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世界最大の鉄道車両メーカー「中国中車」の現状 調査・研究活動 : 交通経済研究所ホームページ

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70 運輸と経済 第77巻 第4号 ’17. 4

海外トピックス

はじめに

 2015 年6月,中国の南車集団と北車集団が正式 に合併し,年間売上高4兆円超の世界最大の鉄道 車両メーカー中国中華股份有限公司(略称「中国 中車」)が誕生した。現在,中国中車の売上は約9割 が中国国内向けであるが,今後の世界最大の鉄道 車両メーカーの世界市場での動向は,わが国の鉄 道車両メーカーの動向にも影響しうる。本稿では 中国中車の現況を踏まえた上で,同社をとりまく 中国国内の社会・経済的動向とあわせて,同社の 今後の見通しについて考察していきたい。

1

.中国中車の規模

 中国中車は中国政府の中央政府直轄企業の再編 により誕生した。南車集団と北車集団は元は同一 の国有企業であったが,中国国内の高速鉄道網整 備にあたり競争を促進するため,2000 年に2社に 分割された。中国政府は中央政府直轄の国有企業 112 社を,2020 年までに約 40 社に集約し,規模 の論理でコスト面等の国際競争力を高め,陸路と 海路で中国から欧州まで結ぶ「新シルクロード(一 帯一路)構想」の鍵となるインフラ輸出で,中国 が主導権を掌握すること

を狙っている。合併後の 2015 年 12 月末の中国中 車の総資産は 3,117 億元

(約5兆円),2015 年の売 上高は 2,378 億元(約4兆 円),税引前利益は 170 億 元(約 2,900 億円)である。 中国中車の本社は北京に

置かれ,従業員総数は約 18 万人である。鉄道車 両製造以外でも,原子力や造船,石油化学等の関 連企業の再編が行われている。

 図1に直近の中国中車ビッグ3各社(ボンバ ルディア・アルストム・シーメンス)の売上高をま とめた。中国中車の売上高は,ビッグ3各社が軒 並み 8,000 億円から1兆円の売上高であるのに比 較すると,約4倍もの規模である。

 に中国中車の 2016 年1~6月期の売上高等 を記す。合併から約1年,前年同期比で売上高の 増加は 0.6% に留まったが,利益額は7%の増加 であった。また資産は 6.1% 増加しており,売上高

世界最大の鉄道車両メーカー「中国中車」の現状

かす

しゅう

いち

 

情報センター主任研究員

表 中国中車売上高等

区分 2016 年1~6月期 2015 年1~6月期 前年比 売上高 約 923 億元 約 918 億元   +0.6% 売上原価 約 717 億元 約 723 億元   –0.9%

販売費 約 32 億元 約 34 億元   –5.7%

管理費 約 100 億元 約 95 億元   +4.8% 研究開発費 約 40 億元 約 38 億元   +6.4% 税引後利益 約 61 億元 約 57 億元   +7.0% 総資産 約 3,307 億元 約 3,117 億元※ +6.1%

総資産のみ 2015 年 12 月末の値

出典:CRRC Corporation Limited, Interim Report 2016(2016 年9月)(参考文献[1])

図1 中国中車+ビッグ3各社と日立の鉄道車両部門

の売上高 (2015 年度)

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

4.0

1.0 0.8

0.4 1.0

中国中車 ボンバルディア アルストム シーメンス 日立

(2)

71 海外トピックス より多く増加している。図2に中国中車主要4部

門の 2016 年1~6月期売上高を記した。4部門の うち,鉄道車両製造部門が売上の約半分を占める。 その次に大きい事業部門は汎用機械や風力発電他 の新規事業部門である。主力の鉄道車両製造部門 の売上の伸びは鈍化している。図3に,2011 年か らの売上高・資産等の推移を記す。売上高は増加 傾向にあるものの,近年頭打ち感もある。また, 資産の増加率は売上高の増加を上回っており,生 産設備の過剰等が懸念される。

2

中車の今後

― 国内鉄道輸送の動向と海外進出

1

中国鉄道輸送の動向

 鉄道車両需要は,人口や GDP に基づく鉄道輸 送の動向に左 右される。図4に中国の人口・ GDP・鉄道旅客・鉄道貨物の輸送動向を記す。中 国の人口は長年の一人っ子政策で 13 億人台に抑 制される中,GDP はここ 10 年で大きく伸びた。 鉄道旅客数は GDP ほどではないが,順調に増加 している。2016 年の中国の鉄道旅客数は 27.7 億 人で,前年度より 11.2% 増加した。旺盛な鉄道旅 客需要の高まりを受け,2016 年5月 15 日には, ここ十年で最も大規模な鉄道ダイヤ改正が実施さ れ,高速列車の大増発(運行総本数約 2,100 往復/日, 増発本数 300 往復超/日)が実施されている。鉄道 輸送量に関する懸念は,鉄道貨物輸送の減少であ る。鉄道貨物輸送量(トンキロ)は,2012 年以降 前年を下回る傾向にある。

 中国の旅客・貨物の鉄道輸送の動向からすれば,

図2 中国中車各部門の売上高(2016年1∼6月)

鉄道車両 473 51%

都市交通 99 11%

新規事業 246 27% 金融・物流他

104 11%

(単位:億元)

出典: CRRC Corporation Limited, Interim Report 2016

(2016 年9月)(参考文献[1])

図3 中国中車の売上等推移

2011 2012 2013 2014 2015 0

500 1,000 1,500 2,000 2,500

1,657 1,793 1,912

2,185 2,378

91 98 111 145 170

売上高   税引前利益

出典: CRRC Corporation limited, Annual Report 2015

(2016 年4月)(参考文献[2])

図4 中国の人口・GDP・鉄道旅客・鉄道貨物   

輸送量の推移

35,000

30,000

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

0

80

70

60

50

40

30

20

10

0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

鉄道貨物トンキロ(億:左目盛) 鉄道旅客人キロ(億:左目盛) 人口(億人:右目盛) GDP(兆元:右目盛)

(3)

運輸と経済 第77巻 第4号 ’17. 4 72

旅客鉄道車両製造は当分の間は安定的な需要が見 込まれる。反面,逓減傾向にある鉄道貨物輸送需 要が回復する要因に乏しく,機関車・貨車製造の 需要は今後も逓減傾向が見込まれる。長期的には, 中国経済全体が成長の壁にぶつかる可能性も否定 できない。また,鉄道貨物輸送量が既に減少に転 じているように,輸送機関分担は変化していくも のである。現在高速鉄道が担っている中長距離旅 客の都市間輸送が航空へ転換する恐れもある。今 後共,中国国内経済と鉄道輸送の動向については, 引き続き注視していく必要がある。

2

)中国中車の海外進出について

 図5に中国中車の 2016 年1~6月期の海外売 上高と比率を記した。中国国内への売上高が約9 割と圧倒的に多い。また,前年同期比で国内売上 は約3% 増加したのに対し,海外売上は 20% 近く 低下した。

 そんな中,中国での国内生産にとどまらず,中 国国外では米国マサチューセッツ州やトルコ(合 弁),マレーシアに工場の新設もしくは計画中であ る。

 米国マサチューセッツ州スプリングフィールド の工場は 6,000 万ドルが投資され,現地で 150 人 の雇用を生み出す。最初に製造されるのは,ボス トンの地下鉄車両(284 両)になる見込みである。

 中国中車は世界最大の鉄道車両メーカーであり, かつ西欧や日本等と比較すると人件費等の安い中 国国内に主要工場があることから,材料の大量一 括仕入れによる原材料コストの削減や,安価な労 務費の活用,一般管理費比率の低下を通じて,高 品質な鉄道車両を安価・大量に提供することが可 能といえる。中国国外の鉄道車両製造事業者にと っては,中国中車が世界市場でのシェアを今後拡 大する可能性があり,脅威である。

3

.まとめ

 中期的には,中国中車は,堅調な国内需要を背 景に,当分の間は中国国内での売上を中心に,現 在と同程度の売上を続けると考えられる。2016 年 上半期の経営を見る限りでも,国内売上が中心で, 海外売上高も拡大傾向にあるとは言い難い。しか し中国中車の事業規模は巨大であり,今後,中国 中車がそのスケールメリットを世界市場で活かし, 他国の鉄道車両製造事業を脅かす可能性はあり, その動向には注視が必要である。昨年同様,今年 も4月中までには前年の経営成績が公表されると みられ,その動向を精緻に分析する必要がある。

[主な参考文献]

[1] CRRC Corporation Limited, Interim Report 2016

[2] CRRC Corporation Limited, Annual Report 2015 [3] 黒崎文雄「中国鉄道の経営と現状―近年の高 速鉄道建設と直面する課題―」,『運輸と経済』 第 75 巻2号 2015 年2月,pp.90-97

[4] 中国国家統計局 National Bureau of Statistics of China ホームページ

[5] 人民網日本語版,2015 年9月6日,2016 年5 月 13 日,2017 年1月5日

[6] 産経ニュース,2015 年7月3日

※ 円換算レートは 2016 年 12 月末の1元= 16.83 円, 1ユーロ= 122.93 円を使用。

図5 中国中車の海外売上高と比率

(単位:億元,各年 1 ~ 6 月期)

2015年 1~6月

2016年 1~6月

0 200 400 600 800 1,000

中国国内 807 (87.9%)

中国 国外 111 (12.1%)

中国国内 832 (90.1%)

中国 国外 91 (9.9%)

出典: CRRC Corporation limited, Interim Report 2016

(2016 年9月)(参考文献[1])

参照

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