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課題先進地域における学校統廃合問題と地域住民への影響
布井 佑紀1.はじめに
対馬は、人口約3万1,000人(2018年12月現在)の国境離島である。かつて7万人がこの島 に暮らしていたが、平成16年の市町村合併を境に人口急減問題に直面している。若者の島外流 出や高齢化に歯止めがかからず、地域づくりや環境保全、産業の担い手が不足し、持続不可能に なりつつある。対馬の人口減少率や高齢化率等は本土と比べて高く、いわば課題先進地域である。
持続可能な社会の実現のために、課題先進地域の側から見ると何が必要不可欠なのだろうか。実 際に対馬を訪れ4泊5日でアクションリサーチを行った。
今回の行程の中で、対馬の北西部に位置する上県町佐護を訪れた。天候がいい日は肉眼で韓国 を見ることができる。島の9割が山地である対馬では珍しく、佐護には開けた水田地帯がある。
佐護川を中心に平野が広がり、ツシマヤマネコ(国内希少野生動植物種)の高密度生息地域、渡 り鳥の中継地点として知られる。また、ヤマネコや野鳥の重要な生息環境である水田では、ヤマ ネコや野鳥と人の共生を目指して環境配慮型農業が進められ、「佐護ツシマヤマネコ米」という 生きものブランド米が栽培されている。生物多様性や自然の豊かさを示す指標種であるヤマネ コや野鳥、両生類や昆虫類など多様な生物が見られる。
自然資源に恵まれている佐護で問題となっているのが対馬市立佐護小中学校(併設校)の廃校 である。5年前に同校が対馬市立佐須奈小中学校(併設校)に統合されたことにより、佐護地域 全体の活力がなくなりつつある。
本レポートは、①学校統廃合が地域にもたらす影響、②地域活性化・環境保全のために行われ ている佐護ツシマヤマネコ米の栽培活動の 2 点について記述する。今回のアクションリサーチ では、この2点を考察するために、現地調査3日目に佐護T地区の集会公民館において、佐護小 中学校の卒業生でもあり、ご子息を同学校に通わせていたA氏やB氏、また、同校卒業生で、現 在ご子息を統合先の佐須奈小中学校に通わせている C 氏に、学校統廃合前後の変化や佐護地域 の現状を伺った。また、お三方はヤマネコ米の栽培組織である「佐護ヤマネコ稲作研究会」の会 員でもあることから、同研究会の活動についても話を伺った。
2.地域と学校のつながり
①佐護小中学校の統廃合問題
佐護は佐護川を流域とする7つの集落から成り、対馬市が設ける行政区とは別に、住民が主体 となって地域づくりを行う地域自治協議会組織「佐護区」がある。佐護区は、7つの集落の区長 や、総区長、事務局長、青年部長、会計などの常任執行部からなる。佐護区の元役員であるT氏 によると「佐護区が中心となって、各地区や育成会、学校、消防団など関係組織と一緒に佐護の 地域づくりを進めている」という。育成会は学校、PTAとは異なる子どもたちの育成組織で、学 校関係者、子どもたちの保護者、地域住民が三位一体となり子どもたちの育成に関わってきた。
しかし、現在では育成会の会員が保護者のみで構成されており、地域住民が含まれなくなったこ とによって学校教育への関与は子供を持つ保護者のみとなってしまっている。では、なぜ地域が 含まれなくなってしまったのか。この問題は佐護地区の少子高齢化、学校統廃合に深く関わって いる。
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学校の統廃合は、教育委員会が保護者協議や合意、地域との覚書を踏まえ、議会に諮って決定す るものであるが、佐護小中学校の統廃合の話し合いにおいては、在校生の保護者を対象に進めら れ、小学校入学を控える親や卒業生といった地域住民はほとんど話し合いに加わることがなか った。なぜ、地域住民が話し合いに参加していなかったのだろうか。A氏によると、「地域住民 には学校存続の意見が強く、話し合いがまとまらないので在校生の保護者を中心に話し合いが 進められたのではないか」という。その結果、保護者の意向が尊重され、地区側も同意すること によって佐護小中学校は統合という決定に至った。ではなぜ、保護者は学校統廃合を選択したの だろうか。その理由の一つは、市の教育委員会を中心に統合を行うということが前提で話が進め られていたということ、そしてもう一つが複式学級に対する不安感だ。現在対馬の半数の小学校 は複式学級を有する。複式学級とは、1つの教室で1人の教諭が2つ以上の学年の授業を同時進 行することであり、子どもが少ない離島や過疎地域には多く見られる。複式学級は上級クラスの 授業を低学年の子どもたちが間近で見学することの学習効果を評価する指摘もあるが、社会性 や競争力等を育む点では課題があり、保護者からのそうした不安が少子化とともに募っていっ た。また、体育や部活動も児童数が少ないため、限られたものしか選択できず、子供たちのニー ズや潜在的能力を狭めてしまうといった問題も抱えていた。このような要因から、保護者は佐護 小中学校の統廃合を選択した。しかし地域の人々を議論に含めなかったこの佐護小中学校の統 廃合の決定により、地域と保護者、学校が連携して学校教育をする今までのあり方から地域が切 り離されるという結果になってしまった。
統廃合によって佐護地区にどのような影響が及ぼされたのであろうか。今までは佐護区を中 心に地域づくりが進められていた佐護地区では、小中学校が地域をつなぐハブになっていた。今 も佐護に育成会があるが、先述のように保護者によって構成されており、保護者数が少なくなっ ているため、昔のように地域全体で子供たちを育てようといった文化は無くなっているようだ。
以前2人の子どもを佐護小中学校に通わせていたB氏は「統合以前は、佐護小中学校の運動会に は父兄はもちろんのこと、学校に子どものいない地域の人もほとんど参加していたんですよ。だ けど佐須奈は佐護から遠くて歩いていける距離じゃないから統合後に佐須奈の方にわざわざ行 く気になる人は少なくなって、高齢者を中心に運動会に参加する人は減少していったんですよ」
と話す。学校が地元になくなったことによって、地域と子供たちの関係が希薄になっていった。
また、佐須奈小中学校までの通学の手段は基本的に送迎バス、又は車での送り迎えになってしま ったため、普段、集落で子どもたちを見かけることが少なくなった。その結果、ますます地域の 人が子どもたちと接する機会が少なくなっていった。
ヒアリングの中でも、「子どもたちの姿を見る機会が減り、子どもの声が聞こえなくなって寂 しさを感じます。」といった声を多く耳にした。学校の校舎は地域の大人たちが集まって話し合 う場所でもあった。このように、学校というものは子供たちの教育の場としてだけでなく、その 周辺に暮らす地域の人たちの生活の一部でもあったため、佐護小中学校の統廃合は佐護地区全 体に大きな喪失感を与えたのではないだろうか。
②佐護僻地保育所の閉園
佐護小中学校の統廃合の問題に加え、若者の流出と子どもの減少により、佐護の保育所の存続 問題もあった。保育所は対馬市の所管であり、園児の減少から佐須奈保育所への統合を市は地域 に提案した。しかし、佐護区としては保育所だけはどうしても残したいという考えがあった。そ
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こで市は佐護区に対して、閉園ではなく休園し、園児が10人集まれば再開する案を示した。け れども、当時の佐護には、園児を集めても4人しかおらず、10人集めるのは厳しい状況であり、
保育所への入園を控える若い夫婦世帯が自主的に集まり、入園の意向や統合への意識について 話し合いを行った。そうした会合での意見等を踏まえ、2016年度末で閉園になった。この休園・
閉園によって、佐護の地域で子どもの姿を見る機会はさらに少なくなってしまった。こうして子 供の育成を中心に地域のつながりが保たれてきた佐護区は、地域づくりのベースとなる機能の1 つを失ってしまったのである。
③廃校後の佐護小中学校
統廃合後の佐護小中学校はどのような状態になっているのだろうか。体育館は社会教育施設 として教育委員会が今も管理を続け、地域住民がミニバレーや卓球などのスポーツ交流の際に 活用している。グラウンドについては、地域のご高齢の方々がグラウンドゴルフ場として利用し ている。校舎や給食施設については、対馬市が佐護地区住民の参加を呼びかけ、ワークショップ 形式でその利活用を促す試みを行った(平成25年度)。佐護区ともその利活用を検討したが、
実現に至っていない。その大きな理由は資金と人材の問題である。校舎の基礎的なリノベーショ ンは行政が担えるとしても、管理運営には、人件費や高熱水費などの維持管理費を要する。その 費用まで行政が負担することは望めず、地域側がその収支のバランスを保ちながら経営してい くには、相当の経営戦略や体制づくり、人材確保、資金調達を行わねばならない。人口減少に悩 み、担い手が不足する佐護地区にはそれだけの体力のある人や団体・企業はいない。また、佐護 地区外から運営組織や企業を募ることも手段として考えられるが、立地的に空港や中心部から のアクセスに時間を要するため、それを望むことも難しい。A氏を含め佐護の地域住民は何度か 市に佐護小中学校の利活用の件を掛け合っているが、対馬全体で数多くの廃校を抱える中、施設 改修後の管理運営面も含めて佐護地区だけを支援することは難しい。自主的に運営できる組織 づくりと自立的な経営ができなければ、改修は現実的ではないだろうと市の関係職員はコメン トしている。
校舎の利活用ワークショップが行われて以降、住民同士で利活用について話し合われること は無く、校舎の老朽化も進み、次第に利活用が難しくなっている。このような状況は佐護に限ら ず、小中学校が廃校になった多くの地域が抱えており、対馬全体、過疎地域全体の問題である。
④佐護地区における地域活動
廃校問題についてヒアリング調査を行っていく中で、廃校に至るほど人口減少や少子高齢化 に悩む地域であっても、地域を活性化させるために様々な努力をしていることが分かった。その 1つが「佐護ツシマヤマネコ米」の取り組みである。
島内の美味しい米どころとして知られる佐護地区では、少子高齢化、離農によって委託農業が 進み、担い手が不足する中で耕作放棄への不安が高まった。そうした状況の中、環境省対馬野生 生物保護センターが平成19年度に開催した「集落座談会」をきっかけに、佐護の農業の存続の ために集まったメンバーでヤマネコに配慮した農業についての勉強や研修を重ね、平成21年7 月30日に佐護ヤマネコ稲作研究会を発足させた。同研究会では、ツシマヤマネコをはじめとす る生きものに優しい農法を研究し、その農法を実践し、独自の認証制度によって高付加価値を生 み出し、人もヤマネコも共生する社会づくりに取り組んでいる。慣行農法と減農薬、無農薬田の
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比較実験を行いながら、生きものと農家にとってどのようなメリットがあるかの研究も行われ た。その結果、無農薬は農家の労力やコストがかかるため、それらを抑えつつ、生きものへの環 境配慮を最大化させるために減農薬栽培の方針を採った。田んぼやその周辺での自動撮影調査 では多くのツシマヤマネコの生息が確認され、稲作農業を続けていくことの重要性が示された。
ヤマネコ米が生産される田んぼは「認定田」と研究会が定め、ここで収穫されたお米は「佐護ツ シマヤマネコ米」として、那須どうぶつ王国をはじめ、ヤマネコ関係者の支援を得ながら島内外 各地へ販売されている。佐護ツシマヤマネコ米に携わる関係者からは、全国的にヤマネコ米を広 げたいという熱い期待が寄せられている。さらに、佐護小学校では田んぼでのヤマネコ(環境)
学習が以前から行われ、佐須奈小学校に統合された今でも研究会の農家や対馬野生生物保護セ ンター等の協力を得ながら、田植え、稲刈り、生きもの調査などの体験学習が継続されている。
今回、私たちはヤマネコをはじめ対馬の野生動物写真家である川口誠氏のガイドにより田ん ぼでのナイトリサーチを行った。ツシマヤマネコを見つけることはできなかったが、田んぼの周 りには多くのトンボが飛び回っており、生物の多様性を感じることができた。また、ヤマネコ米 を栽培するために基準を満たした「認定田」のほかに、「試験田」という看板もあり、減農薬に つながる栽培方法や生きものとの共生策の試みが現在進行形で行われていることも確認できた。
3.まとめ
地域づくりには、地元住民の主体性が必要不可欠である。今回、佐護地区の方々にお話を伺う 中で、統廃合で地域づくりの核になっていた学校を失い、地域が元気を無くしていることをお聞 きしたが、それでも佐護地区の人々は諦めずに地域づくりに取り組んでいることが分かった。し かしながら、極度の人口減少と担い手不足によって、個々人にやりたいという想いはあっても、
廃校の利活用検討のプロセスに見られるように、精神的にも体力的にも予算的にもその余裕が 無いのが実情のようである。地域側だけでなく、行政との協働がどうあるべきかも考えさせられ た。
アクションリサーチでは、学校が担う地域との関わり合いを色濃く感じた。対馬では学校は地 域づくりの核となっており、運動会や文化祭など学校行事を通して、学校にいる子供やその親は もちろんのこと、学校に子供を持たない地域の人も参加するなど地域全体をつなぐ役割を担っ ていた。このような光景は私たちの暮らす首都圏ではまず見ることができない。学校を媒体とし、
子供たちが地域の人たちと幼いころから関わり合いを持つということは非常に重要なことであ る。そのような地域とのつながりの場であった学校が、児童生徒数の急減に伴い、統廃合された ことによって、今まで学校を核に保たれてきた地域の生活、つながり、誇りといったコミュニテ ィに必要なものが失われている。学校の統廃合は、学校教育が抱える課題を解決する一方で、子 育て世帯の流出やUIターンの阻害、地域の衰退など地域維持に与えるインパクトは実に大きい。
現在、日本では年間500以上の学校が廃校になっている(平成27年度調べ)。しかしこれだ けたくさんの学校が廃校になっているにもかかわらず、私の暮らす都市部では統廃合を目にす ることがなく、廃校問題のリアリティを持つことができなかった。もちろんドーナツ化現象等で 都市中心部の児童生徒が減り学校が廃校になるケースもあるが、人口規模や集積の利を活かし て都市的文化的な機能を持たせてリノベーションが行われることが多い(秋葉原の 3331 Arts
Chiyodaや四谷の東京おもちゃ美術館等)。
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実際に学校の統廃合が行われた佐護地区の訪問を通じて、学校が無くなってしまった地域の 人たちの喪失感や、学校という場所の地域における重要性を実感することができた。日ごろ目に することができる子供たちの通学風景や遊ぶ姿は、佐護に住んでいる人たちにとっては、もう目 にすることができなくなってしまったかけがえのないものである。少子化と高齢化が急速に進 む日本では、佐護のような過疎地域に生じる廃校後の影響や変化を整理し、今後多くの地域が直 面しうる課題に対して対策や方針を示す必要に迫られていると感じた。
今回の対馬のアクションリサーチでは新しい発見がたくさんあり、その中でも特に惹かれた のが「半農半X」のような兼業のあり方だ。対馬には、山や農地、漁業権を有し、農業組合、森 林組合、漁業共同組合すべての組合に属している方が多い。これは対馬に住む人々が、山や海、
川の恵みを享受しながら暮らしてきた証であろう。都会に生まれ育った私にとって、そのような 生活自体が新鮮で、様々な生業を兼業しながら、糧を生み出す暮らしはとても魅力的だった。ま たIターン者を増やすために、対馬市では農林水産インターンシップ事業を推進し、島外の若者 を中心にPRを行い、交通費や滞在費を支援しながら、対馬の農林水産事業者とのマッチングを 図っている。農林水産業の現場体験を通じて豊かな職業観を育むとともに、将来的な人材確保と 育成に取り組んでいる。産業の担い手不足に悩む対馬では、お試し移住住宅や引越し経費補助な ど、様々な移住支援策が用意され、移住しやすい環境づくりが進められている。
最後になるが、今回のフィールドワーク中に車で何度も行き来した佐護地区は、豊かな自然に 囲まれ、減農薬で行われている田んぼは様々な生き物の住みかとなっており、日本の昔ながらの 田舎の原風景が広がっていた。このような様々な生き物とともに人が暮らす里地里山的な風景 は現代の日本では少なくなっており、これも佐護の一つの大切な資源ではないだろうか。このよ うに対馬は衰退が進む地域の中にも「対馬らしい」素晴らしいものをたくさん持っている。今後 対馬が持っている資源や暮らし方、文化を発信することにより、多くの人が対馬の魅力に惹かれ、
移住する人たちが出てくることを願っている。そのためにも「教育の機能の有無や質」が問われ るため、教育委員会、学校、地域、行政それぞれが縦割りで対処すべきものではなく、総合的に 向き合っていくことが、子どもたちにとっても地域に暮らす人たちにとっても重要なことでは なかろうか。
(ぬのい・ゆうき 立教大学社会学部現代文化学科 3年 阿部治ゼミ)