アジア・インフラファイナンス検討会
中間報告書
1 目次 Ⅰ.はじめに ... 2 Ⅱ.現状分析 ... 3 1.アジアにおけるインフラ資金のギャップ ... 3 2.アジアにおける開発環境 ... 5 3.インフラへのファイナンス環境 ... 7 Ⅲ.検討すべき論点と考え方 ... 9 1.基本的考え方 ... 9 2.アジア各国で整備が必要な制度や国際的な枠組~投資を受ける側の視点~ ... 12 3.我が国の戦略投資家育成 ~案件を組成するプレイヤーの視点~ ... 15 4.投資家が参画しやすい環境整備 ~案件に投資するプレイヤーの視点~ ... 16 Ⅳ.対応の方向性 ... 19 1.投資を受ける側の視点から ... 19 2.案件を組成するプレイヤーの視点から ... 20 3.案件に投資するプレイヤーの視点から ... 21
2 Ⅰ.はじめに 近年、経済成長の著しいアジア新興国を中心に、急速な国の発展に伴ったイ ンフラ需要が増大している。旺盛なインフラ投資への資金需要に対応する新た な資金源として、AIIB や BRICS 銀行を始めとする新たな開発金融機関を設立 する動きが見られ、インフラ投資のファイナンスも、新たな展開を見せつつあ る。かかる状況下、我が国として、「インフラシステム輸出戦略」、「質の高いイ ンフラパートナーシップ」等で、円借款・JICA 海外投融資、JBIC、NEXI、MDBs との連携等、政策金融の包括的かつ抜本的な機能強化策を打ち出している。 増大するインフラ需要に対応し、公共事業方式のみでインフラを整備するこ とは財政上の理由から困難である。これにODA を始めとする公的金融等を加え ても、膨大なインフラ需要を十分に満たすことができず、インフラファンド等 の民間資金の活用を検討する必要がある。このため、各国でPPP による民間資 金調達を通じたインフラ整備を推進する方針が打ち出されており、各国で PPP 関連の法制度の整備が進められている。 しかし、各国のPPP 制度の整備が進みつつあるとはいえ、その進捗は国によ り区々であり、また、PPP 制度を活用した具体的な案件形成事例は未だ僅少で ある。これは、サブソブリン案件やマーケットリスクの存在する案件について のリスク回避手法とその法的安定性等について未だ十分な実務的な手法が確立 された状況にないこと等によるものであると考えられる。 アジアを始めとする新興国のインフラは、投資対象国の長期的な成長につな がり、新興国の成長を取り込むことが可能となり得る。また、インフラの需要 は長期的に見込まれる点から、年金基金等の長期投資を企図している投資家に とっても適した投資対象となり得る。しかしながら、上記のPPP 制度の未成熟 さ、インフラファンド等のオルタナティブ投資がわが国の投資家にようやく受 け入れられたばかりである等の状況により、新興国のインフラ整備にこうした 資金が十分に流れる状況とはなっていない。 本検討会では、新興国ドナーや開発金融機関の制度金融の最新状況、主要新 興国におけるインフラに対する資金ニーズ、主要新興国におけるPPP 制度の現 状・課題、我が国を中心とした既存インフラファンド等民間プレイヤーの投資行 動、PPP の戦略投資家となることが期待されるプレイヤー等の状況を踏まえ、 PPP 制度を活用したインフラ投資に民間資金が流れ、今後、アジアにおけるイ ンフラ投資の促進と我が国のインフラ輸出に中長期的に寄与することを目的と して検討を行ったものである。この検討の成果が、アジアでのインフラ事業の シームレスなファイナンスの実現に向けた工程を示すものとなれば幸いである。
3 Ⅱ.現状分析 1.アジアにおけるインフラ資金のギャップ アジア各国の成長は、十分に整備されたインフラに支えられ、そのインフラ 整備のための資金は、経済成長の果実としての税収やインフラ整備による利用 者からの収入により回収されることが期待される。経済成長とインフラへの資 金供給は、相互に補完し、加速し合う関係性にある。 アジアにおけるインフラ需要は、ADBによれば、2010年~2020年 の10年間で約8兆ドルに上るとされている。その特徴は、成長途上にある国々 において、グリーンフィールドのインフラ整備が必要とされている点である。 インド、インドネシア、タイ、マレーシアといった主要な国々において、資 金需要の6割以上が新規投資であり、これらに対する資金の供給が円滑に行わ れることが、アジア各国の成長にとって重要である。 【参考1:アジア各国の新規/維持・更新比率】 この新規投資のための資金需要を満たすためには、大きく3つの方法がある。 第1に、政府予算による公共投資である。第2に、公共投資を支援するために ODAや国際金融機関の支援を行うことである。第3に、民間資金の活用であ 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 中国 イ ンド イ ンドネ シア マ レーシ ア パ キスタ ン タイ バ ングラ デシュ フ ィリピ ン ベ トナム カ ザフス タン ウ ズベキ スタン ス リラン カ ア ゼルバ イジャ ン ア フガニ スタン ミ ャンマ ー ネ パール カ ンボジ ア タ ジキス タン ラ オス モ ンゴル キ ルギス グ ルジア パ プア・ ニュー ギニア ア ルメニ ア ブ ータン フ ィジー ソ ロモン バ ヌアツ サモア キ リバス 東 ティモ ール 新規 維持・更新
出典:ADB (2010) Estimating Demand for Infrastructure in Energy, Transport, Telecommunications, Water and Sanitation in Asia and the Pacific: 2010-2020 より
4 る。インフラ投資の過半は、政府予算によるものであるが、民間によるファイ ナンスも3割弱程度貢献している。 【参考2:年間のインフラ投資額とファイナンスの内訳】 アジアにおける経済成長は、所得水準の増加に伴って、政府予算による公共 投資のための財源確保の余地を広げるとともに拡大、利用料収入の増加期待を 踏まえ、民間投資の可能性を拡張する効果をもたらすことが考えられる。 アジア各国における政府予算による資本支出は、相対的に高いマレーシアで もGDP比で5%程度であり、フィリピン、インドネシア、タイではいずれも 2~3%に止まっている。1970年代の日本は平均で公的固定資本形成がG DP比で9%を超える水準にあったことを考えると、より多くの公共投資が期 待される。 【参考3:アジア諸国・地域の中央政府歳出の構成(対GDP比、2012年)】 資本支出
5 他方、こうした公共投資の前提となる財政基盤は脆弱であると言わざるを得 ない。アジア各国では、インドにおいてGDP比マイナス7%程度の財政赤字 であるのをはじめ、多くの国々で財政赤字にあり、政府予算による公共投資資 金は十分とは言えない状況にある。 【参考4:アジア各国の政府予算状況(GDP比%)】 (出典:IMF) こうした状況を踏まえ、政府予算による公共投資と、民間投資の拡充の両側 面から、インフラ投資資金を確保していく必要がある。 2.アジアにおける開発環境 アジアにおけるインフラ投資は、各国のグローバル・バリューチェーンへの 連結性を高め、地域全体の経済成長につながる。そのため、域内のそれぞれの 国における政策のみならず、国際的な枠組みでも重要な政策として位置づけら れている。 ASEANは、2009年に発出した「ASEAN経済共同体ロードマップ」 においてインフラ整備の必要性を位置づけ、「ASEAN連結性マスタープラン」 において、物理的・制度的・人的な連結性を強化することにより、経済成長、 開発格差縮小の実現を目指すこととしている。また、2015年の「アジア総 合開発計画2.0(CADP2.0)」においても、ASEAN先行国が直面す る開発課題に対応するようなインフラ整備の必要性が提起されている。発展段 階に応じた開発戦略と、それを支えるインフラ整備については、幅広いコンセ -12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10 12 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 20 08 20 09 20 10 20 11 20 12 20 13 20 14 20 15 中国 インド インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール 台湾 タイ ベトナム
6 ンサスが得られている。 【参考5:ASEAN・東アジアの新興国・発展途上国の開発戦略】 出典:木村福成(2015) 国際問題 No.646「ASEAN 経済共同体:成果と課題」 PPPに関連する制度においても、国際的な枠組みの中での議論が進んでい る。ERIAが2015年に「ASEAN PPPガイドライン」を策定し、 PPPの必要性やプロジェクト抽出、実施に至るまでの留意点が整理されてい る。また、APECにおいても、2014年にAPEC首脳により承認された 「APEC連結性ブループリント」の実施促進に向け、インフラの質に係るピ アレビューのガイドラインを取りまとめており、今後、各国によるピアレビュ ーにより、PPPに関連する制度環境整備が加速されることが期待される。 こうした国際的な取組と並行して、各国でもPPP制度の整備が進んでいる。 【参考6:PPP環境整備状況】
7 各国におけるPPP関連制度の整備は、民間投資の前提となる政策の予見可 能性を高め、インフラ投資の環境を整備する上で、必要条件となる。さらに、 インフラ開発プロジェクトにおいては、プロジェクトの段階に応じて、多岐に わたるリスクが存在している。 【参考7:PPPインフラ事業において一般的に考慮すべきリスク一覧】 民間投資によるファイナンスでは、こうした多岐にわたるリスクを様々なプ レイヤーの参画によって軽減し、効率的にインフラの整備及び運営が行われる ことが重要である。その際に、政府による保証等による公的リスク軽減措置や、 事業収益を安定化させる仕組み(バイアビリティ・ギャップ・ファンディング、 アベイラビリティ・ペイメント、シャドー・トール、買取保証、原材料供給保 証 等)が有効に機能すると、民間投資によるファイナンスが可能な領域が広 がりうる。 3.インフラへのファイナンス環境 インフラへの民間資金は、リーマンショック後、プロジェクトファイナンス 等への資金流入は一旦減少し、その後回復したものの、以前の水準まで達して いない。その内訳を見ると、プロジェクトファイナンスにおける主要なプレイ ヤーは、リーマンショック前後で大幅に変動している。プロジェクトファイナ ンスの組成額・組成数ともに、邦銀が著しく上昇を見せている。
8 【参考8:プロジェクトファイナンス組成額・組成数推移(百万米ドル・件)】 今後、インフラ投資を通じて我が国がアジアの成長を取り込む観点からは、 積極的にアジアのグリーンフィールド案件も含めた投資案件組成に関わるとと もに、ブラウンフィールド案件も含め、収益水準が安定し、一定のリスク軽減 が図られたプロジェクトについて、中長期的なリターンを求めるプレイヤーが 資金供給を行うことが重要である。 本検討会においては、積極的にプロジェクトの運営に関与するプレイヤーを 「戦略投資家」と、投資機会として関与するプレイヤーを「金融投資家」とし て位置づけた。これらの区別は相対的であり、かならずしも厳格に区分される ものではないが、戦略投資家により形成された案件が、金融投資家による資金 により実現されるといった、相互補完的関係にある。 【参考9:インフラ整備プロジェクトへの出資者の種類】
出典:Thomson Reuters (2005~2014), PFI Financial League Tables より DTFA 作成
9 アジアにおける膨大なインフラ整備需要に応えるためには、案件形成段階か ら関与する戦略投資家と、これに対して必要十分な資金を供給する金融投資家 の双方を後押しすることが必要である。 Ⅲ.検討すべき論点と考え方 1.基本的考え方 アジアにおける膨大なグリーンフィールド需要に応えるためには、政府予算 による公共投資の拡大による方法と、民間投資の促進という2つの方法がある。 本検討会においては、民間資金の活用を拡大に向けた施策について検討を行っ た。検討の射程を図示すると、以下のとおりである。 【参考10:本検討会の議論の射程】 インフラ投資は、プロジェクトの規模が大きいのみならず、数十年といった 長期にわたる事業サイクルを持っている点で、他の投資機会とは異なった性質 を持っている。また、インフラ整備は、投資機会であるとともに、各国におけ る重要な政策の一部であることから、既述のとおり、各国の政策変更にともな うリスクをはじめとした、固有のリスクを有している。特に、グリーンフィー ルド案件については、こうした固有のリスクが顕在化しやすく、確実な完工及 び事業運営の安定化まではリスクが特に高い。また、将来的に金融機関に対す る国際金融規制の強化により、プロジェクトファイナンスを通じた長期資金の 調達が限定的になる可能性もある。
10 他方で、インフラ事業がもたらす収益は、事業が安定化すれば、長期にわた り安定したものになる。また、インフレーションへの耐性が強いとされること から、年金や保険といった、長期目線での機関投資家にとって適した投資案件 になりうる。 こうしたインフラ投資の性質を踏まえると、案件の形成段階から運営の安定 化までの、グリーンフィールド投資を行う場合と、運営の安定化以後のブラウ ンフィールド投資を行う場合では、投資機会としてのリスク・リターンの性質 が大きく異なる。そのため、投資を実施するプレイヤーも変化することが想定 される。 最終的には、アジアにおけるインフラ投資需要に応えるために、グリーンフ ィールド事業への長期資金の調達環境整備のみならず、ブラウンフィールド事 業やセカンダリーマーケットへの対応等、インフラの事業期間・段階を通じた シームレスなファイナンスが提供されることが望ましい。 【参考11:インフラ事業のシームレスなファイナンスのイメージ】
11 【参考12:インフラファイナンスの種類とプレイヤーのイメージ】 なお、このような民間資金を活用したインフラ整備にあたっては、前提とし て、対象となるプロジェクトがInvestable であり Bankable であることが必要 である。民間資金の導入を公共投資による財政負担を回避するための手法と考 え投融資可能ではない案件にPPPを適用することは、将来的に事業運営の財 務的な破綻による財政負担やサービス供給停止などのリスクを生じることに十 分に留意する必要がある。 投融資可能性を判断する際には、対象となるインフラが存在する国のポリテ ィカルリスク、レベニューリスク、プロジェクトステージの状況等を踏まえ、 総合的に判断されることが必要とされる。 【参考13:投融資可能なプロジェクトの考え方】 これらの要素を踏まえ、投融資可能と判断される場合は、PPP案件として
12 成立する。他方、投融資可能と直ちに判断されない場合においても、対象国政 府の措置(収益保証等)により収益性の確保が行われる場合はPPPが適用で きる。また、上下分離方式にして、収益性の低いインフラを公共事業部分とし てODAを活用する、JICA海外投融資等のPPP支援のための譲許的資金 を活用する等の手段により、PPPの適用可能な範囲は拡大しうる。しかしな がら、これらの措置を講じたとしてもなお投融資可能と判断されない場合は、 公共事業方式によるべきものであると考えられる。 本検討会の議論の目的となる民間資金の活用可能な領域の拡大のためには、 こうした投融資可能な領域を、如何に拡大していくかという点を検討し、如何 にアジアにおけるインフラ事業のシームレスなファイナンスを実現するか、と いう点にある。本検討会では、そのために必要な施策を検討する視点として、 ①投資を受ける側の視点、②案件を組成するプレイヤーの視点、及び③案件に 投資するプレイヤーの視点の3点に着目し、検討を行った。 2.アジア各国で整備が必要な制度や国際的な枠組~投資を受ける側の視点~ アジアのインフラ整備を民間資金により行う際に、そのための制度環境を整 え、事業の収益性を高めるため最も中心的な役割を果たすのは、必然的に、ア ジア各国である。しかしながら、アジア各国のPPPに係る制度及び運用能力 は必ずしも十分ではなく、そのため潜在的に投融資可能な案件形成が可能な場 合であっても、プロジェクト化できていない可能性がある。 PPPの実施環境について、所得水準、PPP制度の整備環境、国の財政の 安定性などの視点から整理しつつ、成熟している国においては個別案件の形成 に向けた取組を加速させ、未成熟の国においては、制度環境整備に取り組むな ど、それぞれの成熟度合いに応じた施策対応が重要と考えられる。 【参考14:ASEAN各国の経済発展の状況、PPP実施環境、国債格付】
13 さらに、各国におけるPPP実施環境を改善し、PPP適用可能な領域を拡 大する方策として、様々なリスク軽減措置の導入が考えられる。 【参考15:リスクに対する主な公的対応の例】 こうしたリスク軽減措置は、例えばインドネシアのIIGFを通じた保証や、 インドのVGF等、アジアにおいて導入が進みつつある。これらのリスク軽減 措置は、主に事業の収益性の改善に資するものであり、民間資金の呼び水とし て有効に機能すれば、PPP適用可能な領域の拡大に寄与する。 アジアの各国における国内の民間資金を活用することも、PPP適用可能な 領域の拡大に寄与する。アジア各国では、金融セクターが成長途上にあり、対 GDP比で年金や保険等の長期的な目線を持った資金の規模が拡大しつつある。 インフラの収入のうち、交通インフラ等、利用料収入をベースにしたものは現 地通貨建てになるため、為替リスク抑制の観点からも、国内の民間資金を積極 的に活用することが望まれる。
14 【参考16:ASEAN各国の金融セクターの状況】 そのための方法の一つとして、アジアにおける債券市場の整備が挙げられる。 2010年には、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)の一環とし て、信用保証・投資ファシリティ(CGIF)が創設され、債券の発行体が不 払いを起こした場合の保証を履行する基金が設置されている。アジアにおいて は、中長期的な投資機会を求める年金や保険等の機関投資家が保有する資産が 近年大幅に増加しており、この資金をプロジェクトボンド等の手段により、イ ンフラ投資に向けることは資金運用の観点や、現地通貨等による資金調達の促 進の観点からも有益であると考えられる。CGIFが柔軟かつ効果的な保証を 行うことで、こうした資金調達を支援することも重要であると考えられる。こ うした保証による債券投資の促進も、アジア各国における民間資金のインフラ 投資への活用を促すものと考えられる。 さらに、投資対象としてのインフラ案件がどのような特性を持っているのか、 中長期的に見て有望な投資対象であるかについての情報が確実に提供されるこ とは重要である。2015年に安倍総理により提唱された「質の高いインフラ パートナーシップ」においては、インフラの質の要素として、ライフサイクル コスト、安全性、環境配慮等の様々な要素が含まれている。こうした要素は、 インフラ事業の中長期的な収益性を判断する上でも重要であるとともに、いわ ゆるESG投資(Environment、Social、Governance)の考え方とも整合性を 有している。 インフラ事業に関する情報の非対称性を埋め、投資を促進するためにも、個 別案件のレベルでの情報開示の内容を標準化するとともに、インフラファンド 等、運用機関の投資内容を適切に評価することにより、機関投資家等が投資し やすくなると考えられる。
15 【参考17:インフラへの金融投資にあたって重要となる情報の考え方】 例えば、2009年に国連の責任投資原則を受け、欧州の公的年金がESG 配慮を不動産投資に適用することを目的に設置したGRESB(グローバル不 動産サステナビリティ・ベンチマーク)は、広く不動産投資を行う運用機関等 のESGへの対応状況を測定するベンチマークであり、インフラについても同 様のベンチマークの取組が進んでいる。こうした情報の非対称性を埋める取組 は、質の高いインフラ事業への投資を促進する上で有益であると考えられる。 これを踏まえ、質の高いインフラを体現するコンセプトとして「グリーンイン フラ」を位置づけ、その基準づくりを先導することにより、我が国の事業者の 優位性を築くことが重要である。 3.我が国の戦略投資家育成 ~案件を組成するプレイヤーの視点~ アジア各国において、PPP案件を組成するための前提条件が整えられてく れば、次に重要となるのは、具体的なインフラ整備案件を組成していくプレイ ヤーである。案件形成促進及び我が国の技術等による貢献の観点からは、案件 組成能力を持った戦略投資家が、アジアにおけるインフラ案件の組成に川上段 階から関与し、積極的に案件形成を実施することが重要と考えられる。 我が国の戦略投資家を育成するにあたっては、3つの方法が考えられる。第 1に、メーカー等、インフラプロジェクトに参入しているプレイヤーの事業領 域を、EPC等これまでの請負契約型から、インフラ整備後も維持管理等にも 関与するパッケージ型の事業に拡大し、又は海外展開を支援することで、戦略 投資家を育成する方法である。第2に、海外オペレーターやインフラファンド といった、既存のプレイヤーと国内のプレイヤーの提携を促進し、又はM&A を行うことで、我が国の戦略投資家に不足しているノウハウや事業規模等を獲
16 得する方法である。最後に、PPP案件に必要なノウハウを蓄積するためにも、 マザーマーケットである日本国内の水道事業や空港運営等において経験を積む ことにより、我が国の戦略投資家を育成する方法である。 これらの方法の組み合わせにより戦略投資家を育成することになるが、第2 の手法が比較的短期的な成果を追求できるのに対し、第1の方法、第3の方法 は中長期的な時間軸を有している点について留意が必要である。 諸外国の戦略投資家の一例として、フランスのヴァンシが挙げられる。同社 は元来、建設会社として発足したが、空港をはじめとするコンセッション事業 に拡大し、不動産やエネルギー関連事業まで事業領域を広げている。成長のた めの手法として、M&Aを多く活用し、インフラ・オペレーターとして積極的 に海外展開を進めている。こうした海外の戦略投資家の中には、建設会社を元 にするものが多いが、コンサルティング会社がエクイティ投資を行う事例もあ る。 我が国においては、電力等ノウハウが蓄積されている領域では既に商社等に より戦略投資が行われているが、水道事業や港湾・空港事業などでは限定的で ある。こうした分野においては、我が国のプレイヤーがインフラに関する事業 性を判断する経営能力を身につけることが重要である。直近の事例として、日 本工営が水道事業に投資するインフラファンドに対して出資をしたケースがあ るが、我が国の戦略投資家候補がインフラ案件の経営能力を獲得するために、 提携・出資することは有益であると考えられる。 4.投資家が参画しやすい環境整備 ~案件に投資するプレイヤーの視点~ アジア各国において制度環境が整備され、我が国の戦略投資家をはじめとす るプレイヤーが案件組成に取り組んでいくと、こうした取組により創出される 投資機会に対して、我が国の金融投資家をはじめとした資金が活用される前提 条件が整ってくる。こうした機会を我が国の金融投資家が最大限活用できるよ うにすることが、インフラ事業への投資を通じた、アジアの成長の取り込みの ためにも重要になる。 我が国の主要銀行は、既にプロジェクトファイナンスにおいて大きな役割を 占めており、引き続き十分な役割を果たすことが期待される。しかしながら、 国内における円建ての資金は国内の預金を背景に潤沢にある一方で、海外のプ ロジェクトファイナンスのための外貨建て資金は、安定的な預金ではなく、金 融機関からの調達に依存する必要があるなど、必ずしも十分でなく、今後、ア ジアをはじめとする海外のプロジェクトファイナンスに取り組むためには、安 定的かつ十分な外貨の供給が必要となる。また、金融機関に対する国際金融規 制強化の動きにより、長期資金の提供を制限せざるを得なくなる可能性がある。
17 その際には、オーストラリア等で採用されている、融資期間が比較的短いミニ パーム形のローンの活用を前提とした資金調達のあり方を検討していく必要が ある。また、バーゼル委員会での国際金融規制において、金融機関の持つ資産 のリスク評価がより保守的になるなど、海外のインフラ事業に対する長期資金 の提供が困難になる可能性がある。 また、諸外国においては、年金や保険といった機関投資家のインフラへの資 金供給が拡大しているが、我が国においては、投資に係る知見・経験の不足に より、相対的に取組が遅れている。例えば、豪州では1994年に複数の年金 基金が出資してIFMインベスターズを設立し、2015年末現在で、29の 年金基金が株主となり、217億米ドルのインフラ投資を行っている。IFM の投資は先進国に限定されているが、先進国の優良案件が減少し、新興国の優 良案件が出現してくれば、今後投資対象としてアジアのインフラ案件が対象と なってくる可能性もある。 【参考18:IFMの資産運用ポートフォリオ(2015年末現在)】 我が国の機関投資家に不足する、インフラ投資に関する知見を補完するため、 国際的な投資のプラットフォームを活用する取組もある。グローバル戦略投資 アライアンス(GSIA)はその嚆矢であり、我が国からGPIFや企業年金 連合会といったプレイヤーが参加している。 【参考19:GSIA概要】
18 さらに、我が国においては、市場におけるインフラ資金の調達環境は整備途 上にある。インフラファンド市場の活性化に向け、2015年4月に日本取引 所グループにより、上場インフラファンド市場が整備された。また、関連して、 再生可能エネルギー発電設備等を資産として保有するインフラファンドのパス スルー税制が措置されている。こうした市場整備や税制の整備は、諸外国にお いて積極的に進められてきた一方、我が国ではこうした流れに追いつくべく近 年急速に取組が進められているのが実情であり、今後もインフラ投資を促進す る上で有効と考えられる。 【参考20:インフラファンド優遇税制】
19 Ⅳ.対応の方向性 1.投資を受ける側の視点から アジア各国におけるPPP制度導入を支援する観点から、以下の施策に取り 組むのはどうか。 (1) PPP制度整備に向けた施策パッケージ アジア各国におけるPPP事業のためには、各国政府がPPPの適用可 能性に一定の制限があることを認識しつつ、各国政府がとるべき施策とし て、①PPP法などの基本的な法制度やグローバルな視点での規制環境の 標準化、②事業性改善のための収益保証(アベイラビリティ・ペイメント 等)や為替リスク等の保証、③各国の現地通貨流通促進のための金融資本 市場整備、④これらを運用するための能力構築、⑤PPPセンターのよう な分野横断型の案件組成支援組織が必要となる。 各国の発展段階を踏まえ、PPPの制限の適切な認識を含め、必要な制 度整備及び能力構築を、民間事業者の案件組成も意識しつつ、技術協力を
促進するとともに、PPP向け円借款(Equity Back Finance、Viability
Gap Funding 及びPPPインフラ信用補完スタンドバイ円借款)を供与 することで制度整備を促す施策パッケージにより、アジア各国における制 度環境整備を加速させてはどうか。その際には相手国の規制予見性が重要 であり、制度の透明性など、グローバルな規制環境の標準化を意識した制 度構築が重要となる。 (2) 質の高いPPPインフラの情報開示 「質の高いインフラパートナーシップ」を踏まえつつ、質の高いインフ ラ整備プロジェクトは中長期的な事業の収益性の確保を通じてPPP事 業としての成立可能性を高めるとの観点から、質の高いPPPインフラに 関する情報開示に取り組むべきではないか。 具体的には、PPPを活用したインフラ事業の成功例を踏まえつつ、 個々のPPPインフラの「質の高さ」を評価する際の情報開示やベンチマ ークのあり方について検討し、個別案件のレベルでの情報開示の内容の標 準化に資するガイドラインを策定してはどうか。 また、こうしたガイドライン策定にあたっては、ERIA等の国際的な 研究機関等と共同で取り組むことで我が国に止まらない取り組みとする
20 とともに、我が国の政府関係機関が支援するために必要な情報として広く 活用されることを視野に入れるべきではないか。さらに、質の高いPPP インフラのガイドラインにおいて評価された事業が、ESG投資等の、国 際的に機関投資家が求める投資対象と認められるようにすべきではない か。 (3) 域内の資金循環を促進する金融システム整備 PPPの実施には、現地金融システムの整備が非常に重要であり、特に、 長期の資金調達を可能とする債券市場整備と機関投資家育成の観点から、 インフラ債券の格付け手法の向上・透明化、機関投資家へのインフラ債券 の普及促進、各国政府の市場形成に向けた協力、CGIFの更なる活用を はじめとする多国間の取組等を通じ、インフラ関連への域内の資金循環の 促進が望まれる。 また、クロスボーダー取引の促進の観点から、その障害となるような相 手国の規制・税制や為替リスクについて、必要に応じ、障害の軽減を図る べきではないか。 2.案件を組成するプレイヤーの視点から (1) 公的機関の多様なスキームの更なる活用による戦略投資家育成支援 案件の形成及び投資能力を有する戦略投資家を育成するためには、メ ーカーやコンサルタント、インフラのオペレーションノウハウを持つ国 内の自治体等が事業領域を拡大し、戦略投資家として海外展開していく ことが重要である。 この観点から、必要に応じ、JBIC、JICA(海外投融資、PP P F/S)、NEXI等の各種スキーム活用により個別プロジェクトに 係るノウハウの蓄積を促進するとともに、産業革新機構等の活用により 海外のオペレーターとのM&A・提携を加速するとともに、インフラフ ァンドへのLP出資を通じたノウハウの蓄積を進めてはどうか。 また、こうした戦略投資家を育成する観点から、アジアPPP推進協 議会のプラットフォームとしての機能は重要であり、ノウハウを蓄積す るとともに、案件組成等にあたっては同協議会の機能を活用することも 重要ではないか。 (2) 国内インフラ市場開放による戦略投資家育成支援 海外の主要インフラ・オペレーターがそれぞれの国内市場においてPP
21 P案件を実施することで知見・経験を蓄積したことを念頭に置くと、国内 市場の開放は国際的な競争力強化に資すると考えられる。 その観点からも、国内における水道事業や空港・港湾事業等の市場開放 に向けた取り組みを、関連部署と連携しつつ促進し、我が国の戦略投資家 育成をすべきではないか。 3.案件に投資するプレイヤーの視点から (1) インフラ投資に向けた外貨供給促進 PPP事業に向けたプロジェクトファイナンスにおいて、引き続き我 が国の主要銀行等が大きな役割を果たすためには、外貨供給能力が十分 にあることが重要。そのために必要な資金供給策について検討すべきで はないか。 (2) 機関投資家向けプラットフォーム 我が国の年金等にとって、インフラ整備事業への投資に関する知見を補 完し、中長期的に安定した投資対象としての認識を広げることは、PPP 事業に我が国金融投資家の参入を促進する観点から重要である。 そうした観点から、機関投資家向けに、アジアのPPP事業の投資検討 に資する案件情報を共有するプラットフォーム構築を促してはどうか。ま た、中長期的には、オーストラリアのIFMのように、アセットマネジメ ントまで踏み込んだプラットフォーム構築を促してはどうか。その際には、 こうしたプラットフォームを活用する機関投資家のリスク分析能力の向 上策も検討すべきではないか。 また、こうしたプラットフォーム整備と並行し、投資環境を整備する観 点から、インフラファンドに対する制度環境整備を検討してはどうか。国 内では2015年にインフラファンド市場が開設されるとともに、太陽光 発電など再生可能エネルギー施設に主に投資するインフラファンドを一 定期間非課税扱いにするなどの措置が取られており、こうした環境整備を さらに進めてはどうか。
22 (参考 委員一覧) ◆委員(五十音順 敬称略) 大橋 純 マッコーリーキャピタル証券会社 支店長(兼)投資銀行本部長 木村 福成 慶應義塾大学 大学院経済学研究科 委員長 工藤 禎子 三井住友銀行 執行役員 成長産業クラスターユニット長 清水 聡 株式会社 日本総合研究所 調査部 主任研究員 園山 俊雄 SMBC 日興証券株式会社第三投資銀行部 マネジングディレクター 田中 英隆 株式会社 格付投資情報センター 専務執行役員 谷山 智彦 株式会社 野村総合研究所 経営革新コンサルティング部 インフラ・アセットファイナンスグループ 上級研究員 廣本 裕一 三菱商事株式会社 常務執行役員 新産業金融事業グループ COO(兼)産業金融事業本部長 福島 隆則 株式会社 三井住友トラスト基礎研究所 投資調査第1部 上席主任研究員 ◆オブザーバー 大井 麻理 独立行政法人 日本貿易保険 営業第二部 部長 小中 鉄雄 独立行政法人 国際協力機構 民間連携事業部 部長 弓倉 和久 株式会社 国際協力銀行 業務企画室 室長
23 (参考 開催経緯) 第一回 平成28年1月29日(金)18:30~20:00 議題:事務局からの趣旨説明・論点提起 第二回 平成28年3月4日(金)13:00~15:00 議題:事務局からの趣旨説明・論点提起 ①アジア各国で整備が必要な制度や必要な国際的枠組み ②どのようにすれば我が国の戦略投資家を育成できるか ③投資家が参画しやすい環境を整備するには 第三回 平成28年3月16日(水)15:30~17:00 議題:中間取りまとめ(案)について