CA法による構造形態創生に関する研究 : 大域的操 作方法導入の提案
著者 櫻井 啓
出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編
巻 6
ページ 1‑6
発行年 2017‑03‑24
URL http://doi.org/10.15002/00013700
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol.6(2017年3月) 法政大学
CA 法による構造形態創生に関する研究
―大域的操作方法導入の提案―
STUDY ON STRUCTURAL MORPHOGENESIS WITH CELLULAR AUTOMATON METHOD -The proposal by introducing the method of the global operation-
櫻井啓 Kei SAKURAI
主査 浜田英明 副査 佐々木睦朗・吉田長行
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
This paper presents effective method for structural morphogenesis using a cellular automaton, representing a simple conceptual basis for the self-organization of structural systems. The proposed methods are sufficiently simple to solve topology optimization problems as pure 0-1 problems. Local rules for add and delete of cells are based on stress distribution in the structure. The effectiveness of the proposed method for 2-demensional problems is demonstrated through numerical topology optimization problem examples that introduce the method of the global operation.
Key Words : Cellular Automaton, Topology Optimization, Structural Morphogenesis
1.はじめに
自然界には力学的合理性, 美観性, 経済性を完備した 生物が数多く見られる.存続する生物は長い歴史の中で厳 しい環境に適合させながら様々な形式で生物体内に生命 維持や情報伝達に関する機能を取り込んで来た 1).即ち,
地球上には最適解とは言わないまでも現在の環境に最良 解の集合である多様な生物が存在する.
そこで本研究では, このような生物多様性を持つ最良 解を決定するような生命維持と情報伝達の機構を模倣し た演算モデルを有する CA 法 2—5)を適用した形態創生を 提案する.
CA法は, セル間の相互作用を利用して複雑で変化の富 ん だ 形 態 を 生 成 す る こ と が 可 能 で あ り, 三 井 ら は
Neumann 近傍における次ステップでの着目セルの状態は,
現ステップにおける着目セル自身またはその近傍セルの 応力状態に依存するとし,ヤング率を一定とし,セルの付 加と削除の局所規制のみで構造形態の自律的生成を行っ
ている6).このように既往の論文では, CA法の特徴を最大
限に活かした研究内容が多い.しかし, 現代において実際 に構造物を設計するには, 機能性, 経済性, 安全性, デザ イン性等の諸要求を満たす為に, 効果的に設計目的を達 成することが要求される.現状の相互作用のみを利用した CA法では, 優良とされた解が局所解のようなものである 可能性があり, 大域的に統括されているとは言い難い.こ れは, CA法が構造設計の実務に採用されない原因の一つ
であると考えられる.この問題を解決する為には新たにト ップダウン機構を取り入れ, 設計目的を達成する為の大 域的な制御を行う必要がある.
そこで本研究では, 設計目的の中で最低限必要になる 要素に「余命」というアルゴリズムを導入する.また既往 の研究では, 評価指標を「Von Mises応力」のみで行って いたが, 新たに「歪エネルギー」を評価指標に加えること により, 従来のCA法の特徴を活かしつつ, 全体の進化を 制御することを試みる.
本研究では以上の点に着目し,力学的に効率の良い形 態を得る CA 法の構造最適化手法としての有効性と汎用 性をより高めることを目的とする.
2.CA法
CA の考え方を構造工学における数値解析に応用する と,全体がある目的関数に支配されているというトップ ダウン型のアルゴリズムとは異なり,「分散的」かつ各セ ルが「自律的」に「自己組織化」しながら,結果として全 体の秩序を形成させようとする創発型計算に分類される. 創発型計算はセル間の局所的な相互作用を通して大局的 な秩序や挙動が生成されるボトムアップ的な機構と構築 された大局的な秩序や挙動が逆に各セルの振る舞いや相 互作用に影響して変化するという特徴を持ち,これらの 相乗効果を通して新たな秩序を発現させる演算システム のことである.
3.CA法のアルゴリズム
図1に本研究で扱うCA法のアルゴリズムを示す.
Fig.1 本研究の解析フロー
4.基準値の決定方法
構造体における応力分布に着目し,それらの中で局部 的に応力値の高い領域(主に荷重作用点や支持点)を取り 除いた部分領域によって作り出した疑似的な正規分布を 使う基準値の決定方法を採用する(図 2).正規分布とは異 なり,これらには要素の分布に偏りが生じている.そこで,
平均値を決定し,それに加えて要素の偏りを考慮するた めに平均値に対する標準偏差を導入した基準値の決定を 行う.
本研究では,図 3のように抽出した部分領域内におけ る要素の標準値を相加平均xに対応させた標準偏差 x を 取り,式(1)に示すように標準値に標準偏差を加算した値 を付加基準値,減算した値を削除基準値とする.
更に要素の主応力が応力判定を越えた際, 削除操作を 行うと部材の破断が起こり大きな破断に繋がる為, 図 4 のように付加基準値を平均値からとし, 削除基準値を 0 とする.主応力を基準として次Stepにおけるセルの状態が 決定される.
以下に図2~4にそれぞれの図を示す.
5.局所規制7-9)
構造物の位相問題において,着目したセルの存在の有 無(以下,1:セル有り,0:セル無し)はそのセル自身,また はその近傍セルの力学状態に依存する.セルの付加と削除 に関する局所規制を, Neumann近傍を用いて図5に示す. 上限応力値σuと下限応力値σLを定め,着目セルの応力 がσUを超える場合,すべての近傍セルを1とし,着目セ ルの応力がσLを下回る場合は着目セル自身を 0 とする (図5).
以下に図5を示す.
Fig.2 擬似的正規分布
U L
x x x x σ σ
= +
= − (1) Fig.3 基準値の作成
0
U L
x x σ σ
= +
= (2) Fig.4 基準値の更新
No
Stress Probability density function
(Element count)
Stress
標準値 Probability density function
(Element count)
Stress START
No Yes
Yes 構造モデルの作成
指定領域に余命導入
構造解析
応力の判定
余命の更新 削除・付加基準値作成
基準値の更新
局所規制による形態の更新
終了条件
END
削除される要素
付加される要素
標準値 Probability density function
(Element count)
Stress 付加される要素 Probability density function
(Element count)
(1)セルの付加 (2)セルの削除
Fig.5 局所規制
6.「余命」アルゴリズムの導入
初期形状作成の際に任意に指定した領域R に「余命」
を導入する.余命が与えられたセルは, 削除されるとみな された場合においても余命の値が 0 にならない限り, 消 えることはない.余命は, Step更新時, 削除判定時にそれぞ れ-1される.
1 K K
K K
=
= −
余命 ( は任意の値) Step更新時, 削除判定時に
(3)
また, StepHにR内のセルが応力判定を満足しなかっ た場合そのセルの余命は,
余命= +L K (4)
となる.
7.構造形態の評価
本研究では,得られた形態に対して,ユーザーの視覚的 な判断ではなく応答値の推移を基にした評価方法の提案 を行う.この評価方法の目指す構造形態は,より少ない材 料で構造全体が隔たりなく外力を負担する全応力状態を 持った形態とする.
ここでは,評価すべき構造体の選択方法と評価の手順 について述べる.解析結果により得られた解の重量の逆数 と平均応力度の2 項目を対象に最少二乗法を用いて近似 線を引く(図6).最小二乗法とは, 測定で得られた数値の組 を,適当なモデルから想定される特定の関数を用いて近 似するときに,想定する関数と測定値の残差の二乗和を 最小とするような係数を決定し近似を行う方法である.更 に,近似線より上方の解は重量に対し,平均応力度が異常 に高い解であり,部材破断の直後や力学的に不安定な解 として除外する(図 7 左図).次に,残った解の重量と平均 応力度の2項目を対象にパレート曲線を引く.改めて引い た近似線に近く,かつ,重量が小さく平均応力度が高い解,
すなわち図7右図の右上にあたる解を優良解とする. 以下に図6, 7を示す.
Fig.6 重量を逆数に変換
Fig.7 1/重量-平均応力度 相関関係
8.数値解析
表1に示す両端をピン支持された10m×30mの中路橋 モデルを設計領域として扱う.荷重は h=5m の各節点に,
0.5kNを作用させる.また同モデルに対して「余命なし」
と「余命あり」に分けて解析を行う.
更にこれらの解析例について, 評価指標をそれぞれ
「Von Mises応力」, 「歪エネルギー」に分類して解析を 行う.
Table.1 解析形状
余命なし 黒枠に余命導入
Table.2 解析条件
Analysis domain 10m×30m
Support condition Pin support
Load condition 0.5kN on each Node top surface Number of partition 50×75 (1/2domain)
Cell size 0.2m×0.2m
Poisson’s ration 0.2
Yong’s modulus 21 kN/mm2
Design strength 2.1×10-2 kN/mm2 Allowable compressive stress 0.7×10-2 kN/mm2 (F/3) Allowable tensile stress 2.1×10-3 kN/mm2 (F/10)
Life Primary:100Step Midstream : 50 Step
1 1 1 1 1 1
1 1 0
0
1 1 1
0
0 1
1 0 0 0 近傍セル
着目セル
L : StepH時の余命の値
除外する解 Average Von Mises Stress
1/Weight 近似線
Average Von Mises Stress
Average Von Mises Stress
平均応力度
1/Weight
優良解
1/Weight Average Von Mises Stress
30m
10m
30m
10m Weight
Fig.8 重量の推移(Von Mises応力)
Fig.9 平均応力度の推移(Von Mises応力)
Fig.10 各優良解の応答値(重量, Von Mises応力)
Fig.11 各優良解の応答値(平均応力度,Von Mise応力)
Fig.12 重量の推移(歪エネルギー)
Fig.13 平均応力度の推移(歪エネルギー)
Fig.14 各優良解の応答値(重量, 歪エネルギー)
Fig.15 各優良解の応答値(平均応力度,歪エネルギー)
1000 200300 400 500600 700800
0 40 80 120 160 200
Weight (kN)
Step
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 40 80 120 160 200
Average Von Mises Stress (N/mm2)
Step
89.86 89.86
0 20 40 60 80 100
Weight k(N)
1000 200300 400500 600700 800
0 40 80 120 160 200
Weight (kN)
Step
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0 40 80 120 160 200
Average Von Mises Stress (N/mm2)
Step
0.60 0.49
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
Average Von Mises Stress (N/mm2)
115.39 115.01
0 20 40 60 80 100 120
Weight k(N)
0.39 0.37
0 0.1 0.2 0.3 0.4
Average Von Mises Stress (N/mm2) No life expectancy
Life expectancy
No life expectancy Life expectancy
No life expectancy Life expectancy
No life expectancy Life expectancy
No life expectancy : Step124 Life expectancy : Step97
No life expectancy : Step158 Life expectancy : Step161
No life expectancy : Step124 Life expectancy : Step97
No life expectancy : Step158 Life expectancy : Step161
Step5 Step5
Step34 Step17
Step73 Step25
Step88 Step48
Step124(優良解) Step54
Step160 Step97(優良解)
Step200 Step200
余命なし 余命あり
Von Mises応力 Fig.16 獲得形態
Step5 Step5
Step20 Step35
Step75 Step50
Step100 Step70
Step158(優良解) Step88
Step168 Step161(優良解)
Step180 Step200
余命なし 余命あり
歪エネルギー Fig.17 獲得形態
以下に本解析で検証した例から得られた結果, 考察を 述べる.
図8に評価指標を「Von Mises応力」とした場合の「余 命なし」, 「余命あり」の解析例について, Step1~Step200 までの進化過程における構造形態の重量の推移を示す.図 9に同解析例のStep1~Step200までの進化過程における構 造形態の平均応力度の推移を示す.図 10 に同解析例にお ける各優良解の重量を示す.図 11 に同解析例における各 優良解の平均応力度を示す.図 16 に同解析例における代 表的な獲得形態を示す.
図12に評価指標を「歪エネルギー」とした場合の「余 命なし」, 「余命あり」の解析例について, Step1~Step200 までの進化過程における構造形態の重量の推移を示す.図 13に同解析例の Step1~Step200 までの進化過程における 構造形態の平均応力度の推移を示す.図 14 に同解析例に おける各優良解の重量を示す.図 15 に同解析例における 各優良解の平均応力度を示す.図 17 に同解析例における 代表的な獲得形態を示す.
評価指標を「Von Mises応力」とした場合, 「余命なし」
の解析例では, Step61において, 荷重面を掛けていたアー チ部材が破断し, その後, 部材が復活することなく荷重 面下での進化が行われている.図9の平均応力度の推移に 注目するとStep61以降急激に平均応力度が上昇している.
図16の獲得形態に注目するとStep73以降は分岐位置に 多少の変動はあるものの, 大きな変化はほぼ無く進化が 収束している.「余命あり」の解析例では, 図 9の平均応 力度の推移を見てもわかるように平均応力度に大きな変 動がない.これは, 初期形状に余命導入領域が応力の判定 に引っかかり, 制約条件として設けていた余命の更新を 繰り返すことで構造部材として機能し, 全体の進化過程 において大きな破断がないことが影響していると考えら れる.また図16における「余命あり」の獲得形態を見ると, 余命導入領域の柱部材が構造材としての機能を果たすこ とでアーチ部材を残したまま進化が収束している.また
Step54, 97, 200において荷重面から張弦梁のような部材が
生成されている.しかし, 機能的には圧縮材となっており, 荷重面の座屈補剛材の役割を果たしていると考えられる.
また図10, 11に注目すると, 「余命あり」の優良解は「余
命なし」の優良解に比べ, 重量が同値でありながら, 平均 応力度を抑えることに成功している.
評価指標を「歪エネルギー」とした場合, 「余命なし」
の解析例では, 評価指標を「Von Mises応力」とした場合 の同解析例と異なり, 荷重面を掛けていたアーチ部材が 破断することなく, 進化が収束している.アーチ部材が破 断すれば平均応力度が急激に上昇する為, 評価指標を
Von Mises 応力とした場合に比べ全体的に評価をしてい
ると考えられる.「余命あり」の解析例では, Step59におい て余命導入領域である柱部材が非構造材とみなされ, 削 除されている.その後, 進化において荷重面を掛けている
アーチ部材を残し, 「余命なし」の解析例と異なり支持点 から斜材が派生されたまま進化が収束している.この違い は, CA法の進化過程が初期段階の進化に影響されること を示している.また評価指標を「Von Mises応力」とした場 合の同解析例における獲得形態では, 余命導入領域の削 除が解析全体を通じて行われなかったことからも, 応力 評価は局所的, 歪評価は全体的と考えられる.また図 14, 15に注目すると, 「余命あり」の優良解は「余命なし」の 優良解に比べ, 重量, 平均応力度を共に抑えることに成 功している.
以上のことから本研究で提案した「余命アルゴリズム」
を導入し, 「歪エネルギー」を評価指標に加えることで, 力学的な所与条件を満足した新たな位相の形態を獲得す ることに成功した.しかし, 設計者に対して新たな構造デ ザインを提案できる設計ツールとしての汎用性を高める 為, 余命導入領域を別指標で評価することで多指標に対 してより力学的合理性の高い形態の獲得を目指す必要が ある.先駆けとして, 本論文の付録において本研究で提案 した「Von Mises応力」と「歪エネルギー」を余命導入領 域内外で多目的に評価した例を示す.
参考文献
1) 本間俊雄:節点近傍モデルのセル・オートマトン法 による計算力学と形態の創生,第 2回半谷裕彦記念「形 態解析セミナー」論文, pp1-38,2000
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第61巻586号,pp272-278,1995
3) 伊能教夫,上杉武文:生体の自己組織化に学んだ力 学構造形態のデザイン(さまざまな位相構造の生成とそ の形態比較),日本機械学会論文集(A編)第61巻586 号,pp241-246,1995
4) 伊能教夫,小関道彦,三上覚矢:構造物を自律的に 形成するセル・オートマトン,セルオートマトン・シンポ ジウム講演論文集,pp24-29,2001
5) 伊能教夫:生体の自己組織化に学んだ力学構造形態 のデザイン,シミュレーション第 12巻1号,pp30-36,
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7) 北栄輔,豊田哲也:セルラ・オートマタによる構造 物最適化,数理モデル化と問題解決26-7,pp25-28,1999
8) 北栄輔,豊田哲也,磯村忠:セルラ・オートマタを 利用した平面トラス構造物の位相設計について,日本機 械学会第13回計算力学講演会講演論文集,pp173-174,
9) 北栄輔,豊田哲也:ローカル・ルールを用いたトラ ス構造物設計法について,日本ファジイ学会誌 Vol.12,
No.5,pp677-685,2000