Ⅰ はじめに 日本の人口は 2007 年以降自然増加から減少 に転じ、2010 年からは社会増加も含めて明確 な人口減少を示すに至っている。全国の人口減 少を背景として、都市の人口は増加するという ことは常識ではなくなりつつある。21 世紀の 最初の 10 年間の日本の人口増加率は 0.89% で あり、市部人口の増加率でも 1.50% にとどまっ ている。 戦争、自然災害や伝染病の流行などをのぞい て、歴史的趨勢として郊外を含む都市的地域は 拡大し、人口増加を続けてきたという観念があ る。ところが、20 世紀末から一転して都市的 地域の人口が減少するという現象が普遍的にあ らわれてきた。 都道府県別に近年の人口増減の変化について 国勢調査のデータで調べてみると、全国の人口 増加率は少子化の影響で次第に低下してきてい るが、5 年ごとの全国の人口増加率を上回る都 道府県数が近年少なくなっている。1990~95 年 に全国値を上回る都道府県が 16 府県だったが、 1995~2000 年には 9 都県に減少している。全国 値を下回ったのは茨城・栃木・群馬・山梨・長 野・岐阜・静岡・三重・奈良の各県であり、逆 に東京都と兵庫県が上回っている。埼玉・千葉・ 神奈川・滋賀・福岡・沖縄の各県は 2010 年ま で全国値を依然上回っている。また、宮城が 2005 年に全国値を下回り、2010 年に兵庫県に 代わって大阪府が上回った。 1970 年代から 20 世紀末にかけての大都市圏 の拡大という傾向とは違って、福岡県と沖縄県 をのぞいて、人口増加は大都市圏の中心部に収 束しつつある。その際、人口の都心回帰ととも に郊外の衛星都市の人口減少が、クラッセンの 再都市化の判定のメルクマールとなろう1)。 本稿は属地調査である国勢調査の 2000 年と 2010 年のデータを用いて、都市人口の変化に ついて考察する。表 1~4 には便宜上 2010 年 10 月時点で市制を施行している自治体を対象と し、東京特別区も含めた。この間多くの自治体 が市町村合併をした結果、市町村数は 3,229 か ら 1,727 に減少したが、市の数は 671 から 786 に増加した2)。2000 年の人口は 2010 年の市域 で組み替えて算出している。 なお、市制施行の要件である 5 万人以上の町 村は 2010 年 10 月時点で岩手県滝沢村・愛知県 長久手町・石川県野々市町・広島県府中町・埼 玉県白岡町・千葉県大網白里町の 6 町村3)に すぎず、府中町以外は 2014 年までに市制を施 行した。 Ⅱ 東京大都市圏と京阪神大都市圏 まず、20 世紀最初の 10 年間における東京大 都市圏の人口増加率について検討しよう。東京 大都市圏を都市雇用圏(全通勤者に占める割合 が 10% 以上など)4)でみた場合、表 1 に示し
21 世紀初頭における日本の都市の人口増減に関する一考察
─人口減少時代の都市像─
Population change of Japanese cities for the first decade of 21st century
松 田 隆 典
Takanori MATSUDA
表 1 日本の市・特別区の人口増加率(5%以上増加した市・特別区) 府 県 10%以上(48 市区) 5 ~ 10%(92 市区) 北海道 恵庭・千歳・札幌 青 森 岩 手 宮 城 名取・岩沼 秋 田 山 形 福 島 茨 城 ⑤守谷 ・ つくば ・ 牛久 つくばみらい ・ 神栖 ・ 鹿島 栃 木 さくら 那須塩原・小山 群 馬 伊勢崎 千 葉 ⑥浦安 ・ ⑩白井 ・ 八千代・船橋 ・ 印西 ・ 成田 流山 ・ 千葉 ・ 柏 ・ 習志野 ・ 市川 ・ 木更津 ・ 鎌ヶ谷 ・ 四街道 埼 玉 ⑯吉川 ・ ⑰和光 ・ 戸田 ・ 鳩ケ谷 ・ 八潮 川口 ・ 草加 ・ 朝霞 ・ さいたま ・ 志木・日高 ・ 新座 ・ 越谷 ・ ふじみ野 ・ 上尾 東 京 ①中央 ・ ②千代田 ・ ③港 ・ ⑦稲城・⑧江東 ・ ⑬文 京 ・ 墨田・豊島・新宿・品川・町田・府中・荒川 ・ 台東・足立 江戸川・調布・立川・清瀬・練馬・西東京・三鷹・ 国分寺・八王子 ・ 東村山・世田谷・東大和・目黒・ 日野・大田 ・ 小金井・武蔵村山・昭島・杉並 神奈川 川崎 海老原・藤沢 ・ 横浜 ・ 大和 ・ 茅ヶ崎 ・ 相模原 新 潟 富 山 石 川 能美 福 井 山 梨 長 野 静 岡 御殿場・袋井 愛 知 ④みよし ・ ⑨日進 ・ 高浜 ・ 大府・安城・刈谷 常滑 ・ 知立 ・ 尾張旭 ・ 東海 ・ 北名古屋・岡崎 ・ 半 田 ・ 豊田 ・ 春日井 ・ 碧南 ・ 西尾 ・ あま ・ 知多 岐 阜 瑞穂 美濃加茂 三 重 亀山・鈴鹿 滋 賀 ⑭守山 ・ ⑮栗東 ・ 草津 大津 京 都 ⑪木津川・京田辺 大 阪 和泉・茨木 兵 庫 芦屋・西宮 宝塚 奈 良 ⑫香芝 和歌山 岩出 鳥 取 島 根 岡 山 岡山 広 島 東広島 山 口 徳 島 香 川 愛 媛 高 知 福 岡 福岡・筑紫野 ・ 小郡 ・ 大宰府 ・ 大野城 大 分 佐 賀 鳥栖 長 崎 大村 熊 本 合志 宮 崎 鹿児島 沖 縄 豊見城 沖縄・石垣 ・ 浦添 ・ 名護 ・ うるま ・ 宜野湾 注:太字は 2010 年時点で人口 20 万を超えていた市。 下線は 2000 ~ 2010 年に合併して誕生した市(合併を機に名称変更した市を含む)。 ①~⑰の上位 17 位までが 15%以上人増加率の市区(⑨までが 20%以上の人口増加率)。
表2 日本の市・特別区の人口増加率(5%未満増加した市・特別区) 府 県 2.5 ~ 5%(78 市区) 0 ~ 2.5%(85 市区) 北海道 北斗・北広島 苫小牧 青 森 岩 手 北上 宮 城 仙台・多賀城 秋 田 山 形 東根 福 島 郡山 茨 城 龍ヶ崎・ひたちなか・水戸 栃 木 宇都宮・下野 真岡 群 馬 高崎・太田 みどり 千 葉 我孫子 ・ 松戸 ・ 東金 ・袖ヶ浦・野田 富里 ・ 八街 ・ 市原 ・ 佐倉 埼 玉 坂戸 ・ 川越 ・ 所沢 ・ 鶴ヶ島 ・ 富士見 入間 ・ 桶川 ・ 蕨 ・ 三郷 ・ 久喜 東 京 葛飾 ・ 板橋 ・ 渋谷・北・小平・国立・狛江・あき る野・東久留米 中野 ・ 武蔵野・羽村・多摩 神奈川 鎌倉 ・ 厚木 ・ 座間 ・ 綾瀬 平塚 ・ 逗子 ・ 伊勢原 ・ 秦野 新 潟 新潟 富 山 砺波 滑川・富山・射水 石 川 白山 金沢 福 井 鯖江 坂井 山 梨 南アルプス ・ 甲斐 中央 長 野 安曇野・茅野 佐久 静 岡 裾野 浜松・掛川 ・ 磐田 ・ 焼津 ・ 富士宮・三島 ・ 富士 ・ 藤枝 ・ 菊川 愛 知 豊明 ・ 一宮 ・ 清須 ・ 名古屋・犬山 ・ 豊橋 ・ 豊川 ・ 小牧・弥富 江南 ・ 岩倉 ・ 瀬戸 ・ 蒲郡 岐 阜 可児 ・ 羽島 ・ 本巣・各務原 三 重 桑名 松阪・四日市・いなべ 滋 賀 彦根・野洲 湖南 ・ 近江八幡 ・ 東近江・甲賀・長浜 京 都 長岡京 向日・八幡・宇治 大 阪 泉佐野 ・ 四条畷 ・ 箕面・泉大津 ・ 池田 ・ 大阪 大阪狭山 ・ 貝塚 ・ 吹田 ・ 堺 ・ 枚方 ・ 交野 ・ 泉南 兵 庫 神戸 三田 ・ 伊丹 ・ 川西 ・ 小野 ・ 加古川・姫路 奈 良 葛城・生駒 橿原 和歌山 鳥 取 米子 島 根 岡 山 倉敷 総社 広 島 広島 福山 山 口 下松 徳 島 香 川 丸亀・高松 愛 媛 松山・東温 高 知 香南 福 岡 宗像・糸島・古賀 筑後・春日・行橋 大 分 大分 佐 賀 長 崎 熊 本 熊本・宇土 宮 崎 宮崎 鹿児島 姶良・鹿児島 沖 縄 那覇・糸満 南城 注:太字は 2010 年時点で人口 20 万を超えていた市。 下線は 2000 ~ 2010 年に合併して誕生した市(合併を機に名称変更した市を含む)。
表3 日本の市の人口増加率 ( 5%未満減少した市 ) 府 県 -2.5 ~ 0% (102 市区 ) -5 ~ -2.5% (115 市区 ) 北海道 江別・石狩・伊達 帯広・旭川・北見 青 森 三沢・八戸 岩 手 盛岡 宮 城 東松島 大崎 秋 田 潟上・秋田 山 形 山形・天童・寒河江 福 島 本宮・須賀川・福島・白河 相馬・いわき 茨 城 土浦・結城・常総・鉾田・那珂・小美玉・古河 下妻・笠間・かすみがうら・石岡・坂東・潮来 栃 木 大田原・鹿沼 矢板・佐野・栃木 群 馬 前橋・館林 藤岡・富岡 千 葉 茂原 旭・君津・館山・いすみ 埼 玉 鴻巣・北本・本庄・深谷・春日部・熊谷・蓮田・ 羽生・加須 飯能・東松山・狭山・幸手 東 京 青梅 福生 神奈川 南足柄・小田原・横須賀 新 潟 燕・長岡・上越・見附・新発田・三条 富 山 黒部・魚津 石 川 かほく・小松 福 井 敦賀・福井・越前 山 梨 笛吹・韮崎・甲府・北杜 長 野 塩尻 ・ 松本 ・ 伊那 ・ 東御・長野・駒ヶ根 須坂・千曲・上田・中野・小諸・飯田・諏訪 静 岡 伊東・湖西・伊豆の国・静岡・島田 御前崎・沼津 愛 知 津島・稲沢・愛西・田原 岐 阜 大垣・岐阜・関 多治見・山県・高山・土岐・瑞浪・中津川 三 重 津 名張・伊賀・伊勢 滋 賀 米原 京 都 京都・亀岡 福知山 大 阪 高槻・岸和田・豊中・藤井寺・大東・東大阪・八尾・ 羽曳野・摂津 阪南・守口・門真・高石 兵 庫 明石・加東・高砂 尼崎・赤穂・たつの 奈 良 奈良 天理・桜井 和歌山 和歌山 鳥 取 鳥取 境港 島 根 出雲 松江 岡 山 赤磐 瀬戸内・津山・浅口 広 島 廿日市 山 口 山口・防府 光・山陽小野田・宇部 徳 島 徳島 阿南・鳴門 香 川 愛 媛 西条 新居浜・四国中央 高 知 南国・高知 福 岡 福津・久留米 直方・北九州・宮若・飯塚 大 分 別府・中津・由布 杵築 佐 賀 小城・神埼・佐賀 伊万里・武雄 長 崎 諫早 佐世保 熊 本 荒尾・宇城・菊池・玉名 宮 崎 都城・日向 鹿児島 霧島・鹿屋 日置・出水 沖 縄 宮古島 注:太字は 2010 年時点で人口 20 万を超えていた市。 下線は 2000 ~ 2010 年に合併して誕生した市(合併を機に名称変更した市を含む)。
表4 日本の市の人口増加率(5%以上減少した市) 府 県 -10 ~ -5%(194 市区) -10%以下(113 市区) 北海道 網走・登別・岩見沢・富良野・滝川・名寄・室蘭・函 館・稚内・砂川 釧路・ 根室・小樽・士別・紋別・留萌・深川・ 美唄・赤平・芦別・三笠・歌志内・夕張 青 森 弘前・十和田・青森・平川・黒石・五所川原・むつ・つがる 岩 手 花巻・奥州・久慈・一関・陸前高田・大船渡 二戸・宮古・遠野・釜石・八幡平 宮 城 石巻・塩竃・白石・角田 登米・気仙沼・栗原 秋 田 由利本荘・大館・にかほ・能代・横手 大仙・仙北・鹿角・湯沢・北秋田・男鹿 山 形 米沢・南陽・鶴岡・新庄・長井・上山・酒田・村山 尾花沢 福 島 南相馬・会津若松・伊達・二本松 田村・喜多方 茨 城 取手・日立・筑西・常陸大宮・稲敷・北茨城・常陸太田・桜川・行方 高萩 栃 木 足利・日光 那須烏山 群 馬 安中・渋川・沼田・桐生 千 葉 鴨川・匝瑳・山武・香取・富津 勝浦・南房総・銚子 埼 玉 行田・秩父 東 京 神奈川 三浦 新 潟 南魚沼・阿賀野・柏崎・五泉・小千谷・胎内・十日町 糸魚川・加茂・村上・妙高・魚沼・佐渡 富 山 高岡・小矢部・氷見・南砺 石 川 加賀・七尾・羽咋 輪島・珠洲 福 井 小浜・あわら・勝山 大野 山 梨 都留・富士吉田・山梨・甲州 上野原・大月 長 野 岡谷 飯山・大町 静 岡 牧ノ原・熱海 下田・伊豆 愛 知 新城 岐 阜 恵那・海津・美濃・下呂・郡上 飛騨 三 重 志摩・熊野・鳥羽・尾鷲 滋 賀 高島 京 都 城陽・舞鶴・南丹・綾部・京丹後 宮津 大 阪 寝屋川・富田林・柏原・松原・河内長野 兵 庫 三木・加西・西脇・篠山・丹波・豊岡・朝来・相生・南あわじ・洲本・宍粟 淡路・養父 奈 良 大和郡山・大和高田 御所・五條・宇陀 和歌山 橋本・紀の川・御坊・田辺・有田・海南 新宮 鳥 取 倉吉 島 根 浜田・安来・益田・雲南 大田・江津 岡 山 井原・玉野・笠岡 真庭・備前・美作・新見・高梁 広 島 三原・尾道・呉・三次・大竹・安芸高田 竹原・府中・庄原・江田島 山 口 周南・岩国・下関・柳井・美弥 長門・萩 徳 島 小松島・吉野川・阿波 美馬・三好 香 川 観音寺・坂出・三豊・善通寺・さぬき 東かがわ 愛 媛 伊予・今治 大洲・西予・宇和島・八幡浜 高 知 土佐・四万十・香美・安芸 須崎・宿毛・土佐清水・室戸 福 岡 田川・うきは・豊前・中間・柳川・朝倉・大川・八女 大牟田・みやま・嘉麻 大 分 宇佐・日田・豊後高田・臼杵・佐伯・豊後大野・国東 津久見・竹田 佐 賀 唐津・嬉野・鹿島 多久 長 崎 島原・長崎・雲仙 松浦・西海・南島原・壱岐・平戸・五島・対馬 熊 本 八代・阿蘇・山鹿・人吉 水俣・天草・上天草 宮 崎 延岡・小林・西都・日南 えびの・串間 鹿児島 薩摩川内・志布志・指宿・いちき串木野 西之表・枕崎・奄美・南九州・阿久根・ 南さつま・伊佐・曽於・垂水 沖 縄 注:太字は 2010 年時点で人口 20 万を超えていた市。 斜体字は 2010 年時点で人口 3 万未満の市。 下線は 2000 ~ 2010 年に合併して誕生した市(合併を機に名称変更した市を含む)。
阪市 24 区のうち西成区・大正区・旭区・東住 吉区・生野区・住之江区・東淀川区・住吉区・ 港区・平野区といった周辺区が減少している。 大阪でも人口の都心回帰は同様であるが、周辺 区や郊外での人口増減の違いは明らかである。 総務省による広域都市圏でみた場合は京阪神 大都市圏となるが、都市雇用圏では神戸都市圏 と京都都市圏とが分かれる。神戸都市圏は大阪 都市圏の相対的都市圏との関係で、神戸市およ びその西側に圏域をもつ。明石・加古川・高砂・ 三木に加えて、21 世紀になって内陸の小野・ 加東・西脇も衛星都市になったが、加古川と小 野以外は人口減少している。また、都心区の中 央区が約 17%、灘区が約 11% の増加率を示す 一方、須磨区・長田区・垂水区は減少している。 京都都市圏の衛星都市のうち、滋賀県湖南方 面の草津・栗東・守山が 10% 以上、大津も約 9% の増加率を示しているが、京都市への通勤 率は低下している8)。一方、南山城方面の長岡 京・向日・宇治・八幡は 5% 未満の増加、南山 城の城陽と丹波方面の亀岡・南丹は減少してい る。中心市の京都も 2005 年までわずかに人口 増加していたが、2005 年から減少している。 これは後述する北九州市と並んで、政令指定都 市として 2 つ目の人口減少である。もっとも都 心区に相当する下京区と中京区が約 11% の増 加、その他の周辺区が微増または減少を示して いるので、人口の都心回帰の現象がみられる9) といえよう。 Ⅲ 名古屋大都市圏と地方中枢都市圏 東京と大阪の大都市圏以外の 5 つの大都市圏 は、両者の中間的性格をもつと思われる。名古 屋大都市圏の衛星都市のほとんどが人口増加し ており、それらのうちおよそ半分が 5% 以上増 加している。また、名古屋市の 16 区のうち減 少しているのは港区・南区・北区にすぎず、都 心の中区は約 21% の増加率を示している。加 えて、総務省による広域都市圏でみた場合、中 京圏の特徴は三河地方などにも人口増加率の高 い都市が多いことである。愛知県や名古屋は活 力があるといわれる所以である。 地方中枢都市圏(札仙広福)のうち最も規模 たように、衛星都市のほとんどが増加している 5)。一方、総務省による関東大都市圏(全常住 人口に占める割合が 1.5% 以上など)まで広が ると、東京都心から 50 圏外の熊谷・深谷6)・ 土浦などで人口減少の例がみられる。都市雇用 圏でも春日部・加須・青梅・横須賀などで減少 している。 また、東京の都心区は全国の政令指定都市の どの区よりも人口増加率が高いことは、周知の とおりである。クラッセンの都市サイクル仮説 における再都市化の段階は人口の都心回帰のほ かに郊外の人口減少を特徴とするが、東京大都 市圏の場合は、東京一極集中による効果のため に再都市化がわかりにくいというべきであろう か。 関東大都市圏の中心市となっている 4 つの政 令指定都市はいずれも高い人口増加率を示して いる。19 の政令指定都市の中では川崎が 14.1% と図抜けているが、千葉が 8.4%、さいたまが 7.9%、横浜が 7.7% と、第 3 位から第 5 位まで を占めている。もっとも、横浜の中区と千葉の 中央区が約 17% の増加率を示し、市全体より かなり高いが、いずれも市内の区で最高の増加 率ではない7)。 東京大都市圏と大阪大都市圏との対比は、衛 星都市の人口増加率にあらわれている。大阪大 都市圏では、木津川・京田辺・芦屋・西宮・香 芝・和泉・茨木・宝塚のように 5% 以上増加し ている市もあるが、主として河内方面のほとん どの衛星都市で減少し、20 万以上の人口をも つ北摂の豊中・高槻なども 21 世紀以後減少に 転じている。このような両者の差は東京一極集 中を象徴するわかりやすい指標である。 7 大都市圏の中心市の人口増加率に着目する と、東京都区部が 10% 弱(横浜が 7.7%)、福 岡が 9.1%、札幌が 5.0%、名古屋が 4.3%、仙台 が 3.8%、広島が 3.5%、大阪が 2.6%(神戸が 3.4%) である。大都市圏の中心市でも人口増加には地 域差があることが知られる。 もっとも、大阪市の都心区に相当する中央区・ 西区・浪速区・福島区・北区は、東京都区部の 中央区・千代田区・港区や江東区と同様に、 20% 以上の増加率を示している。東京都区部 は 23 区すべてが増加しているのに対して、大
広島では人口の都心回帰を特定することはでき ない。 Ⅳ 非大都市圏の中小都市 県庁所在地のような都市(表 1~4)でさえ人 口が減少している。県庁所在地では 5% 以上の 人口減少を示す青森や長崎をはじめ、実に半数 近い 22 市が減少している。その中には政令指 定都市でもある京都市と静岡市13)が含まれる。 20 世紀末までは県庁所在地は県内のプライメ イトシティとして人口増加してきたが、それも 趨勢ではなくなった。 もっとも合併による人口増加率への影響は 様々である。例えば、合併して約 50 万人から 81 万人になって政令指定都市に昇格した新潟 はわずかに人口増加率を伸ばしている。一方、 同様に約 47 万人から 72 万人となって政令指定 都市に昇格した静岡は、旧市域だけでは 0.3% 減少にとどまったが、合併後は 1.9% 減少となっ た。長崎は旧市域で人口増加率を算出すると 4.4% の減少であるが、合併後は 5.6% の減少と なっている。合併特例法の期限切れ後に合併し て 2012 年に政令指定都市に移行した熊本は人 口増加率が 2% 足らずであるが、その東に位置 する合併協議から離脱した合志市と大津町の増 加率は約 11%、菊陽町は約 33% を示している。 地域的にとくに減少が著しいのは東北地方の 県庁所在地であり、仙台以外の 5 市が減少して いる。仙台大都市圏をのぞく東北地方で人口増 加した市は、岩手県北上、山形県東根、福島県 郡山だけである。 中核市(30 万人以上)と特例市(原則 20 万 人以上)14)は都道府県から一部の事務権限を移 譲される。43 の中核市のうち 22 市が人口減少 し、40 の特例市のうち 19 市が減少している。 うち小田原・甲府・岸和田・鳥取が 20 万人に 満たない。なお、2014 年 10 月現在、30 万人以 上でありながら中核市・特例市に指定されてい ない市は、松戸・市川・越谷・八王子・町田・ 藤沢の東京圏、一宮・四日市の名古屋圏、大阪 圏の吹田といったいずれも 3 大都市圏の衛星都 市であるが、20 万人以上でありながら特例市 に指定されていない市には、市原・上尾・府中・ の大きい福岡大都市圏も名古屋大都市圏と同様 に、都市雇用圏におけるほとんどの衛星都市の 人口が増加しているが、10% 以上の人口増加 を示す衛星都市はない。また、東京都区部と同 様にすべての区で増加し、都心区にあたる中央 区と博多区はいずれも約 18%、西区が約 16% の増加率を示している。1995 年以前の両区の 人口はわずかに増加していたから、都心回帰と いう表現は難しいかもしれない。 総務省による都市圏では北九州・福岡都市圏 に含まれる北九州都市圏は、福岡都市圏とは対 照的に縮小傾向にある10)。行橋・宮若・直方・ 中間といった衛星都市の人口も微増あるいは減 少 し て い る。 中 心 市 の 北 九 州 市 が す で に 1975~1980 年から人口減少を続けており、21 世紀には小倉南区だけわずかに増加しただけ で、他の区は減少している。 札幌大都市圏は福岡大都市圏とほぼ同じ都市 圏規模であるが、福岡大都市圏よりも人口増加 率は低いと思われる。中心都市の増加率が低い というだけでなく、5% 以上の人口増加率を示 す衛星都市は恵庭・千歳の 2 つだけである。ま た、札幌の都心に相当する中央区は市内では約 21% という突出した増加率を示し、山間部が 大半を占める南区だけが減少している。中央区 は 1995 年まで減少していたので、札幌都市圏 における都心回帰は明らかである。 仙台大都市圏の 10% 以上の増加率を示す衛 星都市はなく、名取と岩沼が 5% 以上を示す。 そのほか多賀城がわずかに増加している。福岡 大都市圏と同様に市制を施行していないが、人 口 3 万 以 上 の 富 谷 町 が 約 31%、 利 府 町 が 約 14% を示している。都市雇用圏内の塩竃・東 松島・大崎や、総務省による仙台大都市圏まで 広げた、石巻・白石・角田および福島県相馬な どは減少している。 総務省による広島大都市圏の衛星都市のう ち、東広島が 5% 以上増加し、廿日市・江田島 などは減少している。人口 5 万以上でありなが ら市制を施行していない府中町11)も減少して いる。 また、仙台と広島のそれぞれの都心に相当す る青葉区と中区は市内の区の最高の人口増加率 を示さず12)、いずれも 5% に満たない。仙台と
た。 また、20 世紀末から進んでいる大都市にお ける都心回帰についても 7 大都市圏の中心都市 について若干の分析を加えた。都心回帰が福岡 や札幌の都市圏規模まで確認されたが、仙台や 広島、あるいは首都圏内の政令指定都市は顕著 ではないと考えられる。 20 万人以上の中規模都市でも非大都市圏で は半数近くが人口減少していることが知られ た。少子高齢化と人口減少社会を前提にした都 市像が地方都市に象徴されていると思われる。 地方小都市に関しては多様な性格をもっている ので、あらためて詳細な検討が必要であろう。 とくに、平成の大合併で生まれた小都市につい ては、今後の動向も含めてさらなる分析が求め られている。 注 1 )松田隆典(2013)「成熟期の都市」、人文地理学会 編『人文地理学事典』(丸善)、370~374 頁。 2 )総務省報道資料 「平成の合併について」(平成 22 年 3 月 5 日)などによる。 3 )滝沢村と府中町以外は 2000 年時点で 5 万人未満 であった。 4 )金本良嗣・徳岡一幸(2002)「日本の都市圏設定 基準」、応用地域学研究 7、1-15 頁。徳岡一幸(2003) 「日本の都市圏に関する二つの定義―標準大都市 雇用圏と都市雇用圏―」、經濟學論叢 55-2(同志 社大学経済学会)、21-82 頁。 5 )江崎雄治(2006)『首都圏人口の将来像』専修大 学出版局、71~102 頁。磯田則明(2007)「東京大 都市圏への人口集中」福岡大学人文論叢 39-4、 907~926 頁。 6 )伊藤徹哉・岩間信之・平井誠(2012)「大都市圏 外縁部における人口減少下の地域再編─埼玉県北 部地域を事例に─」地球環境研究 14、7~22 頁。 7 )横浜は郊外の都築区が約 30%、みなとみらい地区 の西区が約 21% を示す。さいたまは浦和区や大 宮区ではなく、新都心の中央区が最高値の約 16% を示す。川崎の川崎区は約 12% にとどまり、麻 生区・高津区・中原区が全体の増加率を高めてい る。 8 )松田隆典(2006)「滋賀県地域誌―湖南」『日本の 地誌 8: 近畿圏』(金田章裕・石川義孝編、朝倉書 店),412~423 頁。稲垣稜(2007)「通勤・通学流 動の変化からみた草津市におけるベッドタウン化 の終焉」、奈良大地理 13 9 )堀内千加(2009)「京都市中心部におけるマンショ ン開発と人口増加の動向」、経済地理学年報 55-3、 1~22 頁。 調布のほか、福島・津・徳島の県庁所在地があ る。 非大都市圏の中で特異な地域が沖縄県であ る。日本の他の地域と違って、自然増加によっ て相対的に高い人口増加率を保ってきた。那覇 都市圏の豊見城・沖縄・浦添・うるま・宜野湾 が 5% 以上の増加率を示す一方、中心市の那覇 が 5% 未満の増加にとどまり、沖縄本島南端の 南城が微増であることは那覇都市圏の郊外化を 思わせる。また北部の名護や離島の石垣が 5% 以上の増加率を示していることは沖縄県の自然 増加を物語っている。 全国 786 市のうち、人口 4,387 の歌志内市を はじめ 5 万人未満の市は 253(全体の 32.2%) にも及び、合併特例法の3万人未満でも76市(全 体の 9.7%)である。人口 3 万未満市は 10% 以 上減少している区分に 54 市あり、5~10% 減少 している区分に 21 市ある。5% 未満減少して いる区分には岐阜県山県市の 1 例のみで、増加 している市はすべて 3 万人以上である。 1955 年前後の市町村合併で誕生した市のう ち、合併特例法でも市の要件を満たさない市は、 21 世紀以降もますます人口を減少させた。こ れらの市はかつて過疎地の生活圏を支える中心 地であったが、これらも含めた過疎化が進行し ていることが知られる。 平成の大合併で誕生した新制の市(名称を変 更も含む)のうち、5 市が増加率 10% 以上、9 市が 5~10% 増加、18 市が 5% 未満増加、30 市 が 5% 未満減少、43 市が 5~10% 減少、37 市が 10% 以上減少となっている。各増減区分に属 する市の数に占める平成の大合併で誕生した市 の割合は、減少が著しい区分ほど多いことが知 られる。 Ⅴ おわりに 21 世紀初頭の 10 年間における日本の都市の 人口増減について若干の考察を加えてきた。大 都市圏の都市については、すでに指摘されてき た東京圏一極集中や名古屋圏の優勢について再 確認した。東京圏や名古屋圏と対比した大阪圏 の停滞は、インナーエリアや衛星都市の人口減 少によるところが大きいことが明らかになっ
広島は中区の北に位置する安佐南区が約 14% を 示している。 13)静岡市は 2003 年に清水市を合併して 2005 年に政 令指定都市になった。 14)特例市は 2015 年 1 月で廃止され、中核市に移行 する。 10)松田隆典(2009)「北九州都市圏における産業構 造の変動―人口減少時代の都市圏構造―」、滋賀 大学教育学部紀要(人文 ・ 社会科学)58、25~32 頁。 11)県内の備中地方に同名の市があり、東京都にも同 名の市がある。 12)仙台は青葉区の東に位置する宮城野区が約 7%、