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英語教育における「話すこと」の現状と課題 : 理論的考察を通して

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英語教育における「話すこと』の現状と課題

一 理 論 的 考 察 を 通 し て ー

吉 住 晃 1 . は じ め に 日本の高等学校英語教育において,外国語としての英語(Englishas a Foreign L岨 guage: EFL)を学習していくうえで,主要 4技 能 ( 聞 く こ と ヲ 読 む こ と ヲ 話 すこと, 書くこと)の力をバ ラ ン ス よ く 伸 ば す こ と が 求 め ら れ て い る が 話す こ と 」 の 力 が 最 も 低 く ヲ 最 も 伸 び 悩 ん で い る 技 能 で あ る こ と が ヲ 文 部 科 学 省 (2016)の調査から明らかになった。これを改善すべく,同省は,聞いたり読んだ りしたことを,他者に伝える目的で, 書いたり話したりするような「複数の技能 を統合した言語活動」の導入を推奨している。これを踏まえヲ吉住 (2017)では, 「話すこと」の力を伸ばすことを目的とした技能統合型の授業実践を行いヲ EF工 学習者の反応を探った。本稿ではヲこの教育実践からみえてきた「話すこと」の 現状と課題を理論的に考察する。 2.過去に行った教育実践(概要) 英語を発信する技能である「話すこと」の力の育成のためヲ吉住(2017)ではヲ A高等学校の3年 生68名を対象にヲ「複数の技能を統合した言語活動」を実施し た 。 そ の 際 普 段 の 授 業 に 体 験 的 な 深 み を も た せ る J(p.4のためヲ当時使用して いたBIGDIPPER English Communication IIIを活用した。題材としては,学習者 にとって日常的な話題に繋げやすいという理由から, India's Incredible Industry (インドの映画産業に関する話題)を選択した。このように,学習者が興味・関 心をもって参加できるようにしながら,英語で「話すこと」の力を他の技能の力 で補う授業デザインを,先行研究をもとに下記の図1のように作成した。 段階 I → 段 階II → 段 階III む音被(聞く 税制

I I

①メモ取り (聞く 書 <) い 自 白 笑 乍I 審<) ②本文復 元 (際む 審<) I

a

発話 話す 聞〈ι 審<) ③ 発話 (話 す 聞〈 書 <) la自 向 笑 乍11 書<) 図1 段階的な「複数の技能を統合した言語活動」授業デザインの概要 (各学習活動に付随する( )内は,主に使用する技能を示している)

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前述の言語活動に入る事前準備として,十分な文法説明や内容理解を済ませた のも,図1の三つの段階(j

onom)

か ら 構 成 さ れ る 授業 を 順々に展開した。 まずヲ段階 Iにおいては音読活動に焦点を当て,使用するテキストを聞いたり読 んだりさせながら,注目すべき内容語に意識を向かせた。 段 階

n

では,本文を 聞かせながらメモ取りをさせ,それをもとにベアと協力させながらヲ本文の復元 に取り組ませた。その後,複数のベアと復元テキストについて共有し合い, 聞い たことを書き取らせる作業を入れた。段階

m

では,学習者が身近に感じる映画 について「他者に伝える」ことを目的としたため,メッセージを受け取る相手の 存在を意識させながら,伝えたいことを発信する活動を取り入れた。その際ヲで きるだけ多くの学習者の活動への参加意欲を高めるため,他の選択肢としてドラ マやアニメなどの日常的なトピックを加えた。活動後ヲ学習者に課した質問紙か ら得たデータをもとに,テキストマイニングによる分析を行った。その結果ヲ英 語の単語一つひとつの意味がわかっていてもヲそれらを繋ぎ合わせてヲよりまと まりのある形を表現することに課題があることが浮き彫りになった。 それではヲ上記の「話すこと」の力の育成を目指した一連の言語活動はヲ理論 上ヲどのような学習ブロセスを辿っていたといえるのだろうか。次節では,第二 言語習得モデノレを参考にしながら,吉住(2017)の教育実践を振り返る。

3

目第二言語習得モデルを通して 本節では,第二言語習得そデノレを参考にしながら,学習者が目標言語を学ぶ際 にどのような学習ブロセスを辿るのかを整理していき,吉住 (2017)の教育実践を 振り返る。 まず初めに,第二言語習得の流れには大きく分類すると5つのステーシがある と Gass(1997)は提唱しており,その簡略化したものが下の表 1となる。 表 1 Gass(1997)の第二言語習得モデノレ(簡略版) 5つのステージ 第1ス テ ジ 第2ス テ ジ 第3ス テ ジ 第4ス テ ジ 第5ス テ ジ 認,哉されたインプット 理解されたインプット (Appcrccivcd Input) (Comprchcndcd Input) 内 在 化 (Intakc) 統合 アウトプット ( Intcgr山on) 伽 tput) まず「認識されたインプット J(Apperceived Input)は,第1ステーシに位置づ けられ,学習者は外からのインプットを浴びる際,その情報が既知のものである のか,未知のものであるのかを区別化していき,そこに生じたギャッブを埋めて 24

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し、く。これはヲ学習者が自身の知識量に気づいていくステーシであるともいえる。 第 2ステーンの「理解されたインプット J(Comprehended Input)では,インブツ トを受ける側である学習者がヲそのインプットをどの程度理解するのか(理解で きるのか)どうかが焦点となるため,インブットに対する理解度は個人の習熟度 によって異なる。よって,あらかじめ学習者の習熟度に適した教材を使用しでも, なかには全体的な意味理解に留まる者もいれば,文構造の細かな部分にまで目が 行き届くような者もいる。そして,この理解の度合いは,次の第3ステーンにあ る「内在化 J(Intake) Iこ大きな影響を及ぼす。この「内在化」は,インブットと 文法知識を繋く役寄lを果たすといわれている。例えば,外部からの新情報 は , 既 知 の 文 法 知 識 と 照 ら し 合 わ さ れ 般 化 J(generalization)され定着していくと 考えられている。続いて,第 4ステージの「統合 J(Integration)では,目標言語 の 文 法 知 識 が 増 え る に つ れ ヲ 既 知 の 文 法 知 識 を 参 考 に し な が ら ヲ 仮 説 (hypo由esis)を立てられるようになる。それから,既知の文法知識が正しいこと がわかればヲその知識はさらに確かなものになるため認証(conformation)され, これが「統合」を意味する。また,既に知識としてもっている言葉を,手本を参 照しながら,何度も繰り返し練習したりすることでヲ流暢に目標言語を操ること ができるようになる。これはヲ何度も繰り返し同じことを認証してきた結果であ るともいえる。一方ヲ既知の知識との整合性に欠ける場合,棄却(rejection)され るケースもある。このような場合,仮説は改められ,ふたたび認証していく過程 を辿ることになる。またヲすくに認証できなし、場合やヲ単に認証されなし、ケース も存在し,このような場合,記憶のなかに留まったりする。最後にヲ仮説を立て ることのできるレヘノレに遣していない状態であれば,全く「統合」されないこと もある。吉住(2017)の教育実践ではヲ事前準備として,文法知識や内容理解などヲ 知識を身に付けることを目的としたインプット活動を行ったがヲ 目標言語の学習 において,学習者 人ひとりが抱える課題はさまざまであり,第1ステーンにお いて蹟いた者もいれば,第4ステージにおいて認証を重ねた者もいたであろう。 そのため,各ステーンにおいてヲ学習者の出来栄えをチェックする振り返りシー トの活用や,小テストなどの評価を利用し,どのステーンにおいて,どの程度の 理解が進んでいるのかを学習者・教師ともに明確にしていくことはヲ学習者自身 の学習状況を把握する意味で重要なことであると考えられる。 次節ではヲ第二言語習得モデノレの第 5ステーシにあるアウトブット (Output)の 基本的概念および役害1'に注目し,本質に迫る。また,吉住(2017)の教育実践をア ウトブットの観点から考察する。

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4 アウトプットとは 4. 1 アウトブットの基本的概念 表1にあるようにヲ第二言語習得モデノレにおいてヲアウトブットは第5ステー シに位置づけられているがヲこれを独立した段階とするより,言語習得のブロセ ス を , さ ら に み え る 形 に 「 具 現 化 」 し て い く 過 程 と し て 捉 え る へ き だ と し た (Gassラ 1997)。 そ れ で は , こ の ア ウ ト ブ ッ ト は , 第 二 言 語 習 得 理 論 に お い て ヲ ど の よ う な 概 念 と い え る の だ ろ う か 。 ま ず ヲ ア ウ ト ブ ッ ト の 本質に着目した Swain(l985)の言葉を拝見する。

Simply ge出ngone's message across can and does occur wi廿1grammatically deviant

forms and sociolinguistically inappropriate language.N egotiating meaning needs to lllcorporate由enotion ofbeing pushed toward the delivery ofa message也前isnot OJUy co肝 eyedラ butthat is conveyed prec問 ly,ωheren吐y,and appropriately (p.249)

上記のようにヲ発話者が「話すこと」の目的をヲ単に伝えるへきメッセーシの 大 ま か な 「 意 味 を 伝 え る こ と 」 と 位 置 づ け る と ヲ 文 法 的 な エ ラ ー や TPO(Time, Place, Occasion)を軽視したヲ相応しくない表現をも含むことになってしまう。 よって Swainは,発話者は聞き手である相手に意図するメッセ-:/をヲ正確に (precisely)ヲ 筋 の 通 っ た 形 で(coherently)ヲ 適 切 に (appropriately)産 出 し て い く こ と が ア ウ ト ブ ッ ト の 本賞であると主張し,メッセ-:/の意味 交 渉(negotiating meaning)に必要不可欠だとした。これはヲ学習者が単に「英語に触れている」だ けでは,不十分であることに警笛を鳴らしている。このようにヲ発話者が伝えた いと願う内容がヲ 聞き手である相手に届くようにヲ言語産出時に使うべき表現に 注意を払っていくことが求められるのである。 4. 2 アウトブットの役jl;11 アウトブットの役害'1については, Swain(1985)の 研 究 を 機 に ヲ そ の 重 要 性 が 注 目されるようになった。そして,それ以来継続的に行われた Swain(1995,1998ラ 2005)の研究やヲ deBot(1996)などからヲ第二言語習得において 4つの主な役寄lが あるとした(村野井ヲ 2011) 。 本 節 で は , こ れ ら の 文 献 を 軸 と し な が ら , 吉 住 (2017)の教育実践との関連を振り返る。 まず Swain(1995,2005)から,アウトブットの第1の役害'1としてヲ「気づくこと」 (noticing)が挙げられ, 目 標 言 語 を 発 話 す る 際 に ヲ 学 習 者 は意識 的 に 知 っ て い る ことと,知らないことに気づくようになる。言い換えれば,実際に話す場面にお いて発話してみることでヲ学習者はイ可が言えて,言えないのかを把握することが 2fj

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できる。ここで Swain(1998)は,学習者は言語的なエラー (linguisticproblems)に 注 目 す る よ う に な る と し て お り ヲ い わ ゆ る 自 身 の 中 間 言 語(interlanguage)にみら れる穴 (hole) に対~,意識的な気づきをもつことによって,学習者がその目標言 語でヲイ可ができるのかを知るきっかけになるとした。そして, 目標言語と自身の 中間言語との聞のギャッブに注目し始め,その溝を埋めようとヲあらゆる問題点 に目を向けるようになる。このように「探っていく」ことは, 目標言語を学習す る際に重要な役割を担うのである。吉住 (2017)の教育実践において,図1にある ようなアウトプットに繋げていく一連の言語活動を学習者は経験~,最終的に 「学習者は英語を実際に使うことが,自身の英語で何ができて何ができないのか を知るきっかけとなったようである J(p.51)とあるようにヲ本質を捉えたアウト プットを行う機会をもつことの意義と,学習者自身の知識と, 目標言語の聞にみ られるギャッブに気づいていくことの重要性を再確認することができる。 次 に ヲ 第 2 の 役 割 と し て Sw創n(1995,2005)は ヲ 「 仮 説 検 証 J(hypothesis testing)を 挙 げ て い る 。 目 標 言 語 を 使 用 し な が ら 会 話 を す る 際 ヲ 伝 え た い メ ッ セ ージがヲ 意図した形で伝わっているかどうかヲアウトプットすることによりヲ検 証することができるというものである。さらにヲ他者から得られたフィードハッ クをもとに,次に発声される言葉の言い換えを行ったりしながらヲ調整すること ができるのも特徴であり, 目標言語の知識を深めていきながらヲ新たな仮説を立 てヲそれを検証するのである。このサイクノレを通してヲ学習者は何が上手にできヲ できないのかを試すことができる。またヲ前述の Gass(1997)にあったようにヲこ の仮説検証は,学習者自身がもっている知識と,外から入ってくる正しいインプ ットとの整合性を再確認していくことでも可能であるため,一概にアウトプット のみの効果であるとはいえないことは注意したい。吉住(2017)の教育実践を振り 返 る と , イ ン プ ッ ト さ れ た 単 語 や 文

J

去を,どの程度実際に「使えるのか J

r

作 れ るのか」学習者が検証している場面があったが,学んだことをアウトプットする ことで,より確信がもてるようになったことであろう。このように,学習者自身 のもっている知識がヲ正しい形なのかどうかを再確認していくことはヲ 目標言語 を学習するうえで,重要なプロセスであるといえる。 第 3 の 役 劃 と し て , 村 野 井(2011) が い う よ う な 「 統 合 的 処 理 J(syntactic processing)が挙げられる。 学 習 者 が ア ウ ト プ ッ ト を す る 効 果 に つ い て は ,

"to move the learner from a purely semantic analysis of the language to a syntactic analysis of it" (Swain, 1985, p.252)とあるよう

にヲし、かに学習者を「意味的 J(semantic)理解からヲ「統語的 J(syntactic)理 解 へ

と移行させられるかがカギとなる。ここでの「意味的」とは,テキストを聞いた

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程のことを指す。これは,外からのインプットを理解していく際に重視される。 しかしヲ話したり書いたりするようなヲいわば「発信する」ことを目的とする場 合 ヲ 前 述 の 意 味 理 解 に 加 え 統 語 的 」 な 処 理 , い わ ゆ る 文 の 構 造 に 着 目 し て い く,文法的な処理が必要となってくる(村野井, 2006)。したがって Swain(l995) では,学習者が「意味的」理解を進めていくと同時に, 目標言語の「統語的」処 理に対する興味をもたせ,それらに着目していけるようなタスク活動が推奨され る と し て い る。ま た , ベ ア 活 動 な ど に お い て , rnetatalk(1998)や collaborative díalogue(1995 , 2000) を通~,互いの知識をもとに協力しながらヲ自分たちが発し たアウトプットについて話し合い, 目標言語を使用していく過程において,さま ざまな問題を解決していったりヲ正しい文法に関する知識を高めたりすることでヲ Eいが必要なサポートを得ることができるとされる。吉住(2017)の教育実践にお いては,随所にベア・ワークを導入した結果,メッセージを伝えたい相手の存在 を意識するようになり,相手の意見などを「聞く」姿勢が高まった。学習者は, 相手をコミュニケーションの対象と捉えヲベア・ワークを肯定的に支持した。ま たヲ拍出された意見のなかにヲ英語の文章の作り方やヲ五いが作成した表現につ いて話し合いヲ 意見交換するなどヲ Eいの英語の「出来栄えをチェックし合う効 果 J(p.51)が期待できたと報告している。このような活動を通すことでヲアウト プットする機会を増やすことに繋がるだけでなくヲベアと協働しながら,文構造 に意識を向けるようになることでヲ言語学習がより主体的に進んでいくと考えら れる。 第4の役割としてはヲ deBot(1996)の「自動化 J(automatization)が挙げられる。 ここでいう「自動化」は,多くの発信型の練習を繰り返すことで, 目標言語のあ らゆる表現を流暢に使用できるようになることを指す。これを達成していくため には,“ the locus of the effect of output must be in the transition of declarative to procedural knowledge"(p.549)と あ る よ う に , よ り 多 く の

「宣言的知識 J(declarative knowledge)を 手 続 き 的 知 識 J(procedural

knowledge)に移行していく必要がある。前者に関しては,これ自体は外からの インプットで生成され,メッセージを発信する際にヲ必要に応じて利用すること のできる知識を指している。 しかし,一つひとつの断片的な知識を意識的に取り 出す必要がありヲ言語処理に時間と負荷が掛かる。一方,繰り返しアウトプット す る こ と に よ り 自 動 化 」 が 進 む こ と で 後 者 の 知 識 と な り , 蓄 え ら え た情報 は 意識せずとも利用可能になるのである。ゆえに,言語処理プロセスに掛かる負担 は 滅 り ヲ 素 早 く 必 要 な情報を利用できるようになる。このような「手続き化」 (proceduralization)を 進 め て い く こ と で , よ り ま と ま り の あ る情報 を コ ン ト ロ ー ルできるようになる。つまり,これが「自動化 J(automatization)に寄与するので 23

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ある。吉住 (2017)を振り返るとヲ 連の活動を経験した学習者の反応のなかにヲ 「文章」を作成していくことに対する蹟きがあった。英単語一つひとつの意味理 解があるにもかかわらず,それらを繋ぎ合わせ,まとまった表現にしていく段階 において行き詰まっていたことからヲ「手続き的知識」として定着していない部 分が依然として大きいことが,理論上いえるのである。 以上のことを踏まえ,これからの英語教育において,アウトプットの動向をさ らに強化していく必要があるが,そのなかで学習者は,英語で何がどの程度まで できるようになればよいのだろうか。次節ではヲ「言語活動の高度化」と関連付 けながら,議論を深める。 5.

r

言語活動の高度化」に向けて 文 部 科 学 省 (2014)は ヲ こ れ か ら の 日 本 社 会 が ヲ 急 速 に 進 行 す る グ ロ ー ハ ノレイヒに対応していくためにはヲ「英語力の 層 の 充 実 」 が 必 要 不 可 欠 と し た う え で ヲ 今 後 の 英 語 教 育 に お け る 改 善 の 方 向 性 を 示 し た 。 そ の 結 果 , 高 等 学 校 に お い て は ヲ 「 言 語 活 動 の 高 度 化 」 が 明 記 さ れ ヲ 英 語 に よ る 発 表 や 交 渉 ヲ 討 論 な ど の 活 動 を 推 進 し て い る 。 し か し ヲ こ れ ら の 活 動 は ヲ 実 際 の 授 業 に 十 分 に 取 り 入 れ ら れ て い る と は い え な い 。 例 え ば , 文 部 科 学 省 (2016)が 実 施 し た 高 等 学 校 の EF工 学 習 者 を 対 象 と し た 意 識 調 査 に よ る と 英 語 で ス ピ ー チ や プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を し て い た と 思 い ま す か 」 の 質 問 に 対 す る 肯 定 的 な 回 答 を し た の は3割 程 度 と 少 な く 英 語 で デ 、 イ ヘ ー ト や デ イ ス カ ッ シ ョ ン を し て い た と 思 い ま す か 」 の質問にはヲ 2割 弱 に 留 ま る 結 果 と な っ て い る 。 さ ら に 話 す こ と 」 や 「書く こ と 」 の 力 が 高 い 者 ほ ど , これらの質問に対~.より肯定的な回答を示す傾向があり,高度な言語 活 動 に は , よ り 高 い レ ベ ノ レ の 「 英 語 で 発 信 す る 」 力 が 必 要 で あ る こ と が わかる。 こ の よ う に 言 語 活 動 の 高 度 化 」 を 進 め て い く う え で ヲ 学 習 者 の 英 語 の 習 熟 度 を 考 慮 し て い く 必 要 が あ る が ヲ そ も そ も , 英 語 に よ る 発 表 や 交 渉 , 討 論 な ど の 活 動 に 参 加 し て い く こ と で ヲ ど の よ う な ス キ ル が 身 に 付 く と い え る の だ ろ う か 。 本 節 で は , 文 部 科 学 省 (2014)が 明 記 し た 「 言 語 活 動 の 高 度 化 」 に と も な い ヲ 高 度 な 活 動 を 通 し て育成 さ れ る 力 に つ い て 議 論 を 進 め な が ら , 吉 住 (2017) の 教 育 実 践 に お い て , 学 習 者 は , ど の よ う な 「 話 す こ と 」 の 力 を 身 に 付 け た の か に つ い て 理 論 的 に 振 り 返 る 。 前 述 の よ う な 「 言 語 活 動 の 高 度 化 」 に と も な い ヲ 英 語 に よ る 発 表 や 交 渉 , 討 論 な ど の 高 度 な 活 動 か ら 得 ら れ る 力 に つ い て 議 論 を 進 め る 際 に ,

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こ れ は , 学 習 者 が 4つ の 「 柱 」 で 構 三 浦 (2014)が 提 唱 す る 「 英 語 行 動 力 」 が 参 考 と な る 。 英 語 で で き る よ う に な る べ き 力 の こ と を 示 し て お り ヲ 成 さ れ る 。 下 の 図 2は , そ れ を 図 式 化 し た も の で あ る 。 ④ 掌 ︿ 符 デ イ べ l トカ ③ 怠 ︿ 路 交 渉 カ 骨掌︿符プレぞン テ l シ ヨ ン カ 心 英 裕 授 業 参 加 カ 4つ の 英 語 行 動 力 ま ず ヲ ① 「 英 語 授 業 参 加 力 」 は ヲ 他 の 力 を 支 え る 基 盤 と し て 位 置 つ け ら れ ヲ 授 業 の な か で 取 り 扱 わ れ る さ ま ざ ま な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 に ヲ 学 習 者 が 主 体 的 に 英 語 で 参 加 し ヲ 実 際 に 行 動 に 移 す こ と の で き る 力 の こ と を 指 す 。 入 門 レ ベ ノ レ の 言 語 活 動 と し て は ヲ guided composition や guided conversationな ど が あ り , 既 習 の 英 文 や 会 話 ス ク リ ブ ト の 郁をヲ 学 習 者 の 独劃的 な 内 容 に し て い く よ う な 活 動 が 挙 げ ら れ る 。 他 に も ヲ

picture differencesや picture reproduction があり,入門レベノレに慣れ た 後 に , 英 語 が情報 格 差 を 埋 め る た め の ツ ー ル と し て ヲ 機 能 す る よ う な 活 動 も あ る 。 こ の よ う に 英 語 授 業 参 加 力 」 は 「 言 語 活 動 の 高 度 化 」 を 目 指 す う え で , 必 須 の 柱 と い え よ う 。 続 い て , 前 述 の よ う な 英 語 の 行 動 力 で あ る 土 台 形 成 を 試 み な が ら ヲ ② 「 英 語 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン カ 」 の 柱 が 立 つ と さ れ る 。 こ れ は , 英 語 で 発 表 す る 活 動 に ヲ 積極 的 に 参 加 で き る 力 の こ と を 指 す 。 イ 可 か を 発 表 す る と き に は , 話 し 手 に は 客 観 性 が 求 め ら れ , 事 前 準 備 の 際 の情報 整 理 は 勿 論 の こ と ヲ 発 表 中 に も さ ま ざ ま な 技 術 が 必 要 と な る 。 ま た , こ こ で の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン カ は , 話 し 手 の み な ら ず , 聞 き 手 と し て の 行 動 力 も 含 む と さ れ る 。 す な わ ち , 聴 衆 と し て の 役 割 に も 目 を 向 け る た め ヲ 単 に 発 表 が 上 手 に で き る と い う こ と で , 学 習 者 は 満 足 す べ き で は な い こ と を 示 唆 し て い る 。 そ し て , ③ の 「 英 語 交 渉 力 」 に お い て は ヲ 英 語 で negotiate, つ ま り 交 渉 し 和 解 で き る 行 動 力 の こ と を 指 す 。 高 校 レ ヘ ノ レ に お い て は ヲ 世 間 で 話 題 に な る ニ ュ ー ス な ど に つ い て , 他 者 が ど の よ う に 考 え ・ 思 う の か 質 問 し 合 い ヲ 意 見 交 換 を す る よ ?JJ 図2

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う な 内 容 の 活 動 が 考 え ら れ る 。 また , 困 難 な 場 面 に 遭 遇 し た 際 の,打開 策 な ど を 表 現 す る 力 の 育 成 も目指 す こ と に な る。 最 後 の ④ 「 英語 デ ィ ベ ー ト カ」 は , そ の 名 の 通 り ,英 語で 討 論 で き る 力 の こ と を 指 し , 賛 否両 論 の あ る 事 柄 に 対 し , 根 拠 立 て を 行 い , 確 認 し 合 い な が ら , 双 方 の 議 論 を 展 開 し て い く 。 そ の た め, 問 題 提 起 に対す る 解 決 策 や 打開 策 , 妥 協 策 に 辿 り 着 こ う と 協 働 し て い く 点 が , 最 大 の 魅 力 で あ る 。 し か し , 普段の 授 業 で 取 り 扱 う 内 容 を 表 面 的 に学 習 し て も , 常 日 頃 か ら 批 判 的思 考を養 う 取 り 組 み を し て い な け れば , デ イヘ ー ト カ は な か な か 育 た な い と 懸念 される。 上述 の よ う に,三浦(2014)が 提唱す る 「英 語 行 動 力」に は,4つ の 「柱」があり,それぞれ に 特徴 がある。 こ こ で , こ れ ら の概念 をも と に 吉 住 (2017)の 「 話 す こ と 」 の 力 の 伸長 を 目 指 し た 教 育 実 践 を 振 り返る と, 主 に , 最 初 の 基 盤 で あ る 「英 語 授業 参 加 カ」 の育 成 に , 特 化 し て い たと 考 えられ る。 実践では, 事前準 備を 念 入 り に 終 わ ら せ たの ち 話 す こ と j に 苦 手 意 識 の あ る 学 習 者 に対す る手だ て と し て 複 数 の 技 能 を 統 合 し て 使 う 活 動Jを , 図 1のように段階 的 に 取 り 入 れ た。 そ の 際 他 の 技 能 の 力 を 借 り な が ら 英語 で 話 す こ と へ の不 安 や 抵抗を 少 し で も 補 う J(p 44)工夫を し たことで, 学習 者の 「 話 す こ とJへ の 意 識 が 高 ま り , 英語で 言 い た い こ と を ア ウ ト プ ッ ト す る こ と に 繋 が っ た 。 ま た , 図 1の段階 [[[ で は , 題 目 の 選 択 に 柔 軟 性 を も た せ た こ と で , よ り 多 く の 学 習 者 の 活動 へ の 参 加 意 欲 を 高 め た 。 さらに , ベ ア ・ワ ー ク を 通 し て , 話 し 手は聞き 手 を 「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 相 手Jと 位 置 づ け,相 手 の 存 在 を 意識 しな が ら 英 語 に よ る 対 話 を行い, 意見交 換な ど か ら , 互いの 作 成 した 英 語に 興味 を 抱 く こ と が で きたよ う で あ る。これら の こ と か ら , 主 に 英語 行 動 力」を 高 め る こ と を 目標と した 連の 言 語 活 動 で あ っ た と 解釈 で きる。 白 おわりに 過 去 に 行 っ た 吉 住(2017)の教育実 践で は 複 数 の 技 能 を 統 合 し た言語活動j を普段の授業に導入し,学習 者の 反 応 か ら 話 す こ とJの指導の方向性を明ら かにしていった。本稿では, この実 践をもとに,

r

話 すことjの 現 状と課題 を 理 論 的 に 考 察 し た 。 ま ず Gass(1997)が提唱する第二言語習得モデノレを参考 にしながら,学習者はどの段階において

E

置いているのかを明確化していくことは, 「話すこと Jの 力 の育 成 に向け て 指 導 上 参 考 に な るで あろう。 次に, Swain( 1985)では,アウトプットの本質に迫り,概ね 「意味を伝えることJで満

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足 す る の で は な く , 聞 き 手 で あ る 相 手 に , 正 確 に (precisely), 筋 の 通 っ た 形 で (coherently)ヲ適切に (appropriately)産出していくことが重要であることをまとめ た。さらに,アウトブットの主な役害1'について議論を深めながら,吉

f

主の教育実 践を振り返った。学習者は英語を産出することで, 自身の英語でできることに気 づき検証を重ねた。また,ベア・ワークを通し意見交換をする過程において,互 いの英語に意識を向けるようになった。そして,繰り返し発話の練習をしていく こ と で 「 自 動 イ じ 」 に 寄 与 す る こ と を 確 認 し た 。 最 後 に 言 語 活 動 の高度化」 に は 多 く の 課 題 が あ る こ と を 踏 ま え な が ら ヲ 実 際 に 発 表 や 交 渉 , 討 論 な ど の 活 動 を 通 し , ど の よ う な 力 が 身 に 付 く の か を , 三 浦(2014)の 「 英 語 行 動 力 」 の 概 念 を も と に 議 論 を 深 め た 。 そ し て ヲ 吉 住 の 教 育 実 践 に お い て は, 高度 な 言 語 活 動 を 支 え る 基 盤 と し て の 役 害1'を 果 た す 「 英 語 授 業 参 加 力 」 の 育 成 を 重 視 し て い た こ と が わ か っ て き た 。 最 後 に ヲ こ れ か ら の高等 学 校 の 英 語 教 育 に お い て ヲ 「 言 語 活 動 の高度化」 の 充 実 を 図 る こ と は ヲ 今 後 よ り い っ そ う 求 め ら れ る で あ ろ う 。 し か し , より高度 な 言 語 活 動 を 導 入 す る 際 , 図2の

r

4つ の 英 語 行 動 力 」 に お い て 全 体 を 支 え る 「 英 語 授 業 参 加 力 」 が ヲ 十 分 に 育 成 さ れ て い る だ け で な く , 英 語 力 お よ び高度 な 活 動 に 対 応 す る 技 術 的 な 力 の 向 上 も 要 す る こ と を 忘 れ で は な ら な い 。 ま た , 吉 住 (2017 ) で は , 発 話 ま で の 準 備 を 徹 底 し た 授 業 デ ザ イ ン を 採 用 し て い た が , 十 分 な 事 前 準 備 が 行 え な い 場 面 を 想 定 し た ス ピ ー キ ン グ カ 育 成 の 指 噂 の あ り 方 を 追 究 し て い く こ と も 課 題 で あ る 。 こ れ ら の 点 を 踏 ま え ヲ 学 習 者 が 「 言 語 活 動 の高度 化 」 の 前 に 立 ち は だ か る 壁 を 乗 り 越 え る た め の 足 場 づ く り (scaffolding)と し て 機 能 す る ア ウ ト ブ ッ ト 活 動 の 考 案 を し て い く 必 要 が あ る 。 前 述 の 教 育 実 践 に お い て ヲ 学習者 は 伝 え た い こ と を ヲ よ り ま と ま り の あ る 形 に 繋 げ る こ と へ の 苦 手 意 識 を 確 認 し た が , こ の 結 果 を 受 け ヲ 具 体 的 な 言 語 活 動 の 考 案 と し て , 聞いたり 読 ん だ り し た も の を 再 び 構 築 す る 「 リ テ リ ン グ 」 を 取 り 上 げ , そ の 概 念 お よ び 可 能 性 に つ い て ま と め て い く 。 引 用 文 献

de Bot, K. (1996). The psycholinguistics of output hypothesis Language Learning, 46(3), 529-555

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