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「ブロックチェーン技術

入門」

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main : 2017/7/22(13:6)

(4)

i

はじめに

2015年12月上旬、サトシ・ナカモトの正体がオーストラリアの実業家の 男性であるらしいというニュースに注目が集まった◆1 サトシ・ナカモトはビットコインの生みの親として知られる人物である。 ビットコインのような暗号通貨は過去何回か提唱されてきたが、安全性の確 保、つまり、悪意のある者が複数のノードを乗っ取り、流通している通貨を自 分のものにする攻撃に対して、有効な手段が示されていなかった。そのよう ななか、サトシ・ナカモトという日本人名を名乗る謎の人物が2008年にThe

Cryptography Mailing List上に自身の論文を載せ◆2、それが今日のビット

コインのベースをつくったのである。 以降、ビットコインには多くの改良が施され、さまざまな評価を受けなが らも、全世界で確実に広がってきている。残念ながら日本においては、ビッ トコインを扱っていた取引所が起こした問題が、通貨としてのビットコイン だけでなく、その背後にある技術に対しても負のイメージを与えてしまった。 未来が期待される技術にもかかわらず、ネガティブな印象が先行してしまっ たことは、これからの日本経済や技術にとって不幸なことであった。 ビットコインについてはすでに多くの本が出版されており、詳細な技術の 仕組みについてはアントノプロスによる“Mastering Bitcoin”◆3が詳しい。 一方、本書はビットコインを経済、社会、技術、倫理などから解説するので はなく、中核的な仕組みであるブロックチェーン技術とその応用に関して現 時点でできる限り詳細に述べ、この技術の潜在的な可能性を最大限に理解い ◆1 http://wired.jp/2015/12/14/bitcoin-founder/ ◆2 http://www.metzdowd.com/pipermail/cryptography/2008-October/014810.html

◆3 Andreas M. Antonopoulos,“Mastering Bitcoin”, Oreilly&Associates Inc.(2014/12/20),邦訳『ビッ トコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術』,今井崇也・鳩貝淳一郎 訳,NTT出版,2016.

(5)

main : 2017/7/22(13:6) ii はじめに ただくことを目的とする。それは今後の流通、金融、エンターテインメント、 通信など広範囲にわたり核となる可能性の高い技術だからである。この技術 の可能性をいち早く理解した米国を中心とする大手銀行などの金融機関は、 ニューヨークのベンチャー企業であるR3社◆1を中心に80社以上からなる コンソーシアム形成し、ブロックチェーンを用いた新たな国際金融取引の模 索を行っている。日本からも2015年9月末の三菱UFJフィナンシャル・グ ループの参加を皮切りに、複数の大手金融機関が参加しており、注目度は高 まっている。また、NASDAQが未公開株取引をブロックチェーンを用いて 行う方式(Nasdaq linq)を本格的に試行し始めるなど◆2、ブロックチェーン への期待をさらに高めるようなニュースも多い。 ポストICTの技術として取り上げられているIoT、HTML5、AIなどは 単なる新技術であるだけでなく、これらを用いた社会制度や法律、さらには 人々の考え方までも変革する可能性がある。ブロックチェーンもそういう技 術の一つとして捉える必要があろう。最近になってよく言われているのが、 インターネット創生期におけるTCP/IPの存在がブロックチェーンと対比で きるということだ。あるいはWebにおけるHTMLの存在にたとえてもよい のかもしれない。いずれも捉え方によっては単なるプロトコルであり、それ ほど画期的な技術が含まれているわけではない。しかし、これらが社会に与 えた影響は底知れない。それはシンプルかつオープンな仕様であり、無限の 発展性を約束しているからである。ブロックチェーンはこれらに比べるとい ささか理解しにくい面はあるが、これまでのICT技術と暗号技術、さらにイ ンターネットのもつオープン性を取り込んだ非常に発展性のある技術である。 本書では最近のブロックチェーンをめぐる現象を技術的に分析し、今後の 展開を考えるうえで役立たせるべく、少し踏み込んで記述した。結局のとこ ろ、概説に触れるだけでなく本質を学んだほうが早く理解できることは多い。 できるだけ基盤的なところから記述したつもりではあるが、急速に発展して いる技術だけに近い将来には古い記述になっているものがあるかもしれない。 それでもインターネットが全世界のコミュニケーションに変革を与え続けて ◆1 http://r3cev.com/ ◆2 http://ir.nasdaq.com/releasedetail.cfm?releaseid=948326

(6)

はじめに iii

いるように、本質的で継続可能な技術が何かということを常に考えていく手が かりとはなるだろう。現在いくつかの国際的な組織が、将来のブロックチェー ン技術の発展を期して、標準化の可能性などの検討を進めている。国連の機関

であるInternet Governance Forumが開催したIGF2016では、一つのセッ

ションとしてブロックチェーンが取り上げられ、非常に白熱した議論が交わ された。また、Web技術の標準化を行っているW3Cではブロックチェーン に関するCG(Communication Group)が、2015年に札幌で開催された同団 体の年次総会とも言えるTPAC会議を契機に活動を始めている。さらに、イ ンターネット関連ではISOC(インターネットソサエティ)においても議論 が盛んになってきている。今後これらがどのような発展をするかはわからな いが、TCP/IPが世界を変えたように、次のエポックメーキングな技術とし て期待している人は多い。本書が今後の技術の発展に寄与できればと思って いる。 2017年6月 著者一同 

(7)

main : 2017/7/22(13:6) iv ブロックチェーン技術入門

目次

はじめに ··· i 第

1

ブロックチェーンの概要

1

1.1

ブロックチェーンとは ··· 2

1.2

ビットコインにおけるブロックチェーン技術 ··· 11

1.3

ブロックチェーン技術の広がり··· 16 第

2

ブロックチェーンの技術詳細

29

2.1

プロトコルとしてのブロックチェーン ··· 30

2.2

トランザクション··· 33

2.3

ブロックチェーン··· 50

2.4

コンセンサスアルゴリズム ··· 61

2.5

スマートコントラクト ··· 77 第

3

ブロックチェーンの信頼性

87

3.1

ブロックチェーンの信頼性の特徴··· 88

3.2

トランザクションの信頼性 ··· 90

3.3

ネットワークシステムとしての信頼性 ··· 93

3.4

エコシステム全体での信頼性 ··· 98

3.5

まとめ···101

(8)

目次 v 第

4

ブロックチェーン

2.0

103

4.1

さまざまな場面で活躍するブロックチェーン ···104

4.2

著作権管理 ···115 第

5

ブロックチェーンの将来像

123

5.1

インフラになるための道筋 ···124

5.2

利用者認証、健全性に関する議論···126

5.3

ブロックチェーンブリッジ:ブロックチェーンの 特性を生かした連携···127 おわりに ···137 付録:用語解説 ···138 索引 ···146

(9)
(10)

29 第

2

ブロックチェーンの技術詳細

第1章では、ブロックチェーンの基本的な技術の仕組み について概説した。またビットコインをはじめとした仮想通 貨のほかにも、スマートコントラクトと呼ばれる汎用的なア プリケーションにブロックチェーンの利用が始まっているこ とを述べた。本章では、ブロックチェーンのはたらきについ て、具体例を交えてやや踏み込んで解説することで、技術面 におけるより本質的な理解の助けとしたい。なお、本書にお いては、Bitcoin-coreなど特定のソフトウェアにこだわった 解説やその動かし方には重点をおいていない。仮想通貨とそ の発展系であるスマートコントラクトのブロックチェーンの あいだには互換性はなく、それぞれで限定された仕様が多い ためである。本章では、各ブロックチェーン技術における共 通項を探り、その構造的な違いに関して着目して解説してい くことで、ブロックチェーンのソフトウェアに共通した設計 理念を捉えることを目的とする。

(11)

main : 2017/7/22(13:6) 30 第2章 ブロックチェーンの技術詳細

2.1

プロトコルとしてのブロックチェーン

前章で見たように「ブロックチェーン◆1」とは図 2.1に示すような「ある 一定期間のトランザクションをまとめてブロックとして扱い、そのブロック をノード間で合意を取りつつ、時系列順に連鎖させた分散型データベース」を 指している。 図2.1 ブロックチェーン チェーンは後につながったブロックほど新しく、最初のほうのブロックに 近づくほど古くなり、より改ざんが難しい。これは、過去の岩や砂が積み重 なった地層にたとえることもできる。地層は古いものほど地質が変化しにく いが、ブロックチェーンもそれに似て、過去のブロックほど改ざん耐性が高 くなる。ネットワークに参加するノード群は、一つのプロトコル(規則)に 従って、ブロックという地層を積み重ねていく。ブロックチェーンは、P2P 通信によるメッシュ型のネットワークにより複数ノードに対して分散的に共 有される。 ここでの「分散」とは、各ノードがデータを部分的に保持するのではなく、 2.2のように各ノードはデータを複製しまったく同一のブロックチェーン ◆1 ブロックチェーンの概要については第1章にて説明を行ったが、ブロックチェーンおよびこれに関する用 語は、その指し示す範囲が曖昧なまま用いられることも多い。そこで、技術の詳細に触れる前に、本書に て用語の示す範囲を改めて定義し、概要を簡単に振り返る。

(12)

2.1 プロトコルとしてのブロックチェーン 31 第 2章 ブロックチェーンの技術詳細 を保持することを意味する。すなわち、ネットワークの参加者が同一のブロッ クチェーンを保持することにより、複数ノードでトランザクションの正当性 が検証できる構造となっている。これにより、ブロックチェーンを用いた分 散台帳のネットワークでは、中央集権的な管理を用いずとも、自律分散的に 系を維持することが可能になる。 図2.2 ブロックチェーンネットワーク 各ブロックにはトランザクションが含まれる。「トランザクション」とは、 IT用語辞典バイナリの定義を引用すると「コンピュータにおける一連の不可 分な情報処理を表した概念◆1」である。これは要するに、ブロックチェーン に記録される論理的な最小の情報単位のことである。たとえば、ビットコイ ンにおいては、誰から誰へ送金するといった取引情報が含まれている。トラ ンザクションがブロックに含まれ、さらに当該ブロックがチェーンに追加さ れることによって分散台帳が更新される。フルサイズのブロックチェーンは、 過去から最新のブロックにいたるまですべてのトランザクションを保有して おり、トランザクションはプロトコルに従って、その正当性をさかのぼって 誰でも検証することが可能である。 ◆1 http://www.sophia-it.com/content/トランザクション

(13)

main : 2017/7/22(13:6) 32 第2章 ブロックチェーンの技術詳細 ここで、ブロックチェーンにトランザクションが記録される際のプロトコ ルの三つの要点を、下記にまとめる。 1.任意のノードがトランザクションをP2Pネットワークにブロードキャスト する。 2.第三者のノードがトランザクションの正当性を検証し、新規ブロックを生 成する。 3.コンセンサスアルゴリズムに従って、新規ブロックがブロックチェーンに 追加される。 2.3にも示すように、ブロックチェーンが土台とするネットワークは、 P2Pでつながったメッシュ状のネットワークである。ここに各ノードがトラ ンザクションを送信することで、トランザクションはネットワーク全体に行 き渡る。トランザクションを受け取ったノードのうち、一部は複数のトラン ザクションを一括にまとめてブロックと呼ばれるデータ集合を生成する。つ くられたブロックはコンセンサスアルゴリズムという合意形成のプロセスを クリアすれば、チェーンに最新ブロックとして追加される。(あるいは、合意 形成のプロセスに敗れれば、チェーンに含まれないこともある。) 本章では、以降の節において、トランザクション(2.2節)およびブロック チェーン(2.3節)の構造と生成プロセスを、さらにブロックチェーン生成 の核となるコンセンサスアルゴリズム(2.4節)について解説する。各節に おいては、ブロックチェーンの構築にかかわるプロトコルの基礎的な理解と、 仮想通貨やスマートコントラクトなど異なるチェーンの技術的な差異を俯瞰 的に捉えることを目的として記載する。なお、暗号学的に一般的な技術用語 (公開鍵やハッシュ関数など)の説明は省いている。必要に応じて、付録の用 語集を参照されたい。

(14)

2.2 トランザクション 33 第 2章 ブロックチェーンの技術詳細 図2.3 プロトコルの三要点

2.2

トランザクション

2.2.1

構造 先に述べたとおり、トランザクションとは、ブロックチェーンに記録される 最小単位の一取引情報のことである。表2.1にビットコイントランザクショ ンのデータ構造を、表2.2にEthereumトランザクションのデータ構造の一

(15)

main : 2017/7/22(13:6) 34 第2章 ブロックチェーンの技術詳細 例を示す。この2種類のトランザクションを見比べると、一口にトランザク ションといっても、データ構造がかなり異なっていることに気がつくだろう。 これはビットコインとEthereumでは、その設計において最終的にアウトプッ トする台帳への考え方が異なることに起因する。(これについてはUTXOモ デルとアカウントモデルの違いとしてのちほど述べたい。) まず、ビットコインとEthereumのトランザクションに含まれるデータと して、共通的な仕様を探すこととしたい。共通する最も重要な記述は、「署名」 表2.1 ビットコイントランザクションのデータ構造 フィールド名 サイズ 説明 Version 4バイト どのバージョンに従ったトランザクションか Input Counter 1∼9バイト 入力の数 List of Inputs 可変サイズ トランザクションの入力のリスト in[0] 前トランザクションのハッシュ、 署名と検証鍵を含むスクリプト in[1] 前トランザクションのハッシュ、 署名と検証鍵を含むスクリプト Output Counter 1∼9バイト 出力の数 List of Outputs 可変サイズ トランザクションの出力のリスト out[0] 出金額、宛先を含むスクリプト out[1] 出金額、宛先を含むスクリプト LockTime 4バイト Unixタイムスタンプ、またはブロック高 表2.2 Ethereumトランザクションのデータ構造 フィールド名 説明 Nonce アカウントが送ったトランザクションの連番 GasPrice 1ステップ実行あたりの手数料 StartGas ステップ実行数の最大値 To 宛先 Value 支払額 Data コントラクト送信データ v 署名値 r 署名値 s 署名値

(16)

2.2 トランザクション 35 第 2章 ブロックチェーンの技術詳細 と「宛先」である。署名は暗号を用いた鍵ペアによりトランザクションの全 体に電子署名を施し、そこから得られる署名値を格納する。宛先はこのトラ ンザクションの受け手の情報を格納する。ビットコインでは独立したフィー ルドにはそれらをもたないが、入力と出力に記載されるスクリプト内に見つ けることができる。 では「署名」と「宛先」はどのように利用されるのだろうか。ブロックチェー ンにおけるトランザクションに求められる要件から考えてみたい。トランザ クションにおいては、「誰(from)から誰(to)へ」のトランザクション(取引) であるかを保証することがきわめて重要である。仮想通貨であれば、コイン が誰から誰へ渡ったかの転々流通◆1を、スマートコントラクトでは誰がどの コントラクト(契約)に対して履行請求するかが特定されなければならない。 とくに、発行元の一意性は保証される必要がある。そうでなければ正当な財 布の持ち主以外が、仮想通貨を勝手にバラまくことが許容できてしまう。従 来の情報システムにおいては中央管理されたサーバシステムによる認証によ り、送信者が正しいユーザであることを保証していたが、この新たな自律分 散的なシステムにおいては成り立たない。 これに対して、ブロックチェーンのシステムが採用した解決手段はシンプ ルである。それは、ネットワークに参加するすべてのノードに、発行するト ランザクションに必ず電子署名をつけさせることである。署名鍵はアカウン ト(口座)と紐づいており、誰でも暗号学的に検証可能なよう仕組みが整え られている。鍵をもたない第三者がなりすまして出金するトランザクション を発行しても、検証した他のノードによって該当トランザクションは棄却さ れてしまう。また、電子署名はトランザクションのデータ全体に適用される ため、トランザクションの一部を改ざん(たとえば、送金額を変更するなど) することは暗号学的に不可能である。 以上の理由から「署名」にはトランザクションの発行元を示す署名値が、 「宛先」には受け手のアカウントを示す値が格納されている。ブロックチェー ンごとにトランザクションのデータ構造は異なるとしても、まずこの二つの ◆1 ある電子マネーのシステムにおいて、利用者から他の利用者へ電子マネーを譲渡して使用できること。

(17)

main : 2017/7/22(13:6) 36 第2章 ブロックチェーンの技術詳細 値が含まれていることが最低限の要件であると言えるだろう。 次にビットコインとEthereumのトランザクション構造の特徴をそれぞれ 見ていこう。 トランザクションの構造(ビットコインの場合) ビットコインのトランザクションの特徴は、「Input(入力)」と「Output (出力)」という二つの情報の対で構成されることにある。二つの項目には、 どちらも「スクリプト」と呼ばれる簡易的な検証プログラムが指定されてい る。ビットコインのトランザクションは、入力と出力の組合せにより、「誰 (from)から誰(to)へ」コインを送るかを表現し、スクリプトによって第三者 によるトランザクションの検証方法を指定する。このように、ビットコイン のトランザクションが一見複雑な記載方式をとっているのは、ビットコイン が「UTXOモデル」を採用していることに起因する。UTXOモデルについ ては、2.2.3項で解説する。 トランザクションの構造(Ethereumの場合) Ethereumのトランザクションは、ビットコインと比べると簡潔な印象を 受けるかもしれない。「署名」と「宛先」の項目により「誰(from)から誰(to) へ」の送金であるかが記載されている。一方で、Ethereumのトランザクショ

ンには、「Data」や「GasPrice」「StartGas」といった項目が並ぶことに気が

つく。これらは、Ethereumが単純に仮想通貨を送るだけでなく、スマートコ ントラクトの実行も可能にするためのパラメータである。とくに「Data」に は、送金以外のコントラクトと呼ばれるチューリング完全なプログラムデー タが格納され、スマートコントラクトの実行に重要な役割をもつ。Ethereum がどのようにプログラムデータを登録し、これを実行していくのかについて は、2.5節で詳しく説明する。

(18)

2.2 トランザクション 37

2章

ブロックチェーンの技術詳細

column

Ethereum

を動かす燃料「

Gas

ビットコインと比べてEthereumのトランザクションには、GasPriceや

StartGasなどGas(燃料)にかかわる項目がある。Gasはブロックチェーン 上で安全に分散アプリケーションを実施するために採用された、Ethereumに おけるユニークな仕組みである。不特定多数のマシン上で分散アプリケーショ ンを実行するとなると、プログラムにバギーなコード(たとえば無限ループな ど)または大量に無意味な処理を実施する悪意のあるコードが含まれていた場 合に、これを阻止する仕組みが必要である。 この仕組みにおいて、スマートコントラクトのプログラムには、そのステッ プ数や処理内容に応じてGas値が算出される。もう少しわかりやすく言えば、 プログラムごとに、そのプログラムを動かすための「燃料」の量が決まってい る。さらにGasには値段が付けられており(GasPrice)、その価格は需要によ り定まる。 この仕組みによってどのようにプログラムコードの暴走を防ぐことができる だろうか。プログラムの実行者は、トランザクションに任意の手数料を含めて ネットワークにブロードキャストする。その手数料のうち、プログラム実行の ために必要なGas量の分が消費される。もしプログラムがループ処理などに より大量のGasを消費するのであれば、手数料も大量に消費されることとな る。さらに重要なことは、手数料以上のGasが消費される場合、手数料不足 としてそのトランザクションは棄却されることである。よって支払った手数料 以上、またはGasの上限値以上に、大量の処理を実施する不正なトランザク ションはGas不足に陥りネットワークに受け入れられないということになる。

2.2.2

アカウントと電子署名の紐付け 前節より、ブロックチェーンのシステムにおけるトランザクションには「署 名」と「宛先」が記載されていることが必要であることがわかった。「署名」 の項目には送り手の口座(アカウント)から送ったことを保証してくれる電子 署名の値が格納されている。ところで、アカウントと署名値はどのように関 連づけられるのだろうか。あるアカウント(A)からトランザクションを発行

(19)

main : 2017/7/22(13:6) 38 第2章 ブロックチェーンの技術詳細 したとして、そのトランザクションに付与されている電子署名が(A)のもの であることをどうやって確認するのであろうか。従来のような大規模なサー バー・クライアントモデルにおいて、ある署名が誰のものであるかはPKI(公 開鍵基盤)による認証局が管理していたため、認証局に問い合わせればよかっ た。一方で、ビットコインやEthereumのようにパブリックで運用されてい るチェーンは、中央集権的なエンティティを排して運用しているため、アカウ ントと署名値の紐付けは第三者によって認証されない。そこで、パブリック なブロックチェーンにおいては、ある一定のプロトコルに従ってアカウント を生成している。そのプロトコルとは、アカウントを示す口座番号を、署名鍵 とペアとなる「検証鍵(公開鍵)」をもとにして生成することである。この番 号は「アドレス」と呼ばれている。以下において、ビットコインとEthereum におけるアドレスの生成方法を見てみよう。 アドレスの生成(ビットコインの場合) いくつかのアドレスの生成方法が存在するが、たとえば一部のビットコイ ンのアドレスは次のように算出される。

Address = RIPEMD160( SHA256(public key) )

SHA256とRIPEMD160は共にハッシュ関数の一種で、SHA256は米NSA

(米国家安全保障局)が開発した32バイトの出力値、RIPEMD160はドイ ツ・ベルギーで開発された20バイトの出力値を算出する。上記のとおり、ま ず生成した検証鍵に対してSHA256を適用し、次にその結果のハッシュ値に RIPEMD160を適用するといったダブルハッシュを実施することでアドレス の値を得る。(より厳密には、アドレスの先頭にはネットワークバージョンを 示す識別子を付与される。) アドレスの生成(Ethereumの場合) Ethereumの場合はこのようになる。

(20)

2.2 トランザクション 39 第 2章 ブロックチェーンの技術詳細 SHA3はもとはKeccakとして知られるハッシュ関数であり、32バイトの 出力値を算出する。ここでBa...b()は[a, b]のレンジでバイナリを切り出すこ とを意味し、B96...256は出力ハッシュ値の32バイトのうちラスト20バイト を切り出すことと等しい。 上記のビットコインとEthereumのアドレスの生成方式の共通項を探すと、 どちらも検証鍵(public key)にハッシュ関数を適用して算出した値を利用し ていることがわかるだろう。アドレスの算出方法はプロトコルとして規定さ れているため、検証鍵からアドレスを算出することは可能である。そして、 アドレスはハッシュ関数によってネットワーク内でユニークかつ適切な文字 長で算出される。よって、トランザクションに付与される検証鍵が該当アカ ウントのものであるかを判断するためには、上述の計算を行い、トランザク ションの発行元のアドレスと照合すればよい。 一方で、先述したとおり、パブリックなブロックチェーンでは電子署名は 使用するが、PKI(公開鍵基盤)のように認証局をもつわけではない。つまり 発行元の同一性とその身分の保証は切り離して扱われる。いわば、仮想通貨 の「財布」は、現実世界の特定の誰かに紐付けられているわけではないので ある。ビットコインにおける匿名性の高さのゆえんは、まさにこの公開鍵と その身元を切り離す設計にある。また、現実世界の銀行とは異なり、ブロッ クチェーンではプロトコルに従えば第三者の承認なしに自由にいくつでも口 座を開設することができる。そのため、実際には取引ごとにアカウントは使 い捨てられることが多い。 example 上記で算出されたアドレスはバイナリ値であるため、実際に人に伝える場合 にはより人間にとって読みやすく、転写時のエラーを防ぐような形式にして運 用する。ビットコインの場合は標準的には“Base58”と呼ばれる形式でエン コードされるため、視認性の高い58種類の文字のみを使って表現される(た とえば、数字の0や小文字のエルを含まない)。 例:1AYVpi5bWCzXSD3EQn7EjnpU1QtDk2vpNm

(21)
(22)

103 第

4

ブロックチェーン

2.0

本章では、ブロックチェーンのさまざまな用途への応用の 取り組みについてまとめて紹介する。とくにアプリケーショ ンの可能性に着目し、まだまだ実証実験段階のものが多い 非金融分野におけるプロジェクトを紹介していく。また、ブ ロックチェーンを著作権管理へ応用することを目指したNTT の取り組みも併せて紹介する。

(23)

main : 2017/7/22(13:6) 104 第4章 ブロックチェーン2.0 前章までのブロックチェーンの技術的な解説を経て、ブロックチェーンの 仕組みについてはおおよそ理解いただけただろう。ブロックチェーンは、簡 単には中央集権的な管理を必要とせずにシステムを維持できる技術であり、分 散型のデータベースのように理解されることもある。しかし、実は分散型の データベース以上の可能性を秘めている。ブロックチェーンは、データベー スであり、アプリケーション実行基盤であり、ネットワークインフラでもあ るのだ。ブロックチェーンネットワークという共有プラットフォームの上で さまざまなアプリケーションが実行され、確かな記録が蓄積される。クラウ ドと違い、ブロックチェーンはインターネットのような誰でも利用できる共 通インフラの性格が強い。この共通インフラとしての性格をどのように生か し、世の中に価値を提供するのか、さまざまな産業分野で活発に検討されて いる。 もともとBitcoinのために開発されたブロックチェーンを仮想通貨以外へ 応用する取り組みは「ブロックチェーン2.0」と呼ばれる。最近ではあえて 「2.0」を強調しないことも増えているが、本章では、広がりを見せる応用を わかりやすく総称する言葉として「ブロックチェーン2.0」を用いることに した。

4.1

さまざまな場面で活躍するブロックチェーン

4.1.1

公証サービス 私たちは仕事や日常生活においてさまざまなドキュメントを作成している。 打ち合わせ資料や議事録、商品発注書など仕事に関するものから、子供の成 長を記録したアルバムなど日常生活に関するものまで、私たちが日々残す記 録は膨大である。そのなかには、たとえば研究の実験記録や税関係の書類、 カルテ、工事完了の証明書類などのように、作成日・作成者が正しく記録さ れ、改ざんの有無が確認できることが重要となるものもある。こうした情報 の真正性を保障することを「公証」と言う。これまでは、公証は第三者機関 に委任するしかなかったが、高い改ざん耐性をもつブロックチェーン(2.3節 参照)を使うことで、第三者機関を必要とせずに同様のサービス(公証サー

(24)

4.1 さまざまな場面で活躍するブロックチェーン 105 第 4章 ブロックチェーン 2.0 ビス)を実現することができると期待されている。 最初のブロックチェーンを使った公証サービスはProof of Existence◆1で ある。Proof of Existenceは、ビットコインのブロックチェーンにドキュメン トファイルなど真正性を保証したいファイルのハッシュ値を記録することで、 ブロックチェーンに記録された時点において、あるファイルが存在していたこ とを証明するというものである(図4.1)。記録する値にハッシュ値を使うこと で、ブロックチェーンに記録されて以降の当該ファイルへの編集の有無を確認 することができる。ビットコインのブロックチェーンは通常は支払に関するト ランザクションを記録することを目的にしているが、OP RETURNというス クリプトを使うことで支払に関係のない情報をトランザクションに記録するこ とができる(2.2.3項参照)。Proof of Existenceでは、このOP RETURNス クリプトの後にファイルのハッシュ値を記載したトランザクションを作成する ことで、ブロックチェーンにハッシュ値を記録している。Proof of Existence により真正性を証明できる対象は、多岐にわたる。ドキュメントファイルや 画像ファイル、動画ファイル、音楽ファイルなど、ハッシュ値を取得できる 対象であれば、どんなものでもブロックチェーンに記録し、その真正性を証 明することができる。 図4.1 Proof of Existenceの仕組み Proof of Existenceを利用するにはビットコインのアカウントとBTCが 必要だが、ユーザ登録することで利用できる、ブロックチェーンを利用した ◆1 http://proofofexistence.com

(25)

main : 2017/7/22(13:6) 106 第4章 ブロックチェーン2.0 公証サービスも始まっており、次のようなプロジェクトがある。 ・Stampery…ダニエレ・レヴィ、ルイス・アイヴァン・クエンデらがマド リードで創設したオンライン公証サービス◆1 ・Tierion…ウェイン・ヴォーンらにより創設された公証サービスで、ヘルス ケア分野へのブロックチェーンの利用をフィリップス社とともに探ってい る◆2 これらのサービスでは、ビットコインやEthereumのブロックチェーンへ の登録を想定しているが、単位時間あたりに処理できるトランザクション数に は限りがあり、多くの利用者にサービスを提供するためにはトランザクショ ンに載せる情報に工夫が必要である。

そのための仕組みをStamperyではBlockchain Timestamping

Architec-ture(BTA)、TierionではChainpointと呼んでいるが、その発想は同じで、

記録したいハッシュ値を逐一トランザクションに載せるのではなく、それら ハッシュ値をマークル木により集約し、その集約したツリーのルート情報な どをトランザクションに記載するというものである。マークル木により集約 することで、多くのハッシュ値を効率よくブロックチェーンに記録すること ができるとしている。

4.1.2

登記 公証サービスでは、利用者が作成した情報や修正した情報の真正性を確認 するためにブロックチェーンを利用していた。これはブロックチェーンに記 録された情報の書き換えが困難であることを利用した応用である。この書き 換え困難という特徴を利用し、公的な記録の管理、つまり登記の仕組みに応 用する取り組みも行われている。登記は記載されている権利関係などの情報 を法律のもとに公に認めるものであり、資産や権利の保護や取引の安全性を 確保するために重要な仕組みである。たとえば、土地や家屋は一般に資産と して認められ銀行融資の担保にもできるが、その信頼の背景には登記による ◆1 https://stampery.com/ ◆2 https://tierion.com/

(26)

4.1 さまざまな場面で活躍するブロックチェーン 107 第 4章 ブロックチェーン 2.0 管理がある。なお、不動産登記のほかにも、商業・法人登記、成年後見登記、 動産譲渡登記、債権譲渡登記といった各種がある。ブロックチェーンを登記 に応用する取り組みはまずは不動産登記を対象としてスタートし、すでに世 界の各地で検討が始まっている。 スウェーデン政府は、スタートアップのChromaWayやコンサルティング

会社のKairos Future、電気通信業者のTeliaとともに土地の登記にブロッ

クチェーンを活用することを検討している◆1。ブロックチェーンを利用した スマートコントラクトにより人的エラーの低減や土地取引にかかる時間の短 縮、高いセキュリティを実現できると見込んでいる。スウェーデンでの家屋 の売買には平均で3ヵ月かかるが、ブロックチェーンに置き換えることで数 日にまで短縮できるとしている。 ジョージア政府でも同様に、土地の権利を登録するプラットフォームの開 発を開始しているとのニュースが出ている◆2。土地登記に応用するプロジェ クトとしてホンジュラス政府とスタートアップFactomの共同プロジェクト が初期の頃から話題となっているが、停滞しているようだ◆3 国との共同プロジェクトが多いなか、BitNationは、特定の国家に頼らず に土地や権利の登記をブロックチェーンで行うソリューションを提供してい る。登記にブロックチェーンを活用する取り組みは、日本のように既存の登 記システムが整備されている地域では運用コストや管理コストの削減につな がる可能性がある一方、登記システムが未熟な国にとっては、先進国並の登 記システムを安価に構築できる機会になるだろう。

4.1.3

資産管理 ブロックチェーンは資産管理にも有用だと考えられる。資産の代表例であ る「土地」にしても、誰もが認める登記簿という台帳があるからこそ、資産 として認められている。土地はその性質上偽造などはそもそも考えにくいが、 所有者の偽装がされにくいことは融資の担保として土地を利用するうえでは ◆1 http://www.reuters.com/article/us-sweden-ブロックチェーン-idUSKCN0Z22KV ◆2 http://www.coindesk.com/bitfury-working-with-georgian-government-on-blockchain-land-registry/ ◆3 http://www.newsbtc.com/2015/12/26/factom-stalls-honduras-land-title-registry-initiative/

(27)

main : 2017/7/22(13:6) 108 第4章 ブロックチェーン2.0 重要である。土地以外の資産についても、信頼性の高い記録簿を整備するこ とにより資産としての価値を高めることができるかもしれない。 Everledger◆1はダイヤモンドに対する信頼性の高い台帳をブロックチェー ンでつくることを目指している。ダイヤモンドは非常に高価ではあるが、過 去の所有歴を確認することができないため、偽物が混入しやすく、不正取引 が後を絶たないようだ。Everledgerはブロックチェーンにダイヤモンドごと の固有情報と、シリアル番号、所有者の情報を記録する。ダイヤモンドごと の固有情報とは、色や透明度、カラット、カットなどの鑑定書に記載される 情報のことである。 EverledgerではAPIを通じて情報を公開し、銀行や保険会社がその情報 を確認できるようにしている。APIを通じて確認できるため、インターネッ トオークションのような場合でもオークション利用者が本物であるかを確認 し、購入することができるようになるかもしれない。

4.1.4

サプライチェーン Provenance◆2はサプライチェーンの透明性を確保することを目指すプロ ジェクトである。私たちの身の回りにはさまざまなものが売られているが、そ の商品がどこでどのようにつくられて、どのように流通してきたのかについ て知るすべはほとんどない。販売業者や製造業者、輸入業者などの限られた 情報や販売店への信頼によって判断しているのが実状だろう。日本でも、消 費者の食の安全性への意識の高まりに対応して、積極的に情報公開をする企 業が増えている。生産地の農薬や肥料の使用状況、あるいは放射線レベルな どの情報を提供することは、農産物に対する信頼性を高めることにつながる。 しかし、扱う商品すべてについて透明性を確保することは現状では難しい。 Provenanceは、この課題を解決すべく、ブロックチェーンを使い透明性の 高いサプライチェーンの実現を目指している。生産の詳細や生産物のIDが ブロックチェーンに記載され、流通を追跡できることはもちろんのこと、製 品製造における入力と出力を検証することで正しい素材が使われていること ◆1 http://www.everledger.io/ ◆2 https://www.provenance.org/

(28)

4.1 さまざまな場面で活躍するブロックチェーン 109 第 4章 ブロックチェーン 2.0 を保証しようとしているところがProvenanceの特徴である。 商品が自分のところに渡ってくるまでにどのような経路や加工がされたの かを追跡できることをトレーサビリティと呼ぶ。これは中古市場でも重要と なる。たとえば、中古車販売の場合、購入者は過去の履歴などが知りたくな る。事故やメンテナンスの履歴が残っていることが重要で、その保存にもブ ロックチェーンは向いている。正しい記録のもとで正しい評価がされるよう になれば、正当な対価をつけやすくなる。それは不動産、車といった高価な ものから、服などにも当てはまる。 ブロックチェーンを利用することで不正な流通や不正な情報登録が完全に 防げるとは限らないが、購入者との信頼関係を構築するうえで今後重要なツー ルとなることは確実だろう。これを実現するためには、ブロックチェーン上 に誤った情報が入り込まないようにし、万が一入り込んでも検証できる仕組 みを構築する必要がある。こうした点が、流通の分野への応用では今後重要 になると考えられる。

4.1.5

医療 医療への応用は密かに注目を集め始めている。医療関係のデータは、診療 や投薬の記録、ウェアラブル端末からの心拍などの生体データ、介護の記録 などさまざまなものがある。こうした情報は正確な診療や請求のために改ざ んがされていないことが重要であるため、ブロックチェーンとの相性がよい。 医 療 へ の 応 用 で 初 期 に 提 案 さ れ た ア イ デ ィ ア は BitHealth で あ る 。 BitHealthはビットコインのブロックチェーンに医療情報を暗号化して埋 め込み、医療情報自体を分散管理するというシンプルなアイディアだった。 こうした応用は、現在ではさまざまな組織で検討が進められているようだ。

たとえばFactomがある。FactomはHealthNautica社(米国)とパート

ナーを組み、ブロックチェーンを使った医療情報の管理を目指している。 Fac-tomは、診療記録自体をブロックチェーンに埋め込むのではなく、そのハッ シュ値を埋め込んでいる。つまり公証サービスと仕組みは同じである。

公証サービスで紹介したTierionもフィリップス社とともに医療への応用 を探っている。

(29)

main : 2017/7/22(13:6) 110 第4章 ブロックチェーン2.0 2015年11月に実施されたブロックチェーンを使ったハッカソン◆1では、 「MedVault」というチームがブロックチェーン技術を電子診療記録に応用す るアイディアで1位に輝いている。このことからも、実は医療は注目度が高 い応用分野であることがわかる。 ハッシュ値をブロックチェーンに記録する方法では、データ本体の管理が ブロックチェーンの外で行われる。ブロックチェーンの改ざん耐性はブロッ クチェーン上の情報に対してのみであるため、データ本体が秘密裏に削除され ていたとしてもブロックチェーンの参加者は気づくことができない。データ が改ざんされていないことを証明する用途ではハッシュ値で十分だが、デー タ本体の可用性も保証した医療システムのためには定期的な監査の仕組みが 必要となるかもしれない。

4.1.6

投票 ブロックチェーンを選挙の投票に使おうという試みもある。民主主義にとっ て選挙はとても重要なイベントだが、投票所の設置、開票など投票の実施には 人件費も含め多くのコストがかかる。たとえばFollow My Vote(米国)◆2 ブロックチェーンを使った投票システムであり、ブロックチェーンを使うこ とで手軽にかつ安全な投票の仕組みを実現できるとしている。 ブロックチェーンが登場する以前にもネットを利用した電子的な投票の仕 組みは存在した。しかし、従来の中央管理型のシステムでは、システムが単 一障害点となるため、攻撃を受ければ、投票結果が書き換えられてしまう可 能性がある。さらに、書き換え権限のある管理者であれば、投票結果を書き 換えられてしまうという問題もあった。 ブロックチェーンでは、同一内容のデータが分散され、さらにデータの操 作には電子署名つきのトランザクションを発行する必要があるため、二重投 票や投票した結果を改ざんするなどの不正に対して強固であることが期待さ れる。 ブロックチェーンを投票に使う取り組みはほかにもあり、たとえば、日 ◆1 https://blockchain-hackathon.com/ ◆2 https://followmyvote.com/

(30)

4.1 さまざまな場面で活躍するブロックチェーン 111 第 4章 ブロックチェーン 2.0 本の株式会社ハウインターナショナルのCongreChainというものがある。

CongreChainでは、Open Asset Protocolという方法を用いて投票券を資

産として発行する。ビットコインに「色」をつけ、複数の種類の資産の流通 させる仕組みを「カラードコイン(Colored Coins)」と呼ぶが、Open Asset

Protocolはこのカラードコインの実装の一種である。Open Asset Protocol

もOP RETURNスクリプトを利用している。 今後、スマートフォンなどの身近な端末に、ブロックチェーンに接続する ためのクライアントが標準搭載される時代がくるかもしれない。そうなれば、 上記のような投票システムが当たり前のように使われる世の中になったとし ても不思議ではない。

4.1.7

個人間取引 OpenBazaar◆1は、分散型の商取引基盤の構築を目指すプロジェクトであ る。現在のインターネットショッピングでは、購入者はAmazonや楽天な どのショッピングサイトで商品を注文している。OpenBazaarは、そうした ネットストアを介さず、販売者と購入者が直接取引できるP2Pの仕組みを 実現している。OpenBazaarは、ブロックチェーンを支払機能として利用し ており、P2Pネットワークの構築には分散ハッシュテーブルを使っている。 OpenBazaarは個人間取引を実現するためにビットコインのマルチシグとい う仕組みを用いている。購入希望者、販売者、仲介者の3者でマルチシグア カウントを作成し、その3人のうちの2人が署名をすればこのアカウントか ら出金できるようにしておく。購入希望者はマルチシグアカウントに所定の 金額を入金する。販売者はマルチシグアカウントへの入金を確認して商品を 発送し、発送したことを伝える。商品を受け取った購入希望者は所定の商品 を受け取ったことを伝える。購入希望者と販売者が取引完了に合意すれば、 購入希望者と販売者の電子署名がつけられるため、マルチシグアカウントか ら販売者に送金が行われる。 購入希望者が商品に対して不服がある場合など契約について両者の不一致 ◆1 https://openbazaar.org/

(31)

main : 2017/7/22(13:6) 112 第4章 ブロックチェーン2.0 がある場合には、仲介者が調停役となる。たとえば仲介者により返金が相当 と判断される場合には、購入希望者と仲介者の2者の電子署名により返金し てもらうことも可能だ。 OpenBazaarは中間手数料を除くことができるとしているが、ショッピン グサイトを介さない個人間取引を一般個人が利用するようになるためにはハー ドルも高い。ブロックチェーンは透明性があると言われるが、現実の人との 明確な結びつけを行わない限り匿名性が高く、アンダーグラウンドな商品取 引の温床となりやすい。アンダーグラウンドな商品取引の場所となれば、一 般の人は敬遠するだろう。普及のためには、アンダーグラウンドな商品の排 除や利用者の評価システム、トラブル解決の仕組みなど安心して利用できる 仕組みを構築できるかが鍵となるだろう。

4.1.8

シェアリングサービス シェアリングエコノミーとは、恒久的に使用されていないモノや空間、ス キルなどを共有する新しい経済の仕組みのことである。シェアリングエコノ ミーのサービスとしては、車のライドシェアを提供するUberや民泊サービ スを提供するAirbnbが有名である。日本でも民泊を中心に話題となってい る。シェアリングサービスでは、従来の一企業がモノや空間、スキルを所有 し、一括提供するサービスの仕組みと異なり、多くの提供者が関与する。そ のため、多くの提供者と多くの利用者をマッチングさせる仕組みが必要にな り、分散型システムのブロックチェーンとは相性がよいと考えられている。 ブロックチェーンを利用してライドシェアサービスを提供するプロジェク

トに、Arcade City◆1やLa’Zooz◆2がある。Arcade Cityはブロックチェー

ンの仕組みを使ってドライバーと利用者のマッチングを行う。利用者は乗車 したい場所と降車したい場所を指定してリクエストを作成し、ブロックチェー ンで共有する。ドライバーはリクエストの一覧から引き受けるリクエストを 選択し、利用者をピックアップし、送り届ける。利用者が指定された金額を 支払うことで、ライドシェアは完了する。いわば分散型の配車サービスであ ◆1 米国のスタートアップによるサービス。https://arcade.city/ ◆2 イスラエルのスタートアップによるサービス。http://lazooz.net/

(32)

4.1 さまざまな場面で活躍するブロックチェーン 113 第 4章 ブロックチェーン 2.0 る。一方のLa’Zoozは、ある目的地に向かうドライバーの空席を、同じ方角 に行きたい人に提供する。つまり相乗りを支援するサービスである。車とい う密閉空間に見知らぬ人を招くことになるため、日本のように安全意識が高 い国で普及させるためには、本人認証の仕組みが重要な要素となると考えら れる。

4.1.9 IoT

Internet of Things(IoT)というワードは、すでにあちこちで取り上げら れ、非常に注目されている。ブロックチェーンでもIoTへの活用が盛んに検 討されている。 ブ ロ ッ ク チ ェ ー ン の IoT へ の 応 用 に 関 し て 、IBM 社 が 提 唱 す る

ADEPT(Autonomous Decentralized Peer-to-Peer Telemetry)という仕組

みは有名である。ADEPTは、IoTデバイスを、あらかじめ交わした契約に基 づいて自動的に管理する仕組みである。たとえば、洗濯機のメンテナンスを 自動化し、必要であれば交換部品を発注したり洗剤が足りないことを検知して 発注したり、さらに支払までを自動化するといったユースケースが考えられ る。交換部品や洗剤もそのときに一番安いルートで自動的に購入することが できるかもしれない。ADEPTはこうしたサービスの実現にブロックチェー ンを用いようとしている。 ドイツ発のSlock.it◆1は、いわゆるスマートロックをブロックチェーンを 利用して実現している。スマートロックとは、家や車などの鍵をIoTデバイ ス化したものである。ブロックチェーンを利用したスマートロックの特徴は、 管理サーバを必要としないことである。ブロックチェーンを通して、メッセー ジの送受信や権限の管理を行うことができるからである。Slock.itは、鍵だけ ではなくさまざまなものをブロックチェーンにつなぐハブとなるEthereum Computerを提案している。これは、家全体をIoT化した、いわゆる「スマー トホーム」の中心的機構となる可能性がある。 福岡を拠点とする株式会社Nayuta◆2は、電源ソケットをIoT化し、電源 ◆1 https://slock.it/ ◆2 http://nayuta.co/

(33)

main : 2017/7/22(13:6)

146

索引

英数先頭

51%攻撃(問題)···9, 68, 141

ABI(Application Binary Interface)···82

alternative coin···141 Ascribe···18 Bitcoin-Core···29 bitcoin.org···139 Colored Coins···111, 142 Corda···40 DApps···143 DoS攻撃···96 Ethereum···17, 33, 77, 143 Ethereum Foundation···100

EVM(Ethereum Virtual Machine)··81, 144 Factom···18 Gas(燃料)···20, 37 Hydrachain···74 Hyperledger···22, 77 Hyperledger Fabric···40, 74, 145 Hyperledger Project···144 Identity···22 IoT···113 Nasdaq linq···ii Nothing at Stake···72 Oracle···144 Payment···23 PBFT···73 permissioned blockchain···22, 142 permissionless blockchain···22, 142 PKI···38 Proof of Burn···142

Proof of Stake (PoS)アルゴリズム69, 140 Proof of Work (PoW)アルゴリズム  ···14, 64, 93, 140 Provenance···22 R3···ii RIPEMD160···38 Selfish Mining···95 SHA256···38 SHA3···39 Solidity···79, 144 SPVノード···52 Tendermint···74 The DAO···61, 100 transaction fee···97 Trusted 3rd Party···6, 90 UTXOモデル···34, 36, 40 W3C···iii, 22 Web of Trust···23 web3.js···84 あ 行 アカウント···37 アカウントモデル···34, 40, 44 アドレス···38 暗号通貨···5 医療···109 インセンティブ···68 オープンソース···11 か 行 ギーク志向···27 ギャンブラー破産問題···93 公証サービス···104 コンセンサスアルゴリズム···32, 62, 140 さ 行 サトシ・ナカモト···i, 3 サプライチェーン···108 シェアリングサービス···112

(34)

索引 147 ジェネシスブロック···51 資産管理···107 情報セキュリティ···89 ステート···45 ステートDB···45, 55 スマートコントラクト  ···19, 35, 44, 77, 100, 143 た 行 タイムスタンプサーバ···7 楕円曲線暗号···90 チューリング完全···20 超流通···24 電子署名···12 登記···106 投票···110 匿名性···39 トランザクション···7, 13, 31, 33 トランザクション展性···92 な 行 ナンス···14, 50, 64 二分ハッシュ木···53 は 行 ハイプ・サイクル···5 ハッシュ値···14 ハードフォーク···101 パブリック型ブロックチェーン···142 ビザンチン将軍問題···62 ビッグデータ···10 ビットコイン···139 ビットコイン・コア···139 ビットコインスクリプト···46 ファイナライズ···75 フォーク···67 ブテリン(Vitalik Buterin)···19 プライベート型ブロックチェーン···142 プログラマブルブロックチェーン···17 ブロック···7, 13, 50 ブロックチェーン···138 ブロックチェーン2.0···104 ブロックチェーン技術···3, 138 ブロックチェーンブリッジ···127 ブロックヘッダ···50, 52, 64 プロトコル···30, 32, 43 分散アプリケーション···37 分散型台帳技術···138 ま 行 マークル木···50, 53, 106 マークルパトリシア木···57 マイナー···68, 141 マイニング···15, 68 マイニングプール···141 ら 行 量子コンピュータ···90 ルートハッシュ···51 わ 行 ワールドステート···45

(35)

okuzuke : 2017/7/20(9:23) 著 者 紹 介 岸上 順一(きしがみ・じゅんいち) 室蘭工業大学教授。1980年に日本電信電話公社入社。マレーシアUTAR 大学教授(2012年∼)を経て、2014年から現職。W3Cボードメンバー (2014年∼)。この間磁気ディスク、IPTVの開発を行う一方、著作権管 理、機械学習やブロックチェーン技術の研究開発を行ってきた。工学博士。 藤村 滋(ふじむら・しげる) 日本電信電話株式会社NTTサービスエボリューション研究所 主任研究 員。2005年に入社後、テキストマイニング、Webマイニング、HTML5 等のWeb技術の研究開発に従事。現在、ブロックチェーン技術および応 用に向けた活用技術の研究開発を行っている。 渡邊 大喜(わたなべ・ひろき) 日本電信電話株式会社NTTサービスエボリューション研究所 研究員。 2011年に入社後、スマートテレビやWeb/HTML5に関する研究に従 事。2015年よりブロックチェーン技術を用いたスマートコントラクトに 関して研究開発を行っている。 大橋 盛徳(おおはし・しげのり) 日本電信電話株式会社NTTサービスエボリューション研究所 研究員。 2009年に入社後、高臨場感通信技術やマルチデバイス連携技術などの研 究開発に従事。現在は、スマートプロパティを軸に、ブロックチェーン技 術やその活用技術の研究開発を行っている。 中平 篤(なかだいら・あつし) 日本電信電話株式会社NTTサービスエボリューション研究所 主任研究 員。1994年に入社後、窒化物半導体、液晶表示装置、リアルタイムコミュ ニケーションシステムの研究開発に従事。現在、ブロックチェーン技術や その活用技術の研究開発を行っている。 博士(工学)。

(36)

 編集担当 丸山隆一(森北出版)  編集責任 藤原祐介(森北出版)  組  版 藤原印刷  印  刷   同    製  本   同   ブロックチェーン技術入門 c 岸上順一・藤村滋・渡邊大喜・大橋盛徳・中平篤 2017 2017年8月25日 第1版第1刷発行 【本書の無断転載を禁ず】 著  者 岸上順一・藤村滋・渡邊大喜・大橋盛徳・中平篤 発 行 者 森北博巳 発 行 所 森北出版株式会社 東京都千代田区富士見1-4-11(〒102-0071) 電話03-3265-8341/FAX 03-3264-8709 http://www.morikita.co.jp/ 日本書籍出版協会・自然科学書協会 会員 <(社)出版者著作権管理機構 委託出版物> 落丁・乱丁本はお取替えいたします.

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