不当条項規制と契約解消後の清算
著者 谷本 圭子
雑誌名 同志社法學
巻 60
号 7
ページ 251‑292
発行年 2009‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011641
不当条項規制と契約解消後の清算二五一同志社法学 六〇巻七号
不当条項規制と契約解消後の清算
谷 本 圭 子
(三二六九)
目 次はじめにⅠ
におりわ 範解規Ⅲ契約消後の清算 還納金不返性特約の法的質る学わゆⅡい ﹁準の供された特定継続的役務対基価提担当する額﹂の算定に
はじめに
契約解消に関わり契約当事者の一方により他方に対して過大な負担が課されることを防止するため、不当な契約条項
不当条項規制と契約解消後の清算二五二同志社法学 六〇巻七号
の効力を制限する規定が、消費者契約法、特定商取引法、ならびに割賦販売法には存在している。そのような規定の解
釈に関わって、近年注目すべき最高裁判決が相次いで出されている。一つは、いわゆる大学学納金不返還条項の有効性に関わる判決 (
務算途解約権行使後の清にる際しての、提供済み役中れ特さり、もう一つは、定で商取引法により認容あ 1)
の対価計算条項の有効性に関わる判決 (
あでる。 2)
これら二つの問題は別個に論じられてきたが、﹁契約解消に関わり契約当事者の一方により他方に対して過大な負担 が課されることを防止するため、不当な契約条項の効力を制限する規定﹂の解釈問題という点で、加えて事実として、﹁長期間の役務提供を中心とする契約であり、かつその対価が既に支払われている (
が性とこす出見を通共で点ういと﹂ 3)
できる。言い換えれば、﹁役務提供を中心とする契約解消後の清算にかかわる契約条項の効力が制限されている場合に、契約上の給付義務が何らかの形で既に履行されていた場合の清算関係につきどのように解すべきか﹂が問題となってい
る点で共通しているといえよう (
。 4)
このような共通性が見出される問題に直面して、適用が問題とされる法律規定は異なるのであるが、﹁適用される規
範を統一する必要はないのであろうか﹂あるいは﹁法解釈に何らかの整理を行う必要はないのであろうか﹂という疑問が浮かび上がってきた。
以上の視点から、本稿においてはこの二つの問題を検討することにより、役務提供を中心とする契約が解消された後の清算関係について、不当条項規制がどのように関わってくるのか、考察したい。
(三二七〇)
不当条項規制と契約解消後の清算二五三同志社法学 六〇巻七号 Ⅰ
「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」の算定基準 まず、特定商取引法により認容される中途解約権行使後の清算に際しての﹁提供済み役務の対価計算条項﹂の有効性に関して検討していく。裁判例及び学説においては、特定継続的役務提供契約(英会話学校との受講契約)の中途解約
に関わって、主として﹁特定商取引法四九条二項一号イに定める﹃提供された特定継続的役務の対価に相当する額﹄は何を基準として算定されるべきか﹂﹁算定基準についての特約は特定商取引法四九条七項により無効か﹂という問題と
して、検討されてきた。
以下ではこの問題についての最高裁の判断及び学説の見解を見た後、論点を整理した上で、検討していきたいと思う。
1
裁判例先述の最高裁判決について、その第一審判決と共に、それらの判断の中心部分を確認しておこうと思う。なぜなら、第一審判決と比較したときに、最高裁判決の特色がより鮮明になると思われるからである。つまり、最高裁判決は、第
一審判決と異なり、契約時単価以外の単価による清算を特約により予定することが認められる余地を残していないので
ある。
①東京地判平成一七年二月一六日(第一審判決 (
) 5)
特定商取引法による中途解約の場合における違約金等の上限規制の趣旨は、利用者側が違約金等の請求をおそれて中
途解約権の行使をためらうことがないようにして、中途解約権を実質的にも行使可能なものとするということにある。
(三二七一)
不当条項規制と契約解消後の清算二五四同志社法学 六〇巻七号
したがって、規定の適用にあたっては、中途解約の際の精算について業者の定める特約の内容が合理的なものである
か、また、その内容が利用者側の中途解約権の行使を必要以上に制限する内容となっていないかといった観点からその適用の有無を判断し、これに反する特約は、四九条七項によりその効力を否定し、上記規制の趣旨を活かすべきである。
上記規制の中では事業者が請求・控除できる金額として﹁提供された特定継続的役務の対価に相当する額﹂が掲げられているが、これは、中途解約の効果が非遡及的なものであることから中途解約の時点で既に提供済みの役務の対価相
当額については事業者が正当に請求、控除することが可能であることを確認的に記載したものである。
したがって、事業者が役務の対価を前払金として受領していて、その中から既に提供された役務の対価に相当する部
分を控除して返還するという場合において、前払金の授受に際して役務の対価に単価が定められていた場合は、その単価に従って提供済み役務の対価を算出するのが原則と解すべきである。合理的な理由なくこれと異なる単価を用いて
﹁提供された特定継続的役務の対価に相当する額﹂を控除することは、提供済み役務の対価の精算の趣旨を超えて、事実上、違約金を収受するに等しいものとして上記制限規定に触れるというべきである。いかなる単価も自由に定め得る
というのであれば、非常に高額な単価に基づき算定し、事実上、違約金の上限規定を潜脱することも許すということにつながりかねず、相当でない。
したがって、上記のとおり、前払時の単価をもって算定することを原則とし、合理的な理由があり、利用者側の中途解約権の行使を必要以上に制限する内容となっていない場合に限り、これと異なる定めを約款等の中に置くことが許さ
れる。
本件約款は、合理的な理由があるとはいえず、その実質的機能において利用者側が中途解約権を行使するに当たって
これを制約する機能を果たす点において、四九条二項一号の定める上限規制に反する。
(三二七二)
不当条項規制と契約解消後の清算二五五同志社法学 六〇巻七号 ②最三判平成一九年四月三日 四九条一項及び四九条二項一号の趣旨は、特定継続的役務提供契約は、契約期間が長期にわたることが少なくない上、
契約に基づいて提供される役務の内容が客観的明確性を有するものではなく、役務の受領による効果も確実とはいえないことなどにかんがみ、役務受領者が不測の不利益を被ることがないように、役務受領者は、自由に契約を将来に向か
って解除することができることとし、この自由な解除権の行使を保障するために、契約が解除された場合、役務提供事業者は役務受領者に対して法定限度額(提供済役務対価相当額と解除によって通常生ずる損害の額として政令で定める
額を合算した額にそれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した額)しか請求できないことにしたものと解される。
受講者が提供を受ける各個別役務の単価は契約時単価をもって一律に定められているため、使用済ポイントの対価額も、契約時単価によって算定されると解するのが自然というべきである。解除があった場合にのみ適用されるそれより
高額の対価額を定める清算規定は、実質的には、損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能するもので、上記各規定の趣旨に反して受講者による自由な解除権の行使を制約するものといわざるを得ない。
そうすると、本件清算規定は、役務提供事業者が役務受領者に対して四九条二項一号に定める法定限度額を超える額
の金銭の支払いを求めるものとして無効というべきであり、本件解除の際の提供済役務対価相当額は、契約時単価によって算定された本件使用済ポイントの対価額と認めるのが相当である。
2
学説学説は最高裁判決、その第一審判決もしくは控訴審判決を論評するに際して、又は特定商取引法の解説書の中で、当
(三二七三)
不当条項規制と契約解消後の清算二五六同志社法学 六〇巻七号
該算定基準について検討している。大きく分けて、①契約時単価より高額の単価を定める清算規定を四九条七項により
無効とし、契約時単価によるべきと解する説と、②そのような清算規定が四九条七項により無効となることを否定する説とが対立している状況にある。以下、その根拠に注目しながら、検討していきたい。
①契約時単価より高額の単価を定める清算規定を四九条七項により無効とし、契約時単価によるべきとする説
山本教授は、四九条二項一号イ﹁提供された特定継続的役務の対価に相当する額﹂が﹁契約時の単価を基礎として計算した額﹂を意味すると解釈すべきだとし、そう解釈するのであればそれより高い単価を基礎として計算した額で精算
する条項が四九条七項に反しないと解する余地は基本的に存在しないとする。﹁四九条二項一号、七項が提供しているのは、いわゆるブラック条項(評価の余地を伴わない不当条項)型の判断枠組みであって、グレー条項(評価の余地を
伴う不当条項)型の判断枠組みを含むのは、消費者契約法一〇条及び付随条項の内容規制規範として機能する民法九〇条であると考えるからである﹂とする (
。 6)
齋藤弁護士も、﹁(特商法が中途解約権を法定したのは、特定継続的役務提供の場合に、長期間の多量販売がよく行われている実態があるにもかかわらず、中途解約権を認めなかったり、認めていたとしても高額の違約金条項を置くこと
により、実質的に消費者の解約権行使を制限するような取引実態があったことを踏まえたものであるので、)契約の誘引や勧誘の段階で、長期間契約や多数回契約を積極的に勧めておきながら、中途解約においては早期に解約するほど消
費者に不利益となる約定をさせることは、特商法が中途解約権を法定した趣旨にもとるものであり、実質的にも不当である。⋮⋮契約時における役務提供の単価より、精算時に用いられる単価の方が消費者に不利である場合には、そのよ
うな特約は消費者に﹃不利なもの﹄であることは明白であり、特約そのものが法四九条七項により無効であることは当
(三二七四)
不当条項規制と契約解消後の清算二五七同志社法学 六〇巻七号 然である﹂とする (
。 7)
また、山本教授は、本件のような対価計算条項が付随条項であることを論証する。すなわち、一般に対価条項が暴利
行為の法理に服することは別として、裁判所による内容審査に服さないのは、市場経済システムにおいては、対価は需要・供給によって決定されるのであり、法的基準によって決定されるのではないという観点から正当化される。ところ
が、本件のような対価計算条項については、市場メカニズムが機能する前提としての、顧客が関心をもって選択するということが欠けることになる。つまり、これは顧客一般が契約締結の際に対価そのものと同様の注意を向ける条項とは
言えないからである。さらに、この対価計算条項の規律事項については、契約時の単価で算定するというルールが存在しており、条項を無効としても代替ルールは存在する。以上の理由から、このような対価計算条項は、付随条項であり、
付随条項の内容審査に関する法令や法理の適用を受けるとする。その上で、この付随条項に適用されるのは特定商取引法四九条二項一号及び七項か、それとも消費者契約法一〇条かが問題となるとして、四九条二項一号イは﹁契約時単価﹂
を算定の基礎とすると解すべきため、四九条七項に反しないとする余地は存在しないとする (
。 8)
齋藤弁護士も、﹁役務の対価﹂が合意で決まるのだから、その﹁清算における対価﹂も合意で決められるとの考えに
対して、﹁合意で決めて全く問題がない事項は、特定継続的役務提供契約の主たる給付の内容たる対価であって﹂、対価
に付随している事項であっても、中途解約における違約金の金額に影響を及ぼす事項については、特商法四九条七項で違約金条項の強行法規性を規定したことに反する解釈であるとする (
。 9)
②契約時単価より高額の単価を定める精算規定が四九条七項により無効となることを否定する説
潮見教授は、﹁中途解約という事態が生じた場合をも想定して情報が提供された上で、価格に関する合意がされてい
(三二七五)
不当条項規制と契約解消後の清算二五八同志社法学 六〇巻七号
る﹂。よって﹁清算単価の合意は、﹃当初契約において、中途解約という状況が生じた場合を想定して交わされた対価の
合意﹄であり、決して﹃契約締結時とは異なる単価﹄を用いて提供済役務の対価を算定しているのではない﹂し、しかも、﹁一括購入するチケットと数ごとの対価に関する情報を得て顧客側が意思決定をしたのだから、このことから生じ
るメリット・デメリットは顧客の負担となる﹂。﹁このとき、価格に関する部分について契約自由を原則的に排除するのは、給付・対価に関する国家の不介入という自由主義・市場原理に基づく契約法秩序の根幹に反するものである﹂とす
る。そして、﹁﹃いかなる単価も自由に定めることができるというのであれば、⋮⋮事実上、違約金の上限規定を潜脱することも許すということにつながりかねない﹄とする東京地裁平成一七年判決の説示は、正当価格の理論を基礎とする
ものであって、給付・対価にかかる契約自由の原則を否定する点で不適切﹂とする。以上より、﹁ここでの問題は、民法九〇条及び(消費者契約の場合には)消費者契約法一〇条によって処理されるべきであり、特定商取引法四九条一項・
二項や同条七項によって処理されるべきものではない﹂とする (
。 10)
また、鎌田教授は、最高裁判決を受けて﹁本判決を含む一連の判決が、前払い金支払い時の単価に従って計算すると いう一般原則が存在するかのような説示をする点については、強い違和感を覚える﹂とする。﹁いうまでもなく契約が遡及的に解約された場合の既履行分の精算と、中途解約による損害の賠償とは法的性質を全く異にしており (
、特定商取 11)
引法四九条二項は、中途解約に伴う損害の賠償に関する特約を規制してはいるものの、既履行分の精算については何らの規制もしていないのであるから、既履行分の対価の額は、私法上の一般原則に従って計算されるべきであり、特定継
続的役務提供契約に特有の原則を創設することは予定されていないはず﹂とする。したがって、﹁当事者意思が明確であれば当事者意思、不明確であれば取引慣行等を考慮しつつ合理的当事者意思を推測すべきことになる﹂。この点、﹁定
期預金契約の中途解約や公共交通機関の定期券の払い戻しの例に見られるように(特定継続的役務提供契約に該当しな
(三二七六)
不当条項規制と契約解消後の清算二五九同志社法学 六〇巻七号 い例を援用することに何の障害もない (
原中期長もに者約解途、約てっあで般一がの契に行れういといならなばけ伴なけ続え与を典特ううを精てしと準基を算 いまで間期ので中時約解途約らか初契たをにかたいてっなうしよのどら)、て当 12)
則は存しない﹂ため、﹁実際に提供された役務の数量に応じた割引率で既履行分の対価の額を計算するという特約が(少なくともその内容が事前に適切に開示され理解されている限り)当然にその効力を否定されるべきいわれはない﹂とす
る。また、﹁民法四二〇条一項後段が裁判所による予定額の増減を禁じているのは私的自治の原則を尊重しているからであり、特定商取引法も損害賠償に関する特約に限ってその効力を制限しているのだから、既履行分の対価に関する当
事者の合意については、より強い理由で、裁判所は安易にこれを変更すべきでないと考えることができる(消費者法は、付随条項は規制するが、本来的給付及びその対価に関する条項には介入しないのを原則にしていることにも想いをいた
すべきである)﹂とする (
。 13)
3
論点の整理と検討以上の裁判所による判断及びそれに関わる学説は、いくつかの点で鮮明に対立している。そこで、以下では論点につ
いて若干の整理を行い、検討を加えていきたいと思う。
⑴ 対価計算条項の法的性質
本件のような対価計算条項を、﹁価格に関する合意﹂と解すべきか、﹁付随条項﹂と解すべきかについて、根本的な対立が見られる。当事者がこのような条項について、注意を向けるのかどうかについてさえ見解に対立が見られる。思う
に、本件におけるような対価計算条項は、結局、﹁対価﹂という言葉は用いているが﹁当事者が解約時に負担すべき不
(三二七七)
不当条項規制と契約解消後の清算二六〇同志社法学 六〇巻七号
当利得返還義務の算定方法﹂に関する合意と理解することができる。そのように理解するのであれば、国家が介入すべ
きでない﹁給付義務を負うべき対価﹂の決定とは性質を異にすると解せよう (
な、対の供提務役りがおてれさ容認価期者決るいてれさ定め間予りよに短長のに講更き短期に変でるとする変更権が受 し、て後対にれえ例にば、契約期間を。こ 14)
らば、これは﹁価格に関する合意﹂となろう。
⑵ 四九条二項一号イ「提供された役務の対価相当額」を「契約時単価」と解する根拠
鎌田教授によれば、私法上の一般原則により、すなわち、当事者意思、不明確であれば合理的当事者意思を推測すべ
きことになるとされ、﹁契約時単価﹂に従うという一般原則は存在しないとする。しかし、特定商取引法の規定に関してはその規定の意味は規定の趣旨に従って解釈すべきであり、具体的かつ明示的に定めていないからといって、不明確
な部分は私法上の一般原則によって解釈するということにはならないであろう。事業者が請求可能な金額として、﹁提供された特定継続的役務の対価に相当する額﹂と明示的に規定しているのである (
よ高るべ述が決判裁最、とるすうそ。 15)
うに、四九条二項を、中途解約時に事業者が請求可能な金額の﹁上限﹂を定める規定と解すれば (
。解可能であると理すはべきことになろう不とよをこそれり増額する 、﹁に﹂意合の者事当 16)
その上で、何を基準とすべきかであるが、二つの解釈の可能性があると考える。一つは、この﹁上限﹂について﹁定額﹂と解すべきとすれば、﹁契約時単価﹂が﹁定額﹂としてもっとも明確な基準となるであろう。加えて、特定商取引 法四九条二項一号イの趣旨は、解除による遡及効が否定される結果、履行済み役務の対価も当然に請求可能(既払いの場合は保持可能)であることを確認した点にあるため (
と約いな得りあはに外以﹂価単時契﹁は価対﹂の時﹁行履務役、 17)
も考えられる (
定すも﹁妥当な額﹂と解るま可能性である。その算でい上なう一つは、この﹁限。﹂を﹁定額﹂と解さも 18)
(三二七八)
不当条項規制と契約解消後の清算二六一同志社法学 六〇巻七号 基準について合意がある場合にはその合意によれば妥当な額となるのかどうかが問題となり、評価の余地を残すことになろう (
はろ規によるべきことになう意。ここで問題となるの法任妥は意がない場合には、当。な額を導く基準として合 19)
前述のように﹁不当利得の清算﹂であるため、不当利得の清算に関する任意法規により、﹁客観的に相当な価格 (
価、残を地余のと評りこなにとこうになるす ( とい﹂ 20)
。 21)
これら二つの解釈のうちいずれが妥当すべきかについては、更なる検討を要することになるが、結論としては﹁定額﹂と解し、﹁契約時単価﹂を基準とすべきと考える(その理由については、Ⅲ
1
で後述する)。⑶ 四九条二項一号及び七項の適用基準
―
評価の余地を残すのか既に述べたように、前記東京地裁判決は、﹁合理的な理由があり、利用者側の中途解約権の行使を必要以上に制限する内容となっていない場合﹂には、契約時単価と異なる単価で算定するとの条項も有効となる余地を残している。これ は、結局のところ、四九条二項一号及び七項はいわゆる﹁グレー条項(評価の余地を伴う不当条項)型の判断枠組みを提供している (
。もうよえいとのつたに解理のと﹂、 22)
しかし、最高裁判決が述べるように﹁四九条二項一号イは、同号ロと相まって、特定継続的役務提供契約が中途解約 された場合に役務提供事業者が請求し得る額の上限を定めたものである﹂と理解すべきであり、かつ、この上限は﹁定額﹂として、評価の余地は残されていないと解すべきであろう (
。 23)
⑷ この問題に対する理解は数量割引制全般に影響を及ぼす性質をもつか
鎌田教授は、特定継続的役務提供もそれに該当しない例についても同列に扱い、該当しない例を基準として取引慣行
(三二七九)
不当条項規制と契約解消後の清算二六二同志社法学 六〇巻七号
を導き出しておられるようである。しかし、山本教授が言われるように、﹁政令指定されていない継続的役務提供契約
において、中途解約権を認めた上で同様の対価計算条項が用いられた場合には、そのような条項は、消費者契約法一〇条による有効性判断に服すべきことになる﹂し、﹁対価計算条項の有効性判断のあり方が、特定継続的役務提供契約と
それ以外の契約とで異なってくることは、一定の立法事実に基づき特別法(三層構造の三階部分)により立ち入った特例措置がとられている分野とそうでない分野との違いとして説明されるべきことになる (
﹂と考える。特定商取引法の適 24)
用分野については同法の解釈により条項の有効性が判断されるべきであるが、同法が適用されない分野については、もしそれが消費者契約であれば、消費者契約法によって有効性が判断されるべきことになろう。
具体的に考えてみても、鎌田教授が挙げられる契約において中途解約時までの期間で契約をしていたらどうなっていたかを基準として清算を行うことに一般に不当性が見いだされないのは以下の理由によるであろう。すなわち、このよ
うな場合には特定商取引法の適用対象でないために、法秩序が中途解約権を認める﹁べき﹂と判断している場合でないにもかかわらず、﹁事業者側が合意により特別に﹂消費者に中途解約権を認めているために、契約時単価と比べて消費
者にとり不利な単価による清算方法もある程度許されるであろうし、さらにその清算においては損害賠償・違約金の定めも可能であるため、清算時単価にはこれらも含まれていると解することが可能だからである。
したがって、鎌田教授が言われるような、前記最高裁判決が、﹁長期割引やまとめ買い割引などの割引価格が設定されている場合には、割引価格に基づいて既履行分の対価相当額を計算すべきであるという私法上の一般原則を宣言し﹂ ており、その一般原則により算定される額を超える額を消費者に負担させる﹁精算特約は(信義則に反しないという特段の事情の認められない限り)消費者契約法一〇条に違反して無効とされることにな﹂るとの危惧 (
や、数量割引制度全 25)
般にこの問題についての判断が影響を及ぼし、数量割引制度が行われなくなるとの危惧 (
はあたらないと思われる。定期 26)
(三二八〇)
不当条項規制と契約解消後の清算二六三同志社法学 六〇巻七号 預金解約における清算条項等も、消費者契約法一〇条による評価を受けるが、既履行分の対価相当額は任意法規によれば﹁労務の客観的に相当な価格﹂となるため、一〇条により無効とされることは通常ないであろう。言い方を換えれば、
数量割引制度であっても、消費者契約法の規定には服することになるのは当然であろう。
⑸ 「違約金条項」と「既履行分対価計算条項」とを区別することに意味があるか
そもそも私法の一般原則(任意規範)によれば、、受講生からの解約により、契約当事者双方が履行を既に行ってい
た場合には、契約当事者には不当利得返還義務が生じる。つまり、業者には、受け取った対価のうち﹁役務提供分﹂を除いた金額についての返還義務が相手方に対して発生する。さらに、業者には相手方に対する損害賠償請求権も発生す
る。
ところで、四九条二項一号においては、受講生による対価の支払いについては言及することなく、業者はイ﹁役務提
供分﹂、さらにロ﹁一定額の損害﹂について相手方に対する請求権をもつ、という形で規定されている。しかし、対価が支払われている場合をも適用対象とすることに疑いはない。対価が支払われている場合には、請求権というよりも、
既履行役務の対価の保持を当然に認めるものと理解されるべきであり、実際には業者の不当利得返還義務を算定するに
あたっての控除要素となろう。
結局の所、相手方より対価が支払われている場合には、既履行分についての業者に制限的に認められる請求権の範囲
は、業者の不当利得返還義務を算定する際の控除要素として機能し、他方、制限的に認められる損害賠償請求権は別に存在するということになろう。もっとも、特約により不当利得返還義務と損害賠償請求権とを区別することなく一律の
清算方法が定められている場合には不当利得返還義務と損害賠償請求権との相殺が特約により予定されていると解する
(三二八一)
不当条項規制と契約解消後の清算二六四同志社法学 六〇巻七号
ことができよう(後述Ⅱ
⑶ 4
及びⅢB 3
参照)。いずれにせよ鎌田教授が述べるように、﹁解約時の既履行分の清算﹂と﹁中途解約による損害の賠償﹂とは法的性質を全く異にしていることは明らかであろう。この点、最高裁判決は、本件対価計算条項は、﹁実質的には、損害賠償額
の予定又は違約金の定めとして機能する﹂との事情を考慮しており、山本教授も、最高裁判決を評して、﹁適用法条としては、最高裁も、従来の裁判例の一般的傾向に従って、四九条二項一号イかロかを細かく区分しておらず、四九条二
項一号全体の違反を問題としている﹂とした上で、﹁違約金条項規制と提供済役務の対価計算条項規制が、機能的に交錯することは事柄の性質上必然であるから﹂理解し得るものとしている (
。 27)
しかし、﹁実質的に損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能する﹂とすることにどれだけの意味があるのか疑問である。同じことを﹁過度に給付の保持及び請求権を業者に認めることにより、その不当利得返還義務の範囲を狭め
るものである﹂と言えば足りるのではなかろうか。むしろ、﹁解約時の既履行分の清算﹂と﹁中途解約による損害の賠償﹂とを区別し、四九条二項一号により業者が請求することができる金額を厳密に算定することこそ必要と思われる。これ
により、私法の一般原則が適用されるべき場面では、潮見教授の言われるように﹁民法学と接点のある議論 (
と能なるであろう。 ﹂が展開可 28)
4
この問題の直接的影響範囲とさらなる疑問この問題は、直接的な影響力という限定された観点からでも、特定商取引法四九条二項一号イの解釈問題にとどまるものではない。契約解消後、既に債務が履行されていた場合に清算をどのようにすべきかという問題(もっとも、規定
は業者の請求権を制限するという形をとっている)については、特定商取引法の他の規定及び他の法律によっても定め
(三二八二)
不当条項規制と契約解消後の清算二六五同志社法学 六〇巻七号 られている。すなわち、特定商取引法では、連鎖販売取引における中途解約権行使後の業者の請求権を限定する規定において(四〇条の二・三項二号)、訪問販売・電話勧誘販売・業務提供誘引販売取引についての解除後の業者の請求権
を限定する規定において(一〇条一項三号、二五条一項三号、五八条の三・一項三号)、割賦販売法では、割賦販売の方法による契約の解除後における業者の請求権を限定する規定等において(六条一項五号)、役務提供後は﹁提供され
た当該役務の対価に相当する額﹂に限定する旨が定められているのである。
したがって、この問題に関する法的処理は、多大な影響をもたらすことになる点を踏まえた上で、検討をする必要が
あろう。
もっとも、注意すべき点が二つある。一つは、特定商取引法により規定される特定継続的役務提供契約及び連鎖販売
取引に関しては、解除は特別に法により認容された中途解約権によるものであるが、同法により規定される訪問販売、電話勧誘販売、業務提供誘引販売取引並びに割賦販売法により規定される割賦販売に関しては、特別の中途解約権は認
められていないため、ここで言われる解除はその他の理由(法定解除権・約定解除権。もっとも、業者の債務不履行を原因とするものは除く (
)に基づくものとなる 29)(
価れして﹁提供さた額当該役務の対と金業。能可求請が者な、はつ一うも 30)
相当額﹂に加えて、特定継続的役務提供については﹁解除により通常生じる損害額﹂(特定商取引法四九条二項一号ロ)
も、また、連鎖販売取引については﹁契約の締結及び履行のために通常要する費用の額﹂(同法四〇条の二・三項)も認められており、割賦販売については﹁割賦手数料﹂(割賦販売法六条一項五号)も認められている点である。もっとも、
割賦販売については信用供与も対価の一部と解しうるため、この定めも履行済みの﹁対価﹂を請求しうることを認めたものと理解することもできよう。これに対して、特定継続的役務提供及び連鎖販売取引については、﹁損害賠償請求﹂
を認めるものとして異質である。
(三二八三)
不当条項規制と契約解消後の清算二六六同志社法学 六〇巻七号
訪問販売、電話勧誘販売及び業務提供誘引販売については取引の攻撃的性質を理由として、事業者の主導権のもとに 取引内容が確定されることが多いため、後日その履行を巡るトラブルを生じることが少なくなく、多様な解除場面を想定して不当条項規制をする必要があると言われる (
は提性ち打意不の引取はていつに供務役的続継定特、てし対にれこ。 31)
ないため、中途解約権による解約場面のみを想定すれば足りるし、また、特別の中途解約権を認めるがゆえに損害賠償も一定額要求することができると説明されることがある (
。 32)
しかし、一方では、消費者の債務不履行に基づき解除された場合でも損害賠償請求が認められないのに、他方では、特別の中途解約権の行使によるといっても消費者に帰責性がなく契約が解消される場合でも損害賠償請求できるという のも、バランスを欠くのではなかろうか。加えて、特定継続的役務提供や連鎖販売取引においても取引が長期に渡ることの他にも利益獲得の不確実性など取引自体の問題性も存在することを考えれば (
償を賠害損てし定想面場除解な様多、 33)
額等の制限規定がおかれるべきではなかろうか。疑問が残る。
Ⅱ いわゆる学納金不返還特約の法的性質
以上述べてきた特定商取引法に規定される﹁提供された役務の対価に相当する額﹂の計算条項の有効性に関わる問題は、はじめに述べたように、﹁契約解消に関わり契約当事者の一方により他方に対して過大な負担が課されることを防
止するため、不当な契約条項の効力を制限する規定﹂の解釈問題という点で、加えて、﹁契約上の給付義務が既に履行され始めている﹂という点でいわゆる大学学納金不返還条項の有効性に関わる問題と、共通性を見出すことができる。
既述のように最高裁は平成一八年一一月二七日に複数の判決において、いわゆる学納金返還請求に関わる問題につい
(三二八四)
不当条項規制と契約解消後の清算二六七同志社法学 六〇巻七号 て一定の見解を示した。在学契約の性質を有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約とし、憲法二六条一項の趣旨及び教育理念より学生側の任意解除権を根拠づける(それまで時に下級審で採られていた準委任契約としての性
質に基づき民法六五一条による任意解除権を認めるとする解釈を採らなかった)など注目すべき点は多いが、本稿においては不返還特約の法的性質に焦点を絞って見ていく。また、この最高裁判決やそれ以前の多くの下級審判決を契機と
して、学説においても不返還特約の法的性質等について論じられてきた。
以下では、大学学納金不返還特約をめぐる議論状況を紹介した上で、この問題についてどのように理解すべきか検討
する。
1
裁判例―
最二判平成一八年一一月二七日不返還特約のうち入学金に関する部分については、入学金はその額が不相当に高額であるなど他の性質を有するもの
と認められる特段の事情のない限り学生が大学に入学しうる地位を取得する対価の性質を有するため、その納付をもって学生は上記地位を取得するものであるから、その後に在学契約等が解除され、あるいは失効しても、大学はその返還
義務を負う理由はない。したがって、不返還特約のうち入学金に関する部分は注意的な定めにすぎない。
一方、不返還特約のうち授業料等に関する部分は、在学契約が解除された場合に本来は学生に返還すべき授業料等に相当する額の金員を大学が取得することを定めた合意であり、諸事情を考慮すると、入学辞退(在学契約の解除)によ
って大学が被る可能性のある授業料等の収入の逸失その他有形、無形の損失や不利益等を回避、てん補する目的、意義を有するほか、早期に学力水準の高い学生をもって適正な数の入学予定者を確保するという目的に資する側面も有す
る。以上より、不返還特約のうち授業料等に関する部分は、在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定め
(三二八五)
不当条項規制と契約解消後の清算二六八同志社法学 六〇巻七号
の性質を有するものと解するのが相当である。
その上で、消費者契約法九条一号の規定により、違約金条項は、﹁当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害﹂を超える部分が無効とされるが、在学契約の解除に伴い大学に生ずべき平均的な
損害は、一人の学生と大学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的、客観的に生ずると認められる損害をいうものと解するのが相当である。そして、当該大学が合格者を決定するにあたって織り込み済みのものと解され
る在学契約の解除については、原則として、当該大学に生ずべき平均的な損害は存しないというべきであり、学生の納付した授業料等は、原則としてその全額が当該大学に生ずべき平均的な損害を超えるものというべきである。
2
学説学説の多くは、入学金の性質について最高裁と同様に、入学しうる地位の対価であると解した上で、不返還特約のうち入学金に関する部分については注意的な定めとするが、入学金の額がその対価額を超える場合には返還義務が生ずる 余地を認める (
ので学の③しいな①、は下に以。るれら見が立対な説つら分約特還返不のていつに部いるす関に等料業授、てか明はに い業に分部るす関に等料ち授うの約特還返不、方つて。る説学、ていつにかのすそ解うどを質性的法の他 34)
法的性質をどう考えるのか、見ていきたい。また、④の学説については、その主張の中身の故に、不返還特約全体についてどう考えるのか、見ていきたいと思う。
①損害賠償の予定と解する説
﹁特とが想定され、不返還約るは、その損害賠償の予こう受て験生の入学辞退によっ大し学側に一定の損害が発生定
(三二八六)
不当条項規制と契約解消後の清算二六九同志社法学 六〇巻七号 としての性質を有することとなる﹂とされる (
。 35)
②実質を損害賠償額の予定と解する説
﹁っ解約により将来に向かて様効力を失うものと解さ、同在す学契約は、民法の予定ると他の継続的役務提供契約れ
(六二〇条、六三〇条、六五二条参照)、したがって対価支払義務も未履行部分については消滅し、既に支払われていた未履行部分の対価については不当利得としてその返還を請求しうることになると解すべきであろう﹂とする (
。その上で、 36)
消費者契約法九条一号の適用可能性について、﹁損害賠償額の予定等の条項に該当するか否かは、契約条項の文言に拘泥せず、実質的観点から判断されるべきとする一般論は、契約の解釈一般に妥当するところであり、また、解約の結果
として本来返還すべき金額を返還しないとする条項は、大学側が解約による不利益を回避しようとする趣旨に基づくものと考えられるから﹂、﹁その実質を損害賠償額の予定ないし違約金を定めたものとし﹂て、同法九条一号の適用可能性
を肯定する。
③対価保持条項と解する説
学生側の入学辞退があったとき、﹁一方当事者(学生側)の故意による終局的・確定的履行拒絶故に、学校側の在学契約上の債務が履行不能となった﹂。この場合にも学生側からの解除権を認めるとしても、﹁危険負担(対価危険)に関
する債権者主義の妥当を説く民法五三六条二項は、相手方(債権者)の責めに帰すべき事由による履行不能の場合に、債務者に反対給付(対価)の保持を認めている﹂のであり、学校側には、﹁反対給付の保持が認められる﹂。したがって、
﹁授業料を返還しない特約条項というのは、損害賠償の予定条項ではなく、対価危険(危険負担)の準則に従って反対
(三二八七)
不当条項規制と契約解消後の清算二七〇同志社法学 六〇巻七号
給付(対価)の保持をすることができる地位を確認したものであるにすぎない﹂。
、にこるれさ還返はていつ等な料業授たれさ付給に既とくしき項条ため定をとこ﹄るで、がとこるす持保が側校学てと ﹁在合都の側生学を約契学、﹃解は項条還返不の等料業で授価な対のスビーサ学在たっとし能可不や今、がいよもて約 すなわち、﹃対価保持条項(反対給付保持条項)の不当性﹄に関する問題であり、消費者契約法九条一号の問題としてではなく、一〇条の問題として処理されるべき﹂とする (
。 37)
④不返還特約全体を複合的な当事者関係から分析する説
この説は、入学手続き後の大学と学生側との関係について、﹁教育の提供に関する準委任契約のほかに、地位の取得を目的とする有償契約としての部分を認め﹂、そこから不返還特約の性質について論じる (
。 38)
まず、
を性るすとるれらえ考が能第可の解理のつ二はてい。一に法権除解の項一条一五六民に、て以を約特還返不、﹁つ味意
⑴
提の等育教ので償有のしてと約契任委準るなと心供中関と的法の約特還返不、るすすと提前を係関律法るに 排除する特約と理解する可能性﹂であり、このような特約については消費者契約法一〇条が適用されるとする (理二ることを前提として、同条項れの損害賠償に関する特約と得さつて﹁解除そのものに用いは民法六五一条一項が適 。、に二第 39)
解することも可能であ﹂り、すなわち、同条二項の損害賠償に関する額の予定を規定したものという理解﹂を示し、この場合には、消費者契約法九条が適用されることになるとする。
次に、
なち等育教﹁はでここ、わ有なす。るえ捉にうよのの償以りうよの条一五六法民、なの異はと分部ういと約契下ていつ
⑵
償格事当ういと得取の)資で者入(位地の定一の学有間、に味意の約特還返不は関てし関に分部ういと係の規定はない。また、入学手続の完了とともに地位の取得も完了するというのであれば、継続的関係の中途解消という問
(三二八八)
不当条項規制と契約解消後の清算二七一同志社法学 六〇巻七号 題もない。したがって、解除をなし得ることを前提として損害賠償に関する規律という性格付けをする基礎を欠く﹂ため、消費者契約法九条の対象ではない。また、不返還特約は、そもそも学生側に解除権があることが民法上特に規定さ
れていない部分について、よって、消費者契約法一〇条の対象でもなく、﹁任意解除権の不存在、あるいは、契約関係の遡及的解消の排除を確認するもの﹂とする。﹁入学資格が与えられた時点(入学手続が完了した時点)ですでに既履
行となっているのであり、不返還特約は、いわばその法律関係を確認するものにすぎない﹂とする。
その上で、当事者関係の契約関係に応じて二つの異なる法的規律が考えられるとしても、あるいは、不返還特約の有
効性につき、﹁入学金や授業料といった名称や入学手続の際の要項等の文言のみによって機械的に導くだけでは十分ではない﹂とするのである。
3
議論以上の裁判所による判断及び学説間においては、複数の論点について議論がある。以下ではその議論状況について見ていく。
⑴ 授業料等の不返還特約の法的性質
学説③に対しては、学説②より、﹁在学契約において学生側には任意解約権があると解すべきであり、民法五三六条 二項は、任意解約権が正当に行使されたことに依る履行不能の場合に適用されることを予定していない(その限りで、同条による対価保持利益は保障されていない)と解すべき﹂との反論がなされる (
約類解・除解の型な様多、にか確。﹁ 40)
を念頭に置いた場合、解除権の有無と相手方による対価保持の可否は必ずしも常に直結するとは言い切れないし、また、
(三二八九)
不当条項規制と契約解消後の清算二七二同志社法学 六〇巻七号
民法五三六条二項の要件としての﹃債権者の責めに帰すべき事由﹄の解釈については(特に、債務不履行における債務
者の帰責事由と同様に解すべきか否かについて)見解が分かれている﹂が、﹁すくなくとも在学契約における任意解約権行使の場合については、広義における義務違反さえ解除者には存在しないのであるから、﹃債権者の責めに帰すべき
事由﹄は認められず、五三六条二項の適用はないと解すべき﹂とされる (
。 41)
⑵ 消費者契約法九条一号を適用すべきか、一〇条を適用すべきか
学説③が一〇条の問題として処理すべきとするのに対して、学説②は以下のように批判している。﹁確かに、学納金
不返還条項は、直接的には、学生側による解除の場合にも大学側は対価を既に支払われた限度においては保持しうることを意味すると捉えることもできよう﹂、﹁この場合は任意規定適用によれば大学側が対価を保持し得ない場合に当たる
と解され、それにも拘わらず対価の保持を可能とする条項は、任意規定の適用の場合に比し消費者の権利を制限する条項として、消費者契約法一〇条によって無効とされる可能性もある﹂。しかし、﹁このことは、解除により契約関係が将
来に向かって消滅し対価を返還しなければならないことによる損害を回避するため、実損害発生の有無や額に関わらず大学が前納金を保持しうる趣旨(つまり)前納金をもって損害賠償額の予定とし又は違約金とする趣旨)を含む条項と
解することを妨げるものではな﹂いとする。しかも﹁実際的にも、消費者契約法一〇条による場合には、基準が相対的に不明確であること(それ故)柔軟性を確保しうるというメリットも確かにあるが)から、この場合に九条一号の適用
を否定して一〇条の適用のみで処理するという解釈には疑問を感じる﹂とされる (
。 42)
これに対しては、学説③より以下のような反論が行われている。まず、一〇条(及び民法九〇条)によって処理すべ
きと解することにより、﹁問題の本質が何であるかが明らかになるし、何よりも、消費者契約において、﹃事業者は、給
(三二九〇)
不当条項規制と契約解消後の清算二七三同志社法学 六〇巻七号 付を提供しなければ、消費者は対価を支払う必要がない﹄し、﹃事業者は、給付を提供しなければ、事業者は前払いした対価を消費者に返還しなければならない﹄との基本原則が明確に確認されるというメリットがある(違約金・損害賠
償額の予定条項と解することは、この基本原則を曖昧なものにしてしまう)。また、﹃損害﹄をめぐる不自然な操作も回避される。そうあってほしくないところであるが、今回、仮に裁判所や当事者(訴訟代理人)が、消費者契約法﹃一〇
条﹄は一般条項であって使いづらい(または、要件の具体化を欠く一般条項ゆえに適用を回避すべきである)との動機から、具体的なルールが記述されている﹃九条﹄に依拠したいとの判断ないし戦略に基づき、授業料等の不返還条項を
違約金・損害賠償額の予定条項と性質決定する道を選択したのであったとするならば、それは、一〇条の意義を、理論的にも、実践的にも、封鎖するに等しい態度である。しかも、同種の一般条項である民法九〇条の適用に対する抑制的
態度にもつながるだけに、きわめて問題が多い﹂とする (
。 43)
また、学説④が提示する可能性の一つであるところの、解除権(民法六五一条一項)排除条項ととらえて一〇条の適 用を導く考え方に対しては、解除権制約条項に対する規制は九条一号でも予定されていると言われている (
。 44)
4
検討⑴ 不当利得返還義務への配慮
消費者契約法九条一号を見ると、これは解除を前提として、予定された損害賠償又は違約金の額について制限を加え
るものであるが、解除により生じるはずの不当利得返還義務(原状回復義務)については何ら言及していない。しかし、九条一号が解除の場合を前提とするならば、解除が単に損害賠償請求権のみを生ぜしめるのは双方ともに給付につき未
履行の場合のみであり、履行が既にあった場合には不当利得返還義務が問題となるはずである。既に見たように、その
(三二九一)
不当条項規制と契約解消後の清算二七四同志社法学 六〇巻七号
ことを特定商取引法や割賦販売法の諸規定は消費者契約法成立以前から予定してきた。それにもかかわらず、消費者契
約法は何らそのことを予定していない。あたかも九条一号は、﹁契約当事者双方が債務の履行を全く行っていない段階で解除がなされた場合﹂を前提としているかのようである (
。 45)
しかし現実には、既に消費者は債務の履行(対価の支払い)を行ったが解除又は解約した場合に既に支払った金銭の返還請求が可能か、という形で法的に問題となることが多い。まさに学納金返還請求問題がその例である。この場合に
は、事業者(大学側)の不当利得返還義務の問題について別途検討する必要が出てくるはずである。
最重要問題は、合意により﹁手にいれられる﹂と決められた額がある規範によってどれだけに制限されるか、である。
このとき、たしかに損害賠償については九条一号により﹁平均的損害﹂に限定されるとしても、既に履行された分については不当利得返還義務の問題に踏み込む必要が出てくる。最高裁もこの点に言及しているにもかかわらず、損害賠償
額の予定としての特約の性質決定を強調する。これに対して、学説③がこの点に真正面から注目していることには共感を覚えるのである。
そこで以下では、不当利得返還義務に注目した上で具体的に検討していきたいと思う。
⑵ 不返還特約の中に損害賠償額の予定を見ることの意味
例えば、学納金を一〇〇万円納入したという場合に、﹁学納金については一切返還しません﹂という不返還特約は法 的に何を意味するのか (
、認つか、れらめがこ権除解意任、きこれのをばれすと提前とをこるいてし使行と ( る。あが万こるれ入に手円〇で〇一ばれよに意とで。﹁還けだれそ﹂、〇額返き﹁はいるあ﹂る合 46)
せ務定肯は在存の義還返得利当不、 47)
ざるを得ない。
(三二九二)
不当条項規制と契約解消後の清算二七五同志社法学 六〇巻七号 以上のことを考慮した上で、不返還特約の中に損害賠償額の予定を見ることは何を意味するのかを考えれば、不返還特約を﹁不当利得返還義務を、﹃同額﹄の損害賠償請求権を予定することにより、それでもって相殺する﹂特約と見る ことを意味するということになる (
一つ返得利当不、﹁りま。義るあで能可定想が額還務の不(務義還返得利当﹂、﹁〇○権求請償賠害損+金数、複ずらおてし 還のていつに務義損返得金当不、しか利害額い定確も額金のてつもに権求請償賠。し 48)
〇万円・二〇万円・四〇万円又は)八〇万円+損害賠償請求権(一〇万円・二〇万円・四〇万円又は)八〇万円﹂、あるいは﹁不当利得返還義務一〇〇万円+損害賠償請求権一〇〇万円﹂などの複数の可能性が想定されることになろう (
。 49)
いずれにせよ、不当利得返還義務についての金額が判明しないと損害賠償請求権についての金額も判明しない。したがって、任意法規 (
額賠で、予定される損害償た請求権についての金上し務定り不当利得返還義にについての金額を確よ 50)
を確定する必要がある。そうしてはじめて、九条一号によりその金額が﹁平均的な損害額﹂を超えているかどうかの審査が可能となるのである。
⑶ 不返還特約の中に損害賠償額の予定を見ることができるか
⑵
て当利得返還義務についの、金額が判明しないと損不りで、の検討を前提とすると一まつの疑問が浮上する。つ害賠償請求権についての金額が判明しないような特約の中に、はたして﹁損害賠償額の予定﹂を見ることができるのかという疑問である。思うに、このような不明確な文言でもって、その設定者に権利を創設する﹁損害賠償額の予定﹂をそ
の文言の中に見ることは到底不可能であろう。これに対して、不返還特約といっても﹁○○円返還しない﹂とするものは、○○円を損害賠償額とするものと解することができるし、また、﹁契約解消の場合には受領した金額より損害賠償
として○○円申し受けます﹂とするものはより明確に損害賠償額を示しているといえよう。
(三二九三)
不当条項規制と契約解消後の清算二七六同志社法学 六〇巻七号
以上より、﹁一切返還しません﹂とする不返還特約は、単なる﹁不当利得返還義務の免除特約﹂とのみ解釈すべきと
考える。したがって、﹁不当利得法(任意法規)により課される返還義務を免除する条項﹂として消費者契約法一〇条により審査されるべきことになろう。
⑷ この問題の影響範囲
以上の検討によれば、学説③が﹁不返還特約は、既払いの対価の原状回復をしないとの意味を持つ特約(学校法人側から見れば、原状回復義務の免除特約︹対価保持特約︺)ととらえられることになる (
のっな摘指なもともは点るすと﹂ 51)
である。
また、学納金不返還特約の法的性質に関する検討は、在学契約のみでなく他のあらゆる消費者契約において﹁一切返
還しません﹂とする不返還特約が定められている場合全てに妥当するものである。
さらに、以上のように考えることにより、学説④が述べるように、任意法規による不当利得返還義務の範囲を明確に
することとの関連性が生まれ、それが意識されることになろう。つまり、入学しうる地位という給付は既に履行されていたと考えられるためその対価分については当然不当利得返還義務は存在しないものとして控除可能ということになる
し、それを入学金三〇万円など契約上の文言に拘束されることなく実質的に検討することが可能となるのである。
加えてこのことは、以下の問題とも関連する。すなわち、仮に大学が﹁入学しうる地位の対価は入学金分(三〇万円)
とする﹂との文言を入れていた場合には、Ⅰの問題との関連性が生じてくるのである。すなわち、その場合にはⅠと同様に、﹁契約解消後の既履行分の算定方法に関する合意﹂が問題となってこよう。この問題について、特定商取引法で
は四九条二項一号イに﹁提供された特定継続的役務の対価に相当する額﹂に限定される旨が規定されているが、本事例
(三二九四)
不当条項規制と契約解消後の清算二七七同志社法学 六〇巻七号 のように特定商取引法や割賦販売法における同様の規定が適用されない場合においては、不当利得返還義務の算定方法に関する条項として消費者契約法一〇条が適用されることになろう。
しかし、ここで一つの疑問が生じる。仮に﹁契約解消の場合には受領した金額より損害賠償として○○円申し受けます﹂との条項も同時に設定されていた場合には、この条項については九条一号が適用されることになる。つまり、既に に方題問然当りよに除解、他な、が号一条九はていつとるれ状法方定算の)務義復回原は(務義還返得利当不のずにこ
⑴
号しと提前を除解約契は一が条九、にうよたし摘指もなで、かにめたいないてし制規し、項条るす定予を償賠害損ら関する条項やその免除条項等については、一〇条を適用せざるを得ないということになるのか。本来であれば、契約解消後に消費者に過大な負担を課すことを防止するのであれば、九条一号において事業者の損害賠償請求権に関わる条項
も不当利得返還義務に関わる条項も共に規制すべきものではないかと思われるのである (
。 52)
いずれにせよ﹁学納金不返還条項﹂の法的性質を巡る議論は、この問題の範囲にとどまるものではない。あらゆる﹁(既
払い対価の)不返還条項﹂の問題に影響を及ぼすものである。言い換えれば、﹁学納金不返還条項﹂の法的性質について明らかにすることにより、その他あらゆる﹁(既払い対価の)不返還条項﹂の法的性質を解明し、その法的問題を解
決することとなるのである。
⑸ さらなる疑問
―
消費者に帰責性がないことの考慮以上検討を行ってきたが、特約の中に損害賠償額の予定としての性格を見ることができ、したがって九条一号の適用が問題となるとしても(前述
⑶
っうよみて見を況状題問。るいてわ参た横が題問きべす討検おな)、照。 九条一号は多様な﹁解除・解約﹂の場合を包含すると考え得る (解基定法﹁に者業事ていづに行履不務債の者費消①。 53)
(三二九五)