適合性原則と勧誘
著者 伊藤 靖史
雑誌名 同志社法學
巻 61
号 2
ページ 287‑305
発行年 2009‑07‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011774
適合性原則と勧誘二八七同志社法学 六一巻二号
適合性原則と勧誘
伊 藤 靖 史
(七五七)
目 次一 序論二 金商法四〇条一号と勧誘
1勧誘の意義
2金商法四〇条一号と勧誘
3一般投資家から特定投資家への移行
三適合性原則違反を理由とする不法行為責任と勧誘 4金商法上の説明義務と非対面取引
1金販法上の損害賠償責任
四結語 2一般不法行為による損害賠償責任
適合性原則と勧誘二八八同志社法学 六一巻二号
(七五八)
一 序論 本稿は︑適合性原則︵適合性原則の﹁趣旨﹂を織り込んだ金融商品取引法等のルールを含む︶と (
︑金融商品取引業者 1)(
2)
による勧誘との関係について︑検討するものである︒
適合性原則と呼ばれるものには︑ある特定の利用者に対してはいかに説明を尽くしても一定の商品の販売・勧誘を行 ってはならないとのルール︵狭義の適合性原則︶と︑業者が利用者の知識・経験・財産等に適合した形で販売・勧誘を行わなければならないとのルール︵広義の適合性原則︶があるとされる (
︒このうち︑狭義の適合性原則を定めるのが︑ 3)
金商法四〇条一号だと考えられている (
融商品取引行為について︑顧客の知識︑経験︑財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認 ︒同号および同条柱書によれば︑金融商品取引業者は︑業務の運営の状況が︑﹁金 4)
められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており︑又は欠けることとなるおそれがあること﹂に該当することのないように︑その業務を行わなければならない (
︒他方で︑業等府令一一七条一項一号は︑広義の適合性原則の考 5)
え方を説明義務に取り込むものとされる (
﹁書面の交付に関して︑あらかじめ︑顧客⁝⁝に対して︑﹇金商﹈法第三十七条の三第一項第三号から七号までに掲げる ︒同号によれば︑金融商品取引業者に対して︑契約締結前交付書面など一定の 6)
事項⁝⁝について顧客の知識︑経験︑財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をすることなく︑金融商品取引契約を締結する行為﹂が︑禁止される (
︒また︑ 7)
金販法三条二項では︑同条一項の重要事項の説明は︑﹁顧客の知識︑経験︑財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない﹂とさ
れている (
︒金販法三条二項は説明義務を尽くしたかどうかを判断するに当たっての解釈基準として適合性原則の考え方 8)
適合性原則と勧誘二八九同志社法学 六一巻二号 を取り入れるものとされていることから (
のといえるのだろう︒ ︑同項も︑広義の適合性原則の考え方を︵金販法上の︶説明義務に取り込むも 9)
適合性原則は︑もともと︑米国法で発達してきたルールである︒これがわが国でも︑当初は行政指導や自主規制として取り入れられた︒その後︑同原則は証券取引法に業者の行為規制という形で定められ︑それが現在の金商法四〇条一 号に受け継がれている (
適合性原則が︑歴史的には業者による勧誘の際のルールとして発達してきたという事情によるものなのだろう︒しかし︑ ︒金商法四〇条一号が︑金融商品取引業者が勧誘を行う際の行為規制として定められているのは︑ 10)
右に述べた業等府令一一七条一項一号や︑金販法三条二項は︑金融商品取引業者ないし金融商品販売業者 (
行われたことを︑適用の要件とはしていない︒業者がこれらの規定によって説明義務を負うのは︑業者が勧誘を行った による勧誘が 11)
場合に限られないのである︒これらの規定による説明義務を業者が尽くしたかどうかが︑広義の適合性原則の考え方を基準に判断されるのであるから︑そのような広義の適合性原則の考え方は︑業者が勧誘を行ったかどうかを問わずに妥
当することになる︒
このようなことから︑翻って︑次のことを検討する必要があるように思われる︒ 第一に︑金商法四〇条一号は金融商品取引業者が勧誘を行ったことを適用の前提としているが︑業者による勧誘とい
うものを︑同号が適用されるための絶対的な要件だと考えるべきなのだろうか︒同号違反を理由とする行政処分は︑業者による勧誘が行われていなければ︑発動されえないのだろうか︒
第二に︑判例上︑適合性原則違反を理由とする︑金融商品販売業者に対する一般不法行為に基づく損害賠償請求が認められる (
︒そのような請求の可否を判断する際に︑業者による勧誘が行われたということを︑どこまで重視すべきなの 12)
だろうか︒金販法三条二項は金融商品販売業者による勧誘の有無に関わりなく適用される︒その結果︑業者による勧誘
(七五九)
適合性原則と勧誘二九〇同志社法学 六一巻二号
が行われなかった場合であっても︑同項を介して重要事項説明義務の違反が認められ︑金融商品販売業者が損害賠償責
任︵金販五条︶を負うこともありうる︒その場合と︑右に述べた一般不法行為にもとづく損害賠償請求が行われた場合とで︑業者による勧誘という要素の位置付けは︑異なると考えるべきなのだろうか︒
以下では︑第一の問題を二で︑第二の問題を三で検討する︒四はまとめである︒
二 金商法四〇条一号と勧誘
1
勧誘の意義 金商法四〇条一号にいう勧誘とは︑金融商品取引業者のどのような行為を指すのだろうか︒ 金商法四条一項等の発行開示規制の適用を画する概念である有価証券の募集は︑新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘であって︑多数の者を相手方として行われるもので︑かつ︑適格機関投資家のみを相手方として行う場合等を除いたものを指す︵金商二条三項︶︒ここでいう﹁勧誘﹂の方法について︑企業内容開示ガイドラインは︑﹁有価証券の募集又は売出し⁝⁝に関する文書︵新株割当通知書及び株式申込証を含む︒︶を頒布すること︑株主等に対する増
資説明会において口頭による説明をすること及び新聞︑雑誌︑立看板︑テレビ︑ラジオ︑インターネット等により有価証券の募集又は売出しに係る広告をすることは﹃有価証券の募集又は売出し﹄行為に該当する﹂と述べる (
︒このように︑ 13)
有価証券の募集の定義における﹁勧誘﹂には︑相当広範囲のものが含まれる︒
これに対して︑金融商品取引業者の行為規制の中にも︑勧誘という語が用いられるものがある︒たとえば︑金商法三
八条三号は︑一定の金融商品については︑金融商品取引契約の締結の勧誘の要請をしていない顧客に対して︑訪問しま
(七六〇)
適合性原則と勧誘二九一同志社法学 六一巻二号 たは電話をかけて︑金融商品取引契約の締結を勧誘する行為を︑金融商品取引業者に対して禁じる︵不招請勧誘の禁止︶︒また︑同条四号は︑一定の商品については︑金融商品取引契約の締結につき︑その勧誘に先立って︑顧客に対し︑その
勧誘を受ける意思の有無を確認することをしないで勧誘する行為を︑金融商品取引業者に対して禁じる︒金商法四〇条一号も︑そのように︑勧誘という語が用いられる規定である︒
金商法三八条四号の定めからは︑そこでいわれている﹁勧誘﹂は︑特定の顧客に対するものであり︑広告は含まれないことが分かる︒不特定多数の顧客に対して勧誘を行うに先立って︑不特定多数の顧客に対して︑その勧誘を受ける意
思の有無を確認することはできないからである︒そうすると︑同条三号にいう勧誘も︑特定の顧客に対するものであり︑広告は含まれず︑三号は︑そのような特定の顧客に対する勧誘のうちでも︑﹁訪問しまたは電話をかけて﹂行われるも
のについて︑不招請勧誘を禁止していると考えるのが自然であろう︒以上のことから︑金商法四〇条一号についても︑そこでいわれる勧誘は︑基本的には︑特定の顧客に対するものであり︑広告は含まれないと考えてよいと思われる︒
金商法の立案担当者 (
て実質的かつ慎重に判断されるべき﹂とし︑﹁金融商品取引業者等が︑顧客の適合性を確認できないにもかかわらず︑ は︑金商法四〇条一号の﹁﹃勧誘﹄に該当するかどうかについては︑個別事例ごとに実態に即し 14)
たとえば当該顧客から﹃勧誘は不要との確認書の差入れ﹄を受けて当該﹃取引に応じるとの運用﹄は適当でないと考え
られる﹂と述べる (
理解が可能になるものと思われる︒ ︒こういった記述も︑金商法四〇条一号の勧誘が特定の顧客に対するものであることを前提にして︑ 15)
2
金商法四〇条一号と勧誘 金商法の立案担当者は︑一方で︑金商法四〇条一号は﹁﹃勧誘﹄に係る行為規制であるから︑﹃勧誘﹄がない場合に(七六一)
適合性原則と勧誘二九二同志社法学 六一巻二号
は適用されない﹂と述べる (
︒他方で︑﹁金融商品取引業者等は︑個別の顧客が一定の取引を望んだ場合であっても︑ 16)
狭義の適合性原則の下︑当該顧客との取引を拒むことができる場合があると考えられるが︑その判断に当たっては慎重に検討する必要がある﹂とされる︒また︑﹁たとえば︑個別の顧客が一定の投資性の強い商品を望んだ場合に︑その﹃適
合性の確認のための資産・負債等に関する質問に対して回答を拒む﹄ことをもってただちに当該顧客との間で当該取引を行わないとの対応をとることは︑顧客利便を過度に損ないかねない面があることから︑慎重に検討する必要がある
⁝⁝が︑業者が相当な努力を尽くしたにもかかわらず︑当該顧客の姿勢に変化がなく︑業者が当該顧客の適合性を確認することができないような場合には︑業者は︑狭義の適合性原則に則して︑当該顧客との当該取引を拒むことができる﹂
ともいわれる (
︒ 17)
の記述の趣旨は︑どのように理解すべきだろうか︒このような記述が妥当するのは︑あくまで︑金融商品取引業者
による勧誘があり︑その結果︑﹁個別の顧客が一定の取引を望んだ場合﹂なのだろうか︒﹁当該顧客の適合性を確認することができないような場合﹂に︑金融商品取引業者が取引を拒むことができるのは︑適合性を確認することなく取引を
行えば︑狭義の適合性原則に違反することになりうるからだろう︒狭義の適合性原則の違反が判断される際に決定的なのは︑顧客の適合性を確認せずに︵確認できないにもかかわらず︶取引を行ったという金融商品取引業者の行為であり︑
その前に金融商品取引業者によって当該顧客に対して勧誘が行われていたかどうかは︑重要な問題とはいえないのではないだろうか︒狭義の適合性原則は︑﹁ある特定の利用者に対してはいかに説明を尽くしても一定の商品の販売・勧誘
を行ってはならないとのルール﹂であり (
場から排除することによって保護﹂し︑私的自治へのパターナリスティックな介入を行う機能を有する ( ︑﹁市場の民主化・大衆化を前提とした上で︑適合性を欠く者を当該商品の市 18)
︒このことを重 19)
視すれば︑金融商品取引業者による勧誘というものを︑金商法四〇条一号が適用されるための絶対的な要件と考えるべ
(七六二)
適合性原則と勧誘二九三同志社法学 六一巻二号 きではないだろう︒
仮に︑金融商品取引業者による勧誘がなければ金商法四〇条一号が適用されないとしても︑金融商品取引業者に対し
て金融庁が行政処分を行うことができるのは︑金融商品取引業者が業務に関して法令に違反したとき︵金商五二条一項六号︶にかぎらない︒金融商品取引業者の業務の運営に関して︑投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときに︑
金融庁は︑その必要の限度において︑業務の運営の改善に必要な措置をとるべきことを命じることができる︵金商五一条︶︒そうだとすれば︑たとえ金融商品取引業者による勧誘がない場合に金商法四〇条一号に違反する行為がないと考
えても︑投資者保護のために必要かつ適切な場合には︑顧客の適合性を確認せずに︵確認できないにもかかわらず︶取引を行う金融商品取引業者に対して︑行政処分を行うことは可能であろう︒また︑場合によっては︑金融商品取引業者
が誠実義務︵金商三六条︶に違反したと判断されることもありうるのではないだろうか︒
以下では︑このような発想をもとに︑二つの具体的な問題について考えてみたい︒
3
一般投資家から特定投資家への移行金商法三四条以下には︑特定投資家制度について定めが置かれている︒ある投資家が﹁特定投資家﹂になると︑当該
特定投資家については︑金商法が定める金融商品取引業者の行為規制の一部が適用されなくなる︵金商四五条︶︒また︑特定投資家は︑金販法上の特定顧客に含まれるため︵金販三条七項一号︑金販施行令一〇条一項︶︑そのような顧客に
ついて︑金融商品販売業者は︑金販法三条一項の重要事項説明義務を負わない︒
特定投資家でない投資家︵一般投資家︶には︑特定投資家への移行を申し出ることができる者がある (
︒そのような申 20)
出を行ったのが個人である場合︑申出を受けた金融商品取引業者は︑その者に︑一定の事項を記載した書面を交付する
(七六三)
適合性原則と勧誘二九四同志社法学 六一巻二号
とともに (
︑申出者が特定投資家への移行を申し出ることができる要件に該当することを確認しなければならない︵金商 21)
三四条の四第二項︶︒金商法の立案担当者は︑金融商品取引業者が︑一般投資家から移行の申出を受けた場合には︑当該移行の適切性について︑適合性の原則に照らして判断することが求められると述べる (
︒それでは︑このことは︑金融 22)
商品取引業者が︑一般投資家たる顧客に︑特定投資家への移行を勧誘したのではない場合にも︑妥当するのだろうか︒より具体的には︑そのような勧誘がなく︑顧客の側から特定投資家への移行を申し出たが︑金融商品取引業者の判断に
よれば︑そのような顧客が適合性を欠くと考えられる場合に︑右に述べた特定投資家への移行を申し出ることができる要件を充たしていたとしても︑そのような者の移行を金融商品取引業者から拒むことができるのかが問題になる︒また︑
適合性を欠く者について特定投資家への移行を認めた場合︑金融商品取引業者が行為規制に違反したことになるのだろうか︒
金商法の立案担当者は︑次のように述べる (
一号︶の適用は除外されるが︑一般投資家が﹃選択による特定投資家への移行﹄を行おうとする局面においては︑適合 ︒﹁特定投資家に取引の勧誘を行う場合には適合性の原則︵﹇金商﹈四〇条 23)
性の原則が適用される︒たとえば︑その知識・経験・財産の状況および目的に照らして特定投資家としてふさわしくない顧客に対して﹃選択による特定投資家への移行﹄を勧誘するような金融商品取引業者は︑同原則に違反することとな
る﹂︒つまり︑金融商品取引業者が一般投資家から特定投資家への移行を勧誘すれば︑金融商品取引業者は︑金商法四〇条一号に行為規制として定められる適合性原則の適用を受けるとされるのである︒これに対しては︑そのような場合
には﹁金融商品取引行為について﹂の勧誘がないことから︑金商法四〇条一号が適用されるか疑問視されることもある (
しかし︑金商法四〇条一号は︑﹁金融商品取引契約の締結の勧誘﹂︵金商三八条三号参照︶ではなく︑﹁金融商品取引行 ︒ 24)
為について﹂の勧誘に適用されるのであるから︑同号の文言上︑一般投資家から特定投資家への移行の勧誘に同号を適
(七六四)
適合性原則と勧誘二九五同志社法学 六一巻二号 用することは︑不可能ではないだろう︒
それでは︑一般投資家から特定投資家への移行の勧誘がなかった場合については︑どう考えるべきだろうか︒その場
合︑金融商品取引業者からの勧誘がないので︑金商法四〇条一号は適用されないことになるのだろうか︒仮にそう考えたとしても︑
2
の末尾に述べたのと同様に︑金融商品取引業者に行政処分を行うことは不可能ではないし︑場合によっ ては︑金融商品取引業者が誠実義務に違反したと評価されることもあるのだろう (しなかった顧客の側から特定投資家への移行を申し出た場合に︑顧客が適合性を欠くと考えれば︵また︑適合性を確認 ︒金融商品取引業者としても︑勧誘を 25)
することができなければ︶︑当該顧客が特定投資家への移行を申し出ることができる要件を充たしていたとしても︑移行の申出を拒絶することができると考えるべきであろう (
︒ 26)
4
金商法上の説明義務と非対面取引 金商法三八条六号が定める金融商品取引業者の禁止行為の内容は︑業等府令一一七条一項に列挙される︒同項一号は︑契約締結前交付書面など一定の書面の交付に関して︑あらかじめ︑顧客に対して︑金商法三七条の三第一項三号から七号の事項について︑顧客の知識︑経験︑財産の状況および金融商品取引契約を締結する目的に照らして︑当該顧客に理
解されるために必要な方法および程度による説明をすることなく︑金融商品取引契約を締結する行為を︑禁止行為とする︒
このようなルールの趣旨は︑次のように説明される︒すなわち︑金融審議会第一部会報告﹁投資サービス法︵仮称︶
に向けて﹂︵二〇〇五年一二月二二日︶では︑金販法上の説明義務︵金販三条︶違反を直接の理由として監督上の処分を行うことができないことを前提に︑﹁投資商品の販売業者の説明義務は業者と利用者との情報格差を改善するための
重要な方策であり︑投資サービス法においては︑金融商品販売法上の説明義務と同内容の説明義務を行為規制の一つと
(七六五)
適合性原則と勧誘二九六同志社法学 六一巻二号
して位置付け︑業者が違反した場合に直接的に監督上の処分を発動できることとすることが適当と考えられる﹂とされ
ていた (
︒これを金商法上実現したのが︑契約締結前の書面の交付について定める︑金商法三七条の三である︒ 27)
同条の定める﹁説明義務は︑業者の利用者に対する金融商品に関する重要事項の情報提供義務であり︑相対型ディス
クロージャー義務であるともいえる﹂とされ︑このような﹁説明義務の趣旨に照らせば︑金融商品取引業者等が法定の事項を記載した書面を単に形式的に顧客に交付すれば足りるというものではなく︑顧客が金融商品取引契約を締結する
かどうかを判断するために必要な重要な情報が顧客に対して実質的に提供されることが必要﹂だとされた (
定められたのが︑業等府令一一七条一項一号である ( ︒そのために 28)
︒ 29)
1
に述べたように︑同号は︑広義の適合性原則の考え方を取り込むものともいえる︒
業等府令一一七条一項一号は︑﹁顧客の知識︑経験︑財産の状況および金融商品取引契約を締結する目的に照らして﹂
と定めているので︑金融商品取引業者は︑これらの顧客属性に照らして︑説明の方法や程度を変える必要がある︒ここでは︑当該顧客が現実に理解したかどうかではなく︑当該顧客と同様の属性を有する顧客が社会通念上理解すると判断
される方法・程度の説明を基本とした上で︑顧客ごとに個別に適切な方法・程度の説明を行う必要があるとされる (
融商品取引業者の行為規範としては︑顧客ごとに個別に適切な方法・程度の説明を目指すべきであるが︑行政上の監督 ︒金 30)
措置の発動を判断する際には︑一定の属性を有する顧客について︑そのような者が社会通念上理解するために必要な方法・程度の説明が行われているかどうかが主に問題になるのだろう︒
金融商品取引業者は︑非対面取引︵インターネット等︶を通じて金融商品取引契約を締結する場合にも︑右に述べたレベルの説明をしなければならない (
︒そのためには︑金融商品取引業者は︑当該顧客の属性を正確に知る必要がある︒ 31)
2
に述べたように︑﹁適合性を確認することができない﹂にも関わらず取引を行った場合︑金融商品取引業者は適合性(七六六)
適合性原則と勧誘二九七同志社法学 六一巻二号 原則に違反することになるだろう︒また︑そのような場合︑当該顧客の属性からして必要な説明も行われていないと考えれば︑金融商品取引業者は︑業等府令一一七条一項一号にも違反している︒このことと︑非対面取引においては顧客
の属性の確認が対面取引よりも難しいことを考え合わせると︑資産等の面でごく一部の顧客にしか適合しないような金融商品を非対面取引で扱うことが︑それ自体︑金商法五一条の業務改善措置命令の対象になることも︑ありえないわけ
ではないだろう︒
いずれにしても︑業等府令一一七条一項一号は︑金融商品取引業者によって勧誘が行われたことを要件とはしない︒
そのため︑同号は︑金融商品取引業者による﹁勧誘﹂の有無を問わず適用される︒金融商品取引業者による勧誘が行われなかったとしても︑顧客が適合性を欠くために︵あるいは︑顧客の適合性を確認できないために︶︑同号にいう﹁顧
客の知識︑経験︑財産の状況および金融商品取引契約を締結する目的に照らして︑当該顧客に理解されるために必要な方法および程度による説明﹂ができないにもかかわらず︑取引を行った場合︑金融商品取引業者は︑同号に違反するこ
とになる︒逆にいえば︑顧客が適合性を欠く場合︵あるいは︑顧客の適合性を確認できない場合︶には︑金融商品取引業者による勧誘の有無に関わりなく︑業者は顧客と取引を行ってはならないことになる︒つまり︑業等府令一一七条一
項一号を介して︑狭義の適合性原則の趣旨が︑金融商品取引業者による勧誘の有無に関わりなく︑実現されることにも
なるのである︒
(七六七)
適合性原則と勧誘二九八同志社法学 六一巻二号
三 適合性原則違反を理由とする不法行為責任と勧誘
1
金販法上の損害賠償責任 金販法三条一項柱書によれば︑金融商品販売業者は︑金融商品の販売等を業として行おうとするときは︑金融商品の販売が行われるまでの間に︑顧客に対して重要事項について説明をしなければならない︒重要事項の具体的な内容は︑ 同項各号に定められる︒このような重要事項の説明義務に金融商品販売業者が違反すれば︑それによって生じた顧客の損害を賠償する責任を負う︵金販五条︶︒この責任は︑一般不法行為責任の特則を定めるものとされる (︒ 32)
金販法三条二項は︑同条一項の説明が︑﹁顧客の知識︑経験︑財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして︑当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない﹂とする︒同条 二項は︑平成一八年の金商法の制定に伴って追加された規定であり︑適合性原則についての﹁最高裁判例等の趣旨を踏まえ (
﹂︑金販法三条一項の説明義務を尽くしたかどうかを判断するに当たっての解釈基準として︑適合性原則の考え方 33)
を取り入れたものである︒このような改正によって︑金融商品販売業者は︑﹁顧客に対して適合性原則に照らして適切な説明を行っていない場合には︑損害賠償責任を負うこととなる﹂といわれる︒より具体的には︑金融商品販売業者は︑
﹁特定の属性を有する顧客に一般的に﹃理解されるために必要な方法及び程度による﹄説明をしなければならない﹂とされる (
︒ 34)
金商法の立案担当者は︑金販法三条二項が定められたことで︑事実上は︑適合性原則違反に﹁民事効が認められたものとも考えられる﹂とする︒つまり︑適合性のない顧客に対して説明をしようとしても︑金販法三条二項から説明義務 違反になり︑金融商品販売業者は損害賠償責任を負うことになる︵金販五条 (
︶︒ 35)
(七六八)
適合性原則と勧誘二九九同志社法学 六一巻二号 金販法三条一項の説明義務は︑その文言上︑金融商品販売業者による勧誘の有無に関わりなく適用されるため︑説明義務違反にもとづく損害賠償責任も︑勧誘の有無に関わりなく発生する︒﹁適合性原則の考え方﹂を取り入れたとされ
る同条二項を介して説明義務違反が認められる場合についても︑同様であろう︒このように考えれば︑二
対面取引の場合にも︑たとえ金融商品販売業者からの勧誘がなくとも︑金販法三条の説明義務違反を理由に︑金融商品
4
に述べた非 販売業者が損害賠償責任を負うことはあるということができるのではないだろうか (︒ 36)
2
一般不法行為による損害賠償責任 金商法四〇条一号は︑金融商品取引業者の行為規制として︑適合性原則を定める︒金商法上︑その違反について金融商品取引業者の民事責任は定められていない︒そのため︑適合性原則違反が︑不法行為法上も違法とされるか︵民法七〇九条にいう﹁他人の権利又は法律上保護される利益を侵害﹂したことになるか︶が問題になる︒これについて︑最高
裁判所の立場を初めて示したのが︑最判平成一七年七月一四日民集五九巻六号一三二三頁︵以下では平成一七年最判という︶である︒
平成一七年最判は︑この問題について︑一般論として︑﹁証券会社の担当者が︑顧客の意向と実情に反して︑明らか に過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど︑適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは︑当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である﹂と判示した (
︒ここでいわれている﹁適合 37)
性の原則﹂としては︑平成一八年改正前証券取引法に定められていたものが念頭に置かれている︒最高裁判所によれば︑同法は︑﹁証券会社が︑顧客の知識︑経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に
欠けることとならないように業務を営まなければならないとの趣旨を規定﹂するものとされる (
︒ 38)
(七六九)
適合性原則と勧誘三〇〇同志社法学 六一巻二号
このように︑平成一七年最判は︑﹁適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせた﹂ことに
より︑金融商品取引業者が不法行為責任を負うことがあることを認めた︒それでは︑金融商品取引業者が勧誘を行わなかったときには︑このような不法行為責任が発生することは︑ありえないのだろうか︒平成一七年最判自体にも︑それ
についての最高裁判所調査官による解説 (
接定めている﹁適合性の原則﹂が︑金融商品取引業者による勧誘が顧客の知識等々に照らして不適当と認められるもの にも︑このような点についての議論は見られない︒金商法︵証券取引法︶が直 39)
であってはならない旨を定めており︑平成一七年最判の事案でも︑問題となった証券会社の担当者によって勧誘が行われているため︑特にこれについて議論をする必要もなかったのだろう︒
むしろ︑平成一七年最判では︑適合性原則違反による不法行為責任が認められる場合について︑﹁証券会社の担当者が︑顧客の意向と実情に反して︑明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど﹂と例示しており︑金融商品取引
業者の行為態様は単なる勧誘では足りないかのようにも読める︒しかし︑一に述べたように︑金商法四〇条一号には︑狭義の適合性原則が反映されている︒そして︑二
2
に述べたように︑狭義の適合性原則の機能は︑適合性を欠く者を市場から排除することによって保護し︑私的自治へのパターナリスティックな介入を行うところにある︒このような同原則の﹁基礎とする思想﹂からは︑金融商品取引業者の側の行為態様は︑そのような観点からする無価値判断にとって決
定的要因であるとはいえないとの指摘も行われている (
あろう︒ ︒狭義の適合性原則の機能からすれば︑このような理解が妥当で 40)
もちろん︑適合性を欠く者に金融商品が販売された場合すべてについて︑金融商品取引業者が不法行為責任を負うと考えるべきではないのだろう︒勧誘はなかったが適合性原則を欠く者に金融商品が販売された場合といっても︑顧客
の適合性を十分に確認しないままにリスクの高い金融商品を販売した場合もあれば︑適合性が十分に確認できないた
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適合性原則と勧誘三〇一同志社法学 六一巻二号 めに当該商品を販売できないと一度は顧客に述べたにもかかわらず︑顧客の側から︑それでもよいからその商品を購入したいと強い申し出があったような場合もある︒のような場合には︑たとえ勧誘がなくとも︑適合性原則違反を理由
とする金融商品取引業者の不法行為責任を認めるべきことがありうるだろうが︑のような場合にまでそのような責任を認める必要はなさそうである︒このように︑金融商品取引業者の不法行為責任の成否について考える際には︑金融商
品取引業者による勧誘がなければ不法行為責任は成立しないと考えるのではなく︑契約が締結された事情等をより踏み込んで見る必要がある︒
また︑たとえの場合に勧誘がないために金商法四〇条一号が適用されないと考えたとしても︑狭義の適合性原則の基礎となる考え方から見て是認できないような顧客の権利・利益の侵害があれば︑顧客の﹁権利又は法律上保護される
利益﹂の侵害に該当すると考えることもできるのではないだろうか︒そもそも︑金商法四〇条一号が適用されなければ︑金融商品取引業者が顧客に対して不法行為責任を負うことがありえない︑というものでもないのである︒このような観
点からすれば︑適合性原則の﹁適用範囲﹂といった観点から議論を重ねるよりは︑金融商品取引業者の行為規範を︑より具体的に明らかにする必要があるともいえる︒
四 結語 本稿では︑金融商品取引業者による勧誘が行われることを︑適合性原則が適用されるための必須の要件と考えるべきかを検討してきた︒本稿の結論は︑次のようにまとめることができる︒金商法四〇条一号についても︑適合性原則の違
反を理由とする金融商品取引業者の一般不法行為責任が追及される場合についても︑金融商品取引業者による勧誘が行
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適合性原則と勧誘三〇二同志社法学 六一巻二号
われることは︑そのようなルールが適用されるための必須の要件と考える必要はない︒また︑金融商品取引業者による
勧誘を︑金商法四〇条一号が適用されるための必須の要件と考えたとしても︑勧誘がなかった場合に金融商品取引業者に対する行政処分・金融商品取引業者の一般不法行為責任の追及が︑一切不可能になるわけでもない︒
︵
1︶ 本稿では︑金融商品取引法を金商法︑金融商品の販売等に関する法律を金販法と略称するほか︑次のような略称を用いる︒ 金融商品取引業等に関する内閣府令↓業等府令 金融商品販売の販売等に関する法律施行令↓金販施行令︵
︵ という語を用いる︒ をいう︵金商三四条第一括弧書︶︒本稿では︑記述を簡単にするために︑このような金融商品取引業者等という意味で︑﹁金融商品取引業者﹂ 2︶ 金商法が定める業者の行為規制は︑金融商品取引業者等に適用される︒金融商品取引業者等とは︑金融商品取引業者または登録金融機関
︵ 場合はすべてこれと同様︶ http://www.fsa.go.jp/p_mof/singikai/kinyusin/tosin/kin003a.pdfきる︒︵最終訪問は二〇〇八年一一月三〇日︒以下︑ウェブ・サイトを引用する 3︶ 金融審議会第一部会﹁中間整理︵第一次︶﹂︵平成一一年七月六日︶一七頁〜一八頁︒同文書は︑金融庁のウェブ・サイトで見ることがで
︵ 4︶ 松尾直彦編著﹃金融商品取引法・関係政府令の解説﹄別冊商事法務三一八号︵二〇〇八年︶二一一頁︹松尾直彦=澤飯敦=酒井敦史︺︒
︵ いる︵金商五二条一項六号︶︒もっとも︑法令違反に至らなくとも︑業務改善命令が発せられることがありうる︵金商五一条︶︒ 5︶ 金商法四〇条一号は︑金融商品取引業者の行為規制として定められているため︑その違反については︑直接的には行政処分が予定されて 6︶ 松尾編著・前掲注︵
︵ 4︶二一一頁〜二一二頁︒ 前述注︵ 7︶ 業等府令一一七条一項一号も︑金融商品取引業者の行為規制であり︑その違反についてのサンクションは︑金商法四〇条一号と同様である︒
︵ 5︶参照︒
︵ 8︶ 同項に従って重要事項の説明が十分に行われていないと判断されれば︑金融商品販売業者は︑顧客に対して損害賠償責任を負う︵金販五条︶︒
9︶ 松尾編著・前掲注︵
︵ 4︶九八頁︹池田和世︺︒
一九八六年︶三一七頁︑三二七頁〜三三〇頁︑森田章﹁証券業者の投資勧誘上の義務﹂岸田雅雄=森田章=森本滋編﹃現代企業と有価証券 10︶ 米国およびわが国での同原則の歩みについて︑山下友信﹁証券会社の投資勧誘﹂龍田節=神崎克郎編﹃証券取引法体系﹄︵商事法務研究会︑
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