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界面活性剤によって誘発される痒みと ケラチノサイトによる

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富山大学学位論文

界面活性剤によって誘発される痒みと

ケラチノサイトによる histamine 産生に関する薬理学的研究

井浪  義博

富山大学大学院 医学薬学教育部 生命薬科学専攻 応用薬理学

(指導:倉石  泰  教授)

Ph.D. Dissertation

Pharmacological studies on surfactant-induced itching and the involvement of histamine released from keratinocytes

Yoshihiro Inami

(2)

1. 本論文は,2013年4月~5月に富山大学大学院医学薬学教育部生命薬科学専攻において審 査されたものである。

主査      倉石  泰  教授(応用薬理学研究室)

副査      清水  忠道  教授(皮膚科学講座)

      門脇  真  教授(消化管生理学研究室)

      新田  淳美  教授(薬物治療学研究室)

2. 本論文は,学術情報雑誌に公表および公表予定の以下の論文を基礎とするものである。

基礎となる報文

① Yoshihiro Inami, Tsugunobu Andoh, Atsushi Sasaki, and Yasushi Kuraishi

Topical surfactant-induced pruritus: Involvement of histamine released from epidermal keratinocytes

J Pharmacol Exp Ther.344: 459-466. (2013)

② Yoshihiro Inami, Tsugunobu Andoh, Atsushi Sasaki, and Yasushi Kuraishi

Surfactant-induced itching and the involvement of histamine released from keratinocytes Yakugaku Zasshi132: 1225-1230. (2012) (Review: Japanease)

③ Yoshihiro Inami, Tsugunobu Andoh, and Yasushi Kuraishi

Prevention of topical surfactant-induced itch-related responses by chlorogenic acid through the inhibition of increased histamine production in the epidermis

J Pharmacol Sci.121: 242-245. (2013)

④ Yoshihiro Inami, Atsushi Sasaki, Tsugunobu Andoh, and Yasushi Kuraishi

Pruritus induced by repeated topical application of surfactant: Involvement of increases in histamine in the keratinocytes

(Manuscript in preparation)

3. 本論文の研究は,倉石  泰  教授の指導の下に富山大学大学院医学薬学教育部生命薬科学 専攻およびホーユー株式会社総合研究所において行われた。

(3)

目次

緒言 p. 1

界面活性剤と痒み p. 1

背景 p. 2

1. 痒み p. 2

1-1. 痒みの表現 p. 2

1-2. 痒みの分類 p. 3

1-3. 痒みの悪循環(itch-scratch vicious cycle) p. 3

1-4. 動物を用いた痒みの評価法 p. 4

1-5. 末梢における痒みの伝達経路(ヒスタミン依存的/ヒスタミン非依存的経路) p. 5 1-6. ヒスタミン生合成とヒスチジン脱炭酸酵素(HDC) p. 6

1-6-1. マスト細胞内の貯蔵型ヒスタミンとヒスチジン脱炭酸酵素(HDC) p. 7

1-6-2. マクロファージ内の誘導性ヒスタミンとヒスチジン脱炭酸酵素(HDC) p. 8

2. 化粧品および医薬部外品によって生じる痒み p. 10 2-1. 化粧品において記載できる痒み症状に対する表現 p. 10 2-2. 薬用化粧品において記載できる痒み症状に対する表現 p. 11 2-3. 化粧品および医薬部外品によって生じる痒み p. 12

3. 界面活性剤 p. 14

3-1.界面活性剤の分類 p. 14

3-2.界面活性剤による一次刺激性接触皮膚炎と刺激蓄積性接触皮膚炎 p. 14

3-3.アニオン性界面活性剤の洗浄作用と皮膚保湿成分の流出 p. 15

3-4.アニオン性界面活性剤による皮膚乾燥および皮膚荒れの出現と痒みとの関係 p. 15

3-5.アニオン性界面活性剤の皮膚浸透性と細胞障害性 p. 16

3-6.洗浄剤開発ストラテジー p. 16

3-7.敏感肌と界面活性剤 p. 17

3-8.生活環境と界面活性剤 p. 17

1章  アニオン性界面活性剤ラウリン酸ナトリウムによって誘発される急性の痒みp. 18

(4)

naloxoneおよびterfenadineの影響 p. 29

1-2-5. ラウリン酸ナトリウム誘発の遅発性掻き動作の

発生時における組織学的検討 p. 30

1-2-6. 水酸化ナトリウム単回塗布による掻き動作への影響 p. 31

1-3. 考察 p. 33

第2節  ラウリン酸ナトリウム誘発の遅発性掻き動作へのヒスタミンの関与 p. 36

2-1. 実験材料および実験方法 p. 36

2-2. 実験結果 p. 38

2-2-1. ラウリン酸ナトリウム誘発の遅発性掻き動作へのマスト細胞の関与 p. 38

2-2-2. ラウリン酸ナトリウム誘発の遅発性掻き動作発生時における

血管透過性亢進の関与 p. 39

2-3. 考察 p. 39

第3節  ケラチノサイトにおけるヒスタミン産生・遊離の促進機構 p. 40

3-1. 実験材料および実験方法 p. 40

3-2. 実験結果 p. 43

3-2-1. ラウリン酸ナトリウムの皮膚内ヒスタミン含有量および

HDC発現量に及ぼす影響 p. 43

3-2-2. マスト細胞欠損マウスにおけるラウリン酸ナトリウムの

皮膚内ヒスタミン含有量に及ぼす影響 p. 45

3-2-3. ラウリン酸ナトリウム刺激後のケラチノサイトにおけるヒスタミン産生 p. 46

3-3. 考察 p. 47

第1章・小括 p. 49

2章  染井吉野の葉抽出エキス及びクロロゲン酸の鎮痒効果 p. 51 第1節  染井吉野(P. yedoensis)の葉抽出エキスおよびクロロゲン酸の

ラウリン酸ナトリウム誘発掻き動作の抑制 p. 51

1-1. 実験材料および実験方法 p. 52

1-2. 実験結果 p. 54

1-2-1. 染井吉野の葉抽出エキスの

ラウリン酸ナトリウム誘発遅発性掻き動作の抑制 p. 54

1-2-2. 染井吉野の葉抽出エキス中に含まれるクロロゲン酸の定量 p. 55

1-2-3. クロロゲン酸のラウリン酸ナトリウム誘発遅発性掻き動作の抑制 p. 56

1-3. 考察 p. 57

(5)

第2節  クロロゲン酸のヒスタミン産生・遊離の促進機構への作用 p. 58

2-1. 実験材料および実験方法 p. 58

2-2. 実験結果 p. 61

2-2-1. ヒスタミン注射後の血管透過性亢進に対するクロロゲン酸の効果 p. 61

2-2-2. ヒスタミン誘発掻き動作に対するクロロゲン酸の効果 p. 62

2-2-3. マウス表皮内ヒスタミン含有量およびHDC発現量に対する

クロロゲン酸の効果 p. 63

2-2-4. ヒト3次元培養表皮内のHDC発現量に対するクロロゲン酸の効果 p. 64

2-2-5. クロロゲン酸の掻き動作誘発および擦り動作誘発の検証 p. 65

2-3. 考察 p. 65

第2章・小括 p. 66

3章  アニオン性界面活性剤ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)

によって誘発される慢性の痒み p. 67

第1節  SDS誘発掻き動作 p. 67

1-1. 実験材料および実験方法 p. 69

1-2. 実験結果 p. 74

1-2-1. SDS単回塗布による掻き動作の誘発および皮膚表面pHへの影響 p. 74

1-2-2. SDS反復塗布による掻き動作,皮膚炎,

皮膚乾燥の誘発,皮膚表面pH変化 p. 75

1-2-3. SDS反復塗布によって誘発される掻き動作に対する

naloxoneおよびterfenadineの影響 p. 77

1-2-4. SDS反復塗布によって誘発される掻き動作発生時における組織学的検討 p. 78

1-2-5. マスト細胞欠損マウスにおけるSDS反復塗布によって誘発される掻き動作 p. 79

1-2-6. SDS反復塗布による真皮内のヒスタミン含有量の変化 p. 80

1-2-7. SDS反復塗布による表皮内のHDC発現量の変化 p. 81

1-2-8. SDS反復塗布による表皮内のHDC mRNA発現量の変化 p. 82

1-3. 考察 p. 83

(6)

総括 p. 93

謝辞 p. 94

参考文献 p. 95

論文要旨 p. 106

(7)

本論文では以下のような略号を用いた(アルファベット順)

ATP: adenosine triphosphate

Bis-Tris: bis (2-hydroxyethyl) iminotris (hydroxymethyl) methane cDNA: complementary DNA

CGRP: calcitonin gene-related peptide EIA: enzyme immunoassay

HDC: L-histidine decarboxylase HE: hematoxylin and eosin

HPLC: high performance liquid chromatography Ig: immunoglobulin

MAP: mitogen-activated protein

MOPS: 3-morpholinopropanesulfonic acid NGF: nerve growth factor

NO: nitric oxide

NOS: nitric oxide synthase PAR: protease-activated receptor PBS: phosphate-buffered saline

PBS-T: PBS containing 0.1% Tween 20 PVDF: polyvinylidene difluoride SC: stratum corneum

SDS: sodium dodecyl sulfate SEM: standard error of the mean TB: toluidine blue

TBS: tris-Buffered Saline

TEWL: transepidermal water loss

(8)

緒言

界面活性剤と痒み

  界面活性剤による洗浄の基本性能とは,皮膚表面に付着した塵埃等の汚れや皮脂の分解物,

剥離した角質細胞などを取り除くことである。この洗浄行為により皮膚は健やかに美しく保 たれ,皮膚の生理機能を活発に維持することができる。そのため,日常生活の中で皮膚の洗 浄は重要な行為である。

しかし,皮膚洗浄剤の使用によって痒みを感じるヒトが増加しているのは事実である。痒 みの感じ方に特徴があり,健常皮膚の場合は洗浄中や洗浄後に一過性の痒みを生じる。その ような場合,消費者は使用した皮膚洗浄剤が自身の皮膚に合わなかったものと考えたり,そ の日の体調などの影響と結論付けたりしてしまい積極的な対応をすることは殆どない。確か に,私達はこのように日常生活で感じる持続しない痒みを取り上げて大きく問題視すること はそう多くはない。現実的に問題になる痒みは,持続的な強い痒みである。このような痒み を感じる皮膚は健常皮膚というよりは乾燥皮膚や荒れ皮膚,敏感皮膚である場合が殆どであ る。界面活性剤による洗浄行為を頻繁におこなっている理・美容師や看護師,主婦などの頻 回使用者に手湿疹を罹患している方が多く,慢性的な痒みに苦しんでいる(Inoue et al., 2008)。

昨今,生活環境が良くなり,快適な生活になるにつれて洗浄剤の使用頻度が増加している。

生活環境が変化した時には,今まで大きな問題になっていなかったことが問題化することが ある。その一つに洗浄剤(界面活性剤)という日常生活に欠かせない原料によって誘発され る発赤,皮膚乾燥,痒みなどの皮膚トラブルがある。

パーソナルケア製品(化粧品や日用品)に対する疫学調査によると,皮膚有害反応事例の

約 70%が非アレルギー性の刺激によるものであることが示されている(Simion and Allen,

1994)が,明確な原因の特定にまで至ったケースは少ない。多くの場合,消費者は外部から の物理刺激や化学刺激に対して初めは明確な臨床症状を伴わない感覚的な症状を訴える

(Groot et al., 1987; Paquet et al., 1998; Berne et al., 1996)。この不快感としてツッパリ感,痒み,

チクチク感,灼熱感などがあり,これらを単独あるいは複合して感じる。このような主観的 感覚は先でも述べたように微弱な徴候で一時的なものであれば大きく問題視されることはな いが,パーソナルケア製品は日常的に使用するため,微弱であった不快感に連続性が生まれ ると,やがて皮膚荒れ,皮膚乾燥,発赤などの肉眼的に確認できる症状へ移行する(Simion et

al., 1995)。その原因と考えられているパーソナルケア製品として皮膚洗浄剤(主成分がアニ

オン性界面活性剤)がある(Simion et al., 1995)。これらの知見から,痒みの発生に界面活性 剤が直接的もしくは間接的に関与している可能性が推測されるが,界面活性剤によって誘発 される痒みの発生機序の詳細は不明である。

そこで本研究では,アニオン性界面活性剤が直接痒みを発生する刺激となり得るのかとそ の痒みの発生機序を検討した。

(9)

背景

1.痒み

1-1.痒みの表現

  痒み(Pruritus)は,ドイツ人医師であるSamuel Hafenrefferによって1660年に unpleasant

sensation と定義されている。

  また,他に痒みは An unpleasant sensation that provokes the desire so scratch(Rothman, 1941),

「掻爬衝動に駆られる不快な感覚」と表現されている。しかし,不快かどうかは主観的な感 覚であり,Savin(1998)は A sensation that, if sufficiently strong, will provoke scratching or the

desire to scratch ,「十分に強ければ,掻爬または掻爬行動に駆られる感覚」と説明している。

  痒みは皮膚表層及び皮膚に隣接した粘膜や角膜に固有の掻爬欲求を伴う不快な感覚であり,

痛みなどと並ぶ生理学的体性感覚の一種である。痒みは,古くから認識されてきた感覚であ るにも関わらず,生命に直接関わる程の緊急性が高くなかったことなどの理由で,痒みの研 究は未だ途上にある。痒みは主観的な感覚であることから,痒みを「痒い」という表現だけ ではなく,より具体的に表すことが難しい。このような痒みの表現の多様性から青木と岡田

(2001)は痒みの性質を表す表現として8種類を挙げ,Yosipovitchら(2000)は10種類挙げ ている(Table 1)。

Table 1. 痒みの表現

青木敏之と岡田茂樹, 2001 Yosipovitch et al., 2000

as insect crawl 虫が這うような tickling くすぐったい

chiku-chiku チクチク stinging ピリピリ

iji-iji イジイジ crawling like ant ムズムズ

muzu-muzu ムズムズ stabbing 刺すような

piri-piri ピリピリ pinching 摘みたい

stinging 刺すような burning 灼熱感

burning 焼けるような bothersome やっかいな

(10)

1-2.痒みの分類

  皮膚由来の痒み感覚の多くは,表皮真皮境界部に存在する一次求心性ニューロン(C線維)

の自由神経終末(軸索末端)が物理的・化学的刺激などによって活性化されて,生じたイン パルスが脊髄後角へ入力され,脊髄後角で二次ニューロンに伝達され,脊髄視床路を上行し,

大脳皮質感覚野に到達することで認識される。この痒み伝達経路を介して発生する痒みを① pruritoceptive itch(末梢性掻痒)とし,炎症や皮膚乾燥,皮膚障害によって生じる。乾皮症,

蕁麻疹,虫刺され,乾癬など多数の皮膚疾患による痒みが該当する。上記で述べた痒みの求 心性経路のどこかで障害性刺激が生じて発生する痒みを②neuropathic itch(神経障害性掻痒)

とし,帯状疱疹後の掻痒,脳血管障害,多発性硬化症,脳腫瘍に伴う掻痒が該当する。神経 に病理的異常が認められずに中枢で生じる痒みを③neurogenic itch(中枢性掻痒)とし,胆汁 うっ滞による掻痒,慢性肝疾患,慢性腎疾患が該当する。この中枢性掻痒にはオピオイド受 容体の関与がいわれている。精神的な異常によっても痒みが発生し,この痒みを④psychogenic itch(心因性掻痒)とし,寄生虫忌避症における妄想や脅迫性障害,うつ病,ストレスによっ て生じる。痒みを成因から上記のように4種類に分類する提唱がなされている(Yosipovitch et al., 2003; Twycross et al., 2003; Ikoma et al., 2006)。

1-3.痒みの悪循環(itch-scratch vicious cycle)

ヒトは痒みにより「掻きたい,あるいは掻かずにおられない」という衝動を抱く(生駒,

2006)。そして,掻くことが掻きたい衝動を更に引き起こすが,掻き動作の繰返しで痒みは治

まる。しかし,掻爬行為が皮膚を物理的に傷つけ,外部刺激から生体を守るバリア機能を脆 弱化させる。皮膚が障害を受けると表皮細胞からinterleukin-1やtumor necrosis factor-などの サイトカインが放出される。これらの炎症性サイトカインはマスト細胞や血管内皮細胞の活 性化を介して炎症を誘発し,皮膚症状を悪化させる(Pastore et al., 2000)。さらに,C線維(知 覚神経)を上行したインパルスの一部が遠心性に神経に伝わることによって,神経終末から substance P(アミノ酸11個)やcarcitonin gene related peptide(CGRP,アミノ酸37個)など の神経ペプチドが遊離される。この遊離された神経ペプチドが炎症を増幅させると考えられ ている(Jarvikallio et al., 2003)。炎症が生じると炎症部位やその周辺から炎症性サイトカイン などの化学物質が放出され,それらが原因で再び痒みを生じるようになる。その結果,痒み が強くなり,掻爬により皮膚炎を悪化させるという悪循環(itch-scratch vicious cycle)に陥る

(Wahlgren, 1999; Yosipovitch and Papoiu, 2008)。つまり,皮膚の修復を待たずして再び掻爬す ることで皮膚が修復されない,むしろ皮膚炎が進行し感染症の原因になってしまう場合もあ る。また,執拗な激しい痒みは集中力の低下や睡眠障害を招き,生活の質(quality of life, QOL)

を著しく低下させる(Ayres, 1964)のみならず,外見が気になり外出を躊躇うなどの見た目 の問題にも繋がる。痒みはストレスなどの心理的な要因によっても発生し,掻くことで皮膚 炎を誘発し痒みが悪化する(stress-scratch cycle)。誰もが経験したことがあるように,冬期な どの空気が乾燥している時期に皮膚が乾燥し痒みを感じる。このことからも皮膚乾燥が痒み

(11)

を誘発する要因の一つであることは周知されている。

1-4.動物を用いた痒みの評価法

Histamineやマスト細胞脱顆粒促進物質(compound 48/80)などの起痒物質の皮下注射がヒ

トの痒みモデルとして伝統的に使われている(Fjellner and Hägermark, 1985; Woodward et al.,

1995)。しかし,ヒトを対象とした研究には,被験者として参加するヒトの人権や安全などに

関する倫理的な問題があるため,積極的に研究対象にするには限界がある。また,痒みは主 観的な感覚であることからも客観的な評価が困難であった。しかし,Kuraishiら(1995)は,

前肢や舌で触れることができず,後肢のみで触れることができるマウスの吻側背部皮膚に,

ヒトで痒みを起こす起痒物質(compound 48/80とsubstance P)を皮下注射すると,注射部位 やその周辺への後肢による掻き動作が惹起されるが,発痛物質(capsaicinとformalin)を皮下 注射しても掻き動作が引き起こされないことを見出し,掻き動作が痒み関連行動である可能 性を示している。つまり,マウスの掻き動作を指標に痒みの程度を客観的に評価することが 可能となった。

痒みの主要なメディエーターの一つであるhistamineは古くから知られており(Lewis, 1927), 臨床では痒みに対する第一選択薬としてH1ヒスタミン受容体遮断薬が処方されるが,急性蕁 麻疹を除くアトピー性皮膚炎などの慢性掻痒を伴う痒みには効果が低い。動物においても

histamine の皮内注射で掻き動作を示すのはICR,ddY,BALB/c,C57BL/6,WBB6F1などの

限られた系統のマウスであることが報告されている(Inagaki et al., 2001)。これらの結果から,

マウスではhistamineが共通の起痒物質でないことを示唆している。

Kondoら(1964)によって確立された近交系NC/Ngaマウスは,無菌(specific pathogen free, SPF)環境下では皮膚炎を発症しないが微生物コントロールや飼育用ケージなどの器具等の滅 菌をしていない(conventional)環境下での飼育により皮膚炎を自然発症する。NC/Nga マウ スは皮膚炎の発症に伴い掻き動作が誘発されること,血中 IgE 濃度の上昇,皮膚の病理組織 学的形態など多くの点でアトピー性皮膚炎患者と類似している(Matsuda et al., 1997)。そして,

この掻き動作がμオピオイド受容体拮抗薬で抑制される(Maekawa et al., 2002)。ヒトにおい てもμオピオイド受容体拮抗薬は,胆汁うっ滞,慢性蕁麻疹,アトピー性皮膚炎などの掻痒 性疾患患者の掻き動作を抑制し(Mansour–Ghanaei et al., 2006; Monroe, 1989),健常者におけ

るhistamine誘発性の痒み(Bernstein et al., 1982)など様々な原因によって誘発される痒みを

(12)

1-5.末梢における痒みの伝達経路(ヒスタミン依存的/ヒスタミン非依存的経路)

  末梢においてマスト細胞が産生・放出する histamine,tryptase や神経終末から放出される

substance PおよびCGRP,ケラチノサイトが産生・放出するleukotriene B4および一酸化窒素

(nitric oxide, NO),活性化CD4陽性T細胞が産生・放出するinterleukin-31なども痒み発生因 子や痒み増強因子として作用している(Ando and Kuraishi, 1998, 2003; Ando et al., 1998, 2004, 2009; Yamaguchi et al., 1999; Dillon et al., 2004; Ui et al., 2006)。皮膚内histamineは蕁麻疹や皮膚 肥満細胞症,薬疹などの皮膚疾患に伴う痒みのメディエーターとして知られている。H1ヒス タミン受容体遮断薬はヒトと動物の両方において histamine 誘発性の痒みに有効である

(Ohtsuka et al., 2001; Ui et al., 2006; Jauregui et al., 2007)。しかし,抗histamine薬は急性蕁麻 疹には著効を示すが(Ferguson et al., 1985),アトピー性皮膚炎などの掻痒性皮膚疾患におい ては有効ではない(Klein and Clark, 1999)。Histamineは痒みとともに,直接的血管拡張作用 や,histamine感受性C線維の軸策反射により血管拡張作用のある神経ペプチド(substance P

や CGRP)を放出することで皮膚に紅斑をもたらす。しかし,日常的に体験する痒みには必

ずしも紅斑を伴わない。これより,histamine 非依存的なシグナル伝達経路の存在が推測され る。Cowhage(mucuna pruriens, 八升豆の鞘を覆う産毛状の棘)を皮膚に接触させると痒みは 生じても紅斑は生じない。またヒトでの実験で,カプサイシンを皮膚に投与して末梢神経の 脱感作を起こした場合,cowhageの痒みは抑制してもhistamineの痒みは抑制しないことが報 告されている(Johanek et al., 2007)。これらの知見から現在のところhistamine依存的および histamine非依存的な2種類の経路があると考えられている(Davidson et al., 2007; Johanek et al., 2007; Namer et al., 2008; Nakano et al., 2008; Davidson and Giesler, 2010)。

Protease-activated receptor(PAR)はPAR-1~PAR-4の4つのサブタイプが知られており,い ずれの受容体も,tryptaseなどのプロテアーゼが作用するとアミノ末端の細胞外領域の特定部 位が限定分解され新しく現れたアミノ末端の領域が,自らの第二細胞外ループの領域に結合 して,細胞内に情報が伝達される(Ossovskaya and Bunnett, 2004)。PAR-1~PAR-4の各受容体 のペプチド性アゴニストを NC 系マウスの皮膚に投与すると,PAR-2 アゴニストのみが用量 依存的に痒み関連行動を誘発する(Tsujii et al., 2008, 2009)。Tryptase 誘発掻き動作および

compound 48/80誘発掻き動作は抗PAR-2抗体(プロテアーゼ切断部位をエピトープとする抗

体)およびPAR-2拮抗薬で抑制される(Ui et al., 2006)。これらの結果から,マスト細胞の脱 顆粒によって放出された tryptase が一次求心性ニューロンのPAR-2 受容体に作用して痒みシ グナルを発生させる可能性が考えられ,histamine非依存的な経路の一つであると思われる。

  脂質メディエーターの一つであるleukotriene B4は,マウスではhistamineよりも強力な起痒 物質であり,一次求心性ニューロンの BLT1 受容体への結合が起痒作用の一つと考えられる

(Ando et al., 1998, 2004, 2009)。皮膚においてNOはL-arginineからnitric oxide synthase(NOS)

によって生合成される(Palmer et al., 1988)。Substance PはNOS発現細胞に作用してNOを産 生する(Bull et al., 1996)。Substance P誘発掻き動作をNOS阻害剤が抑制する。しかし, NO の基質である L-arginine や NOドナーである NOR3 の皮内注射では掻き動作が起きないが,

(13)

substance P誘発掻き動作を増強する。これよりNOは痒み増強因子であることが示唆されて いる(Ando and Kuraishi, 2003)。

  表皮真皮境界部辺りにはsubstance PおよびCGRP含有一次求心性線維が広く分布しており,

substance P,CGRPは皮内注射により痒みを生じることから,一次求心性線維の興奮により,

一次求心性線維の神経終末から遊離されるsubstance PやCGRPが痒みを惹起する可能性が示 唆されている。これらは主にマスト細胞を刺激し,histamine を遊離させる作用によると考え られている(Hägermark et al., 1978)。しかし,ヒトで痒みを誘発させる濃度の substance P

(Fjellner and Hägermark, 1981)をヒト皮膚マスト細胞に作用させてもhistamine遊離は起こら ない(Ebertz et al., 1987)。また,CGRPをヒトの皮膚に投与しても,皮膚内histamine量の増 加は確認されていない(Weidner et al., 2000)。これらの研究から,マスト細胞由来のhistamine

がsubstance P誘発の痒みやCGRP誘発の痒みに重要ではないことが推測されるが詳細は不明

である。

Interleukin-31 トランスジェニックマウスは自発的に皮膚炎と痒み関連掻き動作を誘発する

(Dillon et al., 2004)。アトピー性皮膚炎患者の血中interleukin-31レベルは重症度と相関して 増加している(Ezzat et al., 2011)。Transient receptor potential(TRP)チャネルなども痒み発生 に関与することが報告されている(Alenmyr et al., 2009; Steinhoff and Bíró, 2009)。これらの報 告より,histamine非依存的なシグナル伝達経路は複数存在する可能性が考えられる。

  まとめると,多くの掻痒性皮膚疾患において複数の因子が痒み発生や痒み増強に関与して いると考えられ,末梢の痒み発生機構が十分に解明されているとは言い難い。そのため本研 究では,界面活性剤という誰もが日常的に使用する物質を研究対象にし,末梢性掻痒の新た な痒み発生経路の証明に取り組んだ。

1-6.ヒスタミン生合成とヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)

Histamine はアミノ酸の L-histidine に特異的で,かつ高親和性の L-histidine decarboxylase

(HDC)により産生される。Histamine産生・貯蔵細胞には,マスト細胞や好塩基球,エンテ ロクロマフィン様細胞などがあり,histamine は顆粒内に貯蔵され,刺激に応じて細胞外へ放 出されて生理作用を示すとする考え方が一般的とされている。一方,顆粒内に貯蔵されてい

る histamine とは異なり,細胞刺激により細胞内で生合成される誘導性 histamine の存在様式

が指摘され,免疫機能との関連性が示唆されている(Kahlson and Rosengren, 1968; Takamatsu et

(14)

Nishibori et al., 2001)ことから,生体防御との関連性が示唆されている。HDC発現細胞とし て,マスト細胞以外にケラチノサイト(Fitzsimons et al., 2001),T細胞(Oh et al., 1988; Aoi et al., 1989),B細胞(Oh et al., 1988),マクロファージ(Kawaguchi-Nagata et al., 1988; Takamatsu and Nakano, 1994; Hirasawa et al., 2001),好中球(Shiraishi et al., 2000b),血管内皮細胞(Tippens and Gruetter, 2004)の免疫担当細胞が明らかにされている。

1-6-1.マスト細胞内の貯蔵型ヒスタミンとヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)

  マウスの癌化マスト細胞(mastocytome P-815細胞)から精製されたHDCは分子量110-kDa で,分子量53-kDa のサブユニットの二量体であり,L-histidineのみを基質とし,補酵素とし てpyridoxal phosphateを必要とするという特徴がある(Ohmori et al., 1990)。精製酵素のアミ ノ酸配列をもとに,癌化マスト細胞P-815細胞のcDNAライブラリーからマウスHDC cDNA のクローンを単離し,単離した cDNAは全長2371塩基対からなり,翻訳領域(1896塩基)

の塩基配列から推定されるアミノ酸残基は662個で,ここから計算されるHDCタンパクの分 子量は74071(74-kDa)である(Yamamoto et al., 1990)。サザンブロット解析よりマウスHDC mRNAは単一バンド(2.7kb)であることからHDC mRNAは1種類しか存在しないと考えら

れる。74-kDa HDCのC末端部分(21-kDa)が欠落したものが53-kDa HDCであることが報告

されている(Yamamoto et al., 1993)。これらのことから,74-kDa HDCは前駆体であり,プロ セッシングの結果,53-kDa HDCが生成すると推定されている(Yamamoto et al., 1993)。この プ ロ セ ッ シ ン グ を セ リ ン プ ロ テ ア ー ゼ 阻 害 剤 の diisopropyl fluorophosphate(DFP) と

benzamidine により阻害されることから,プロセッシング酵素として benzamidine感受性セリ

ンプロテアーゼが推定されている(Tanaka et al., 1995; Ichikawa et al., 1998)。プロセッシング に要する時間は,高いHDC活性を有するラット好塩基球細胞株RBL(rat basophilic leukemia)

-2H3細胞においては,約2-30分という非常に速やかな翻訳後プロセッシングが起こることが 報告されている(Tanaka et al., 1998)。ヒトマスト細胞株HMC(human mast cells)-1および mouse bone marrow-derived mast cells(BMMC)においては,細胞刺激から4時間以上経過し たのちにタンパク翻訳が確認されている(Jeong, et al., 2009)。動物種や細胞種の差異や実験 条件によってタンパク翻訳に要する時間が異なると推測されるが詳細は不明である。

Percollを用いた密度勾配遠心分画により,74-kDa HDCはサイトゾル・小胞体を含む画分に,

53-kDa HDCは小胞体・ゴルジ・顆粒を含む画分にそれぞれ存在しており,HDC活性はサイ

トゾルおよび顆粒にそれぞれ検出されることが示されている(Tanaka et al., 1998)。また,サ ポニンであるジキトニンを処置(細胞内に外部から物質を容易に導入するための方法)する ことで部分的に物質透過を可能にした細胞膜を有するセミインタクト細胞を作製し,トリプ シンを作用させたところ74-kDa HDCは完全に消化されるのに対し53-kDa HDCは抵抗性を示 している。つまり,74-kDa HDC はサイトゾルあるいはサイトゾルに接した領域に分布し,

53-kDa HDCはプロテアーゼによる消化から免れる領域(オルガネラの内腔側)に存在するこ

とを示唆している(Ichikawa et al., 2010)。

(15)

53-kDa HDCは顆粒内でhistamineを生成し貯留すると考えられている。74-kDa HDCはサイ

トゾルで histamine を生成し,細胞外へ12回膜貫通型有機カチオンのトランスポーターであ

るorganic cation transporter-3(OCT-3)を通って放出され,サイトゾル内のhistamine量が細胞 外histamine量よりも低い場合は細胞外からhistamine取込みにも関与し細胞内のhistamine濃 度の維持に作用しているかもしれない(Ichikawa et al., 2010)。サイトゾルで生合成された histamineは2型小胞モノアミン輸送体(Vesicular Monoamine Transporter Subtype 2,VMAT2)

を介して顆粒に取り込まれる(Ichikawa et al., 2010)。サイトゾルに存在する74-kDa HDCは ubiquitin-proteasome により ATP依存的に速やかに代謝される(Tanaka et al., 1997)。一方,

53-kDa HDCはプロテアーゼに抵抗性を示すことから安定な分子種であると推測される。

  以上の内容を模式化したものがFig. 1である。

Fig. 1. マスト細胞におけるヒスタミンの細胞内生合成とヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)

(Ichikawa et al., 2010より引用,一部改変)

Histamine Histamine

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HDC mRNA発現は,p44/p42 mitogen-activated protein(MAP)kinaseによって強く制御され ており,p38 MAP kinaseの関与は小さいことが示されている(Shiraishi et al., 2000a)。ヒト胃 癌細胞AGS細胞においてもガストリン刺激によって誘導されるHDCにもp44/p42 MAP kinase が大きく関与している(Höcker et al., 1997)。これらの知見より,マクロファージのHDCの

発現にp44/p42 MAP kinaseの関与が大きいかもしれないが,種々の細胞で共通の機構である

かの詳細は不明である。

(17)

2.化粧品および医薬部外品によって生じる痒み

2-1.化粧品において記載できる痒み症状に対する表現

化粧品として記載できる表現は56項目存在(2013年3月時点)し,痒みに関するものは2 項目であり,顕在化している痒み症状を軽減する表現の記載は認められている(Table 2)。

Table 2. 化粧品として記載できる効能効果表現の範囲

1) 頭皮,毛髪を清浄にする 29) 肌を柔らげる 2) 香りにより毛髪,頭皮の不快臭を抑える 30) 肌にはりを与える 3) 頭皮,毛髪をすこやかに保つ 31) 肌にツヤを与える 4) 毛髪にはり,こしを与える 32) 肌を滑らかにする 5) 頭皮,毛髪にうるおいを与える 33) ひげを剃りやすくする 6) 頭皮,毛髪のうるおいを保つ 34) ひげそり後の肌を整える 7) 毛髪をしなやかにする 35) あせもを防ぐ

8) クシどおりをよくする 36) 日やけを防ぐ

9) 毛髪のつやを保つ 37) 日やけによるシミ,ソバカスを防ぐ

10) 毛髪につやを与える 38) 芳香を与える

11) ふけ,痒みがとれる 39) 爪を保護する

12) ふけ,痒みを抑える 40) 爪をすこやかに保つ

13) 毛髪の水分,油分を補い保つ 41) 爪にうるおいを与える

14) 裂毛,切毛,枝毛を防ぐ 42) 口唇の荒れを防ぐ

15) 髪型を整え,保持する 43) 口唇のキメを整える

16) 毛髪の帯電を防止する 44) 口唇にうるおいを与える

17) 皮膚を清浄にする 45) 口唇をすこやかにする

18) ニキビ,アセモを防ぐ 46) 口唇を保護する。口唇の乾燥を防ぐ

19) 肌を整える 47) 口唇の乾燥によるカサツキを防ぐ

20) 肌のキメを整える 48) 口唇を滑らかにする

21) 皮膚をすこやかに保つ 49) ムシ歯を防ぐ

22) 肌荒れを防ぐ 50) 歯を白くする

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2-2.薬用化粧品において記載できる痒み症状に対する表現

薬用化粧品は,薬事法によって医薬部外品として認められた効能・効果をもち,かつ,化 粧品と同様の使用目的・使用方法を有する。

薬用化粧品では「痒みの予防」という表現が使用できる(Table 3)。

化粧品の効能効果表現のみを標榜するものは,薬用化粧品としては認められない。

Table 3. 薬用化粧品として記載できる効能効果表現の範囲

種類  効能・効果 

ふけ・痒みを防ぐ

毛髪・頭皮の汚臭を防ぐ  毛髪・頭皮を清浄にする  毛髪・頭皮を健やかに保つ  シャンプー 

毛髪・頭皮をしなやかにする  ふけ・痒みを防ぐ

毛髪・頭皮の汚臭を防ぐ  毛髪の水分・脂肪を補い保つ  裂毛・切毛・枝毛を防ぐ  毛髪・頭皮を健やかに保つ  リンス 

毛髪・頭皮をしなやかにする 

あせも・しもやけ・ひび・あかぎれ・にきびを防ぐ  剃刀まけを防ぐ 

日やけによるしみ・そばかすを防ぐ  肌をひきしめる 

肌を清浄にする  肌を整える  化粧水 

皮膚を健やかに保つ。皮膚に潤いを与える 

あせも・しもやけ・ひび・あかぎれ・にきびを防ぐ  剃刀まけを防ぐ 

日やけによるしみ・そばかすを防ぐ  肌をひきしめる 

肌を清浄にする  肌を整える 

皮膚を健やかに保つ  皮膚に潤いを与える  クリーム,乳液,ハンドクリ

ーム,化粧用油 

皮膚を保護する,皮膚の乾燥を防ぐ 

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剃刀まけを防ぐ  ひげそり用剤 

皮膚を保護し,ひげを剃りやすくする  日やけ・雪やけによる肌荒れを防ぐ  日やけ・雪やけを防ぐ 

日やけによるしみ・そばかすを防ぐ  日やけ止め剤 

皮膚を保護する  にきびを防ぐ 

日やけによるしみ・そばかすを防ぐ  肌をなめらかにする 

パック 

皮膚を清浄にする 

【殺菌剤主剤のもの】 

皮膚の清浄・殺菌・消毒  体臭・汚臭及びにきびを防ぐ 

【消炎剤主剤のもの】 

薬用石けん(洗顔料を含む)

皮膚の清浄,にきび,剃刀まけ及び肌荒れを防ぐ 

2-3.化粧品および医薬部外品によって生じる痒み

化粧品や医薬部外品では痒みの抑制や予防を表記できることから,各企業は製品開発時に おいて痒みへのアプローチに取り組んではいるものの,重要項目として積極的に検討するこ とは多くなく製品性能を重要視していることが多い。しかし,近年,界面活性剤の皮膚刺激 性や皮膚蓄積性による皮膚トラブルが増加している。その背景に,先進国を中心とした清潔 で快適な生活への意識向上,女性の社会進出,男性の化粧品使用の増加などが考えられる。

具体的には,美観意識の向上による化粧行為や使用した化粧品のクレンジング行為が日常的 におこなわれている。このような背景から洗浄剤(界面活性剤)の使用が増加していると推 測され,痒み,皮膚乾燥および皮膚荒れなどの皮膚トラブルに関与していると思われる。

洗浄剤などの外来性物質が皮膚に接触することで生じる皮膚炎(接触皮膚炎)は生体の異 物排除機構によって生じる。この接触皮膚炎は時代の流れに沿った生活習慣や生活環境など と密接な関係にあり,その原因物質に変遷がある。現代の先進国では,清潔で快適な生活が 習慣化される時代になっていることから,洗浄剤(界面活性剤)が接触皮膚炎の原因物質の

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である。なぜなら,通常洗浄剤は泡立てて使用する製品であることから,スポンジなどを使 って泡立てる行為を行う。その後,泡立った洗浄剤の付いたスポンジなどで皮膚の表面を擦 りながら洗う。この擦る行為が皮膚の表面を傷つける可能性がある。最近の皮膚洗浄剤は皮 膚への刺激性を低減することを消費者のニーズから考慮されて処方設計がなされている場合 が多い。皮膚の低刺激性を実現するためには界面活性剤の配合濃度を下げる必要がある。そ の結果,なかなか泡立たなくなるなどの不具合が生じる。すると,皮膚の汚れを洗い流す時 にゴシゴシ洗うことに繋がってしまう。つまり,この洗うという行為が皮膚トラブルに繋が っている可能性も考慮しないといけない。

最近では,洗浄剤の製剤処方だけでなく,容器にも多くの工夫がなされている。これまで の手の平などで泡立たせてから使用する様式だけではなく,ボンプ式の容器を使用すること で手の平に取る時には既に泡の状態で使用できるような工夫が組み込まれているものも存在 する。このように消費者の使用実態の調査などから消費者の抱える不具合を改善する試みが 多く見受けられるのも事実である。

スキンケアのための化粧品や医薬部外品の開発はQOLをあげるために重要であるが,これ らの製品の使用頻度が増す中,顕在化してきている洗浄剤(界面活性剤)による皮膚トラブ ルを検討することがより良い製品開発を進めることに繋がると思われる。

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3.界面活性剤

3-1.界面活性剤の分類

界面活性剤は医薬品や医薬部外品,化粧品,食品,農薬などの広範囲な産業分野で機能性 素材として多用されており日常生活に欠くことのできない原料となっている(Corazza et al., 2010; Sz ts and Szabó-Révész, 2012)。一般的に界面活性剤は1分子中に親油基と親水基からな る構造をしており,溶解性及び親水基の特性によってTable 4のように分類される。中でもア ニオン性界面活性剤が,最も洗浄力が強いといわれている。

Table 4.  界面活性剤の分類

溶解性による区別 水溶液でイオン性 による区別

界面活性を示す部分の イオン性で区別 アニオン性界面活性剤 カチオン性界面活性剤 イオン性界面活性剤

両性界面活性剤 水溶性界面活性剤

非イオン性界面活性 脂溶性界面活性剤

3-2.界面活性剤による一次刺激性接触皮膚炎と刺激蓄積性接触皮膚炎

刺激性接触皮膚炎は大きく一次刺激性接触皮膚炎と刺激蓄積性接触皮膚炎に分けられる。

界面活性剤は,ケラチンタンパクと結合する特徴を有するため(Imokawa et al., 1975),洗浄 しても完全に洗い流されず皮膚に吸着し残留する。この界面活性剤残渣は通常皮膚のターン オーバー(新しい角質層の生成[皮膚の新陳代謝])によって垢として排出されていく。界面 活 性 剤 は 脂 質 構 造 や 皮 膚 バ リ ア 機 能 に 作 用 す る こ と で 皮 膚 刺 激 性 を 有 す る

(Ananthapadmanabhan et al., 2004; Wihelm et al., 1994; Imokawa and Mishima, 1979)。界面活性 剤の皮膚刺激性は,界面活性剤暴露頻度や暴露時間,濃度,種類などによって変化する。

皮膚刺激性が強い界面活性剤の場合,一回の接触で急性毒性皮膚炎(一次刺激性接触皮膚 炎)が生じることがある。皮膚刺激性が弱い界面活性剤の場合,一回の接触で皮膚炎は発症

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3-3.アニオン性界面活性剤の洗浄作用と皮膚保湿成分の流出

健常肌の最外層の角層では,無核の角層細胞が一様に重なり合って配列しており,そこに 水分が保持されている。この水分を保持する生理機能を保湿能と呼ぶ(Blank, 1952)。皮膚の 保湿には,①皮脂腺分泌物(皮脂膜)による水分蒸散抑制作用,②角層細胞中にあるアミノ 酸,ミネラル,ピロリドンカルボン酸,尿素,乳酸塩などの天然保湿因子による保湿能,③ 角層細胞間に存在する両親媒性の脂質(角層細胞間脂質)の保水能およびバリア機能の 3 つ の因子が主に関与していると考えられている。角層細胞間脂質は表皮細胞が分化して角層細 胞になる過程で供給されることから皮脂由来の脂質とは構成成分が異なり,細胞膜構成リン 脂質の酵素分解生成物であるセラミド,コレステロール,脂肪酸などから構成されている。

アニオン性界面活性剤の洗浄作用によって,角層細胞間脂質,天然保湿因子の流出が生じ る。アニオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム(SDS)の5%水溶液を皮膚に処理

(カップシェイク法)すると,処理時間に依存して角質細胞間の層状構造に損傷をきたす(芋 川, 1990)。5% SDS水溶液をヒト前腕皮膚表面に1分間カップシェイクした後の洗浄液には皮 脂腺由来脂質が検出されるのに対し,5% SDS水溶液を10-30分間カップシェイクした後の洗 浄液には角層細胞間脂質が検出される。5% SDS水溶液による洗浄前後で角層を10層程度剥 離し四酸化ルテニウム染色(角層細胞間像を観察するための染色)による電子顕微鏡観察に おいても,角層細胞間脂質が抜けていることが確認されている(Imokawa et al., 1989)。洗浄 によって失われた保湿成分の回復には皮膚のターンオーバーにかかる時間が必要になる

(Imokawa et al., 1991)。保湿機能の低下した皮膚に細胞間脂質を塗布すると,皮膚の水分保 持機能が回復することが確認されている(Imokawa et al., 1986)。これらのことからも,細胞 間脂質は健常肌を保つためには必須成分であることが示唆される。

通常の私達がおこなう洗浄行為は,上記の実験のように数十分もアニオン性界面活性剤水 溶液に皮膚が洗浄され続けていることはないが,洗浄行為を頻繁におこなえば保湿成分の喪 失が増大すると推測できる。

3-4.アニオン性界面活性剤による皮膚乾燥および皮膚荒れの出現と痒みとの関係

アニオン性界面活性剤の洗浄によって保湿機能が低下すると細胞間脂質の働きが不十分に なり,角層水分量の減少,角層の形状・形態の乱れが生じ,バリア機能が低下した乾燥皮膚 になる。このような皮膚バリアが破壊された乾燥皮膚では,外来異物や細菌等の皮膚内への 侵入や洗浄剤成分(主にアニオン性界面活性剤)の皮膚浸透性が高まり,表皮細胞が刺激さ れやすい。その結果,種々のサイトカイン,ケモカインが放出され,炎症反応が引き起こさ れる(Mizumoto et al., 2003; Denda et al., 2002)。そして時に皮膚荒れを認める(Groot et al., 1987;

Berne et al., 1996)。洗浄力の異なるアニオン性界面活性剤で皮膚を洗浄した際に,洗浄液中に

遊離した細胞間脂質成分(コレステロール量)と皮膚荒れの程度に相関性が確認されている

(Imokawa et al., 1989)。このことから,アニオン性界面活性剤の洗浄力が皮膚荒れの誘発因 子の一つであることが示唆される。

(23)

Miyamotoら(2002)は動物皮膚を1日1回アセトンとジエチルエーテルの混液による処理

(AE処理)を数日繰り返すことで脱脂した乾燥皮膚を作製し,さらにAE処理直後に水処理

(W処理)を追加することで天然保湿因子などの保湿成分までも減少させた乾燥皮膚を作製 している。興味深いことにAE-W処理を繰返した動物のみが痒み関連行動を認めている。バ リア機能が破壊された皮膚を界面活性剤で洗浄すると細胞間脂質や天然保湿因子の流出が生 じ,痒みを伴うことがしられている(Groot et al., 1987; Berne et al., 1996)。前述したが,界面 活性剤による洗浄では皮脂腺由来の皮脂が洗い流され,洗浄時間や洗浄回数の増加に伴い細 胞間脂質も洗い流されてしまう。これらのことから界面活性剤の洗浄行為において細胞間脂 質や天然保湿因子の流出が生じることで痒み発生に繋がる可能性が考えられる。

しかし,皮膚乾燥や皮膚荒れを伴わない健常皮膚においても,洗浄剤使用中や使用後に痒 みを感じることは少なくない。この痒みは洗浄剤直後に感じるものもあれば数時間経過した 後に感じる場合もある。頭皮頭髪洗浄剤(シャンプー)を使用した翌日の夕方や夜に頭皮が 痒いという消費者がいるのも事実である。健常皮膚であれば角層細胞間脂質や天然保湿因子 の流出が少ないことから,界面活性剤が直接的に痒み発生に関与している可能性が推測でき る。

3-5.アニオン性界面活性剤の皮膚浸透性と細胞障害性

  アニオン性界面活性剤の低濃度溶液はタンパク変性作用が低く,バリア機能破壊作用も小 さい。これは角質ケラチンとのイオン結合などによりアニオン性界面活性剤が角層上で留ま り,角層下にほとんど侵入できないことに由来しており(Scala et al., 1968),皮膚浸透性に濃 度が重要な因子の一つであることが示唆される。アニオン性界面活性剤の特徴の一つに膜脆 弱化能がある(Imokawa and Mishima, 1981)。角層下まで侵入できる濃度の場合,膜破壊によ る細胞障害性が生じると考えられる。これがアニオン性界面活性剤による炎症作用に起因し ていると推測できる。これらのことより,実験的に健常皮膚の角質下にアニオン性界面活性 剤を侵入させるにはある程度の濃度を用いる必要があると思われる。

3-6.洗浄剤開発ストラテジー

近年,スキンケアに対応した研究開発が盛んに行われている。皮膚を清潔に保つことを担 保した上で「選択洗浄」や「低刺激性」の洗浄剤の開発が期待されている。これらは肌荒れ

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かし,界面活性剤が痒み発生の直接的な原因になり得る可能性を上述したが,界面活性剤の 皮膚刺激性との関係性について詳細は明らかとなっていない。

3-7.敏感肌と界面活性剤

  近年,敏感肌という言葉が日常的に使われるようになっているが,皮膚の状態を表す科学 的用語として確立したものではない。敏感肌は,化粧品や皮膚洗浄剤,外用医薬品などに対 する消費者の主観的な感覚を表現する際に用いられることが多い。Payeら(1999)は洗浄剤

(界面活性剤)の影響を受けやすい手掌と自分自身が敏感肌と思うかという自己診断との関 係について報告している。その結果,母集団(女性 150名)のうち 35%が敏感肌,40%が非 敏感肌と認識している。臨床所見および生体計測結果(発赤度合い,角層水分量)に相関性 が確認されている。興味深いことに「乾燥感を感じる」,「しっとりしている」などの使用時 の感覚が明らかに異なる皮膚洗浄剤を,敏感肌のヒトが使用しても感覚的な識別に差は認め られていない。これより,界面活性剤の使用時には敏感肌および非敏感肌の両方において,

感覚に大きな違いがなく使用後のケアが重要であることが考えられる。

某化粧品メーカーの調査報告によると,自身の肌が敏感肌と思うかという自己申告調査の 結果,敏感肌と認識している女性が1980年には約20%であったのに対し,1992年には約33%

に,1998年には約43%と増加している(伊藤, 2000)。この中には思い込みによる敏感肌の割 合が含まれていると思われるが,年々増加していると考えて間違いなさそうである。

3-8.生活環境と界面活性剤

季節の変化が皮膚の変化と密接に関係していることは多くの疫学調査報告により知られて いる(Uter et al., 1998)。特に冬期には,ドラッグストアなどの店頭に数多くのスキンケア剤

(保湿剤など)が並べられ,年間を通して最もスキンケア剤の販売量が多くなることから皮 膚乾燥を感じている消費者が多数存在することを推測される。

日本においては,高度経済成長期(1950年代~1960年代)以降は,道路舗装の普及により,

降雨によって蓄えられた水分を大気中に放出し大気中の湿度低下を防ぐ役目を担っていた地 面の土や樹木が失われている。都市化に伴い空気の乾燥や大気汚染も進行している。住居に おいてはエアコンの普及により低湿度環境下で日常を生活している。さらには食生活の欧米 化など生活環境が大きく変化している。このように生活が快適になるに従い,私達は清潔を 求めるようになり,皮膚の過剰な手入れによる皮膚洗浄剤の使用増加,化粧品の使用増加に 伴うクレンジング行為の増加など,日常生活において界面活性剤の使用回数は急増している と思われる。

日常生活を営みながら,いっさいの刺激を取り除くことは不可能である。そこで,今後の 化粧品や洗浄剤開発において,製品の安全性や安定性は勿論のことながら消費者の生活環境 に則し,皮膚状態をより考慮した製品開発が,化粧品技術者が取り組むべき課題の一つであ ろう。

(25)

1章  アニオン性界面活性剤ラウリン酸ナトリウムによって誘発される急性の痒み 第1節  ラウリン酸ナトリウム誘発掻き動作

  ラウリン酸ナトリウムは,脂肪酸塩類に属する界面活性剤である。脂肪酸塩は高級脂肪酸

(炭素数 12-18 の飽和および不飽和がおもに使用され,対イオンとしてはナトリウム,カリ

ウムなどがある)のアルカリ塩として身体の洗浄に最も古くから使用されている石鹸の主成 分(R-COONa)である。Saint-Martoryら(2008)の報告によると,敏感肌と自覚している被 験者らが,敏感肌のトリガー因子の一つとして石鹸を挙げている。また,敏感肌の被験者の 主訴は痒みである。Miseryら(2008)の報告によると,敏感頭皮と自覚している被験者らが,

敏感頭皮のトリガー因子の一つとしてシャンプーと挙げ,主な症状は痒みである。これらの ことから,アニオン性界面活性剤のラウリン酸ナトリウムが痒み誘発に寄与している可能性 が推測される。ただし,ラウリン酸ナトリウムの痒みに対する基礎的な検討報告は可及的に 検索したが該当するものはなかった。そこで,ラウリン酸ナトリウムによる痒み発生機序を 解明することを目的として,マウスを用いて検討した。

アニオン性界面活性剤はシャンプーなどの日常的に使う洗浄製品に多く配合されている。

樋渡ら(2004)はモデルシャンプー(界面活性剤の総量が 12.5%)を作製し,洗髪時のモデ ルシャンプーの希釈率を調べたところ7倍である(界面活性剤の濃度は1.8%)と報告してい る。そこで,予め刈毛・除毛したマウスの吻側背部皮膚へ 10%アニオン性界面活性剤水溶液 を単回局所塗布し,掻き動作(痒み関連行動)を引き起こすか検討した。本章では,予備実 験において掻き動作を増加しなかったアニオン性界面活性剤としてN-ラウロイルサルコシン ナトリウムを比較対照として用い,ラウリン酸ナトリウムによって誘発される掻き動作から 得られた知見をまとめる。また皮膚の状態を知る目的で,角層水分量,水分蒸散量(TEWL), 皮膚表面pHおよび皮膚炎症スコアの測定を行った。

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1-1.  実験材料および実験方法 1-1-1.  実験動物

雄性ICRマウスは日本エスエルシー株式会社(静岡)より購入し,試験に7-8週齢を用い た。購入した動物は温度21-23°C,湿度 45-65%,12時間毎の明暗周期(明期: 7時-19時)の 恒温恒湿飼育室で自由給水下に固型飼料(CE-2; 日本クレア, 東京)を用いて飼育した。

1-1-2.  使用薬物

Sodium laurateおよびN-lauroylsarcosine sodium saltはナカライテスク(京都)より購入した。

Sodium methyl laurate alaninate(川研ファインケミカル, 東京),sodium methyl lauroyl taurate(日 光ケミカルズ, 東京)およびsodium lauroyl aspartate(旭化成ケミカルズ, 東京)は香粧品原料 を使用した。(Table 5)

Terfenadineおよびnaloxone hydrochlorideはSigma(St. Louis, MO, USA)より購入した。1 M Sodium hydroxide solutionは和光純薬工業(大阪)より購入した。

ラウリン酸ナトリウム,N-ラウロイルサルコシンナトリウム,ラウロイルメチルアラニン ナトリウム,ラウロイルメチルタウリンナトリウムおよびラウロイルアスパラギン酸ナトリ ウムは蒸留水に溶解し,50 Lの用量で刈毛・除毛した吻側背部皮膚に塗布した。調製した界 面活性剤水溶液は冷蔵庫で保存した。低温保存によって界面活性剤が析出した場合は37°Cの 湯浴で温めて溶かしてから使用した。Terfenadine は0.5% sodium carboxymethyl cellulose(和 光純薬工業)に懸濁し,マウスの体重10 gあたり50 Lの用量でヒデオ撮影の30分前に経口 投与した。Naloxone hydrochlorideは生理食塩水(大塚製薬,東京)に溶解し,マウスの体重

10 g あたり0.1 mLの用量でヒデオ撮影の 15分前に尾側背部に皮下注射した。1 M Sodium

hydroxide solutionは蒸留水で希釈し,薄紙(2.5 × 2 cm)に50 L浸み込ませたものを,エー テル軽麻酔下に除毛部位皮膚に30秒間適用した。

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Table 5. Molecular formula, composition formula, molecular weight, CAS number, and structural formula of anionic surfactants

Sodium laurate Molecular formula C12H23NaO2

Composition formula C11H23COONa Molecular weight 222.30

CAS number 629-25-4

Structural formula

N-Lauroylsarcosine sodium salt Molecular formula C15H28NNaO3

Composition formula C11H23CON(CH3)CH2COONa Molecular weight 293.38

CAS number 137-16-6

Structural formula

Sodium methyl laurate alaninate Molecular formula C16H30NNaO3

Composition formula C11H23CON(CH3)C2H4COONa Molecular weight 307.40

CAS number 21539-58-2

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Sodium methyl lauroyl taurate Molecular formula C15H30NNaO4S

Composition formula C11H23CON(CH3)C2H4SO3Na Molecular weight 343.46

CAS number 4337-75-1

Structural formula

Sodium lauroyl aspartate Molecular formula C16H27NNa2O5

Composition formula C11H23CONHCH(OONa)CH2COONa Molecular weight 359.37

CAS number 41489-18-3

Structural formula

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1-1-3.  行動実験

実験の少なくとも 3 日前までに,マウスの吻側背部を刈毛・除毛し,実験当日に吻側背部 に傷がないマウスを実験に用いた。4区画されたアクリル製ケージ(1区画; 13 × 9 × 35 cm)

に1匹ずつ入れ,無人環境下で少なくとも30分以上撮影環境に馴化した後,マウスの行動を ビデオカメラで60分間撮影した。撮影は界面活性剤水溶液またはvehicle(蒸留水)の塗布前,

塗布2,24時間後に行った。ビデオテープの再生により界面活性剤水溶液またはvehicle(蒸 留水)塗布部位およびその近傍の掻き動作の行動観察を行った(Kuraishi et al., 1995)。後肢で 吻側背部およびその近傍を掻き,後肢を床におろすという一連の掻き動作の回数を 1 回の掻 き動作として目視にて数えた(Tsujii et al., 2008)。

1-1-4.  角層水分量,水分蒸散量(TEWL),皮膚表面pHおよび皮膚炎症状の測定

  角層水分量,TEWL,皮膚表面pHおよび皮膚炎症状の測定・判定は界面活性剤水溶液の塗 布前,塗布2,24時間後に行った。

角層水分量はMoisture Checker MY-808S(Scalar Corp., Tokyo, Japan)を用いて,TEWLは VapoMeter(model SWL4002; Keystone Scientific Co. Ltd., Tokyo, Japan)を用いて15秒間におけ る測定値として,皮膚表面pHはpH meter with flat probe(model 6261-10c; Horiba Co. Ltd., Kyoto, Japan)を用いて測定した。

炎症スコアはFig. 2に示すように,0:変化なし,1:軽度な発赤,2:中程度な発赤,3:

重度な発赤としてスコア化した。

(30)

Fig. 2. Typical examples for the evaluation of skin condition.

These skin conditions were prepared with the cutaneous treatment with sodium dodecyl sulfate (SDS) solutions for 24 hours: score 0, water; score 1, 10% SDS; score 2, 20% SDS; score 3, 30% SDS. These solutions were applied at the volume of 50 L per mouse skin.

1-1-5.  病理組織学的検討

界面活性剤水溶液の塗布2時間後に,マウスをsodium pentobarbital(80 mg/kg, intraperitoneally, Sigma)で麻酔し,心血液循環系を利用してリン酸緩衝生理食塩水(0.1 M phosphate-buffered saline; PBS, タカラバイオ, 滋賀)で十分に灌流し,脱血した。脱血後,4% paraformaldehyde

(和光純薬工業)を再灌流し組織の前固定を行った。その後,界面活性剤適用部位(皮膚)

を採取し,24時間 4% paraformaldehydeで浸漬固定を行った。固定組織をパラフィンに埋没 させ切片厚3 mで皮膚切片を作製した。皮膚切片はhematoxylin and eosin(HE)染色および toluidine blue(TB)染色を行い,光学顕微鏡(BZ-8000; Keyence, Osaka, Japan)で観察した。

マスト細胞数は組織標本(TB染色)0.58 mm2(field size: 662.0 × 879.3 m)あたりの細胞数 として示した。

1-1-6.  統計学的解析

実験成績は各群の平均値および標準誤差(SEM)で示した。有意差検定にはBonferroni’s test,

Dunnett's multiple comparisonsもしくはStudent's t-testを用いた。有意水準は5%とした。統計 解析に使用したソフトとしてStatLight(Yukms Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いた。

(31)

1-2.  実験結果

1-2-1.  界面活性剤水溶液の単回局所塗布による掻き動作の誘発

予め刈毛・除毛したマウスの吻側背部皮膚へ 10%ラウリン酸ナトリウム,10%N-ラウロイ ルサルコシンナトリウム,10%ラウロイルメチルアラニンナトリウム,10%ラウロイルメチル タウリンナトリウムおよび 10%ラウロイルアスパラギン酸ナトリウムを単回塗布し,塗布 2 時間後に掻き動作を引き起こすか検討した。その結果,10%ラウリン酸ナトリウムの単回塗

布のみにvehicle(蒸留水)と比較して有意に掻き動作回数の増加が認められた(Table 6)。

Table 6. Topical application of anionic surfactant solution increases scratching in ICR mice.

Sample Concentration

(% w/v) Solution pH Scratch bouts/hour

VH (distilled water) − − 19.2±5.3

Sodium laurate 10 10.1 40.3±4.8 *

N-Lauroylsarcosine sodium salt 10 7.7 20.2±4.9

Sodium methyl laurate alaninate 10 8.1 15.8±6.7

Sodium methyl lauroyl taurate 10 7.1 15.2±5.1

Sodium lauroyl aspartate 10 7.3 16.3±6.3

Vehicle (VH, distilled water), or 10% anionic surfactant solution was applied topically to the shaved skin in a volume of 50 µL, and scratching bouts were counted for 1 hour. Values represent the mean ± SEM for six animals. *P <0.05 vs. VH (Dunnett's test)

(32)

1-2-2.  ラウリン酸ナトリウム単回局所塗布による掻き動作の誘発

  予め刈毛・除毛したマウスの吻側背部皮膚へラウリン酸ナトリウム水溶液(0.1%, 1%, 10%

溶液が各々pH 7.6, 9.8, 10.1)またはN-ラウロイルサルコシンナトリウム水溶液(10%溶液が pH 7.7)の単回塗布が,掻き動作を引き起こすか検討した。10%ラウリン酸ナトリウムの塗布 は,塗布直後から掻き動作回数を増加させ(即時相, Figs. 3B and 3C),1.5時間程度で減少し たが,その後再び掻き動作回数が増加し(遅発相, Figs. 3B and 3C),3時間後には減少した。

10%N-ラウロイルサルコシンナトリウムの塗布も塗布直後から掻き動作回数を増加させたが,

1.5時間後にはほぼ治まり遅発性の掻き動作は観察されなかった。軟膏基剤の塗布においても 即時性の掻き動作回数の増加が認められることから,即時相の掻き動作は皮膚表面の異物に 対する反応と考えられる。

  次に,ラウリン酸ナトリウム誘発の遅発性掻き動作を検討したところ,1%ラウリン酸ナト リウムも遅発性の掻き動作を引き起こしたが,0.1%では観察されなかった。塗布24時間後に は,いずれの群も掻き動作回数が塗布前レベルまで戻った(Fig. 4A)。皮膚の状態を知る目的 で,角層水分量,TEWLおよび皮膚表面pHの測定,臨床所見およびHE染色による病理組織 学的検討を行った。ラウリン酸ナトリウム(0.1-10%)は,角層水分量,臨床所見および HE 染色に影響しなかった。1%および 10%ラウリン酸ナトリウムは塗布 2 時間後の TEWL を

vehicle(蒸留水)塗布と比較して有意に増加させたが,24時間後には塗布前レベルまで戻っ

た。10%N-ラウロイルサルコシンナトリウムはいずれのパラメーターも変化がなかった(Figs.

4C and 4D)。皮膚表面pH(無処置の皮膚表面pH 5.0)は,ラウリン酸ナトリウムの塗布2時

間後にアルカリ性側へ移行した(1%,10%溶液が各々皮膚表面pH 5.8,6.0)が,塗布24時 間後には塗布前レベル付近まで戻った。一方,10%N-ラウロイルサルコシンナトリウムは塗 布2時間後および24時間後の皮膚表面pHに影響を及ぼさなかった(Fig. 4B)。

(33)

A B

C

Fig. 3. Topical application of sodium laurate (SL) and N-lauroylsarcosine sodium salt (NL) increases scratching in ICR mice.

Vehicle (VH, distilled water) (A), 10% SL (B), or 10% NL (C) was applied topically to the shaved skin in a volume of 50 µL, and scratching bouts were counted for 4 hours. Values represent the mean ±

0 50

1 2 3 4

Hours after application Scratch bouts/30 minutes VH (distilled water)

0 50 100

1 2 3 4

Hours after application

Scratch bouts/30 minutes SL

0 50 100

1 2 3 4

Hours after application

Scratch bouts/30 minutes NL

Table  5.  Molecular  formula,  composition  formula,  molecular  weight,  CAS  number,  and  structural formula of anionic surfactants
Fig. 2. Typical examples for the evaluation of skin condition.
Table 6. Topical application of anionic surfactant solution increases scratching in ICR mice.
Fig.  3.  Topical  application  of  sodium  laurate  (SL)  and  N-lauroylsarcosine  sodium  salt  (NL)  increases scratching in ICR mice.
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