Title
コンクリート構造物の固有振動数を用いた初期性能評価に
関する研究( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
中野, 聡
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 甲第309号
Issue Date
2007-03-25
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/21449
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏名(本籍) 学 位 の 種 類 学位授与番号 学位授与日付 専 攻 学位論文題目 学位論文審査委員 中 野 聡(福岡県) 博 士(工学) 甲第 309 号 平成19 年 3 月 25 日 生産開発システムエ学専攻 コンクリート構造物の固有振動数を用いた初期性能評価に関する研究 (Studyonevaluationofinitialperformance ofconcrete struCtureS
basedonnaturalfrequency) (主査) (副査) 哲 昭郎 恵博敏 郷 本 田 六森鎌 授授授 教教教 授 内 田 裕 市
論文内容の要旨
最近の耐震偽装問題や公共事業の安値受注の問題から,施工中や施工直後のコンクリ ート構造物に対する安全性能の照査が必要となっている.また,トンネルの覆エコンク リートの剥離を契機に,コンクリート構造物の劣化の問題が大きく取り上げられ,これ らの既設の構造物に対する健全度評価が重要な問題となっている.さらに,兵庫県南部 地震や新潟県中越地震におけるコンクリート構造物の被害や東海地震・東南海地震,首 都直下型地震等の予想される大地震に対する新規および既設の構造物に対する耐震性 能の評価が重要なテーマとなっている.コンクリート構造物の構造全体系の安全性や上 部構造・下部構造物の健全性,耐震性等の性能を簡易に評価する方法の確立が急務であ る. 本研究における構造物の性能評価は,衝撃振動試験から得られる構造物の固有振動数 を用いて構造物の現状を評価し,別途その構造物の初期状態を再現した数値モデルによ って構造物の初期状態を推定し,その両者を比較することによって,現状での性能評価 を行うものである.従って,構造物の初期状態を適切に再現することが可能であれば, 既設構造物に対する性能評価をより厳密に行うことが可能となる. 衝撃振動試験によるコンクリート構造物の性能評価は,鉄道構造物において1985年 より健全度調査手法として用いられてきた.これは鉄道構造物の最も重要な性能である 健全性の評価を構造物の固有振動数の標準的な値を指標としてきたためであり,鉄道構 造物では構造物の標準化が行われている場合が多いため,このような標準値による健全 性評価が可能であった.これに対して道路構造物は,鉄道橋との違いもあるが,構造物 の標準設計は採用されていないため,健全性評価に用いる構造物の固有振動数の標準値 の設定が困難であることが予想され,これまで適用されていなかった.このように,衝 撃振動試験によるコンクリート構造物の健全度評価法を,鉄道構造物に限定するのでは なく,コンクリート構造物全般に適用させるためには,固有振動数を基準値とする評価 法ではなく,固有振動数から,構造物の部材の剛性や耐震性能あるいは基礎の安定性能等の要求性能を照査する評価法とすること重要であった.本研究では,コンクリート構 造物の性能評価法として,衝撃振動試験等から測定される構造物の固有振動数に着目し て,構造物の要求性能を照査できる評価法の研究を行い,これらを種々の構造物に適用 して検証し,コンクリート構造物の初期性能評価の一手法を提案した. 本研究では,構造物の固有振動数に着目してその性能を評価した.先ず,下部工に着 目して単純な基礎の地盤ばねのみに着目した性能評価法について研究を行い,次いで上 下部一体構造のなかでも比較的構造がシンプルなラーメン高架橋に対して,基礎の地盤 ばねと柱の剛性の両方を評価するため,全体系1次モードと柱の2次モードに着目した 研究を行い,さらに構造が複雑な連続アーチカルバートや3径間連続PCエクストラド ーズド橋では全体系1次モードから高次モードに着目して初期性能評価について研究 を行った. 下部構造物の性能評価法の研究では,下部構造物の耐震補強による状態の変化に応じ て固有振動数が変化すること,強制振動試験で得られた固有振動数と一致すること,洗 掘や地震等の影響によって低下した地盤性状を定量的に把握できること,衝撃振動試験 よって得られる下部構造物の固有振動数を用いて性能評価を行う場合は,初期の地盤の せん断剛性から算出できる地盤ばね定数を用いればよいことを明らかにした. RCラーメン高架橋に対する性能評価法の研究では,衝撃振動試験で測定される高架 橋の柱部分系2次の固有振動モードは,起振機を用いた強制振動試験から得られる柱部 分系2次の固有振動モードとほぼ一致していることを確認し,柱の損傷を模擬した柱の 破壊過程において固有振動数が変化することを把握し,地震を受けた構造物の性能評価 として,衝撃振動試験から得られる固有振動数から構造物の損傷レベルを評価できるこ とを明らかにした. 連続アーチカルバート構造物の初期性能評価の研究では,施工の各段階においてアー チクラウン部に衝撃力を与える衝撃振動試験を実施し,構造物の設計時に用いた解析モ デルを用いて実際の振動性状を再現した.アーチのプレキャスト部材の結合部であるア ーチクラウン部と脚部は設計時と同様の剛結と評価することができ,衝撃振動試験を実 施することで,設計時に想定した性能を検証することが可能であることを示した.さら に,供用中に地震等で損傷を受けた場合を想定して,アーチクラウン部,アーチ脚部, 杭頭部のそれぞれの結合部に損傷を想定した場合の固有振動数の変化を解析的に算出 し,1次モードと2次モードの固有振動数の低下の度合いから,損傷の発生位置をあ る程度推定できることを明らかにした. 3径聞達続PCエクストラドーズド箱桁橋の初期性能評価の研究では,橋長503m, 中央径間220m,とプレストレスコンクリートのみで構成されるエクストラドーズド橋 では世界最大スパンの長大橋に対して,施工ステップ毎に衝撃振動試験を実施し,固有 振動数の初期値を把握するとともに,その固有振動数を用いた振動解析によって,地盤 ばね,各部位の剛性,支承の拘束等を評価することが可能であることを確認し,衝撃振 動試験が,今後同様の規模の長大橋に対する初期性能を簡便に評価する方法として有効 であることを明らかにした. 本研究の成果として得られたコンクリート構造物の固有振動数を用いた初期性能評 価法は,新設構造物の初期性能だけではなく,既設構造物に対する補修・補強対策前後 の効果の確認や,構造物が各種要求性能を満足しているか否かを評価する場合にも有効 である.