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多面性を持つストレス耐性遺伝子AtALMT1の発現制御に関する研究

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Academic year: 2021

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Title

多面性を持つストレス耐性遺伝子AtALMT1の発現制御に関

する研究( 内容と審査の要旨(Summary) )

Author(s)

小林, 安文

Report No.(Doctoral

Degree)

博士(農学) 甲第612号

Issue Date

2013-09-10

Type

博士論文

Version

ETD

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12099/47823

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

(2)

[6] 氏 名(本(国)籍) 小林 安文(岐阜県) 学 位 の 種 類 博士(農学) 学 位 記 番 号 農博甲第612号 学 位 授 与 年 月 日 平成25年9月10日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第3条第1項該当 研 究 科 及 び 専 攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻 研究指導を受けた大学 岐阜大学 学 位 論 文 題 目 多面性を持つストレス耐性遺伝子AtALMT1の発現 制御に関する研究 審 査 委 員 会 主査 岐阜大学 教 授 鈴 木 徹 副査 岐阜大学 教 授 小 山 博 之 副査 静岡大学 教 授 森 田 明 雄 副査 岐阜大学 助教授 小 林 佑理子

論 文 の 内 容 の 要 旨

根から放出される有機酸は,錯体形成能力に依存した無機養分の獲得や有害金属イオン の無毒化機能とともに,有機酸に対する走化性により根表面に到達して植物免疫をもたら す有用根圏微生物を,誘引する機能を担うことから,植物の重要な複合ストレス耐性形質 の一つに位置付けられている。この有機酸放出は,有機酸の代謝や輸送を担う遺伝子の転 写調節や翻訳後修飾による活性化により,炭素経済の点からは理にかなった制御を受ける ことが断片的に報告されていたが,その全体像には不明な点が多く残されていた。この論 文では,モデル植物シロイヌナズナの根からのリンゴ酸放出を様々な実験により解析し, この現象が,リンゴ酸放出現象の鍵分子と言えるリンゴ酸トランスポーター遺伝子の巧妙 な転写制御により成立していることを明らかにした。その概要は,大きく2つに大別でき る。

第一に,シロイヌナズナの根のリンゴ酸輸送体,AtALMT1 (Arabidopsis thaliana

ALuminum activated Malate Transporter 1)は,鋭敏な Al 検知機構で転写制御されること を明らかにしたことである。 AtALMT1 は,その名が示すようにアルミニウム(Al)耐性 に関与し,アルミニウムに転写誘導されることがわかっていた。本研究では,細胞膜表面

の負電荷と溶液中のAl のイオン形態変化を考慮した熱力学モデルと,分子バイオマーカー

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胞膜表面のAl 濃度のみで説明され,その検知が極めて鋭敏であることを見出した。熱力学 モデルでは,細胞膜に到達するAl は溶液中の Al 濃度と細胞膜表面の負電荷密度の変化を 変数とする関数であらわされ,pH5-5.5 でも顕著な毒性が存在し,これが共存するカルシウ ムなどの陽イオンにより交換的に解毒されることが推定された。この推定と,分子生物学 的な解析結果は完全に一致し,AtALMT1の転写誘導が,その遺伝子自身を破壊した超感受 性系統が阻害をうけるよりも低い濃度で誘導されることを見出した。尚,この熱力学モデ ル化を用いた解析過程では,細胞膜電荷に起因する新規のAl 耐性遺伝子を特定し,施肥管 理に関して長年の謎であったpH 矯正能力を持たない石膏肥料の酸性土壌ストレス軽減効 果を分子レベルで解明することに成功した。 第二に, Al シグナルと有用菌の誘引に関するシグナルが,それぞれ独立に制御されるこ とを証明したことである。これは,一連の3’欠失プロモーターに GUS(βグルクロニダー ゼ)レポーター遺伝子を連結した組換え体系統で,様々なシグナル誘引物質によるGUS レ ポーター遺伝子発現をプロファイリングする解析と,特定のシグナル伝達経路を欠損した 複数の変異体でのシグナル物質による発現レベル解析を組み合わせることにより証明した ものである。すなわち,マスタースイッチであるAtALMT1は様々なシグナル誘引物質で 転写活性化されるが,Al と鞭毛コンセンサスペプチドによる転写活性化は,アブシジン酸 やオーキシンによるものとは異なる経路で制御されると結論した。さらに鞭毛コンセンサ スペプチドによる転写活性化は,他の微生物応答現象と同じシグナル伝達経路によること を突き止めた。同様な複雑な転写活性化プロファイルがクエン酸トランスポーター遺伝子 でも確認できたことから,有機酸放出の主要な遺伝子は複雑制御により,多面的なストレ ス耐性獲得に貢献していると推定した。尚,AtALMT1の過剰発現によりAl 応答型クエン 酸放出と有用菌の誘引能力が向上することを明らかにし,作物の分子改良に有効な手法で あることの証明にも成功している。 以上,本研究は,植物の環境適応戦略で重要な役割を担う根圏からの有機酸放出が,多 面発現形質であることに呼応した,巧妙な転写制御で調節されることを明らかにした。こ の仕組みは,多くの植物に保存されることから,品種改良の分子ターゲットとなるばかり でなく,その能力を引き出す栽培管理技術を通じて,食糧・バイオマス生産を向上させる ための重要なターゲット形質であると結論できる。

審 査 結 果 の 要 旨

根端から有機酸を放出する現象は,養分の獲得,有害金属の解毒や,根圏微生物との 相互作用など,植物のストレス耐性における多様な役割を担っている。 これは,学位 申請者である小林氏が初期の共同研究で明らかにしたように,STOP1-Like Protein を 転写活性化に必要とする,有機酸トランスポーター遺伝子の転写調節が重要な役割を担 う機構である。 小林氏は,複雑な転写制御を可能にする機構について,モデル植物シ

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ロイヌナズナで研究を進め,本学位論文として取りまとめた。 その概要は,以下の2 項目にまとめられる。

① 細胞膜表面アルミニウム活動度モデルによるアルミニウム受容様式の解明 シロイヌナズナのリンゴ酸放出は,

AtALMT1

Arabidopsis thaliana

ALuminum

activated Malate Transporter1

)の転写活性化による制御を受けている。 特に,ア ルミニウムにより鋭敏に転写活性化されるが,そのセンシング機構は未解明であった。 小林氏は,この活性化が,細胞膜表面の3 価のアルミニウムイオン(Al3+)を極低濃度 で検知する機構に依存することを実験的に突き止めた。 この解析は,熱力学モデルに よる細胞膜表面の負電荷密度変化を考慮したAl 活動度の計算と,バイオマーカー遺伝 子や超感受性変異体の解析などの分子生物学実験を組み合わせた巧妙なもので,当初の 問題提起に答えると共に,細胞膜リン脂質代謝能力に関わる新規のアルミニウム耐性遺 伝子を発見し,貧栄養の酸性土壌における施肥管理で長年の謎であった石膏肥料の施用 効果を分子生物学的に証明することにも成功した。 1. 多面発現を可能にする複数の転写誘導経路の解明 AtALMT1 リンゴ酸トランスポーターから根圏に放出されたリンゴ酸は,アルミニウ ムイオンを無毒化し,植物免疫を誘導する土壌細菌を根表面へ誘引する。 これらの両 形質は

AtALMT1

の転写活性化により引き起こされる。 小林氏は,この両者を可能 とする複雑な転写制御を,スタンダードな分子生物学・分子遺伝学手法により解析した。 具体的には,デリーションプロモーターと接続したレポーター遺伝子発現を転写誘導物 質によりプロファイルすると共に,シグナル伝達経路変異体による特定のシグナル伝達 経路の関与を調べた。 一連の解析から,アルミニウムイオンと鞭毛タンパクの保存領 域のペプチドが,独立の経路で転写活性化することを証明し,さらに

ALMT1

遺伝子の 過剰発現により両形質を同時に分子改良できることも見出した。 これらの成果は,根の有機酸放出が,多面発現を介して植物が様々な環境に適応する ためのマスタースイッチの一つであることを示すとともに,その転写制御機構の骨格を 提示したもので,将来の食料生産の鍵となる貧栄養土壌の生産性向上に貢献できる研究 成果として高く評価できる。 尚,本学位論文は2 報の Plant Physiology 誌を含む 3 報の基礎論文に加えて,複数の関連論文の内容を含んで構成されている。 以上の内容 について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の学位論文とし て十分価値あるものと認めた。 (基礎論文) 1. 小林安文,小林佑理子,澤木宣忠,小山博之 (2009) シロイヌナズナリンゴ酸トランスポーター (AtALMT1) 遺伝子の発現様式の解析 無菌生物 39(2), 57-60

2. Kobayashi, Y. Kobayashi, Y., Sugimoto, M., Lakshmanan, V., Iuchi, S., Kobayashi, M., Bais, H and Koyama, H. (2013) Characterization of the complex regulation of AtALMT1 expression in response to phytohormones and other

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inducers. Plant Physiology 162:732-740.

3. Kobayashi, Y., Kobayashi, Y., Watanabe, T., Shaff J. E., Ohta, H., Kochian, L. V., Wagatsuma, T., Kinraide, T. B. & Koyama (2013) Molecular and physiological analysis of Al3+ and H+ rhizotoxicities at moderately acidic

conditions. Plant Physiology 163印刷中 (関連論文)

1. 小山博之, 小林安文,Kinraide T. B,我妻忠雄 (2008) 細胞膜表面のイオン活動度から見えるもの 土肥 誌 79:500-504

2. Sawaki, S*., Iuchi, S*, Kobayashi, Y*, Kobayashi, Y, Ikka T., Sakurai, N., Fujita, M., Shinozaki, K., Shibata, D., Kobayashi, M. & Koyama, H. (2009) STOP1 regulates multiple genes that protect Arabidopsis from proton and aluminum toxicities. Plant Physiology 148:969–980 * Co-first author

3. Sawaki,Y., Kihara-Doi, T., Kobayashi, Y., Nishikubo, N., Kawazu, T., Kobayashi, Y., Koyama, H. & Sato S. (2013) Characterization of Al-responsive citrate excretion and citrate-transporting MATEs in Eucalyptus camaldulensis. Planta 237:979–989

4.Kobayashi, Y., Lakshmanan, V., Kobayashi, Y., Asai, M., Iuchi, S., Kobayashi, M., Bais, H. P. & Koyama H. (2013) Overexpression of AtALMT1 in the Arabidopsis thaliana ecotype Columbia results in enhanced Al-activated malate excretion and beneficial bacterium recruitment. Plant Signaling & Behavior, 8(9) 印刷中

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