The Japanese Society for Plant Systematics
NII-Electronic Library Service
The Japanese Sooiety for Plant Systematios
May
,1967 Acta
Phytotax .Geobot
.195
タ イ 国 植 物 採 集 記
田 川 基 二 ・岩
槻
邦 男M
.TAGAwA
&K
.IwATsuKI
:Itinerary
of the Botanical Tripin
Thailand
,1965
〜66
北 米や欧 州と同様に , 日本の国内で は, 植物 相は その 概観の記 載が終 り, 種の分化や系 統の 問 題が, 植 物 分類学の 主題 と して 前 面に押 し 出される ように なっ て い る。 しか し, そ れ以外の
ほとんどの 地域では, ま だ ま だ植物相の記載が充分に進ん で い る とこ ろ はな く, 基 礎 酌な調 査 活動の 余地 がずい分残 さ れて いる。 タイ国は東 南ア ジア で は例外 的に古くか ら 独立国で あっ た た めに, イ ギ リ スや フ ラソ ス の 植 民 地で あっ た近 隣の諸 国と較べ る と, 植 物 調 査の出 発 も稍遅 れて い たきらい が あっ た。 何が あ るの か とい う最も初歩の報告さ えも, 今世 紀に 入 っ てか ら手 をつ け られ 始め た位で ある。 植 物 学の 上で 最 初か ら一番 緊密にタイ国と関係を持っ て き たの は デソ マ ル クで あ り, この国は最近で も毎年のよ う に調査 班 をタイ 国に送 っ て, タイ国 植 物 誌の 完 成に向か っ て大 きな貢 献を して い る。け れ ど もタイ 国の 植物調査 を最も精力 的にや っ たの は,
イ ギ リス 入の
KERR
と云 う人で , こ の人の標本は ほとん ど Kew へ 持 ち帰 られて い る。 他に E ,SMITH
, GARRETT などとい うイ ギ リ ス人で タイ国に住みつ い て い た人 達や, タイ国で森 林 局の職員で あ っ たWINIT
な どの蒐集品 もKERR
との 関 係でKew
へ 運 ばれ, それ らの標 本 を 中心 に して,タイ国 植 物 目 録 (Florae
Siamensis
Enumaratio
) が, 今 まで に双子葉植 物にっ い て ,
CRAIB
な どのイ ギ リス 人の手で 出 版されている。 その よ うに して , 種 子 植 物の 標 本が 主 と して 欧 州の 膳 葉庫に蓄積さ れて い っ た の に 反して, 隠花植 物の知 識はまだ まだ浅 く, それに,ア ジア の植物が ア ジ ア の 膳 葉 庫で 研 究で き る だけに準 備 さ れ て いないとい う状態は一向に 改 善 されて もいない ことであ る。 私達が京大東南ア ジ ア研 究セ ン ターの 地 域 研 究の 一翼を担 っ
て タイ国の 植 物 相 調 査に手をつ けたの は, そ うい う状況の 認 識によっ て で あっ た。 だか ら,主 要な テーマ は一まずシ ダとコ ヶ の研 究IC置 き, そ れ と並 行 的に種子 植 物の 標本も採集する こ と を 望ん だ。 調 査に参 加し たの は, シ ダ植 物を専攻して い る 筆者 ら両 名,コ ヶ 植 物の 北 川尚史,
そ れに植 物地 理 }ご興味を持っ て い る福岡誠行の四名で , 福 岡, 岩 槻の 二人が維 管 束 植 物, 北 川
が蘇苔地 衣類 を主 と し て採 集し, 田川 が 全 般を総 括 する任務を分 担し た。
旅行は,
11
月5
日に北 川, 福 岡が荷 物 と一緒に貨客船で 出航したの に始ま る。11月 9 日
IC
筆 者 らが空 路
Bangkok
に着き, 先 発の 二 人が 上陸 するまで に , 現 地で の 折 衝と旅 行 準備を整 え, 森林局の膳 葉 館で 仕 事を し た り,Bangkok
周辺 の雑草を採 集し た り した。 そ して 11月25日に
Bangkok
を離れてか ら約3
ヶ月 間に, 以 下の各 地で 採 集し た。 11月26 日 Pha Nuk Khao森林局の東北 部 試 験 地の あるとこ ろで , 石 灰岩の塊の ような, よ く乾い た山だっ た が, そ
の 山 麓を半日 だけ 採 集し た。
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196 Acta Phytotax .
Geobot
.Vol
.XXII
,No
.4
〜6
11
月27
日〜12 月2 日Phu
Kradung
国 立 公園に な っ て い る山で 1200 メ ート ル 位の高さ が 45平 方キ 卩 に亘っ て 高原 状を呈し・
混地 も多い。山上の 客舎に
3
泊 して 採 集 し,標本はPha
NukKhao
で処理 し た・ 12月3
日〜9
日 Phu Luang植 物 学 者が登っ た こ とのな いi1」だ そ うで , 最高は 1567 メ ートル 。 径は な いの で 象の通 り
抜け た跡を た ど っ て進んだ りして ,途 中
5
泊, 標 本は も う一度Pha
Nuk
Khao に持ち 帰 っ て処理 し た。12月
11
日〜12 日Tung
Salaeng
Luang
国 立 公園。
400
〜600n1
位の 渓流沿いや 山 地 民の 部 落付近な どを採 集。12
月15
日〜22 日Doi
Inthanon
タイ国 最 高の
2595
メ ー bル の 山。 山 麓か ら頂 上まで ・ゆ っ くり丁 寧に採 集 する。 12月 24 日〜27 日Doi
Pacho
北 川,福 岡, 岩 槻の 3 名 が 採 集。 水場か ら
の距離が長 くて 山 頂まで 達する ことはで き
ず,
1800
メ ートル 位の高 さ ま で しか 行け なかっ た。1966年
1
月 2 日〜7 日Doi
Chiangdao
全 山石灰岩の2150
メ ートル の 山。
山頂 付
近で は時期 が 遅 過ぎて植物は枯れて し まっ た後だ っ た。
12月 14 日〜
1
月8
目Doi
Suthep
北 部で 仕事を して いた間は, この 山の 約
1000 メ ートル の高さに ある森林局の 客舎 を 根 拠 地に し たの で , 標本処理 の傍 ら, 交 代で こ の 山を採 集し た。
1
月14 口〜23
日Khao
Luang
こ の熱 帯 降雨林の 山は,数 年前の 嵐で 一次
林が破壊 さ れ, 二次林が道 を 塞 ぐまで に 発
達して いたの で,登頂は極めて手 間 取る仕 事だ つ た。 雨 に災された が最高点 1786 メ
ートル まで到 達し た。
1月
25
目〜29
日Khao
Chong
森林局の試 験 地がある国 立 公 園の 山で ある が, 山 径がはっ き りせず,こ こ も山 頂に は 達 する こ と がで きず 1100 メ ートル 位の高 さか ら引き返 して き た。
2
月5
日〜19
日 KhaoSoidao
北 川 と田川の 両 人は
2
月2
日に帰 国し,福 岡,岩槻の両 名だけで, こ こと次の 山とに,.」・1へ』
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Cambodia
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Fig.1. The main locations on which our botanical trips weTe made .
1,Phu Kradung ; 2, Phu Luang ;
3;Tung Salaeng Luang ; 4, Doi Inthanon (Doi Angka ); 5, Doi Pacho (Doi Langka ); 6, Doi Chiangdao; 7, Doi Suthep (Doi Pui); 8, Khao Luang ; 9, K:hao Chong; 10, Khae Soidao; 11,
Khao Yai .
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, 1967Acta
Phytotax
.Geobot
.197
登 っ た。1500メ ートル の峯まで 行っ て い る。 2月15 日〜19 日
Khao
Yai
や は り国立公園にな っ て い る山で, 800 メ ート ル 付 近の 客 舎か ら
, 1270 メ ートル の Khao
Kieuw
の 山 頂 まで調 査 し た。そ の よ うに して, 残務整理 を終え た福 岡, 岩 槻が帰っ て きたのは 2 月24 日 だ っ た。
私達は大 体 5組は標 本を作る予定で仕 事 を 進めてい たが, 重複品多 数を含めて, 維管 束 植 物 約
15000
点,蘇 苔 地 衣 類 約3000
包を採 集して き た。 同定が終 り次 第, 重 複 品は交 換な どに よ る資 料 蒐 集の 用に供 する 予定で あ る。第一セ ッ ト は京 都 大 学 膳 葉 庫に収め, 維 管 束 植 物につ い て は後の四組はタ イ 国 森 林 局 膳 葉 庫, 東 京 大学, ワ シ ソ トソ のSmithsonian
Institution
,ラ イデン のRijksherbarium
に それぞ れ送 付し, また, そ の他の 重 複品 はCopenhagen
,Kew
,Singapore
, 国 立 科 学 博物館な ど に送る予 定で あ る。 蘇 苔地衣 類につ いて も, Bangkok , Leiden服 部 植 物 研 究 所, 国 立科 学 博 物 館そ の他に重 復 標 本を届け る予 定で い る。
維 管束植物の標本は段ボール を使っ た火 力 乾 燥 を 主 と し, 一部ホ ル マ リソ 浸 け とし た。 蘇苔 地 衣 類の 標 本 は 自然 乾 燥に よ るもの で あ る。 生 材料は主と して京 大 植 物 教 室で 栽 培 して お り,
ラソ な ど一部 は京都 府立植 物 園の 大 温 室で 育て られて い る。 ま た, シ ダの胞 子が百 瀬 静 男 教授
に よ っ て小石川 植 物 園で発 芽 させ られ, 順 調に成 長して い る。
気 候 区 分の上 か らい っ て当 然の ことで ある が, タ イ 国で は, 北 部や東 北 部の 山地 と半 島 部と
で は,植 生の状 態はガ ラ リ と変っ て い る。
北 部や東 北 部は典 型 的なモ ソス ーン 気 候で知られ
, 降雨 量 は ほ と ん ど夏の 雨 期に集 中されて,
乾 期の 降雨量は 3 ヶ 月で 25 ミ リ に達 し ない とこ ろが多い 。 だ から, 海 抜 300 メ ートル 以 下の 低地 は典型的 な乾 燥 落葉樹 林 と な る。 2月に入る と, 丁度 日本の 秋 景色の よ う な黄葉が見 られ, 3月にはほと ん ど完 全に落葉して 低地 か ら緑は消えて しま う。 チ ーク の 植林が作 られるの は こ
うい う 地 帯で ある。
山 地 に入 る と, 少しずつ 常 緑 樹が 混在 するよ うに な り,大体
3
・400
メ ートル 位から 上 は 混 濬 林と な る。 しかし, こ こで も乾期に は林 床は乾 上が っ て し まっ て, 林 床 植物の大部分は乾期には葉 を 枯 らす・ その 上 ,
900
から1000
メ ー トル 以上の 高度に な る と, 美 くしい 常 緑 樹 林が発 達 する。 特に 1500メ ートル を上廻る高地で は樹幹に着生植 物が密生して , いわ ゆる蘇 苔林を形 成する・最高 峯 DoiInthanon
の 1000 メ ートル 以 上の 蘚 苔 林の 美 麗さ はた とえ よう もない位 だ っ た。
一方, 半 島 部で は寒 期と暖 期の 差が著る し くは な く, 一年 を 通 じて降 水量の変化 もそ れ程大
き くな い。 従っ て , 低地 から 常 緑 樹 林 が 発 達 し, それが 1300 メ ートル を越え る高 地で は 蘚 苔 林とな る。 そ うい う低地で は,北 部の チ ーク林に代 っ て,ゴ ム の 植林が行な われる。 私 達の 登
つ た Khao Luang で は 台風の影 響で , 特に稜線が 二次林に置き代っ て いたの で, い わ ゆる熱 帯 降 雨 林に近い 林相 は認め られ ず, 林床に は草本植 物が 一面 に生えて いるとい っ た 状態だっ た。 し か し, 蘚 苔 林は年 間 を 通じて充分の湿度が与え られて い る だ けに , 北 部の 山 と較べ て, 着生 植 物の 量 も種 数 も, 格段の 差が認め ら れた。
Phu Luang の よ うに 不便な場 所に あっ て , 山径 も無い よ うな山は, 人工 は ほとん ど加わ っ
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198 Acta
Phytotax
.Geobot
.VoL
XXII
,No
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〜6
て い ず, 自 然のま まの森林が見ら れるが, 北 部の山で は, 山 地 民の侵入が, 2000メ ートル 以上
の 高 地に まで 及び,彼 らの焼畑な どの影響で , 森 林は甚だ し く傷め られ て い る。 山地 民に対 す る 森 林 保 護の指導は な か な か難 かしい もの の よ うで あ る が, 今後も, 彼らによ っ て植 生に様々
な影 響が与え ら れる だろ うこ とは予 想 してお くべ き ことの よ うで ある。 しかしまた, 混 清 林 内
の 渓流沿い の極 く限 られた場所にパ ッ と緑が展がっ て いた りして,熱帯地域の 植物相の把 握の 難か し さ をつ くづ く感じさせ ら れた こ と も あ っ た。
タ イ国は面積は 日本の 約
1
.4
倍も あるけ れ ど も,広大な中央平原は ほ と ん ど が耕 地 化さ れ, 東北 部の台 地は乾燥し た荒 蕪 地 と なっ て い る た め に, いろ んな 種 類の 植 物が繁茂して い る地 域につ い て い え ば, 日本よ り も狭い範囲だ けが対象になるの か もし れ ない 。 温暖多雨の 日本は植 物の 種 類 数が多い の で著名で あるが,し か し, 熱 帯ともなる と植 物の種類が増えて く るのは当 然の ことで ,タ イ国につ い て も, お そ ら く万の桁を使っ て数え る程の種 類が生えて い るこ と と 予 想 される。 も ち ろん調 査が充分で は ない今の 段 階で は, そ の数を予 想 する こ と も難か しい。
私達の特に注 意してい るシ ダ植 物につ い て い えば・ 屋 久島以 北の 日本に約 450 種 ある と して ・
同じだ けの 種 類を,私 達の今回の旅 行だ けで採 集して いる。 調 査 が 進めば, この数に して も柑 当 伸 長し,
500
を 大 巾に上 廻ること は確かで あろう。 い ずれ に して も, 調 査の 不 充分な この 国の 植物相は, まだ その一端を 覗い知る とい う程度 を 出ない。
この 国の 植物相 を 検 討 する際に注意すべ きこと は, 中央大平 原 を境ICして , 北 部に はヒV ラ
ヤ 要 素の最前衛が下っ て きて い る し, 半島部はマ V イシ アの 植物が北上 してきて こ こで終っ て
い る と 云 うこ とで あ る。 事実, 半 島 部の 山で は, マ ラ ヤか ら西マ V イ シ ア と共通の種 類が ほ と
ん ど で ある し,東北 部や北 部の 深 山に は, 雲南系の植 物が予 想 通 り多数採集で きた。 そ れ らの 植 物の 分布につ い て は, そ れ ぞれの 植 物 群ご とに, 整理がつ き次第検討される筈で ある。 そう
い う地理 的な条件か らも当 然 予 想 される ように , この 国に は固有種の数 が 極めて 少な い。 ま た, 現在 固有種と考 え られて いる もの の うち に も, 北ビル V や雲 南 地 方な どの調査が進めばそれら
の地 域に も発 見さ れ る可 能性の ある もの が多い。 そ れ らの こ とも合 わせ て ,タ イ国の植物 地理
を論 ずる た めには,その 四周の もの も含めて, ま だ ま だ資料不足の感を免がれ ない。
今 回の私達の旅 行 は 京 大 東 南ア ジア研 究セ ソ タ ーの 自 然科学 研 究 計 画の 一つ と して 実行さ れた。 この機 会 を 与えて下 さ っ た同セ ソ ター
, 特に所 長の 岩 村 忍 教 授, 自然 科 学 主 任の芦田譲 治 教 授 らに深 く感謝する。同セ ソ タ ーの本 岡 武 教 授や飯島茂氏には, 特に現地で の 事務 的な折 衝な どで 大 変お世話に な っ た。 また,
Bangkok
の 森 林 局のTem
SMITINAND 氏は旅 行 計 画 を 立 案し, 諸種の 連 絡を とっ て下さっ た し,Damrong
CIIAIGLoM
氏は 全行 程に同 行して・ 各 地 で の 旅行の手 配 を して下 さっ た。 これ らの人 達の援 助が なけ れ ば, 私 達の現地で の活 動 は不 可 能 だっk
と思 う。 最後に, 調 査に同 行さ れ た北川尚史, 福 岡 誠 行 両 氏と, 私 達の 作 業を 直 接間接に 助けて下さっ て い る北村教 授 以 下京大 分 類 学 研 究室の皆さ んに心 か らお礼の 言 葉を述べ させ て 戴き たい と思 う。
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