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エージェントのオブジェクト所有感の表現における表情の有効性

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2013 年度情報処理学会関西支部 支部大会

C-01

エージェントのオブジェクト所有感の表現における

表情の有効性

Effectiveness of expression in the representation of the object sense of ownership of the agent

古山 卓弥† 吉田 直人† 米澤 朋子†

Takuya Furuyama Naoto Yoshida Tomoko Yonezawa

1. はじめに

1.1. 表情による所有感表出と人間らしさ 近年,ノンバーバルな表現を用いたコミュニケーション ロボットや対話エージェントについての様々な研究が行わ れている.人間同士のコミュニケーションにおいては音声 情報に加え,視線や表情などの情報によって相手の状態を 推測する[1].中でも表情はノンバーバル情報を効率的に伝 達することのできるメディアとして重要な役割を果たして いる.例えば,人間は表情を用いて自分の心理状態を伝達 したり,表情から相手の心理状態を読み取ることができる. 人間特有のものである感情をロボットやエージェントが抱 いているように人間に感じさせることで,ロボットやエー ジェントに対する人間らしさが向上すると考えられる[2]. また一方,人間らしさは人間がもつ特性によって感じら れる.我々は,この人間的特性について,感情に基づく欲 求の社会的表現がみられる,物の所有行動に着目した.物 の所有は人類の発達に伴って生まれた概念である.人間は 物体に対して,「これは自分のものである」という認識を 潜在的に持つ.そして自分の所有が脅かされたときに,感 情となって表出される.我々はこの感情を「所有感」と定 義した. ロボットやエージェントの表情の変化によってユーザが 「人工的な擬人化メディアの所有感」を感じ取ることがで きれば,ロボットやエージェントに対する人間らしさの向 上が図れる.加えて,所有感表出行動は、物の所有を通し て他者との差別化をすることから,アイデンティティを形 成する要素の一つとも捉えられる.このことからエージェ ントが物に対する所有感を表出することは、エージェント が一個体として人間と生活を共にするにあたって必要な要 素であると考えられる. 本研究では,人間らしさを表出するモダリティとして顔 表情に焦点を当て,特定の物に対する所有感を示すことの できる擬人化エージェントの設計を目指す. 1.2. 所有の過程と表情表出パターン 人間の所有の過程は1)所有欲求,2)所有状態,3) 所有の放棄の3つに分けられる.1はその物体に興味を示 し,その物体を「欲しい」と思う感情である.2は今自分 の物であるという認識を持った状態を指す.3は「いらな い」という感情を生じて,物を破棄したり譲渡したりする ことを指す. ラッセルの感情円環に示されるように基本的な感情は, 快—不快と覚醒度の高い—低いによって分類される.しかし, 感情表出の意図はその状況と文脈によって様々である. 本稿では,所有感を脅かす行動として「人間がエージェ ントの前に置かれた物体を取る」を想定した.表出される 感情パターン1,2,3の所有の段階によって,どのよう な表情が所有感表出の要因となっているか検証を行った.

2. 関連研究

人間の所有をロボットに認識させる手段として西野 ら[3]の研究が挙げられる.西野らは人間の識別と移動の 観察をすることで,ロボットが物体の所有者情報を獲 得するという手法を提案した.物体に対する所有者を ロボットが認識することは,自らの所有や所有欲求の 表出をコントロールするために重要である.しかし, ロボット自らの所有の定義は十分に行われていない. 角ら[4]はエージェントの表情と言葉による被験者の応諾 行動への影響を検証し,表情によって被験者の行動への影 響を与えることが可能であることを明らかにした.このこ とから,ロボットの表情により所有感を示すことで被験者 の行動や感じ方に影響があることが想定できると考えた. 二塚ら[5]は表情には意図的に表出されるものと無意識的 に表出されるものがあることを明らかにした.人間の基本 的感情と位置づけられる所有感は潜在的な物であり,常に 意識する物ではない.このことから,所有感は自発的な感 情であり,自らの所有を脅かされたことに対する何らかの 内部状態が現れるものとして捉えられる.

3. 提案システム

3.1. システム構成 本研究では,実空間の中にある特定のオブジェクトに対 し,2次元の画面の中の仮想エージェントであっても所有 感を示せるかどうかに焦点を当てる.提案する所有感表出 システムには,運動視差に基づく描画を行い空間を共にす る感覚をもたらす仮想エージェントとして,3DCGエージェ ントシステム[6]を適用した。仮想エージェントは物理的な パーツを稼働させて表情を生み出すロボットと異なり,表 情の可変性が高いことが特徴である.このシステムに用い られる仮想エージェントは,眉,眼球,口で構成されてお り,眉は上下方向への移動と角度の変更,眼球は虹彩の向 き,口は両端の幅と口をあけた際の大きさの変更が可能で ある. 本システムはデスクトップPC(Windows7),液晶モニ タ(17インチ),ウェブカメラ(3メガピクセル)で構 成される.ウェブカメラは,液晶モニタの上部に取り付け た.本システムは,人間の視点にあわせてエージェントの 立体描画処理を行うことで,視点位置に関係なくユーザと 視線を一致させることが可能である. 表情の種類や変化には,あらかじめ各表情のエージェン トの眉の傾き,口の縦横の大きさをそれぞれ設定した表情 パラメータを用意し任意に変更できるようにした. † 関西大学,Kansai University

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図 1.ラッセルの感情円環モデル 図 2.所有感表出に使用する表情 3.2. 表情の種類 表情の種類については、坂本ら[7]の研究を元にラッセル の感情円環モデルに対応したものとする。(図 1)ラッセ ルの感情円環では、快—不快、覚醒度の 2 指標を用いて感 情をマッピングしている。表情は比較的認識がしやすい覚 醒度の高いものの中から怒り,驚き,喜び,また覚醒度, 快—不快ともに,中央の値をとる無表情を用いた(図 2). 怒りの表情は,眉の傾きを大きくし口を閉じた状態とし た。驚きの表情は、飛谷ら[8]による驚いた場合の表情特徴 の研究に基づき,眉を少し上げて口を半開きの状態にした。 喜びの表情は眉の傾きを減らした上で,口を大きく開いた 状態とした. 図 3.実験風景 4. 実験 実験手法: 図3 に実験環境と実験装置の配置を示す. テーブルを挟んだ対話状況における所有感表出を机上に 置いた物体に対する所有感を表すため,物体を挟んで被験 者とエージェントの距離は約100cm としてモニタ位置と被 験者の位置を固定した.また物体を置く場所は,人間が手 を伸ばす状態の想定に加え,エージェントと人間大きさの おおよその比率を考慮しモニタ画面から15cm 手前とした. 所有感を表現する物体には,同じサイズの柔らかいボール (5種類)を用いた.ロボットの表情コントロールには WOZ 法を用いた.被験者には,エージェントの様子を伺 いながらエージェントが前に置いたボールを取ってくださ いとあらかじめ教示される.被験者はエージェントの様子 を確認した後,次の各質問項目にそれぞれ,5.非常にそ う思う,4.そう思う,3.どちらでもない,2.そう思 わない,1.全くそう思わないの5段階で回答する.また, エージェントの感情を推測して自由に記述させた. Q1. エージェントが「このボールは私の物だ」と思った Q2. エージェントが「このボールは私の物ではない」と思 った Q3.エージェントは「ボールを取られる」と思った Q4.エージェントが「ボールを欲しい」と思った Q5.エージェントが「ボールはいらない」と思った Q6.エージェントが喜んでいるように思えた Q7.エージェントが怒っているように思えた Q8.エージェントが驚いているように思えた Q9.エージェントが「ボールを取られたくない」と思った Q10.エージェントは「ボールを取られてもよい」と思った 被験者: 被験者は情報学部に通う19 歳から23 歳の男性20 名,女性6 名の計26 名で行った. 実験仮説:被験者は、エージェントが怒りの表情を浮かべ た場合に、物体がエージェントの物であると感じる。 実験条件: 人間がエージェントの前に置かれたボールを取 ろうとした時、(A)エージェントが怒りの表情になる,(B) エージェントが驚きの表情になる,(C)エージェントが喜び の表情になる,(D)エージェントの表情は変わらない(反応 しない)の4条件で行った。 実験結果: 実験結果を図4~図13に示す。図.4のエージェン トの表情行動によって所有の主張を感じ取れたか問う質問 項目では、怒りと驚き、怒りと笑い、怒りと無表情、驚き と無表情、笑いと無表情の5パターンで有意差が見られた。 しかし驚きと笑いには有意差が見られなかった。図.5の反 対にボールの所有を否定しているように感じるか問う項目 では、怒りと驚き、怒りと笑い、怒りと無表情の3パター ンで有意差が見られたが、それ以外では見られなかった。 図.6のエージェントが「ボールを取られる」ように思った どうかの質問では、怒りと驚き、怒りと笑い、怒りと無表 情、驚きと無表情、笑いと無表情は有意差が見られ、驚き と笑いでは有意差が見られなかった。図.7のエージェン トがボールを欲しがっているかの質問に対しては、怒 りと無表情、驚きと無表情、笑いと無表情の間で有意 差が見られた。怒りと驚き、驚きと笑い、怒りと笑い の間では大きな有意差は見られなかった。図.8のエー ジェントがボールを要らないと思っているかの質問に 対しては、怒りと驚き、怒りと笑い、怒りと無表情、 驚きと無表情、笑いと無表情の間で有意差が見られた が、驚きと笑いの間では大きな有意差は見られなかっ た。図.9のエージェントの表情が被験者に正しく組み 取られているかの質問では、エージェントの喜びの表 情は驚きと無表情の間でのみ有意差が見られなかった。 図.10の同じようにエージェントが怒っているかの質問 では、怒りと驚き、怒りと笑い、怒りと無表情の間で 有意差が見られた。図.11のエージェントが驚いている かの質問では、怒りと驚き、怒りと喜び、驚きと無表 情、喜びと無表情で有意差が現れた。図.12のエージェ

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ントの感情を推測する質問では、エージェントがボー ルを取られたくないと思っているという質問に対し、 驚きと笑い、笑いと無表情間以外で有意差が現れた。 図.13の反対にボールを取られても良いと考えた場合の 時は怒りと驚き、怒りと笑い、怒りと無表情の時に有 意差が見られた。 図4.実験結果 図5.実験結果 図6.実験結果 図7.実験結果 図8.実験結果 図9.実験結果 図10.実験結果

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図11.実験結果 図12.実験結果 図14.実験結果 5.考察 Q6,Q7 より,怒りの表情と笑いの表情は正しく認識さ れていたことがわかる.驚きの表情については,Q8 より, 驚きと捉える場合も多いが笑いと捉える場合もあるという 結果になった.まず所有感を3つの状態に合わせて質問項 目を分類した.所有の初期状態である「欲しい」に関する 項目は Q4,現在所有している状態である「自分の物」に 関する項目は Q1,Q3,Q9,所有を放棄した状態である 「いらない」に関する項目は Q5,Q10.まず「欲しい」の 状態に関する質問である Q4 では,無表情のみが低いとい う結果となった.他の感情には差はみられなかった.この ことから「欲しい」の表出には何らかの反応が必要である が,表情意外が要因である可能性が考えられる.次に現在 所有している状態である「自分の物」の表出は怒りの表情 の場合が最も強く示された.所有を放棄した状態である 「いらない」の表出は怒り以外の感情で強く示された.感 情モデルにおける快—不快に基づくと,現在所有している 状態では不快の表情が強く示される.これは,現在所有し ている物を取られることによる不快の感情は不快の表情と して表出されるからであると考えられる.所有の放棄にお いては,怒りの感情より快方向の感情が示されると考えら れる.これは,物体に対する興味や関心が低下しているか らであると考えられる. 6.おわりに 本稿では、仮想エージェントやロボットの人格形成に必 要である所有感について検討し、所有の過程に基づいて, 所有感表現のための適切な表情を検証した.実験において, 感情モデルの快—不快に基づいた表情の表出が所有感を示 すことができるという結果が得られた.今回は表情に焦点 を当てたが、人間らしさのための様々なノンバーバル表現 を兼ねそなえたエージェント作成のために,表情以外の要 素の検討必要である.今後,他の感情表出要素との複合的 な検証を行い、ロボットやエージェントシステム発展を目 指す。 参考文献

[1]Tomoko Yonezawa, Evaluations of Interactive Guideboard with Gaze-communicative Stuffed-toy Robot, COGAIN 2008 [2]Sumedha Kshirsagar, Nadia Magnenat-Thalmann: A Multilay Personality Model, SMARTGRAPH '02 Proceedings of the 2nd international symposium on Smart graphics, Pages 107-115. [3]角 薫: 電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマン コミュニケーション基礎 108(238), 7-13, 2008-10-04 [4] 西野友博, 小島光晴, 垣内洋平, 岡田慧, 稲葉雅幸:見守 りロボットによる人間識別・移動観察と目印を利用した物 品の所有者・収納場所情報の獲得. ロボティクス・メカト ロニクス講演会講演概要集, Vol.2010, pp. 2A2-A20(1)-2A2-A20(4), 2010. [5]二塚 亜美,尾田政臣:電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 105(534), 89-92, 2006-01-13

[6]Naoto Yoshida, Tomoko Yonezawa, SCoViA: Effectiveness of spatial communicative virtual agent based on motion parallax, iHAI2013, to appear. [7]坂本 博康:顔画像解析による人間の快・不快の計測手 法,情報処理学会研究会報告,CVIM,コンピュータビジョン とイメージメディア 2006(93),135-142(2006). [8]飛谷 謙介:適正な情報提示のための驚き表情における 時空間解析,精密工学会誌 No.75,No.2,2009

図 1.ラッセルの感情円環モデル  図 2.所有感表出に使用する表情  3.2.  表情の種類  表情の種類については、坂本ら[7]の研究を元にラッセル の感情円環モデルに対応したものとする。(図 1)ラッセ ルの感情円環では、快—不快、覚醒度の 2 指標を用いて感 情をマッピングしている。表情は比較的認識がしやすい覚 醒度の高いものの中から怒り,驚き,喜び,また覚醒度, 快—不快ともに,中央の値をとる無表情を用いた(図 2). 怒りの表情は,眉の傾きを大きくし口を閉じた状態とし た。驚きの表情は、飛谷ら[

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