植物工場関連産業支援事業調査
研究業務
報告書
平成26年2月
目 次
序 過年度調査を含む流れや背景と目的 ... 1 1.国内外の植物工場の動向からみた、県内関連産業ニーズ ... 2 (1)国内の植物工場の動向 ... 2 (2)植物工場設備の大規模化による課題点 ... 4 (3)植物工場運営に関する課題点 ... 7 (4)県内及び東北地域での状況 ... 8 (5)海外における動向 ... 11 (6)植物工場関連産業の状況 ... 15 2.植物工場関連産業に関する青森県のポテンシャル ... 21 (1)青森県内における植物工場の状況 ... 21 (2)青森県内の植物工場立地のポイント ... 23 (3)植物工場関連産業に関する青森県のポテンシャル ... 25 3.県内における植物工場関連産業振興に向けた考え方と可能性の高い分野 28 (1)国等の動向 ... 28 (2)国等の動向からみた植物工場関連産業の注目点 ... 32 (3)県内外の状況からみた県の植物工場関連産業振興に向けた考え方 ... 33 4.県内植物工場関連産業振興で可能性の高い分野 ... 35 5.導入実現に向けた短期的・中長期的戦略と課題 ... 371
序 過年度調査を含む流れや背景と目的
青森県は、2008(平成 20)年度に農林水産省と経済産業省が共同で開催した 「農商工連携研究会 植物工場ワーキング」において、県商工労働部長が委員 として参画したほか、「あおもり農工ベストミックス新産業創出構想」を打ち出 し、農商工連携のワンストップサービスや植物工場クラスター形成等を、県独 自の施策として展開するなど、全国に先駆けて、植物工場の立地促進と普及拡 大に積極的に取り組んできた。 2009(平成 21)年度には(地独)青森県産業技術センターに寒冷地対応型植 物工場に関する技術開発・人材育成の拠点が整備され、また2010(平成 22)~ 2011(平成 23)年度には「あおもり型植物工場ビジネスモデルの構築に向けた 調査研究」を実施するなど、全国に先駆けた取組を実施し、県主催による植物 工場研究会には、県内外の多数の企業が参加したところである。 一方、全国では2008(平成 20)年から約3年半の間に約3倍に増加したとみ られる植物工場において、青森県内では大幅な立地増加という成果には至らず、 具体的な植物工場関連産業の発展・展開につながる課題解決が求められている。 特に植物工場に関しては、野菜や花き等の植物を生産する事業者だけでなく、 植物工場システムを構成する各技術やノウハウ、部品等のほか、流通や小売・ 飲食分野などのサービス業に至るまで、関連産業分野の裾野の広がりがあり、 その総合力の充実が求められているものである。 そこで、本業務では、主に青森県内での植物工場及び関連産業の事業化を念 頭に、それぞれの企業や農業者等の事業者の有する様々な資源を活用すること で、植物工場の高収益化につながる技術について、農業者、製造業者、実需者 等を対象に調査を行った。そして、それぞれの現状とニーズを把握し、寒冷地 の青森県で展開する植物工場に導入実現性の高い技術について、調査研究を行 うとともに、導入実現に向けた関連産業の振興の短期的・中長期的戦略の検討 を行うものである。2
1.国内外の植物工場の動向からみた、県内関連産業ニーズ
(1)国内の植物工場の動向 国内で稼働している植物工場については、2008(平成 20)年度の農林水産省・ 経済産業省による農商工連携研究会 植物工場ワーキング事務局が、2009(平 成21)年 3 月末時点として人工光型が 34 か所、太陽光併用型が 16 か所の合計 50 か所と発表している。2010(平成 22)年度以降は、両省の支援を受けたスーパ ーホルトプロジェクト協議会(2012(平成 24)年度以降は、一般社団法人日本 施設園芸協会)が、毎年度末現在の植物工場の立地数を公表している。これに よると人工光型は、2 年後の 2011(平成 23)年 3 月末には 64 か所、2012(平 成24)年 3 月末には 106 か所、2013(平成 25)年 3 月末には 125 か所となり、 4 年間で約 4 倍弱の増加を遂げている。一方で太陽光併用型は、4 年間で 12 か 所の増加にとどまり、両タイプでの普及の違いが明らかになっている。 表 わが国の植物工場立地数の推移 人工光型 太陽光併用型 合計 太陽光のみ型 2009(平成 21)年 3 月末 34か所 16か所 50か所 ― 2011(平成 23)年 3 月末 64か所 16か所 80か所 13か所 2012(平成 24)年 3 月末 106か所 21か所 127か所 83か所 2013(平成 25)年 3 月末 125か所 28か所 151か所 151か所 資料:農林水産省・経済産業省による各年の「植物工場実態調査」をもとに作成 人工光型が、これほどまでに増加した背景には、国の補助で全国10 の大学や 公設試験研究機関に研究施設が整備されたほか、企業等による研究開発に補助 金が適応されたために、農業に関わってこなかった様々な企業が参入し、すそ 野を拡げたことがあげられる。また、人工光型の場合は、主に栽培する作物が 葉菜類に絞られ、播種・定植から収穫までが比較的容易であることや、密閉さ れた環境下での環境制御が主になることから、ある程度環境制御が容易に可能 であることなどがあげられる。この結果、現在では人工光型メーカーは数十社3 にのぼると推測される。 一方で、太陽光併用型は、オランダ等海外では一般的にみられるが、国内で はほとんど存在せず、近年の『植物工場ブーム』でも増加傾向はみられない。 これは日本国内では、もともと太陽光を利用する栽培方法に、補光を行うとい う概念がなく、採算的に合わないとみられていたほか、研究開発分野でもあま り補光についての研究が国内でなされていなかったためと言われている。その ため、国内で稼働している太陽光併用型は、多くは花き生産用で、オランダな どの海外のシステムを導入しているものとみられている。 なお、植物工場の立地数は、2009(平成 21)年 3 月末時点では 50 か所であ ったが、2013(平成 25)年 3 月末には 151 か所と 3 倍に増加し、国が 2009(平 成21)年度に設定した『3 年で 3 倍』という目標は、ほぼ達成してきていると みられ、今後も増加することが見込まれる。 しかし一方で、人工光型の内容をみると、国内有数の大規模を誇る福井県内 の植物工場が操業を停止し、異業種参入として注目された東京都内の事業者も 事業からの一時撤退を表明するなど、新規参入する事業者も多いが、市場から 撤退する事業者も少なからず存在する。 人工光型は、施設や内部設備などに数億円単位の巨額な初期投資が必要とさ れ、また事業採算性から、レタス生産で1日に数千株(袋)を出荷する程度の 能力がないと、経営的に厳しいと言われている。しかし多くの事業者は、第1 号を実験実証施設と位置付けているケースが多く、既存の上屋を改装しながら 栽培面積で数百㎡程度と、中小型規模の施設が多く、そこから生産される農産 物の収入だけでは、イニシャルコストとランニングコストを賄うのは厳しい。 人工光型に新規参入する事業者では、LED 等の照明器具や照明装置メーカー のほか、空調メーカー、配管部品や、工作機械、部品機械などの製造業からの 参入のほか、住宅や建設メーカーなどがあり、自社の従来製品を核とした、農 業分野への新規参入の糸口としているケースが多い。 そのため、まずは小型施設で自社製品の植物工場への応用展開可能性を実証 したり、自社設計施設の稼働状況を実証することも兼ねているケースが多く、 純然たる新規参入による事業化とは言いにくいケースが多い。さらに自社製品 部分を含む、システムの大部分をブラックボックス化しているケースも多く、 いわゆる植物工場メーカー間でのシステムの相違を客観的に評価することがき
4 わめて難しい状況にある。また、前述したように、建設した第1号施設が、事 業化よりも実証・モデルルームとしての活用を念頭においた小型施設であるこ とが多いことから、事業採算を想定した規模の施設を施工した経験のない事業 者もあり、計算・設計上は事業採算性のある施設だと評価できても、実機を建 設し、具体的に稼働させたときに、設計通りの性能を発揮できるかは不透明で ある。特に人工光型では、ほとんどの事業者が赤字経営を余儀なくされている と言われ、黒字経営の事業者はわずかである。 以上の点から、確かに最近数年間は「ブーム」と言われる状況の中で、国内 施設数も急速に増加しているが、事業採算性に合ったシステムや部材などがど れほど存在するのかは、まったくわからない。そのため、全国動向から植物工 場関連産業の動向を推測した場合も、あらゆる資機材分野でのメーカーが乱立 し、すでに一部では過当競争も生じている可能性があるとみられるが、黒字化 している植物工場ビジネスに直結する関連産業分野がどの程度存在するのか、 あるいはどの分野が市場として成熟し、あるいは未開拓であるかは、一概に判 断できない状況にある。 (2)植物工場設備の大規模化による課題点 植物工場事業者にとっての懸案事項である販路開拓については、安定出荷や 商品の均質性などから、一般消費用のほかに中食や外食等のへの販路拡大が重 要と言われてきた。特に多くの人工光型が栽培するレタスなどの軟弱葉物野菜 は、産地での日照不足や長雨などで品質低下や出荷量減に陥るケースがあり、 また輸送時にも低温を維持しないと鮮度保持が難しく、日持ちがあまりしない と言われている。そのためここ数年間毎年のように見舞われる夏季の猛暑や、 台風や風水害などによる産地被害などにより、時期によってはレタス等の軟弱 葉物野菜の供給が減り、品質低下と高価格化が進んだことで、中食や外食メー カーの植物工場産野菜に対する関心が高まっている。しかし、現段階では全国 の中食・外食・小売企業が全面的に植物工場産野菜を導入しているのではなく、 一部企業の取組に加え、大手企業が関心を示してきたという段階にある。 一方で、植物工場事業者は、中小事業者を中心に毎年増加傾向にあり、生産 する農産物販売で、他業者と競合する機会が増えていると言われている。特に 人工光型などの植物工場事業者では、元々事業規模が小さく、事業採算性を確
5 保することが難しい中で、人工光型の葉物野菜取扱実績のある大手スーパーや 外食企業に、取引交渉が集中し、実質的な価格競争に陥るケースがあるとみら れる。この場合は、植物工場事業者側で1容器当たりの野菜重量を40~50g 程 度に抑えることで、価格を低く設定するなどの企業努力を行っているケースも みられる。いずれにせよ、小売りベースで、1年ほど前には1袋198~248 円の 小売価格で販売されるケースがあったのに、現在では、98~175 円程度にまで 低下している。過去10 年以上にわたり植物工場野菜として葉菜類を販売してき た百貨店地下の生鮮野菜売り場でも、最近取り扱うブランドを変更した事業者 が現れた。このように、葉菜類の生鮮野菜販売では、植物工場の事業者でも人 工光型から太陽光型まで多岐にわたり、新規開業した後発組からの追い上げに よって、取扱商品が切り替わるケースがみられるようになり、植物工場事業者 間での厳しい生き残り戦略が展開しているとみられる。 また、葉菜類で1日に1000 株以上を出荷できる中堅・大規模事業者が増加し ており、中小規模の事業者にとっては、さらに一段と厳しい価格競争を強いら れる可能性が高い。 基本的に、生鮮野菜流通の3 分の 1 近くが業務用と言われ、現在確認されて いる国内植物工場事業者数からみても、植物工場産野菜がターゲットにしてい る市場を超える野菜が生産されているとみることはできない。しかし現実には、 植物工場産野菜の取引実績のあるスーパーや事業者に取引希望が集中したり、 植物工場産野菜の取引実績のない企業との取引開始には、野菜そのものの品質 確認だけでなく、取引先としての信用調査など、非常に困難が伴うことから、 既存の取引実績を多く抱える事業者に取引希望が集中、結果的に価格競争とな るケースが多い。 表 代表的な非結球レタス(リーフレタス等)の1袋当たり店頭販売価格 2012(平成 24)年 10 月頃 の店頭価格 2013(平成 25)年 11 月頃 の店頭価格 首都圏デパ地下生鮮売り場 148 円~248 円 148 円~178 円 大手 GMS 系スーパー 128 円~198 円 128 円~198 円 東北大手スーパー 138 円~248 円 98 円~248 円 首都圏私鉄系スーパー 148 円~248 円 148 円~198 円 資料:三菱総研調べ(ただし、1袋当たりの重量には差がある)
6 また、前述したように人工光型植物工場では、実証も兼ねた比較的小規模な プラントが多く、葉菜類で日産1000 株を超えるような事業所は少ない。一方で 近年になって、事業採算性を考慮した本格的な植物工場を建設する場合には、 日産1000 株を超える大規模な工場を建設するケースが出てきている。このよう な場合に、特に人工光型植物工場では、大規模な工場を建設した経験のないメ ーカーや施工業者が設計、施工することになり、結果的に設計図や想定したス ペック通りの機能を発揮することができない場合がみられる。 植物工場では、光と水と二酸化炭素により植物を成長させる。しかし施工経 験のない事業者が大規模施設を建設すると、実験棟など小規模な装置では問題 なく栽培できたものが、植物体の成長に差異やムラが生じるなど、管理が十分 にできないケースが出てくる。例えば、大規模な栽培用ベットになると、水槽 が大きくなり、水槽内での水流が安定しない可能性が高い。特に角部では水流 が止まり、十分に水溶液が流れないケースが想定される。そのような箇所では、 藻が発生したり、細菌類が繁殖するなど、植物栽培の障害になる可能性がある。 また栽培棚が増えると、水溶液の循環装置を何系統備えて循環させるかも重要 な問題となる。植物は水溶液から水分と養分を吸収するが、1系統が長くなる と、入口部分と出口部分の間で植物による水や栄養の吸収が行われ、出口付近 の植物には、十分な濃度の水溶液を与えていない可能性がある。このような循 環系内で水溶液濃度のムラが顕著になると、水槽内での植物の成長度合いで変 化や差異が生じ、安定した生産を行うことができない。 表 大規模施設の施工経験がない事業者が陥る可能性の高い不具合ポイント 分野 大規模施工による新たに想定される不具合部分 照明装置 ・光源と植物体との距離に違いが生じ、光合成の差異が生じる 栽培ベット、栽培装置 ・水槽内での水流が確保できず、菌繁殖や病害虫発生リスクが向上 ・大きな水槽になると、栽培装置の水平確保などが困難 溶液・水循環装置 ・水循環の入口と出口で栄養成分濃度に差が生じ、成長差が生じる ・循環系が長くなると、場所により水が流れなくなる ・循環ポンプの容量に配管径が合わず、必要な水流が確保できない 空調、温度・気流管理 ・室内での温度差が生じ、植物体の成長にムラが生じる ・植物体への気流が異なり、光合成や呼吸にムラが生じる その他付帯施設 ・カット野菜装置の容量が、取扱野菜量と合っていない 資料:国内植物工場事業者への聞取りを元に三菱総合研究所作成
7 さらに、空調や温度管理では、栽培室が大きくなると、栽培室内の温度をム ラなく一定に保つことは困難である。特に植物工場は栽培装置が入り組み、照 明の反射板など、気流を妨げる機材が多い。また植物が成長することで、更に 気流の障害物となることから、各植物に安定的に空気が流れるようにして、温 度を一定に保つことは極めて難しい。それを大規模に行うとなると、空調装置 の他に、補器(扇風機等)が必要となり、大規模施設を建設した経験がないと 難しいとみられる。 (3)植物工場運営に関する課題点 植物工場が大規模化、あるいは本格的な商業運転をめざす施設として建設さ れることで、植物工場の運営面でも課題点が出てくる。 東日本大震災以前の人工光型植物工場では、電気代を抑制するため、深夜電 力を活用して照明、明期を作り、昼間は照明を消して暗期としてきた。しかし 震災後、電力会社が深夜電力料金割引率を引き下げたことで、明暗期を昼夜逆 転させることでの電気料金削減効果はほとんど失われた。むしろ栽培室を分割 管理し、明暗期を逆転させることで、同時に大量の電気を消費することを控え、 電気使用量を平準化することで、トータルの電気料金を引き下げるなどの工夫 が必要である。 また、大規模施設になると、作業員の作業動線管理など、労働生産性の向上 が重大な問題となる。従来まで農業分野では、TQM や労務管理などはほとんど 行われてこなかったと言われており、農産物の収穫作業の正確性やスピード、 品質管理の仕方などは、大規模植物工場を中心に、これから構築していく必要 がある。
8 (4)県内及び東北地域での状況 日本施設園芸協会が公表している植物工場実態調査によると、2013(平成 25) 年3 月末現在で、東北地域には人工光型が 11 か所、太陽光併用型が 3 か所立地 しているとされている。これらの施設について同報告や新聞等情報を元にする と以下のとおりである。 表:東北地域に立地する植物工場(人工光型) 県名 施設名 事業主体 主な栽培品目 岩手県 住田野菜工房 (株)九州屋 レタス、サンチュ等 宮城県 (株)向陽アドバンス レタス 六丁目農園 (株)アップルファーム レタス、バジル等 セコムハイプラント セコム工業(株) ハーブ 多賀城工場 (株)みらい レタス 秋田県 平鹿工場 横手精工(株) レタス、アイスプラント TDK にかほ工場跡 フィデア総研ほか レタス 山形県 (有)安全野菜工房 チマサンチュ 福島県 TS ファーム白河 キューピー(株) レタス、サラダ菜 川内高原農産物栽培工場 (株)Kimidori レタス 会津富士加工(株) レタス 資料:一般社団法人 日本施設園芸協会「植物工場実態調査」や新聞情報より作成 表:東北地域に立地する植物工場(太陽光併用型) 県名 施設名 事業主体 主な栽培品目 青森県 (株)トヨタフローリテック レタス、サンチュ等 山形県 (有)熊谷農園 レタス 池田ばら園 レタス、バジル等 資料:一般社団法人 日本施設園芸協会「植物工場実態調査」や新聞情報より作成
9 ここ数年の東北地域での立地状況をみると、全国の推移に比べて、必ずしも 順調に増加している状況とはいえない。新規立地した施設のうち、福島県の川 内村や、宮城県の多賀城市などのケースは震災復興に伴う補助金や支援策を活 用したものであるし、秋田県にかほ市の施設も、国の研究開発・実証補助金を 活用した施設であるように、純粋に植物工場のマーケットから新規立地したケ ースは少ない状況であり、それが東北地域での植物工場立地の現状を示してい る。 植物工場で生産される野菜類をみると、基本的に仙台などの都市圏需要に支 えられていると考えられ、都市圏での需要掘り起こしがないと、新規立地して も継続的に経営することは難しい。 表:東北地域に立地する植物工場(太陽光型) 県名 施設名・事業主体 主な栽培品目 岩手県 共伸園 ホウレンソウ、レタス グランパファーム陸前高田 レタス サンファーム紫波 トマト 宮城県 ベジ・ドリーム栗原 パプリカ 未来菜園 トマト 六郷アズーリファーム トマト サンフレッシュ松島 トマト サンアグリしわひめ トマト サンフレッシュ七つ森 トマト 山形県 アキバナーサリー トマト 福島県 ファーム味来工房 トマト 新地アグリグリーン トマト、パプリカ 大野水耕生産組合 トマト、イチゴ アグリ新舞子 トマト サンフレッシュならは トマト とまとランドいわき トマト あかい菜園 トマト 資料:一般社団法人 日本施設園芸協会「植物工場実態調査」や新聞情報より作成
10 また、植物工場実態調査には参考として掲載されている、太陽光のみを利用 する植物工場については、上記のとおりであり、福島県や宮城県に多く立地し ている。園芸栽培に関する有識者によると、日照条件等から千葉県や茨城県の 太平洋岸から宮城県・岩手県陸前高田市付近までは、比較的年間を通じての日 照時間が長く、寒暖の差はあるが、降雪量も想定的には少ないことから、施設 園芸に適している地域と言われてきた。 実際に、東日本大震災以前には、福島県のいわき市付近までは、主にトマト を栽培する植物工場が立地しており、大手企業の植物工場も立地している。 さらに東日本大震災以降では、早期の農業復興と、新たな地域産業の創出に 向けて、積極的に植物工場の立地が進められ、結果的に福島県南相馬市から岩 手県陸前高田市までのエリアには、多数の植物工場が立地している。これらの 地区では、今後も引き続き震災復興に伴って植物工場の立地が進むものとみら れ、将来的には日本有数の植物工場集積地(クラスター)を形成する可能性が 高い。 オランダの例をみると、植物工場の集積地(クラスター)は、単に事業者が 多数立地するだけでなく、植物工場ビジネスを支える周辺産業として、機械や 部品メーカー、システムメーカー、農産物物流企業などが集中立地することが 知られている。そのため、今後福島県から岩手県南地域までの太平洋岸に植物 工場が集積することで、当地に関連産業の集積が進むことも考えられる。 一方で、青森県については、調査時点において立地・稼働している植物工場 が、太陽光併用型のトヨタフローリーテックのみとなっている。実は県下でも 南部町などから八戸市域周辺は、県内にあっても降雪量が少なく、リンゴだけ でなく、サクランボやブドウ、イチゴなどの栽培が盛んで、一定程度施設園芸 が行われている。ただし、県内需要や、県内の施設園芸農家だけをみていては、 そのマーケットは限られることから、前述した福島県から岩手県南までの太平 洋岸地域に立地する植物工場集積などと連携しながら、関連産業の振興を図っ ていくことで、十分に、植物工場関連産業を展開させることのできる市場を形 成することができると考えられる。
11 (5)海外における動向 海外における植物工場の動向を整理する。 植物工場の研究や実証、事業化に取り組んでいるのは、下表のように中国、 韓国、台湾、オランダ、アメリカ、イスラエルなどが代表的である。 表:世界の主要な国や地域の植物工場の動向 国名・地域名 状 況 中国 太陽光型では日光温室が主流。人工光型では大規模施設が本格稼働の見込み 韓国 設備面では、LED等機器の多くを安価に自国生産が可能 運用面やノウハウ面での不安があり、設備を使いこなせる工場長クラスの人 材や、現場の感覚から的確にメーカーに発注できる人材不足 他国語対応が不十分など、商品としての価値は低い 台湾 世界最大規模の人工光型レタス工場を稼働 機器関連では、安価な部品等での実証が必要 オランダ 日本への積極的展開。太陽光型だけでなく、人工光型にも関心を有する アメリカ 世界最大規模の人工光型レタス工場を稼働 イスラエル 点滴型給水システムの優位性を活かして、関連産業を国際的に展開 資料:各種資料から三菱総合研究所作成 中国は、自国の人口増加と経済成長に伴う消費の高度化で、野菜消費の増加 が見込まれ、積極的に施設園芸の拡大に取り組んでいる。その中で植物工場技 術の導入も積極的に行っており、オランダや日本などからの技術導入にも積極 的とみられる。一方で、現時点では高度な施設園芸よりも、より普及の容易な 日光温室など、太陽光や太陽熱を活用した施設園芸を中心に展開している。今 後沿岸部や内陸部の大都市を中心に、高度な施設園芸の立地や展開が進むとみ られるが、台湾や韓国等の植物工場関連産業の進出も予想される。 韓国は、植物工場の研究が盛んで、関連産業も比較的早くから展開している。 特にLED 等を中心とした照明器具や、加温のための薪ストーブ、保温用のカー
12 テン(ハウス内の保温材)などは、日本と比べても安価で、利便性の高い製品 が存在する。また、早くからオランダ式植物工場の研究に取り組み、オランダ と同様にトマトやパプリカに特化した植物工場展開を進めてきた結果、太陽光 型植物工場におけるトマト生産用システムを開発し、オランダ製に比べて安価 なシステムを販売している。このように、韓国の植物工場関連産業では、加温 や保温などの関連製品など、強みを発揮できる分野に特化して安価な製品を供 給し、市場形成に役立てている。 台湾は、以前から施設による花き生産が盛んであり、オランダ式の花き生産 向け植物工場の導入にも積極的であった。近年では日本の人工光型植物工場技 術の研究も積極的に行っており、人工光型によるレタス生産なども実用化しつ つある。植物工場関連の部品等については、韓国同様に安価な製品が展開する 可能性があるが、現時点では日本での普及はそれほど進んでいない。 オランダは、日本と並んで植物工場の先進国である。オランダの場合は、ハ ウスや環境制御システムなどの中核となる部分を自国で開発し、関連する資材 や機器は、国内外から調達するシステムを採用している。そのため、既存の太 陽光型についても、オランダ国内だけでなく、ベルギーやフランス、日本など の技術が導入され、また近年では人工光型の研究も積極的に行っているとみら れる。特に日本でも広く普及している種苗生産用システムとしての可能性を視 野に入れ、今後日本の企業とも積極的に技術交流や連携を進めていくものとみ られる。オランダの場合は、自国のワーゲニンゲン大学を中心としたフードバ レーに産学官農の研究開発体制が構築され、日本を含む世界中の企業や研究者 のほか、オランダ政府やEU、そして世界中の施設園芸農家のネットワークを構 築している。こうしたネットワークを活用することで、常に最先端の技術や研 究成果を活かすことができるが、別な見方をすると、このネットワークに関与 できれば、積極的にオランダ等との研究開発に参加し、ビジネス展開が可能に なるということである。 アメリカは、オランダ式の植物工場による生産が盛んに行われてきた。一方 で最近は人工光型に対する関心も強まっており、2013(平成 25)年には日本で 最大規模の人工光型植物工場を運営する事業者が、ネバダ州の研究機関と、共
13 同研究に向けた契約を結ぶなどしている。また米国では従来からバーティカル ファーミングと呼ばれる都市型垂直式植物工場の研究が行われてきた。これは 都市部を対象に、ビル型の立体的な植物工場を建設し、都市内での農産物生産 を実現するというものである。これらのシステムには、照明、空調、溶液循環 などの様々な要素技術が含まれており、関連産業の展開可能性が考えられる。 先のネバダ州の例のように、国内企業との連携の実績もあり、今後国際的な植 物工場関連産業の展開も考えられる。 イスラエルは、厳しい自然環境の中で、主にかん水に関わる技術力を高めて きた。特に点滴状の装置をポットに挿して適量の水分を与えるシステムは、オ ランダや日本をはじめ世界中で採用されている。さらに施設園芸だけでなく、 露地農業や果樹栽培による液肥の散布などの装置にも利用されている。イスラ エルは、得意分野に突出した技術力を高めることで、世界中の農業システムに 自国製品の採用を進め、世界の農業技術がどのように変化しても、自国の農業 関連産業や技術が、常に世界最先端に関わることができる体制を構築した。こ のようなシステムは、日本のように要素技術で高い技術を有する場合にも適応 可能で、今後の植物工場関連産業振興の参考になるものと考えられる。 以上のように、植物工場については、アジアや欧米などで積極的に研究開発 が行われており、わが国を含む世界中の企業が、海外に事業展開している。ま たその海外展開の流れは今後も続くとみられる。 世界的にみると、植物工場の研究開発が盛んな国や、立地が進む地域はオラ ンダや韓国など、日本に比べて高緯度に位置する国が多いのが特徴である。こ れらの国では、夏季は日照時間が長いが、高緯度にあるため温度も極端に高く なるケースは少ない。一方で冬季は日照時間が極端に短く、低温への対策が必 要とされる。そのため太陽光型であっても補光装置を備える、いわば太陽光補 光型が多く立地している。さらに冬季の加温に向けて、化石燃料や天然ガスを 燃焼する燃焼炉・タービンなどを備え、ハウス内を加温する温風を生成すると ともに、温風蒸気を活用した発電や、燃焼時に発生する二酸化炭素をハウス内 の光合成に活用する二酸化炭素施用などを行う、いわゆるトリジェネレーショ ンを積極的に採用している。また韓国では、加温装置として化石燃料を用いた ボイラーの他に、薪ストーブなど木材を燃焼材料とする加温装置のほか、断熱
14 性を持つカーテンによる断熱材などの開発や普及が進んでいる。これらの技術 はわが国においても東北地域や日本海側地域、北海道などの、冬季の温度が下 がる地域では有効であると考えられる。逆に言うと、日本の東北や北海道での 利用を想定して開発された加温装置は、国内だけでなく、欧米や北東アジア地 域の植物工場向けに輸出することが可能になるということである。 一方で、今後植物工場が必要とされる地域は、欧米や日本などの先進国だけ でなく、極東アジアなど急速に経済成長している地域、さらには東南アジアや 南アジアなど、今後人口が拡大し、経済成長が期待される地域、あるいは中東 やロシアなど、自然環境が厳しい地域にも拡大するとみられる。これらの地域 のうち東南アジアや南アジア、中東等の低緯度地域では、植物工場の環境制御 として最も問題になるのは、夏季を中心とした高温対策である。日本などでは 夏季のハウス内冷却には、クーラー等を用いるのではなく、一般的には細霧冷 房と呼ばれる方法が用いられる。これは、霧状にした水分を噴射し、空気中の 熱を奪い気化する変化を利用して、周辺の空気を冷やすものである。クーラー に比べて安価で効果的ではあるが、気化熱による冷却効果は、空気中の湿度に よって強く影響を受けることから、アジアモンスーン地域のような高温多湿の 地域では、湿度が高すぎるため、気化熱を用いると直ちに湿度が 100%近くに まで達し、冷却効果が下がり、ほとんど気温が下がることはない。むしろ湿度 が飽和状態に達するため、いわゆる不快指数は高いまま維持される。このよう に高温多湿な環境下で、より効率的に安価な方法で、植物工場内の温度環境を 低下させ、一定に保つ技術は、未だ研究開発段階にある。 その他要素技術でみると、照明・補光、環境制御システム、省力化技術(省 エネ・省力化)、最適な種苗開発などについても、世界的には研究開発が進めら れている分野であり、これらの分野についても、本県内企業であっても有力な 技術が開発されれば、世界市場に向けて情報発信し、世界市場をターゲットに 展開することが可能になる。特に、空調関係では、植物栽培や自然環境を考慮 して軒高など、施設サイズを設定するが、その施設内の環境を一律に制御する のではなく、植物体の成長に必要な部分(局所)の環境を重点的に制御するこ とで、少ないコストと設備で、最大の効果を得る方法が注目されている。この 方法は、大規模な施設向けでなく、一般農家の中小規模施設にも応用すること が可能とみられ、マーケットとしては展開可能性が期待される分野である。
15 (6)植物工場関連産業の状況 わが国を中心とした、植物工場関連産業の状況を整理する。 関連産業分野としては、空調や照明等の要素技術分野のほか、環境制御シス テム、省力化技術、品種改良などの分野が存在する。 表:植物工場関連産業分野の現状と展望 資料:各種資料から三菱総合研究所作成 要素技術のうち空調関連では、暖房と冷房の両方の技術があげられる。施設 内の冷暖房については、基本的に過去数十年にわたって、あまり変化のない技 術が用いられている。人工光型の場合は電気エネルギーを用いた冷房装置、い わゆるエアコンディショナーが用いられる。人工光型の施設は、原則として四 方を断熱材で覆われているケースが多く、外気の影響は受けにくい。しかし蛍 光灯などの照明装置など、電気エネルギーを光等に変換する際に発熱する装置 が施設内に存在するため、基本的に施設内は温度が上昇する傾向にある。その ため、人工光型施設では、1年を通して常に冷房する必要がある。また、太陽 光型の場合は、人工光型ほどの断熱材で覆うことはなく、原則として透過性の
16 高いフィルムやガラスで覆われている。そのため、人工光型に比べて、太陽の 光や熱と、外気温等の外部環境の影響を受けやすい。太陽光型の多くの施設が 空調面では加温と冷却の両方の対策を講じる必要がある。 太陽光型の冷却対策としては、断熱性等の問題からエアコンディショナーを 用いるケースは極めて稀である。通常は窓を開放することによる換気、さらに ファンを用いる強制換気などが一般的である。それ以外には、水分(霧)の気 化熱を利用した冷却が行われる。大規模な施設はハウス内に霧を噴霧(細霧冷 房)する装置を設置するほか、空気導入窓によしず状の水を流した通風装置を 設置し、反対側には巨大ファンを設置して強制排気させることで、いわば水を 流したよしずを通った風が強制的にハウス内に導入されるようにする(パッド &ファン)などの装置を設置している。 上記のような、水分の気化熱を利用した冷却方法は、日本等のモンスーンア ジア圏では、高温多湿なため、すぐに湿度が飽和状態になり、水分が気化しな くなり、冷却効果が発生しない。むしろ湿度が 100%近くになることで、施設 内で働く従業員の労働環境悪化が懸念される。一部では比較的低温で一定な温 度を保っている地下水を利用したり、液化天然ガス等の超低温物質の気化熱を 利用して冷却する方法なども考えられてはいるが、配管等の設備投資や安全性 の問題から、実用化には至っていない。 一方で加温装置については、重油を用いたボイラーが以前から普及しており、 ほとんど変化がない。現状では、化石燃料の輸入価格の変化によって、加温コ ストが変動する状況にある。特に近年の原油価格上昇や円安傾向によって、重 油価格が上昇した場合、従来通りの燃料消費効率のままだと、燃料コストが上 昇し、事業採算性が悪化する。そのため生産者によっては、コスト削減として 重油消費量を減らすために、本来加温すべき時期にもかかわらず、重油ボイラ ーによる加温を行わず、燃料使用量を削減するケースがみられる。この結果、 施設内の植物成長が鈍化、最終的な収量減少などが懸念される。 一方で、積極的なコスト削減策も考えられる。すなわち燃料消費量あたりの 農産物収穫量を増やし、結果的にコスト削減を図ろうという考えである。 その代表的な技術の一つがヒートポンプである。燃焼などにより直接熱エネ ルギーを得るよりも、空気等を圧縮して熱交換するヒートポンプの方が、省エ ネルギーで熱を得ることが可能であると言われている。また原理上温風と冷風 を輩出することができ、太陽光型のように、夏季の冷房、冬季の暖房が必要な
17 場合は、1つの機械で対応することができる。 また、燃料を燃焼して直接施設内を温めるだけでなく、燃焼したエネルギー で発電したり、燃焼時に発生する二酸化炭素を光合成のために植物へ供給する ことで、結果的に植物の成長を促進する方法がある、いわゆるトリジェネレー ションと呼ばれる技術である。 このように空調に関しては、エネルギー消費効率を改善するほか、エネルギ ー投入量に対して、植物の成長力を高め、結果的に生産性向上を実現して、コ スト削減を図るケースがあり、現状では両面での技術革新が期待される。 写真:従来型の温風装置 資料:三菱総合研究所撮影 また、単に加温装置だけでなく、気象条件に合わせて適切な保温材等とミッ クスした加温・保温方法により、最少の加温エネルギーの消費により、最大限 の加温効果を得ることができるよう、周辺技術との連携も望まれる。さらに地 中熱や地下水を熱源として利用する方法や、本県の雪国としての特性を生かし た克雪技術の活用などにも期待される。 さらに、加温等の温度管理そのものについても、栽培室全体の温度管理や制 御を行うのではなく、成長点など、植物体の成長や結実などに重要な部位だけ を温度管理する、いわゆる局所冷暖房により、エネルギーの有効かつ効率的な 利用を促進する技術の開発も期待される。この場合は、成長点付近に配管をし
18 て、配管内に適切な温度管理した水を流したり、温風等を成長に必要な部位近 くまで導くことにより、最小限の熱エネルギーで環境制御を行うことができる。 その他空調関連では、植物体が適切に光合成や呼吸・蒸散作用を行うことが できるように、一定のスピードで空気を流れるようにする技術、いわゆる気流 確保がある。気流については遅すぎると、光合成や呼吸・蒸散作用の促進には 効果がなく、早すぎると植物体の温度を奪うなど、環境制御上の問題が生じる。 また植物の成長に応じて、植物自身が、気流を維持する際の障害物になること が考えられることから、植物の成長による気流に与える影響を考慮に入れて、 最適な空気の流れを実現することが重要である。 要素技術のうち、照明装置については、光合成に必要な光環境を植物体に照 射するための制御を行う必要がある。近年では蛍光灯のほかにLED の利用が注 目されているが、このような消費電力を低減し、かつ植物に必要な光エネルギ ーを照射する機器の開発が求められている。また電気エネルギーを光に変換す る場合には、一定程度の熱が発生する。これらの熱を効率的に除去・活用し、 エネルギーを有効利用することが望まれる。LED そのものは、日本のほか、欧 米や韓国・台湾の企業の製品もあり、単に価格や寿命だけでなく、光の色(波 長)や、パルス光など様々な技術の導入が求められている。 さらに、光は距離の二乗に反比例して光エネルギー量が減衰するとされてお り、より植物体に近づけ照射することが重要である。そのためには、植物体を 光源に近づけることができるような技術や、光源から拡散する光エネルギーを 植物体に集約する技術などが求められる。こうした集光技術は、照明器具など の開発が重要である。 環境制御システムについては、人工光型については、主たる栽培作物が葉菜 類などに限られ、しかも葉菜類の栽培では、開花、授粉、結実などの過程が必 要ないため、一定の温湿度、光量、二酸化炭素濃度などを維持すれば、比較的 容易な環境制御で植物が成長する。そのため、人工光型植物工場のメーカーが 独自に環境制御システムを構築し、機器と共に販売するケースが多い。一方で 太陽光型の場合は、栽培品目が葉菜類のほか、トマトやイチゴ等の果菜類まで 含み、開花、授粉、結実など、植物の成長に応じて複雑かつ高度な環境制御技 術が求められる。太陽光型の環境制御システムでは、世界的にはトマトやパプ
19 リカの制御を行うオランダ製のシステムが有名であり、わが国においても、1ha 以上の規模を持つトマトやパプリカの環境制御は、ほとんどがこのオランダ製 のシステムを採用している。 一方で、オランダ製の環境制御システムでは、温度管理等において加温を制 御するシステムは充実しているが、オランダ本国ではほとんど問題にならない 夏季の高温多湿な環境を制御する機能が、十分でないと言われている。そのた め、高温多湿な環境の下で、ハウス内を快適な環境に維持するためには、換気 や冷却のための最新技術を導入する必要がある。このような冷却に関する環境 制御を導入したシステムを開発することで、東南アジアや南アジアなど、低緯 度地域への植物工場の売り込みに大きな優位性を発揮することが期待される。 また、オランダのシステムでは、スタッフの労働生産性を管理する労務管理 システムがあり、各作業工程別に労働に要した時間と作業内容をシステムで管 理し、各人の単位時間あたりの労働量を比較、労働生産性の低いスタッフのチ ェックに用いている。日本企業の場合は、労働生産性のチェックは、現場での TQM 活動や、現場スタッフレベルでの生産性や品質向上に向けた自主的な取組 に活かされる。農業分野においても、労働生産性を計測するシステムは、現場 単位での業務改善運動などに活かし、スタッフ自身が業務を効率化することに つなげるなど、農業以外の製造業が有する品質管理ノウハウや技術を農業分野 に活かしていく取組が重要である。 省力化技術では、省エネ技術やスマート化技術のほか、再生可能エネルギー や未利用エネルギーの有効活用、さらには作業効率の改善などに資する技術の 導入などがあげられる。省エネ技術やスマート化技術については、国において もスマートアグリ等の研究開発や実証実験を通じて取り組んでおり、これらの 取組成果の活用などが考えられる。再生可能エネルギーや未利用エネルギーに ついては、前述した空調管理と連動して、地下水を活用したヒートポンプなど、 様々な研究、実証を活かしていくことが必要である。 国では、植物工場の生産効率を向上させるため、オランダ式の大規模施設園 芸団地を整備する方針を打ち出しており、今後大規模な施設園芸拠点が全国に 導入され、その生産効率向上に向けた自動化システムや、生産管理工程の導入 等が進むものとみられる。そこで、県内に立地する工場等が、それぞれの現場 で培ったノウハウなどを活用することが期待される。実際にトヨタ自動車関連
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のデンソーでは、デンソーの生産管理ノウハウを活用した商品開発を進め、2014 (平成26)年夏には本格的な販売をめざしていると言われており、県内企業で も同様の開発が期待される。
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2.植物工場関連産業に関する青森県のポテンシャル
(1)青森県内における植物工場の状況 すでにみてきたように青森県内の植物工場立地数は少ないが、施設園芸農家 まで広げると、6 千戸を超える園芸農家がある。 表:ガラス室・ハウス 経営実農家数(単位:戸) 資料:「2009(平成 21)年園芸用施設及び農業用廃プラスチックに関する調査」農林水産省 ちなみに、2012(平成 24)年時点での青森県内の農業用ハウス・ガラス室面 積は約487ha、うち野菜用が約 305ha である。農家数でみると 4,799 戸となっ ている。 大手ハンバーガーチェーンでは、県内津軽地域に、夏秋トマトの生産拠点を 設けているほか、最近では耕作放棄地を活用したトマト生産にも取り組むこと としており、園芸分野での展開が期待される。 さらにイチゴ等の施設栽培も行われており、今後植物工場としての拡大可能 性があるとはみられる。しかしこうした動きには県を含めた地域全体としての 主産地化や拠点化の動きが重要である。 全 国 237,806 北 海 道 10,759 青 森 6,290 東 岩 手 9,662 宮 城 7,288 秋 田 6,101 山 形 7,595 北 福 島 6,370 小 計 43,30622 表:ガラス室・ハウス設置実面積(単位:千㎡) 資料:「2009(平成 21)年園芸用施設及び農業用廃プラスチックに関する調査」農林水産省 一方で、青森県内には現状での植物工場立地数が少ないという点がある。現 状では人工光型植物工場は1 か所稼働している。現在異業種からの参入として 機械製造業が、葉菜類の生産に取り組んでいる例があるが、全国的にも、異業 種からの人工光型生産装置への参入は盛んに行われていることから、県内企業 のこうした取組にも注目する。 太陽光併用型については、六ヶ所村の花き生産施設があげられる。同施設に ついては、すでに生産実績を有し、消費市場においても一定の評価を得るなど 既にその実績を重ねていることから、今後安定的に経営が推移するものとみら れる。 太陽光型では、県内でもトマトやイチゴの施設園芸農家において、一部では 環境制御の取組を行っている例などもみられるが、今後自然環境の変化に対し て、より高度な環境把握や制御のシステムを導入し、植物工場化していくこと が期待される。特に近年では、気象条件が変化したり、燃料代のコスト増など により、事業採算性の確保が大きな問題となっていることから、経営の安定化 と、コスト低減を実現していくためにも、環境把握と、より高度な環境制御の 実現は、短期的にはシステム導入による負担増は避けられないが、中長期的に はコスト低減効果が期待され、農家収入増に貢献するものとみられる。 野菜用 花き用 果樹用 計 全 国 338,901 77,451 74,137 490,490 北 海 道 24,680 3,641 4,002 32,323 青 森 4,502 817 1,218 6,537 東 岩 手 5,886 733 471 7,090 宮 城 7,963 1,222 63 9,248 秋 田 4,665 605 12 5,282 山 形 6,040 2,023 9,516 17,579 北 福 島 8,246 1,648 100 9,994 小 計 37,302 7,048 11,380 55,730
23 (2)青森県内の植物工場立地のポイント 前述したように、現状では青森県内の植物工場立地は、全国的に比較しても 必ずしも多く立地し、普及が進んでいるという状況とはいえない。 こうした背景には、青森県固有の課題点が存在するとみられる。それは、 ①太陽光型での耐雪性確保等の耐久性、単棟型立地の問題 ②太陽光型での加温コストの問題 ③県内需要の掘り起こしと、大都市圏向け物流コストの問題 太陽光型の立地については、補光の有無にかかわらず、ハウス立地に際して 降雪に対する耐荷重耐久性を確保する必要がある。一般的農業においても、毎 年積雪による荷重により、農業用施設が倒壊するなどの被害がみられ、ハウス においても積雪荷重に対する耐久性確保が重要な問題である。日本海側など降 雪地域では、オランダ等にみられる連棟型施設の立地は、棟の谷間に雪が積も り、積雪荷重が施設にかかり倒壊する可能性があることから、不向きとみられ、 ほとんど立地するケースはない。一部新潟県内に、降雪時に融解させ積雪を防 止する連棟型施設を建設しているケースがあるが、珍しい例である。同施設で は補光装置を備え、日射量不足の際には人工光で補うこともできる。 積雪荷重を考慮すると、骨材等による耐荷重の強化などを行うが、こうした 措置は、ハウス内への日射を妨げる原因になり、施設の生産性を損なう恐れが ある。また単棟型とすることで、施設の大規模化を阻害し、生産性向上を妨げ ることになる。こうした自然条件に起因する抑制条件に対して、新潟県での立 地例のように、運用を含めた解決策を講じて、施設の規模拡大や、光射量の確 保などを行い、対応していくことが必要である。 加温コストについては、燃料とする化石燃料の価格上昇や、円安等の為替レ ートの変動など、輸出入条件の変化によって、大きなコスト増要因になる可能 性が高い。特に近年では、慢性的にコスト増が続いており、生産者への負担は 大きい。このため、従来までは農業者自身が、加温時期を短くしたり、従来ま では加温していたような自然条件でも加温せず、コスト抑制を図るなどの自制 をする傾向にあることから、植物体の成長を妨げ、生産性を低下させることが 危惧される。
24 むしろ、化石燃料によらない技術の開発や、保温材の活用、その他のエネル ギー源の利用などにより、中長期的なコスト低減に向けた技術導入を行うこと で、積極的に温度管理を行う姿勢は維持していくことが重要である。 近年では、自然条件の変化等から、夏季を中心に野菜産地の北進が常態化し ていると言われており、北海道などは夏のトマト産地として、主産地形成を行 うとともに、ブランド化にも成功しつつある。本県においても前述したように 大手外食企業の夏季におけるトマト生産拠点としての動きが本格化するなど、 園芸分野での産地優位性が改めて注目されていることもあり、従来までのよう に、自然条件から施設園芸には不向きとするのではなく、より積極的に施設園 芸にも取り組み、主産地形成を進めていく姿勢が求められる。 また、本州最北端として、主要な消費地に対する物流コストの問題がある。 これは植物工場だけでなく、ほとんどの農水産物あるいは製造品でも同様の問 題であり、積載効率の向上や基幹物流網の整備などにより、コスト低減を図る ことが重要である。積載効率を向上するには、大量に生産し、大量に出荷する ことで、単位重量当たりの輸送コストを低減することがある。本県と同様に物 流面でコスト増が不利に働いている地域でも、創意工夫を行ってコスト低減を 行っている。 例えば、宮崎県北地域から大分県南地域の東九州地区は、九州内でも陸上高 速交通網の整備が遅れた地域として知られている。海上輸送では四国や大阪方 面への定期便が運航しているが、九州内他地域と比べても、時間距離でみた場 合の物流コストは割高になりがちである。同地域に拠点を置く太陽光型植物工 場事業者では、地元農協や周辺の農業生産者、農産加工業者等と協力すること で、東京や大阪に輸送する荷物を取りまとめる一方で、逆に大阪等から地元へ の資材等の荷物もまとめることで、トラック物流の定期便化を実現し、物流コ ストを大幅に低減した。特に農産物の場合は、東京や大阪の中央卸売市場まで 運び込めば、中央卸売市場から顧客の各店舗や工場までの配送便は、すでに確 保されているケースが多く、市場で荷物を積み替えて、各店舗や工場に配送す ることで、生産者側としても顧客指定の店舗や工場まで直接輸送するより、大 幅にコスト削減することができる。 このように、遠隔地では、それぞれの事業者が別々に輸送ルートを確保する のではなく、共同で荷物をまとめ、一定量を毎日配送する荷物にまとめ上げる
25 ことで、物流業者も定温物流網を構築し、結果的に定期配送によるコスト削減 につなげることができる。 このような取組のためにも、県内農水産物・加工食品等の物流ニーズを取り まとめ、共同配送につなげる取組を進めていくことが期待される。さらに大都 市圏からの北東北地域への帰り荷をまとめることで、往復での空荷を減らすな ど、物流の効率化を進め、コスト削減に取り組むことも重要である。 (3)植物工場関連産業に関する青森県のポテンシャル 本県は、気候や気象条件等からみても、世界的に植物工場が立地する地域と 似通っており、県内で開発した関連産業ノウハウが、県内だけでなく、国内や 海外市場にも適応できる可能性が高いという点で、評価できる。 特に、国内ではまだほとんど普及していない農業用ヒートポンプや、加温・ 保温材、局所冷暖房装置などでは、具体的に韓国企業と連携して、既存農家で も購入可能な木質燃料を利用する暖房装置の実用化に取り組んでいる例などが あり、こうした取組は注目される。 ちなみに、局所冷暖房装置とは、主に水耕栽培等において、根部や成長点付 近にパイプ等を通して、水や温冷風を流すことで植物の成長に重要な部分の温 度管理を集中的に行う装置である。 また現状より今後に期待する技術としては、地中熱や地下水を利用した熱交 換システムなどがあげられ、従来までも県内企業や、県内大学等研究機関で研 究されてきたノウハウを活用しつつ、実用化に向けた実証を進めていくことが 期待される。 その意味では、最近設置に向けて進められている施設への装備が準備されて いる保温装置など、今すぐ利活用可能なポテンシャルのある要素技術もみられ るが、今後は植物工場だけでなく、他分野で先行している技術を積極的に農業 分野にも取り入れ、要素技術として実用化を進めていくべきである(ヒートポ ンプや地下水・熱利用技術等)とみられ、これら植物工場とそれ以外分野との 連携による研究開発スピードの加速化が重要な課題である。 また省力化技術については、県内の大手企業等が有する、工場内の搬送装置 など省力化技術を応用することで、一般農家の農作業負担を軽減する可能性が 期待される。これらの技術については、長い間、労働環境安全等に取り組んで
26 きた製造業でのノウハウや考え方、あるいは技術を積極的に導入することで、 労働環境安全行政の基本的考え方に沿って、農作業従事者の肉体的負担を軽減 し、健康でかつ安全な作業空間を構築するという点からも、積極的な導入を促 進することが重要である。 表:青森県内に有する経営資源で、利活用が期待される技術・ノウハウ等 分野 期待されるポイント 課題点等 空調 ・韓国企業と連携して、木質燃料を燃焼して加温 するボイラーを開発、安価で耐久性がある暖房 装置を開発 燃料となる木材の安定的調達 灰処理などのメンテナンス ・地下水などを安定的な温度が得られる熱源とし て活用し、ハウス内の温度管理に活用 ・地下水を活用した熱交換システムで、温度管理 を実現 商品化技術 製造コスト低減 照明 ・LED によるパルス照射など省電力技術 商品化技術 省力化 ・ハウス内の収穫物輸送補助 ・高所作業時の作業補助機械 普及に向けたコスト低減 ソフト ・同一ハウスによる二毛作栽培ノウハウ 栽培カレンダーの確立 資料:各種資料より三菱総合研究所作成
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写真:青森県内にある、木質燃料ボイラーで加温する施設(上段)と燃焼炉(下段)
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3.県内における植物工場関連産業振興に向けた考え方と可能性の
高い分野
(1)国等の動向 国では、2008(平成 20)年度から、農商工等連携促進法に基づき、農商工連 携のシンボルとして、農林水産省と経済産業省・中小企業庁が、植物工場の普 及・促進、技術開発を支援してきた。当初から、両省が協力・連携して、基礎 的研究開発基盤の整備や、技術やシステムの実証、普及促進に向けた支援、植 物工場立地促進などの取組が行われてきた。特に技術やシステムの実証分野で は、2011(平成 23)年に発生した東日本大震災からの地域農業の復興に向けた 取組と連携し、新たな農業を定着させるための新技術、新システムの実証等が、 被災地あるいは全国で積極的に推進されることになった。 経済産業省 農林水産省 植物工場 農商工等連携促進法に基づく、農商工連携のシンボル 植物工場 人工光型>太陽光型 植物工場・高度施設園芸 太陽光型>人工光型 農業産業化 植物工場にこだわらず(+陸上養殖) 農業システム輸出+輸出用農産物生産 エネルギーの有効利用 次世代施設園芸(オランダ型) 太陽光型=農産物生産 人工光型=苗テラス エネルギー供給センター 特に経済産業省では、震災復興特別会計を用いて、植物工場の技術開発、新 技術導入の実証を、被災地振興と連動して、合計で3回にわたり事業執行して きた。この中では、陸前高田市での地下水を利用した省エネ型空調管理システ ムや、北海道等での農産物の自動収穫、調製作業の実証、宮城県での工場廃熱 を利用したハウス加温等の実証、人工光型植物工場での溶液及び栽培管理によ る高付加価値農産物(低カリウム野菜)の生産技術の実証など、様々な関連産 業の研究開発と実証を行ってきた。29 さらに、こうした技術の実証については、被災地農業の復興や国内農業の振 興だけでなく、日本発の農業関連輸出産業としての展開が期待されており、2013 (平成25)年度には、中東、東南アジア、中国を対象に、植物工場技術の輸出 産業化の実証が行われている。こうした中には、特にエネルギーや省力化技術 などの実証が含まれており、今後も、これらの要素技術の研究開発については、 引き続き国からの支援を受けながら、技術の実証や事業化に向けて取り組むも のとみられる。 具体的に2014(平成 26)年度の国による植物工場関連支援策をみると、経済 産業省では、グローバル農商工連携推進事業があげられる。本事業は、2013 年 度に実施した農業の輸出産業化に向けた補助事業の実質的な継続案件であるが、 2013(平成 25)年度事業が、中東や中国、東南アジアなどの採択された地域に、 植物工場等の輸出を持ち込み、現地生産現地販売による実証事業に取り組んで いたのに対して、本事業では、農産物の輸出額1兆円達成に貢献する目的も含 むため、国内に生産拠点を有し、日本から農産物を輸出する形での実証となっ
30 ている点である。国際的には、農産物価格は厳しい価格競争にある中で、日本 で農産物を生産し、海外に輸出するということは、相当程度の価格競争力や付 加価値競争力を有する農産物を生産するシステムであることが求められる。 従来まで、わが国発の輸出農産物は、相対的に高付加価値型が多く、旬の季 節が限定され、単価の高い果物類などを輸出するケースが多かった。確かにわ が国の農産物は品質や形、色味などの評価が高く、高価格で販売される農産物 需要が存在する。一方で、国の政策目標である、年間輸出額1兆円を実現して いくためには、高付加価値商品だけでなく、より手頃な価格で大量に輸出でき る商品の開発も求められる。特に安定的に農産物を輸出する場合には、輸出先 までの定温コンテナなどが定期便化され、通関・検疫等業務を含めて、年間を 通じて安定的に輸出する体制を構築、さらに輸出相手先の店頭等においても、 年間を通じて、日本産農産物が常に商品陳列棚に並び、日本産農産物で年間の 棚揃えできるような体制を構築することが必要である。 そのためには、単に安定・均質に生産が可能で、しかも低コストで高品質の 農産物を大量に生産、輸出していくシステムの構築が必要であり、輸出を想定 した植物工場の立地が期待される。実際に植物工場先進国と言われているオラ ンダや韓国等でも、植物工場で生産されるトマトやパプリカ等の大半は、輸出 品として、近隣のドイツやフランス、イギリス、あるいは日本や中国向けとさ れており、わが国においても、本格的な農産物の輸出に向けた関連技術開発を 進めていくには、農産物の輸出に貢献できる機器やシステムの開発を進めてい くことが必要で、本県においても、こうした観点からの技術開発や企業の躍進 を期待するものである。 一方で、農林水産省では、2013(平成 25)年 5 月の、林農林水産大臣のオラ ンダ訪問を契機に、オランダ型の植物工場のクラスター化を促進する動きが顕 著になっている。従来から農林水産省では、いわゆる狭義の植物工場だけでな く、より幅の広い一定程度の環境制御を行っている施設園芸なども含む「高度 施設園芸」をも包含した振興策に移行しつつあったが、2013 年秋以降は、さら にこの考え方を進め、「次世代施設園芸」という用語に統一、オランダのように 施設園芸を集団・大規模化したり、ボイラーやヒートポンプ等の空調設備の共 同運営、共同選果・出荷施設の整備、育苗を含めた生産体制の総合化などを促 進することを明確にしている。
31 2013(平成 25)年度の補正予算では、「次世代施設園芸導入加速化支援事業」 として30 億円を予算化し、さらに 2014(平成 26)年度当初予算でも関連予算 として20 億円を計上、2014(平成 26)年度中に合計で 50 億円規模の事業を執 行する予定である。 本事業では、全国の都道府県が中心になって、産学官農のコンソーシアムを 形成、最終的には全体で50〜100 ヘクタール規模となる、次世代施設園芸クラ スターを形成し、それぞれ20 ヘクタール程度の規模を有する、トマト等の果菜 類や葉菜類のほか、花きの生産を行う高度環境制御の複数施設を集中整備し、 さらにこれらの施設にエネルギーを供給する施設や、種苗供給施設、集出荷の ための施設を整備したうえで、関連産業を集積することをめざしている。 当初計画では、初年度だけで全国に5か所程度の整備を計画しており、その 後各地方自治体の準備に応じて、拠点数を増やしていく予定である。 本計画は、今後数年間は継続していくものとみられ、実現すると、わが国の 植物工場に大きな影響力を与える事業になるとみられる。特に本事業に指定さ
32 れた自治体では、今後産学官農が連携しながら、国費が集中的に投入され、今 までわが国内にはみられなかった大規模な施設園芸のクラスターが形成される ことになる。現在の計画見通しでは、全国に少なくとも5か所以上整備される 予定であり、南北に長い国土にあって、それぞれの風土や気候に適したクラス ターが、指定された自治体を中心に進むものとみられる。 その意味では、今後植物工場や高度な施設園芸及び関連産業の振興を図って いく場合には、本事業の指定地区になるか否かは、政策上の大きな分かれ目に なる可能性がある。 (2)国等の動向からみた植物工場関連産業の注目点 前節でも整理したように、これまで5年以上にわたって継続的に植物工場を 振興してきた農林水産省や経済産業省では、ここに至ってその政策内容に変化 が生じ、いわゆる狭義の植物工場支援から、農業生産の安定性や多収、輸出化 を見据えた施設園芸全体の高度化を含めた総合展開へと進展している。すなわ ち植物工場関連産業の技術も、植物工場や高度施設園芸(新しい呼び名では次 世代施設園芸)に留まるだけでなく、露地農業や農産加工にまで影響を及ぼす ことが期待されつつある。そのため、植物工場関連産業の影響力や想定される 市場も、国内に 150 か所超立地すると言われている植物工場施設だけでなく、 全国に48000 ヘクタールあると言われている施設園芸を超えて、露地農業への 活用までも包含した取組が期待されている。 実際に例えば、重量野菜の収穫を支援するための、植物工場内で稼働する農 産物輸送用のキャスターなどについては、植物工場や高度施設園芸内でのトマ トやイチゴの運搬だけでなく、場合によっては、整地された露地でも利用が期 待される分野ではある。また局所冷暖房や点滴給水などは、露地農業でも応用 が可能と考えられるほか、補光技術も果樹や野菜類でも応用可能とみられる。 特に、両省とも、植物工場関連産業として、エネルギーとの連携、あるいは 省エネ・創エネ技術の開発は重要視していることから、本県においても、化石 燃料燃焼に代わる加温装置の開発や、地下水等を利用したヒートポンプ技術の 実用化などは、今後も実用化に向けて研究開発が期待される。ヒートポンプに ついては、農林水産省でも以前から農家が導入する際の補助制度を設け、普及