論 文
地 域 研 究 と は な に か 1
)
本
岡
武
は し が き 最 近, わが 国 において 「地 域研究」 とい う言葉 が しき りと使 用 され るよ うにな った。 た とえ ば,昭和38年 度文部省科 学研究費 において新 しく設 け られ た 「特 定研究」 に も, ア ジア ・ア フ リカの 「地域 研究」 が指定 されて い る。 と ころが , 「地 域研究 」 の概 念 は,わが 国 において は今 の と ころ,明確 に規 定 されて い ると はい えず , む しろ, い ろい ろ と勝手 に理解 されて い るよ うで あ る。 た とえば,地域研究 とは海 外 にお け る野外調査 (fieldsurvey)を意 味 して い ると理解 す るむ き もあ る。 また,海外 の あ る 地 域 の文献 的歴史 的研究 が地 域研究 で あ ると考 え る歴史 研究者 のグル ープ もい る。 あ るい は地 域 研究 を地 域経 済 分析 を 目的 とす る RegionalAnalysis(また は RegionalScience) 2)と混 同 する場合 も見 られ る。 さ らにまた,地域 研究 は ア メ リカ帝国主 義 の手段 にす ぎない と極 論 す る一 派 の声 も大 きい。 ま った く混沌 た る状 態 にあ るとい って も過 言 でなか ろ う。 しか し, も し, い まわが 国で いわれて い る地 域 研究 が ア メ リカ にお け る AreaStudies の訳 語 で あ るとす ると, この AreaStudiesにつ いて十 分 に理解 されて い ないか ら, この地 域研究 につ いて の混 乱 が生 まれ た ので はな いか と思 われ る。 も っと もア メ リカ において すで に Area Studies の概 念が規定 され , その方 法論 が 明確 に され , その体系 が整 備 されて い るか ど うか, きわ めて疑 問で あ る。 む しろ, まだ そ こまで はい って いない といえ よ う。少 な くと も, それ は ヨー ロ ッパ 大 陸 的, あ るい は ドイ ツ的な概 念規定 か ら出発 した もので はない。概念 規定 よ りも 実 践が先 行 し,実践 の うち に, あ るい は試行錯誤 の うちに, しだい に,体 系 が整備 され つつ あ るとい った ほ うが よい。 それ は,実証主 義 (pragmatism)に もとづ く研究 方 法 と して は当然 の 1) この 「地域研究」についての考え方は報告者の個人的なものであり,決 して京都大学東南アジア研究セ ンターとしての統一的な見解ではない。
2) RegionalAnalysisまたはRegionalScienceはペ ンシルバニア大学のアイザー ド教授が中心 となって 最近発展 してきた。定期刊行物としてはJournalofRegionalScienceがある。その派の主著 としては, Walterlsard,LocationandSpaceEconomy,1956,New York.MethodsofRegionalAnalysis, An IntroductiontoRegionalScience,ed.byWaiterIsard,1960,New Yorkがあげられる0
-過程 で あ ろ う。 したが って ,AreaStudies はい まだ に体 系化 の過程 にあ り,実践 と批判 の うちに形 成 され ゆ く道程 にあ るとい え よ う。 しか し,AreaStudiesが何 を 目的 と し, いか に組織 され て い っ て い るか, その お よその傾 向 あ るい はあ りか た は, は っき りとつか まえ る ことが で き る。 だか ら,地 域 研究 が AreaStudiesを意味 す るとすれ ば, ここに 「地 域研究 とはな にか」 と の問い にた い して , お よその答 を提 出す ることはで きよ うO わ た くLは幸 に1959-60年 コー ネ ル大学留 学 中 にア メ リカの地域 研究 につ いて , い ろい ろな機会 に接触 す る ことが で きた。翌61 年 には地 域研究 の実態 の調査 研究 のた め約10週 間 ア メ リカ に滞在 し, そのあ と ヨー ロ ッパ にお け る海外 研究 の状況 を瞥見 し,つ いで ア メ リカの研究者 の東 南 ア ジアにお け る現地 研究 の姿 に も触 れ る ことが で きた。1) こ こに,わ た くしの経 験 を とお して ,AreaStudies の意 味 にお け る地 域 研究 のだいたい の 特質 を 明 らか に した い と思 う2)。 もちろん , この ア メ リカにおいて発 達 した AreaStudiesが その ま まわが 国 に通 用 され るもので はない。 ア メ リカ とわが 国 との間 の,経 済 的 ・社会 的 ・文 化 的 な基 盤 の相違 , あ るい は具体 的 には大学制 度 な り研究 組織 な りの差異 は当然 に地 域 研究 の あ りか たを異 な ら しめ るで あ ろ う。 そ こで地域 研究 の特 質 を前 半 で述 べ ,後半 において その批 判 な らび にわが 国 にお け る地 域研 究 の あ りか た につ いて若干 述 べ たい と思 う。 Ⅰ アメ リカ におけ る地域 研究発 展の基盤 ア メ リカにおいて地 域研究 が最初 に発足 した のは, む しろ戦前1930年 代 - -バ ー ドその他 の 大学 において の ア メ リカそれ 自体 を対 象 とす る綜合 的研究 プ ログ ラムで あ った。 それ は ア メ リ カ文 明 を歴 史 ・社会 ・文学 ・芸 術 ・民族等 の人 文科学 的側面 か ら綜合 的 に理解 しよ うとす るも ので あ り,同時 にそれ を大学教 育 の ひ とつ の課 程 と した ので あ った。 あ る地域 の文 明をinter -departmentalに共 同研究 しよ うとい う態度 と, その研究 と教 育 との結合 こそ, 地域研 究 の ひ とつ の基 本 原理 で あ る。 第2次世界 戦争 に入 るとともに, フ ラ ンス語 ・ドイ ツ語以外 の外 国語 を教 育 す る ことの必要 が 俄か に高 ま った。 コ- ネル大学 にお け る ロシア語教 育が その先駆 を な した。 つ いで ,陸軍が ミシガ ン大学 ,海 軍 が スタ ンフ ォー ド大学 で 日本 語教 育 を 開始 した。 これ ら語学教 育 とな らん で, ロシアな り,東 欧な り, あ るい は 日本 な りの実態把 握 ,つ いで今後 の対 策 樹立 のため, こ 1) 1961年の調査旅行については,臼井二尚 ・棚瀬 爾 ・本間武,東南アジア研究にかんする視察旅行の報 普,謄写版,昭和36年を参照されたい。その要旨は本誌 pp.65-72に掲載 した。 2) 地域研究についての最も包括的な一連の論文はつぎのものである。中屋健一 ・井出義光稿,アメリカ研 究とは何か-その 1, 「地域研究」のおいたち, 日米フォーラム,昭和37年7月号.地域研究の目的と対象 (第2回),同上8月号.地域研究における綜合(第3回),同上9月号.アメリカ地域研究の組織(第4回), 同上10月号.アメ リカにおけるアメリカ文明研究プログラム,同上11月号. 日本におけるアメリカ研究 (節 6回),同上12月号. 「アメリカ研究」促進のための若干の問題,同上昭和38年 1月号∩
れ らの地 域 の研 究 な らび に教育 が 緊急 に要 請 せ られ た。 か くて , 各地 域 ご との調 査研 究 な らび に語学 教 育 が各 大 学 で 臨 時 的 に と りあげ られ た。
この戦 時 中 に発 展 した基 盤 の うえ に戦 後 ,組織 的 な地 域 研究 計 画 が主 要 大 学 に設 け られ た。 た とえ ば, わが 国 と関係 の深 い ミシガ ン大学 の CenterforJapaneseStudies は その典 型 的 な もので あ る。 そ して過 去 十 数年 の問 に, ア メ リカ にお け る地 域 研 究 は急激 な発 達 を見 るに至 っ た ので あ るO もち ろん そ の背 後 には,世 界 的 な規 模 にお け るア メ リカの対 外 政策 ,援 助政 策 の 展 開が あ る。 1961年 後半 期 の ア メ リカ読 書 界 で ,Non Fiction のベ ス トセ ラー第 1位 を数 週 間 にわ た って つ づ けた もの に 「羊 の よ うな国民 」1)が あ った。小 説 「醜 い ア メ リカ人」 の共 著 者 で あ った レ -デ ラーが ,東南 ア ジアを舞 台 と して の ア メ リカの対 外 政 策 の実情 を忌 押 な く批 判 した のが本 書 で あ るo これ が ベ ス トセ ラー第 1位 をつづ けた ことは,いか に対 外援 助が ア メ リカと して は 大 きな問題 で あ るか, ア メ リカ国民 の強 い関心 の的 にな って い るか を よ く示 して い る。 また 本 書 は, ア メ リカの対 外 援 助が順 調 に はゆか な い, む しろあ ま りに も多 くの困難 な条件 のた め に しば しば所 期 の 目的 とは ま った く逆 の結 果 にお ちい らざ るを え なか った ことを よ く説 明 して いる。 この 「羊 の よ うな国民 」 が よ く示 して い るよ うに, ア メ リカ と して は外 国 の正 確 な知識 が き わ めて必要 で あ る。 そ のた め には, 科 学 的組織 的 な基 礎 的研究 が 行 なわれ な けれ ば な らな い し, また外 国事情 の研 究 あ るい は広 い意 味 で の対 外 援 助 の ため に人 材 が養 成 され な け れ ば な ら な いo この研究 と教 育 の必 要 こそ,率 直 にい うと戦 後 ア メ リカの主 要 大学 にお け る地 域 研 究 計 画 発 展 の基 盤 で あ り, そ こには Pragmatism の精 神 が貫 ぬか れ て い る ことは明 らかで あ る。 だが , これ は地 域 研 究 発 展 の基 盤 で あ る。 わ た くLが , こ こで と くに強調 した い ことは, ア メ リカの諸 大 学 にお け る地 域 研 究 が , いわ ゆ る直接 的 な産 学協 同 とい うよ りも, は るか に迂 回 生 産 的 な研究 計 画 を と って い る ことで あ る。 いいか え る と, 個 々の研究対 象 は限 定 され て お り,研 究 方 法 の方 法論 的吟 味 が十 分 とは い え な いが進 め られ て お り,研 究 手段 と して 語 学 と文 献 が 重視 されて い る。 す なわ ち個 々の研 究 は きわ めて academic だ とい うことが で き る。 そ し て それ だ けの業績 が あげ られ て きて い る 。2' しば しば, 実証 主 義 な り産学共 同 とい う言葉 が 与 え る印象 とは (その印象 それ 自体 が正 しい とは思 われ ないが), 異 な って い る。個 々の研 究 の 多 くが , いわ ゆ る純 学 問 的, あ るい は基 礎 的 な もので あ る ことに注 意 すべ きで あ る。
1) William ∫.Lederer,A NationofSheep,1961,New York.
2) たとえばコ∼ネル大学が東南アジア研究計画に着手 してから10カ年の主要業績目録 (Studiessponso・
redoraidedbytheCornellSoutheastAsiaProgram,January,1961)に,その後今 日までの業績 を加えると,つぎのものがあげられる,なお, ここにあげたのは出版され市販に付せ られているものである が,これ以外に数多 くのmimeograph の形での刊行物がある,
7-StudiesSponsoredorAidedbytheCornellSoutheastAsiaProgram
THE CRESCENT AND THE RISING SUN. ⅠNDONESIAN ISLAM.byHarry∫.Benda. The Hague: W .vanHoeve,1958.
THE TEACHINGSOF THE COMPASSIONATE BUDDHA.byE.A.Burtt.New York:The New AmericanLibrary,1955.
A HISTORY OF MODERN BURMA. by John F. Cady. Ithaca,New York: Cornell UniversityPress,1958,rev.ed.1960.
THE ROOTSOFFRENCH IMPERIALISM IN EASTERN ASIA. byJohnF.Cady. Ithaca,
New York: CornellUniversityPress,1954.
CONFLICTININDO-CHINA ANDINTERNATIONALREPERCUSSIONS:A DOCUMENTARY HISTORY,1945-1955.byAllanB.Cole. Ithaca,New York:CornellUniversityPress,1956. VILLAGE LIFE IN MODERN THAILAND.byJohnE.deYoung.Berkeley: Universityof CaliforniaPress,1955.
AN INDONESIAN-ENGLISH DICTIONARY.byJohnM.EcholsandHassanSha°ily.Ithaca,
New York: CornellUniversityPress,1961.
THE DECLINE OF CONSTITUTIONAL DEMOCRACY IN INDONESIA.byHerbertFeith. Itbaca,New York: CornellUniversity Press,1962.
RUSEMBILAN: A MALAY FISHING VILLAGE IN SOUTHERN THAILAND.by Thomas M.Fraser.Ithaca,New York: CornellUniversityPress,1960.
TIENG ANH CHO NGUOI VIET (English forspeakersofVietnamese). by William W . Gage,etal.Washington,D.C.: AmericanCouncilofLearnedSocieties,1955.
THE PHLIIPPINES: A STUDY IN NATIONAL ECONOMIC DEVELOPMENT. by Frank H.Golay.Ithaca,New York: CornellUniversityPress,1961.
THEC0-OPERATIVE MOVEMNT IN INDONESIA.byMohammad Hatta.EditedbyGeorge McT.Kahin.Ithaca,New York: CornellUniversityPress,1957.
ECONOMICCHANGE IN THAILAND SINCE 1850.byJamesC.Ingram.Stanford:Stanford UniversityPress,1955.
A STUDY OFTHE ECONOMY OFA RICEGROWINGVILLAGE INCENTRALTHAILAND. byKamoIC.Janlekha.Bangkok:DivisionofAgriculturalEconomics,MinistryofAgriculture, 1957.
DESCRIPTIVE ANALYSIS AND HISTORICAL RECONSTRUCTION OF THE KAREN LANGUAGE.byR.B.Jones,Jr..Berkeley: UniversityofCaliforniaPress,1961.
1NTRODUCTION TO SPOKEN VIETNAMESE.byR.B.Jones,Jr.and HuynhSanhThong. Washington,D.C.: AmericanCouncilofLearnedSocieties,1957,rev.ed.1960.
THE BURMESE WRITING SYSTEM.byR.B.Jones,Jr.andU Khin.Washington,D.C.: AmericanCouncilofLearnedSocieties,1953.
THE ASIAN-AFRICAN CONFERENCE.BANDUNG,INDONESIA.April1955. byGeorge McT.Kahin.Ithaca,New York:CornellUniversityPress,1956.
GOVERNMENTSAND POLITICSOFSOUTHEAST ASIA. byGeorgeMcT.Kahin.Ithaca,
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NATIONALISM AND REVOLIJTION IN INDONESIA・byGeorge McT.Kahin.Ithaca,New York: CornellUniversityPress,1952.
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KU DAENG-THE RED TOMB: A VILLAGE STUDY IN NORTHERN THAILAND.by KonradKingshill.Bangkok,1960.
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Ⅲ
地 域 研 究 の 特 質 ア メ リカの主要 大学 におけ る地域研究 は, その組織 ,方 法 あ るい は対 象 な りにつ いて,細か くは, それぞれ異 な って お り,多種 多様 で あ る。 た とえば同 じ東南 アジア研究計画 と して も コ - ネル大学 とエール大学 との間 には,い ち じる しい相違 が あ り, それ ぞれ長短が あ る。 しか し, この よ うな多彩で はあ るが同時 に,各大学 の地域研究 をつ う じて の最大公約数 とも い うべ き特徴 ,す なわ ち共通性 な り同質性 な りが見 出 され る。 だか ら,地域研究 とはなにか と い う問い にたい して は,諸大学 の地域研究 において の共通 的な特徴 を求 めれ ば よい。 わた くLは, それ について ,以下 の諸点 を と りあげ ることがで きると思 う。 1. 研究 な らび に教育 の組織 の一体化 地 域研究 につ いてわが国で最 も誤解 されて い る点 は,Studiesを研究 と訳 して い ることにあ ると思 われ る。 しば しばア メ リカ で は AreaStudies とい う かわ りに AreaStudiesProgram とよばれて い るが, これ はわが国で は地域研究計画 と訳 され る。 この場合 も Studiesの訳語 が 問題 にな る。 いま適訳が見 当た らないが,Studiesは Researchと Education (あ るいは Trai n-ing) の 2つ の面 を もつ もので あ る。強 いてい うと,地域研究 ・教育 計画 と訳 され る べ きで はなか ろ うか。
地域研究教育計画 は,大学 院課程 に属 す るのが普通 で あ る。 む しろ,AreaStudiesとい うと きは,教育課程 が主 で あ り, この教育課程 の一環 と して研究 活動が行 なわれて い ると見 たほ う が よいか も しれ ない。す なわ ち,研究 活動 と して最 も活瀞 な, また意慾 的なの は博士課程大学 院学生 の学位論 文 のための調査研究 の よ うに見受 け られ, もちろん,教 官 や 研 究 員 (faculty andstaff)の研究 活動 も活瀞 で あ り,教官 ,研究員 お よび博士 課程大学院学生 の共 同研究 も行
事者 , したが って その業績 を あげてい るのは,質 的 にで はな くて量的 にい うと, その大多数 は 博士課程大学 院学生 , あ るいはその少 し上 の世代 の研究 員で あ る。 これを も う少 し説 明 す る と,地域研究で Ph.D.を得 よ うとす る大学 院学生 は, その専 門学科 (た とえば政治学)で資格 試験 をパ ス しなけれ ばな らない。 その うえで専攻地域 の研究 を行 な うわ けで あ るが, それ には 現地語 を習得 しなければな らず, その うえ少 な くとも現地 で 1年 以上調査研究 に従事 す る。 そ して そのあとで学位論文 を作成す る。 だか ら,普通 Ph・D・を とるのには 5年 かか るとすれ ば, 地域研究 の場合 は7年 かか る。 そ して ,学位論文 について は, さ らに現地調査 や文献調査 を追 加 し手 を加 えて 出版 され るものが多い。 だか ら, この大学院学生 と して の研究成果 の出版物 は 数が多いだけで な く,十年 近 くの全青春 の情 熱の成 果で あ る。注 目すべ きものが きわめて 多 い。 このよ うに,大学院課程 の教育 と研究 とが不可分 の関係 にあ る。 この点 , 自然科学 は とも か く,一部 をのぞ く社会科学部 門 において, ともすれ ば大学院学生 の研究成果 が高 く評価 され ないわが国 の実状 は反省 され るべ き余地が あ るので はなか ろ うかO かか る教育 と研究計画 との一体化 は, ア メ リカの大学院教育制 度の特質で あ り, また それを 可能 にす るだけの経済 的社会 的基盤 を無視す ることがで きない。 この点 また,わが国の新制大 学院制度が, と くに法文科系統 において,形式的 にア メ リカの大学院制 度を導入 しなが ら,実 質 的 には依然 と して 旧制大学 院制度か ら脱 しきれ ない矛盾が認 め られ なけれ ばな らない。 した が って, この地域研究 を理解す るため には, ア メ リカの大学院制度 の十分 な 理 解が 前 提 とな る。 ここにア メ リカの大学院制度 を述べ る紙数が ないのは遺憾 で あ る。 しか し, これ について は多 くの文献が あ るか ら,割愛 して さ しつか えない と思 われ る。1) 2 Inter-departmentと しての綜合研究組織 地域研究 の第2の特徴 は,特定地域 を対象 と して の,各専 門分野 の共同か らな る綜合 的研究 で あ ることに見 られ る。 地域研究が ア メ リカ文明の綜合研究 か ら出発 した ことか ら明 らかなよ うに,地域研究が 目的 とす る特定地域 の人文 ・社会 的現象 の理解 のためには,各専 門分野 の共同研究が必要不可欠 と な るO もともと対 象 とす る人文 ・社会 的現象 は綜合 的な現象で あ る。 だか らこれ には2つの理 由が あげ られ よ う。第 1にた とえば,あ る後進 国の経済 開発 にかんす る研究 を と りあげてみ よ う。 1) アメリカの大学院制度については,たとえばつぎの文献があげられよう :
BernardBerelson.GraduateEducationintheUnitedStates,McGraw-HillBookCompany,
Inc,1960.
Earl
∫
.
McGratb,TheGraduateSchoolandtheDeclineofLiberalEducation,Teachers College,ColumbiaUniversity,1960.大学基準協会編,外国における大学教育,昭和33年. - 1i
l-この場合 ,経 済発展 の理論 な り分析手段 な りを もって して は,到底解 決 しえない問題 に必 ずや 直面 す るで あろ う。 それ には,政治 的 な問題 ,伝統 的社会 的な問題 ,あ るい は民族 や言語 の問 題 で あ るか も知れ ない。 しか し,いずれ にせ よ,経済 学 だけで もって は解 決 しえない経済外 的 条件が経済 開発 の大 きな厚 い壁 とな って現 われ よ う。 これを解 決 す るため には,政治学者 な り, 文化人類学者 な り, あ るい は言語学者 の研究協 力を必要 とす る。 この場合 か ら して明 らか なよ うに,特定地域 の理解 のため には, あ る専 門分野か ら接 近 し, そ して その立場 か らす る研究 を 可能 なか ぎ り押 しすすめて ゆ くことが必要 で あ るが, この特定専 門分野か らの追及深化 の場合 には必ずや早 晩なん らかの壁 にぶ ちあた る。 この壁 を破 るためには,他 の専 門分野 の研究協 力 を待 たなけれ ばな らない。 この ことは, なに も地域研 究 にか ぎ らない。科学研究 の進歩 ととも に,協 同研究 の必要性 が認 め られて はい る。 しか し,研究者 が そ こで育 った地域 について お の ず か らなん らか の,あ るい はあ る程度 まで の知識 を身 につ いて い る場合 とはま った く異 な った, 本質 的 には
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で ない地域 を対 象 とす る場合 , と くに研究協 力が必要 なので あ る。 その第2は, と くに最近 の傾 向 と して注 目され る専 門分野 にお け る研究 の進歩発展 の影響で あ る。地域研究 は本 来, その地域 の文化 的 ・社会 的現象 を綜合 的 に把握理解 しよ うとす る。 そ のため には,言語 学 ・歴史学 ・地理学 ・宗教 学 ・文化人類学 ・政治学 ・経済 学等 の専 門分野 か ら深 化追及 され た研究が行 なわれ なけれ ばな らない。 ところが特定地域 にかんす る研究 の初期 の段 階 において は, その特定地 域 について は1人 で 「なんで も知 って い る」 とい う研究者が あ りえたわ けで あ る。 しか し, その 「なんで も知 って い る」 とい うのは, その範 囲 に しろ, その 深 さに しろ, いずれ も実 は限 られて いたので あ る。 いか に優 れ た研究者 といえ, その研究 の量 な らび に質 に限定 が あ るわ けで あ る。研究方 法 の深化,研究対 象 の広が りにつれて,個人 的 に な しうる範 囲 には限 りが あ るわ けで あ る。科 学 の進歩 に ともな って, い よいよ この限定が認識 され , ここにそれ ぞれ の専 門分 野か らの深化追及 を必要 な ら しめ るとともに,各専 門分野か ら の共同研究 を必要不 可欠 にす る。 3 現 代 研 究 の 重 視 あ る地域 の研究 について は,大 き くは歴史 的研究 と現代 的研究 とに分 け られ る。 か って ヨー ロ ッパ において発達 した海外研究 は,主 と して歴史学 的 あ るいは考 古学 的研究 で あ った。 た と えば, エ ジプ ト学 ・イ ン ド学 あ るいは シナ学 の輝 しい業績 が それを十分 に示 してい る。今 日な お ヨー ロバ ッにお け るア ジア研究 において は,考 古学 を中心 とす る歴史 的研究 の伝統 が きわめ て強 く,現代研究 につ いて の関心 は相対 的 に低 い し, また現代研究 を それ ほ ど学 問研究 と して 評価 しない傾 向が残 って い る。 もっとも最近 の新 しい動 きと して現代研究 -若 い研究者が積極 的 に参加 しよ うとす る動 きが見 られ る1)0 1) た とえば拙稿 , フランスにおけ る地域研究 ,学術月報,1963年2月号を参照 され たい。この ヨー ロ ッパ において発達 した伝統 的 な海外研 究 と, ア メ リカにお いて発達 した近代 的 な 地 域 研究 とは, この歴史 的研究 か現代 的研究 か とい う点で , ま った く対 照 的で あ る。 ただ し, 誤解 を さけたい点 は,地域研究 が決 して歴史 研究 を軽視 して いない ことで あ る。 (た とえば, これ まで歴 史 的研究 が比較 的 に少 なか った東 南 ア ジアの歴 史 につ いて ア メ リカにおいて最近続 々と出版 され た業績 を見 られ た い 。1)) しか し,地域研 究 にお け る歴史 的研究 は地 域研究 の本 来 の 目的 に もとづ いて, あ くまで も, 現代 を理解 す るた め の手段 で あ る。 だか ら,歴 史 的研究 の うちで も, と くに近代史 な り現代史 な りに重点 が 置かれ ,時代 を さか のぼ るにつれて 関心が うす くな るO 古代 史 あ るい は考 古学 的研究 は,地域研究 の枠 のなか には入 らない のが普通 で あ る。 だか ら, エ ジプ ト学 や シナ学 とは この点 で根本 的 に異 な る。地域研 究 が現代 を対 象 とす るだ けに,政治 学 的 , あ るい は経 済 学 的研究 が きわ めて重要 にな る。 また, この当面 の問題 の理解 の ため には, 文化人類学 的研 究 が歴史 的研究 以上 に (と くに歴史 的資料 を欠 いて い る場合)重視 されて くる 。 地 域研 究 は この意味 か ら して ,人文 ・社会 の両科学部 門 にまたが るが ,いずれ か とい うと, 社会 科学部 門 に属 す る。社会科 学 と人 文科学 との 区別 は容易で はない。何 を もって その境界 と す るか につ いて は議論 の余地 が大 きい。 しか し,少 な くとも社会 現 象 を対 象 と し,社会 意識 に 強 い関心 を もち, その社会経 済 的構造 を分析 す るとい う立 場 にお いて ,地域研 究が社会科 学 的 で あ るとい うことは明 らか に認 め られ よ う。 それで は, 自然科 学 との関係 は ど うな るで あ ろ うか。 これ は も うひ とつ の問題 で あ る。地域 研究 にお け る 自然 科学 的研究 は,社会 現 象 を理解 す るため の補 助的 な部 門 と して と りあっか わ れ よ う。 す なわ ち,特 定地 域 を理解 す るため には, その 自然 的基礎 , た とえば地形 ・気 候 ・地 質 ・土壌 ・水 ・植 物 ・動物 ・その他 自然資源 等 をで き るだ け明 らか にす る ことは必要 で あ る。 地域 研究 の立場 か らす ると 自然 科学 的研究 の成果 をで き るだ け利用すべ きなので あ る。 さ らに, いわ ゆ る 自然科学 のなか には公 衆衛生 学 の よ うに,広 い意味で の社会科 学 に属 す るもの もあ る 。 (注 意 すべ きは ア メ リカにお いて は公衆衛 生学が地域研究 のなか に と りいれ られて い る場合 も あ る。) なお, 自然科学 に属 す る技術 学 , た とえば農業 技術 学 な り地 下資源学 な りは,地 域研 究 のなか に含 まれ ない のが普通 で あ る。 しか し, それが地 域経 済 開発 のた め に不可欠 な研究 で あ るか ぎ り, そ して それが経 済 開発 とい う意識 の もとにおいて進 め られ るか ぎ り,広義 の地域 研究 のなか に含 め られて しか るべ きで あ ろ う。 この よ うに,地域研究 と 自然科学 との関係 は必 Lも明確 に規定 され ない。実 践 を とお して解 決 され ゆ くべ き問題 で あ る。 ただ, ア メ リカにお いて は, 自然 的基礎 にかんす る研究 や技術 学 的 な研究 は地域研究 の枠 のなか に含 め られて いな い ので あ る。
1) アメリカの東南アジアの歴史にかんする文献紹介として,D.G.E.Hall,OntheStudyofSoutheast AsianHistory,PacificAffairs,Vol.XXXⅢ,No.3,Sept.1960.を見よ。
3-4 言 語 教 育 の 強 調 地域研究 は言語教育 を重視 す る。調査地域 の言語 を習得 して調査研究 に従事 しなけれ ばな ら ない ことが, その重要 な特徴 とな る。 これ は第2次世界戦争 中 において の地域研究 の急激 な発達 の歴史 か ら明 らかで あろ う。研究 対象地域 の言語 をマ スターせず して は, その社会 に接触す ることがで きず, その社会 を理解 す ることがで きない とす るのが,地域研究 の基本 的な原則で あ る。 もともと外 国研究 に さい して, その国 の言葉 を習得 す る ことの必要性 は,いわず もが なで あ る。 だが ,第 2次世界 戦争 まで は, その外 国語 習得 とは主 と して読書 を さ して いた。 これ は文 献的研究 に重点が お かれた ことの 当然 の結果 で あ る。 しか し,第2次世界戦争以後 は,文献 的研 究 の重要 性 は決 して否 定 され ないが, さ らに研究対 象 の社会 に入 りこみ,身を もって対 象地域 の人 々に接触す ることの重要性 が強調 され るよ うにな った。 その 結 果 と して, しゃべ り聞 く とい う
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とな らんで重視 され るよ うにな った。 これ は, 当然 の こと とはい え よ うが,戦前 に くらべ ると, ま さ しく劃 期 的 な発展 で あ る。 た とえば,戦前 の 日本研 究 の外 国人学者 で 日本 滞在10年以上 にお よびなが ら, 日本語 が しゃべれず, しか も 日本 研究 の 大家 といわれ得 た もの もあ った。戦後 の 日本研究者が いか に 日本語 をた くみ にあやつ るか は, 誰 しも承 知 して い るところであろ う。 このよ うにo
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が地域研究 の基礎条件 で あ る とされ るだけに,o
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の教育方 法 の進歩発展 は, ま ことに 目ざま しい ものが あ る。 と くに,i
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と して短期 間 に集 中的 に教育 し,学生 を して現地語 を聞 き, しゃべ れ るよ うにす るための教育方法 は,地域研究教育計画 の重要 な一部門 とな る。 ア メ リカの各大学 の地 域研究計画 にお け る言語教育 の重視 , また教育方 法 の改善発展 は注 目 に値 しよ うO エール大学 に付 置 されて い る空軍 の極東語訓練計画 は地域研究教育計画 とはいえ ないが, しか し, それ は現地語 の教育 訓練 とい う立場 か ら,わ た くLには きわ めて興 味深 く思 われ た。5
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教 育 の 尊 重 しか し,言語教育が地 域研究教育計画 において いか に重視 され よ うと,地 域研究 において の 言語 習得 は, それ 自体 が 目的で はな くて, あ くまで補 助手段 で あ る。 (もちろん言語学 を とお して その地 域 の社会構造 な り政治過程 な りを理解 す るとい う方 法が あ る。 その意味 において は 言語学 的研究 は,地域研究 において その他 の諸科学 と同 じ位 置にたつ 。) しか し,言語訓練が地 域 に接触 し, これを理解 す るための手段 で あ ると同 じ意味 において, 各科学部 門 (各専 門学科) の基礎 的 な理論 的訓練 (いわゆ るdi
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が最近 , 地域研究教 育計画 において非 常 に重視 され るよ うにな った。す なわ ち,地 域 を理解 す るため には,各料学部 門 の原理 な り方 法 な りを十 分 にふ まえな けれ ばな らない とす る。 そ うで ない と, さきに も指 摘 した よ うに,何 で も知 って い るが ,深 くは何 もわか らない, い いか え ると常識 の域 を脱 す る ことが で きない ので あ る。 このdiscipline重視 の傾 向を拍車 づ け る もの と して,第 1には地域 研究 の進歩 に と もない,い よい よ明 らか に な って きた問題 の複雑性 と困難性 ,第2には各科学 分野 ,た とえば政 治学 ・経 済学 ・社会学 あ るい は統計 学等 にお け る理 論 的研究 な らび に研究 分 析方 法 の急激 な進 歩 ない しは精 敵化が あげ られ よ う。 だか ら, ア メ リカで地 域研 究 の Ph.D.を とる場合 ,現在 で は majorを政 治学 な り経 済学 な りの disciplineと し,minorを地域 研 究 とす るのが普通 とな った。か って は,た とえば 日本 と い う地 域 を majorとす る Ph.D.もあ ったが , これ はだん だん な くな り,た とえば,経 済学 で Ph.D.を とるが , ただ研 究地 域 と して 日本 を え らぶ とい う制度 が採 用 されて い る。 こ の disci -plineを majorとL areaを minorとす る動 き こそ,地 域 研究教育 計画 にお け る大 きな発展 と いわ なけれ ばな らない。 この動 きは外 国語学 校 にお いて さえ も見 られ る。 た とえば有 名 な ロ ン ドン大 学 の Schoolof OrientalandAfricanStudiesは,東洋 な らび にア フ リカの言語 の教育 研究機 関で あ り,外 国 語学 校 ともい うべ きで あ ったO と ころが , これが数年前 に,専 門書吾学 別か らdisciplineを本 位 とす る専 門学科別 に編 成替 え され た ので あ った。 このdisciplineを重視 す る こと こそ,地域 研 究 の新 しい発展方 向で あ る。 しか しこのため に, 個 々の disciplineに偏 重 した り, また特 定 のdisciplineLか知 らない とい うことが あ って は な らな い 。だか ら地 域研究 はその教 育面 において もinter-departmentalで なけれ ば な らない こと の必要 性 が さ らに高 ま って きた。 さきの研究 面 にお け る共 同 とと もに,各学科 との緊密 な連 繋 こそ教 育計画 にお いて きわ めて 重要 とな った。 いいか え ると,地 域研究 は教育面 において も, 十 分 に inter-departmentalな組織 の もので な けれ ば な らない。 6 現 地 調 査 の 必 要 地域 研究 において は現地 調査 (fieldsurvey)が必要 不 可欠 な虐要 な 手段 とな る。 これ は 従 来の歴 史 的研 究が主 と して 文献研 究 に依存 し, したが って ,外 国 につ いて の研究 は と もすれ ば 文献研 究 その もので あ ると した傾 向 とは対 照 的で あ る. もっとも歴史 的研究 にお いて も, その 研究対 象 の国 に住 み こむ ことが 望 ま しい と され た。戦前 , わが 国 の中国史研究者 の問 において と られ た方 法 で あ る。 しか し, とはいえ,わが 国 にお け る現代海外事情 研究 さえ, ともすれ ば 文献 に主 と して頼 って いた傾 向が見 られ る。 これ は財 政 的理 由のためで あ り,や むを えない こ とで あ った と もい え よ うが,少 な くと もわが 国 の場合 ,文献 研究 が現地 調査 よ りは るか に重視 され た ことは事実 で あ る。 これ にたい し,地 域 研究 の特 徴 は現地 調査 にあ る。 す なわ ち身 を もって その地 域 を休験 す る - 1
5-ことを必要 とす るO文字 どお りの 「百 聞一見 に しかず」 の原 則 を とる。 と ころが , きわ めて大切 な ことは,現地 調査 が地域 研 究 その もので はない点 で あ る。現地 調 査 は決 して容 易 で ない。 きわ めて 困難 な事 態 に遭遇 す る ことが あ る。現地 調査 を進 め所 期 の 目 的を はたす ことは, なみた いて いで は ない。 したが って,現地調 査 の重要性 と困難性 との た め に, と もすれ ば地 域研究 即 現地調査 と考 え られ やす い。 しか し,現地 調査 は あ くまで文献研 究 とな らん で,特定 地 域 を理 解 す るため の手段 にす ぎないので あ る。 も うひ とつ注 意すべ きは, 現 地 調査 は必 Lも探 険で はない ことで あ る。 む しろ地域研 究 の 発 展 とともに,帝 1には探 険 隊的性格 が 弱 ま り,で き るか ぎ り小 人数 で,多 くの場合 は単 身 あ るい は夫 婦 で現地調査 を行 な うことが望 ま しい と され るよ うに な った。 いいか え るとグル ー プ な りパ ー テ ィ活動 か ら個 人 的活動- 移 って きた. もち ろん探 険 隊 あ るい は調査 隊編 成 に よ る現 地 調査 が否定 され るので はない。 その調査 場 所 の条 件 に したが って は, そ うせ ざるを え ない こ とが あ ろ う。 しか し,地域 研究 に さい して探 険 隊 な り調査 隊を編 成せ ざるを えない よ うな地域 はあ ま り多 くない こと, また単 身 あ るい はで き るだ け小 人数 の ほ うが現地 の人 々に接触 しやす く,研究者 の 自主性 を保 持 しやす い ことに注意 写れ な けれ ばな らない。 第2には,現 地調査 に さい して は, 移動 的 な踏査 よ りも, 1カ所へ の定 着 が 望 ま しい と され るよ うにな った。踏査主 義 か ら定 着主 義- の発展 とい え よ う。 しか も少 な くと も1年 を とお し ての定 着 が望 ま しい と され る。 これ に よ って 1年 間 の季節 の動 き, また年 間行 事 にふれ る こと が で き る。 しか し, 同時 に対 象地域 を全 面 的 に カバ ーす る踏査 も効果 的で あ る。 それ は定 着 地 区が その地 域 全体 の なか で, いか な る特殊 性 を もってい るかを知 るため に も, 肝要 なので あ る。 なお,現地 調査 のための定 着 は必 Lも農村 や辺 陣 の地 で なけれ ばな らない とはか ざ らない。 た とえば辺境民 族 を研究対 象 とす る場合 には当然 に辺 境 に定 着 しなけれ ばな らない。 また,農 村経 済 な り農 民 生 活を と りあつ か うと きには,農 村 に住 み こまな けれ ば な らな い。 しか し, た とえば,政 治学 者 や経 済学者 で国全体 の動 きを研究 目的 とす ると きは,首府 に住 み こん だ ほ う が , は るか に便 利 で あ る。 いいか え ると
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を と りあつ か うと きは農村 に定 着 すべ きで あ ろ う。 7 文 献 資 料 の 整 備 地 域研究 は,以上 の説 明か ら して明 らか な よ うに, 決 して文献研究 を軽視 してい るわ けで な い。 む しろ現地 調査 と文献研 究 とは同 じよ うな ウエ イ トを もつ とい って よい。現 地調査 を重視 す るあ ま り,文 献研究 を軽視 した り,現地 の直 感 的観 察 を重視 し文 献資料 の裏づ けを怠 る傾 向 が見 られ る。 誰 に も能 力 と時 間 とにか ぎ りが あ る ことか ら して, この傾 向 は必 Lも批難 され る べ き もので ないか も知れ ないが, 科学 的研究 と して の 地 域研究 において は 現地調 査 とな らんで,で き るだけ文献 によ る研究 が必要 で あ る。 もちろん, この場合 の文献 と して には,図書以 外 に,新 聞,雑 誌,地 図, あ るい は政府 その他 の機 関刊 行 の資料等 , あまたの種類 の ものが含 まれ よ う。 だか ら地 域研究計画 に さい して は文献資料 の収 集 ・整理 が, きわ めて重要 な部 門 と な る。 これ また,個 人 の力で はいかん と しが たい し,短期 間でで き る もので はない。 これ はま た inter-departmentalな仕事 と して, は じめて可能 とな る。
注意 すべ きは,文献 の収 集整理 と図書 館 の組 織 機能 とが密接不 可分 な関係 にあ る ことで あ る。 この点 わが 国の大学図書 館 のあ りか たが反省 され なけれ ばな らない。 さ らに,わが 国全体 と し て の文献資料 の収集利 用計画 も考 え られ なけれ ばな らないで あろ う。最 近 ,地域研究 にかんす る業績 がつ ぎつ ぎと出版 されて きてい る。 また地 域研究 の発展 に と もない, その必要 とす る文 献資料 が 量的 に増 大 し,質 的 には専 門化 して くるO この動 きにいか に対 応 すべ きか は,根本 的 な大 きな課題 で あ る。 III 地 域 研 究 に お け る 問 題 点 地域研究 の内容 につ いて は, お よそ以上 の よ うに特徴 づ け ることがで き る。地域 研究 が い ま なお確立 され た もので はな く,形 成発 展 の過程 にあ ること, いいか え ると実証主 義 的精 神 に も とづ き実践 的課 題 に応 じての試行 錯誤 の過程 にあ る ことのために,理論 的 に方法論 の定 式化 は 行 なわれ て いない。 したが って方 法論 的 には問題 が残 され てい る。 さ らにまた,地 域研究 はア メ リカを地盤 と して発展 して きた もので あ るか ら, これ をわが 国で展 開 してゆ くには問題 点 が 多 い。 方法論 にかんす る基本 問題 は, かか る inter-discipline と しての研究 が科学的 に成立 しうる か ど うか とい うことに あ る。地域 研究 につ いて は,根本 的 に2つ の立場が あ る。第 1は広汎 に 資料 を収 集渉猟 す るが ,資料 分析 の手段 と しての理 論 的範 晦の精教化 にあま り関心 を払 わず, いわば 「対 象主 義 的」 に制度 や文化 を解 明 して ゆ こ うとす る方 法で あ る。第 2は最近高度 に精 激 化 して きた社会 科学理 論 の スキー ムに もとづ き,歴史 的実体 を, い ったん その 「即 日的」 な 統一性 か ら解 体 し,方 法的 な スキー ムに したが って各要素 間 の意 味連関が分析 され たの ちに, あ らためて歴 史 的過程 と統合 され る研究方 法で あ り, 「方 法主 義 的」 とい え よ う1)O 地 域 研究 は,た とえ それが 困難 で あろ うと,対 象主 義的か ら方 法主 義的- 発展 しつつ あ る ことは,最 近 の社会 諸科学 の進歩か らみ て必然 的で あ る。 さきに述べ たdisciplineの重視 はま さ しく, この 方 法主 義 のため の手段 で あ る。 社会 学 ・政 治学 ・経 済学等 の各社会 科学部 門 の それ ぞれ の枠 の なかで理 論的 に対 象地 域 の社 1) 丸山真男稿,ベ ラ- 「徳川時代の宗教について」氏.N.ベラ-著,堀一郎 ・池田昭訳
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「日本近代化と 宗教倫理」昭和36年,pp.321-322所収. 口羽益生稿, 宗教と社会の関係に関する理論的枠組- タルコッ ト・パーソンズを中心として-,龍谷大学論集,第373号,pp.84187,昭和38年. - 17-会 的政治的 あ るいは経済 的現象を解 明す ることがで きよ う。 だが しか し問題 は, これ らの個 別 の社会科学諸部 門 の綜合的 な理論 で もって,いか に して この綜合 的 な地域現 象を一貫 的 に理解 しぬ くか とい うことにあ る。 た とえば,後進 国 の近代化 を と りあげ ると しよ う。 それ は,社会 学的 に も,政治学 的 に も, あ るい は経済学 的 に も追求 す ることがで きよ う。 しか し, それ はそ れぞれ の視 角か らの分析 で あ るにす ぎない。 それを, よ り高 い次元 において,綜合 的な現象 と しての近代化過程 を, いか に統一 的 にと りあつか うことが で き るだろ うか。 ここに 方法論 と して地域研究 はいか あ るべ きか とい うことが,理論的 な意味 におけ る地域研究 の基本 問題 で あ り,同時 にそれ は社会科学 の本質 につ らな る問題 で あろ う。 方法論 的 な問題 は さておいて,地域研究 をわが国 において発展 させ よ うす る場合 ,い くたの 困難 な壁 が予想 され る。 第 1は,地域研究が社会科学 の各分野 にまたが るために,共 同研究 を必要 不可欠 な条件 とす る。 しか し,共 同研究 には実際上 の難 関が あ る。 その背景 には,日本 の社会 的 な非 流動性(no n-mobility), そ して同時 に大学や研究機 関 にお け る硬直性 (rigidity)が あげ られ る。 ひとつ の大 学 を例 にと って も,inter-departmentalな組織 をつ くりあげ る ことは決 して容易 で ない。 いわ んや inter-universityと しての活動 は,い うはや さ しいが実現 は きわ めて 困難で あ る。 自然科 学 のあ る特定 の部門,た とえば理論物理学 のよ うに,研究対 象 な り方法論 な りが確定 され てい る場合 はと もか く、地域研究 の よ うにそれす ら明確 で ない場合 ,共同研究 を組織 し成果 を あげ ることは,い っそ うに困難で あ る。 この壁 をいか に克服 す るかが実践上 の最大 の課題 とな る。 第2は地域研究 の基礎条件 と しての disciplineと言語教育 についてで あ る。地域研究者 にと って,disciplineを十分 に習得 し, かつ現地語 に熟達す ることは,決 して軽 い負担 で はない。 そのためには,大学 内の教育組織が この要請 に応 じうるだ けの もので なけれ ばな らない。大学 におけ る講座制度が, この意味 において も,再検討 され なけれ ばな らないで あろ う。 それ とと もに,かか る重 い負担 にたえぬいた地域研究者 にそれ だけの ポス トが約束 され てい るか ど うか も問題 で あ る。 ア メ リカにおけ る大学制度 の内容, また地域研究教育課程 を- た研究者 にたい す る社会 的需要 と,わが国 にお け るそれ との, あま りに も大 きな違 い は, ア メ リカにおけ る地 域研究 の発展 をわが国 において実現す ることの容易で ないで ない ことを示 唆す る。 第 3に,地域研究 によ って十分 にその地域が理解 され うるか ど うか との基本 問題 が あ る。 た とえば, ア メ リカにお け る地域研究 の 目ざま しい発展 に もかかわ らず, ア メ リカにおいて十分 に後進 国が理解 され てい るか ど うか, あ るい は極端 ないい方 を もってす ると, ア メ リカの後進 国援 助政策 には失敗 が多 いで はないか とい うことが指摘 され る問題 で あ る。 もちろん,対外政 策 は地域研究 の成果 によ ってのみ規定 され るもので はない。 また地域研究 は直接的 には研究 そ れ 自体 を 目的 と し, それが対外政策 に役 だつか ど うか は間接的,第二次的 な問題 で あ る。 しか し, それ に して も,地域研究者 にとって必要不可欠 な条件 は, その地域 を外在 的 にで はな く内
在 的に理解す ることである。いいかえ ると,研究対象地域 あ るいは対象国民の立場 にた って考 え ることにあ る。 たとえば, そ こでの国民の行動が外在 的には非合理的 に見 え るか も しれな い。 しか し,たとえそれが論理 的に非合理的であろ うと,非合理的行動が存在 す るには存在す るだけの理 由が なければな らない。 その理 由は内在的に追求 されなければな らない。外部の傍 観者 あるいは観察者 的立場 においては, 決 して内在的論理が求 め られ ないで あろ う。 もちろ ん,かか る追求 は,い うは易 しく行 な うは難 いであろ う。 しか し, この分析態度 についてのね え ざる反省 こそ,地域研究 に さい しての研究者 の信条でなけれ ばな らない。研究者 と研究対象 とのギ ャ ップをいか に うずめ るか こそ,地域研究を して実 り豊かなものにさすか どうかの分岐 点で はなか ろ うか。 アメ リカにおける地域研究 についての批判 はや さ しい。 しか し,わが国の 地域研究 において これ と同 じ批判をいかに して避 けることがで きるか,大 きな問題であ る。 以上 ただ3点だけを指摘 して も明 らかなよ うに,わが国において地域研究を展 開 してゆ くこ とは決 して容易で はないO しか し外国の, と くに新興諸国の綜合的理解が きわめて必要で あ り, しか もその必要性が今後 ます ます高 まってゆ くとき,わが国の地域研究 はこの要請 に応 じ て この困難 な諸条件を克服 し,発展 されゆかなければな らない。 - 19