について
著者 山田 りよ子
雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告
巻 19
ページ 23‑33
発行年 1996‑06
出版者 東京家政大学生活科学研究所
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009822/
一遊び展開の要因について
山田りよ子
An Analytical Study of Environment for Children in Kindergarten Triggers that Effect Changes in Play 一
Riyoko YAMADA
1.研究の目的
現行の幼稚園教育要領では,幼稚園教育は環 境を通しておこなうものであることが基本とさ れており,自発活動としての遊びに指導の重点 がおかれている。現在では自発活動としての遊 びは環境と深い関わりがあるということが広く 言われている。しかし実際にはこの「深い関わ り」ということにっいて,何がどのように関わっ ているのかはっきりしていない。そのため,保 育者が環境を整えることで子どもの遊びを指導
しようとするとき,何をどのようにしたらよい のかわからず行き詰まっている状態である。そ こで本研究においては,幼児の遊びに環境がど のように影響を及ぼしているのか,またどんな 場合に環境としての何が関係してくるのか,明 確にしていこうと考えた。
遊びがどのような遊びであるかを明らかにし なければ,環境との関わりを論ずることはでき ない。戸田(1991)は「『遊べていない』と言 う殺し文句」があることを指摘している。何を もって遊んでいるときと遊んでいないときを判 断するのか,どんな状態が年長児の遊びとして あるいは年少の遊びとしてふさわしいのか,遊 びを見て判断する基準が保育現場の中では曖昧 なのである。遊びが環境とどのような関わりが あるのかを明らかにする過程は,保育における 遊びをも明らかにする過程である。
この研究において「遊び」を,子どもが「何 を楽しんでいるのか」という観点からとらえる こととする。「楽しんでいる」という状態は,
自らの行動を通して何かを学びとっている姿に っながり,自らを発達させていく姿にもっなが ると考えるからである。しかし「楽しんでいる」
のは子ども自身の感覚であり,楽しんでいるか どうかを外側から観察している研究者や教師は 判断できない。子どもの情感としての「楽しむ」
ではなく何かを学んでいる,何かをしている,
し続けている行動をとらえ,その行動の内容を
「遊び」とする。
前研究(上越教育大学大学院修士課程論文)
では発達的見地から遊び発展の基準を求めた。
このとき,前述した行動の内容で「遊び」を観 察し,遊びの展開を発達を考慮した種類でとら えた。しかし,遊びは出現してから時間ととも に変化しており,環境との関わりを観察をする 時に,時間経過にともなう遊びの実態をとらえ る必要があることが課題の一っとして残された。
前述した研究としての「遊び」の捉え方は,
子ども自身が「○○をして遊んでいる」という 意識とは違っている。子どもが「セーラームー ンごっこをしている」と言っているとき,その 遊びの状態はご馳走を作ることであったり,戦 士に変身するポーズに一生懸命であったりする。
その状態の違いすべてを含んだものが子どもの 言う「セーラームーンごっこ」である。
本研究ではこの様な子ども自身が意識してい る遊びの状態を「遊びの展開」として押さえ,
環境を分析することで遊び展開の要因を捉えよ うとするものである。
2.研究方法
場所があっても物があっても,遊びを起こす 子どもがいなければ遊びは出現しない。又子ど
もがいても,遊ぶ場所がなければ起こりにくい し,物があることでさらに起こりやすくなる。
遊びの構成要素として都立教育研究所は「場」
「物」「言動」であるとしている。このうち「言 動」は子どもが発するものである。想像したこ とを言う言動もあれば,友だちを受けとめる言 動もある。つまり仲間の存在が遊びの構成要素
の質的な変化に大いに関係があると言うことが できる。
遊びから違う遊びへと変化していくとき,あ るいはある遊び展開の状況から違う遊び展開へ 変化するとき,どんな状況が起こっているのか を,物・場所・人の出入りから調査をし考察を 加えることにする。
(1)10分毎に園内を巡回して記録を取る。同 時に,VTRでの撮影も行い,筆記記録を
補う。
(2)それぞれの遊びにっいて,使われている 「物(遊具・道具・材料等)」と「場所」
「参加者」の観点からまとめる。
1)使用されていた物にっいて以下のような 項目に分け,記入する。
移動できない遊具……固定遊具・施設設備 移動できる遊具……大型・移動・製作物 生活に必要な用具……園具・道具 材料……素材・廃材
2)出現した場所にっいては場所の名前を記 録することで,位置をはっきり特定でき るようにする。
3)時間経過にともなったそれぞれの遊びの 参加者を10分毎に記入し,子どもの参加 状況や移動の状況が捉えられるようにす
る。
(3)遊び展開の要因にっいて分析する。
1)遊びを幼児の意識した遊びのまとまりで,
くくりなおしてみる。
2)物,場所,参加者から,変化する要因に ついて検討する。
3,調 査
(1)調査対象園,東京都公立幼稚園H園 3歳児学年:男児7名女児7名計14名 4歳児学年:男児6名女児11名計17名 5歳児学年:男児7名女児11名計18名 自発活動を中心とした保育を原則としており,
担任の計画で設定活動が組み込まれている。独 立園であり,平成7年度より3歳児保育を始め た。本研究では,調査対象を4・5歳児学年の
みとした。
(2)観察期聞:平成7年5月〜6月
分析対象日,4歳児学年:5月25日(木)晴 観察時間 110分
5歳児学年:5月12日(金)晴 観察時間 110分
遊びの出現条件を整えるために,昼食のある 週の後半の曜日を記録に当てた。行事。天候に 左右されていない日を選び分析の対象とした。
N/T 員室
職
遊戯室
5歳児 保育室 4歳児 保育室 3歳児 保育室 多目 的室 玄関
口
岡
園庭
鉄棒
箇 ﹇﹈
段差 弓F
図1 H園園舎見取り図
4.調査結果
(1)遊びの種類からみた出現数
4歳児学年では29個,5歳児学年では13個 の遊びが出現した。
(2)遊びに使われていた物
(3)遊びが出現した場所
(1)(2)(3)の結果にっいてまとめた物が表1 及び表2である。
表1 4歳児学年・遊び/物/場所
活動名 場所
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表2 5歳児学年・遊び/物/場所
口 活動名 棒搬蕩 言 (巧)太 場所
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(4)出現した遊びの10分毎の参加者 出現した遊びに参加したメンバーを10分ごと に記入したのが表3・表4である。
表3 4歳児遊びの参加メンバー
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表4 5歳児遊びの参加メンバー
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カ7のム
冒
5.結果分析
4歳児学年では基本的に一人の遊びが多く,
くるくると違う遊びに変わる様子が見られた。
この状態を遊びの展開という観点でみると,遊 びの内容が一っで完結し,すぐ次の遊びに移っ ている。
5歳児学年ではまとまりのある二っの展開が
見られた。遊びNα1・Na 9・Nα11とNo. 3・No. 8・
Nα12である。
一26一
(1)〈4歳児学年Na 14・Na 18・Nα22>の場合 それぞれの内容を示し,物・場所・メンバー
移動にっいて考察する。
《Na14の内容》
Na 14の4才児の保育室でフープを転がして遊んでいた女 児達が,ピンクの忍者服をきて園庭にとびだし,三子が通 園門の前にある柵にしがみっいたのをみて他の女児達もつ られるように柵にしがみついて渡りはじめた。端から端ま で行くと最初から繰り返すが,そのうち三子以外は他の場 所を求めて移動し,そのままやめてしまう。
《Nα18とNa22の内容》
四郎は園庭で三輪車に乗っていた。園庭中をまわって通 園門のまえの坂に差し掛かったとき,ピンクの忍者服を着 た三子達が柵をったって横歩きをしているのを見た。とた んに,4才児の保育室に行き青い忍者を着て雲梯を始めた。
〈考察>
1)物にっいて
四郎のNα18とNa22の二っの遊びの展開は, Na 14の遊びの忍者服に影響されたと考えられる。
遊び方そのものは雲梯を渡るものであり,No.14 の柵を渡るものとは違っており,忍者服のみが 共通だからである。忍者服から忍者の修行が発 想されたのであろう。忍者の服を着ていること で,ただ雲梯を渡っているだけでなく忍者の修 行をしているという別の遊びをしている気持ち
になっている。
2)場所にっいて
園庭という広い場所においてNα18とNα14の出 会いがあった。これは園庭が様々な遊び方が存 在する場であったことが,出会いを生み出した
と考えられる。また段差のある柵のっいた土手,
雲梯といったものが,忍者の修行の場という発 想を起こさせていると考えられる。
門 図2 二っの遊びが出会った場所
3)人の移動にっいて
Nα18とNa22の二っの遊びは,それぞれ遊び展 開としてみても遊びの内容が一つずつである。
それは四郎個人の遊びとして存在しているため で人の移動はない。
4)遊び展開としての要因について
Na 14の遊びがNa 18に影響を及ぼして, Na22に 変化させたと考えられる。これは,同じ場所で 多数の違う遊びが出現していたことと,模倣し ようとしたときに,使える物(忍者服)があっ たことが要因と考えられる。
(2)〈4歳児学年Nα16・Nα22・No.26>の場合 遊びの内容を示し,物・場所・人の移動にっ
いて考察する。
《Nα16・Na26の遊びの内容》
男児数名がそれぞれ自転車に乗り,固定遊具を渡り歩い ている遊びがNa 16である。一っの固定遊具を利用して,し ばらくするとまた自転車に乗って次の固定遊具に移動する というもので,雲梯のところまできて遊んでいるところに,
忍者服を着た四郎が雲梯を始めた(Nα22)というわけであ る。それを見たNa 16のメンバーの内の五郎が自分も忍者服 を着て違う忍者ごっこ(Na26)をはじめた。これは最初保 育室でフープを下からくぐったり積み木を太鼓のようにし てにたたいていたが,そのうち外にフープを持って出,自 転車にフープをかけて乗っているものである。このときNa 16は消滅している。
《Na22の遊びの内容》
(1) に言己載
〈考察>
1)物にっいて
これらの遊びに共通しているのは忍者服であ る。これを着ると忍者になったっもりになりや すいと言える。しかし,その修行の仕方,振る 舞い方はそれぞれで,Nα22では雲梯を使ってぶ らさがることであり,Nα26では,小道具を使っ てくぐり抜ける,早く走る,太鼓をたたくなど というものである。使われていたフープ,積み 木,自転車等は目の前にあった物で,次々と遊 び方をかえている。
2)場所にっいて
雲梯は固定遊具という特徴から,場所の基底 にもなっている。このぶら下がって渡るという 動きができるという場所が,忍者の修行という 発想をうみだしている。
3)人の移動にっいて
Na 16では3人いた男児は五郎が忍者に移動し,
六郎が相手を3歳男児に変えたことで,消滅し ていった。一方Nα26忍者3の遊びは,五郎が忍 者服を着るとさらに二郎も服を着始める。四郎 の動作が五郎に影響し,五郎の行動も二郎の模 倣対象になっている。
表5 Na 16, Nα22, No.26の参加メンバー
4)遊び展開の要因にっいて
(1)の遊び展開がさらに次のこの(2)の 展開を生み出したと言える。っまりNα14の遊び がNa18の遊びに影響を与え,その結果生まれた Nα22の遊びがさらにNα16の遊びに影響を与えて Nα26を生み出したからである。これらの遊びに 共通することは,忍者服である。前述したが,
この服は見ただけで「忍者になる」ということ が理解できる物である。どんな忍者遊びをする かは,忍者になった子ども自身が決あることで ある。それは目の前にある物で決まったり(Nα 26)園庭のどの部分をどのように利用するかと いう修行の仕方(Nα22)であったりする。
遊び展開の要因として他の遊びの存在がある。
ここでは,忍者らしい行動をするための物と忍 者の修行として適当と考えうる場所が,遊び展 開の要因になると考えられる。
(3)〈5歳児学年Nα 1・Nα9・Na 11>の場合 それぞれの遊びの内容を示し,場所と物,参 加者から考察する。
《Nα1の遊びの内容》
遊戯室において,3っの基地がっくられている。A夫が 中心で作っている物,B夫とC夫が作っている物E夫とF 夫が作っている物である。どんな風に作るのか,どの積み 木を使うのかといった話しあいがない。C夫が移動式階段 を運ぼうとすると,A夫が「俺が使うんだ」と主張し,だ れも文句を言わない。唯一B夫が不平を言い,はじめてA 夫がそれを受け入れる。作り方はもう決まっているようで,
大型積木の板でふたをして中に潜り込む物を作っている。
基地なのか家なのか定かではなく,ある程度作り終えると A夫の基地とB夫・C夫の基地をっなぐように太鼓橋ふう の大きな梯子を持ち出して問におくが,それ以上の工夫や 直しはなく,走り回ったりとびおりている。
《Nα9の遊びの内容》
女児のお家ごっこのトラブルから移動してきたE子は,
いっのまにかお母さんということになっている。ピクニッ クにいく,お弁当を作るという声が聞かれ,5歳児室から ままごと道具が運ばれてくる。このとき,ご馳走の材料と なる粘土やウレタンも持ち込み,イとロの間でご馳走作り が始まる。この間,B夫がコリントゲーム作りに移動する。
もともとC夫はB夫と共に行動しており,B夫が移動した ことに気づいたC夫はB夫のコリントゲーム作りに合流す る。A夫とE子が中心になりさらにご馳走作りが盛んになっ ていくが,D夫E夫F夫は周りをうろうろするだけで,近 くにあったマイクスタンドの前に立ち,歌うまねをしたり,
時々走り出して自転車に乗ったりトランポリンをしている。
《Na 11の遊びの内容》
ご馳走作りに必要な物を取りに何度か往復していたA夫 は,B夫C夫がコリントゲーム作りをしているのをみてい る。しかし,ご馳走作りをやめずに続けていた。B夫たち がゲーム作りの中でビー玉を使い始めるとA夫はビー玉が 欲しいと言いだし,さらにコリントゲームを作らなければ もらえないと知ると,すぐにゲーム作りを始めてしまった。
一方ご馳走作りの中心の一人であったA夫がこないため,
巧技台の中に入ってボールをばくだん代わりにして攻撃の ような遊びを始めたE子,D夫・E夫・F夫たちは, A夫 がゲーム作りを始めたと知ったとたん「おいマシンにしよ うぜ」「A夫にしかられないかな」と言う会話をしながら も積み木での建物を作り替え始める。そのときに使用され ていた物はNa 1で作り上げた建物に,お家ごっこのために 持ってきた手作りの椅子である。それを配置して大きな顔 に見えるようにしていく。
〈考察>
1)物にっいて
Nα 1で使われている物は,大型積木とステー ジ用の移動式階段である。これは基地・家とい うはっきりとした説明がなくても,暗黙の内に っくりはじめておりこれで自分たちの基底とな る場所を確保していっているようにも見受けら れた。Nα 9になると,遊び方を方向付けるメン バーによって作った物が家であることになって いく。さらにそれに見合った話の展開に必要な 物,っまりままごと道具や料理の材料は保育室
にあるのでそこから,せっせと運んでくる。こ れはどこに何があるかを知っていると同時に,
それらが子どもたち自身の考えで移動利用して も良いと言う前提がある。必要と思った台所用 品,これらはすべてそれ(台所用品)としての 用途が意図的にミニチュアとして作られた物で
一28一
ある。それに,ねんど・ウレタンというおよそ ご馳走とはかけ離れた材料を,ご馳走の材料と している。つまり見立てるという過程が,材料 の中に存在している。Nα11ではボールが爆弾に 見立てられたり,巧技台の箱を地下室のような,
穴蔵として見立てている。これは最初の積み木 での基地作りではなく,物そのものの特徴を利 用して見立てていると考えられる。
2)場所にっいて
この3っの遊びは,同じ場所で時間をずらし て出現している。これらの遊びが遊戯室という 場所で出現しているのは,そこに大型積み木が あったためと考えられる。またNα9の遊びは積 み木で作った基地・家があったからということ であり,お弁当をつくってピクニックにいこう という発想は作った建築物とある程度の広さが あったことが関係していると思われる。
表6 No. 1,Nα 9, Nα11の参加メンバー
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3)人に移動にっいて
構成メンバーの強い者の意見が遊び方を方向 付けている。特にNa 1とNa 9はA夫の意見がか なり幅をきかせている。これはNa11でA夫がい ないことにっいての会話がきかれたことによっ ても説明できる。Nα1からNα 9への変化として は,E子がはいったこととB夫が抜けたことが あげられる。B夫のゲーム作りへの移動はゲー ム作りの存在を知ったとたんに移動している。
これは基地づくりとしての遊びの展開というよ
りB夫の関心を引く他の遊びが存在したためと 考えられる。
4)遊び展開としての要因
i)3っの遊びの内容が変化していくのは人の 移動が大きな原因と考えられる。そのため に残ったメンバーで遊び方が方向付けられ ていくが,最初から最後まで参加している メンバーを中心に考察してみると,最後に なってやっと自分たちの思いがかなうとい う様子で遊び始めている。それはNα1,Nα 9の遊びにおいてはA夫という強い者に従っ ていたために遊べなかったという実態があ るのだろう。このことから遊び展開の要因 としてはメンバーの人間関係が影響してい ると考えられる。
ii)個人の遊びを中心にして考えると, B夫の 目に見えるところに関心をひく遊びがあっ たことが考えられる。またA夫のように興 味を持っ物(ビー玉)があったことも移動 の原因であった。
hi)Na 9の遊びが可能になったのは,遊びの筋 の展開に必要な物がどこにあるか知ってい ると同時に,それらが子どもたち自身の考 えで移動したり利用しても良いと言う前提 があるからだと考える。このことから物の 移動が自由にできるということも要因にあ げられるだろう。
(4)〈5歳児学年Na 3・Na 8・Nα12>の場合 それぞれの遊びの内容を示し,場所と物,人 の移動から考察する。
《Na 3の遊びの内容》
幼稚園の通園門の前にあるパンダ・キリンの置物のある と三うが家ζしての拠り所になっている。いくっかの小さ なグループが寄り集まった集団で,遊び方も自転車で遊び に行ったり,トランポリンをベッドにして子どもをあやし たりするといったそれぞれの遊び方が合体している。一っ の見通しを持ってこういう遊び方にしようという方向性が あるわけでない。園庭全体を自転車でうごきまわり,保育 室から指人形やフープを持ってきており,園全体が遊び場 であるかのように振る舞っている。動物のところから動か ずにいて家を守っているお母さん役がおり,そのほかはお 姉さんと赤ちゃんである。途中から保育室前で始まったカー ネ:ション作りに移動する者もいたが,「買い物にいく」
「こ朋がある」といってカーネーションを作り,目転車の かこに作った花をいれて「ただいま」ともどったり,赤ちゃ ん役の子どもを膝のうえにのせてあやしながら作っている 享鰯誌シヨン作りをお家ご・こにili「」用している様
《Na 8の遊びの内容》
母の日が近いために,担任が意図的に設定した活動であ る。特に全員がこの日に作らなければならないというわけ でもなく,やりたい子が参加して作っている。それぞれの 個性が出ているとはいっても作り方は決まっており,出来 上がりはほとんど同じである。それを作るために集まって きたメンバーである。
《Na12の遊びの内容》
最初カーネーションっくりをしていたB子が作り終えた 自分の花を振り回しておまじないを唱えたことがはじまり だった。カーネーション作りの周りを中心に,遊戯室にも 花を振り回しておまじない言葉をいって歩く。それにいっ も行動をともにしているF子が同調していたが,B子がさ らにレースの布を背中に安全ピンでとめて羽のようにする と,他の子どもたちが一斉にレースの布を身にまとい始め た。だが自由に遊ぶ時間がちょうどなくなったために消滅 した。
〈考察>
1)物にっいて
No, 3のお家ごっこで使用されている物は,場 所を規定するためのっまり家としての動物の置 物・ベッドになったトランポリンの他,主に移 動のための自転車であった。この自転車は「学 校に行く」「買い物にいく」という遊び方に利 用されている。自転車があるからこそこういう 遊び方ができるということもあるだろう。結果 的に,園庭で起っている他の遊びにっいての情 報も仕入れることが可能になっている。
カーネーション作りでの作品をお家ごっこの 中で「花を買ってきた」こととして取り入れて いる。このことが,二っの遊びが独立した遊び であると同時にお家ごっことカーネーション作
りが統合されていくという展開をもたらしてい
る。
Na 12の魔法の杖は, Na 8で作ったカーネーショ ンがきっかけになっている。またそこに羽のよ うにレースの布をまとったことがたくさんの人 数を増やす結果となった。花を振り回しておま じないを言っている時よりも,羽を身にっけた 時の方がどのような遊び方をするかを人に想起 させる効果をもたらしたたともいえるだろう。
2)場所にっいて
前図に示したがNa 3のお家ごっこでは,家と しての動物の置物・ベッドになったトランポリ ンが場所を規定している。門の前というように 区切られてはいるが少し広めの空間をさらに家
として規定するために動物の置物がある。Na 8
は担任が作った場所である。Na 3とNα 8の動か ない場所を遊びとしてっなぐきっかけを作った のが自転車であった。担任はこういうことも見 越して,みんなが見える場所に場所を設定した のかもしれない。
遊戯室
廊下 5歳/魔
キ簿
〆{巫互…8
園
4歳 庭
3歳 多目的
玄関
ン リ﹇巴
ト
動物 お家ごっこNO 3
9一創一一 劇…・・・ 一一一一一劇副一響一一 一α一一8 一一一@門
図3 Nα 3,Nα 8, Nα12の位置関係 3)人の移動にっいて
Na 3とNa 8の遊びは同じメンバー(A子・H 子)が行き来している。このことからも二っの 遊びが統合されている状態が理解できる。
さらに,レースの布が導入された時間帯のNα 12の参加メンバーを見ると,おうちごっこ→カー ネーションっくり→魔法の杖と移動してきてい ることがわかる。(C子・D子・G子・J子)
表7 Nα 3,Nα 8, No.12の参加メンバー
1: 1: 1: 1: 1: 1『
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4)遊び展開の要因にっいて
この3っ遊びでは,他の遊びをうまく取り入 れて利用したり,吸収されて変化していく様子 が観察された。これは園庭という広い場におい てお互いの遊びが見えるところに存在していた ということが影響しあうことにっながったと考 えられる。
6.考 察 (1)遊び展開としての出現状況
遊びには,複数で遊んでいる場合と,一人で 遊んでいる場合がある。また複数で遊んでいる 場合にも,協力し合ったり会話がかみ合ってい る場合もあれば,バーテンなどが平行遊びと分 類している一人遊びにちかい場合もある。さら に平行遊びにも,同じ場を共有しながら模倣が 見られ一人遊びが成立している場合と,簡単な 会話やきちんとした会話としてかみ合っていな いがそれぞれ勝手なことを言っているような状 況で一緒に移動したり同じ遊びをしている場合 がある。
4歳児学年の遊びでは遊びの内容が次々と変 化していき,そのために4歳児学年の遊びの数 は5歳児学年の遊びの数よりずっと多くなって いる。(表1・表2)これは4歳児の遊びが平 行遊びの中でもまだ会話がかみ合っていない場 合に相当するといえる。
また遊びの展開という点からみると4歳児学 年では遊びの内容は一っであること,5歳では 一っの遊び展開に複数の内容が含まれる様子が みられた。これは4歳児では会話や遊びの内容 がかみ合っていかないために一つで終わってし まうことを意味している。
一方5歳児学年と言えども,やはり年長組に なったばかりという時期であるため,集団で遊 んでいても個人の遊びが優先されることもみら れた。(Na 1・Na 9・Nα11)そのために遊びの 内容が変化していく様子が見られた。しかしこ ういった様子は,話し合いや協力することの経 験が積まれることで,考えを交換しあって遊び
の筋立てが複雑になるような展開が今後見られ るだろうと予想できる。
以上のような友達とどの程度かかわり合って 遊べるのかといった側面の発達が,遊びの展開
に大きな影響を及ぼしているとも言える。
(2)遊び展開と「物」にっいて
遊びが変化していく原因として,他の遊びに 影響されていることがあげられる。そこで遊び の何に影響されているかをみていくと,他の遊 びに使われている「物」に影響されている。5 歳児の場合では,他の遊びで使われていたビー 玉,カーネーション,レースの布,などが遊び の変化に強い影響を及ぼしていた。
4歳児学年では,「忍者服」がいくっもの遊 びに影響を及ぼしていた。この忍者服の特徴と して,誰が見ても忍者を思い浮かべるというこ とがあげられる。だが衣装がすぐに影響するか というとそうではない。Nα 3の四子の遊びでは,
ままごと用のスカートをはいて,自転車・ブラ ンコ・滑り台等を渡り歩いていたが,まわりの 誰にも影響を及ぼしていない。四子はスカート をはいて何かのっもりになっていると思われる のだが,まわりの者には,四子の意図がわから ないのである。その点本物そっくりの忍者服は 一目で忍者とわかり,かっどんな遊びをしてい るのかもわかりやすい。衣装としての象徴度の 高さが影響したと考えられる。
またNα 6で使われていたドレスは忍者服と同 様,お姫さまを思い浮かべることができる象徴 度の高い物である。しかし二着しかなかったこ
とが,他の子どもたちのやりたい気持ちを満足 させられなかったと思われる。っまりまだこの 時期では貸し借りができる状態ではないため,
同じ子どもが使い続けることになるのである。
この点忍者服はピンク・青・緑・黄色各四枚ず つそろっており,やりたいと思ったときにすぐ に手に入る状態であった。象徴度の高い物の数 量がある程度そろっていることも,遊び展開に 影響していると考えられる。しかし,これは4 歳児のこの時期だからと言うことを考慮すべき
であろう6様々な状況を見計らって量の調節を することが,遊びの状態に変化をもたらすこと はもちろん,この変化が子どもに考えることの 機会を増やしていくと考える。
すべての遊びに言えることであるが,やりた いと思ったときに必ず実行できるというために は,どんな物でも又それがどこにあっても自分 で使えるという自由さが保障されていなければ ならない。5歳児のNa 9のままごと道具の移動 やNα 3のお家ごっこでの物の移動では,子ども が自由に他の部屋から持ち出してきたり,部屋 の物を外に持っていくという状況の中で展開さ れていた。これはこうした移動の自由さが認め
られていることの影響と考えられる。
(3)遊び展開と「場所」にっいて
子どもが忍者の修行をしていた場所には,段 差のある柵のっいた土手・雲梯・電柱といった
ものがあり,それが忍者の修業の場という発想 を起こさせている。遊んでいる子どもがそれら しい場所を選んでいると言ったほうがいいかも しれない。忍者の修行のためにそれらは用意さ れたものではなく,「忍者をやろう」と思った 子どもたちがそれらの場所を見っけて利用して
いるのである。こうした凸凹がある場所は多様 な発想が生み出される場所であるとも考えられ る。しかし雲梯以外は遊びのために作られるも のではない。子どもが発想し,利用する場所は 必ずしも大人が考えている範囲を越えることも 多い。こうした場合,どこまで子どもの利用の
しかたを許容できるかという大人の寛大さが,
遊びを支えていると考えられる。
また物がある特定の場所で展開される場合も ある。コリントゲーム作りやカーネーション作 りである。ゲームは金槌や釘がおいてあるとこ ろで,カーネーションは担任が様々な動きを考 えて設定した場所である。また,積木がおいて ある場所に基地(遊戯室)やお城(4歳児保育 室)が作られている。
(4)遊び展開と遊び展開
以上から遊びは「物」「場所」「人」によって
影響され展開されることがわかった。だが実際 にどんな遊び方をするかはその時々による。し かもこの遊び方そのものも,次々に違う発想を 生み出すことが,忍者の修業をみているとわか る。忍者の服のアッピール度もあるが,忍者の 服を着て修行らしい遊び方をしていたことが,
自分ならこうするという発想を生みだしたと考 えられる。岩崎(1987)は,保証されている自 発活動時間の長さによって出現する遊びの種類 が変わってくると言っている。これは都立教育 研究所の調べでも明らかにされている。すなわ ち自発活動時間が短いと物を扱う身体を動かす 活動が多く,長いとイメージを実現させる遊び が多くなると言う結果である。このことは言い 換えると自発活動時間が長いと遊びながら次に どう展開しようかという発想が生まれイメージ が具体化されていくと言える。都立教育研究所 では90分以上の自発活動時間を基準にしている が,調査対象のH園も毎日100分以上の時間が 保証されていることが,遊びどうしの影響を生 み出させていると考えられる。
7,今後の課題
(1)研究方法
保育を研究する方法として,様々な方法がと られているが,本研究においては,自発活動時 間内における遊びの出現を全体としてとらえる 方法をとった。実祭の保育においては,保育者 は全体を把握しっつ部分的に関わって保育を進 めていくのでその実態に沿って,遊び時間の全 体像を明らかにしたかったからである。また事 例研究を用いたのは,子どもの様子をその実態 に沿って情景的に理解できるからである。しか しこの事例研究だけでは保育全体が見渡しにく くなるという欠点もある。そこで一定時間毎に 巡回して各々の場所での遊びについて,人の出 入り・使われた物など細かく記録していく観察 方法を用いたのである。こう言った細かい分析
は一見子どもの心を映し出していないかのよう に考えがちであるが,事例と付き合わせてみる
と,自発活動全体が見えてくる。
今回は,記録のごくわずかな部分しか利用で きなかった。考察として取り上げなかった活動 にっいての意味も,考えてみる必要がある。例 えば5歳児学年では,遊び展開としてまとまっ ている物の間にある短い遊びについて,また一 人遊びの多い4歳児学年では,一人についてど のぐらいの遊び展開を持っのかということも考 察できると考える。今後の課題にしたい。
(2)保育への示唆
現在の幼稚園においては多様な保育が展開さ れているという現実がある。幼稚園教育要領が 改定になって7年がたとうとしているが,自発 活動としての遊びをどのようにしたらよいもの か,環境を通した指導をどうしたらよいものか まよっている保育者達に,様々な研究的立場か らのアドバイスがなされている。その中には肩 をはらずに子どもにはたらきかけて保育者の望 むような遊びを導入してもいいのだ,というア ドバイスもなされている。こういった主張は,
藁をも縄る保育者にとって大変嬉しいものであ ろう。しかし本研究において調査観察した結果 からは無理に望ましい遊びを導入しなくても子 どもたちは自ら十分に遊びを作りだしていると いう実態が見られた。まずはこういった生活を 繰り返していく中で,遊びを作り出す力の発達
を保証することが大事なのではないだろうか。
子どもがどのように遊んでいるのかといった遊 びの実態を知ることが重要であり,こうしたこ とを行いやすい保育を実現していくことが,今 後進むべき方向として示唆されていると考える。
〈参考文献〉
戸田雅美 1991 「保育実践に遊び理論は必要 か」発達46号(PP50−59) ミネルヴァ 岩崎基次 1987 「幼児の遊びに及ぼす環境の 影響一自発活動にっいて一」 上越教育大学
大学院修士課程修士論文
高橋たまき 1986 「乳幼児の遊び:その発達 のプロセス」 新曜社
東京学芸大学教育学部附属幼稚園 昭和54年 「友だちとのかかわり一その発達と指導にっ いて一」 研究紀要
東京都立教育研究所幼児教育研究室 1994・
1995 「環境の諸条件と教育の内容・方法に 関する研究」1年次・2年次
中沢和子 1993 「幼児教育における『自発活 動としての遊び』に関する予備的考察」上越 教育大学幼児教育講座代用附属学校経費によ る研究報告書 上越教育大学学校教育学部幼 児教育講座
中沢和子 1991 「乳幼児の遊びと保育内容」
保育講座保育内容総論(PP88−91) ミネルヴァ P.マーティン/P.ベイトソン訳:粕谷英 一他 1994「行動研究入門一動物の行動観察 から解析まで」 東海大学出版会
山田りよ子 1992 「幼児の遊びにおける環境 の影響一遊びの展開の条件にっいて一」
上越教育大学大学院修士課程修士論文 山田りよ子 1995 「幼児の遊びにおける環境 の分析一戦いごっこの展開にっいて一」
日本保育学会第7回大会研究論文集
横山文樹 1993 「幼稚園の自発活動時間にお ける遊びの継続的分析」 上越教育大学大学 院修士課程修士論文
謝 辞
本研究を進めるに当たって,ご指導下さった 柴崎正行先生に感謝申し上げます。調査に協力 して下さった公立2園の子どもたちと諸先生方,
また多方面に渡り相談にのって下さった阿部明 子先生,調査のお手伝いをしていただいた安齋 智子さん,事務局の猪瀬さんにもこの場をおか
りしてお礼申し上げます。