Title 配位子π電子を介したクラスター錯体相互作用系の構築とその物性( はしがき )
Author(s) 川村, 尚
Report No. 平成9年度-平成10年度年度科学研究費補助金 (基盤研究(C)(2) 課題番号09650900) 研究成果報告書
Issue Date 1998
Type 研究報告書
Version
URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/366
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はしがき
遷移金属原子間に化学結合をもつ多核錯体はクラスター錐体と呼ばれ、ここ30
年余りに渡って急速に発展してきた。クラスター錐体の金属原子間結合にかかわる
電子は分極や非局在化し易くてその分布が柔軟であり、電磁場への応答の大きなも
のであることが明らかにされてきている。この金属原子間結合にかかわる電子を、
さらに芳香族配位子の汀系にまで非局在化させ,クラスター錐体の電子療造を更に
柔軟な性質のものにすることを目的として本研究を進めた。
本研究では、ロジウム並びにイリジウム複核錐体を具体的研究対象として取り上
吼金属原子間結合電子の配位子上への非局在化の量子化学計算に基づく評価なら
びに分光学的手法を用いた実験的評価、結晶構造解析に基づく寵位子と金属原子間
の相互作用の幾何構造変化への影響を調べ、電子的相互作用系を構築の要素となる
相互作用を評価した。
本研究を通して明らかに出来た点を要約すると以下のようになる:
1。・Rh(ⅠⅠ)複核ユニット2つを塩化物イオンで架橋させた新しい・ロジウム4核骨格
を初めて合成し,その幾何構造,電子スペクトル,酸化還元挙軌配位子交換に対
する安定性等の物理化学的性質を明らかにした。また,この新しい錐体が水溶液中
でオレフィン類の水素化反応にたいして触媒作用を示すことを明らかにした。
2。ランタン形ロジウム複核錐体において、(1)金属原子間♂電子は軸配位子上
に大きく非局在化しており;(2)金属原子間∂電子は架橋配位子方系上に中程度
に非局在化し;(3)金属原子間打電子は殆ど金属上に局在していて、配位子上へ
の非局在化は殆どないことを明らかにした。また,これら錯体のイオン化に伴う幾
何構造変化にもとづき,イオン化軌道を同定できることを明らかにした。
3。電子供与性の芳香族架橋配位子をもつイリジウム複核錯体において、(1)錯
体の酸化電位が著しく下がること;(2)イリジウム原子間距離が短くなることを
明らかにした。
4。芳香族架橋配位子をもつロジウム複核錯体カチオンラジカル塩におけるスピン
分布ならびに結晶構造と磁性や電気伝導度等の物性とを比較し,(1)金属原子上
のスピン密度が芳香族配位子方系上に非局在化していること(1つの寵位子当たり
約10%),(2)ラジカル塩結晶において芳香族配位子が隣接分子環で汀スタッ
キング構造を取ること,(3)この∬スタッキング構造においてスピン密度が大き
な原子同士が分子間で近接している結晶では反磁性的分子間相互作用が生じている
こと,(4)これらの結晶の電気伝導度が室温において10-7s皿-1程度であること
を明らかにした。
5。シリルならびにスタニル配位子とホスフィン配位子を持つ白金ならびにパラジ
ウム錯体が早い単分子異性化反応することを見出した。
この冊子はこれらの研究成果をまとめたものである。