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九州大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

ビデオゾンデで観測された発達初期段階にある南岸 低気圧に伴う降水雲の降水プロセスと雲物理スキー ムによるその再現性

吉住, 蓉子

http://hdl.handle.net/2324/1959073

出版情報:Kyushu University, 2018, 博士(理学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)

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(様式6-2)

氏 名 吉住 蓉子

論 文 名 Videosonde-Observed Precipitation Processes Associated with Incipient Extratropical Cyclones and Their Reproducibility by Microphysics Schemes

(ビデオゾンデで観測された発達初期段階にある南岸低気圧に伴う降水雲 の降水プロセスと雲物理スキームによるその再現性)

論文調査委員 主 査 九州大学 助教 川野 哲也 副 査 九州大学 教授 川村 隆一 副 査 九州大学 教授 廣岡 俊彦

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

雲微物理過程とは雲粒子と降水粒子の生成および成長の素過程のことである。水の相変化に伴っ て放出/吸収される潜熱は気塊の浮力生成に大きく寄与し,雲微物理過程を経て成長した降水粒子 は自身の荷重を通して雲の鉛直運動に影響を及ぼす。よって,雲微物理過程は雲内の雲粒子および 降水粒子の空間分布を決定するだけなく,降水のタイミング・強度・分布をコントロールする。ま た,雲粒子と降水粒子の空間分布,すなわち雲の微物理構造は放射過程に大きな影響を与え,雲放 射過程は特に時間スケールの大きな現象において大変重要となる。したがって,降水予測の精度向 上や将来の気候変動予測の精度向上のためには,実際の降水過程における雲微物理構造を明らかに し,それに基づき,数値モデル内で雲微物理過程を適切に表現することが必要不可欠である。

雲微物理過程を数値モデルに導入するため,これまでに多くの雲物理スキームが提案されてきて いるが,数値モデルで雲微物理過程が適切に表現されているかどうかを検証するためには,数値シ ミュレーション結果と観測データ,特に雲微物理直接観測データとの比較が不可欠である。近年,

航空機による雲内の直接観測データを用いた雲物理スキームの検証に関する研究が行われてきてい るが,航空機の安全上の制約から強い対流域を観測することができないため,対流域における検証 は十分に行われていない。本研究はこの問題点に着目し,対流域の降水粒子を直接観測できるビデ オゾンデによる観測データを用いた比較検証を行った初めての研究である。

本研究で対象とした気象現象は,冬季東シナ海上で発生し,日本列島の南岸に沿って東進しなが ら発達し,しばしば爆弾低気圧にまで猛烈に発達して日本各地に豪雨・豪雪,強風・暴風雪被害を もたらす南岸低気圧である。発達初期段階の南岸低気圧が通過する鹿児島県熊毛郡の種子島で2012 年と 2013年の冬季に実施されたビデオゾンデ観測データを用いた。本研究の目的は 2 つある。そ れらは,1)ビデオゾンデによる雲微物理直積観測データを用いて,初期発達段階にある南岸低気 圧に伴う降水雲の降水過程を明らかにすること,2)そのビデオゾンデ直接観測データを用いて数 値モデルの雲物理スキームの性能評価を行うことである。

2013年1月21日に東シナ海で発生した南岸低気圧の寒冷前線前面の対流雲に飛揚された2台の ビデオゾンデは,凍結高度より下方で3 mm以上の大きなサイズを含む多数の雨滴を観測した。一 方,上層の雪・霰の数は非常に少なく,サイズも小さかった。それらを反映して,雨滴の質量空間 濃度は氷晶・雪・霰などの氷粒子のそれより 2〜3 桁大きく,これは下層における雨滴形成,すな

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わち下層の暖かい雨プロセスが活発に働いていることを示唆している。本研究者は,観測期間中に 飛揚された全 17 台のビデオゾンデによって得られたデータから,南岸低気圧の寒冷前線前面の降 水は主に下層の暖かい雨プロセスによって生成されていることを示した。このことは,過去に様々 な地域で飛揚された多数のビデオゾンデ観測結果との比較からも確認された。

ビデオゾンデ観測によって明らかにされた,発達初期段階の南岸低気圧の寒冷前線前面の下層の 暖かい雨プロセスをよりよく表現できるか否かという観点から,雲物理スキームの性能評価を行っ た。比較に用いた雲物理スキームは一般的に用いられているLinスキーム(Lin et al. 1983),WSM6 スキーム(Hong and Lim 2006),WDM6 スキーム(Lim and Hong 2010),Thompson スキーム (Thompson et al. 2008),Morrison スキーム(Morrison et al. 2009),Milbrandt-Yau スキーム (Milbrandt and Yau 2005)である。現象の位置ずれ時間ずれを考慮した現象の再現性を見積もるこ とができる客観的指標Fractions Skill Score を用いると,WDM6スキームとMilbrandt-Yauスキ ームが地上降水分布をよりよく再現したことが示された。雲微物理構造および降水過程の再現性に 着目すると,WDM6スキームが下層の活発な雨滴生成,すなわち暖かい雨プロセスをよりよく表現 していた。これらを総合して,WDM6スキームの再現性が最もよいと判断した。本研究者は,雲物 理スキーム内の雨滴生成項を詳細に解析し,WDM6による暖かい雨プロセスの高い再現性は, 雲 粒から雨滴への autoconversion 項(これ以降,Praut と記す)の値が Milbrandt-Yau スキームより WDM6スキームの方が2〜3桁大きいことに起因していることを示した。Prautは,雲粒同士の衝 突併合によって大きなサイズの雨滴が形成される過程を雲物理スキーム内で表現したものであり,

暖かい雨プロセスによる雨滴形成において最も重要な過程である。このPrautは雲粒空間数濃度に 大きく依存する。雲粒の数が多くなると一つ一つの雲粒サイズは小さくなり,大きなサイズの雨滴 にまで成長するのに多くの時間を要するため,雲粒空間数濃度が大きくなるとPrautは小さくなる。

WDM6 スキームによってシミュレートされた雲粒空間数濃度の代表的な値は 107 m-3程度であり,

これはMilbrandt-Yauスキームによる雲粒空間数濃度の代表的な値より約1桁小さい。本研究者は,

各雲物理スキームで用いられているPrautの雲粒空間数濃度に対する依存性を調べ,2つのスキー ム間における雲粒空間数濃度の差によって Prautの2〜3桁の差を定量的に説明できることを示し た。さらに,WDM6スキームにおける雲凝結核空間数濃度の依存性を調べ,本研究のシミュレーシ ョン結果と過去の航空機観測による観測事実とを照らし合わせて,発達初期段階にある南岸低気圧 の寒冷前線前面の暖かい雨プロセスをよりよく表現するための最適な雲凝結核空間数濃度は 2× 108〜5×108 m-3程度であることを指摘した。

以上の研究結果は,ビデオゾンデによる雲微物理直接観測データを用いて,発達初期段階にある 南岸低気圧の寒冷前線前面の降水雲の降水過程を明らかにした点,さらにその降水過程をよりよく 再現するためには,雲物理スキーム内の雲粒から雨滴への autoconversion 項の表現が極めて重要 であることを指摘した点において,気象学の分野において価値ある業績と認められる。よって,本 研究者は博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める。

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