小学校社会科における地域学習の改善
一一多元的な社会認識形成を目指した小単元開発一一
教科・領域教育専攻 社 会 系 コ ー ス
岩 田 月 月 子
序 章 本 研 究 の 意 義 と 方 法
本研究は,現在の小学校社会科地域学習を分 析し地域学習の理論と方法を解明することを 通して,小学校における地域学習の改善を示す 事を目的としている。
序章では本研究の意義と方法を明示した。
本研究の意義として,第1に,自らの住んで いる地域を学ぶことで,多くの異空間と自己が いかにかかわって成立しているのかが分かるこ とを通じて,白地域を含め 多様な文化を優劣 なく同等に考える資質が育成できる,つまり多 文化理解の手段として地域を活用し,白地域を 多元的な広がりをもった空間として認識する小 単元を提案する点,第
2
に改善点として3つの キーワードをもとに多元的な社会認識を育成す る小単元を具体化してし1く点がある。第
1
章先行する社会科地域学習の分析 従来取り組まれてきた社会科地域学習の実践 事例には閉ざされた社会認識J
の共感的理解 型授業と,r
開かれた社会認識jの社会構造分析 型の授業に迫る授業の型がある。しかし,それぞれの学習は別々のものとして 取り組まれてきたのが現状であり,そのことが 地域学習を希薄なものにしてきた現実がある。
筆者は,その現状を打破していくために,
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閉 ざされた社会認識Jの共感的理解型授業におい て「地域と自己とのつながりをつくるjをつくる 学習過程を設定し「開かれた社会認識jの社会構指 導 教 官 西 村 公 孝
造分析型の授業に迫る授業において「自他や社 会構造を認識するJ学習へと深めていくOその過 程により,個と社会の関係、性を問い,その学習 内容を批判的に吟味・検証する過程を繰り返し ながら,最終的に「地域を通して公的に生きる自 己を追究するJ学習へと深めていく社会科地域 学習を提起したいと考える。
第
2
章社会科地域学習の改善視点小学校社会科における地域学習を改善してい くためには,どのような小単元を開発すればよ いのか。
地域の中にある社会問題に対して,
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共感的に 理解」することができるよう,地樹土会と個のつ ながりがわかる学習を行う。そしてそのつなが りがどのような社会状況から成り立っているの か「社会構造を客観的に分析Jし,それらの「多元 的な社会認識jを踏まえて,地域の中で自己がど のような行動をしていけばよいのかという「自 己の生き方を追究できるj資質を育成するOこれ により,地域学習の課題を克服していくことに つながるのである。したがって筆者は,
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地域と自己とのつながり をつくるJr
自他や社会構造を認識するJr
地域を 通して公的に生きる自己を追究する」という3
つの改善視点で「多元的な社会認識形成jを目指した小学校社会科地域学習を提起したいと考え る。
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第
3
章社会科地域学習の理論「多元的な社会認識形成
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とは,地域を共感的 瑚樫村士会構造分析型のどちらか一方の見方 でみるのではなく 地域社会を構成するさまざ まな多元的な空間を認識することである。「多元 的な社会認識形成J
とは,自己の住んでいる地域 を共感的に理解した後,白地域を「外の視点から 捉えるjことである。それは「白地域を突き放し てみるJといってもよいし,あるいは「他の立場 からみるJといってもよい。いずれにしても,自 分自身をあたかも他人をみるかのように捉え返し知識を客観化させることである。したがっ て,この場合に理解される白地域は,他者とし ての地域という,極めて客観的なものである。
そして,そのような客観的分析を土台として,
再度地域社会を,自己の問題として捉え直すの である。
目標原理としての「多元的な社会認識jに迫る 方法原理は,
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共感的理解J r客観的分析J r深化・
拡充的分析jである。
社会科地域学習においては まず学習者の入 りやすい「共感的理解Jを軸に,事象とその事象 を行う人物を主観的に捉え,次の過程で,客観 的に社会構造を捉えることが,科学的な社会認 識形成の土台となる。学習者の中には「共感的理 解jからf客観的分析」への追究と,その追究を踏 まえて「客観的分析jし,事実相互の因果関係を 見出しそこからさらに社会構造を把握し,発 見していくという「客観的分析jの方法を「共感 的理解jの方法へ組み込んでし、くのである。
その「共感的理解jからf客観的分析jへの学習 は,他者の行為価値への主雛ぢ判断と社会構造 を分析した中での客観的判断を可能にする。こ のf共感的理解jから「客観的分析jへの認識を土 台として,自己の既存の行為価値や他者の既存
の行為価値を批判的に捉え直し,主観的・客観 的に判断する批判的思考により学習者の「深 化・拡充的分析jを深めていくのである口 第
4
章社会科地域学習の展開先に考察した理論に基づき 具体的な小学校 社会科地域学習の小単元を開発する。主題はf伝 統産業とわたしたちのくらしjであり,その単元 構成は以下の通りである。
<共感的理解> 伝統産業ができるまでにかか わった人々の願いや苦悩の学習
<客観的分析> 伝統産業から社会構造を学ぶ 学習
<深化・拡充的分析> 地域の中で伝統産業を 捉える学習。
まず地域産業を残す側と地域住民の立場を共 感的に捉え,その社会構造を探求法で分析する。
そして,話し合いを通じて,地域の中の社会問 題の本質を明確にし,地域の一員としての公民 的資質を育成する小単元を開発する。
終 章 成 果 と 今 後 の 課 題
「多元的な社会認識形成
J
を目標原理とする社 会科地域学習では,その方法原理であるf共感的 理解J r客観的分析J r深化・拡充的分析jという学
習の流れの中で,共感的理解の枠を超え,社会
構造を認識することで社会の中で自己の生き
方が追究できるようになる。
自己の地域と社会とのつながりを認識し、地 域の中で自己の生き方を考えて行動をできるよ うになることは,つまり多文化に対応できる資 質へとつながっていき,そして地域社会を築い ていく公民としての主体性を育てる社会科地域 学習へと,従来の取り組みを改善していくこと ができるのであるD
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