雑誌名
東洋大学社会福祉研究
号
6
ページ
3-21
発行年
2013-08-05
● 東 洋 大 学 社 会 福 祉 学 会 第 8 回 大 会 / 【出版記念シンポジウム】
「社会福祉の理論と運営」
シ ン ポ ジ ス ト : 第1報告野口友紀子(長野大学)/第2報告西田恵子(常磐大学)/第3報告笹尾雅美(東京学芸大学) コメンテーター:古川孝順(西九州大学副学長・東洋大学名誉教授) 司会:秋元美世(東洋大学社会学部) 秋元:まず、今回のシンポジウムの趣旨説明をさ せ て い た だ き た い と 思 い ま す 。 い ま 、 こ ち ら の プ ロジェクターに、この春出版された『社会福祉の 理論と運営』という本の表紙が映し出されていま すが、この本の編者として「社会福祉理論研究会」 という名前が出ています。この研究会は、古川孝 順先生のもとで、東洋大学の社会福祉の院生が集 ま り 長 年 継 続 し て 活 動 し て き て い る 研 究 会 で す 。 古川先生が退職され、今現在は、金子先生が引き 継 が れ て い ま す 。 そ し て こ の 本 は 、 そ う い う 中 で 一緒にやってきた院生だった人たち−今はもう か な り の 人 た ち が 大 学 教 員 等 の そ れ ぞ れ の 職 に 就 い て い ま す − が 、 中 心 に な っ て つ く っ た 本 で す 。 この学内学会の一つの趣旨として、大学院で学 ん で き た 人 が 、 一 人 前 の 研 究 者 と し て ど ん ど ん 巣 立ってほしい。巣立った後で大学に戻り、自分た ちが得たものを還元して欲しい、あるいは後輩に そういうものを伝えていって欲しい、そういった 思 い み た い の が あ り ま す 。 つ ま り 、 そ う い っ た 東 洋大学における社会福祉学の研究のサイクルのよ うなものができるといいし、この学内学会がそう した役割の一端を担えればいいなと思っているわ けです。 そういうことを考えていたときに、大学院で学 ん だ 人 た ち が 中 心 と な っ て 、 こ う い う か た ち で 一 つ の 本 と し て ま と め ら れ た の は 、 と て も 意 義 の あ ることだと考え、是非、大会で取り上げさせてい ただこうということになったのです。 卒業して、これで終わりということではなくて、 こういう場を用意しますので、例えば自分は、今 度 は こ う い う 本 を 出 し た ん で 、 少 し こ の 場 を 使 っ て紹介したいでもいいです。そういうかたちでの 学内学会の発展の仕方ということを考えていくと きの出発点になればいいなというのが、今回こう いうふうに開かせていただいた趣旨です。 今日は、3部構成となっているこの本の構成を踏 まえて、それぞれの各部からお一人ずつ登壇して いただいて、報告していただくということを考え ました。まず最初に野口さんに第1部から報告し ていただきまして、第2部からは、西田さんに報 告していただきます。そして、第3部から笹尾さ んに報告していただくことになります。 なお、この本につきましては、本日、出版の音 頭を取っていただきました筒井書房さんに来てい ただいています。もし関心があれば、多少は安く なるということですので、後ろのほうにあります ので、ちょっと手に取ってみていただければと思 います。 では、前置きはこれ〈、らいにしまして、まずは 3人の方から20分<、らいずつ報告していただきま して、それで1時間。その間、いま、白い紙が配 られていると思いますけれども、10分間、3人の 方から報告をいただいた後、休憩をとります。そ の時に紙を集め、質問等、あるいはご意見、何で も か ま い ま せ ん か ら 、 そ れ ら 出 し て い た だ い た も のも見させていただきながら、午後のシンポジウ ムに入っていきたいと思います。そういう意味で、 ぜひ質問事項、あるいはご意見、何でもかまいま せんので、何か書いて出していただければと思い ます。熊田先生が、回って集められるということ です。よろしくお願いいたします。 では、野口さん、よろしくお願い致します。 野口:野口友紀子です。本日は、よろしくお願い いたします。このような場に呼んでいただきまし て、本当にありがたく思っております。この本を書いた人の中には、もっと先輩もいらっ し ゃ い ま す の で 、 本 来 は 、 私 よ り も も っ と ふ さ わ し い 人 が 、 報 告 す べ き な の か と 思 い ま し た け れ ど も 、 せ っ か く お 声 を 掛 け て い た だ き ま し た の で 、 それに応えたいと思いました。十分考えてきたつ もりではございますけれども、不十分な点は、ぜ ひご指摘をしてください。 資料は、要旨集の12ページです。報告では、別 に配布されておりますホチキス留めのものを使い ながら報告をさせていただきます。 「社会福祉とは何か」というのが、この出版され た本の副題にもなっておりますけれども、この問 い は 、 こ れ ま で の 研 究 者 が 長 く 考 え て き た こ と で ご ざ い ま す 。 こ の 問 い に 正 面 か ら 取 り 組 ん で こ ら れた古川先生の理論を取り上げて、検討したいと 思っております。 今日は、古川先生の理論が従来の議論と違う点 を明らかにしまして、「社会福祉とは何か」という 問いにどういった観点から、どこまで答えが出さ れたのかということを明らかにしたいと思います。 特に特徴的な点を取り上げまして、それを踏まえ て、古川理論の今後の可能性を検討したいと思っ ております。 今日報告する具体的な構成としましては、まず 古川先生の理論以外の社会福祉の捉え方を2つ取 り上げます。それらが十分でない点を示しまして、 その次に古川先生の理論の内容を検討します。 そ れ で は 、 社 会 福 祉 の 理 論 の 検 討 に お い て 、 本 質的説明と機能的説明の整理を試みます。まずは 従来からある2つの説明の方法を採り上げます。 1 つ に は 、 社 会 福 祉 に は 本 質 が あ る と し て 、 そ の本質を明らかにすることで社会福祉を説明する という方法です。本質ですので、それは普遍的な もので、絶対的なものです。 もう1つは、社会福祉を他の一般社会サービス との関係から位置付ける方法です。他の一般社会 サービスとの関係の中で、他の一般社会サービス が不十分なところを補充する機能を持つとか、そ ういった社会福祉の機能の側面から説明する在り 方です。 ここで「機能」という言葉を使っておりますけ れども、機能的説明とここでいっておりますのは、 社会福祉サービスが一般社会サービスを補充する 関係にあって、一般社会サービスが不十分であれ ば、多くの補充が必要であり、一般社会サービス が整ってくれば不要となるような、他のサービス との関係で社会福祉の在り方が決まるという説明 の仕方です。そういった意味で、ここでは「機能」 という言葉を使っております。 図 1 機能と本質による社会福祉の捉え方 本質 機能 本質的説明 普遍型福祉 保護型福祉 機能的説明 補充的機能 社会福祉の捉え方を機能的に説明する場合と、 本質的に説明する場合等を整理したものが、図l です。本質的説明というのが、例えば岩田正美先 生が、社会福祉の本質として少数者と多数者に対 する保護型、普遍型の2つの路線があるというよ うな述べられ方をしているように、いつの時代に おいても社会福祉に共通する普遍的なものがある として説明する見方です。 機能的説明は、例えば岩崎晋也先生が述べてお られるような、社会福祉が他の一般社会サービス と民間社会福祉事業との補充関係から説明されて いたように、社会福祉の本質そのものには触れず に、機能的な側面からのみで社会福祉を捉える在 り方です。 本質的説明は、社会福祉の本質を特定のものと おいていますので非常に分かりやすいわけですが、 一方でそれが本当に本質といえるのかという疑問 が生じます。 機能的説明は本質をおきませんので、本質的説 明が抱える疑問、つまりそれが本当に本質といえ るのかというような疑問は生じませんけれども、 社会福祉を他の一般社会サービスとの関係から捉 えるために、他の社会サービスが存在しないと社 会福祉が存在できないのか、というような疑問が わいてきます。 いずれの説明であっても、これらの疑問から考
え ま す と 、 社 会 福 祉 を 十 分 う ま く 説 明 し き れ て い な い の で は な い か と 思 わ れ ま す 。 こ れ が 、 従 来 か ら捉えられている社会福祉の説明です。 で は ど う す れ ば 社 会 福 祉 を う ま く 説 明 で き る の で し ょ う か 。 そ れ が 本 質 的 説 明 と 機 能 的 説 明 の 統 合 で す 。 古 川 先 生 は 、 こ の 本 質 と 機 能 の 説 明 の 両 方の観点を使って、社会福祉を説明されています。 そ の 際 、 図 2 の よ う に 社 会 福 祉 を 「 領 域 」 と 「 ア プ ロ ー チ 」 の 2 つ の 側 面 に 分 け て 、 そ れ ぞ れ を 本 質と機能の両面から見ています。 図 2 古 川 に よ る 領 域 と ア プ ロ ー チ に お け る 固 有 性 領 域 ア プ ロ ー チ 本質的説明 独自性 (保護すること)* 個 別 性 包 括 性 ・ 総 合 性 機能的説明 先導性・補充性 媒介・調整 (相談援助機能)* *古川は領域としての固有性の中の本質的説明に「保護 的機能」という言葉をあてているが,「機能」という 言葉は「機能的説明」と紛らわしいため,「保護する こと」という言葉にかえている.アプローチとしての 固有性については,その中の機能的説明に「相談援助 機能」という言葉を使っているため図2に加えている (古川2009:98). つ ま り 社 会 福 祉 の 固 有 性 と い う の が 、 領 域 と し て の 本 質 と 領 域 と し て の 機 能 、 ア プ ロ ー チ と し て の 本 質 と ア プ ロ ー チ と し て の 機 能 、 こ の 4 つ の 側 面で説明できるわけです。 ここで領域と呼んでいるのは、従来社会福祉を 社会政策との違いから説明してきたように、他の 政策との違いを明らかにしたり、他の政策との領 域争いをしたりというようなことを指しています。 アプローチといっているのは、社会福祉実践のア プローチのことです。 まず本質的な説明としましては、社会福祉には 領域としての「保護」という独自性を当てはめて おります。それから、アプローチの観点からは、 個別性や包括性、それから総合性を持つものとし て説明されています。 そして、機能的説明は、社会福祉には領域から 見て先導性、それから補充性があるということ。 ア プ ロ ー チ の 視 点 か ら 見 ま す と 、 機 能 的 説 明 と し ては媒介、調整といったような相談援助機能を持 つものです。 こ の 図 2 に み ら れ る 特 徴 は 、 領 域 と ア プ ロ ー チ の 2 つ の 視 点 を 置 い て い る と こ ろ で す 。 領 域 と し ては、本質的説明と機能的説明の両面を設定して い ま す 。 領 域 的 説 明 の 独 自 性 は 、 一 般 社 会 サ ー ビ スが充実しても、社会福祉の持つ保護的機能の確 信的な部分、すなわち、人々の生命と活力の維持、 再生産、そして生活関係の維持、再生産に直接関 わ る よ う な 部 分 は 、 一 般 社 会 サ ー ビ ス に よ っ て は 充足されない部分であるため、社会福祉の領域と なると述べられています。 そ れ か ら 、 機 能 的 説 明 に あ た る 領 域 と し て の 先 導性につきましては、社会福祉が他の一般社会サー ビスの中で、歴史的に先行してきているというこ と。補充性としては、一般社会サービスの不十分 な部分を補うということになります。 次にアプローチとしての側面としては、社会福 祉実践、すなわち、ソーシャルワークの部分にあ たるものです。これは、本質的説明としましては、 個別性、すなわち、福祉ニーズの個別性や多様性 に対応します。 機能的説明としての包括性と総合性は、人々の 生活全般に関わる支援がこれにあたります。これ らは、社会福祉のアプローチとしての本質である ということになります。 媒介性と調整性は援助の効果を上げるため、サー ビス利用に関わる媒介、調整を行う機能があると いうことで、他の制度やサービスとの関係から生 じる機能になります。 このアプローチの部分を古川先生が取り上げて おられるのは、従来、社会福祉とは何かという問 いに対する答えからは、抜け落ちることが多かっ たということからです。また一方では、この部分 のみを取り上げて、これが社会福祉だと言及する ものが多かったからということになります。 本質的説明として、社会福祉の本質を規定して 論じる在り方と、機能的説明として他の一般社会 サービスとの関係から捉える在り方の両方を統合 したことが古川先生の理論の特徴だと思います。
図 3 機 能 と 本 質 に よ る 社 会 福 祉 の 捉 え 方 の 分 類 か ら 説 明 が さ れ て い ま す 。 こ れ ら の 捉 え 方 で 狭 義 の 社 会 福 祉 と 広 義 の 社 会 福 祉 の 説 明 も で き る の で はないかと思われます。 一 方 で 、 政 策 上 の 領 域 問 題 か ら の 社 会 福 祉 の 措 定だけではなく、「アプローチとしての固有性」を 設 定 し た と こ ろ に 古 川 理 論 の も う 1 つ の 特 徴 が あ ります。アプローチの固有性におきましては、本 質 的 な も の と 機 能 的 な も の の 両 側 面 か ら 説 明 を さ れ て い ま す 。 ア プ ロ ー チ と し て の 固 有 性 に 機 能 的 な説明を加えたのは、領域から社会福祉を捉える と 抜 け 落 ち て し ま う ソ ー シ ャ ル ワ ー ク を 社 会 福 祉 に 位 置 付 け る た め だ っ た の で は な い か と 思 わ れ ま す。 い ま お 話 し し た よ う に 、 従 来 か ら あ る 社 会 福 祉 の説明の仕方、社会福祉とは何かに答える説明の 仕方として、本質的な説明と機能的な説明があり ますが、その両側面を統合したのが古川先生の理 論です。 この理論は、社会福祉について、社会政策を構 成する一般社会サービスとの違いや関係性を明ら か に し て お り ま す け れ ど も 、 一 方 で 、 そ の 本 質 的 説明と機能的説明がもたらす新たな課題も同時に 引き受けてしまっているともいえます。 そ れ は 、 大 き く 3 つ あ り ま す 。 1 つ 目 が 、 古 川 先生が社会福祉の基盤とおきました「保護」ですが、 こ れ に あ た る 社 会 福 祉 の 固 有 性 が 明 確 で は な い の ではないかという点です。もちろんその説明はさ れています。保護的機能を第一種社会福祉事業、 第二種社会福祉事業、社会福祉を目的とする事業、 さ ら に は 社 会 福 祉 に 関 す る 活 動 と い う 社 会 福 祉 法 で規定されているものを範囲として、社会福祉の 相談援助者が多様な活動やプログラムを駆使して、 生活上の困難に対応するものとして設定をされて います。 これは、貧困低所得者に対する生活の丸抱え的 な支援プログラムから直接的に由来したもので、 近年、家族関係の修復や家族機能の補強を目的と するプログラムの拡大が見られ、それが社会福祉 の重要な構成要素となって、むしろ拡大する傾向 にあると述べられています。 しかし、このような記述からは、貧困低所得者 対策とそれに加えて近年の家族関係をめく、るざま こ れ は 第 一 に 社 会 福 祉 と 他 の 一 般 サ ー ビ ス と の 違いは何かを考えることになります。つまり領域 争いというのは、社会福祉と一般社会サービスと の関係として、機能的に説明できます。第二に、ソー シ ャ ル ワ ー ク を 社 会 福 祉 の 固 有 性 と し て 、 領 域 と しての固有性と並べて、アプローチとしての固有 性として示したことです。 こ の こ と は 、 政 策 的 側 面 を 中 心 と し た 従 来 の 領 域争いの議論からは出てこない観点であり、政策 的 側 面 の み の 視 点 か ら は 、 社 会 福 祉 と し て 従 来 は 位 置 付 け ら れ て こ な か っ た 相 談 援 助 活 動 を 取 り 上 げたことになります。 このことにより、社会福祉とは何かという問い に対して、古川理論ではどういった答えが出され た の か と い う の を 次 に 検 討 し た い と 思 い ま す 。 従 来からいわれる社会福祉政策と他の政策との領域 争いには、次のように古川理論では応答できます。 まず、社会政策の中に社会福祉を他の一般社会 サ ー ビ ス と 並 列 さ せ 、 そ の 中 で 社 会 福 祉 は 、 中 核 となる領域として独自性を持つと捉えています。 他の社会サービスとは異なる領域で、本質的なも のだということです。 次 い で 、 そ の 独 自 性 以 外 の も の と し て 、 他 の 一 般 社 会 サ ー ビ ス と の 関 係 か ら 社 会 福 祉 の 位 置 付 け を行いました。これは、他のサービスが存在して いない場合に、社会福祉が行う先導性や他のサー ビスの不十分なところを補う補充性として、説明 をすることができています。 社会福祉と他の一般社会サービスとの違いは、 あくまでも制度・政策やサービスなどの範囲、す なわち、領域問題として考えることが可能であり、 これも本質的な捉え方と機能的な捉え方の両側面 本質的説明 古 川 理 論 機能的説明
本質一機能
普 遍 型 福 祉 保護型福祉 │独自性(保護的機能) /個別性, 包括性・総合性 先導性・補充性/媒 介,連絡調整,協働 (相談援助機能) 補 充 的 機 能ざまな問題への対応を、社会福祉事業や社会福祉 諸活動が対応することと理解でき、どこまでの範 囲の問題を社会福祉が対応しなければいけないの か、問題が拡大すれば、それに応じて社会福祉で の対応策も拡大するのかという問いが出てきます。 つまり保護的機能というときの保護の範囲という の が 、 ど こ ま で を 指 す の か が 、 こ こ で の 疑 問 に な ります。結局この疑問というのは、「社会福祉の本 質とは何か」を問う疑問と同じものになります。 そ れ か ら 、 2 つ 目 で す が 、 機 能 的 説 明 で あ る 他 の一般社会サービスとの関係から社会福祉を捉え る 場 合 、 一 般 社 会 サ ー ビ ス が 増 え て い け ば 、 そ れ だけ社会福祉も増大していくことになり、ひたす ら拡大していくことになるのではないかという点 です。 3つ目は、本質的説明と機能的説明の関係が、 明確ではないのではないかということです。社会 福祉に本質があると捉えることは、その時点で社 会福祉とは何かの問いに答えたことになります。 社会福祉を機能的に捉えることは、その時点で変 わらない本質的なものは存在しないということに なります。本質と機能は、同時に説明する方法に はならないと一般的には考えられるからです。 ここまでが出版された本の中で、私が書いた内 容ですが、これだと古川先生の理論に対する疑問 点ばかりを並べて、それで終わってしまっていま すので、もう少し考えて、付け加えさせていただ きます。 こういった課題は考えられますけれども、それ 以 上 に 領 域 の 側 面 と ア プ ロ ー チ の 側 面 、 こ の 両 側 面からの検討による社会福祉の一体的把握という のは、これからの社会福祉の展望を考えるうえで 重 要 だ と 思 わ れ ま す 。 古 川 先 生 に よ り ま す と 、 社 会 福 祉 理 論 史 を 振 り 返 る と 、 こ れ ま で の 理 論 の 特 徴は、社会福祉を限定して捉えようとしたもので あ り 、 こ ん に ち の 拡 大 の 状 況 に は そ ぐ わ な い と い われています。そのため先行する理論を踏まえて、 社 会 福 祉 と は 何 か と い う 問 い に 対 し て 、 社 会 福 祉 の L 字 型 構 造 、 あ る い は ブ ロ ッ コ リ ー 型 構 造 を 提 示して、他の施策との関係性を描き出しました。 このモデルは、「社会福祉のレーゾンデートルやそ の 基 本 的 な 性 格 」 を 明 ら か に す る 試 み で あ る と い うふうに述べられています。 そ れ に 加 え ま し て 、 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク を 社 会 福 祉 に ど の よ う に 位 置 付 け る の か と い う 問 い に も 答 え て い ま す 。 社 会 福 祉 は 、 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク の 側 面を重視する必要があるが、社会福祉、すなわち、 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク と い う 見 解 に は 与 し な い と 古 川 先生は述べられています。 それは、国際ソーシャルワーカー連盟のソーシャ ルワークの定義において、「個人に焦点をおいた心 理社会的プロセス」、「社会政策」、「社会計画、社 会 開 発 へ の 参 画 」 に ま で 及 ぶ こ と が 、 そ の 中 で 述 べ ら れ て い ま し て 、 こ こ ま で を 視 野 に 入 れ た 議 論 が 必 要 で あ る と 述 べ ら れ て い ま す 。 こ う い っ た 広 い 視 点 を と る こ と で 、 新 た な 枠 組 み を つ く り だ し たといえます。 図 4 社会福祉の二定点型構造 ソ シ
鬼蕊
ワ ク ソ ー シ ャ ル ア ド ミ ニ ス ト レ ー シ ョ ン (古川孝順作成) それが、図4の「社会福祉の二定点型構造」です。 この図は社会福祉を単なる政策でもなく、単なる 援 助 技 術 で も な い 、 そ の 両 方 を 含 ん で 一 体 的 に 存 在しているものとして、ソーシャルポリシーとソー シャルワークの二側面から見たというものです。 これら両側面を媒介し、連結するものをソーシャ ル ・ ア ド ミ ニ ス ト レ ー シ ョ ン と お い て い ま す 。 こ れ は 、 政 策 上 の 領 域 と 社 会 福 祉 実 践 上 の ア プ ロ ー チとして、従来別個に捉えられてきたものをつな ぐ仕組みです。 これら二側面のつながりに「制度運営」をおき まして、援助と制度との相互関係、政策と制度と の 相 互 関 係 と し て 、 メ ゾ レ ベ ル で 捉 え る こ と が で きると述べられています。 こ の こ と は 、 従 来 の 政 策 と 社 会 福 祉 実 践 の 研 究 領 域 に 、 新 た に 制 度 運 営 と い う 領 域 を 設 定 し た こと に な り ま す 。 こ の 制 度 運 営 に 関 す る 議 論 が 活 発 に な る こ と で 、 社 会 福 祉 の 新 た な 展 望 を 開 く こ と になるのではないかと思われます。出版された「社 会福祉の理論と運営』の本の中で、この制度運営 に 関 し ま し て 、 小 松 理 佐 子 さ ん が 議 論 を 展 開 さ れ ています。 今回は「社会福祉における本質と機能の統合」 と い う こ と で 、 古 川 先 生 の 理 論 を 私 な り に 少 し 正 面から捉えてみました。以上で報告を終わります。 ありがとうございました。 秋 元 : ど う も あ り が と う ご ざ い ま し た 。 続 い て 、 西田先生です。よろしくお願いします。 西 田 : 常 磐 大 学 の 西 田 と 申 し ま す 。 よ ろ し く お 願 いいたします。東洋大学には、2001年から2005年 度まで5年間、博士課程後期課程でお世話になり ました。古川孝順先生のご指導をいただいて、何 とか外の世界へ出ていった者です。 今日お話しさせていただきますのは、博士課程 の と き に 私 が 研 究 し て い た テ ー マ に 関 わ る も の で す 。 博 士 論 文 で は 、 社 会 福 祉 と 情 報 、 地 域 福 祉 と 情報に関わる事柄についてものを言いたいという ことで、先行研究や具体的な事象の把握や検討、 自分の考えの整理などをとおして、「地域福祉情報 化 」 と い う 概 念 を 自 分 な り に 定 義 致 し ま し た 。 そ のようなことに取り組んでいたわけですが、今回、 古 川 先 生 の ご 退 官 を 機 に ま と め ら れ る こ の 本 に 何 か書いて寄せることができるということで、やは り私は、後期課程でこだわった社会福祉と情報に つ い て 、 ぜ ひ 述 べ さ せ て い た だ き た い と 思 い 、 載 せ て い た だ き ま し た 。 そ の 内 容 を 紹 介 さ せ て い た だこうと思います。 I 課 題 の 設 定 お手元に要旨とパワーポイントの資料を用意し ま し た 。 そ ち ら の 図 面 と 合 わ せ て 説 明 を さ せ て い ただこうと考えています。「社会福祉の固有性と社 会福祉の拡大および限定に係る考察」ということ で 述 べ さ せ て い た だ き ま す 。 は じ め に も と も と の 問題関心がどのようにあったかということを伝え させていただきます。 少 し 時 代 が さ か の ぼ り ま す け れ ど も 、 私 が 社 会 福祉の学部を出て仕事に就きましたのは、80年代 で し た 。 在 宅 福 祉 サ ー ビ ス が 拡 充 さ れ る 時 期 で あ り ま し た 。 例 え ば 現 在 の ホ ー ム ヘ ル プ サ ー ビ ス は 家 庭 奉 仕 員 派 遣 制 度 と い い 、 そ の 内 容 は 家 事 援 助 が 基 本 で 利 用 要 件 は 限 定 的 な 面 が 強 か っ た と い え ます。それが利用対象が広がり、利用時間も幅が でき、そして提供する主体が多元化しました。あ るいは、在宅に伴うさまざまな家事支援の提供メ ニューを細分化するというような動きがありまし た。 この80年代から90年代にかけての動きの中で、 少 し ず つ 情 報 へ の 関 心 と い う も の も 高 ま っ て ま い りました。象徴的なのは、介護保険制度が始まる ときに一気に介護保険に係るさまざまな管理シス テ ム が 構 築 さ れ 運 用 さ れ る よ う に な り 、 情 報 管 理 システムということで情報に大きく関心が寄せら れていった。そのような状況下にあって、私が80 年代、あるいは90年代、社会福祉に関わる仕事を し て い る 間 、 耳 に 入 っ て く る 「 社 会 福 祉 の 情 報 」 という用語が指す事柄は、大ざっぱに言うとサー ビス提供に関わる利用者のデータベースをつくる で す と か 、 電 子 化 し て ネ ッ ト ワ ー ク を 結 ん で 、 い かに効率化していくかという話に偏る傾向があっ たように思います。私自身は、それは情報に関わ る事柄のうちの非常に一部の話であって、情報に 関わるある一面を取り上げての物事の組み立てで あ り 、 あ る い は 、 極 端 な 言 い 方 で す け れ ど も 、 窓 意的な取り上げ方である、活用の仕方であるとい う問題意識を持っておりました。 社会福祉にかかる情報はもっと広いものである。 あるいは多元的である。そのことを社会福祉と情 報ということの大きな枠組みで、全体が何か語れ るようなものができないだろうかということが、 もともとの問題関心でございました。結果、いま もその言いたいことをどう伝えるかという発展途 上におります。 この本で述べたことは、古川先生の揮で相撲を 取ろうとしたという感じでしょうか。あるいは虎 の 威 を 借 る と い う こ と に な っ た か も し れ ま せ ん 。 古川先生は日頃から、ご自分の論を適用すること を求めない、自身のオリジナルを作れ、それで勝
負 で き な け れ ば 意 味 が な い と お っ し ゃ い ま す 。 残 念 な が ら 私 に は オ リ ジ ナ ル を 作 り 上 げ る 力 が 備 わ っ て い な く て 、 先 生 の 言 葉 に 背 く こ と に な り ま した。古川先生がおっしゃっていることを用いな が ら 、 自 分 の 問 題 関 心 、 社 会 福 祉 と 情 報 に 関 わ る ことを書くということをいたしました。 本 論 で は 、 特 に 社 会 福 祉 に お け る 情 報 の 全 体 像 を描くことに意欲をもちました。また、援助関係 の中での情報の非対称性ということに焦点をあて、 その克服の方法を探ることを致しました。今日は、 社会福祉における情報の非対称性の問題を念頭に おきながら、社会福祉援助に関わる情報の全体を 描きたいと考えています。古川先生の論を援用さ せ て い た だ き な が ら 語 り た か っ た の は 、 こ う い う ものを構想していたのだということを説明したい ということで話を進めさせていただきます。 Ⅱ 社 会 福 祉 の サ ブ シ ス テ ム と し て の 情 報 社 会 福 祉 の サ ブ シ ス テ ム と し て 情 報 が 流 通 し て いる。これがこの論の前提条件です。あらゆる事 柄に情報は介在している。例えば私自身がここに 存在していることもひとつの情報として機能しま す、あるいは発信になります。言語を操っており ますが、文言、動作、音色、サイン、その他さま ざまな媒体があり、形式があります。 社 会 福 祉 は 動 い て い て 、 現 在 の 状 況 が あ る 、 あ る い は 過 去 か ら 形 成 さ れ て き た 経 緯 が あ る 。 そ れ ら全てに情報というものは介在している、流通し て 影 響 を 与 え て き た 、 そ の こ と の 認 識 化 が 問 題 意 識の一つであります。 結論として言いたいのは、社会福祉の進展に有効 な情報の活用ということをあらためて提起するとい うことです。そのことについての認識化は、あらた めて非常に重要である肝要であると提起するととも に、ただ提起するだけでなく、実際に多くの情報を 取り扱い生かしているのであれば、その情報の流通 に関わる課題にはどのようなものがあるのかという ことを整理しておきたいと思います。 日本の社会福祉において情報についての関心は、 単に電子媒体での管理とか、そういうことにのみ 収 數 さ れ る の で は も ち ろ ん あ り ま せ ん 。 た と え ば 社 会 福 祉 基 礎 構 造 改 革 の 中 で は 情 報 へ の 着 目 が あ り、基本的な考え方、具体的内容に織り込まれて います。 ひとつには社会福祉法第24条があります。ある い は 、 サ ー ビ ス 利 用 者 の 方 々 に よ り 望 ま し い 効 果 を あ げ る た め の 情 報 管 理 、 サ ー ビ ス 利 用 者 と サ ー ビ ス 提 供 者 と の 双 方 向 で の 情 報 の や り と り 、 サ ー ビ ス 利 用 者 に 対 す る 利 用 支 援 者 か ら の 情 報 支 援 な ど、数々の場面に情報を活かす工夫があります。 さらには、第三者評価事業等などの新たなシス テムの開発や、情報をめく、る文化の広がりも進ん で い る と 思 い ま す 。 そ れ ら の 動 き を 動 き と し て 捉 え つ つ 、 あ ら た め て 社 会 福 祉 の 本 質 と 機 能 に 照 ら して、情報がどのように有効に機能し得るのだろ う か 、 働 き 得 る の だ ろ う か と い う こ と を 私 な り に 考えました。 Ⅲ 社 会 福 祉 の 固 有 性 と 情 報 社 会 福 祉 の 根 幹 を 考 え る と き 、 ウ ェ ル フ ェ ア や ウ ェ ル ビ ー イ ン グ と い う 言 葉 で 説 明 さ れ る こ と が あります。生存、生活の脅かしをいかに除去するか、 あ る い は 一 人 ひ と り の 生 の 過 程 で 様 々 な 経 験 を し ていくことを保障するか、そのための多様な資源 や 仕 組 み が 社 会 福 祉 と し て つ く ら れ 、 動 い て い る わけです。 それは制度化されたものとして存在する。既定 の対象には子どもでありましたり、疾病障害者、 あ る い は 高 齢 者 な ど が あ り ま す 。 こ の 大 き な 属 性 にある者のうち、法制度が規定するより詳細な対 象設定があります。 制度化された対象の一方では、その拡大があり ます。福祉ニーズ、生活支援ニーズの検証のもと、 少しずつその対象は広がりを持つ。さまざまな人、 ヒ ュ ー マ ン ビ ー イ ン グ の ウ ェ ル フ ェ ア の 確 保 と い う指向が時間をかけて実を結んでいく。在住外国 人 の 方 々 へ の ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト は そ の 一 例 に な ります。さまざまな対象層があげられるわけです けれど、バルネラブルな人々ということで説明さ れる方たちです。そのような方たちにどのような 契機や経過をもって社会福祉は接点をもつように なるのか、対象として位置づけられ具体的な関わ り を も つ よ う に な っ て い く の か 、 支 え る こ と に つ ながるのかということです。
阪 神 淡 路 大 震 災 、 東 日 本 大 震 災 な ど 大 き な 災 害 が 起 き る と 、 膨 大 な 被 災 者 が 生 ま れ ま す 。 こ の 方 た ち は い う ま で も な く 過 重 な 生 活 困 難 を 抱 え る 層 になります。この方々の生活再建、あるいはまち の復旧復興ということに、社会福祉はどのように 機能できるのかという課題は近年とみに関心がも た れ て い る と こ ろ で す 。 そ の ほ か 、 近 年 の 社 会 の 動 向 を と ら え れ ば 、 自 殺 者 の 増 大 と い う 傾 向 が あ ります。警察庁が発表した数字を追うと、2010年 の自殺者数は3万1690人です。過去最多の2003年の 数 字 に 比 べ る と 少 し 下 が っ て は い る の で す け れ ど も。 比較として30年前の1980年の数字を見てみます。 1980年は2万1048人でした。自殺者数はl.5倍の増大 です。性別をみると、圧倒的に男性の自殺者の方 が割合が高い。自殺と社会と社会福祉との関わり に つ い て は 私 は 不 勉 強 で 十 分 に お 話 し す る こ と が で き ま せ ん が 、 そ の 内 容 を 分 析 し て い け ば 、 お そ らく社会福祉は大きく関わり得る、貢献し得ると 考えます。 社会の事象の中で社会福祉の対象として新たに 捉 え ら れ る 層 は 常 に 動 い て い て 、 そ れ を 社 会 が 課 題として受け止めるという展開に情報はどのよう に関わっているのかということを、私は考えるの です。 社 会 の 動 き 、 あ る い は さ ま ざ ま な 人 々 の 生 活 の 移り変わりの中で、社会福祉の拡大が進む。それ は社会福祉の固有性のゆえである。社会福祉の固 有 性 に 基 づ い て 社 会 福 祉 の 拡 大 が お の ず と 図 ら れ ていくということです。短絡的な面があるかもし れ ま せ ん が 、 社 会 福 祉 は そ の 固 有 性 を も っ て 拡 大 がなされ、そこには情報が大きく作用すると考え ます。 古川先生のL字型構造は、社会福祉の領域とし ての固有性と、アプローチとしての固有性とが反 映 さ れ た も の で す 。 こ の 縦 軸 の 領 域 の 中 に お い て も多種多様な何次元にも渡る情報が飛び交い流通 しているわけですし、横軸におきましても情報が 多様に流通していると考えられます。 この流通の結果、各領域の中や複数の領域の間 にさまざまな動きが起き、社会福祉と生活支援が 展開していく、社会福祉援助の開発が展開してい <と言い得ます。 Ⅳ 社 会 福 祉 の シ ス テ ム 構 成 と 情 報 の マ ト リ ク ス 情報はものごとを媒介し動かすものとしてさま ざまに流通している。そのことを社会福祉の各局 面 で と ら え る こ と は 情 報 の 機 能 の 理 解 に 有 効 で あ ると考え、古川先生の示された「社会福祉のシス テム構成」を拠り所に検討することにしました。 様々な局面に多様にあるというだけでは話が進 まないわけで、論理的に説明していくには、全体 のうちのどの部分を語っているのかという論理立 てが必要です。そのために私は一つの到達点とし て 、 社 会 福 祉 の 情 報 の マ ト リ ク ス と い う も の を 描 くことを目指しています。 こ の マ ト リ ク ス を 描 く の に 、 古 川 先 生 の 「 社 会 福祉のシステム構成」が援用できるのではないか と考えました。資料の図をご覧ください。価値、 対象、施策、利用支援、社会行動。それぞれのシ ステムがそれぞれ関わり合って動いている。パワー ポ イ ン ト 上 は 統 合 し た か た ち に な っ て い ま す が 、 施策システムは、その中にさらに3つのシステムが ある。 【図1】社会福祉のシステム構成と対照関係にある情報の 構 成
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価 値 シ ス テ ム 対 象 シ ス テ ム 施策システム 政 策 シ ス テ ム 制 度 シ ス テム 援 助 シ ス テ ム ↓ ↑ ↓ ↑ ↓ ↑ 価値システムに流通する情報 対象システムに流通する情報 施策システムに 流通する情報 政策システムに流通する情報 制度システムに流通する情報 援助システムに流通する情報 利用支援システムに流通する情報この各システムが動いていることに並行して情報 は各システムの中で、あるいはそれを越えて動い ている。価値システムに流通する情報というもの が あ り 、 あ る い は 対 象 シ ス テ ム に 流 通 す る 情 報 が あ る 。 そ れ ぞ れ の シ ス テ ム の 中 で 動 き 作 用 し て い る 情 報 が あ る 。 こ れ ら の シ ス テ ム 構 成 を 情 報 の 側 面 か ら 組 み 立 て て い く と 、 相 関 し て 図 の よ う な も の に な る 。 こ の 図 に 表 し た も の が 、 動 き 続 け て い る社会福祉に流通している情報の全容であり、情 報 を 活 か す こ と を 考 え る ひ と つ の 基 盤 に な る の で はないかと思っています。 そのことと合わせて、社会福祉は先ほどの縦軸、 横 軸 と い う こ と だ け で は な く 、 人 の 生 活 を 取 り 巻 くさまざまな大きなシステムの中に規定されます。 大きな政治システム、経済システム、文化システム、 社会システム、これらの動きによって大きく規定 さ れ て い る こ と を 勘 案 し 、 こ の マ ク ロ 環 境 と の 情 報の往来も含めてとらえます。 そ の よ う に い た し ま す と 、 古 川 先 生 の 社 会 福 祉 のシステム構成との対照関係で示した情報の構成 と、そして、社会福祉を取り巻くマクロの環境、 あるいは大きなシステムということとを組み合わ せ て 、 社 会 福 祉 の 情 報 の 全 容 を こ の よ う な 社 会 福 祉 の 運 営 に 関 わ る 情 報 の マ ト リ ク ス と し て 、 ま ず は描けるのではないかというふうに考えておりま す。これが社会福祉の情報をさらに検討していく 基盤になります。 【図2】社会福祉の運営に関わる情報のマトリクスの基盤 一 て 了 且 政治システム・文化シス弓 ( 針 今 福 軸 の マ ク ロ 蜜 も た だ し 、 あ く ま で も 古 川 先 生 の マ ト リ ク ス に 則 して並べたというところにとどまるきらいがあり ます。システム構成の内容にあるものを一つひと つ 見 て ま い り ま す と 、 重 複 し て い る も の が シ ス テ ム 間 に あ る だ ろ う 、 同 じ も の で あ っ て も 変 形 し て いる等々あると思います。全体としてその総量、 あ る い は 次 元 な ど を 見 て い く と き に は 、 さ ら な る 分析と整理が必要だと思います。 社 会 福 祉 の 拡 大 が ど こ ま で 進 む も の な の か 、 一 方で限定という視点をもって考えていく必要があ る の か と い う こ と と 関 わ っ て 検 討 し な け れ ば な ら ないこともあります。情報は、あれもこれも情報 であると、全てが情報であるということができま すが、際限なく情報としてとらえられるものが広 がっていくと、むしろ情報を使ってうまくものを 語れなくなるという問題も出てきます。 ということは、情報をとらえるに際してはどこ か で 条 件 付 け し て 説 明 す る と い う こ と が 必 要 に なってきます。しかし、そのようなコントロール にかかる前に、まず全容を示したい、見渡しを持 ちたいというのが、私の現在のスタンスです。 この全容の妥当性を一つひとつ分析していく、 再検討をしていくためには、実際の社会福祉に関 わる現象、事象の中から作業を進めていくことが 有効ですし欠かせません。例えば障害者の方の自 立生活運動であったり、さまざまな実践からくみ 上げて考えていくことはできるわけで、それを行 うことがこの研究課題に係る次のステップです。 自分が表したかったことを紹介させていただき ました。けれども、そのようなことを説明しなが らも、私自身は、この本の冒頭に古川先生が寄せ られている言葉のとおりで、ある意味、苦言とし て書かれていることに該当いたします。私の社会 福祉の理解の方法の一部はまさにそのとおりです。 古川先生の示された見識や理論はあくまで古川 先生のものであって、私のものではありません。 オリジナリティーを持って、どうにも料理できる ようなものをつくりたいと思うのですが、力不足 ということで、あるいは発展途上ということで、 ご容赦いただきたいと思います。 秋元:西田先生、どうもありがとうございました。
今回のシンポジウムを企画する中で、テーマ自 体はかなり違っているということもあったんです けれども、少し緩やかなかたちでつながりという ことをどう設定しようかということを考えました。 その際、原論とは何なのか、もし時間があれば、 後 の シ ン ポ ジ ウ ム で で き る と 思 う ん で す け れ ど 、 原論としての古川理論、社会福祉原論としての古 川理論ということを意識しながら、それぞれのテー マ、レベルでお話しいただけると、そのつながり ということができるんではないかというようにも 思います。 先ほど野口先生のお話は、まさに連動するもの を扱うということで、その原論としての古川理論 をどう受け止め、どう見るのか、どう考えるのか ということだったと思います。いまの西田先生の お 話 は 、 原 論 を 踏 ま え て 応 用 問 題 と い っ た ら い い でしょうか。それぞれの具体的な制度、政策のレ ベルで、原論を踏まえつつ考えていったときにど う い う こ と が 論 じ ら れ る の か と い う よ う な 話 に なっていたかと思います。 次に3番目のお話しですが、これはかなり具体的 な話になっています。原論というレベルからする と、やや距離感のあるお話になっていると思うん ですけれども、おそらく表に出る、出ないは別と して、その前提として原論の重要性というのが、 たぶんあるだろうなということを考えています。 では、よろしくお願いします。 笹尾:いま、ご紹介にあずかりました東京学芸大 学で非常勤をしております笹尾雅美と申します。 よろしくお願いいたします。 私は、25年前に東洋大学の社会学部を卒業しま した。大学3年生のときに古川ゼミでお世話になっ て、そのときにやはりみんなで理論研究をしてい くときに、古川先生から理論の向こうに人々の生 活が見えるような、そういう学び方をしなさいと いうふうに言われたのがとても印象的でした。そ し て そ れ か ら 教 員 に な っ て 、 そ し て 、 ご 縁 が あ り まして、1998年にもう一度大学院の門を〈く、る機 会に恵まれ、こうして今日、こういう立派な場所 で発表させていただく機会が持てたことを本当に 感謝しております。まだまだ未熟な点が多いので、 ぜひ皆さんのご意見を伺いながら成長する、そう い う 場 に し た い と 思 い ま す 。 ど う ぞ よ ろ し く お 願 いいたします。 私は、『社会福祉の理論と運営」という本の中で、 第3部、「対象とそのアプローチをめく、って」の部 分 で 、 今 日 の テ ー マ で あ り ま す 「 社 会 適 応 期 に お ける若年高次脳機能障害者の自立支援」という論 文 を 書 か せ て い た だ き ま し た 。 高 次 脳 機 能 障 害 と いうのは、古くからあった障害ですが、障害の診 断基準が設けられたのが1990年後半以降で、それ 以前というのは、高次脳機能障害者を対象とした 一 般 社 会 サ ー ビ ス は お ろ か 、 社 会 福 祉 サ ー ビ ス も 皆無の状態でした。多くの当事者、家族、関係者 の努力が実り、少しずつ実態が明らかになり、そ して高次脳機能障害の方々を対象としたサービス が実施されるようになりました。今回、Aさんの 事例を通じて、社会福祉サービスの広がりという ものに注目をして発表します。 初めに定義や特徴、実態について、解説します。 まず高次脳機能障害とは、脳血管障害、脳外傷、 脳炎、低酸素脳症等で脳を損傷したことによって 生 じ る 障 害 の 症 状 の こ と を 指 し ま す 。 具 体 的 な 症 状 と し て は 、 失 語 症 、 注 意 障 害 、 記 憶 障 害 、 半 側 空間無視、遂行機能障害、失行、半側身体失認等。 これは、脳の損傷部位と程度によって、非常に症 状がまちまちでその対応には、極めて個別性や多 様性が求められる障害と言えます。 次 に 高 次 脳 機 能 障 害 の 特 徴 は 、 そ の 症 状 が 外 見 か ら は 非 常 に 見 え に く く て 、 医 療 現 場 で 見 落 と さ れやすい。その一方で、日常生活の中で深刻な困 難 が 生 じ る 。 具 体 的 な 例 で 補 足 説 明 を し ま す と 、 例えば退院やリハビリの現場で、「物が握れますか」 とか、「歩けますか」といったことが質問されて、 患者さんは比較的出来てしまう場合が多いのです。 ところが、日常生活に戻ってお茶を入れるときに、 例 え ば 急 須 と か 、 湯 飲 み は 握 れ て も 、 遂 行 機 能 障 害がある場合に一連のものを目の前にして、どこ か ら 手 を 付 け て い い か 分 か ら な く な っ て し ま っ た り、途中で迷ってしまったり、結局お茶が入れら れないといったような困難が、日常生活で生じま す。 また歩行ができたとしても、例えば事例の方も
そ う で し た が 、 目 の 前 に あ る コ ン ビ ニ で ペ ッ ト ポ ト ル を 購 入 後 、 帰 っ て く る と き に コ ン ビ ニ の 出 口 が ど こ だ っ た か わ か ら な く な っ た り 、 目 の 前 に 家 が あ る の に 、 迷 子 に な っ た り し て し ま い ま し た 。 高 次 脳 機 能 障 害 は 、 一 見 障 害 な ど な い か の よ う に 見 え る た め 、 お 茶 が 入 れ ら れ な い 、 迷 子 に な っ た 場 合 、 怠 け て い る と か ふ ざ け て い る よ う に 誤 解 さ れてしまうこともあるのです。 二 つ 目 の 特 徴 と し て 、 以 前 は 高 次 脳 機 能 障 害 と い う の は 、 ど ち ら か と い う と 脳 血 管 障 害 を 原 因 と し た 高 齢 者 の 障 害 と 捉 え ら れ て い ま し た 。 そ の た めに老人福祉とか、現在の介護サービスが対応し てきた経緯がありますが、交通事故、それからス ポーツ事故の多発、さらに医療技術の進歩により、 高次脳機能障害を後遺症に持つ若年層が増加して い ま す 。 た だ し 、 高 次 脳 機 能 障 害 者 の 若 年 層 の 実 態 把 握 が 遅 れ て い る た め 、 3 つ 目 の 特 徴 と し て 、 障 害 の 認 定 や 障 害 者 手 帳 取 得 の 困 難 、 障 害 者 年 金 の受給者が低い、総じて社会制度が未整備である というのが現状です。高次脳機能障害が、福祉の 谷間の障害であるという由縁です。 高 次 脳 機 能 障 害 の 実 態 と し て は 、 全 国 の 高 次 脳 機能障害者数は、全ての年齢層を含めて30万人。 これは、2004年の厚生労働省の実態調査によりま す。2004年ですから、もっといまは多いというこ と が 容 易 に 想 像 で き ま す 。 そ れ か ら 東 京 都 や 、 あ る い は 国 立 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン セ ン タ ー に お け る 実態調査によると、頭部外傷を原因とする若年層 が 増 加 し て い る と い う こ と 。 さ ら に は 、 障 害 者 手 帳がニーズに対応していない実態があります。冒 頭 で も 申 し 上 げ ま し た け れ ど も 、 高 次 脳 機 能 障 害 の定義が明確化されたのが1996年です。その後、 診 断 基 準 と い う の が 設 け ら れ ま し た の で 、 そ れ 以 前に高次脳機能障害になった人たちというのは、 手帳が取得できない状況でした。その後2002年に 障害認定基準の改定となり、高次脳機能障害を持っ た人たちが、精神手帳の取得ができるようになり ました。ただし、精神障害者手帳を取るというこ とへのためらいや、手帳のサービスと生活ニーズ の不一致により、取得の伸び悩み状況が生じてい ます。 その一方で、むしろ身体障害者手帳をとったほ うが、生活の質の向上には役に立つということで、 例えば指先にほんのちょっとでも麻痒があったら、 そ れ を 使 っ て 身 体 障 害 者 手 帳 取 得 す る と い っ た 状 況 が あ り ま す 。 そ う い っ た 意 味 で 高 次 脳 機 能 障 害 を 持 っ て い る 人 た ち の 手 帳 の 取 得 率 、 あ る い は 手 帳 の 種 類 と い う の が 、 非 常 に ば ら つ き が あ っ て 、 そ し て い ず れ の 手 帳 を と っ た と し て も 、 な か な か ニーズに対応していないというのが利用者の声で あ り ま す 。 そ ん な こ と と 関 連 し ま し て 、 障 害 者 年 金の受給の低さも実態としてあげられます。 以上を前提に、早速今日の本題であります高次 脳機能障害を持つ若者Aさんの事例を通じて、社 会福祉サービスの拡大について論じて参ります。 本事例のAさんは、現在30代の女性です。20歳の ときに溺水事故で低酸素脳症による重度の高次脳 機能障害を負いました。そのときに記憶をつかさ どる海馬を損傷したことによって記憶障害、それ から片まひ、失認障害が、後遺症として残ってい ます。事故後のAさんは、医療を中心とした集中 治療期、回復期を経て、社会適応期に入りました。 本 来 で あ れ ば 、 治 療 が 終 わ っ た 後 と い う の は 、 社 会復帰になって、それぞれ家庭、学校、地域社会、 職 場 に 戻 る わ け で す け れ ど も 、 こ の 高 次 脳 機 能 障 害の後遺症が残ってしまったことによって、日常 生 活 に 困 難 が 生 じ る よ う に な っ て し ま い ま し た 。 Aさんは、家族をはじめ、友人、医療、福祉関係者、 地域住民の支援を受けて、現在、自立に向けて在 宅生活を送っています。 こ の A さ ん が 、 高 次 脳 機 能 障 害 を 負 っ た の が 1997年。ようやく医療関係者によって、高次脳機 能障害の定義がなされたときで、社会一般に関し て は 、 ま だ ま だ 認 識 は 低 く 、 社 会 制 度 と い っ た も のは、ほとんど皆無に等しい時期でした。まさに Aさんの事故から社会適応期へのプロセスは、時 期 的 に 高 次 脳 機 能 障 害 に 対 す る 社 会 サ ー ビ ス が 徐々に拡大する過程と重なります。 Aさんが障害を負った当時、高次脳機能障害と いうのは、回復の見込みが非常に難しい障害、ま た、本人の中で非常にいらいらとかがたまってし まうので、それが感情的に爆発して、人格が変わっ てしまうといった医療現場での理解がありました。 Aさんの退院後の在宅生活において、昔、英語が
A さ ん の 気 分 が の っ て 、 調 子 が 出 て く る と 、 筆 跡全体に変化が表れ、特に"1"は顕著に変化しま す 。 A さ ん は 、 英 文 を 試 写 す る 時 、 テ キ ス ト や 私 の字体を模倣しています。しかし、気分がのって、 調子が出てくると、筆跡全体に変化が表れ、特に6$l" の字体が顕著に変化してくることに気付きました。 そして、この0!l"は、私やテキストの筆跡とは異 なります。 英語が好きだったお嬢さんだったのでしょう。押 し 入 れ の 中 に 1 冊 の 英 語 の ノ ー ト が 残 っ て い ま し た。資料②は、高校時の筆跡(左)と現在の筆跡(右) の比較です。現在の筆跡は資料①の筆跡とは大きく 異なり、且つ現在の変化した"l"と高校当時に書 いていた"l''の筆跡は真おんなじでした。 当時、高次脳機能障害の人たちというのは、頭 を打ったことで記憶が壊れてしまって、もう出て こないというような、そういう通説だったようで し た 。 し か し A さ ん の 主 治 医 は 、 取 り だ し づ ら い だ け で 、 記 憶 は 残 っ て い る か も し れ な い 。 環 境 を 整 え る こ と に よ り 回 復 す る 可 能 性 が あ る と い う 臨 床 を 重 ね て い ら し た 先 生 で 、 早 速 そ の 先 生 に 筆 跡 を お 見 せ し た と こ ろ 、 ま さ に こ れ は 、 あ っ た 記 憶 が出てきた、つまり、Aさんの脳が回復したとい うひとつの証明だとのことです。この事例より、 環境を整えることで、若年層の高次脳機能者は、 症状が回復するという特集をフジテレビが作成し、 その記録が家族会を通じて、厚生労働省に提出さ 好 き だ っ た と い う こ と を 思 い だ し て 、 何 か 英 語 を 取 っ 掛 か り に で き な い か と い う こ と で 、 月 に 2 回 か ら 4 回 程 度 の 英 語 レ ッ ス ン が 始 ま り ま し た 。 A さんの記憶が回復したことが可視的に証明された エピソードをこれから1つご紹介しようと思いま す。Aさんが、2004年10月から始まった英語のレッ スンで初めて書いたアルファベット(資料①)か ら理解出来ることとして、Aが抜けていたりとか、 あるいはKとJが逆ざまだったり、LとかMが抜 け て い た り 、 ま さ に ま だ ら 記 憶 な わ け で す 。 私 と し て は 、 こ う い っ た ま だ ら 記 憶 の あ る 人 に ど う い うふうに学習効果を高めていけばいいかというこ とで、非常に悩んだことを覚えています。しかし、 ご 家 族 、 友 人 、 リ ハ ビ リ 関 連 、 主 治 医 の 助 言 を い ただきながら、2年後には英語の文章を書くに至り ました。 資料①「アルファベット」(2004年10月) 畷・#;ぶゆ
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L申■毎 09、〆 宇日、 資料②「高校時代の筆跡(左)と現在の筆跡(右)」(2006年8月) fロ小ムムロa 蜂g¥ 篝 段中 心 に 、 高 次 脳 機 能 障 害 、 特 に 若 年 層 の 人 た ち を 対 象 と す る サ ー ビ ス が 、 少 し ず つ 広 が り を 見 せ る ようになりました。では、Aさんの事例を通じて、 社 会 福 祉 サ ー ビ ス が 皆 無 の 状 態 か ら 広 が り を 示 し た時期を、要請期と先駆け期と便宜上2期に分けて 説明します。まず社会福祉サービスへの要請期。 こ れ は 、 家 族 会 の 人 た ち が 、 厚 生 労 働 省 の 陳 述 害 の中で、社会福祉サービスを要請しているという 文 章 が 頻 繁 に 出 て き た こ と と 、 家 族 会 の 記 録 や 古 川先生のご著書にも要請期という用語がもちいら れています。 この時期というのは、当事者および家族の緊迫し た、もう絶えることがない、24時間、365日続く不 安や苦しみ。これは、本当に想像を絶するものがあ ります。その中で特に家族は、事故で治療してもらっ た、あるいはリハビリを受けた医師、リハビリの言 語療法士、作業療法士、理学療法士に社会復帰が困 難であることを訴えます。そこで初めて、社会適応 期にある高次脳機能障害を後遺症に持った若年層の 人たちが社会復帰できないという社会的認識が始ま ります。学校、地域社会、そして、家庭、職場にも 戻れず、代わりに社会に理解者を呼びかけ、交流会、 情報交換、学習会、マスコミに向けての発信等を行っ て、行政に働きかけていく、そのような時期が要請 期と考えます。社会復帰が非常に困難な状況下で、 当事者や家族は、わらをもすがる思いで必死に社会 に訴えます。その過程を経てきた家族会を含めたA さんの関係者は、様々な団体・機関に訴えてきた結 果、社会福祉関係者が先駆けて動いてくれたと振り 返ります。 次にAさんの事例を通じて、社会福祉サービス が 他 の サ ー ビ ス に 先 駆 け て 、 動 き 出 し た 例 を 3 つ ご紹介します。1つ目は、大学への通学が困難な 部分を社会福祉協議会が送迎バスを提供しました。 2つ目は、老人病院の理解により、ケアワーカー が食事介助、着脱介助を通じて生活リハビリを実 施 し ま し た 。 3 つ 目 は 、 本 来 、 高 次 脳 機 能 障 害 は 精神障害に分類されるので、当然精神障害者の作 業 所 を 利 用 す る こ と に な る の で す が 、 A さ ん に は 合わなかったため、身体障害者の作業所を利用出 来 る よ う に な り ま し た 。 こ れ ら 3 つ は 、 社 会 福 祉 専 門 職 の 裁 量 で の 対 応 で し た 。 そ の 後 、 市 の 裁 量 で週に1度の家事支援のヘルパーも利用出来るよう に な り ま し た 。 全 国 的 に は 、 障 害 者 福 祉 セ ン タ ー の高次脳機能障害の人たちを対象とした相談援助 の窓口の設置、デイサービス、作業所の受け入れ、 あ る い は 就 労 支 援 プ ロ グ ラ ム を も つ 自 治 体 が 増 え てきました。 さ ら に 検 証 し て 行 く 必 要 が あ り ま す が 、 本 事 例 は古川先生が述べられた社会福祉サービスの拡大 の 一 例 と 認 識 し て い ま す 。 社 会 福 祉 が こ の よ う な 広 が り を 示 し た の は 、 社 会 福 祉 の 機 能 の 中 に 補 充 性や先導性があるからこそ、それが生きた現実の 社 会 の 中 で 表 れ た の だ と 思 い ま す 。 た だ し 、 社 会福祉サービスが広がりを示したということと、 利 用 者 の ニ ー ズ が 充 足 さ れ た 、 あ る い は 基 本 的 人 権が守られたこととは異なります。 次 に A さ ん の 1 週 間 の 活 動 に つ い て ご 説 明 さ せ て頂きます。許可を取り、ご家族に聞き取り調査 をさせて頂きました。活動全体を福祉作業所・家 事 支 援 ・ デ イ サ ー ビ ス 等 の フ ォ ー マ ル な 社 会 支 援 と家族との余暇時間、体操教室、自助グループの 集 ま り 等 の イ ン フ ォ ー マ ル な 社 会 支 援 に 分 類 し ま した。Aさんの前向きな姿勢とご家族の努力によ り1週間のうち約半分がフォーマルな支援で埋めら れていますが、実際には、フォーマルな支援の連絡・ 調整、送迎等は家族に委ねられる場合が多く、依 然として家族の負担が大きいことは見逃せません。 今後の課題は、社会福祉サービスが拡大を示す 過 程 に 於 い て 、 拡 大 の 契 機 、 条 件 、 程 度 、 方 向 性 に関して、事例を積み重ねることにより、理論構 築 を 進 め た い と 考 え て い ま す 。 以 上 、 発 表 を 終 わりにします。どうもありがとうございました。 秋 元 : 質 問 と し て 出 て き た も の が あ り ま す の で 、 まずそれに関わって、3人のシンポジストの先生 方にお尋ねしていきたいと思います。その上でさ らに今日参加されている方のほうから、ペーパー としては出していないんだけれど聞きたいことが あるということであれば、お受けいたしまして、 最後に、10分ほど古川先生のほうからコメントを いただくというような段取りで、これから進めて いきたいと思います。 今日、ご報告していただいた順番で、まず野口
先生に対してです。本質と機能ということが大き な枠組みとして、今日のお話の一つの柱になって いたんですけれども、それについてもう少し説明 し て い た だ け な い か 。 本 質 と 機 能 が 、 相 反 す る 可 能性があるというような趣旨のお話もあったよう だけれど、そこらへんのことも含めて、少し説明 を加えていただけないでしょうかという質問でし た。 それでは、お願いします。 野 口 : ご 質 問 い た だ き 、 あ り が と う ご ざ い ま す 。 古川先生の理論をどのように整理していくかとい うことを考えたときに、本質と機能で分けて考え ることができるのではないかと思いました。 こういう分け方を古川先生がされているわけで はなくて、私自身が古川先生の理論を分かりやす くといいますか、ほかのこれまである従来の理論 とどのように違うのかを説明するときに、この本 質と機能というものを使うと、うまく説明できる のではないかと思い、使っております。 そ れ と 、 機 能 と い う 言 葉 は 、 先 ほ ど の 報 告 の 中 で も 、 少 し 一 般 的 に 使 わ れ る 機 能 と い う 言 葉 と ちょっと違う使い方をしているといいましたが、 こ こ で は 他 の サ ー ビ ス と の 関 係 か ら 社 会 福 祉 を 捉 えるという見方を機能的とおいております。 本質のほうは、独自性といいますか、それを説 明すると社会福祉になるというものが本質的説明 とおいています。 ですので、本質と機能が相反するとお話をしま し た 。 そ れ が 、 古 川 先 生 が 本 質 と 機 能 の 両 側 面 を 統 合 さ れ た こ と に 対 し て 、 逆 に そ れ が 、 相 反 す る 両 方 の 課 題 を 抱 え て し ま っ て い る の で は な い か と 説明をいたしました。 そして、あらためて考えてみますと、本質的機 能をもう一度補足的に説明するのは難しくてうま く 説 明 で き な い の で す が 、 そ も そ も 本 質 が あ る 、 そ の 本 質 は 、 例 え ば 保 護 的 な 役 割 で あ る 、 と 捉 え たとすると、もうそれで社会福祉の説明は、終わっ てしまうんじゃないかと思います。 一 方 で 、 機 能 的 な 説 明 で す と 、 ほ か の サ ー ビ ス との関係から、社会福祉が規定されるということ に な り ま す の で 、 教 育 で あ っ た り と か 、 所 得 保 障 で あ っ た り と か 、 い ろ い ろ な 領 域 の ほ か の 一 般 社 会 サ ー ビ ス と の 関 係 か ら み て 、 社 会 福 祉 と い う の が 相 対 的 に 決 ま る の で 、 本 質 が あ る 、 絶 対 的 な も のがあるという一方で、絶対的なものがなくて、 他 の 政 策 と の 関 係 で 決 ま る と い う の は 、 相 反 す る のではないかと考えまして、それを報告いたしま した。 で も 、 そ れ で う ま く 説 明 に な っ て い る か 分 か り ません。 秋元:ありがとうございました。 本 質 と い う も の を 論 じ る こ と の 意 味 と し て ど ん なことを考えているのか。あるいは、機能として 論じることによって、どんなことが議論できるよ うになるのか。機能を論じることの意味とか、そ ういうような説明、取り上げ方をここではしたと いうようなお話だったと思います。 い ま の 本 質 と 機 能 の 話 に 関 連 す る か も し れ ま せ んが、西田先生に対してです。本質があるから機 能が構成されるという趣旨のお話があったように 思いますけれども、それについてもう少し説明い ただけませんかというような内容の質問なんです が、よろしいでしょうか。 西田:ありがとうございます。 私 は 、 ま ず 基 本 的 に 本 質 を と ら え ま す 。 そ の 本 質によって社会福祉の固有な機能がはたらくと考 え て い ま す 。 社 会 福 祉 の 固 有 性 に 基 づ く ア プ ロ ー チの固有性がある。古川先生のL字型構造も示し ながら、図にある縦軸、横軸について、読み取れ るさまざまな情報を介在しての動きというものに 関 心 を 寄 せ る ん だ と い う 話 を さ せ て い た だ き ま し た。 いまの質問に対しての直接の答えにはならない の で す が 、 私 が こ こ 半 年 ほ ど の 体 験 の 中 か ら 、 本 質と機能について少し考えたいと思っていること を紹介させていただきたいと思います。 私自身は、社会福祉の領域で学び、仕事を重ね てきて、物事も考えてきた人間です。社会福祉の 人 間 、 社 会 福 祉 領 域 の 人 間 だ と 思 っ て い ま す 。 社 会 福 祉 の 本 質 と い う こ と で 、 社 会 福 祉 領 域 の 中 で は、ある部分では自明なものとして捉えられる本