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日本語学習者による E メール作成

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(1)

1.はじめに

改まった状況において文章を作成する場合,書き手は自分の意図を伝えるという目的以 外にも,文章の正確性や言葉遣いなど考慮しなくてはならないことが多い。改まった文章 作成の困難さは日本語習熟度の問題に起因するだけでなく,文化的相違も大いに影響する と考えられる。読み手が期待する文章の内容・構造は文化によって異なるため,異なる文 化背景を持つ第二言語学習者にはその違いが見えにくい(Ramanathan & Kaplan,

1996

;

Matsuda,

1997)。

Matsuda(1997)は,書き手が第二言語使用者の場合,書き手自身は適

切な文体を用いて書いたつもりでも,読み手に文章が否定的にとらえる可能性が高いこと を指摘した。それは,読み手は無意識の内に読み手自身の第一言語文化において最も適切 な文体や構成を期待して読むので,書き手自身の「適切な」文体が,読み手にとっては不 適切に映る可能性があることを示唆している。

よって,第二言語学習者にビジネス文書や目上への手紙等の作成を指導する際には,目 標言語の形式や習慣が学習者の母語の基準に反する可能性を指摘した上で,読み手の期待 に応え得る文章を意識させる必要がある。しかし読み手を意識した文章作成は,母語で文 章を作成する書き手にとっても認知的負担を伴う。Flower(1979)は,そのような認知的

論 文

日本語学習者による E メール作成

―書き手中心から読み手中心へ―

Email composition by learners of Japanese:

From writer-based prose to reader-based prose

萩原 章子

要旨

本研究では,学習者が目上にあてた依頼Eメールの書き直しによる変化を検証した。

学習者は自分の母語文化の基準を用いて文章を作成する傾向にあるため,第二言語におけ る不適切さに気が付きにくいこと等がこれまでの研究で報告されている。読み手の視点が 欠けているために起こりやすい問題を解決すべく,本研究はFlower(1979)の提案に基 づき,書き手中心から読み手中心への文章作成を目指す二段階書き作業をEメール作成 に取り入れた。目上へメールを書く際見落としがちな項目を明示的に提示された群と何も 提示されなかった群に学習者を分け,それぞれの群の文章が書き直し前後でどのように変 化するかを観察した。その結果,いずれのグループも学習者の多くは何かを書き加えるこ とで文章の改善を試みたことが明らかになった。学習者の依頼メールは段落の変化を示す 言葉の使用が少なく依頼の表現が直接的で,書き足しに伴い誤用も増加する等の傾向も観 察された。

キーワード:二段階文章作成,Eメール作成,明示的指摘,依頼文,気づき

(2)

な負担を軽減し,よりよい文章を作成する方策として,書き手中心から読み手中心へ移行 する書き作業を提案した。それはまず初めは形式や構成などにこだわらず,自分の書きた いことだけに集中し,次の段階で初めて読み手を意識し,初めの段階では敢えて触れない でおいた細部の表現にとりかかるというように,二段階に分けて文章を完成させる書き方 である。第二言語学習者にとって,文章作成の際に内容以外に第二言語の形式や習慣まで 考慮に入れることは,相当な認知的負担を伴うので,このような二段階文章作成は,第二 言語学習者にとって特に有効であると考えられる。本稿では,このFlowerが提唱する二 段階文章作成を,日本語を学ぶ学習者のEメール作成に取り入れ,学習者のEメール文 章がどのように変化するのかを観察した。さらに,第二言語話者が気づきにくい項目を書 き直し前に明示することの効果も検証した。二段階文章作成は学習者による気づきを促す 活動であるので,自律学習を促すという目的において有意義であると考えられる。

2.先行研究

これまでの第二言語母語話者の文章作成に関する研究では,学習者は自分の母語文化の 基準を用いて文章を作成する傾向にあることが報告されている(Leki,

1990

; Subbiah,

1992)。ビジネス目的の手紙を作成する際,誰の視点に重点を置いて文章を構成するかは

言語によって異なる(Jenkins & Hinds,

1987)ので,読み手と書き手の使用する言語形式

が同一の言語でない場合,二者の間にずれが生じることが予想される。Jenkins and Hinds によると,英語の手紙では読み手を説得することに主眼か置かれ,書き手は読み手に応じ て構成や言葉遣いを選択するべきであり,また読み手に対する親しみを表現することも大 切である。一方フランス語では,書き手の意図を正確に伝えることが重要で,読み手を考 慮することには重点が置かれない。そして,日本語の場合は読み手と書き手という視点の 違いを意識するよりはお互いがよい関係を保つことに主眼が置かれ,論争を避け丁寧さを 表現することが大事だとしている。このように母語において異なる基準を,学習者が無意 識に第二言語の文章に取り入れた場合,書き手としての意図が読み手には否定的な印象を 与える恐れがある。

第二言語学習者による改まった場面での不適切な文書の例は数多く報告されている。

Maier(1992)は,主に日本語を母語とする英語学習者と英語母語話者の英文ビジネス手

紙における丁寧表現の比較し,学習者の文章は英語母語話者と比較すると直接的かつ口語 的なため,正確性の上からは全く問題がないのに関わらず否定的な印象を与える可能性を 指摘した。読み手の心理的負担を適切に緩和する必要性は日本語の文章に限ったことでは ないが,第二言語学習者にとっては適切な表現の選択は難しい。母語による表現の違いは 依頼をする文章に顕著に表れる。Hartford and Bardovi-Harlig(1996)は,英語を第一言 語とする大学院生と,英語を第二言語とする大学院生が書いた教授へのEメールを比較 した結果,第二言語話者は依頼要求をやわらげる表現や,大学の制度に関する説明が少な い一方,個人的な事情にからめた要求が多く見られることを指摘した。要求が間接的すぎ て問題が起こる場合もある。Hazen(

1987

)は,日本人のビジネス従事者がアメリカ人の 取引先の相手に書いた依頼の手紙が,論争を避けるための間接的な表現のために真剣に受

(3)

け取ってもらえず,逆に相手側から要求を受ける結果となった例を報告している。これら の報告から第二言語学習者の場合,相手側が依頼を受けた際の心理的負担を緩和する必要 性や,自分自身が伝えるべきことが十分わかっていても,適切な表現法を理解していない ために,主張と丁寧さのバランスを欠いた文章に陥りがちであることが示唆される。第二 言語による不適切さが特に依頼文に顕著に表れるのは,日本語や中国語における文章の場 合,「事前依頼ストラテジー」が一つの要因として考えられる。日本語では依頼者は「恐 れ入りますが」「実は,お願いしたいことがありまして」といった表現を用い,依頼を受 ける側の読み手の心理的負担や依頼の唐突さを緩和させようとする(Izaki

2000,佐々木 1995)。しかし他言語においては,このような表現から依頼を始めることは不自然である

可能性が高い。仮に日本語母語話者が英語で ʻIn fact, I have a favor to ask.ʼ のような表現か ら始まる依頼文を書いたら,英語母語話者に奇妙な印象を与える可能性が高い。また依頼 を文章のどこで述べるかも言語によって習慣が異なる。Chang and Hsu(

1998

)の中国語 母語話者と英語母語話者の英文Eメールを比較した研究では,母語によって文章構成が 大きく異なることが明らかになった。中国語母語話者には,依頼する理由を文頭から詳し く説明し依頼文は文章の最後に書く傾向が見られ,一方英語母語話者には,依頼文を文頭 近くに書く傾向が見られた。これらの報告から,第二言語使用者は自分の母語において一 般的な文章の構成を第二言語でも使用してしまう傾向がうかがえる。

学習者にとって第二言語で目上への文章を作成する際に改善が困難である点,逆に学習 によって改善が比較的容易である点は何なのであろうか。第二言語学者の気づきが,目上 にあてたEメールにどのように反映され変化していくのかを把握するため,Chen(

2006

) はある一人の台湾出身の大学院生が指導教官に送った英文でのEメールの変化を

2

年半 に渡り調査した。その結果,第二言語である英語でEメールをやりとりする経験が増え るにつれ,簡潔さの向上,適切な助動詞を用いた改まった間接的な依頼表現の増加,過剰 なへりくだり表現の減少,相手が要求を受け入れなければならない負担を減らす表現の増 加等が見られた。Chenはその変化の要因として,学習者が自分宛てに送られたEメール を見る機会が増えたことを挙げた。Chenの被験者は,二年間半に渡る指導教官へのEメー ル作成を振り返った事後インタビューを通じ,大学関係者からの事務的な要件に関するE メールは概して簡潔で個人的な感情は表さないことや,英語母語話者は要求を伝える文章 でwantやneedは使用しないことなどへの気付きを振り返った。しかしこの学習者は,第 二言語における傾向に気が付いても,その気付きを自分のEメールにあえて反映させな いこともあった。最後までこの学習者が変更を受け入れなかったのはEメールの構造で,

この学習者は

2

年間半を通じて挨拶や依頼をしたい理由を述べた後,最後に依頼文を記入 していた。これはこの学習者自身の「真っ先に願い事を書くのは直接過ぎて失礼にあたる」

という考えに基づくものであった。

Chen(2006)は,第二言語話者が目上への適切なEメールを書くのが困難な理由として,

適切なメールを読む機会の少なさを挙げた。そして学習者が適切なEメールの書き方に 気づくようになるには,長期間に渡る第二言語での経験が必要であると分析した。学習者 は教授からのメールを読む機会はあっても,自分と同じ立場にある学生が英語で教授にあ てて書いたメールを読む機会がない上,読み手である教授にEメールの不適切さを指摘

(4)

されたり英文に関しての指導を受けたりすることはまずないので,どこが不適切さを知る 機会が極めて少ない。よってChenは第二言語学習者に第二言語での基準を明示的に知ら せる必要性を述べている。第二言語話者に対する明示的指導の必要性はHyland(2007)

も主張している。文章に求められる適切な構成や文体は,何を書くか(課題レポート,志 望書,お礼状等)により定まっているので,初めから学習者に第二言語での適切な構成や 表現を知らせ,それに沿って書かせるべきだとHylandは主張した。その主張は,書くと いう行為は社会的な行為で何らかの目的を持っているので,書く目的を達成させるために は,第二言語社会での基準を自覚させるべきだという考えに基づいている。第二言語にお ける適切な構成や表現の明示がなければ,学習者はどうすればいいかわからないまま,目 的や基準から外れた文章を書き進めることになるという懸念をHylandは示している。

これまでの研究や提案を振り返ると,第二言語話者が適切な文章を書けるようになるに は,第二言語において求められる理想的な構成や文体や表現・語彙などを学習者が認識す る必要があるという点においては一致している。しかし明示的な指導により学習者の認識 をどこまで促進することが可能であるのか,また第二言語で適切だと考えられる表現・語 彙を提示することが,実際に学習者の文章作成の改善に寄与するかについては議論の余地 がある。Chen(2006)では,学習者が第一言語と第二言語における依頼文の構造の違い に気づきながらも,あえて構造を変えなかったことも,「書き手」の基準から「読み手」

の基準へ変化させることの難しさを反映している。

3.調査の概要と研究課題

本研究ではFlower(1979)の提唱に基づいた書き手中心から読み手中心へ移行を目指 す書き作業を行い,書き作業を二段階に分けることにより,読み手である目上の立場をよ り配慮した内容へ改善することが可能かを検証する。具体的には,(1)第一稿の見直し作 業によって,学習者の文章にどのような変化が起きるのか,(

2

)見直すべき内容を明示的 に提示された学習者とそうでない学習者の文章にはどのような差異が現れるか,(3)明示 的に訂正項目を提示された学習者は,見直し作業の際にどのようなことを考慮したのか,

3

点を研究課題とする。今回の調査では特に,先行研究で第二言語学習者の問題点とし て取り上げられている依頼文を取り上げた。実際に目上へ依頼文を書くにあたっては,第 一言語・第二言語にかかわらず手引書やモデル文を参照しながら同様の表現を自分の文章 に取り入れて書くことが多いと考えられる。自らの問題点への気づきは,手引書を読むこ とによっても可能だと考えられるが,本研究ではFlower(1979)の提唱に基づき,あえ て学習者にまず自分の伝えたいことを書かせ,書いた後で問題点を意識させることを試み た。産 出 さ せ る こ と で 第 二 言 語 学 習 者 の 問 題 意 識 を 活 性 化 さ せ る 手 法 はSwain

(1985,

1995

,

2005)によって提唱され,広く認識されている。本研究では,学習者にまず自

らの力で書かせることは,自分の伝えたいことに集中させることと問題点への気づきを促 すことの二つの役割を担う。明示的に見直し項目を提示することの効果を調べるために,

学習者を見直し項目を提示された実験群と自らの考えのみで見直しを行った統制群に分 け,それぞれ群の学習者のEメールを比較した。比較した項目は,Eメール文の量と正確

(5)

性における変化である。さらに,第一稿と第二稿の間で具体的にどのような変化が見られ たのかを探るために,個々の学習者のEメールを本研究で使用した「振り返り質問票」

の項目別に比較検証した。「振り返り質問票」に関しては以下

3―1

で説明する。

3―1.予備調査

見直し項目として学習者に提示すべき項目を探るために,日本語教師に対してアンケー ト形式の予備調査を行った。そしてアンケートで明らかになった内容をまとめ,本調査で 使用する「振り返り質問票」を作成した。大学で教えた経験がある

4名の日本語教師

1)に,

3

名の日本語学習者2)が書いたメールを読んでもらい,特に肯定的な印象を与えると思わ れる点と否定的な印象を与えると思われる点,削除または付け足すべき表現につき,自由 にアンケートに回答してもらった。学習者には資料

1

に示す架空の状況が与えられた。米 国では,以前指導を受けた教師に推薦状を依頼することはよくあるため,受け入れやすい 設定であると考えられる。学習者には制限時間を与えず,分からない語彙があれば辞書を 見てもよいという指示を出した。3名のEメールはまとめて各日本語教師に転送された。

日本語教師の回答からは,メールから伝わる丁寧さや多少の間違いはあっても「先生の都 合でお願いします」のように相手を慮っている表現が好印象を与えたことがうかがわれ た。一方問題点としては,挨拶や前置きの言葉がないため唐突な感じがする,文頭の副詞 句の使用が少ないため文章のつながりがぎこちない,書いた本人に関する情報や応募する 奨学金に関する情報が少ない,などの指摘が出された。また,相手の都合を聞かずに一方 的に依頼している印象を受けるという感想もあったが,その理由として文の最後に「よろ しくお願い致します」と書くべきところを,母語である英語の影響から「ありがとうござ います」と書いてあったことが挙げられていた。これらの日本語教師からの指摘を基に,

書き手中心から読み手中心への移行を促すための振り返り質問票を作成した。振り返り質 問票の内容は資料

2

に示す。

この振り返り質問票作成後,質問票に含んだ項目の信憑性を再確認するため,米国の大 学での日本語教授経験のある日本語母語話者

10

名と学習者

6

名に新たに参加を依頼し,

前回と同様のタスクを与えた。学習者はこの質問票に回答した後に自己訂正を行なった。

学習者のメールに見られる問題点,日本語母語話者のそれに対する反応は共にほぼ初回と 共通していることを確認した3)。よって引き続きこの質問票を本調査に使用した。

3―2.本調査 3―2―1.調査方法

本研究にはアメリカの大学で日本語を

3

年以上履修した経験,あるいはプレースメント 試験で同等もしくはそれ以上の実力があると認められた計

8

名の学部生が被験者として参 加した。学習者全員の母語は英語であった。各学習者の情報は表

1

に示す。日本語学習環 境に関するアンケートより,いずれの学習者も教室以外の改まった状況で日本語を使用す る機会がないことを確認した。学習者は任意に4名ずつ実験群と統制群に振り分けられた。

学習者には,日本の企業でインターンシップをしたいので,以前お世話になった先生あて に推薦状をお願いするという架空の状況を英語で与えた。指示文は資料

3

に示す。また必

(6)

要に応じて辞書を見てもよいという指示も与えた。学習者は個々に時間制限無しでメール を作成した。統制群の学生は,第一稿のメールをタイプした後,研究者に送信した。その 後約

10

分間の休憩をはさんだ後,第一稿のメールにつき自分で出来るだけ改善するよう に指示を受け,修正後再び研究者に送信した。実験群の学生は,第一稿を記入し研究者に 送信後,資料

3

に示した振り返り質問票に英語で回答した。その後振り返り質問票で気づ いたことなどを考慮に入れ第一稿のメールをできるだけ改善して第二稿を作成するように 指示を受けた。修正後研究者に第二稿を送信した。

3―2―2.分析方法

実験群と統制群が作成した修正前と修正後のメールを比較することにより,振り返りの 困難な部分を明らかにすることを試みた。まず実験群と統制群それぞれの学習者の産出量 と正確性を比較した。産出量に関しては,第二言語学習者にとって簡潔に文をまとめるこ とは難しい(Chen,

2006)ことを考えると,本研究の参加者にとっても不要な文章の産出

を抑えることは困難であると予想される。正確性に関しては,全体的に文章の量が増える ことに伴い不正確な文章も増えることが考えられる。あるいは学習者が文章の内容より正 確性の改善に取り組んだ場合は,Maier(

1992

)が指摘するように,文が正確でも内容は 不適切なままになる可能性がある。上述の産出量と正確性に関する予測を数値で確認する ため,産出量に関してはTユニット4)の総数と節の総数,文法上の正確性を測る手段と しては誤用のないTユニットの割合を用いて修正前と修正後のメールを比較した。内容 の適切さに関しては,振り返り質問票で取り上げられた各項目が,それぞれの群のメール にいくつ含まれているかを比較することで検証した。さらに振り返り質問票に記入した内 容が具体的にどのようにEメールの文章に反映されているかを比較分析した。

表 1 参加者の情報

注:アルファベットは学習者の頭文字を表す

(7)

4.結果

4―1.学習者が作成したメールの変化

2

は,実験群と統制群それぞれにおける修正前,修正後のTユニット数の変化を示 したものである。実験群は全員のTユニットの総数が増加した。振り返り質問票を基に 第一稿を見直した結果,文章を書き足して訂正を試みたことがうかがえる。一方統制群は

4

名のうち

2

名はTユニットが増加しなかった。表

3

は節数の変化を示す。節数もTユニッ トとほぼ同様の傾向が見られる。文法上の正確性の指標として用いた誤用のないTユニッ トの割合の変化は表

4

に示した。これに関しては,8名のうち

5

名が低下した。Eメール を書き足すことにより改善を試みた結果,誤用も起きやすくなったという大まかな傾向が うかがえるが,実験群の学習者Wと統制群の学習者SとKは,書き足しても誤用が増加 していない。よって正確性に関しては,振り返り質問票の有無による差は観察されなかっ た。

4―2.明示的に訂正項目を提示された学習者とされなかった学習者のメール内容の差異 学習者は具体的にどんな修正を試みたのかを調べるため,振り返り質問票に挙げた内容 について変化がみられるかどうかを比較した。表

5

に学習者別Eメール記入項目を示す。

表 2 T ユニット総数の変化

表 3 節総数の変化

表 4 誤用のない T ユニットの割合(%)の変化

(8)

全体的に実験群の学習者の第二稿は統制群の第二稿より含まれている項目の数が多いこと から,振り返り質問票が書き直しを促した傾向がうかがえる。実験群が一番多く書き足し た項目は「読み手に負担をかけることをわびる表現」で

4

名全員が書き足した。次は「書 き手の近況報告」で

3

名が書き足した。読み手に負担をかけることをわびることは,両群 ともも第一稿の段階では学習者が気づきにくい項目であった。その次に書き足しが多かっ たのがインターンシップ申し込みの志望動機と読み手が受ける負担を軽減する表現で,2 名が書き足した。一方,統制群が書き足した項目は,学習者Hの「実は」と,学習者S の志望動機と負担をかけることをわびる「すみませんですが」の三か所のみであった。具 体的に,学習者はどのような訂正を行ったのかを具体例で示す。以下は,統制群の学習者 Hの第二稿で,削除部分は取り消し線,追加部分は下線で記した。

山田先生,

   お久しぶりです。お元気でいらっしゃいますか。新しい大学は,どうですか。最 近の天気は,すごいですね。新しい大学は,どうですか。実は,僕は今年I大学から卒業 するので,インターンシップをしてはよろしいと思いますが。ですから,インターンシッ プをするために,ちょっとお願いがあるんですが,できれば,推薦状を書いてくださいま せんか。もし,時間がなかったら,本当に分かります。でも,もしできれば,インターン シップを上げる会社は,今年の九月からインターンの社員を採用すします。するので,そ 表 5 学習者別 E メール記入項目

(9)

して,インターンシップの就職の必要なものは申込用紙の締め切りは,

6

月1日2008です。

そして,就職の必要な能力は,英語と日本語が流暢に話せます。そういうことだけが要る 話せることだけので,いいインターンになるんと思います。申込用紙を除いて,会社に他 の紙を出さなくてはいけないことは,「どうしてその仕事をしたい」という陳述と,学業 成績証明書と,推薦状が三枚を出します。です。もう「どうしてその仕事をしたい」とい う陳述を書きましたから,推薦状をを書く前に,先生は自分の意図を詳しく学ぶために,

その陳述をE-メールに付けました。この機会は先生の教えることのおかげで,起こした と思います。その上,インターンシップが出来れば,日本語がやっぱり上手になります。

そして,翻訳の仕事を試さないで,虎穴に入らずんば虎子を得ずという状況にあると思い ます。では,先生の返事を楽しくてお待ちします。よろしくお願いいたします。

(学習者H氏名)

この学習者Hの書き直しの特徴は「そういうことだけが要るので,いいインターンにな るんと思います。」というあいまいな動機から,教師への感謝の気持ちを含めた詳細な動 機へと変化させたことにある。一方,実験群の学習者Fは,Tユニットの総数が

2

から

6

へと

3

倍に増えたが,上記の表

5

の項目数だけを比較すると,書き足したのは全

8

項目の うち

2

項目で実験群の中で最も変化が乏しい。以下に学習者Fの第二稿を示す。追加部 分は下線で記した。

山田先生へ

昨日の天気はすごかったですね。大学の授業がキャンセルされたことを聞くとびっくりし ましたが,ちゃんと休むことが出来てよかったと思います。山田先生は大丈夫でしたか?

申し訳ありませんが,お願いしたいことがあります。六月に日本の会社のインターンシッ プに申し込んでいますけれども,推薦状を書いて貰えないでしょうか?インターンシップ の仕事は英語と日本語なので,どちらでも書いてもいいんです。締め切りは一月一日なの でですけれども,その前に書いて貰うと助かりますが,よろしくお願いします。

(学習者F氏名)

学習者Fの訂正は主に天気に関する前書きの追加であった。しかし前日の天気に関する 記述に限られており,自分の近況や読み手の近況を尋ねるところまでに至っていない。ま た,志望動機に関する記述もない。逆に実験群の中で最も訂正項目が多かったのは学習者 Nである。以下に学習者Nの第二稿を示す。前の例と同様,追加分は下線で示した。

山田教授―

久しぶりですが,山田教授はお元気でいらっしゃいますか?私は今年風邪を引かなかっ た事を感謝しています。もうすぐ十二月になりますので,(地名)の天気がどんどん寒く なっていますが,雪はいまだ降っていません。山田教授のところはどうでしょうか?土の 上に雪がありますか?今時,I大学で私は日本語のクラスのファイナルプロジェクトとレ

(10)

ポートであちらこちらに走っていますが,山田教授の新しい仕事はどうでしょうか? も う別の大学に慣れていらっしゃいますか?

実は,履歴書をよくすると通訳力を上げる為に,今インターンをすると思っています。

そして,先週,良いポジションを見つけてしまいました。日本の会社のポジション何です が,六月から始まります。でも,申し込む為に,推薦状が必要です。長い間山田教授に教 わって頂きましたから私の日本語能力と学力をよく知っていると思います。その訳で推薦 状を書いて頂けないでしょうか?山田教授は教える事でお忙しいと思いますが,是非少々 の時間を頂ける事が出来たら,助かります。

申し込みの提出は一月一日で,まだまだ先ですが,もしくはよろしかったら,お願いい たします。申し訳ありませんが,まだ志望書は完成ではありませんが,明日,それとどこ に送り先を山田教授にお送りします。そして,希望している会社は日本の会社なので,推 薦状を日本語で頂けると幸いです。他の質問がもしあったら,Eメールか電話で私に連絡 下さい。時間がない場合に,どうか出来れば早く私をお知らせ下さいませんか?お返事を お待ちします。

学期の終わりはいつもお忙しいですから,散々ご迷惑だと思いますけれども,時間が あったら,書いてもらえないでしょうか?誠に感謝いたします。日が短くなってきていま すが,私が勉強に頑張るつもりです。今の寒い日々は多分学期の一番忙しい時期ですが,

どうかお元気で。

それではー

(学習者N氏名)

学習者Nの第二稿は,最後に天候に関する記述がある。What is the appropriate way to end your e-mail message to give your reader good impressions? という質問票の問いかけに対し,

しめくくりの挨拶言葉を書き加えたのは学習者Nのみであった。しかし書き足し部分は 必ずしも適切でない部分が多い。「時間がない場合に,どうか出来れば早く私をお知らせ 下さいませんか?」は,「時間があったら,書いてもらえないでしょうか?」と同様,時 間に対する配慮であることは読み取れるが,時間に関する記述を繰り返したことは,逆に 読み手に忙しくても書かなければならない印象を与える可能性がある。簡潔にEメール の内容をまとめることは,読み手の負担を軽減するために望ましいが(Chen,

2006),学

習者Nにとって簡潔にかつ丁寧な表現を用いて依頼するのは難しいことであった。

4―3.明示的に訂正項目を提示された学習者の気づき

4

名の実験群の学習者の振り返り質問票の記述部分を表

6

に示す。質問票記入に時間制 限は設けなかったが,全員ほぼ

10

-

15

分の間で記入した。学生が自分の第一稿に関する記 述を,内容から「特に問題なし」「書いたが改善の余地あり」「書くべきであった」に分類 した。学習者が自分の書いた内容についてではなく,目上にメッセージを伝える際の一般 的な知識について記入した例は「その他」に分類した。学習者の回答には「だいたいこう いうことを書けばいいのだろうという感覚はあるが,実際にその通りかどうか確信がな い」といったコメントがいくつか見られた。学習者Wは,負担の軽減を示す言葉を書い

(11)

たが,その先生が忙しかったら書かなくてもよいことを強調すると,書いてくれるなら誰 でもいいという間違った印象を与えかねないことを憂慮していた。適切な締めくくりに関 しては,依頼の文であるから「よろしくお願いします」と書くべきだという記載が

3

人の 回答に見られた。

学習者Fに関しては,振り返り質問票を与えられたのにもかかわらず第一稿と第二稿 の変化があまりみられなかった。学習者Fは,負担の軽減する表現を,「ありがとうござ います」の代わりに「よろしくお願いします」と書くことだととらえていた。質問票には

「お忙しい場合は書いてくださらなくても構いません」のような具体的な負担を軽減する 表現の例が示されていなかったため,「よろしくお願いします」のみでは読み手の負担の 軽減につながらないことに気が付かなかったと考えられる。そして,志望動機について記 述したかを問う振り返り質問票の

3

に関して,学習者Fは「十分な情報を提供したと思 うが,今情報シートを見直してみると,解釈を間違えたかも知れないところに気がついた。

「日本の会社」は,日本で設立された米国に所在する会社のことだと思っていた。もしこ れが日本に所在する会社を意味するなら,メールの書き方を変えて,先生に日本語で推薦 状を書くようにお願いしたと思う。」と回答した。学習者Fは恐らく質問票に記載されて いる質問をよく読んでいないため志望動機について言及しなかったと考えられる。

全体的に実験群の学習者の気づきを喚起したのは,前置き・挨拶文と話題・段落の変化 を示す言葉についてだった。この二つは英文のEメールで用いられる表現とは大きく異 なることから,学習者にとって第二言語の基準に合わせて書くための指針になったと考え られる。「負担の軽減する表現の有無」に関しては,日本語での具体例があれば,学習者 の気づきを促した可能性がある。

5.考察

本研究ではFlower(

1979

)の提唱する二段階書き作業を導入し,意図的にEメール作 成を二段階に分けることで,第二言語学習者のEメールが書き手中心から読み手中心へ 表 6 質問票の項目別回答者

(12)

と変化するかを観察した。本研究は参加者が少人数のため一般的な傾向を導きだすことは できないが,二段階書き作業は学習者の内省の促しに一定の効果的があることがうかがえ た。それは,振り返り質問票を与えられなくても,自分が書いたEメールの内容を振り 返った後,志望動機や適切な副詞を書きくわえた学習者がいたことからもうかがえる。そ して,書き手中心の段階では気が付きにくいと予想される項目,例えば学習者の第一言語 である英語では用いられない「ところで」「実は」等の話題・段落の変化を示す接続詞・

副詞を明示的に示したことで,学習者の書き直し作業が促進される傾向も確認した。これ

はHyland(2007)が提唱する,学習者が念頭に置くべきことを目的別に明示する指導の

効果を支持する結果となった。

しかし,どの程度「読み手への配慮」を明示すれば書き手の気づきと訂正に結びつくの かは,今後も検証が必要である。本研究で得られたデータを検証すると,「あなたは(項目)

を考慮しましたか」という問いかけのみでは,学習者の気付きを促すのに十分でない事例 もあった。それは,自分の第一言語での基準や表現の影響を受け,「宜しくお願いします」

の代わりに「感謝します」「ありがとうございます」を用いた例や,読み手の負担を考慮 する必要性をわかってはいても,第二言語で用いられる典型的な表現を知らないために

「忙しかったら全然大丈夫です」や「出来れば…て下さい」のように,読み手への配慮が 足りない表現で終わってしまう例が見られたことからも明らかである。

今回の研究に参加した学習者にとって最も困難だと思われるのは,不要な部分をそぎ落 し簡潔にまとめる作業であった。本研究の学習者は足りない情報の付け足しによってE メールを改善しようと試みた一方,不要な部分の削除を試みたケースはほとんど見られな かった。実験群の学習者は,気づきを促すための質問票に「何か削除した方がいいことは ありますか」という問いかけがあったのにかかわらず何も削除しなかった。よって学習者 にとって自分のEメールの余分な部分を判別するのは困難だと推測できる5)。Chen(2006)

では,学習者が簡潔に書く必要性を見い出し自分の文章も簡潔に書くようになるまで約

2

年かかっていた。Chenは,学習者の改善が起きた最大の要因は,学習者自身がEメール のやり取りを長期間続けたことにより,徐々に第二言語での適切な表現や構成を理解でき るようになったことだと結論付けた。つまり「読み手中心」への書き作業に移行するには,

「あなたは(項目)を考慮しましたか」という問いかけだけでは不十分であること,学習 者が数多くの適切な文例に触れる必要があることを示唆している。

6.今後の課題とまとめ

Flower(

1979

)が提唱する書き手中心から読み手中心へ移行する二段階文章作成は,第

二言語教育においても有意義であると考えられる。学習者は教室外で頻繁にEメールを 作成する機会があることを考えれば,教師の添削なしで読み手を意識した文章を作成する 試みは,長期的に学習者が第二言語で目的を達成するのに役に立つと考えられる。読み手 を意識した文章作成を実現させるには,明示的な指導と数多くの例に触れる機会のどちら も必要であろう。そして学習者に読み手を意識させるためには,架空の人物ではなく面識 のある人物を選んだ方が負担が少ないと思われる。ビジネスでは,全く面識がない人物に

(13)

対し相手の社会的位置や立場を考慮した依頼文を書く場面もあるが,本研究に参加した第 二言語話者の場合は,面識のある人物を対象としたほうがより現実味を持って文章作成に 取り組むことができたであろう。

今回の研究で用いたやり方では,日本語を学ぶ学習者に読み手を意識させることは不十 分であった。学習者は読み手を配慮すること以外に,日本語での適切な表現について学ぶ ことも求められていた。今回の振り返り質問票だけで,この二つを同時に適切に行うこと は難しい。よって実際に読み手を考慮した二段階文章作成を行うためには,第一段階とし て日本語での依頼文の具体例を見せ,どのような表現が日本語の依頼文として適切である かを考えさせた後で作文をさせ,第二段階で読み手への配慮を促し必要な改善点を考えさ せた後,作文を推敲させるといった目的別の分け方が求められる。本研究ではこれら二つ の区別が明確でなかったので,今後は区別を明確にしたうえでの二段階文章作成の効果の 検証が望まれる。また前述のように本研究は参加者が少人数であったため,統計による検 証ができなかった。よって将来的には人数を増やして新たに効果を検証する必要がある。

また,志望動機に関しては振り返り質問票で記入するよう促されていたのにかかわらず,

修正しなかった学習者もいた。学生が質問票に注意を払っていなかったためなのか,ある いは志望動機は不必要であると判断したのかは今回の研究では不明である。このような,

学習者が見直し提案を取り入れなかった理由を考察することが,第二言語使用者の書き手 と第一言語使用者である読み手との視点の違いを明らかにする手掛かりとなりうる。第二 言語での規範を守るように一方的に学習者に持ちかけるだけでは学習者は「読み手」を意 識するようにはならないだろう。学習者の立場や考え方を尊重し,学習者に第一言語との 違いを認識してもらうことが,学習者の文章作成の向上につながっていくと考える。

1)

全員

3

年以上の教授経験があったが,日本語を教えた国はそれぞれ異なる。

2

3

名とも米国の大学レベルでの日本語四年次に相当するクラスを履修済みであっ た。自己申告によると,いずれの学生も授業以外の改まった状況で日本語を使用す る機会はない。

3)

しかし書いた同じ文章でも読み手によって異なる受け止められ方をする場合が見受 けられた。誤用研究は今回の研究の主題ではないので,本稿では誤用の重篤性の問 題は扱わないことにする。

4)

Lee(2006)の分類に習った。

5)

簡潔さへの注意を喚起するために,「何か削除した方がいいことはありますか」の 代わりに「読み手の負担にならないように簡潔にまとめましたか」という問いかけ をすることも考えられたが,予備調査に協力した日本語母語話者の中で簡潔さに関 する指摘をしたのは一名のみであったので,本研究の質問票には簡潔にまとめるこ とを促す指示は加えなかった。

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資料 1 予備実験で用いられた指示文

E-mail to Japanese professor

You are studying Japanese at college. You wish to apply for a scholarship, and you must submit a letter of recommendation from your Japanese instructor. Your former teacher Prof. Yamada, who now teaches at a different college, knows your strengths well so she could probably write a strong letter for you. Write an e-mail message to her asking her to write a letter for you.

Scholarship information

Name of the scholarship: Summer Scholarship for Asian Language Study Amount of money to be awarded: $

2

,

000

-$

2

,

500

Things to submit:

Statement of purpose, academic transcript, a letter of recommendation from an instructor of the chosen language.

Deadline: [ date, year ]

資料 2 振り返り質問票

Things to consider before rewriting your message:

1

. In Japanese, it is common to write descriptions of weather at the writerʼs location and questions about what the addressee has been doing lately, in addition to some other personal information and questions before making a request. What do you think you need to add or delete at the beginning of your e-mail message to give your reader good impressions?

2

. What information does your reader need most? Is there something you should add or delete?

3

. Did you provide your reader with information that she probably needs when writing a letter for you? For example, did you explain why you were willing to apply the scholarship?

4

. Did you use appropriate transitions, such as “恐れいりますが “ (Iʼm afraid Iʼm asking you too much), “実は”(actually), “ところで”(by the way) ”お忙しいところ,申し訳ありません が”(Iʼm sorry to ask you when you are busy) when a new paragraph starts? Which word you should include in your message?

5

. Did you write something to avoid a false impression that your professor was obliged to write a letter for you? If not, what you are supposed to write to avoid such negative impression?

6

. What is the appropriate way to end your e-mail message to give your reader good impressions? Anything you should write or you should not write?

(16)

資料 3 本実験で用いられた指示文

E-mail to Japanese professor

You wish to apply for internship at a Japanese company, and you must submit three letters of recommendation. Your former teacher Prof. Yamada, who now teaches at a different college, knows your strengths well so she probably writes a strong letter for you.

Internship information Position is available from [month, year]

Company wishes to offer internship to a person who is fl uent both in English and Japanese Things to submit:

Statement of purpose, academic transcript, three letters of recommendation Deadline: [ date, year ]

(はぎわら あきこ,早稲田大学日本語教育研究センター)

参照

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続いて第 3

これに対して、台湾人日本語学習者の依頼の手紙 100 編では、Ⅱ−

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雑誌名 金沢大学日本史学研究室紀要: Bulletin of the Department of Japanese History Faculty of Letters Kanazawa University.

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