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発達障害のある人の「親当事者」団体による地域福祉活動の生成・展開過程に関する研究

―リーダー層の主体化に着目して―

通山 久仁子

指導教授 三本松 政之 教授

副指導教授 藤井 敦史 教授

副指導教授 西田 恵子 教授

(2)

2 目次

序章 発達障害のある人の社会的排除に対抗する「親当事者」の実践 ………4

1.排除型社会における発達障害の顕在化 4

2.発達障害のある人の現状 5

3. 発達障害のある人や家族の「居場所のなさ」―福祉コミュニティ形成に向けて 7

4.発達障害のある人の「親当事者」による地域福祉活動への着目 10

5.本研究の枠組みと論文構成 11

第 1 章 発達障害のある人の親の当事者性―先行研究の分析から ………19

1.発達障害のある人の障害特性と社会的生活困難 19

2.発達障害のある人の親の社会的生活困難―親の当事者性を論じる意義 20

3.発達障害のある人の親のジェンダー性 25

4.発達障害のある人の親とその団体 27

第 2 章 「親当事者」の全国組織による「クレイム申立て」運動と発達障害者支援施策の展開 …31

1.日本自閉症協会による発達障害者福祉施策制定に向けた運動 31

2.全国LD親の会による特別支援教育施策制定に向けた運動 34

3.発達障害者支援法成立にみる「親当事者」団体の役割 37

4.発達障害者福祉施策の展開と今後の課題 39

第 3 章 「親当事者」の実践と主体化―ある「親当事者」のライフヒストリーから ………45 1.「親当事者」の主体化過程―ライフヒストリー研究法から 45

2.「親当事者」のライフヒストリーにみる養育歴 46

3.「親当事者」のライフヒストリーにみる地域福祉活動の展開過程 51

4.地域福祉活動の実践主体としての「親当事者」 57

第 4 章 「親当事者」の全国組織にみる機能と課題―全国 LD 親の会を事例に ………60 1.全国LD親の会への着目―研究の方法 60

2.全国LD親の会の組織運営の方法と事業内容 61

3.全国 LD 親の会にみる全国組織としての機能の多面性―地域親の会への架橋と「親当事者」への 主体化促進 64

4.全国LD親の会の課題にみる全国組織の限界性 66

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3

第 5 章 「親当事者」団体による地域福祉活動の生成・展開過程―リーダーの主体化とその変容 …69 1.「親当事者」団体の活動の展開とリーダーの主体化過程―研究の方法 69

2.「親当事者」団体の概要―活動内容・リーダーの養育歴・展開過程を中心に 71 3.「親当事者」団体のリーダーにみる主体化とその変容 92

4.「親当事者」団体による地域福祉活動の生成・展開過程の類型化―セルフヘルプグループの発展過 程モデルの検討から 101

5.「親当事者」団体の組織運営の方針とその方法―福祉コミュニティ形成への志向性 109

第 6 章 「親当事者」団体の活動実態とその抱える課題

―発達障害者支援の NPO へのアンケート調査から ………112

1.発達障害者支援のNPOにみる「親当事者」団体の活動実態 112

2.「親当事者」が行うNPOの特質 120 3.「親当事者」が行うNPOの課題 122 4.「親当事者」団体の持続可能性 123

終章 「親当事者」発の協働から生まれる福祉コミュニティ………125

1.「親当事者」団体のリーダーにみる主体化の意義 125

2.「親当事者」による地域福祉活動の持続可能性とその継承 128 3.「親当事者」発の協働による福祉コミュニティ形成の意義 130

4.本研究の知見と課題 131

引用・参考文献等リスト 135 初出論文一覧 150

参考資料 151

(4)

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序章 発達障害のある人の社会的排除に対抗する「親当事者」の実践

1.排除型社会における発達障害の顕在化

わが国においていわゆる発達障害のある人に関心が高まり始めたのは、1990 年代以降、バブル経済 崩壊後のことである。この時期は、学級崩壊と少年犯罪の散発といった事態が社会問題として大きく取 り沙汰され始めた時期であり、特に「17歳の犯罪」と呼ばれた一連の凶悪犯罪が発達障害への注視をう むきっかけとなった1。これらの社会問題への注目と並行して、「知的障害を伴わない発達障害と軽症の 知的障害を従来の知的障害から分離する『まなざし』」が、社会の中に生まれた(高岡 2007b:20)。 そこには社会集団から逸脱してしまう人に対する社会の「まなざし」と、発達障害の顕在化とが密接な 関係にあるという視座が含まれている。

このような発達障害の顕在化の経緯について、社会学の領域では、これを「医療化(medicalization)」 という視点からとらえる研究がある。木村裕子(2015)によれば、発達障害の医療化とは、「不適応や 逸脱が『発達障害』というカテゴリーで説明され、支援されていくプロセス」(木村 2015:ⅰ)をさ す。木村は医療化のプロセスを、発達障害児者への支援を行っている実践家へのインタビューを通して 明らかにし、子どもの不適応や逸脱行動を発達障害として解釈し、支援していくことの問題性、すなわ ち診断によってそれらの原因は個人の障害(内側)にあるとみなされるため、児童の養育環境である家 庭や学校の問題が捨象されてしまう危険性について指摘している(木村 2015:204-205)

また星加良司(2008a)は障害学の視点から、発達障害の社会問題化について次のように分析してい る。発達障害の社会問題化は、「コミュニケーション・スキルや社会関係の構築の能力を労働者に要求 する、産業構造や労働市場の変化と深く結びついて」おり、「そうした能力を求めるようになった社会 そのものが、『発達障害』という新たな逸脱カテゴリーを生み出した」(星加 2008a23)。本田由紀(2005)

によれば、ポスト近代社会が人々に求める能力は、近代社会において求められた「メリトクラシー(業 績主義)」からさらに変容し、「生きる力」に象徴されるような、「意欲や独創性、対人能力やネットワ ーク形成力、問題解決能力などの、柔軟で個人の人格や情動の深い部分に根ざした諸能力」であるとし ている(本田 2005:ⅱ)。こうしたポスト近代社会が求める諸能力は、コミュニケーションや社会関 係構築の困難さを主障害とする発達障害のある人が最も獲得しづらい能力といえる。

さらに星加は、発達障害のある人は「教育」という初期段階での不利益を被りやすいことに加え、「コ ミュニケーションや社会関係の構築をめぐって困難を抱える」ことから、「いったん〔不利益を増幅さ せる社会的メカニズムに絡めとられると、その(筆者補足)〕絡めとられたメカニズムからリカバリー するためのさまざまな社会資源の利用自体に困難が伴」い、「心身機能にかかわる障害とはまったく関 係なく、自動的に作動する不利益増幅のメカニズム」の影響を受けやすい存在であると分析している(星 加 2008a:25-26)

障害の社会モデルが提起されて以降、障害については、個人に属するとされるインペアメント

impairmentの側面とともに、社会との相互作用から生まれるとされるディスアビリティ disability

側面が強調されてきた。発達障害をめぐる議論からも、発達障害が極めてディスアビリティの側面を強

1 アスペルガー症候群、もしくはそれに準じる精神鑑定結果が出た有名事件として、2000年には、「人 を殺してみたかった」と動機が語られた豊川市主婦殺人事件、西鉄バスジャック事件、岡山金属バッ ト母親殺人事件が起こり、いずれも犯人が17歳である犯罪が続いたことから、大きな社会問題とな った。その後も、長崎男児誘拐殺人事件(2003年)、佐世保小6女児同級生殺害事件(2004年)、エ リート医師一家殺人として騒がれた奈良自宅放火母子3人殺人事件(2006年)が起こっている(井 出 2014:12)

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5

くもつ障害であることが指摘できる。つまり発達障害は、ポスト近代社会という社会的背景のもとで顕 在化する不適応や逸脱行動に対する社会の排除のまなざしによって生まれた概念であるという側面を 有する。J.ヤング(1999=2007)は、近代社会からポスト近代社会への移行を、包摂型社会から排除型 社会への移行として描いた。ヤングによれば、ポスト近代社会とは経済的不安定と存在論的な不安定の 結びつきを背景として、〈逸脱する他者〉への不寛容を増幅させている社会である。発達障害の顕在化 は、そうした排除型社会を象徴する現象のひとつとしてもとらえられる。

ただしこのような排除型社会においては、「発達障害」の診断(ラベリング)それ自体は、発達障害 のある本人や家族にとって朗報となることがある。成人後にアスペルガー症候群を診断されたニキリン コは、「障害は先天性なのに診断は中途」(ニキ 2002:176)という特徴をもつ発達障害の診断につい て、「長年『何かおかしい』と思いながらその正体がわからなかった者にとっては、名前がつくことは 大きな救いになりうる」(ニキ 2002:196)と述べている。そして未診断者が「障害者」のラベルを求 める背景として、彼らには「『障害者』というレッテルなどなくとも、障害に起因する逸脱に対する社 会的制裁だけはすでに先取りして」きた歴史があり、したがってそのような人にとっての診断は「汚名 の返上」といえ、「新しい所属先、帰属意識の獲得であり、身の丈に合い、実感に沿った自己像を新た に形成するきっかけでもある」と述べている(ニキ 2002:202-203)。つまり排除型社会に生きる当事 者にとっての診断は、これまで自分自身に帰責されてきた問題の免責につながることがある。発達障害 は排除型社会が進行する過程で顕在化してきた障害であると同時に、そうした社会で生きづらさを抱え ている本人や家族にとっては、発達障害の顕在化が自己の排除の要因を特定することにつながり、自己 を免責できるメリットがあるという両価性をもつ。

これまでの議論から、発達障害のある人の課題を解決していくためには、排除型社会そのものへの対 抗という視座を含む実践が求められるといえる。前掲のヤングは、この排除型社会を克服するためには、

「新たな形態のコミュニティや、市場の気まぐれに左右されない雇用、新たな構造をもつ家族―これら をどう実現するかという問題こそ、もっとも率先して取り組まなければならない緊急の課題である」

(Young 1999=2007:81)と述べている。したがって発達障害のある人が排除の「メカニズムからリ カバリーする」(星加 2008a:26)ための福祉的支援とは、発達障害のある人が抱えるコミュニケーシ ョンや社会関係の構築の困難へのアプローチを含む支援であり、このような福祉的支援と関心を基点と する「新たな形態のコミュニティ」形成を志向するものである必要がある。

2.発達障害のある人の現状

ここでは発達障害のある人の現状について概観する。

2002 年に文部科学省が実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に 関する全国実態調査」において、「知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示す」

児童生徒の割合が6.3%であったとする調査結果が公表された2。この調査結果は、関係者のみならず一 般社会にも大きな衝撃を与え、発達障害児者支援施策の急速な整備につながった。

発達障害者については、身体障害者や知的障害者のように、発達障害者を対象とする独自の障害者手 帳制度が存在しないため、手帳所持者からその実数をとらえることはできないが、2017 年に厚生労働

2 ただしこの調査は担任教師の回答に基づくもので、医師などの専門家の判断によるものではなく、発 達障害のある児童生徒の割合を示すものではないことに注意する必要がある。すなわちここにも児童 生徒の不適応や逸脱行動を発達障害として解釈するまなざしが反映されている可能性がある。ちなみ に2012年に実施された同様の調査では、6.5%という調査結果であった。

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省によって実施された「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」の結果 によれば、「医師から発達障害と診断された者の数」は、481 千人と推計されており、診断された者の

数の76.5%が障害者手帳(内訳:療育手帳55.3%、精神障害者手帳22.5%、身体障害者手帳11.4%)

を所持していると示されている。総務省統計局によれば、2017 年時点での日本の総人口は 12,6706千人3であることから、総人口に占める診断を受けた発達障害者の割合は約0.38%となる。

米国精神医学会(APA)による『DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,

Fifth Edition)精神疾患の診断・統計マニュアル』(2013=2014)によれば、発達障害の障害種別毎の

有病率は、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害が人口の1%、注意欠如・多動症/注意欠如・

多動性障害が子どもの約5%、成人の約2.5%、限局性学習症/限局性学習障害が学齢期の子どもの5‐

15%、成人の約4%と示されている。診断基準にばらつきがあるため一概には比較できないものの、こ

の割合は先述した厚生労働省が示した数値を大きく上回っている。つまり未診断の発達障害者が多く存 在する可能性を指摘できる。ただし障害があることが必ずしも生活困難として直結しない場合もあるた め、統計上現れにくいことも推測される。

わが国における発達障害の発現率等の調査では、比較的規模の大きいものとして、2006 年度厚生労 働科学研究「軽度発達障害児の発見と対応システムおよびそのマニュアル開発に関する研究」(主任研 究者:小枝達也)がある。この調査では、学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能広 汎性発達障害(HFPDD)、軽度精神遅滞(MR)の軽度発達障害について、5 歳児健診時の発生頻度を 調査している。その結果、鳥取県の5歳児健診(1,015名)では、軽度発達障害児の出現頻度は9.3%、

栃木県の5歳児健診(1,056名)では、8.2%という結果が示され、こうした児の半数以上が、3歳児健 診では何ら発達上の問題を指摘されていなかったとしている。

また2010 年度厚生労働科学研究「1歳からの広汎性発達障害の出現とその発達的変化:地域ベース の横断的および縦断的研究」(主任研究者:神尾陽子)においては、広汎性発達障害(PDD)の有病率

0.9‐1.6%と推定され、広汎性発達障害(PDD)の特性を示す児は全母集団の約15%に存在すると示

唆されたと述べている。さらに2013年度厚生労働科学研究「就学前後の児童における発達障害の有病 率とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究」(主任研究者:神尾陽子)では、3年間の 縦断データの分析から、4‐5 歳児における自閉症スペクトラム障害(ASD)の有病率は、3.5%と見積 もられるとの結果を示している。

近年では、特別支援教育を希望する児童生徒が毎年約1万人増加していることや、医療機関、教育現 場における専門家の実感からも発達障害者の増加がいわれている。このような観点から日本発達障害福 祉連盟は、厚生労働省の2008年度障害者保健福祉推進事業障害者自立支援調査研究プロジェクトにお いて、「発達障害をもつ子どものトータルな医療・福祉・教育サービスの構築」研究事業を実施してい る。その医療方面調査委員会の報告によれば、「小児科及び精神科臨床の場で、地域でも専門外来でも、

最近5~10年で地域での支援や医療機関を受診する発達障害が増加して」おり、知的障害(MR)のな い発達障害の中でも特に広汎性発達障害(PDD)や、明らかな発達障害とはいえないがその要素のある 子どもの受診が増加したと報告している。

さらにこのような発達障害児増加の要因として、社会的な関心の高まりや認知のひろがり、診断精度 の向上などをあげている。また近年の子どもを取り巻く家庭環境を含む社会環境、自然環境などの発達 への影響、遺伝学の立場から環境要因の影響などもあげられているが、診断基準が確立していない現状

3 総務省統計局/人口推計(2017年10月現在)

https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2017np/index.html#a05k28-a(2018/11/04閲覧)参照。

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では真の増加を言及することはできないという限界にも触れている。そしてこれらの結果をふまえたう えで、「様々な支援を必要とする精神遅滞のない発達障害、あるいは明らかな発達障害とはいえないが その要素のある子どもの増加は確かであり、従来の障害概念での対応、すなわち特別な枠の中での教育 や福祉という対応では不適切になってきているという認識が必要。個々のニーズとともに社会的なニー ズをとらえて、教育や福祉の大幅な変革が望まれる」(日本発達障害福祉連盟 2009:7)と提言してい る。この報告が示している通り、発達障害者への支援を充実させていくためには、その母数の多さやボ ーダーラインの曖昧さゆえに、これまでの特別な枠組みにおける特別な配慮という限定的な障害者支援 のあり方や認識自体を転換していく必要性がある。すなわち発達障害者支援は、従来の障害種別に応じ た枠組みでの支援を超えて、個別のニーズにもとづく新たな障害者支援施策の構築を推し進める原動力 となり得る可能性を持つと考えられる。

3.発達障害のある人や家族の「居場所のなさ」―福祉コミュニティ形成に向けて

このような発達障害のある人が福祉的支援の対象として認識されるようになったのはごく近年のこ とである。長らく「制度の谷間」にあると言われてきた発達障害児者を支援する法的基盤は、2004 年 に成立した発達障害者支援法を契機に整備され始め、現在では障害福祉サービスを提供する障害者総合 支援法や児童福祉法においても、発達障害児者がその対象として位置づけられている。

201541日、全国の発達障害関係団体からなる日本発達障害ネットワーク(JDDネット)が発 達障害者支援法施行10周年を記念して開催したイベントでは、法施行後の変化として、「第1に教育や 医療分野等で発達障害者に関する制度が整ってきたこと。第2に関係者間のネットワークができたこと。

3に自閉症や発達障害という言葉が社会に広く行きわたったこと」の3点の成果をあげている。一方 JDDネット理事長である市川宏伸は、「『発達障害』という言葉自体を知る人は増えたが、内容への理解 は十分に深まっておらず、まだまだ偏見や誤解もある」と課題を指摘している(東京都社会福祉協議会

2015)。2012年に内閣府が実施した「障害者に関する世論調査」における「発達障害への理解」の項目

においても、「理解があると思う」とする者の割合は 33.6%(「理解があると思う」5.7%+「どちらか といえば理解があると思う」27.9%)にとどまり、「理解がないと思う」とする者の割合は59.9%(「ど ちらかといえば理解がないと思う」45.1%+「理解がないと思う」14.8%)となっている。

これらの指摘のように、発達障害児者を支援する制度については一定の進展がみられ、障害の認知度 も上がってきたものの、社会的理解については不十分な状況にある。そのような中にあって発達障害の ある人をめぐる諸問題は、福祉領域にとどまらず、教育、医療、労働、司法などの諸領域でも山積して いる。たとえば学校教育におけるいじめ、不登校、青少年・成人期における非行、ひきこもり、就労へ の不定着、犯罪の加害、被害などの諸問題である。これらの問題は、発達障害のある人と社会との接点 において様々な摩擦や葛藤が生じ、学校教育や労働をはじめとする社会参加の場から発達障害のある人 が排除されている現状を示している。

たとえば学校教育においては、特殊教育から特別支援教育へという変化の中で、法的にはどんな児童 も自分が望む場において個別のニーズにあわせた教育が保障されることになった。しかし特別支援学校 の生徒数は、急速に少子化が進展する現在にありながら増加の一途をたどっている。この増加は軽度の 障害の児童を中心とした増加であり、かつては通常学級で受け入れられていた層の特別支援学校への流 入とみることができる(鈴木 2010)。障害者権利条約が求めるインクルーシブ教育とは裏腹に、わが 国ではますます教育期における分離が進んでいる。

また山本智子(2016)は、発達障害のある当事者のナラティヴを聴くという実践から、社会との摩擦

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を誘引するような発達障害のある人にみられる様々な不適応行動の背景について考察している。山本に よれば、発達障害のある人には他者から否定され続ける経験の蓄積から形成されてきた「ネガティブ・

フィルター」なる認知の歪みがあり、その根底には彼らの「居場所がない」(山本 2016:140)という 思いがあると分析している。そしてその「居場所がない」彼らを受け止める場として機能するはずの福 祉的支援の場においてさえ、支援される側も支援する側も疲弊してしまうような人間関係の摩擦が生じ、

発達障害のある人の「居場所がない」状況を解消することが困難な現状があることを描いている。山本 は、次のような発達障害のある当事者のナラティヴを紹介している。

自分の考え方や、振る舞い、人との関係のもち方など、この社会ではたぶん受け入れられにくいの かもしれませんが、怒ったり嫌ったりせずに、それはそれで認めて一緒に生きていくことはできない のでしょうか。できない理由があるなら教えてください。(山本 2016:135)

障害者福祉制度や特別支援教育に発達障害児者への支援が位置づけられ、彼らを支援する法的基盤が 整備されつつある今日にあってなお、発達障害のある人の「居場所がない」状況がなかなか解消されな い現実がある。そしてこのような発達障害のある人をもつ家族もまた同様に、排除の現実を生きている。

前掲の本田(2005)によれば、「個々人の人格や感情、身体などと一体化した」「『ポスト近代型能力』

の形成にとっては家庭環境という要素が」重要となり(本田 2005:24)、それらの諸能力を「身につ ける場として家庭を、その責任を担うものとして親をあげる」としている(本田 2005:72)。長崎市 の男児誘拐殺人事件に際しては、当時の防災担当相が「(加害者の)親なんか市中引き回しの上、打ち 首にすればいい」と発言した。この発言に示されるように、発達障害のある子どもをもつ親の苦悩のひ とつに、子どもの問題が親のしつけの問題として非難のまなざしにさらされるということがある。激し い多動の子どもをもつ親である上原かおり(2014)は、幼児期の苦難の日々をふり返り、次のように記 している。

いつも泣き叫び暴れる長男を必死になだめている私。そして、周囲の無遠慮な視線。何で私だけ、

というイライラが限界に達したとき「殺してしまおうかな」と何度考えたことか。【中略】主人から 携帯にメールが届き「時々、殺してしまいそうになる自分がいて、せつなくなる。ずっとこの状態な ら、将来を悲観して殺してしまうかもしれないと、一年に何度も考えて落ち込む」といった内容でし た。(上原 2014:98)

また上原はその苦悩を親だけではなく、きょうだいも同様に抱えることを記している。

地元小学校への入学も決まったある日、公園で遊んでいた姉が近所の子に「弟を連れてくるな。病 気がうつる」となじられ砂を掛けられ、泣いて帰ることがありました。姉は「弟のせいで、こんな辛 い目にあった。同じ学校に来てほしくない」と言い出したのです。(上原 2014:99)

排除型社会においては、障害のある本人のみならず、その家族へも排除の視線が向けられることが、

上原の述懐よりみてとれる。発達障害のある人の「一緒に生きていくことはできないのでしょうか」と いう切実な問いや、親の子どもを「殺してしまいそうになる」といった悲痛な訴えに応答していくため には、彼らのもつ多様性を理解し、彼らの「居場所」となりうるような場を、彼らが生きる場において

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築いていく取組み、すなわち彼らを包摂できるようなコミュニティを創造していく取組みが必要である。

そしてこのようなコミュニティをつくる過程においては、次のような当事者研究からの指摘が重要で ある。熊谷晋一郎・綾屋紗月(2014)は、発達障害のある人の障害特性とされている「社会的コミュニ ケーションの障害」という概念自体への疑義を提起している。つまり「社会性の障害」は「disability

impairment へとすり替える」マジックワードであるとし、「一般に、社会と個人のミスマッチによ

って『障害(disability)』は生じるが」、「『社会性の障害』という言葉で個人的な特性が記述されること で、ミスマッチの原因を個人の側へ過剰に帰責されてしまう現状がある」と述べている。そして「個人 と社会双方の『変えられる部分・変えられない部分』4についての認識を踏まえた、一方にのみ無理を強 いすぎない歩み寄り」が必要であると述べている(熊谷・綾屋 2014:8)

前節において、筆者は発達障害のある人への福祉的支援は、発達障害のある人とのコミュニケーショ ンや社会関係の構築をベースとした支援である必要性を指摘した。その社会関係の構築の際に問われる のは、発達障害のある人にのみ求められる適応ではなく、彼らをとりまく人々のあり方であり、双方の

「歩み寄り」である。したがって彼らを支援する者には、社会認識や価値観の変容をともなう自己のあ り様の変革も求められる。そして発達障害のある人の課題の解決のためには、まずは彼らの生活圏域に おいて適切な人間関係・社会関係を取り結ぶことをベースとして、個別のニーズに応じた支援を提供し、

そのことを通して、有効な支援プログラムを開発したり、具体的な支援方法を確立したりしていく取組 みが必要である。これらの取組みにより彼らの居場所となりうる福祉コミュニティを形成し、それが広 がっていくことこそが、発達障害のある人を含めた多様性を包摂しうる福祉社会の創造へとつながって いくと考える。

ここで、本研究で述べる「福祉コミュニティ」の概念について整理をしておく。岡村重夫(1974)に よれば、「福祉コミュニティ」は日常生活上の困難をもつ当事者を中核として、彼らと同じ立場に立つ 代弁者や支援機関・団体との共通の福祉関心を中心として形成される特別なコミュニティをいう(岡村

1974:69-70)。そして岡村は「福祉コミュニティ」について次のように述べている。

「福祉コミュニティ」は、公共機関が実施しない福祉サービスを一時的にこれに代わって実施する。

したがって、社会生活上の不利条件をもつ者が、地域社会において少数者であるために無視されるよ うな社会的状況においては、自分の生活を守るために団結し、かれらの利益を代弁する者と協力して、

生活者としての自己を貫徹するための機構として、この「福祉コミュニティ」は不可欠のものでなけ ればならない。一般的な地域コミュニティが成立していないような地域社会状況においてこそ、この ような「福祉コミュニティ」は必要である(岡村 1974:71)

発達障害のある人やその家族は、排除型社会に生き、かつ制度的な福祉の枠組みで解決することが難 しい生活困難を抱えている。であるからこそ、これらの問題に直面する者は当事者として団結し、他者 と協働することで「福祉コミュニティ」を形成し、排除型社会に対抗する実践を自ら担っていく必要が ある。本研究ではこうした「福祉コミュニティ」の観点から提起される新たな福祉的支援のあり方や、

福祉コミュニティの成員によって共有される価値認識のあり様が、岡村のいうコミュニティ成員におけ る「地域主体的態度」や「普遍的権利意識」(岡村 1974:65-66)を培う重要なファクターとなり、そ れが波及していくことが福祉社会の形成につながると考えている。

4 加えて熊谷・綾屋は、この「変えられる/変えられない」の境界線は、「引責/免責の境界線でもある」

と指摘している(熊谷・綾屋 2014:9)

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4.発達障害のある人の「親当事者」が行う地域福祉活動への着目

発達障害者支援法においては「地域での生活支援」の条項が設けられ、「市町村は、発達障害者が、

その希望に応じて、地域において自立した生活を営むことができるようにするため」(法第11条)に必 要な支援を講じなければならないとされている。発達障害のある人への「地域での生活支援」が行われ ていくためには、まずどのような主体がその生活支援を担っていくのかが課題となる。

辻井正次・川上ちひろ(2010)は、発達障害児者支援は「発達障害に関連する国の担当部局が部局だ けではなく、省までもまたぐため、行政側の制度設計だけではうまくいかない部分」があると述べてい る(辻井・川上 2010:221)。そのためこれまで発達障害のある人の発達支援や居場所づくり、家族支 援を地域において行ってきた当事者団体を、行政側の政策や施策の実行のための受け皿、地域の社会資 源として位置づけていく必要性について指摘している。

本研究では、この当事者団体の中でも特に発達障害のある人の親の団体に着目する。なぜなら発達障 害のある人の親は、発達障害にかかわる公的支援が整備される以前より、親の会の活動などを通して、

本人や家族の個別のニーズに応じた支援活動を行ったり、法制度の成立のために要請運動などを展開し たりして、ミクロ、メゾ、マクロレベルでの新たな発達障害児者支援を創り出してきた主体であるため である。こうした発達障害のある人の親による各地域における実践事例をみてみると、そこには単なる 行政側の政策や施策の受け皿としてのみ機能するのではない、新たな支援の仕組みの創出や、既存の枠 組みの組み替え、またそれらを通した新たな価値観やそれを共有した福祉コミュニティ形成のプロセス が見出せる。

本研究は、こうした発達障害のある人の親の、福祉を推進する主体としての側面に着目する研究であ り、このような親の側面をとらえて「親当事者」と表す。ここでいう「当事者」とは、中西正司・上野 千鶴子(2003)の『当事者主権』において定義づけられた「当事者」をさす。すなわち中西・上野のい う「当事者とは、『問題をかかえた人々』と同義ではない。〔中略〕私の現在の状態を、こうあってほし い状態に対する不足ととらえて、そうではない新しい現実をつくりだそうとする構想力を持ったときに、

はじめて自分のニーズとは何かがわかり、人は当事者となる」(中西・上野 2003:2-3)。つまり発達 障害のある人の親は、障害当事者を家族員に持つことを通して経験される社会的生活困難を契機に、自 らのニーズを認識し、それを社会的に顕在化させ、社会を変革する主体となり得る障害のある人の親で あり、新しい現実としての福祉実践の担い手・創り手となり得る主体である。

ただし、誰を「当事者」と呼ぶのかについては議論がある。上野千鶴子(2011)のその後の論考では、

「当事者とは一次的ニーズの帰属する主体である」と限定されている。しかし中根成寿(2010)は、障 害学の議論をふまえ、親の当事者性について次のように説明している。障害学では、インペアメント=

障害ではなく、特定の身体を特定の不利益に変換する仕組み=ディスアビリティが存在するのであり、

これらを切り離してとらえることができるとする。つまり「親はディスアビリティ経験を有するという 意味で、ディスアビリティ経験の当事者としてポジションを引き受けることができる」(中根 2010:108)。 本研究では、親の当事者性に関して、中根と同様の立場をとる。つまり障害当事者とは異なる社会的生 活困難を経験し、それを契機に自らのニーズを顕在化させ、社会を変革する主体となり得るという点で、

上野の「当事者」の定義に含まれている「(1)ニーズの帰属先であることと、(2)それに対する主体化 の契機」(上野 2011:97)の2点を充たすことから、障害のある人の親を障害当事者とは異なる「親 当事者」と定義する。

障害のある人の親であり、地域づくりの活動を行ってきた「親当事者」である日置真世は、活動のき っかけは障害のある子どもの親という地点から出発しているものの、自身の立場は「地域の一住民」で

(11)

11

あり、「地域に暮らす一人の市民として、どう生きたいか、どんな社会にしたいのかを考える主体にな りたかっただけなのです。社会を構成する一人として、何を感じ、どう生きるのかをよくよく考えたか ったのです」(日置 2009:286)と述べている。穂坂光彦・平野隆之・朴兪美・吉村輝彦編(2013)

によれば、「福祉社会」とは、「一人ひとりが、自ら責任を担って社会参加する行為主体(エイジェント)

として成立し、共同的な生活能力を開花させ、市場や政府を利用し変容させながら自他の福祉を向上さ せることができるような」地域社会をいう(穂坂・平野・朴ほか編 2013:291)。そして平野隆之・日 置真世・髙橋信也(2013)は、「これからの地域社会はさまざまな課題を抱え、それを多様な人たちが 主体的に関わりながら、解決することが求められている。そのためには、新しい理念を解決主体となる 多様な人たちで共有しながらも、一人ひとりもまた自分らしい理念を確かに持ち、実行主体にもならな くてはならない」と述べている(平野・日置・髙橋 2013:225)

本研究が、研究対象を発達障害のある人の「親当事者」団体による地域福祉活動とする意図は、単に 親たちが制度的支援に先駆けて発達障害児者支援を始めたというだけではなく、日置が述べたような障 害のある子どもの出生をきっかけとしながらも、地域福祉活動を担っていくことを通して、そこに「社 会を構成する一人として、何を感じ、どう生きるか」を考えるといった自己の変容、つまり自身の生き 方や価値観の変更の契機を含んでいることに注目するためである。私たち一人ひとりが自らの生きる場 において、そこで生じている課題に対する主体となっていくことが求められている現在において、障害 のある人の親という地域課題や社会問題に気づきやすい立場性にあった、私たちの一歩先を歩む「親当 事者」の姿から、私たち一人ひとりが地域における主体として生きていくことの意義を本研究では提示 していきたい。

なお本研究における「地域福祉活動」とは、『現代社会福祉辞典』で定義されている「人々の生活問 題・福祉課題などを解決したり、向上させたりする、住民が主体となった地域社会における実践活動の 総体」(秋元・大島・芝野ほか編 2003:317)を指すこととする。すなわちここでいう「地域福祉活動」

とは、「親当事者」がすでに各地域において展開している多様な実践をとらえるための概念であり、い わゆる親の会で行われているピアサポート等に加え、そこから展開する障害福祉サービスの提供や、居 場所づくりの活動などのミクロレベルの個別支援をベースとして、メゾレベルのネットワーク形成へと 展開する活動、そしてマクロレベルの制度・政策へと働きかける運動などを含めた、フォーマル・イン フォーマルな多様な活動としてとらえる。

平野隆之(2013)は福祉社会開発について検討し、地域福祉活動を、制度による福祉サービスと、地 域全体の支援といった地域づくりの間に存在するものとしてとらえ、地域福祉活動はその両者を「結び つける融合の基盤となり得る」と述べている(平野 2013:101-102)。このことを示すように、先述し た「親当事者」である日置が所属するNPO法人「地域生活支援ネットワークサロン」が行ってきた地 域福祉活動は、「①さまざまな要望が持ち込まれる『たまり場』づくりの実践を契機とし、②関心をも つ関係機関をその解決に巻き込み、③社会的居場所づくりなどの『実験的な事業』に取り組み、④それ らの事業の制度(普遍)化にむけての調査や行政への働きかけを行う」というように展開してきた(平 野・日置・髙橋 2013:199)。こうした「親当事者」の実践にみられるような制度化に接続する可能性 を含めた多様な実践を、本研究では「地域福祉活動」としてとらえることとする。

5.本研究の枠組みと論文構成

ここではまず本研究が対象とする「発達障害」について、その範囲を確認しておく。発達障害の定義 は、発達障害者支援法の制定以降も錯綜しているが、本研究では発達障害の範囲について、発達障害者

(12)

12 支援法に規定されている定義を用いる。

日本発達障害連盟編5(2015)によれば、発達障害(Developmental Disabilities)という用語は、1963 年にアメリカの法律用語として誕生し、わが国には1970年代初頭に紹介された。以来、知的障害(精 神遅滞)をモデルにその概念が形成されてきた歴史的経緯があり、学術的には発達障害を「知的障害を 含む包括的な障害概念」として広範にとらえる定義6が、一定のコンセンサスを得ている。したがって発 達障害者支援法に定められる発達障害の定義は、「歴史的かつ包括的な発達障害概念の一部」にすぎず、

「自閉症とその近縁の発達障害にいわゆる軽度発達障害を加えた『発達障害の範囲』」とみなされる(日 本発達障害連盟編 2015:ⅺ)

「軽度発達障害」とは、知能が平均もしくは平均以上であることを指す日本独自の用語である。1990 年代に入ってから、従来の特殊教育(現 特別支援教育)ではカバーしきれない学習障害を中心とした 軽度障害への関心が教育分野において急速に高まり始める中で、LD、ADHD、アスペルガー症候群等 を「軽度発達障害」と総称して、その対応が図られてきたという経緯がある。そしてこの「軽度発達障 害」の範囲と、発達障害者支援法による発達障害の定義は重なり合っているとみなすことができる(図 序-1)。

これらをふまえた上で、本研究においては、発達障害者支援法において行政政策上定められた発達障 害の範囲を研究の対象と定める。なぜなら、身体・知的・精神の三障害を中心とした旧来の障害者福祉 施策において支援の対象外であった障害を、この発達障害が総称するかたちで新たに法的に位置づけた ことの意義を重視するためである。ここには、これまで障害種別による縦割りの施策の中で「制度の谷 間」に陥っていた層を包含し、支援対象とすることを優先する法の理念がうかがえる。すなわち今後障 害種別によるのではない、個別のニーズに基づく支援施策を構築していく際に、この発達障害の動向は 注目に値すると考えられるからである。

以下が発達障害者支援法で規定されている発達障害の定義である。

発達障害者支援法(定義)

2 条 この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障 害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年 齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

2 項 この法律において「発達障害者」とは、発達障害を有するために日常生活又は社会生活に 制限を受ける者をいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。

さらに「政令で定めるもの」については、発達障害者支援法施行令において、以下のように定められ ている。

5 日本発達障害連盟は、全国手をつなぐ育成会連合会、日本知的障害者福祉協会、全日本特別支援教育 研究連盟、日本発達障害学会などの全国組織を中心として構成されている連盟である。なお2013年 に日本発達障害福祉連盟から日本発達障害連盟に改称している。

6 具体的には「知的(発達)障害、脳性麻痺などの生得的な運動発達障害(身体障害)、自閉症、アス ペルガー症候群を含む広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害(多動性障害)およびその関連障害、学 習障害、発達性協調運動障害、発達性言語障害、てんかんなどを主体とし、視覚障害、聴覚障害及び 種々の健康障害(慢性疾患)の発達期に生じる諸問題の一部」も含むとされており、その対象は非常 に広範に渡っている(日本発達障害連盟編 2015)

(13)

13 発達障害者支援法施行令(発達障害の定義)

1条 発達障害者支援法第2条第1項 の政令で定める障害は、脳機能の障害であってその症状が 通常低年齢において発現するもののうち、言語の障害、協調運動の障害その他厚生労働省令で定め る障害とする。

さらに「その他厚生労働省令で定める障害」としては、発達障害者支援法施行規則において、以下の ように定められている。

発達障害者支援法施行規則

発達障害者支援法施行令第1条の厚生労働省令で定める障害は、心理的発達の障害並びに行動及び 情緒の障害(自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、

言語の障害及び協調運動の障害を除く。)とする。7

なお、この定義の「自閉症」には知的障害のある人も含まれていること、また学習障害へ関心が高ま り始めた当初は、従来の特殊教育や障害者福祉ではカバーしきれない「軽度発達障害」の層に、知的に ボーダー、もしくは軽度の層も含まれていたことをふまえ、本研究ではこれらも研究対象の範疇に含め ることとする。

7 これらの規定により想定される、法の対象となる障害は、脳機能の障害であってその症状が通常低年 齢において発現するもののうち、ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)における「心理的 発達の障害(F80-F89)」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害

(F90-F98)」に含まれる障害である(平成1741日付け17文科初第16号厚生労働省発障第

0401008号文部科学事務次官・厚生労働事務次官通知)。WHOICD-10における「心理的発達の障

害」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害」については表序-1のとお りである。

表序-1 ICD-10における「心理的発達の障害」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する 行動及び情緒の障害」

F80-F89 心理的発達の障害

F80 会話及び言語の特異的発達障害 F81 学習能力の特異的発達障害 F82 運動機能の特異的発達障害 F83 混合性特異的発達障害 F84 広汎性発達障害

F88 その他の心理的発達障害 F89 詳細不明の心理的発達障害

F90-F98 小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害 F90 多動性障害

F91 行為障害

F92 行為及び情緒の混合性障害

F93 小児<児童>期に特異的に発症する情緒障害

F94 小児<児童>期及び青年期に特異的に発症する社会的機能の障害 F95 チック障害

F98 小児<児童>期及び青年期に通常発症するその他の行動及び情緒の障害 *ICD-10より筆者が表を作成

(14)

14 図序-1 発達障害の範囲

以上をふまえたうえで、本研究の課題として以下の5点を設定する。まず①発達障害のある人の親の 社会的生活困難と生活支援ニーズ(=生活課題)について提示する。その上で②発達障害のある人の「親 当事者」団体の組織化と地域福祉活動の生成・展開過程の特質を明らかにし、③その活動内容の地域福 祉における意義を明らかにする。さらに④発達障害のある人の親が「親当事者」性を獲得していく過程、

すなわち主体化されていく過程について分析し、発達障害のある人の親における「親当事者」への主体 化の意義を明らかにする。そしてこれらの分析を通じて、⑤「親当事者」による地域福祉活動の意義と それらの活動の持続可能性にかかわる要素について検討し、当事者性を基盤とした地域福祉実践により 形成されていく公共性(=「地域的公共性」(田中重好 2010))、およびこれらの地域福祉活動から形 成されていく福祉コミュニティへの展望について論じることを目的とする(図序-2)。

図序-2 本研究の課題

そして、これらの課題を明らかにするための研究方法として、下記の第1次から第4次までの質的、

量的調査を行った。

発達障害のある人の親の社会的生活困難と生活支援ニーズ(=生活課 題)について提示する。

課題1

•文献研究

発達障害のある人の「親当事者」団体の組織化と地域福祉活動の生 成・展開過程の特質を明らかにする。

課題2

•調査研究〔第1次調査・第2次調査・第3次調査・第4次調査〕

「親当事者」による実践活動の地域福祉における意義を明らかにする。

課題3

•調査研究〔第1次調査・第4次調査〕

発達障害のある人の親が「親当事者」へと主体化されていく過程につ いて分析し、親における主体化の意義を明らかにする。

課題4

•調査研究〔第1次調査・第4次調査〕

「親当事者」による地域福祉活動の展開過程において形成されていく 地域的公共性、および福祉コミュニティへの展望を示す。

課題5

広汎性発達障害 自閉症 アスペルガー症候群

注意欠陥多動性障害 ADHD 学習障害

LD 知的障害

発達障害(学術的)

発達障害者支援法

=軽度発達障害

(本研究の対象)

(15)

15

1次調査 【質的調査】(2012年):「立教大学学術推進特別重点資金(立教 SFR)大学院生研究」

先駆的な実践を行っている「親当事者」が設立した福祉NPO5団体へのパイロット調査(調 査対象者の子どもの属性を、発達障害を含む障害全般に拡大して実施)。リーダーへのインタビュ ー調査を行い、団体の生成・展開過程と活動内容の特質、親の主体化の過程について仮説を検討し た。

2次調査 【量的調査】(2014年):「西南女学院大学保健福祉学部付属研究所研究資金」

内閣府の NPO団体検索において、目的に「発達障害」のキーワードを含む、249団体を対象に アンケート調査を実施。76 の回答団体(回収率 35.5%:249 団体中、調査段階で判明した支援実 態・活動実態のない35団体を除いた214団体を母数とする)より発達障害児者支援のNPOの傾 向を把握。その中における「親当事者」団体の位置づけと、特徴を分析した。

3次調査 【量的調査】(2015年):科研費「若手研究(B)」

2次調査で抽出した「親当事者」を主体に含む43団体を対象にアンケート調査を実施。17の 回答団体(回収率39.5%)の回答をもとに、団体の展開過程、運営体制・方針について分析した。

4次調査 【質的調査】(2015年):科研費「若手研究(B)」

3次調査の回答団体の中から、インタビュー調査の了承を得られた10団体へ、インタビュー 調査を実施。団体の生成・展開過程と活動内容の特質、「親当事者」への主体化過程、活動の持続 可能性の要因・背景を分析した。

加えてこれらの地域レベルの活動との比較、および発達障害に関わる親の会の歴史的経緯を分析 するため、発達障害のある人の「親当事者」の全国組織である全国 LD 親の会の現在のリーダー、

および設立期のリーダーへのインタビュー調査を実施した。

なお、第 1~4次調査を実施するにあたっては、西南女学院大学倫理審査委員会の承認を得た。アン ケート調査については、調査票郵送時に同意書を同封し、調査票とともに回収して調査協力への同意を 得た。またインタビュー調査については、研究協力の自由や、個人情報の保護等について文書と口頭に よる説明を行い、書面での同意を得た。そして報告書や論文としてまとまった時点でインタビュー対象 者へ確認を依頼し、内容について了承を得た。なお本論中では、イニシャル表記を用いたり、活動名等 を一部仮称にしたりするなど、個人の特定を避ける手続きを行っている。

以上をふまえ、本研究の全体の枠組みを次のように設定する(図序-3)。本研究は親の主体化によって 生まれる「親当事者」団体の地域福祉活動を対象とし、「親当事者」への主体化過程と地域福祉活動の 生成・展開過程を分析する。この「親当事者」団体はときに全国組織へと展開し、発達障害児者・家族 の課題が社会化されることによって施策化という展開を生む。また地域でこれらの課題が共有化され、

他者との協働が生みだされることによって福祉コミュニティが形成される。これらの各要素は相互に影 響を与え合う要素として考えられる。すなわち施策化は地域福祉活動の展開へ影響を与え、また福祉コ ミュニティ形成は新たな課題に対応する地域福祉活動を生む。そして地域福祉活動の生成・展開過程や 社会における課題の共有化といった発達障害児者・家族をとりまく社会の変化は、親の自己変革をもた らす要素となりうることが考えられる。こうして「親当事者」団体の実践・運動を媒介として、発達障 害児者・家族のニーズが社会的に共有化され、発達障害児者・家族の支援システムが構築される。本研 究はこれらの過程を明らかにしていく研究である。

なお、本論は以下のような構成をとる(図序-4)。

(16)

16

序章では、まず発達障害のある人や家族をめぐる社会的排除に対抗する主体としての「親当事者」を 定義したうえで、彼らによる地域福祉活動へ着目する意義について提示する。次に第1章では、先行研 究から、発達障害のある人の障害特性とそれに起因した親の社会的生活困難について分析し、親の当事 者性を論じる意義について提示する。第 2 章では、「親当事者」団体による運動との関わりから発達障 害者支援施策の展開について分析し、その課題について提示する。

3章から第5章は質的調査を通して、「親当事者」への主体化過程と、地域福祉活動の生成・展開 過程を分析していく。第3章では「親当事者」である一人の母親のライフヒストリーを分析する。そし て第4章では「親当事者」団体の全国組織を取り上げ、その機能と課題について明らかにする。第5章 では、各地域における「親当事者」団体を対象に分析を行い、地域福祉活動の生成・展開過程と、「親 当事者」の主体化過程のモデルを提示する。

6章では、量的調査を通して、各地域の「親当事者」団体の活動実態とその特質、課題について分 析する。以上を通して、終章では、親が「親当事者」として主体化される意義、さらに「親当事者」に よる地域福祉活動における福祉コミュニティ形成の意義を論じる。

(17)

17 図序-3 本研究の枠組み

「 親当 事者

」へ の主 体化

「親 当事 者」 発の 協働 の展 開

分析 の位 相

自己の喪失 当事者コミュニティ 福祉コミュニティ 自己の回復

発 達 障 害 児

・ 者 家 族 の 社 会 的 生 活 困 難

地 域 福 祉 活 動 の 生 成

・ 展 開

( ミ ッシ ョ ン 組 織 運 営 持 続 可 能 性

課 題の 社 会化

・ 共有 化 施策 化

福 祉 コ ミ ュ ニ テ ィ 形 成

「 親 当 事 者

」 と し て の 実 践

全 国 組 織 へ の 展 開

【課題④】

【課題②・③】

【課題①】 【課題⑤】

発達障害児者・

家族のニーズ 「親当事者」団体の実践・運動

発達障害児者・

家族への 支援システム

(18)

18 図序-4 論文構成

序章

「親当事者」という視点の提示 研究枠組みの提示

第 1 章

発達障害児者・家族への社会的排除 生活支援ニーズの提示

第 2 章

「親当事者」団体の運動と発達障害者支援施策 の展開とを分析し、今後の課題を提示

第 3 章

「親当事者」の主体化過程と地域福祉活動の 生成・展開過程をライフヒストリーとして提示

第 4 章

「親当事者」団体の全国組織の 機能と課題を分析

第 5 章

「親当事者」の主体化過程と 地域福祉活動の生成・展開過程のモデル化

終章

「親当事者」の 主体化の意義と

「親当事者」の 地域福祉活動

による 福祉コミュニティ形成

の意義の検討

発達障害児者・家族への社会的排除 課題解決のための実践 発達障害児者・家族の社会的包摂へ (発達障害児者・家族のニーズ) (「親当事者」団体の実践・運動) (発達障害児者・家族への支援システム)

第 6 章

各地域の「親当事者」団体の実態把握と 特質および課題の分析

(19)

19

1章 発達障害のある人の親の当事者性―先行研究の分析から

1.発達障害のある人の障害特性と社会的生活困難

序章で述べたように、発達障害の特徴のひとつとしては、母数の多さを指摘できる。市川宏伸(2014)

は、発達障害の特徴として、①その数の多さ、②外見からの課題の分かりにくさ、③発達障害の存在の 境界は明確ではないこと、④外見上は課題が改善したように見えることもあること、⑤家族的背景を持 つことがあること、⑥いくつかの発達障害が同時に存在していることは珍しくないことという6点をあ げ、これらは「個性と疾患のいずれにもあてはまらない特性」であると述べている(市川 20146-9)。 市川が②や③で指摘するように、発達障害のある人とそうでない人との境界は曖昧であり、障害として の見えにくさ、認識のされづらさが特徴的である。またそのことが①の母数のひろがりとも関連してい る。

渡辺隆(2004b)は、ADHDを取り上げ、その障害の特徴について1) invisibleな障害としてのADHD

と、2) familiarな障害特性を示すADHD2点から分析している。1) の特性としては、①障害の存在

が周囲からわかりにくい、②障害の診断基準が明確ではなく、検査で明確に診断できるとは限らない、

③障害特性の個人差や状態の幅が大きく、診断だけでは障害の特性が理解できない、④異なる発達段階 において障害の特性の変化が大きい、⑤診断名で予後が予測できるとは限らない、⑥障害の内容が一般 に正しく理解されてはいないという6点をあげている。さらに2)の特性としては、「基本的症状や特性 自体は一般に、親にとってごく普通の子どもの日常的な行動と感じられる馴染みがある(familiar)、理 解しやすい(understandable)特性」であり、同時に「親自身や近親者にAD/HDやそれに類似する特 性を持つ人が多い」という点をあげている。また「環境によっては、特異的能力など適応的な属性を持 つこともある」ことを指摘している(渡辺 2004b:235-236)

渡辺が指摘するように、環境によっては適応的な場合があるということも、発達障害の見えづらさの 特徴である。後述するが、発達障害の存在が顕在化するのは、多くは環境との摩擦が生じた場合である。

つまり適応的な環境においては発達障害自体の特徴が大きな問題となることは少ない。こうした特性は、

周囲の人はもちろん、最も身近である親にとってさえ理解し難く、診断の遅れといった課題や、診断に 結びついたとしても、その特性を理解しにくいといった課題につながっている。発達障害は他の障害同 様に、彼らを取り巻く環境要因に左右される部分が大きく、環境によってその困難が増幅、軽減された り、除去されたりという影響が大きい、あるいはそうした環境への脆弱さが特徴的である。

田中千穂子(2005)は発達障害を理解する上での留意点の1つとして、「関係性の障害」という点を あげ、「自分の『ある部分(傾向)』が、人と関わることによって顕在化する」という特性を指摘してい る。私たちは自分を取り巻く環境と多様な関係を持ちながら生きており、生活のために必要な多くの要 求や欲求を、関係を通して満たしている。したがってこうした「関係性の障害」があるということは、

生活全般の危機にもつながり得る。そして田中は「そこ〔人との関係性(筆者補足)〕に何かしらの調 整や工夫が必要になる」と述べている(田中 20054)。つまり彼らが社会生活を営んでいくためには、

彼らの個性とも障害ともつかない一般には理解しがたい障害を、彼らに関わる周囲の人々に伝え、関係 調整を図る人の存在が不可欠であるといえる。

また発達障害のある人については、「二次障害」の存在が特徴的である。齊藤万比古(2009a)によれ ば、発達障害本来の症状や特徴を一次障害、「外傷的な成育環境(児童虐待など)やライフイベント(転 居・転校や学校でのいじめなど)との相互作用を通じて獲得」される症状のうち、「精神障害の診断に あてはまるもののこと」を二次障害という。齊藤はこの二次障害としての精神障害を、「外在化障害」

参照

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以上のように、上述の勉強会から法成立までの間にも発達障害をめぐる様々な締りがみられた。で

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独独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が作成した「精神障害者や発達障害者のある方

2011 年 8 月にスポーツ基本法が施行された。この法律で

27 はじめに 2005年より「大学及び高等専 門学校は,発達障害者の障害の状 態に応じ,適切な教育上の配慮を するものとする」と明記された発 達障害者支援法が施行されて以 降,全国の大学において,発達障 害学生支援のニーズが急速に高ま っている。さらに2011年8月に 「障害者基本法」が改正され,障 害者の定義に発達障害が明記され たことから,発達障害の社会的認

発達障害者支援法(平成17年4月1日施行)において、

ある。

2 講演会資料より抜粋 改正障害者基本法において規定された意思決定支援 改正障害者基本法で注目したいもう1つの規定