各章において,断片的であるとはい え,多くのホルモンがさまざまな局面で重要な役割をもつことや,それぞれ の動物の生活史の中で「移動」のもつ生態的な意義が紹介されている.また,

そのホルモン調節機構を明らかにしようと,研究者がフィールドや実験室で 試行錯誤しながら野生動物を相手にしている様がわかっていただけるであろ う.なかでも 7 章では,鳥類内分泌学の世界的な権威である Wingfield 博士

と Ramenofsky 博士(カルフォルニア大学)に,鳥の渡りのホルモン調節に

ついてまとめていただいた.「移動」の遺伝子プログラムの全貌の解明にもっ とも近い研究と言える 40 年以上にわたる鳥の渡りの研究成果と共に, 「移動」

の基本となるさまざまな生物現象とその階層的構造が解説されている.

 「移動」は,フィールドにおける複合的な環境要因への適応として,さま ざまな生理機能と行動調節が連動して起こる生物現象である.その研究には,

内分泌学,生理学,神経科学,行動生態学,時間生物学,分子生物学,遺伝 学などの生物学の諸分野のみならず,環境科学,地理学や気象学なども関わ り,回遊・渡り研究は総合的なフィールド科学の一分野である.本書を通し て,フィールドで起きている動物の多様で驚異的な「移動」現象の不思議と その進化的背景,そしてその総合的理解を目指した創意工夫に満ちた研究の 面白さを感じ取っていただくことができれば,大きな喜びである.

 2016 年 10 月

著者を代表して

安東宏徳・浦野明央

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