『源氏物語』における漢文訓読語と翻読語 : 「い よいよ」「悲しぶ」「愁ふ」「推し量る」
著者 藤井,俊博
雑誌名 同志社国文学
号 92
ページ 51‑62
発行年 2020‑03‑20
権利 同志社大学国文学会
URL http://doi.org/10.14988/00027183
﹃ 源 氏 物 語 ﹄ に お け る 漢 文 訓 読 語 と 翻 読 語
﹁ ︱
い よ い よ
﹂ ﹁ 悲 し ぶ ﹂
﹁ 愁 ふ ﹂
﹁ 推 し 量 る ﹂
︱
藤 井 俊 博
一 はじ めに
﹁い よい よ﹂
﹁悲 しぶ
﹂﹁ 愁ふ
﹂の અ語 は︑ 漢文 訓読 文に 例が 多い 一方
︑平 安和 文の 中で は用 例が 限定 され る傾 向が ある
︒と ころ が︑ これ らは
﹃源 氏物 語﹄ にお いて 多く 用い られ るこ とか ら︑ 和文 体の 用語 と見 做さ れる 場合 があ る︒
﹃源 氏物 語﹄ が漢 文に 基づ く表 現を 多く 導入 して いる こと を考 える と︑ これ らは 訓読 的語 彙の 導入 とい う観 点か ら再 検討 する 必要 があ る︒ また
︑漢 文訓 読文 に例 の多 い
﹁悲 しぶ
﹂﹁ 愁ふ
﹂は
︑﹃ 白氏 文集
﹄な どの 漢語 の影 響を 受け た翻 読 語の 観点 から も検 討す べき 語で ある
︒ 筆者 は藤 井︵ 二〇 一九
︶で
︑﹃ 源氏 物語
﹄に 連文 の漢 語に よる 同 義的 結合 の複 合動 詞︵ 翻読 語︶ が多 く用 いら れて いる こと を指 摘し た︒ その 際︑ 例数 の少 ない 翻読 語を
﹃源 氏物 語﹄ 独自 の用 法と して
いく つか 検討 した が︑
﹁推 し量 る﹂ など 他作 品に も見 える 高頻 度の 翻読 語に つい ては 考察 を留 保し た︒ これ ら高 頻度 の翻 読語 も︑
﹃源 氏物 語﹄ の文 体的 特徴 の面 から 捉え るべ きも ので ある
︒ そこ で本 稿で は︑
﹃源 氏物 語﹄ に例 の多 い右 のઆ 語を 取り 上げ
︑ 漢文 訓読 語や 翻読 語の 観点 から 文体 的特 徴を 検討 する こと にす る︒ なお
︑﹃ 源氏 物語
﹄の 例数 およ び本 文は
︑基 本的 に新 編日 本古 典文 学全 集本 によ る﹁ 中納 言﹂
︵日 本語 歴史 コー パス CH J︶ を用 い︑ その 他︑ 各種 索引 類を 用い て用 例数 等を 示す①
︒ 二
﹃源 氏物 語﹄ に頻 用さ れる 漢文 訓読 語﹁ いよ いよ
﹂ 副詞
﹁い よい よ﹂ は︑
﹃源 氏物 語﹄ では 極め て多 くの 例が 見ら れ る一 方︑ 他の 和文 作品 での 使用 例は 概し て多 いと は言 えな い︒ 宇津 保物 語15 例︑ 源氏 物語 104例
︑浜 松中 納言 物語 15例
︑夜 の寝
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五一
覚ઋ 例︑ 栄華 物語 ઋ例
︑紫 式部 日記 અ例
︑大 鏡અ 例︑ 蜻蛉 日記
例
︑狭 衣物 語 例︑ 伊勢 物語
ઃ例
︑落 窪物 語ઃ 例︑ 枕草 子ઃ 例︑ 更級 日記
ઃ例
︑讃 岐典 侍日 記ઃ 例︵ 竹取 物語
・土 佐日 記・ 大和 物語
・平 中物 語・ 和泉 式部 日記
・堤 中納 言物 語に 例な し︶ 平安 初期 の物 語類 や日 記に は例 が少 なく
︑﹃ 源氏 物語
﹄以 降︑ そ の影 響を 受け た﹃ 浜松 中納 言物 語﹄
﹃夜 の寝 覚﹄
﹃栄 華物 語﹄ に例 が 多く なり
︑そ の他
︑紫 式部 自身 の﹃ 紫式 部日 記﹄ や漢 文訓 読調 を含 む﹃ 大鏡
﹄な どが 目に 付く
︒こ のよ うな 偏り は配 慮す べき であ るが
︑ 築島 裕﹃ 平安 時代 の漢 文訓 読語 につ きて の研 究﹄ では
︑ A 源氏 物語 に見 えな いも の B 源氏 物語 にも 見え るが
︑用 法や 用例 がか ぎら れて ゐる もの C 源氏 物語 にも 見え るも の にわ け︑ Aと Bを 以て 漢文 訓読 特有 語と した
︒C に属 する
﹁い よい よ﹂ は和 文語 とさ れ︑ 漢文 訓読 体と 和文 体と の二 形対 立を
﹁マ スマ スー いと ど・ いよ いよ
﹂で 把握 して いる
︒し かし
︑﹃ 源氏 物語
﹄に 例が 多い こと をも って
﹁い よい よ﹂ を和 文語 とし
﹁ま すま す﹂ と対 立さ せる こと には 疑問 が残 る︒ 漢文 訓読 文で は︑
﹃訓 点語 彙集 成﹄ に﹁ イヨ イヨ
﹂は 162例
が見 え︑ 漢文 訓読 語と して 特徴 的だ から であ る︵
﹁弥
﹂50 例﹁ 逾﹂ 46﹁ 転﹂ 42例 等︶
︒そ こで
︑﹃ 源氏 物語
﹄に
﹁い よい よ﹂ が集 中す るこ とは
︑こ の語 が和 文語 であ った ため では
なく 漢文 訓読 語を 排除 しな い﹃ 源氏 物語
﹄の 文体 上の 性格 によ るの では ない かと いう 観点 から 検討 する 必要 が出 てく る︒ 次に
︑﹁ いよ いよ
﹂﹁ いと ど﹂
﹁ま すま す﹂ の文 体的 な位 相を 中心 に見 てい く︒
﹃源 氏物 語﹄ の﹁ いと ど﹂
﹁い よい よ﹂ は︑ いず れも
﹁あ はれ な り﹂
﹁心 苦し
﹂﹁ 恥づ かし
﹂﹁ 悲し
﹂な どの よう な心 理表 現に 係り
︑ その 度が 増す 意味 を表 す用 法が 多く 見ら れる
︒
○い とい たう 思ひ わび たる をい とど あは れと 御覧 じて
︑
︵桐 壺)
○さ れば よと 思し あは せて
︑い よい よあ はれ まさ りぬ
︒
︵夕 顔)
○﹃ 参り ては
︑い とど 心苦 しう
︑心 肝も 尽く るや うに なん
﹄と 典侍 の奏 した まひ しを
︑
︵桐 壺)
○え 忍び たま はぬ 御気 色を
︑い よい よ心 苦し う︑ なほ 思し とま るべ きさ まに ぞ聞 こえ たま ふめ る︒
︵賢 木)
○心 のみ おか れて
︑い とど 疎く 恥づ かし く思 さる べし
︵紅 葉賀 )
○さ さめ き聞 こゆ れば
︑い よい よ恥 づか しと 思し て︑
︵明 石)
○冬 にな りゆ くま まに
︑い とど かき つか む方 なく 悲し げに なが め過 ごし たま ふ︒
︵蓬 生)
○大 臣も
︑か く重 き御 おぼ えを 見た まふ につ けて も︑ いよ いよ 悲し うあ たら しと 思し まど ふ︒
︵柏 木) これ ら心 理表 現の 例に 加え
︑情 景描 写で も共 通す る語 に係 る例 が ある
︒両 語に 明確 な区 別は 指摘 しが たく 同義 的と 言え よう
︒
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五二
○ま だほ の暗 けれ ど︑ 雪の 光に
︑い とど きよ らに 若う 見え たま ふを
︑ 老人 ども 笑み さか えて 見た てま つる
︒
︵末 摘花 )
○あ また 宮た ちの かく おと なび とと のひ たま へど
︑大 宮は
︑い よい よ若 くを かし きけ はひ なん まさ りた まひ ける
︒
︵総 角)
﹃源 氏物 語﹄ で両 語に 明確 な意 味の 相違 は認 めが たい とす れば
︑ もと もと の文 体位 相の 相違 に求 めら れる ので はな かろ うか
︒ 上代 の﹃ 万葉 集﹄ では
︑小 林︵ 一九 六七
︶が 漢文 訓読 語を 用い た とす る大 伴旅 人の 和歌 に﹁ いよ よま すま す﹂ が見 られ る︒ 山部 赤人 の用 いた
﹁い やま すま す﹂ とと もに 例を 挙げ てお く︒
○世 の中 は空 しき もの と知 る時 しい よよ ます ます 悲し かり けり
︵﹃ 万葉 集﹄ 七九 三・ 大伴 旅人 )
○清 き河 内そ 春へ には 花咲 きを をり 秋へ には 霧立 ち渡 るそ の山 のい やま すま すに この 川の 絶ゆ るこ とな くも もし きの 大宮 人は 常に 通 はむ
︵﹃ 万葉 集﹄ 七五 九・ 山部 赤人 )
﹁い や﹂ は客 観表 現﹁ 絶ゆ るこ とな く﹂ に用 いて いる が︑
﹁い よよ
﹂ は心 理表 現﹁ 悲し
﹂に 用い る点
︑﹃ 源氏 物語
﹄と 同様 であ る︒
﹁い よよ
﹂は
﹁い よい よ﹂ の母 音連 続を 避け た語 形で ある
︒﹁ いよ いよ
﹂は
﹁弥 弥﹂
︵次 第に 増す 意︒
﹃漢 書﹄
﹃後 漢書
﹄等
︶を ヒン ト にし た翻 読語 と思 われ
︑﹁ 弥﹂
﹁転
﹂﹁ 逾﹂ 等の 訓読 に多 く用 いら れ た︒
﹁い よよ
﹂も 漢文 訓読 語と して 平安 中期 頃ま で例 があ る︵
﹃天 理
本金 剛般 若経 験記 平安 初期 点︵ 八五
〇︶
﹄﹁ 逾イ ヨヽ
﹂﹃ 立本 寺本 法 華経 寛治 明詮 移点
︵一
〇八 七︶
﹄﹁ 転イ ヨヽ
﹂︶
︒ 一方
︑平 安時 代の 和歌 では
︑一 般に
﹁い とど
﹂を 用い た︒ 古今
例
︑後 撰11 例︑ 拾遺 ઊ例
︑後 拾遺 ઊ例
︑金 葉અ 例︑ 詞花
ઃ例
︑千 載ઊ 例︑ 新古 今21 例 和歌 の用 語は
︑和 文体 の物 語の 基調 語と もな る︒
﹁い よい よ﹂ が 比較 的多 い﹃ 宇津 保物 語﹄
﹃源 氏物 語﹄ でも
︑﹁ いと ど﹂ は各 々46 例・ 337例
もの 例が 見ら れる こと がそ れを 裏付 ける
︒﹃ 源氏 物語
﹄で は次 例の よう に作 中歌 でも
﹁い とど
﹂15 例が 見ら れる
︒
○羽 衣の うす きに かは る今 日よ りは うつ せみ の世 ぞい とど 悲し
︵ き 幻) 和歌 では
﹁い よい よ﹂ の使 用は 例外 的で
︑八 代集 では
﹃古 今和 歌 集﹄
﹃詞 花和 歌集
﹄に 次の 各ઃ 例が 見ら れる のみ であ る︒
○お ひぬ れば さら ぬ別 もあ りと いへ ばい よい よ見 まく ほし き君 哉
︵﹃ 古今 和歌 集﹄ 九〇
〇 伊豆 内親 王)
○あ ふ事 はま ばら にあ める いよ すだ れい よい よ我 をわ びさ する 哉
︵﹃ 詞花 和歌 集﹄ 二四 四 恵慶 )
﹁ま すま す﹂ も︑
﹃後 拾遺 和歌 集﹄ にઃ 例あ るの みで ある
︒
○く もり なき 鏡の 光ま すま すも てら さん 影に かく れざ らめ や
︵﹃ 後拾 遺和 歌集
﹄四 四三 能信 )
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五三
︵表
ઃ︶
﹃今 昔物 語集
﹄の 例数 天竺 震旦 部 本朝 仏法 部 本朝 世俗 部 いよ いよ
88
179
75 ます ます
ઃ
ં
ં いと ど
ં
ં
ઃ
︵表
︶ 中世 の説 話集
・軍 記物 語の 例数 打聞集 華法百座 金沢文庫 三宝絵 宇治拾遺 発心集 撰集抄 十訓抄 古今著聞 沙石集 保元物語 平治物語 延慶平家 覚一平家 いよ
いよ
અ 12 ઈ 24 20 ઇ 14 ઊ 43 35 11 અ 90 27 ます ます
ં
ં
અ
ં
ઃ ઈ
ઃ અ
ં
ં
ં ઈ
ઃ いと ど
ં
ં
ં
ં 19 15 34 ઋ ઉ
ઃ ઇ આ 83 24
以上 のご とく
︑﹁ いと ど﹂ が和 歌に 多い のに 対し
︑﹁ いよ いよ
﹂は 漢文 訓読 文で 例が 多い
︒古 い例 では 石山 寺本
﹃大 智度 論﹄ 天安 二年 点︵ 八五 八︶
︵大 坪二
〇一 七が 指摘
︶や
︑﹃ 漢書 楊雄 伝﹄ 天暦 二年 点
︵九 四八
︶の 例が あり
︑漢 文訓 読文 の常 用語 にな って いる
︒こ のよ うな 偏り を勘 案す ると
︑平 安初 期の
﹃古 今和 歌集
﹄﹃ 伊勢 物語
﹄﹃ 宇 津保 物語
﹄﹃ 源氏 物語
﹄の
﹁い よい よ﹂ は和 歌和 文の 用語 でな く︑ 漢文 訓読 調の 文章 語を 取り 入れ た結 果と 思わ れる
︒ この 点は
︑訓 読調 の強 い中 世の 和漢 混淆 文を 中心 に﹁ いよ いよ
﹂ が定 着し てい るこ とと 符合 する
︒院 政期 の﹃ 今昔 物語 集﹄ には 342例 もの 例が ある
︒﹁ ます ます
﹂﹁ いと ど﹂ とと もに 三部 の例 数を 示す と
︵表
ઃ︶ のよ うで あり
︑﹁ いよ いよ
﹂は 本朝 仏法 部を 中心 に広 く分 布 して いる こと がわ かる
︒舩 城︵ 二〇 一一
︶は
︑﹁ いよ いよ
﹂は 当時 の新 しい 文章 様式 の用 語で あっ たと 解釈 して いる
︒す なわ ち︑ 漢文 訓読 文で 頻用 され る﹁ いよ いよ
﹂は 和漢 混淆 文の 一般 的用 語と なり 定着 して いる と言 えよ う︒ その 一方 で︑ 和文 臭の 強い
﹁い とど
﹂︑ 漢文 訓読 臭の 強い
﹁ま すま す﹂ は用 例数 が極 めて 少な いの であ る︒
︵表
︶ に院 政鎌 倉時 代の 説話 集や 軍記 物語 の例 を示 して おい た が︑ 漢文 訓読 調の 強い 仏教 説話 集な どで は概 ね﹁ いよ いよ
﹂を 多く 用い るが
︑訓 読的 な性 格が 強い
﹁ま すま す﹂ の例 は概 して 少な い︒ 一方
︑﹃ 撰集 抄﹄ など 和文 調の 強い 作品 では
﹁い とど
﹂が 多く 用い
られ る場 合が あり
︑﹁ いよ いよ
﹂と
﹁い とど
﹂が 漢文 訓読 体と 和文 体の 指標 語に なっ てい るこ とが 窺え るで あろ う︒ なお
︑﹃ 打聞 集﹄ の﹁ いよ いよ
﹂は
︑い ずれ も通 常﹁ ます ます
﹂ と読 まれ る﹁ 増﹂
﹁倍
﹂字 に付 訓し たも ので ある
︒﹃ 観智 院本 類聚 名 義抄
﹄に
﹁倍
﹂﹁ 愈﹂ の両 字に
﹁マ スマ ス﹂
﹁イ ヨイ ヨ﹂ の訓 が見 え るこ とも 踏ま える と︑
﹃打 聞集
﹄の
﹁い よい よ﹂ は﹁ ます ます
﹂と 同義 の漢 文訓 読語 と意 識さ れて いた こと が窺 えよ う︒ 和漢 混淆 文に 多く 用い られ る漢 文訓 読語 は︑ 訓読 臭が 弱く
︑和 文
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五四
体に も馴 染み やす い︒
﹃源 氏物 語﹄ にお いて も︑ 和歌
・和 文的 表現 とし ての
﹁い とど
﹂を 基調 にし なが ら︑ 和文 体に もな じみ やす い漢 文訓 読調 の﹁ いよ いよ
﹂を 導入 した ので はな かろ うか
︒ 三 漢文 訓読 語﹁ 悲し ぶ﹂ の和 文・ 和漢 混淆 文で の 活用
﹁い よい よ﹂ と同 じく
︑漢 文訓 読文 に頻 出し なが ら﹃ 源氏 物語
﹄ で例 の多 い語 とし て﹁ 悲し ぶ﹂ が挙 げら れる
︒﹁ 悲し ぶ﹂ は︑ 築島 裕﹃ 平安 時代 の漢 文訓 読語 につ きて の研 究﹄ では
︑B
﹁源 氏物 語に も見 える が用 法や 用例 が限 られ てい るも の﹂ とさ れ漢 文訓 読語 とし て扱 われ てい る︒ 単独 動詞 の﹁ 悲し ぶ﹂ はઅ 例だ けだ が︑ ここ では
︑ 名詞 形﹁ 悲し び﹂ 12例 や︑
﹁恋 ひ悲 しぶ
﹂ 例﹁ 悲し び思 ふ︵ 悲し び思 す︶
﹂અ 例の 複合 動詞 など
︑応 用的 な用 法が 多い 点に 注目 した い︒
○﹁ 過ぎ はべ りに し人 を︑ 世に 思う たま へ忘 るる 世な くの み︑ 今に 悲し びは べる を︑ この 御事 にな む︑ もし はべ る世 なら まし かば
︑
⁝⁝
動詞
︵須 磨)
○さ しも ある まじ き公 人︑ 女房 など の年 古め きた るど もさ へ︑ 恋ひ 悲し びき こゆ る︒
複合 動詞
︵柏 木)
○母 なる 人な んい みじ く恋 ひ悲 しぶ なる を︑ かく なん 聞き 出で たる
と告 げ知 らせ まほ しく はべ れど
複合 動詞
︵夢 浮橋 )
○御 土器 まゐ りて
︑﹁ 酔ひ の悲 しび 涙灑 く春 の盃 の裏
﹂と もろ 声に 誦じ たま ふ︒
名詞
︵須 磨)
○願 ひた まひ しし るし にや
︑つ ひに 亡せ たま ひぬ れば
︑ま た︑ これ を悲 しび 思す こと 限り なし
︒
複合 動詞
︵桐 壺) 意味 の面 から 言う と︑ これ らの 例は 単純 に悲 しい と言 うだ けで は なく
﹁慕 う・ 恋う
﹂の 含意 があ ると 思わ れる
︒第 一例 の﹁ 悲し ぶ﹂ は﹁ 過ぎ はべ りに し人
﹂を 慕う
・恋 う意 味を 含ん でお り︑ 第二 例第 三例 の複 合動 詞﹁ 恋ひ 悲し ぶ﹂ と意 味が 重な る点 があ ろう
︒
﹁恋 ひ悲 しぶ
﹂は どの よう な漢 語の 翻読 語で ある かは 未詳 とせ ざ るを 得な いが
︑漢 語﹁ 悲恋
﹂︵
﹃魏 書﹄
﹃隋 書﹄ 等︶ や﹁ 哀慕
﹂︵
﹃白 氏文 集﹄ 巻五 十七
﹁與
㆓南 詔清 平館
㆒書
﹂等
︶な どが 候補 に考 えら れ る︒ ある いは 第一 例の よう な意 味を 明確 化す るた めに 翻読 語的 な語 形と して 作っ た造 語で ある かも 知れ ない
︒ 第四 例の 名詞
﹁酔 ひの 悲し び﹂ は﹃ 白氏 文集
﹄巻 十七
・律 詩﹁ 十 年三 月三 十日
⁝⁝
﹂に ある
﹁酔 悲灑
㆑涙 春盃 裏﹂ の引 用で ある
︒ 第五 例の
﹁悲 しび 思す
﹂は
﹁悲 しび
﹂だ けで 意味 が通 じる とこ ろ を﹁ 哀思
︵悲 思︶
﹂︵
﹃史 記﹄
﹃漢 書﹄
﹃後 漢書
﹄等
︶︑ ある いは
﹁悲 思﹂
︵﹃ 史記
﹄﹃ 漢書
﹄﹃ 後漢 書﹄
︑魏 文帝
﹁雑 詩﹂ 等︶ など の漢 語か らの 類推 で﹁ 思す
﹂を 付け た翻 読語 では なか ろう か︒
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五五
なお
﹁悲 しび 思ふ
﹂の よう に︑
﹁思 ふ︵ 思す
︶﹂ を構 成要 素に とる 例は
﹃源 氏物 語﹄ に多 く見 られ
︑次 のよ うに
﹁思 ひ+ 心理 動詞
﹂
﹁心 理動 詞+ 思ふ
﹂の 場合 があ る︒ これ らは
﹁心 理動 作﹂ を重 ねて いる 点で
︑連 文に よる 翻読 語の 構成 に近 い面 があ る︒
︵思 ひ+ 心理 動作 )
﹁思 し崇 む﹂
﹁思 ひ飽 く﹂
﹁思 し︵ ひ︶ 侮る
﹂﹁ 思し
︵ひ
︶焦 ら る﹂
﹁思 しひ 浮か る﹂
﹁思 し︵ ひ︶ 疑ふ
﹂﹁ 思ひ 恨む
﹂﹁ 思し 鬱う ず﹂
﹁思 ひ倦うむ
ず﹂
﹁思 ひお ごる
﹂﹁ 思し 怖づ
﹂﹁ 思し おご る﹂
﹁思 しお ぼほ る﹂
﹁思 し︵ ひ︶ 驚く
﹂﹁ 思し
︵ひ
︶く づほ る﹂
﹁思 し
︵ひ
︶屈 す﹂
﹁思 ひ困 ず﹂
﹁思 し焦 がる
﹂﹁ 思し 志す
﹂﹁ 思し 好む
﹂
﹁思 しこ とわ る﹂
﹁思 し︵ ひ︶ 懲る
﹂﹁ 思し 忍ぶ
﹂﹁ 思し
︵ひ
︶知 る﹂
﹁思 し︵ ひ︶ しを る﹂
﹁思 した ばか る﹂
﹁思 し慰 む﹂
﹁思 し
︵ひ
︶歎 く﹂
﹁思 し︵ ひ︶ 悩む
﹂﹁ 思し 願ふ
﹂﹁ 思し 念ず
﹂﹁ 思し
︵ひ
︶憚 る﹂
﹁思 し僻 む﹂
﹁思 ひ惚 く﹂
﹁思 し︵ ひ︶ 惚る
﹂﹁ 思し 迷ふ
﹂﹁ 思し 喜ぶ
﹂﹁ 思し
︵ひ
︶忘 る﹂
﹁思 ひわ ぶ﹂
︵心 理動 作+ 思ふ )
﹁焦 れ思 ふ﹂
﹁推 し量 り思 ふ﹂
﹁怖 ぢ思 ふ﹂
﹁お とし め思 ふ﹂
﹁驚 き思 ふ﹂
﹁悲 しび 思す
︵ふ
︶﹂
﹁悔 い思 す︵ ふ︶
﹂﹁ 歎き 思す
︵ふ
︶﹂
﹁願 ひ思 す︵ ふ︶
﹂﹁ 喜び 思ふ
﹂﹁ 惜し み思 しめ す﹂
﹃白 氏文 集﹄ でも
﹁思
﹂を 心理 動作 に結 びつ けた 漢語 が見 える
︒
﹁思 謀﹂
﹁思 苦﹂
﹁思 量﹂
﹁思 憶﹂
﹁怨 思﹂
﹁疑 思﹂
﹁凝 思﹂ 思い 苦し む場 面を 描く
﹃源 氏物 語﹄ に関 わり が深 い語 ばか りで あり
︑
﹃源 氏物 語﹄ では
﹁怨 思﹂
﹁疑 思﹂ に対 応す る﹁ 思ひ 恨む
﹂﹁ 思ひ 疑 ふ﹂ もあ る︒ 心理 を描 く複 合動 詞に つい て竹 内︵ 一九 八六
︶は
︑
﹁思 ひ~
﹂に
﹁心 のう ちに じっ と抑 えな がら 抱く
﹂意 があ ると 解し てい るが
︑こ の背 景に は﹃ 白氏 文集
﹄の 影響 が想 定さ れる
︒
﹁悲 しぶ
﹂の 使用 が漢 語・ 漢文 に関 わる とす れば
︑漢 文訓 読文 に 例が 多い はず であ る︒ 築島 裕﹃ 訓点 語彙 集成
﹄で 見る と︑
﹁カ ナシ ブ﹂
﹁カ ナシ ビ﹂ は各 167例
︑25 例と 多く の例 が掲 出さ れて いる
︵な お︑
﹁カ ナシ ム﹂ 25例
︑﹁ カナ シミ
﹂આ 例︶
︒一 方︑ 和文 作品 では 用 例は 極め て少 なく
︑﹁ 悲し ぶ﹂ は平 安和 文で は︑ 漢文 訓読 の影 響が ある
﹃宇 津保 物語
﹄ઇ 例の 他︑
﹃紫 式部 日記
﹄ઃ 例﹃ 浜松 中納 言物 語﹄
例
﹃大 鏡﹄
例
﹃今 鏡﹄
例
︵﹁ 悲し ぶ﹂
﹁悲 しむ
﹂各
ઃ例
︶ があ る程 度で
︑そ の他 では
︑﹃ 竹取 物語
﹄﹃ 伊勢 物語
﹄﹃ 大和 物語
﹄
﹃平 中物 語﹄
﹃落 窪物 語﹄
﹃堤 中納 言物 語﹄
﹃土 佐日 記﹄
﹃蜻 蛉日 記﹄
﹃枕 草子
﹄﹃ 更級 日記
﹄﹃ 夜の 寝覚
﹄︵ 但し 名詞
﹁悲 しび
﹂ઃ 例あ り︶
﹃狭 衣物 語﹄
﹃栄 華物 語﹄
﹃水 鏡﹄
﹃増 鏡﹄ には 例が 見ら れな い︒ ただ し︑
﹃源 氏物 語﹄ に見 られ た﹁ 恋ひ 悲し ぶ﹂ など の複 合動 詞 は︑
﹁悲 しぶ
﹂を 用い る他 作品 にも 比較 的多 く見 られ る︒ 右の 中で 例数 の多 い﹃ 宇津 保物 語﹄ では
︑﹁ 恋ひ 悲し ぶ﹂
例
﹁恋 ひ悲 しむ
﹂
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五六
︵表 અ︶
﹃今 昔物 語集
﹄の 例数 天竺 震旦 部 本朝 仏法 部 本朝 世俗 部 悲し ぶ
22
51
11 悲し む
160
180
30 悲し み
આ
ં
ં
例
︑﹁ 泣き 悲し ぶ﹂
ઃ例 と︑ 複合 動詞 の例 数が 多い
︒﹃ 狭衣 物語
﹄ では 単独 動詞 の例 はな いが
︑﹁ 恋ひ 悲し む﹂
ઃ例
﹁惜 しみ 悲し む﹂
ઃ例 の複 合動 詞の 例が ある
︒﹃ 浜松 中納 言物 語﹄ では 単独 動詞
例 だが
︑﹁ 驚き 悲し む﹂
ઃ例
﹁思 し悲 しむ
﹂ઃ 例﹁ 悲し み思 す﹂
ઃ例
﹁泣 き悲 しむ
﹂ઃ 例﹁ 歎き 悲し む﹂
例
﹁惜 しみ 悲し む﹂ અ例 など の複 合動 詞の 例が 多い
︒﹃ 栄華 物語
﹄も 単独 動詞 の例 はな いが
︑﹁ 惜 しみ 悲し ぶ﹂
ઃ例 が見 える
︒こ のよ うに
︑漢 文訓 読語 が和 文作 品に 導入 され る際 には
︑単 独動 詞よ り複 合動 詞︵ 翻読 語︶ とし て用 いら れや すい こと が注 意さ れる
︒ 右の 中で も︑
﹁泣 き悲 しむ
﹂﹁ 歎き 悲し む﹂ は漢 文訓 読調 を含 む
﹃水 鏡﹄ にも 例が 比較 的多 く見 られ
︵﹁ 泣き 悲し む﹂ ઈ例
﹁泣 き悲 し ぶ﹂
ઃ例
﹁歎 き悲 しぶ
﹂ઃ 例︶
︑﹃ 今昔 物語 集﹄ にな ると 後述 のよ う に数 多く の例 が見 られ るよ うに なる
︒漢 語﹁ 悲泣
﹂﹁ 悲歎
﹂を 転倒 して 生じ た翻 読語 と思 われ る﹁ 泣き 悲し む﹂
﹁歎 き悲 しむ
﹂は やが て和 漢混 淆文 の特 徴語 とし て定 着す るが
︑平 安後 期の 和文 作品 にす でに その 先蹤 が見 られ るの であ る︒ 院政 鎌倉 期の 和漢 混淆 文に なる と﹁ 悲し む﹂ の形 が多 くな る︒ 院 政期 の﹃ 今昔 物語 集﹄ では
﹁悲 しむ
﹂﹁ 悲し ぶ﹂ の両 形が 存し てい る︒
︵表 અ︶ に部 毎の 例数 をま とめ たが
︑巻 二〇 以前 の漢 文訓 読調 の強 い巻 を中 心に 全体 に分 布し てお り︑ 特に
﹁悲 しむ
﹂が 和漢 混淆
文の 用語 とし て定 着し 一般 化し てい るこ とが 窺え る︒ また
︑﹃ 今昔 物語 集﹄ では 単独 動詞 に加 えて
︑次 のよ うな 複合 動 詞の 例が 多い こと が特 徴で ある
︒﹁ 悲し ぶ﹂
﹁悲 しむ
﹂を 前項 にと る 例は 次の よう であ る︒
﹁悲 び愛 す﹂ ઇ例
︑﹁ 悲び 哀ぶ
﹂ 例︑
﹁悲 び合 ふ﹂
例
︑﹁ 悲び 云ふ
﹂ઃ 例︑
﹁悲 び懼 る﹂
ઃ例
︑﹁ 悲び 傅く
﹂ઃ 例︑
﹁悲 び悔 ゆ﹂
ઃ例
︑﹁ 悲び 困ぶ
﹂ઃ 例︑
﹁悲 び助 く﹂
ઃ例
︑﹁ 悲び 貴ぶ
﹂32 例︑
﹁悲 び貴 む﹂ ઇ例
︑﹁ 悲び 泣く
﹂ઇ 例︑
﹁悲 び歎 く﹂ ઇ例
︑﹁ 悲し み歎 く﹂ અ例
﹁悲 び迷 ふ﹂
例
︑﹁ 悲び 養ふ
﹂ 例︑
﹁悲 び喜 ぶ﹂ આ例 これ らは
︑連 文の 翻読 語に よる 同義 的結 合で ある ため
︑次 のよ う に転 倒形 が多 いが
︑﹁
~悲 しむ
﹂の 形で は特 に﹁ 泣き 悲し む﹂
﹁歎 き 悲し む﹂ の例 が多 く︑ 和漢 混淆 文の 特徴 語と なっ てい る︒
﹁哀 び悲 ぶ﹂
例
︑﹁ 哀び 悲む
﹂ 例︑
﹁悔 い悲 む﹂
ઃ例
︑﹁ 貴び 悲ぶ
﹂11 例︑
﹁貴 み悲 む﹂
ઃ例
︑﹁ 泣き 悲む 143﹂
例︑
﹁歎 き悲 ぶ﹂
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五七
12例
︑﹁ 歎き 悲む 100﹂
例︑
﹁喜 び悲 ぶ﹂ અ例
︑﹁ 喜び 悲む
﹂11 例
﹃今 昔物 語集
﹄で は︑
﹃浜 松中 納言 物語
﹄﹃ 水鏡
﹄に も見 られ た
﹁泣 き悲 しむ
﹂﹁ 歎き 悲し む﹂ を筆 頭に
︑同 義的 結合 の複 合動 詞の 形 で多 く用 いて いる
︒た だし
︑﹃ 今昔 物語 集﹄ の﹁ 悲し む﹂
﹁悲 しぶ
﹂ は﹁ 愛す
﹂﹁ 哀ぶ
﹂﹁ 助く
﹂﹁ 貴ぶ
﹂﹁ 喜ぶ
﹂﹁ 養ふ
﹂な ど仏 教的 感 動・ 仏教 的慈 悲を 表す 動詞 との 結合 が中 心で あり
︑﹃ 源氏 物語
﹄の 人を 恋う 意味 とは 必ず しも 重な るわ けで はな い︵ これ らの
﹁悲 し ぶ﹂ の意 味用 法に つい ては
︑藤 井二
〇一 六を 参照
︶︒ 中世 では
﹁悲 しぶ
﹂の 例は さら に後 退し
︑﹃ 延慶 本平 家物 語﹄ で は﹁ 悲し ぶ﹂
例
﹁悲 しむ
﹂37 例で ある
︒﹁ 悲し む﹂ の形 は︑
﹃宇 治 拾遺 物語
﹄ઉ 例︑
﹃覚 一本 平家 物語
﹄46 例な ど︑ 物語 用語 とし て定 着し てい く︒ この よう な流 れの 中で
︑﹃ 宇津 保物 語﹄ や﹃ 源氏 物語
﹄ の用 いた
﹁悲 しぶ
﹂は
︑漢 文訓 読語 を物 語の 文章 に用 いた いち 早い 例と して 注目 され る︒
﹁か なし ぶ﹂ をは じめ
︑築 島が Bと して 挙げ た77 語の 動詞 は︑
﹃源 氏物 語﹄ が取 り入 れた 漢文 訓読 語と して
︑文 体史 の面 から 注目 すべ き存 在と 言え よう
︒ 四 漢文 訓読 語﹁ 愁ふ
﹂と その 翻読 語
﹁い よい よ﹂
﹁悲 しぶ
﹂と 同様
︑漢 文訓 読文 に例 が多 いが
︑﹃ 源氏 物語
﹄に も例 の多 い語 とし て﹁ 愁ふ
﹂が 挙げ られ る︒
﹃源 氏物 語﹄
の﹁ 愁ふ
﹂は
﹁悲 しぶ
﹂と 同じ よう に名 詞形 でも 例が 多く
︑動 詞
﹁愁 ふ﹂ 28例
︑名 詞﹁ 愁へ
﹂23 例が 見え る︒
﹁愁 ふ﹂ は築 島の 分類 で C﹁ 源氏 物語 にも 見え るも の﹂ とし て処 理さ れて いる
︒し かし
︑
﹁愁 ふ﹂ は︑ 漢文 訓読 文で は極 めて 多く の例 が見 られ る︵
﹃訓 点語 彙 集成
﹄で
﹁ウ レフ 175﹂
例﹁ ウレ ヘ﹂ 45例
︶の に対 して
︑﹃ 源氏 物語
﹄ 以外 の平 安和 文で は概 して 例が 少な い︒ すな わち
﹃宇 津保 物語
﹄ઈ 例︑
﹃夜 の寝 覚﹄
﹃今 鏡﹄ に各 અ例
︑﹃ 狭衣 物語
﹄﹃ 水鏡
﹄﹃ 増鏡
﹄に
例
︑﹃ 枕草 子﹄
﹃大 鏡﹄
﹃栄 華物 語﹄
﹃浜 松中 納言 物語
﹄に 各ઃ 例が 見え る程 度で
︑﹃ 竹取 物語
﹄﹃ 伊勢 物語
﹄﹃ 大和 物語
﹄﹃ 平中 物語
﹄
﹃落 窪物 語﹄
﹃堤 中納 言物 語﹄
﹃土 佐日 記﹄
﹃蜻 蛉日 記﹄
﹃紫 式部 日記
﹄
﹃更 級日 記﹄ には 例が 見ら れな い︒ 物語 の叙 述で あれ ば喜 怒哀 楽の 表現 は多 用さ れる はず であ るが
︑こ のよ うな 偏り には 意味 があ るの では ない か︒ 漢文 訓読 の影 響が 指摘 され る﹃ 宇津 保物 語﹄ にも ある が︑
﹁い よい よ﹂ と同 じく
﹃源 氏物 語﹄ 以後 の作 品で 徐々 に例 が増 加す るこ とが 窺え る︒
﹃源 氏物 語﹄ の﹁ 愁ふ
﹂は 漢文 訓読 語の 性格 を持 つと 思わ れる が︑ この 語は
﹁愁 へ顔
﹂﹁ 愁へ 泣く
﹂﹁ 愁へ 歎く
﹂な どの 複合 語で 多く 用 いて おり
︑そ の中 に翻 読語 と考 えら れる 例が ある
︒
○日 のわ づか にさ し出 でた るに
︑愁 へ顔 なる 庭の 露き らき らと して
︑ 空は いと すご く霧 りわ たれ るに
︵野 分)
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五八
○鹿 はた だ籬 のも とに たた ずみ つつ
︑山 田の 引板 にも 驚か ず︑ 色濃 き稲 ども の中 にま じり てう ちな くも 愁へ 顔な り︒
︵夕 霧) 野分 巻の 例は
︑夜 来の 風雨 で乱 れた 庭の 露の きら めき に涙 を流 す かの ごと き﹁ 愁へ 顔﹂ を見 出し
︑紫 の上 を思 慕す る夕 霧の 心情 と重 ねる
︒夕 霧巻 の例 は︑ 妻を 恋ふ 鹿の
﹁愁 へ顔
﹂を 通し て︑ 落葉 宮を 恋う 夕霧 の心 情を 投影 して いる②
︒﹁ 愁へ 顔﹂ のよ うな
﹁用 言連 用形
+顔
﹂は
︑62 137種
例が 見ら れ︑ 人間 の内 面を 自然 描写 を通 して 象徴 的に 描く
﹃源 氏物 語﹄ の特 徴的 な擬 人法 とさ れて いる
︵山 口二
〇一 八︶
︒﹁ 愁へ 顔﹂ は︑
﹃白 氏文 集﹄ に例 が見 える 漢語
﹁愁 顔﹂
﹁憂 顔﹂ をヒ ント にし た式 部の 応用 的表 現で あろ うこ とは すで に神 谷︵ 二〇
〇七
︶に も指 摘が ある が︑ 語形 のみ なら ず表 現内 容の 面で も次 のよ うな 例に 関連 が指 摘で きる
︒
○且 持㆓
一盃 酒㆒
︑聊 以開
㆓愁 顔㆒
︒
︵﹃ 白氏 文集
﹄巻 九﹁ 贈㆓
別楊 穎士
・盧 克柔
・殷 堯藩
㆒﹂ )
○戯 及㆑
此者
︑亦 欲㆔
三千 里外
︑一 破㆓
愁願
㆒︒
︵﹃ 白氏 文集
﹄巻 五十 二﹁ 和二 微子 一詩 二十 二首 并序
﹂)
﹃白 氏文 集﹄ の例 は︑ いず れも 親し い人 との 行き 別れ とな った 白 楽天 の﹁ 愁い 顔﹂ を描 いて いる
︒﹃ 源氏 物語
﹄と
﹃白 氏文 集﹄ では
︑ とも に人 を恋 う心 情と いう 点に 共通 性が 見出 せよ う︒ 複合 動詞
﹁愁 へ歎 く﹂ は︑
﹃源 氏物 語﹄ の他
︑﹃ 宇津 保物 語﹄
﹃水
鏡﹄ にも 見ら れる
︒こ れは
︑﹃ 白氏 文集
﹄﹃ 文選
﹄﹃ 後漢 書﹄ 等に 見 える 漢語
﹁憂 歎﹂
︑も しく は﹃ 楚辞
﹄﹃ 陶淵 明集
﹄﹃ 元氏 長慶 集﹄ 等 に見 える
﹁愁 歎﹂ によ る翻 読語 であ ろう
︒
○こ の選 びに 入ら ぬを ば恥 に愁 へ嘆 きた るす き者 ども あり けり
︒
︵若 菜下 )
○受 レ命 以来 夙夜 憂歎
︵﹃ 文選
﹄巻 三十 七 諸葛 孔明
﹁出 師表
﹂)
○苦 詞無
㆓一 字㆒
︑憂 歎無
㆓一 声㆒
︵ ︒
﹃白 氏文 集﹄ 巻六 十一
﹁序
㆓洛 詩㆒
」) 若菜 下の 例は
︑源 氏の 住吉 詣の 際︑ 神楽 の舞 人に 選ば れな かっ た 者の 嘆き を表 す︒
﹃文 選﹄ の例 は︑ 孔明 が大 命を 受け た気 持ち であ る︒
﹃白 氏文 集﹄ の例 は﹁ 洛陽 の詩 の序 文﹂ であ り︑ 多く の詩 人た ちは 不遇 を詩 に詠 んだ が︑ 自ら の詩 は境 遇に 苦し みや 愁い 歎く 言葉 は一 声も なく
︑閑 居の 中で 詩を 詠む 喜び を述 べた もの であ る︒ 不運 を歎 く舞 人た ちと 自身 の境 遇に 不満 を抱 かず に人 生を 送る 白楽 天と の心 情に は落 差が ある が︑ 同じ
﹁す き者
﹂︵ 風流 人︶ とし ての 境遇 をめ ぐる 感情 表現 とい う面 で共 通点 も見 出せ る③
︒
﹁愁 へ泣 く﹂ に対 応す る﹁ 愁泣
﹂は
﹃後 漢書
﹄に 例が 見え る︒
○姫 君た ち︑ さて はい と幼 きと をぞ 率て おは しに ける
︑あ るは 上を 恋ひ たて まつ りて 愁へ 泣き たま ふを
︑心 苦し と思 す︒
︵夕 霧)
○皆 日夜 愁泣
︑思 欲㆓
東帰
㆒︒
︵﹃ 後漢 書﹄ 巻四 十一 劉盆 子伝 )
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
五九
﹃源 氏物 語﹄ の翻 読語 の元 にな る漢 語は
︑前 節の
﹁悲 しぶ
﹂で も いく つか 例を 示し たよ うに
︑﹃ 白氏 文集
﹄の みな らず 中国 正史 類の 漢語 の影 響も 想定 でき るで あろ う︵ 藤井 二〇 一九 参照
︶︒ 五 高頻 度の 翻読 語﹁ 推し 量る
﹂ 最後 に高 頻度 の翻 読語 とし て﹁ 推し 量る
﹂を 取り 上げ てお く︒
﹁推 し量 る﹂ は︑
﹁推
︑度 也﹂
︵管 子注
︶﹁ 測︑ 意度 也﹂
︵礼 記注
︶ など の訓 詁を 背景 に﹁ 推測
﹂﹁ 推量
﹂等 から 生じ たと 思わ れる
︒﹁ オ シハ カル
﹂は
︑﹁ 推﹂ の訓 読語 とし て観 智院 本﹃ 類聚 名義 抄﹄ の他
︑
﹃訓 点語 彙集 成﹄ で﹃ 法華 義疏
﹄平 安中 期点 など ઋ例 の訓 読例 があ る︒
﹁い よい よ﹂ と同 様︑ 和文 に溶 け込 みや すい 語で あっ たら しく 漢文 訓読 調の 作品 以外 でも 広く 例が 見ら れる
︒ 宇津 保物 語ઃ 例︑ 蜻蛉 日記 ઉ例
︑落 窪物 語ઈ 例︑ 枕草 子10 例︑ 源氏 物語 94例
︑狭 衣物 語14 例︑ 夜の 寝覚 16例
︑浜 松中 納言 物語 13例
︑栄 華物 語57 例︑ 紫式 部日 記અ 例︑ 更級 日記
ઃ例
︑大 鏡ઇ 例︑ 今鏡 અ例
︑水 鏡અ 例︑ 増鏡 16例
︑讃 岐典 侍日 記ઇ 例︑ 堤中 納言 物語
例
︑今 昔物 語集
︵本 朝部 のみ
︶13 例︑ 金沢 文庫 本仏 教説 話集
例
︑観 智院 本三 宝絵
ઃ例
︑保 元物 語ઃ 例︑ 宇治 拾遺 物語 અ例
︑発 心集 આ例
︑覚 一本 平家 物語 19例
︑延 慶本 平家 物語 40例
︑建 礼門 院右 京大 夫集 અ例
︑十 訓抄 અ例
︑古 今著 聞集 ઇ例
︑
十六 夜日 記ઃ 例︑ とは ずが たり 10例
︑徒 然草 અ例
︵例 が見 られ ない 作品
↓竹 取物 語︑ 伊勢 物語
︑大 和物 語︑ 土佐 日記
︑法 華百 座聞 書抄
︑平 中物 語︑ 平治 物語 ) 初期 の物 語・ 日記
﹃竹 取物 語﹄
﹃伊 勢物 語﹄
﹃大 和物 語﹄
﹃土 佐日 記﹄ には 例が 見え ない が︑
﹃源 氏物 語﹄ 以降 の﹃ 狭衣 物語
﹄﹃ 夜の 寝 覚﹄
﹃浜 松中 納言 物語
﹄や
﹃栄 華物 語﹄ など に比 較的 例が 多い
︒﹁ い よい よ﹂ と同 じよ うに
︑﹃ 源氏 物語
﹄の 影響 によ って 物語 類の 文体 に溶 け込 んだ 語の 一つ であ ろう
︒一 方︑ 漢文 訓読 的な 語と して
︑中 世以 降の 和漢 混淆 文に も受 け継 がれ たこ とが 窺え る︒
﹃源 氏物 語﹄ では
︑客 観的 状況 を推 測す る次 のよ うな 例が ある
︒
○か くて
︑院 も離 れお はし ます ほど
︑人 目す くな くし めや かな らむ を推 しは かり て︑ 小侍 従を 迎へ とり つつ
︑い みじ う語 らふ
︒
︵若 菜下 )
○今 宵は 例の 御遊 びに やあ らむ と推 しは かり て︑ 兵部 卿宮 渡り たま へり
︒
︵鈴 虫︶
︑
﹃源 氏物 語﹄ で注 意さ れる のは
︑登 場人 物や 語り 手の 立場 から
︑人 物の 心理 やそ れに 伴う 行動 を推 測す る例 が多 いこ とで ある
︒
○は かな き木 草︑ 空の けし きに つけ ても とり なし など して
︑心 ばせ 推し はか らる るを りを りあ らむ こそ あは れな るべ けれ
︑ 中司 の君
↓姫 君の 心柄
︵末 摘花 )
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
六〇
○と まり たま ふべ きに もあ らぬ を見 たて まつ る心 地ど も︑ ただ 推し はか るべ し︒
語り 手↓ 源氏 の心 理︵ 若菜 下)
○忘 れた まは ぬに こそ はと あは れと 思ふ にも
︑い とど 母君 の御 心の 中推 しは から るれ ど︑ なか なか 言ふ かひ なき さま を見 え聞 こえ た てま つら むは
︑
浮舟
↓母 君の 心中
︵手 習) 登場 人物 の心 理を 忖度 する 場面 の多 い﹃ 源氏 物語
﹄に おい て︑
﹁推 し量 る﹂ は鍵 語の 一つ であ ると 言え よう
︒ 人物 の心 理を 推し 量る 例は
︑転 成名 詞で も﹁ 推し 量り
﹂અ 例﹁ 推 し量 り事
﹂ઃ 例が 見え る︵ 平安 和文 での
﹁推 し量 り﹂ は︑ 他に
﹃紫 式部 日記
﹄に
ઃ例
︑﹁ 推し 量り 事﹂ は﹃ 枕草 子﹄ にઃ 例の み︶
︒
○こ の﹁ 音無 の滝
﹂こ そう たて いと ほし く︑ 南の 上の 御推 しは かり 事に かな ひて
︑軽 々し かる べき 御名 なれ
︒
︵行 幸)
○あ やし き御 推し はか りに なむ
︒
︵朝 顔) 行幸 の例 は︑
﹁音 無の 滝︵ 光源 氏の 玉鬘 への 恋心 を暗 示︶
﹂は
﹁南 の上
︵紫 の上
︶﹂ の﹁ 忖度
﹂通 りの 名で ある との 意味 であ る︒ 朝顔 の例 は源 氏の 言葉 で︑ 女五 の宮 の﹁ さり とも 劣り たま へら むと こそ 推し はか りは べれ
﹂と いう 発言 を受 けて 名詞 化し たも ので ある
︒既 述の
﹁か なし ぶ﹂
﹁う れふ
﹂が
﹁か なし び﹂ 12例
﹁う れへ
﹂23 例な ど転 成名 詞の 例が 多い こと にも 照ら すと
︑漢 語・ 漢文 に関 わる 用語 は概 念化 され
︑名 詞で 使わ れや すい 傾向 が窺 える
︒
紫式 部が 心を 推し 量る こと を概 念化 して 捉え 多用 した 背景 に︑
﹃白 氏文 集﹄ 新楽 府の 漢語
﹁推 心﹂ の影 響が ある かも しれ ない
︒
○功 成理 定何 神速
︑速 在㆔
推㆑
心置
㆓人 腹㆒
︒
︵﹃ 白氏 文集
﹄巻 三・ 新楽 府﹁ 七徳 舞﹂ ) 右は
︑太 宗の 功業 が速 かっ たの は︑ 自ら の赤 心を 推察 し他 人の 心に 置き 換え たか らと の意 味で ある
︒﹃ 源氏 物語
﹄に 登場 する 人物 は︑ 他者 の心 を忖 度し 葛藤 しな がら 行動 する
︒他 者の 心を 推し 量る 行為 は︑ 物語 を展 開さ せる 重要 な契 機の 一つ なの であ る︒ 六 まと め 本稿 では
︑﹃ 源氏 物語
﹄が 漢文 訓読 語を 意識 的に 取り 入れ て表 現 を多 様に して いる こと
︑ま た︑ 漢文 訓読 語が 漢語 知識 によ って 作り 出す 翻読 語︵ 複合 動詞
・複 合名 詞︶ の形 によ って 導入 され る場 合が 多い こと など を指 摘し た︒ 紫式 部は
︑﹃ 白氏 文集
﹄や 正史 類の 漢文 の知 識を 元に
︑漢 文訓 読語 や翻 読語 を駆 使す るこ とで 語彙
・表 現を 豊か にし
︑作 品を 彩っ てい ると いう こと であ る︒ 本稿 で見 たよ うな 和文 に導 入さ れや すい 漢文 訓読 語・ 翻読 語は
︑ 後の 和漢 混淆 文で も多 く見 られ る要 素で あり
︑和 漢混 淆文 の﹁ 漢﹂ の要 素の 中核 とな って いく 語で ある こと に注 目し てお きた い︒
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
六一
注
①
﹃源 氏物 語﹄ の本 文は
﹃新 編日 本古 典文 学全 集﹄
︵小 学館
︶に よる
︒作 品ご との 用例 数に つい ては
﹃日 本古 典対 照分 類語 彙表
﹄︵ 笠間 書院
︶を 参照 した 他︑ 索引 類で 確認 した
︒使 用し た索 引類 は次 のも ので ある
︵編 者名 は省 く︶
︒﹃ 伊勢 物語 総索 引﹄
︵明 治書 院︶
﹃大 和物 語語 彙索 引﹄
︵笠 間書 院︶
︑﹃ 平中 物語
本文 と索 引﹄
︵洛 文社
︶︑
﹃宇 津保 物語
本文 と索 引﹄
︵笠 間書 院︶
︑﹃ 枕草 子 本文 及び 総索 引﹄
︵和 泉書 院︶
︑﹃ 夜の 寝覚 総 索引
﹄︵ 明治 書院
︶︑
﹃狭 衣物 語語 彙索 引﹄
︵笠 間書 院︶
︑﹃ 浜松 中納 言物 語 総索 引﹄
︵武 蔵野 書院
︶︑
﹃落 窪物 語総 索引
﹄︵ 明治 書院
︶︑
﹃堤 中納 言物 語 校本 及び 総索 引﹄
︵風 間書 房︶
︑﹃ 栄花 物語 本文 と索 引﹄
︵武 蔵野 書院
︶︑
﹃今 鏡本 文及 び総 索引
﹄︵ 笠間 書院
︶︑
﹃水 鏡本 文及 び総 索引
﹄︵ 笠間 書院
︶︑
﹃増 鏡総 索引
﹄︵ 明治 書院
︶︑
﹃保 元物 語総 索引
﹄︵ 武蔵 野書 院︶
︑﹃ 平治 物 語総 索引
﹄︵ 武蔵 野書 院︶
︑﹃ 延慶 本平 家物 語 索引 編﹄
︵勉 誠社
︶︑
﹃三 宝 絵詞 自立 語索 引﹄
︵笠 間書 院︶
︑﹃ 今昔 物語 集索 引﹄
︵岩 波書 店︶
︑﹃ 打聞 集 の研 究と 総索 引﹄
︵清 文堂
︶︑
﹃法 華百 座聞 抄総 索引
﹄︵ 武蔵 野書 院︶
︑﹃ 金 沢文 庫本 仏教 説話 集の 研究
﹄︵ 汲古 書院
︶︑
﹃宇 治拾 遺物 語総 索引
﹄︵ 清文 堂出 版︶
︑﹃ 発心 集本 文・ 自立 語索 引﹄
︵清 文堂 出版
︶︑
﹃撰 集抄 自立 語索 引﹄
︵笠 間書 院︶
︑﹃ 十訓 抄本 文と 索引
﹄︵ 笠間 書院
︶︑
﹃古 今著 聞集 総索 引﹄
︵笠 間書 院︶
︑﹃ 慶長 十年 古活 字本 沙石 集索 引編
﹄︵ 勉誠 社︶
︒八 代集 は﹁ 中納 言﹂ と﹃ 八代 集総 索引
﹄︵ 大学 堂書 店︶ によ る︒ その 他︑
﹃源 氏 物語 辞典
﹄︵ 角川 学芸 出版
︶を 参照 した
︒漢 籍類 は文 淵閣 本﹃ 四庫 全書
﹄
︵漢 字情 報シ ステ ム︶ を用 い検 索し た︒
② なお
︑﹁ 愁へ
+名 詞﹂ の複 合語 には
﹃増 鏡﹄ の﹁ 愁へ 心﹂ もあ る︒ 元 にな る漢 語と して 想定 され る﹁ 愁心
﹂は
︑﹃ 白氏 文集
﹄に もઅ 例が 見ら れる
︒そ の他
﹁憂 心﹂ も﹃ 後漢 書﹄
﹃毛 詩﹄ に見 える
︒
③ その 他︑
﹁愁 ふ﹂ を含 む同 義的 結合 の例 とし て︑
﹁愁 へ迷 ふ﹂ が﹃ 浜松
中納 言物 語﹄ に﹁ 愁へ 思ふ
﹂が
﹃夜 の寝 覚﹄ 見ら れた
︒﹁ 愁へ 思ふ
﹂に 構成 が対 応す る﹁ 憂思
﹂は
﹁至
㆓於 爵禄 患難 之際
︑窹 寐憂 思之 間㆒
︑誓
㆑心 同帰
︑交 感非
㆑一
﹂︵
﹃白 氏文 集﹄ 巻六 十﹁ 祭㆓
微子
㆒文
﹂︶ のよ うな 例が 見 える
︒ 参考 文献 大坪 併治
︵二
〇一 七︶
﹃石 山寺 本大 智度 論古 点の 国語 学的 研究 下﹄
︵風 間 書房 ) 神谷 かを る︵ 二〇
〇八
︶﹁
﹁︱ 種﹂
﹁︱ 顔﹂ とい う表 現を めぐ って 源
︱
氏 物語 の造 語法 から みて
﹂
︱
︵﹃ 源氏 物語 の展 望﹄ 四 三弥 井書 店) 小林 芳規
︵一 九六 七︶
﹃平 安鎌 倉時 代に 於け る漢 籍訓 読の 国語 史的 研究
﹄
︵東 京大 学出 版会 ) 竹内 美智 子︵ 一九 八六
︶﹃ 平安 時代 和文 の研 究﹄
︵明 治書 院) 築島 裕︵ 一九 六三
︶﹃ 平安 時代 の漢 文訓 読語 につ きて の研 究﹄
︵東 京大 学出 版会 ) 藤井 俊博
︵二
〇一 九︶
﹁﹃ 源氏 物語
﹄の 翻読 語と 文体 連
︱
文に よる 複合 動 詞を 通し て
︱
﹂︵
﹃同 志社 国文 学﹄ 第91 号) 舩城 俊太 郎﹃ 院政 時代 文章 様式 史論 考﹄
︵勉 誠出 版︶ 山口 仲美
︵二
〇一 八︶
﹃言 葉か ら迫 る平 安文 学ઃ
源氏 物語
﹄︵ 風間 書房 )
﹃源 氏物 語﹄ にお ける 漢文 訓読 語と 翻読 語
六二