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〈書評〉大和田敢太 著『フランスにおける労働組合の代表権能の動揺と再生』(滋賀大学経済学部研究叢書第49号) 滋賀大学経済学部 2015

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152 彦根論叢 2016 spring / No.407

大和田敢太

フランスに おける労働組合

代表権能の動揺と再生』

(滋賀大学経済学部研究叢書第49号)

滋賀大学経済学部

2015年、253pp.

I

本書の目的

 本書は

1980

年代以降の現代フランス労働法の 諸問題を「労働組合の代表性」という視点から統 一的に分析し整理したものである。分析の直接の 対象は立法資料や労働裁判の判決文などが中心 であるが、それらを正確に理解するため、多くの関 連する判決文、論文、研究書、官公庁資料、労組 関係資料、政党関係資料、新聞、独自インタビュー、

TV

報道などの様々な素材を縦横に用いて分析対 象を色彩鮮やかに描写し、客観的で説得的な議 論を積み上げている点で、現代フランス労働法や 労働運動、さらにはフランスの政治・社会を正確 に知るための研究書・専門書として、さらには文献 資料としても十分な価値を持っていると考える。

II

本書の課題と構成

 今日、グローバル化や情報化、非正規労働者や 失業者の増大、社会的格差の増大などの諸要因 によって世界の労働組合運動は動揺と再生の過 程にある。このことはフランスでも例外ではない。 しかし、フランスでは長年にわたって蓄積された 労働運動の伝統や

EU

の市場統合という事情もあ り、それらの要因がもたらす構造的問題が問題を 複雑化させ、深刻化させるといった逆説的な状況 が出現した。こうした状況を統一的に分析する視 近藤學 Manabu Kondo 滋賀大学 / 名誉教授 点として、著者は「労働組合の代表性」という視点 を導入した。  こうした分析視点の設定の意義は次の点にあろ う。第一はフランスにおいても、「労働組合の制度 化」にもかかわらず、組合の組織率は顕著に低下し ているという事情がある。労働運動の更なる前進 を展望するためには、従来の組織化から外れた 人々、例えば未組織労働者、非正規労働者、失業 者、下請け企業の労働者、海外支店の労働者など の声無き声を「制度化された労働組合」がどのよう に吸収し、これらの声を代表してきたのかという視 点が欠かせないであろう。第二は、「労働組合権」 の拡張という一貫した歴史的傾向の中で、「労働 組合の市民団体化」や「非営利法人化」が顕著と なっているが、そのことが「労働組合権」と「結社の 自由」との法的境界線を希薄化し、労働組合の存 在意義を問い直しているのである。第三は、これま での労働運動により達成された労働運動全体の 成果が他の社会制度の発展(失業保険、退職手 当、年金、医療、介護、環境政策など)や政治改革 (欧州統合、欧州社会憲章、ヨーロッパ社会主義、 高度福祉国家、アメリカ型グローバリゼーション への対抗など)とどのように関わっているのかを分 析する必要があるが、その際、労働組合の代表性 という視点を設定することによって労働運動の功 罪を大局的・総合的に分析できる重要な分析視 点が設定できるということである。そして第四に、 書評

(2)

153 大和田敢太 著『フランスにおける労働組合の代表権能の動揺と再生』 近藤學 単独の企業内労働組合による職場秩序を当然の 前提として受け入れている日本の現状(例えばユニ オン・ショップ制や「御用組合」)に対し、既存の 労働組合の代表性を問うことはフランスだけの問 題ではなく、日本の労働組合の特殊性をも照射す る問題設定となっているということである。  こうした課題設定の下で、著者は次のように本 書を構成している。  第一章では

1980

年代から

2008

年までの労働 法分野の主要な法改正や様々な事件を解説し、 現代フランス労働法の現状を紹介し概説を与える (第一節、第二節)と共に、本書の課題設定につい てやや詳細に説明している。(第三∼第五節)  第二章では

80

年代初頭のミッテラン政権登場 以降に顕在化した「労働組合の代表権能の動揺」 を中心に分析している。  第三章では「労働組合代表制度の再生」に関し、 その具体例として

2008

年法改革の意義と内容を 中心に検討している。  第四章ではこれからの労働運動に影響を与え る要因としてグローバリゼーション(それはアメリ カ的なそれと

EU

的なそれを区別しているが)や情 報化(インターネットやメールなど)に注目し、それ らが労働法の問題や労働組合運動にどのように 影響するか、また逆にどのような可能性を生み出 すかを分析している。  第五章では典型的な多国籍企業である「エール フランスの社会・倫理憲章」や「無料スト」の問題 を取り上げて国民の交通権と労働者の基本的権 利が交錯する問題に関し、フランス及び

EU

での 議論の到達点を紹介している。

III

本書の主要な論点

 本書の主要な論点について若干紹介してみよう。 まず、そもそも論であるが、フランスの労働組合に は

2

種ある。一つは

1950

年の労働法典で認められ た由緒正しい労働組合(規約届出要件などをクリ アしたもの。これらを「制度化された労働組合」と 呼ぶ)。他は「結社の自由」に基づいて勝手に結成 された労働組合(「制度化されていない労働組合」 「非営利法人としての労働組合」と呼ぶ)である。 そして、前者の労働組合も複数存在することが認 められており、後者の労働組合も複数存在するこ とがありうるということである。さらに、もう一つ忘 れてならないのは、従業員は全て何らかの労働組 合に所属しているわけではないという点である。す なわち従業員であってどの労働組合にも属さない 従業員も多数存在する。(最近は非所属者が

2

割 超を占めている)こうした状況はドイツ型の集団主 義的な労働組合とは異なるフランス型の個人主 義的労働組合の伝統的特色である。従って、職場 内には何らかの労働組合に所属する従業員と労 働組合に属さない従業員が存在し、この両者の声 を代表するために、職場にはわざわざ「企業委員 会」という労働組合とは別の機関があり、全従業 員の選挙によってこの委員が選出され、そこを通じ て全従業員の声が代表されるという構造になって いる。このように現実の職場では多数の正統派労 働組合や「非営利法人としての労働組合」が入り 乱れ、それぞれが労働者・従業員の支持を競い 合っている、という状況が存在している。これを「労 働組合の複数主義」という。この「労働組合の複 数主義」の伝統の下で、労働組合が国家権力に接 近し、ある場合にはそれを奪取し、補助金の交付 や各種公的機関のポスト、特権(例えば労働協約 締結権)の配分という状況になったとき、必然的に

(3)

154 彦根論叢 2016 spring / No.407 各労働組合の代表制資格如何という問題が発生 する訳である。  次に、上述した「労働組合複数主義」の労働現 場において、

1980

年代以降、労働組合の代表性 の動揺が進行したとされる。その意味するところ は以下のとおりである。  一つは、特に

90

年代以降、非正規労働者の増 大などにより、労働組合に入らない人々の増加 (

2004

年の労働統計では組織率は

8

%にまで低 下)、二つは労働組合以外の調整委員会方式や 「使用者による従業員による全員投票方式」を通 じた新しい代替的組織や手段の活用による労働 組合の役割の低下。第三に伝統的な産業別組合 組織と、職種別要求や企業内要求との齟齬(さら には「制度型労働組合運動(

CFDT

)」と「対決型 労働組合運動(

CGT

)」の路線対立とも関連)に よる組合組織の不適合(さらには組織分裂・細分 化)問題の発生、第四には政党・政権と労働組合 の関係の曖昧化(労働組合の独自性の喪失)など の多様な症候群を表している。  次に、労働組合の代表権の再生とは以下のこと である。特に

90

年代後半にはこれまで代表的労 働組合としては見なされてこなかった労働組合が 伸張したり、また職際的労働組合に代わって職種 的労働組合が支持を集め、力を伸張してきたこと。 また、労働組合の運動方向として、これまでの伝 統的な相対的多数の労働者の「異議申し立て運 動」から労働者一般の利益代表者として立法闘争 に傾斜した「提案型運動」への変化が起こったこ と。特に

1997

年の労働審判選挙(候補者を

5

大労 組に限定してきた)と失業者問題を契機として、労 働組合代表制度の抜本的改革の必要性が顕在 化した。他方で、

1998

年、「労働時間短縮に関す る促進・誘導法(通称、オブリ法)」により週

35

時 間労働制を立法化し、フランス労働運動は歴史 的な労働時間改革を成功させた。こうした経緯を 経て

2005

年、ヴィルパン首相はコンセイユデタ議 長に対し現行の労働組合代表性準則の改革を指 示し、ついに労働法典(

1950

年)の改正が俎上に 上ることとなり、これまでの判例の中で重視されて きた労働組合活動の影響力(オディアンス)という 基準を新法に盛り込むこととなり、

2008

年の法改 正により労働組合の代表性の客観化(オディアン ス制度の導入)が図られたのであった。  

2008

年法によるオディアンス制度の導入は、組 織率や組合員数という量的概念ではなく、労働者 の支持という実質的な影響力とその背後にある組 合活動の実践という質的概念に立脚する労働組 合の代表性認定制度へと画期的な変化をもたら したとされる。具体的には、企業内での労働組合 の実際の代表性を測定するのは、職業選挙(従業 員選挙)の結果だけであり、代表性認定の根拠を、 組合員数ではなく労働者の組合加盟から投票率 に重点を移すものであった。(「政党の影響力が、 公表された党員数によって決定されるのではなく、 選挙における得票に根拠をおくのと同様であ る」。)  このオディアンス測定のための新しい従業員選 挙は

2009.1.1

から

2012.12.31

まで各事業所で実 施され、

2013.3.29

にそのオディアンス(影響力) 評価による選挙結果が公表された。投票した労 働者は約

546

万人、投票率は

42.78

%となり、労働 審判選挙を上回った。これにより

5

大中央組織の 全てが予測どおり代表権を公認されると共に、相 対的な勢力分布も定まった。こうした選挙は今後

4

年ごとに実施されるという。  週

35

時間制の実現や公務員の争議権保障など、 日本から見れば信じられない高みにあるフランス 労働運動が、実は組織率

8

%にまで低落し、様々 な困難と問題点を抱えていたこと、それにもかかわ

(4)

155 大和田敢太 著『フランスにおける労働組合の代表権能の動揺と再生』 近藤學 らずその困難を克服しようと自己改革の努力を続 けていることは日本の労働運動にとっても、あるい は労働法学にとっても大いに刺激的で参考となる であろう。

IV

若干の要望

 最後に、若干の要望を述べておきたい。フラン スの労働運動の再生という総合的・実践的な課 題から見ると、本書の注視する「代表性」の問題は やや専門的・技術的な側面に限定され、フランス の労働運動が今後どのような方向に向かおうとし ているのか、またどのような社会改革を目指そうと しているのか、についての運動論や社会改革論に ついての論評は、規約改正問題や政党との競合 問題を除いては、殆ど禁欲し、言及されていないよ うに感じられた。こうした要求は本書の射程を超 えた問題であり、評者の無いものねだりであるかも しれないが、日本の労使関係の悲惨な現状(長時 間労働、ブラック企業やブラック・バイトなど)を 見るにつけ、フランスの労働組合の再生が、フラ ンス型自主管理社会主義や高度福祉国家とどの ように関連しているのか、こうした諸問題について 該博な著者の見解を聞きたくなるのは当然の成り 行きというものであろう。願わくば一章を設けて著 者の考えがもっと大胆に提起されても良かったの ではないかと考える。  しかしながら、労働運動の先進国フランスの取 り組みはその失敗面も含めてもっと知られて良い であろう。特に日本の労働運動への教訓として、憲 法裁判所の設置、労働審判所の設置、複数組合 主義、公務員の争議権保障、労働組合の政治活 動や選挙活動の容認、インターネットを使った労 組のオンラインキャンペーン、「無料スト」などは大 いに参考にすべきだと思われた。また、職場におけ る個人としての表現の自由(例えば原発反対や戦 争法反対のバッジ等の着用など)の権利はもっと 尊重されるべきではないか、と感じた。このように、 本書が労働問題に関わる様々な研究者や実務家、 改革派市民の関心に応え、日本の労使関係や労 働組合運動の現状をより深く理解し、改革に向か うための貴重な指針と素材を提供していることを 再度強調しておきたい。

参照

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