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ブラジルにおける移転価格税制と二重課税の排除 ( 2 ・完)

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ブラジルにおける移転価格税制と 二重課税の排除 ( 2 ・完)

久保田   幸

はじめに

第 1 章 ブラジルの移転価格税制の特殊性  第 1 節 国家機関と法体系

   1  国家機関    2  租税法体系

 第 2 節 移転価格税制の概要    1  国際課税原則の転換    2  移転価格税制導入の背景    3  移転価格税制の仕組み    ( 1 )国外関連取引の意義    ( 2 )固定利益率の採用    ( 3 )最適方法ルールと検証単位    4  無形資産取引への対応  第 3 節 固定利益率の正当性と批判    1  RFB の見解

   2  肯定的な評価    3  否定的な評価  第 4 節 小 括

第 2 章 国内救済手続から見る独立企業原則  第 1 節 国内救済制度の仕組み

   1  行政救済の概要    2  司法救済の概要

(2)

 第 2 節 租税条約と国内法の関係    1  租税条約と国内法    2  租税条約の国内適用    3  租税条約 9 条 1 項の法的性格  第 3 節 CARF による決定の動向

   1  OECD 移転価格ガイドラインとの関係    2  租税条約 9 条との関係

   3  国内法にない手法の適用可能性    4  一体検証の可否

 第 4 節 小 括

第 3 章 相互協議による二重課税の排除  第 1 節 ブラジルの租税条約    1  租税条約ポリシー

   ( 1 )軍事独裁政権下の租税条約    ( 2 )米国との租税条約

   ( 3 )近年の租税条約       (以上、69巻 1 号)

   ( 4 )独伯租税条約の終了    ( 5 )若干の補足

   2  租税条約 9 条 2 項(対応的調整)

   3  租税条約25条(相互協議)

 第 2 節 相互協議の現状と行動14    1  相互協議の状況

   2  BEPS 行動14とモニタリング    ( 1 )BEPS 最終報告書    ( 2 )審査方法

 第 3 節 ブラジルと仲裁手続    1  ブラジルにおける障壁    2  カルボドクトリンの影響

   ( 1 )ラテンアメリカとカルボドクトリン    ( 2 )ブラジルとカルボドクトリン  第 4 節 小 括

 第 4 章 変わりつつあるブラジル

(3)

 ( 4 )独伯租税条約の終了

 ブラジルの租税条約史上、押さえておくべき重要な出来事がある。2005年 4 月 7 日、ドイツ政府はブラジル政府を公然と非難し、1975年に発効した独 伯租税条約を更新しない旨の通告を行った。独伯租税条約終了のイニシアチ ブは、ドイツ側によって執られたもので、ドイツ政府によると、両国間の租 税条約は、二国間の公平でバランスのとれた課税を実現するものではなく、

また、二重課税に対して法的保護を与えるものではないと判断したという(172)。 この結果、独伯租税条約は、2006年 1 月 1 日に失効した(173)

 ブラジルとドイツとの条約改定交渉が失敗に終わった原因の一つに、第 9 条の特殊関連企業条項の解釈に関連して、 ブラジルの移転価格税制が OECD によって合意された独立企業原則と大きく乖離していることをドイツ側が問 題視したことがある(174)。第 1 章第 2 節で確認したとおり、ブラジルは1996年に

 第 1 節 BEPS 行動 8 ~10への対応    1  ブラジルの基本方針    2  行動 8 ~10に対する立場  第 2 節 相互協議手続の前進    1  相互協議に係る統計の公表    2  相互協議手続の公表

   ( 1 )Instrução Normativa 1669/2016の概要    ( 2 )若干の考察

   3  2017年モデル租税条約における立場  第 3 節 新たな国際商事仲裁モデル    1  資本輸出国への転換    2  CFIA モデルの概要  第 4 節 OECD への加盟に向けて

   1  相互協議が独立企業原則への扉を開ける?

   2  最近の OECD の動向

結びに代えて       (以上、69巻 2 号)

(4)

移転価格税制を国内法に導入し、当該税制が条約上の特殊関連企業条項と乖 離していることは明らかであった。ドイツはブラジルに対して、OECD に よって認められた独立企業原則に従うよう長年にわたり主張してきたが、ブ ラジルは、条約の解釈についての疑義を解消することを拒否し続けたとい

(175)う

。独伯租税条約の終了は、ブラジルが完全に独立企業原則とは異なる途を 歩むことを意味するとの指摘もある(176)

 さらに、相互協議に関しては、当時においてもブラジルの相互協議が機能 していない旨の指摘は多数存在していたが、租税条約が失効することによ り、二重課税を排除する枠組みそのものがなくなることを懸念する声もあっ

(177)た

。枠組み自体が消滅したことで、両国の権限ある当局は、相互に直接的に やり取りをするルートを完全に失ったのである。

 ( 5 )若干の補足

  9 条 1 項の特殊関連企業条項に着目すると、年代・相手国を問わず、ブラ ジルが締結したすべての条約に当条項は含まれている。これは、OECD モ デル租税条約に則した条約を締結することによって、「外国投資を歓迎して いる」というサインを諸外国に発信する意図があったと解されている(178)。「特 殊関連企業条項を用いて課税を行う」、或いは、「課税権を独立企業原則に則 したものに制限する」という積極的な意図は有していなかったであろう。

 また、日伯租税条約締結時の日本側の認識としても、特殊関連企業条項に 関しては、「両国企業間の取引を独立企業原則の観点から修正して、課税所 得の計算をする特例を認め(179)」たとの淡白な説明振りである。条約締結時は、

独立企業原則の適用が暗黙の了解となっていたのかもしれない。さらに、日 本側の条約交渉担当者は次のとおり述べている。「本邦企業が条約違反の課 税を受けた場合、……両当局間の話合いによる解決のみちも開かれ、進出企 業の課税上の地位はより安定したものとされた(180)」として、相互協議条項につ いて肯定的かつ楽観的に捉えている。この点についても、ブラジル側は、先 述の特殊関連企業条項同様、積極的に二重課税を排除するという意図までは

(5)

有していなかったというのが実情ではなかろうか。

 以上を要すると、軍事政権下で締結された条約は、国の発展政策の一環と して外資導入を目的として締結されたものであり、その大枠の中での特殊関 連企業条項や相互協議条項は、OECD モデル租税条約に則したものである ということを国際的にアピールするための飾り程度にしか理解されていなか ったのだろう。

 ところで、ブラジルが締結した租税条約の数が圧倒的に少ないのはなぜで あろうか。他の BRICS 諸国が、およそ80本から100本の租税条約を締結し ているのに対して(181)、ブラジルが締結した租税条約で現在効力を有するものは 僅か32本にすぎない。この点については、 次の二つの観点から説明できよう。

 まず、 2016年の IFA 総会におけるブラジルのブランチレポーターMarcus LÍvio Gomes によると、BEPS が国際的な問題として取り上げられている が、ブラジルは、BEPS に対して国内法で対処できているため、BEPS プロ ジェクトが国内法に与える影響は限定的であるという(182)。具体的には、①ブラ ジルは包括的な外国子会社合算税制を有し、②移転価格税制に関しては独自 のモデルを進化させており、③国外へのロイヤルティ等の支払に対しては高 い税率で課税していること等を挙げている(183)。BEPS に対しては、国内法のみ で十分に対処できているという自負の表れといえよう。

 次に、「租税条約がなくても、ブラジルへの投資は十分に行われている」

という条約不要論があるのではなかろうか。この点については、第 3 章第 3 節で改めて取り上げることとするが、仮にこうした見解が正しいとした場合 であっても、ブラジルが現在の考え方を貫き通すことは自国にとって好まし い結果をもたらすとは考えにくい。租税条約の締結は、法的透明性や国際投 資関係への標準化をもたらす限りにおいて、一般的に望ましいことであり、

これは、インバウンドに限らずアウトバウンドでも同様である(184)。   2  租税条約 9 条 2 項(対応的調整条項)

  9 条 1 項については第 2 章第 2 節で確認したため、ここでは 9 条 2 項に焦

(6)

点を当てつつ、 9 条全体に対するブラジルの考え方の把握に努める。ブラ ジルが締結した租税条約は、年代・相手国に関わらず 9 条 2 項の対応的調 整(corresponding adjustments)が規定されていない。さらに、ブラジル 政府は、 9 条に 2 項を挿入しない権利を留保することを OECD モデル租税 条約コメンタリーにおいて表明している(185)。対応的調整とは、「二国間の利益 の配分を一貫したものとするため、当初の課税国の税務当局によって行われ た一次調整に対応して、他方の国の関連者の租税債務に対してその国の税務 当局により行われる調整(186)」をいい、この調整を行うことによって二重課税が 排除されることとなる。2011年国連モデル租税条約のコメンタリーによる と、対応的調整は途上国にとって very costly であり、躊躇する国もあると いう(187)。そうだとすると、ブラジルが 9 条 2 項に同意しない理由は、経済的負 担を避けるためであると考えられないこともない。しかし、理由はそれだけ であろうか。以下では、 9 条 2 項の歴史を辿りつつ、ブラジルが対応的調整 に消極的な理由を探ってみたい。

 まず、 9 条 1 項はモデル租税条約の他の条項と異なり、独立企業原則の適 用から生じる二重課税を排除することまでは規定していないことを押さえて おく必要があろう(188)。Wittendorff によると、 9 条 1 項の目的は、独立企業原 則に則した国内法の下で国家による所得の調整権を制限することで、多かれ 少なかれ国際的な経済的二重課税を防ごうとすることにあるという(189)。そも そも、OECD モデル租税条約は、一義的には同一の者の手にある同じ所得 の二重課税(法的二重課税)を排除するものである(190)。しかし、合法的に引き 起こされた経済的二重課税についても、これを排除する必要があるとの認 識が広まり、OECD の中で議論が展開された。1974年に財政委員会(Fiscal Committee)が「対応的調整」を提案し(191)、1977年の OECD モデル租税条約 では 9 条 2 項として新たに対応的調整が盛り込まれた(192)。しかし、1977年の OECD モデル租税条約 9 条 2 項には、当時の OECD 加盟国24か国のうち日 本を含む 7 か国が留保を付したという(193)。その理由は、仮に、対応的調整によ

(7)

っていかなる二重課税も排除されるとする場合、多国籍企業による恣意的な 所得移転を助長するのではないか、という懸念があったためである(194)。1984年 に OECD は、1979年の OECD 移転価格ガイドライン(OECD 報告書)の付 録(supplement)として移転価格に関する三つのレポートを公表した(195)。そ のうちの一つが「移転価格、対応的調整及び相互協議(196)」であり、租税委員会 は、OECD 加盟国は常に対応的調整に応じる義務を負うとはせず、納税者 に租税回避の意図が認められる場合は、当該条項の適用を制限するとの立場 を採った(197)

 1992年の OECD モデル租税条約 9 条の改定では、1979年の OECD 移転価 格ガイドラインが 9 条に規定する独立企業原則の解釈指針であることが明ら かにされた(198)。これによって、 9 条と移転価格ガイドラインが直接的にリンク されたのである(199)。ここで特筆すべきは、多数の国が 9 条 1 項に関して、当条 項で課された条件と異なる条件の下で、国内法に基づく所得の調整を妨げる ものではないと解釈し、また、同条項について、独立企業原則を条約レベル にまで引き上げる役割を果たすと解釈したことである(200)。そして、国内法の適 用によって、 9 条 1 項に適合しない所得の調整が生じている場合には、 9 条 2 項の対応的調整によって、或いは、相互協議に基づいて、こうした状況に 対処することが可能であることが明確にされた(201)。この時点で、日本、ドイ ツ、イタリアは 9 条 2 項に対する留保を撤回した(202)。フランスは、対応的調整 は、それが正当化されるときに限定して行われるべきとして、 9 条 2 項に留 保を付した(203)。その後の紆余曲折を経て(204)、今日に至っては、ブラジル、タイ及 びベトナムのみが留保を付したままとなっている。

 こうした歴史からも分かるとおり、 9 条 2 項は、相手国による移転価格調 整のすべてに対して、自動的に対応的調整を行うことは求めるものではな い。現行の OECD モデル租税条約コメンタリーも、対応的調整に応じる国 は、国外関連取引について独立企業原則を正確に反映すると考える水準まで 調整に応じれば足りるとしている(205)。そして、適切な調整額とその性質に関し

(8)

て当事国間で争いがある場合には、25条に規定する相互協議が実施されるべ きであるとする(206)。すなわち、相互協議によって、行うべき対応的調整が十分 な根拠に基づくものであるか否かを評価し、その額を決定することになる(207)。 移転価格課税によって、関連企業の所得が調整された場合には、納税者の申 立に基づき、権限ある当局は、相互協議を可能な限り速やかに遂行すること が重要であるとする(208)

 このように見てくると、ブラジルが 9 条 2 項を挿入しない権利を留保して いる理由は、かつて日本が 9 条 2 項に留保を付していた理由と根幹は同じか もしれない。つまり、多国籍企業による恣意的な所得移転を助長することに なりかねないとの懸念である。ただし、ブラジルの場合、課税権の配分規範 としての 9 条の役割を完全に見落として、単に租税回避防止のための条項と 理解していることも大きいだろう(209)。第 2 章第 2 節でも触れたが、 9 条の「主 要な」目的は租税回避を防ぐことにあるという学説もあるが、こうした見解 は、1933年及び1935年モデルにおいて支持されていたものである(210)。George Kofler もまた、 9 条 1 項が今日もなお、このような見解を支持しているの かどうかは疑わしいという(211)。というのも、条約締結国は、仮に 9 条が存在し ていなかったとしても、自由に国内法を適用することによって内国法人の課 税所得を増加させることができるためである(212)。租税回避防止目的と理解すべ きは、あくまで国内法における移転価格税制であって、条約上の目的は、二 重課税の排除を目的としたものと解すべきであろう(213)。その一方で、ブラジル がこのような解釈を採ってこなかったことは事実である。その背景には、第 1 章第 2 節で確認したとおり、ブラジルの移転価格税制は「恣意的な利益配 分規制」の延長線上にあり、国内法的側面が前面に出すぎた結果、国内法が 条約をオーバーライドする解釈となっているとも考えられる。 9 条の特殊関 連企業条項に関しては、OECD モデル条約と国連モデル条約との間に乖離 はない。国連モデル条約のコメンタリーは、移転価格ガイドラインに示され た独立企業原則に従うことを受け入れている(214)。独立企業原則を巡って孤立す

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るブラジルは、今後、どのような方向に進むのであろうか。この点について は、第 4 章で論じることとしたい。

 なお、Wittendorff は、 9 条の目的について、経済的二重課税を排除する こと以外に次のようなものがあると指摘する(215)。条約締結国間の課税権に関し てバランスのとれた配分を保証すること、つまり、国家間における課税権の 公平な分配を実現することである。近年のブラジルの経済成長は著しい。ブ ラジルは、自国の利益のためにも、こうした側面を見落としてはならないだ ろう。

  3  租税条約25条(相互協議条項)

 2017年11月21日に OECD 理事会は、OECD モデル租税条約及び関連する コメンタリーの改訂版を承認した。今般の改訂では、25条に関するブラジル の立場に変化がうかがえる。ここでは、従来からのブラジルの立場(改定前 の立場)を確認し、改定後の立場については、第 4 章第 2 節で見ることとす る。

 ブラジルが締結した租税条約25条の相互協議条項は、1979年までに締結 した条約は1963年の OECD モデル条約のドラフトの文言を、1980年以降に 署名された条約は1977年の OECD モデル租税条約の文言をベースとしてい

(216)る

。したがって、OECD モデル租税条約の25条 1 項及び 2 項に規定すると おり、ブラジルの居住者は、条約の規定に適合しない課税については、ブラ ジルの権限ある当局に申立てることができ、当該申立に正当性が認められる のであれば、権限ある当局は、事案を解決するよう努める義務を負う。25条 3 項は、条約の規定に疑義がある場合に、権限ある当局が話し合うことを認

めている(217)。しかし、25条の細部に至っては、ブラジルは次のとおり独自の立

場を表明してきた。

 まず、ブラジルは「 1 項末文に関しその立場を留保する(218)」という。 1 項末 文は、「当該申立は、この条約の規定に適合しない課税に係る措置の最初の 通知の日から 3 年以内にしなければならない」という申立期限を規定するも

(10)

のである。ブラジルが実際に締結した租税条約を見ると、納税者による事案 の申立期限を規定した条約は殆どない(219)

 続いてブラジルは「 2 項第二文についてその立場を留保する。……合意に 基づく救済措置及び還付の実施は、それぞれの国内法令に規定する期間制限 に関係づけられるべきと考える(220)」としている。 2 項第二文は、「成立したす べての合意は、両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず、実施 されなければならない」という国内法の期間制限に関係なく合意を実施する 義務を規定したものである。ブラジルが締結した条約を見ると、殆ど全ての 条約において、 2 項第二文が欠落しており(221)、国内の期間制限(時効制限)に 関わらず合意を実施する義務を回避しようとするスタンスがうかがえる(222)。  さらに、ブラジルは、「それぞれの法令の下でこの条約に定めのない場合 における二重課税を排除する権限を有しないことから、 3 項第二文に関して 留保する(223)」という。 3 項第二文は、「両締約国の権限ある当局は、この条約 に定めのない場合における二重課税を排除するため、相互に協議することが できる」という、立法的解決協議条項(legislative provision)である。ブ ラジルが当該条項を留保する背景には、ブラジル憲法は、このような合意を 締結する場合、議会による事前の調査を要請していることがある(224)。実際の条 約を見ると、古くに締結された条約を除くと 3 項二文を取り入れていない(225)。  また、ブラジルは、 9 条 2 項がない場合には、移転価格課税に基づく調整 に起因する経済的二重課税は25条に定める相互協議の対象外であるとの見解 を表明してきた(226)。勿論、OECD モデル租税条約コメンタリーは、当該条項 が存在しない場合であっても、 9 条 1 項を条約に規定したという事実が経済 的二重課税を条約の対象とすることを示唆しているとして、 9 条 1 項と25条 の存在によって対応的調整が可能であるという立場を採っている(227)

 以上を踏まえて、 9 条と25条に関するブラジルのポジションを併せ読む と、① 9 条 2 項を規定することに留保した上で、② 9 条 2 項が存在しない場 合には相互協議の対象とならない点を留保するという二段階の構造を採るこ

(11)

とによって、移転価格問題により生じる経済的二重課税を相互協議で解決す ることを確実に回避しようとしていることが分かる。結局のところ、こうし たブラジルのポジションも、特殊関連企業条項の最も重要な役割は、二重課 税の排除ではなく租税回避を防止すること、すなわち国外への所得移転を防 止することにあるというブラジル国内法の考え方が表象されているといって よいだろう(228)

 第 2 節 相互協議の現状と行動14   1  相互協議の状況

 2016年 IFA 総会のブランチレポーターによると、ブラジルは相互協議の 経験がないという(229)。1970年代に、ブラジルに拠点を置く銀行のフランス支店 に係る事例について、納税者は相互協議を申立てたが、合意は成立すること なく、各国がそれぞれの国の国内法に基づき解決することになったという。

興味深いのは、同レポーターによる報告において、国内法上、相互協議の実 施を法的に制限するものは何もない旨が強調されている点である(230)。つまり、

租税条約上、相互協議条項は存在するが、相互協議を支える国内法が存在し ないのである(231)。ブラジル当局が相互協議に積極的でない最大の原因は、ここ にあるのだろう。

 第 1 章第 1 節で言及したブラジルにおける合法性の原則(principio da legalidade)の本質に立ち返ると、当該原則の基本は、「行政府は法律によ り明示的に定められたとおりに行動しなければならない」(37条)というブ ラジル憲法の要請に起因する。換言すると、行政府が特定の行為を行うに当 たっては、その行為を禁止する法律がないというだけでは十分でなく、その 行為を許可(authorizing)する明示的な法律を必要とするのである(232)。こう した国内法のサポートがない状況で、行政府が条約相手国と自由に相互協議 を行うことができないのは、至極当然のことであろう。そうだとしたら、国 内法を整備すれば足りるようにも思われる。詳細は第 4 章第 1 節で述べる

(12)

が、国際租税に関するポリシーは、内的要因と外的要因によって決定される という(233)。とりわけ後者の役割を担うと期待できるのが、次にみる BEPS プ ロジェクト行動14であろう。

  2  BEPS 行動14とモニタリング  ( 1 )BEPS 最終報告書

 2015年10月に公表された行動14に関する BEPS 最終報告書(234)では、相互協 議を効果的に実施するために、各国が最低限実施しなければならないミニ マムスタンダードが勧告された(図表 5 左欄参照)。ミニマムスタンダード は、次の三つの柱から構成されている。

 一つ目は、相互協議に係る租税条約上の義務の誠実な履行と相互協議事案 の迅速な解決に関する措置である(235)。そこでは、25条 1 項から 3 項をすべての 条約に規定して、移転価格に関する相互協議の機会を提供するとともに、そ の合意内容を実施すること(Minimum Standard(以下「MS」と略す。)

1.1)、平均24か月以内で相互協議事案の解決を図ることを目標とすること

(MS1.3)、相互協議に関する統計を適時報告すること(MS1.5)、ミニマム スタンダードの実施状況についての審査を受けること(MS1.6)等が掲げら れている。二つ目は、租税条約に関連する紛争の防止及び迅速な解決を促進 するための行政手続の実施に係る措置である(236)。そこでは、相互協議を利用 するための明確なガイダンスを公表すること(MS2.1)、相互協議関連の業 務に十分なリソースを確保すること(MS2.5)等が挙げられている。三つ目 は、相互協議の要件を満たした納税者に申立の機会を保障することである(237)。 そこでは、相互協議の申立をいずれの締約国に対しても行えるようにするこ と(MS3.1)、相互協議の申立に必要な情報及び文書をガイダンスの中で特 定すること(MS3.2)、租税条約の中に「相互協議で成立した合意はいかな る期間制限にもかかわらず実施する」旨の条項を入れること(MS3.3)等が 掲げられている。

 なお、ミニマムスタンダードほどの拘束力は有しないが、各国が取組むべ

(13)

(図表 5 )行動14ミニマムスタンダードとブラジルの現状

MS 最低限実施すべき措置(ミニマムスタンダード) ブラジルの現状 1 .相互協議手続に関する条約上の義務の誠実な履行と、相互協議事案の迅速な解決のための措置

1.1 租税条約に第25条 1 ~ 3 (相互協議手続)を規定する。相互協議の機会を保証し、合意内容を実施する。

多くの条約において、第25条 1 ~ 3 (相互協議手続)を 規定しているが、申立期限、実施する義務、立法的解釈 協議を欠いた不完全な条項となっている。ただし、2017 OECD モデル租税条約において、留保を撤回している。

1.2 条約の濫用の疑いがある場合にも相互協議の機会を認める。 認めることを表明している。(See, MAP profile, No.7)

1.3 相互協議事案を平均24ヶ月以内に解決しようとすることを目標とする。 検討中とのこと。(See, MAP profile)

1.4 FTA MAP Forum(FMF)のメンバーになる。 FMF のメンバーになっている。

1.5 FMF と共同で策定する報告書の枠組みに従って、統計を適時に報告する。 2017年11月に2016年度分について公表された。

1.6 ミニマムスタンダードの実施状況について、 審査を受ける。 第 8 バッチ(2018年12月から)で審査を受ける。

1.7 仲裁制度に対する立場を表明する。 2017年 OECD モデル租税条約コメンタリーで仲裁制度 を留保する立場を表明した。

2 .租税条約に関連する紛争の予防及び迅速な解決を促進するための行政手続の実施のための措置 2.1 相互協議を利用するための規制、ガイドライン及び手続を公表する。 2016年11月に相互協議手続のガイダンスを公表した。

2.2 自国の相互協議の概況を共通のプラットフォームに沿って公表する。 2016年 9 月 1 日現在の状況を、 OECD のプラットフォー ム(MAP profile)に沿って公表している。

2.3 相互協議担当職員の独立性の確保のため、内部ガイダンス等を整備する。 不明

2.4 権限のある当局の機能及び職員の業績指標に関する手続を整備する。 不明 2.5 相互協議関連の業務に十分なリソースを確保する。 不明

2.6 当局と納税者の間で和解した場合も相互協議の機会を制限しない。 和解の制度はない(See, MAP profile, No.8)

2.7 一定の場合に事前確認合意を過年度へ遡及適用することを認める。 事前確認制度はない。

3 .納税者に対する相互協議の機会の保証のための措置 3.1 ①相互協議の申立てをいずれの締約国に対しても行える

ように条約を改正する。又は、②相互協議の申立ての正

当性について、両締約国間で通知又は協議を実施する。 立場を明確にしていない。

3.2 相互協議の申立ての際に納税者が提出すべき情報及び文書を特定する。 2016年11月に公表した相互協議手続のガイダンスの中で 特定している。

3.3 相互協議で成立した合意はいかなる期間制限にかかわらず実施する。

2017年 OECD モデル租税条約25条 2 項に対する留保を 撤回したが、国内法の期間制度の問題は検討中とのこと

(See, MAP profile, No.30)。

(出典)左欄は、税制調査会第 6 回 国際課税ディスカッショングループ(2015年10月23日)(財務省)参照。右欄は、

OECD がブラジル当局からの報告に基づき公表している MAP profil, avairable at ; http://www.oecd.org/tax/dispute/

country-map-profiles.htm(last visited May 5, 2018)等を参照の上、筆者作成。

きとするベストプラクティスも策定されている。例えば、租税条約の中に対 応的調整に関する条項を入れること(238)、二国間事前確認制度を実施すること(239)は その一例である。

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 ここで強調すべきは、これらの措置についての効果的な実施を担保するた め、各国におけるミニマムスタンダードの実施状況については、モニタリン グされることである(240)。そこで、ミニマムスタンダードの項目にブラジルの相 互協議手続の現状を照らし合わせると、図表 5 右欄のとおりとなる。着目す べき点としては、25条 1 項から 3 項までの実施、相互協議に関する統計の報 告、審査を受けること、仲裁に対するポジションの表明、相互協議手続ガイ ダンスの公表、相互協議の概況の公表、国内法の期間制限との関係が挙げら れよう(図表 5 網掛け部分)。これらについては、本章第 3 節及び第 4 章の 中で、適宜言及することとしたい。

 ところで、こうした項目に関する各国の実施状況についてモニタリングが 行われるとされているが、具体的にはどのような方法で、いつから行われる のだろうか。以下では、この点について確認しておく。

 ( 2 )審査方法

 上記最終報告書が公表されてから 1 年後の2016年10月、最終報告書におい てミニマムスタンダードとされた事項に関する審査方法をとりまとめた報告 書が公表された(241)。そこでは、行動14のミニマムスタンダードの遵守状況を審 査するための21の付託事項、ピアレビューやモニタリングの方法のほか、各 国が相互協議の統計を報告するに当たって使用するテンプレートが示されて いる。モニタリングは、書面により次の二段階で実施される。

 第 1 段階においては、各国における執行状況等のレビューが行われる。ま ず、①被審査国(242)、②被審査国の条約相手国(peer(243))、③納税者(244)のそれぞれが 質問票に回答する方法で OECD 事務局に評価事項をインプットする。その 後、①から③までのインプットや統計資料を基に、改善点についての勧告を 含む評価書案が作成される(245)。当該評価書案は、被審査国との調整を経て、租 税委員会による承認を受けた後、評価結果のレポートとして公表される(246)。第 2 段階では、第 1 段階で特定された改善点への各国の取組みに焦点を当てた フォローアップレビューが行われ、第 1 段階同様、評価結果はレポートとし

(15)

て公表される(247)

 第 1 段階の審査スケジュールは、図表 6 のとおりであり、第 7 バッチに属 するブラジルは2018年12月から第 1 段階に係る審査が開始される予定であ る。行動14で勧告された事項を各国に確実に実施させるためには、モニタリ ングに対する期待は大きい。冒頭に言及したとおり、OECD 加盟国への第 一歩としてブラジルは本年12月に控えたモニタリングに向けて、的確な準備 を行うことが期待される。

 第 3 節 ブラジルと仲裁手続

 仲裁手続の必要性については、すでに広く認識されているところである。

相互協議手続においては、権限ある当局には努力義務しか課されていないと ころ、長い時間と多額の費用、労力を費やしたにもかかわらず、必ずしも合 意に至るとは限らな(248)(249)い。二重課税を完全に排除するためのみならず、相互協 議の処理促進のためにも、仲裁手続の必要性はかねてから論じられている。

今日においては、むしろ後者の役割への期待の方が大きいといっても過言で はない。今般の BEPS プロジェクトにより、予期せぬ二重課税事案の増加

(図表 6 )ステージ 1 ピアレビュー審査スケジュール

第 1 バッチ 2016/12 第 2 バッチ

2017/ 4 第 3 バッチ 2017/ 8 第 4 バッチ

2017/12 第 5 バッチ 2018/ 4 第 6 バッチ

2018/ 8 第 7 バッチ 2018/12 第 8 バッチ

2019/ 4 第 9 バッチ 2019/ 8 第10バッチ

2019/12 ベルギー オーストリア チェコ オーストラリア エストニア アルゼンチン ブラジル ブルネイ アンドラ バルバドス

カナダ フランス デンマーク アイルランド ギリシャ チリ ブルガリア キュラソー バミューダ カザフスタン オランダ ドイツ フィンランド イスラエル ハンガリー コロンビア 中国 ガーンジー 英領バージン諸島     オマーン

スイス イタリア 韓国 日本 アイスランド クロアチア 香港 マン島 ケイマン諸島 カタール 英国 リヒテンシュタイン ノルウェー マルタ ルーマニア インド インドネシア ジャージー マカオ セントクリストファーネイビス 米国 ルクセンブルク ポーランド メキシコ スロバキア ラトビア ニューギニアパプア    モナコ タークス・カイコス島      タイ

スウェーデン シンガポール ニュージーランド スロベニア リトアニア ロシア サンマリノ スペイン ポルトガル トルコ 南アフリカ サウジアラビア

(出典)OECD, available at; http://www.oecd.org/tax/beps/beps-action-14-peer-review-assessment-schedule.pdf (last visited May 3, 2018)

(16)

が懸念されているところ、仲裁手続への期待は今後、高まる一方であろう(250)。 そこで、 ここではブラジルにおける仲裁手続について検討することとしたい。

  1  ブラジルにおける障壁

 ブラジルが締結した租税条約は、すべて仲裁条項(25条 5 項)を採用して いない。また、ブラジルは、25条 5 項の仲裁条項を租税条約に含まない権利 を留保する旨を公式に表明している(251)。L. E. Schoueri は、ブラジルが仲裁に 抵抗する理由について以下のとおり説明する(252)

 第一に、ブラジルにおいては、国際的仲裁にコミットすることは、主権

(sovereignty)の侵害になりかねないという(253)。課税問題という通常の訴え

(usual claim)は国内問題であるにもかかわらず、国際的仲裁はそれを公序 の問題(matter of public order)として性格づけることになる(254)。国家主権 からすると国際的仲裁は到底、受け入れられるものではない。

 こうした説明は、ブラジル政府によって公式に表明されたものではない が、ブラジルが署名した二国間投資協定の批准状況を見ると一目瞭然であろ う。ブラジルは1990年代に14本の投資協定に署名したが、今日に至るまで一 つも批准していない(255)。つまり、ブラジル政府は1990年代、外資導入のために 投資協定締結に向けた交渉を進めたが、連邦議会はこれを承認することはな かった。議会が反対した理由は、投資協定に「投資家と国との間の紛争解決 手続」(以下「ISDS」という。)が含まれていたことにあった(256)。更にブラジ ルは、今日では162か国が批准している ICSID 協定(257)だけでなく、投資家の保 護を目的とする Mescosur 協定への批准も拒んでいる。

 第二に、ブラジルの権限ある当局が、仲裁によってブラジルにおける課税 負担を軽減するとなると、それは法的概念に反する可能性があるという(258)。こ れは租税法典171条にも関連し、一旦、更正処分が行われたら、それを裁判 所以外で解決するためには、事案ごとに個別の法制度を確立する必要があ

(259)る

。確かに、相互協議で解決することですら抵抗があるにもかかわらず、第 三者である仲裁委員会に解決を付託するとなると反発を招くことは十分に想

(17)

定できる。

 しかし、 L. E. Schoueri 自身、税務上の仲裁は何ら“loss of sovereignty”

を含意するものではないと認識し始めているという。国際的二重課税は、租 税条約を通して締約国自身によって制限を加えられる性質のものであり、ま た、権限ある当局間で合意に至ることは、租税条約そのものによってオーソ ライズされたことにすぎないためである(260)。こうした議論は、欧州諸国を中心 に19世紀終わりから続けられてきたものであり、多くの先行研究にも支えら

れている(261)。筆者もまた、仲裁手続が国家主権等に抵触するものかについて

は、インドを題材として過去に論じてきたところである(262)。そこで本稿では、

これまで租税に係る国際的仲裁の文脈において、殆ど論じられてこなかった ラテンアメリカ特有のドクトリンに着目し、従来とは異なる観点からブラジ ルにおける国際的仲裁の中長期展望についての考察を試みる。

  2  カルボドクトリンの影響

 ( 1 )ラテンアメリカとカルボドクトリン

 ラテンアメリカ諸国は、仲裁はもとより相互協議でさえ抵抗があると主張 する。というのも、これらの国は、自国の裁判所とは異なる第三者が税法を 解釈することになると理解しているためである(263)。この背景には、古くからラ テンアメリカ諸国は、カルボドクトリン(Calvo Doctrine(264))の影響を受けて きたことがあろう。

 カルボドクトリンについて、最も権威ある研究者であろう Donald Shea の1955年の著書によると、カルボドクトリンの本質は、「独立した国家に は、他国からの干渉を受けない自由があること」と「外国人には、自国民と 異なる権利や特権は付与されていないこと」との二つにあるという(265)。そし て、Shea は、カルボドクトリンによると「外国人を自国民よりも有利に取 扱わないことが、政府の責任である(266)」と結論付ける。カルボドクトリンは、

19世紀から20世紀初めに、ラテンアメリカ諸国から絶大な支持を得ることと なった。当時のラテンアメリカ諸国は、外国人の本国からの強力な外交的保

(18)

護の濫用や軍事的介入、資本輸出国による軍事的占領に苦慮しており、そう した西欧諸国から自国を防御する手段を必要としていたのである(267)。そして、

ラテンアメリカ諸国は、西欧諸国からの圧力を拒絶する「ロジカルで、道徳 的で、法的な強い対抗策(268)」として、熱狂的にカルボドクトリンを支持した。

当時のラテンアメリカ諸国の憲法、国内法、外国投資家との契約を見ると、

カルボドクトリンを表象したカルボ条項(Calvo Clause)を広く確認するこ とができる(269)。その後、カルボ条項は、国際的な条約にも取り入れられるよ うになり、とりわけ国際的な投資紛争においては、「司法権は投資受入国に ある」という理解が定着した(270)。つまり、外国人は自国民よりも有利に扱われ るべきではないという考え方が基礎にあり、自国民が自国で受けられる救済

(remedy)以上の救済を受ける権利を外国人に与えることは認められないと された(271)

 しかしながら、UNCTAD によると、1990年代の終わりまでにラテンアメ リカ諸国が締結した投資協定は、300本に到達したが、そのうち93%は1990 年代に締結されたものであるという(272)。勿論、投資協定には、投資家と国家の 間に紛争が生じた場合には、投資家が国際的仲裁機関に訴えることを認める 仲裁条項が必然的に含まれている。それでは、カルボドクトリンの支持者で あったラテンアメリカ諸国が、急遽、カルボドクトリンを捨てたのはなぜだ ろうか。

 ラテンアメリカ諸国も、端からカルボドクトリンを放棄したわけではな い。殊に ICSID 協定に関しては、国際的仲裁を推進するものであり、排他 的な国内訴訟及び国内救済を唱えるカルボドクトリンに反するとして、ラテ ンアメリカ諸国は1964年、同協定にボイコットした(273)。その後1980年までは、

僅か一部の小国が加盟したに過ぎなかったが(274)、1990年代には、ブラジルとメ キシコを除くすべての国が ICSID 協定に署名し、批准したのである(275)。この 背景にあったのが、ラテンアメリカの経済危機である。1982年のメキシコの 金融危機に端を発した債務危機は、瞬く間にラテンアメリカ諸国を深刻な経

(19)

済危機に陥らせ、外資に頼らざるを得ない状況に追い込んだ(276)。そして、1990 年代の国際的規制緩和の波の中で、魅力的な投資環境を構築するために、言 換するならば、投資環境の整備と引き換えにカルボドクトリンを自ら放棄し たといってよいだろう。

 ( 2 )ブラジルとカルボドクトリン

 カルボドクトリンは、欧米諸国から受け入れられず、カルボ条項に関して は、学説上、国家に専属する外交保護権を私人が放棄し得ないとして完全に 無効と解する立場が有力となった(277)。今日においても「一般的に、同条項(筆 者注:カルボ条項)は国内的救済の原則を確認しただけであって、それ以上 に外交保護権の放棄を意味するのであれば、その限りで国際法上無効と解さ れている(278)」。

 このように、今日ではカルボドクトリンは、国際的にも支持されていな い。それにもかかわらず、なぜブラジルだけが今もなお、ICSID 協定に参 加せず、二国間協定も締結しないという強硬な姿勢をとり続けているのであ ろうか。ブラジルに限らず、ラテンアメリカ諸国の憲法には、カルボ条項が 含まれており(279)、各国が置かれた条件に大差はないはずである。とりわけ、メ キシコ憲法27条は、カルボ条項を明確に支持していると解されており(280)、ブラ ジルと並んで ICSID 協定への参加を拒み続けてきた。ところが、メキシコ は2018年 1 月11日、ICSID 協定に署名し、同年 8 月26日に発効した。

 したがって、比較法的観点からすると、憲法違反となる可能性があること だけを根拠にブラジルの対応を説明するのは、限界があるだろう。これは、

投資協定の仲裁条項だけでなく、租税条約上の仲裁手続にも妥当する問題で ある。身近なところに目を向けると、2016年12月28日に発効した、日本とチ リの租税条約には仲裁条項が規定されている(25条 5 項(281))。

 興味深いことに、ブラジルの投資協定や租税条約に関する文献の中には、

次のような主張をする論者は少なくない。「投資協定が外資導入にプラスの 影響を与えることは、疑う余地がないが、興味深いことにブラジルは投資協

(20)

定が存在しないにもかかわらず、ブラジルへの外国直接投資は増加傾向にあ

(282)る

」。或いは、「ブラジルは米国と租税条約を締結していないにもかかわら ず、米国はブラジルにとっての主要な貿易相手国であり、かつ、ブラジルへ の最大の直接投資国の一つである。別の顕著な事例はドイツである。ブラジ ルとドイツの租税条約は、10年以上存在しないが、……ドイツからの投資額 が減少しているという証拠はない(283)」。

 これらの見解の内容はいずれも事実であろうが、条約がある場合とない場 合について、等しく同じ条件で比較した結果ではないことには、留意すべき である。租税条約が投資に与える影響についての実証研究は多数存在する が、その結果は様々である。租税条約と投資の間に因果関係があるとするも のもあれば、ないとするものもある(284)。例えば、移転価格税制の適用によりも たらされる二重課税が相互協議によって排除されることが投資に与える影響 に焦点を当てて検証したものがある(285)。そこでは、米国企業のデータを用い て、相互協議によって二重課税が排除される場合には、国外関連者への売上 が増加するだけでなく、外国投資についてもポジティブな影響を与えること が確認されている。興味深い研究ではあるが、批判的に捉えるならば、当該 実証研究は、米国経済分析局から入手可能な米国企業のデータのみを抽出し たものであり、また、検証対象年度もかなり古いため、絶対的信頼を置くの は難しいかもしれない。結局のところ、多数の実証研究を慎重に検証した上 でなければ、投資協定や租税条約が外資導入にポジティブな影響を与えてい るのか否か、その答えを導くことはできないであろう。この問題について は、今後の研究課題と位置付けたい。一方、最近のブラジルは外資導入とは 異なる目的で条約を必要としているようにも思われる。そして新たな方法を 模索しているようである。この点については、第 4 章第 3 節で述べることと したい。

(21)

 第 4 節 小 括

 長期にわたる軍事独裁政権下に置かれたブラジルは、その間、外資導入を 目的として先進国との租税条約締結に注力した。しかし、現在ブラジルが締 結している条約の数は、他国と比較して圧倒的に少なく、近年ではラテンア メリカ諸国との条約締結にとどまっている。ブラジルが締結したいずれの条 約にも 9 条 1 項が含まれているが、ドイツとの条約交渉の失敗が示している とおり、ブラジルは独立企業原則とは異なる解釈をとっており、そして、同 条項を専ら租税回避防止規定と理解している。さらに、すべての条約におい て、対応的調整を規定する 9 条 2 項が含まれておらず、実質的に二重課税が 排除されない仕組みとなっている。25条の相互協議条項に関しては、国内法 の期間制限にかかわらず合意内容を実施する義務から免れる立場を表明する など、相互協議に消極的な姿勢がうかがえる。また、他のラテンアメリカ諸 国と異なり、カルボドクトリンを維持し続け、投資協定の文脈においてすら 仲裁に反対の立場を堅持している。

 しかし、近年、ブラジルを取り巻く環境は変わりつつある。OECD によ る相互協議手続に関する審査を本年末に控えており、また、ブラジル自身が 資本輸出国としての顔を見せつつある。こうした動向を踏まえ、次章では、

最近のブラジルにおける移転価格税制や相互協議手続の状況をみていくこと とする。

第 4 章 変わりつつあるブラジル

 第 1 節 BEPS 行動 8 ~10への対応   1  ブラジルの基本方針

 先述のとおり、OECD は2015年10月に BEPS 最終報告書を公表した。現 在は、その内容に従って、各国政府が国内での関連法制の整備や租税条約の 改定作業を進める段階にあり、日本においてもこうした作業が進められてい

(286)る

(22)

 ところで、一般的に途上国の税務当局は、① BEPS プロジェクト全体像 を分析することなく、自国にとって最も適当と考える項目のみ導入するか、

或いは、② BEPS プロジェクトの重要性や内容に納得しないまま自動的に これらの勧告に従うか、いずれかの途を歩むことになるという(287)。そうだとし たら、ブラジルは、上記①と②のいずれに該当するのであろうか。

 図表 7 は、BEPS プロジェクトに対するブラジルの対応をまとめたもの である。有害税制への対抗措置(行動 5 )として軽課税国のリストを更新 し(NI 1658/16)、条約の濫用防止措置(行動 6 )においては最終受益者の 概念を改定した(NI 1634/16)。義務的開示制度(行動12)は、BEPS プロ ジェクト全体の中でベストプラクティスという位置付けであるにもかかわら ず、すでにブラジルは、自国の税収減をもたらす取引についての報告義務を 納税者に課している(Provisional Measure, 685/15)。移転価格に関する文 書化(行動13)に関しては、最終報告書の勧告に従った制度を導入している

(図表 7 )ブラジルの BEPS プロジェクトへの対応

行動計画 ブラジル政府の対応

5 有害税制への対抗 Normative Instruction 1658/16によって低課税国のリストを変更した。それに加え、“substantive economic activity”の定義を導入した。

6 条約の濫用防止 Normative Instruction 1634/16は最終的受益者の概念について、国際的 租税原則上、広く使用されているものに更新した。

12 義務的開示制度

Provisional Measure 685/15を公表し、タックスプランニング開示制度を 導入し、租税の軽減、繰延を伴う取引については、納税者が自ら開示する 義務を定めた。ただし、まだ法律(Law)になっていないため、近々、い くつかの概念が改定される可能性がある。

13 移転価格文書化

Normative Instruction 1669/16は CbC レポートについて規定し、2016年 度 (暦年ベース) から強制的に適用されることとなった。CbC レポートに 関しては、標準化されたテンプレートや閾値について BEPS Action13の 勧告に従ったものである。2016年度に関しては、2017年 7 月31日までに提 出されなければならない。

14 紛争解決メカニズムの効率化 Normative Instruction 1669/16は、二重課税排除を目的とする友好的手 続を導入した。

15 多国間協定 BEPS 防止措置実施条約のワーディングに基づき、Decree 8842/16を公表 した。ただし、ブラジル政府は署名していない(2018年 3 月22日現在)。

(出典)主に次の文献を基にまとめた。Eliete Ribeiro & Henrique de Conti “Changes in the Transfer Pricing Landscape and Impact of the BEPS Project” International Transfer Pricing Journal, Vol.24, No. 3(2017).

(23)

(NI 1669/16)。

 他方で、ブラジル政府は、効率的な外国子会社合算税制の設計(行動 3 ) や移転価格税制(行動 8 ~10)に関しては、ブラジルの制度は最終報告書に よる勧告から乖離しているにもかかわらず、国内法制の整備を行う兆候を示 していない。この背景には、「現行制度で BEPS に十分に対応できていると

いう(288)」との理解があり、ユニラテラルな対応を選好しているように見受けら

れる。

 こうしたブラジル政府の対応から読み取れるのは、自国の制度に本質的な 変更を加えることなく BEPS への対処に有効と認められるアプローチにつ いては、BEPS プロジェクトのモメンタムを失することなく積極的な対応を 行う一方で、自国の課税手法の本質に変更を伴う勧告に対しては、敢えて目 を向けないというスタンスである。

 結局のところ、BEPS プロジェクトの最終報告書の中から、ユニラテラル に租税回避(歳入の確保)に対応するに当たって、自国に都合の良い勧告等 だけを採用するチェリーピッキングが行われている可能性も否めない(289)。そ の背景には、ブラジルは、BEPS プロジェクトを単なる課税強化(歳入の増 加)のための手段として位置付け、投資環境の整備、雇用の創出、そして経 済成長といった側面を顧みていないことがあるとの指摘もある(290)。ブラジル は、表面的には BEPS プロジェクトに積極的に参加する姿勢を見せつつも、

ブラジルの国際租税システムは、すでに BEPS に対処できるよう一国内で 完結しているという姿勢を終始貫いているのが、実態ではなかろうか(291)。先に 提示した問いに答えるならば、ブラジルは、「BEPS プロジェクト全体像を 分析することなく、自国にとって最も適当と考える事項のみ導入する」とい う①に該当するであろう。

  2  行動 8 ~10に対する立場

 本稿は、ブラジルの移転価格税制を分析対象としているため、以下では、

行動 8 ~10に関する BEPS 最終報告書(292)に対するブラジルの立場を確認し、

(24)

若干の検討を加える。

 行動 8 ~10の最終報告書末尾には、次の脚注が付されている。「ブラジル 国内法は、産業慣行から派生した固定利益を用いることを規定しており、こ の方法は、独立企業原則に則したものであると考えている。ブラジルは、こ のアプローチを適用し続けるであろうし、この文脈において最終報告書にお けるガイダンスを使用するつもりである。ブラジルが締結した租税条約に は、OECD 及び国連モデル租税条約の 9 条 1 項が含まれており、当該条項 により二重課税が生じた場合には、行動14のミニマムスタンダードに沿っ て相互協議へのアクセスを提供するつもりである(293)。」実に難解な脚注である が、ブラジルは現行国内法が独立企業原則に則したものであることを強調し た上で、固定利益率を用いるという枠組みの中で、勧告を参照することにコ ミットしたものといえる。また、二重課税が生じた場合には、相互協議の対 象とする用意があることを付言したものといえよう。この脚注に対しては、

いくつかの批判がある。

 第一に、行動 8 ~10の最終報告書に付された脚注と OECD 移転価格ガ イドラインとの関係について疑問視されている。Ricardo Andrè Galendi Júnior らは、 当該最終報告書の要旨では、 「この最終報告書における改正は、

OECD 移転価格ガイドラインに組み込まれることが期待されている(294)」と説 明されているにもかかわらず、脚注を認める理由について理解しがたいと

いう(295)。確かに、OECD 移転価格ガイドラインは、各国のプラクティス等を

反映して 9 条 1 項の独立企業原則に関する解釈・適用指針を示したものであ る。OECD モデル租税条約やコメンタリーのように、各国の見解(留保や 所見等)の記述を認める性格のものではなく、各国によるコンセンサスがベ ースとなっている。そうだとすると、当該最終報告書が移転価格ガイドライ ンに組み込まれた際に、ブラジルに関する脚注は行き場を失うことになるだ ろう。

 この点、2017年11月21日に OECD 理事会により承認された OECD モデル

(25)

租税条約及びこれに関するコメンタリーの改訂版を注意深く観察すると、 9 条のコメンタリーパラグラフ 1 に関して、ブラジルが新たに留保を付してい ることが分かる。その内容は、「ブラジルは、独立企業原則に一致した業界 慣行から派生した固定利益率を用いる国内法におけるアプローチを講じる権 利を留保する。その結果、ブラジルは、同国のアプローチが移転価格ガイド ラインと矛盾する場合には、移転価格ガイドラインの適用を支持しない権利 を留保する(296)。」というものである。このブラジルの所見は、最終報告書に付 された脚注と表現は若干異なるが、意図するところは実質的に同じといえよ う。それどころか、OECD モデル租税条約 9 条のコメンタリーに対して留 保を付すことで、ブラジルの考え方がより明確に示されたように思われる。

というのも、OECD モデル租税条約及びそのコメンタリーは、国際慣習法 とまでは言えないが(297)、租税条約の解釈・適用上、重要な役割を果たしている ことは否めないためである(298)

 第二に、当該脚注はブラジルが最終報告書行動 8 ~10の勧告の中から、

自国にとって都合の良いパラグラフのみをチェリーピッキングすることへ の白紙委任を意味するとの見解であ る(299)。つまり、脚注は純粋な外交文言

(diplomatic language)であって、漠然とした言葉を意図的に用いること によって、全体の合意形成を可能としたもので(300)、BEPS プロジェクトの行動 8 ~10は、「弱いコミットメント」を得ようとしたにすぎないとの批判もあ

(301)る

。しかしながら、これは多国間主義の宿命でなかろうか。多国間主義は、

二国間主義に比して正当とみなされる傾向があるが、多くのアクターが参加 するにつれて、合意形成を困難とし、意思決定や実行において概して実効性 に欠けるのは避けられない(302)。そうだとしたら、ブラジルは自国の制度の正当 性を十分に弁護する必要があり、これに対して日本を含む国際社会は、真摯 に向き合っていくほかないであろう。そして、その鍵となるのが相互協議で はなかろうか。この点については、第 4 節で述べることとしたい。

(26)

 第 2 節 相互協議手続の前進   1  相互協議に係る統計の公表

 2017年11月27日、OECD は2016年度の相互協議の状況を公表した(303)。これ は、第 3 章第 2 節で述べたとおり、各国が行動14のミニマムスタンダード従 って、相互協議の状況について OECD に報告した内容に基づいている。そ こで明らかとなったのが、ブラジルの移転価格事案に係る相互協議の状況で ある(図表 8 参照)。

 2015年12月末までに相互協議手続が開始(納税者から相互協議の申立又は 相手国から相互協議の申入れがあること)した移転価格事案は 4 件あり、そ のうち 1 件が終了し、残り 3 件は在庫として繰り越されている。また、2016 年 1 月 1 日以降に相互協議手続が開始した移転価格事案は 4 件あり、そのす べてが在庫として残っている。終了した 1 件については、ブラジルからの報 告上、“any other outcome”とされているため(304)、具体的な処理態様を伺い 知ることはできない。この点については、今後のモニタリングの中で明らか にされよう。

  2  相互協議手続の公表

 ( 1 )Instrução Normativa 1669/2016の概要

 第 2 章第 2 節で述べたとおり、ブラジル憲法は二元論的なシステムは採用 していない(305)。租税条約の中の手続的ルールが国内の規定によって導入される ことを要請していない(306)。ブラジル連邦最高裁によると、ブラジルにおいて条

(図表 8 )移転価格事案に係る相互協議手続の状況

Transfer Pricing Cases Start inventory Cases started Cases closed End inventory Cases started before 1 anuary

2016

Cases started as from 1 january

2016 0

Total 7

(出典)OECD, “2016 MAP Statistics”

(注)‘Cases started’ は、納税者から相互協議の申立があった事案又は相手国から相互協議の申入 れがあった事案をいう。

(27)

約は、批准と公布によって完全かつ直ちに効力を有するという(307)。この見解を 貫徹すると、25条の相互協議条項は、 9 条 1 項の特殊関連企業条項とは異な り、国内法制の整備を待つことなく自動的に執行されることになる。

 しかしながら、ブラジルにおける相互協議手続の伝統的な不確実性は、当 該手続に関する具体的な国内制度の欠如に起因するとの指摘がされてきた(308)。 確かに、25条は具体的な手続まで規定していない。何らかの国内法制なくし て、行政府がそれを実施することは現実的に困難であり、いわんや、合法性 の原則が厳格に要請されるブラジルにおいてはなおさらである。実際のとこ ろ、行動14に係る最終報告書が公表された後も、ブラジル国内では、相互協 議手続が整備されることへの期待値は決して高いとは言えない状況にあっ

(309)た

 こうした懐疑的な状況の中、RFB は、2016年 8 月19日に相互協議手続に 関するコンサルテーションドキュメントを公表し、意見の公募を行った(310)。 RFB によると、当該ドキュメントは、ブラジルの居住者及び法人に対して 相互協議の透明性を提供することを目的しており、租税条約の恩典をこれま で以上に受けられることになるという(311)。ブラジルでは、これまで相互協議に 関して一切の手続規定が示されてこなかったことに鑑みると、当該ドキュメ ントの公表は大きな前進であるとして広く歓迎されたという(312)。また、従来、

ブラジルでは意見公募手続が採用されてこなかったため、その手続面に対す る評価も高い(313)

 さて、当該ドキュメントの意見公募を経て、2016年11月11日、相互協議手 続に関する指示通達(Instrução Normativa 1669/2016)が RFB によって 正式に公表された(314)。以下では、その内容について確認する(315)

 指示通達は、 5 つの章(総則、申立の提出、申出の審査、手続の終了、最 終条項)から構成されており、個別事案に係る相互協議手続について包括的 に規定している。指示通達においては、「相互協議手続」という一般的な名 称に代わり、「友好的手続」(procedimento amigável)という表現を用いて

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いるところに特徴があろう。この友好的手続は、権限ある当局間で論争的な 性格を有するものではないことを明示している( 2 条)。友好的手続は、ブ ラジルが締結しているすべての租税条約に適用されるため( 1 条)、日本と の条約も含まれることになる。

 友好的手続は二つの段階から構成される。第一段階では、RFB が申立を 収受して部内で分析し、そこで手続を完結させることも可能としている( 3 条Ⅰ)。第二段階は、RFB の権限ある当局が相手国の権限ある当局と事案の 解決を図るために協議をすることが規定されている( 3 条Ⅱ)。第二段階が 実施されるのは、第一段階で解決できない場合( 3 条Ⅱ a)のほか、相手国 から相互協議の申入れがあった場合( 3 条Ⅱ b)である。こうした二段階の 構成は、OECD モデル租税条約に則したものといえる。

 次に、友好的手続を申立てることができるのは、ブラジルの法人やブラジ ル国籍を有する個人で、その者が条約の規定に適合しない課税が生じると考 える場合である( 4 条)。友好的手続を希望する場合は、納税地の RFB に 対して所定の様式(付属書Ⅰ)を用いて申立書を提出しなければならない

( 5 条柱書)。申立書には、申立者を特定する事項(氏名・法人名、住所・所 在地、電話番号等)、申立対象期間、対象税目、相手当局、条約の規定に反 する措置(課税処分の内容)等を記載し、相手当局に提出した書類や相手当 局から収受した書類がある場合には、その写しも添付する( 5 条 1 節)。な お、英語又はスペイン語以外の文書が含まれている場合は、ポルトガル語の 翻訳を添付すること( 5 条 3 節)、申立者が有用と判断する資料も提出する ことができること( 5 条 6 節)など、申立手続については、かなり詳細に記 述されている。また、友好的手続は、適用される租税条約に規定された期間 内に行わなければならない( 6 条)。

 裁判所の判決や審判所の決定が下されている事項については、それが最終 的なものでない場合であっても、友好的手続を行うことはできない( 8 条)。

 そして、部分的であっても友好的手続で合意に至った場合は、租税条約に

参照

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