27 伊丹市昆虫館研究報告 第 8 号 2020 年 3 月
兵庫県伊丹市で採集した
ミカドアゲハ(チョウ目 , アゲハチョウ科)の飼育記録
角正美雪
伊丹市昆虫館A rearing record of Graphium doson (Lepidoptera, Papilionidae)
collected from Itami city, Hyogo Prefecture, Japan
Miyuki K
akumasa Itami City Museum of Insects(2020 年 3 月 13 日受理) ミカドアゲハ(学名 Graphium doson)はアゲハチョ ウ科に属し、アジアの熱帯から亜熱帯に広く分布してい る。日本はその分布の北限で九州、四国、中国地方(山 口県、広島県、岡山県)、近畿地方では和歌山県南部、 三重県伊勢志摩半島以南で見られる(白水 , 2006)。兵 庫県におけるミカドアゲハの記録は数例しか報告されて いない(広畑・近藤 , 2007、広畑 , 2016、岡田・近藤 , 2018)。筆者は 2019 年 5 月 18 日に兵庫県伊丹市にあ る昆陽池公園においてミカドアゲハの記録を報告してお り(角正ほか ,2020)、本稿ではその時に採集した本種の 卵からの飼育記録を報告する。 ミカドアゲハの卵は、2019 年 5 月 18 日に昆陽池公園 に植栽されているタイサンボク(モクレン科:Magnolia grandiflora)に自然条件下で産卵され、同日採集したも のを用いた。卵の数量は1卵で、密閉状態の食品用 PET 製カップ(430ml)に入れ、温度 25℃、相対湿度 50 〜 60%、16 時間日長(16L-8D)の光周期の恒温室内で管 理した。卵は産卵から 4 日後の 2019 年 5 月 22 日にふ 化した(図 1)。幼虫には伊丹市昆虫館西側に植栽されて いるオガタマノキ(モクレン科:Michelia compressa) を与えた。飼育作業としては、カップの底に敷いたティッ 問い合わせ先 e-mail : [email protected] シュペーパーを毎日交換しフンの掃除を行った。4 齢幼 虫以降は食品用 PET 製カップ(860ml)に変え、蛹の足 場となる割り箸を入れた(図 2)。本種の幼虫は 2019 年 6 月 9 日前蛹となり(図 3)、翌日中に蛹となったことを 確認した(図 4)。蛹は葉の上下を割り箸にテープで巻き つけたものをダンボール製の紙に固定して、円筒の PET 製飼育容器(直径 127mm, 高さ 133mm)に移し替えた。 蛹は 2019 年 11 月 11 日まで前述の条件下で恒温室内 で管理していたが、羽化が見られなかったため低温処理 を行った。蛹の管理場所をインキュベータ(Fukushima FMU-263I)内に変更し、22℃で 2019 年 11 月 12 日〜 25 日の 2 週間、19℃で 2019 年 11 月 26 日〜 12 月 9 日の 2 週間、16℃で 2019 年 12 月 10 日から 2020 年 2 月 3 日の 8 週間となるよう管理温度を徐々に下げた。な お日長はインキュベータ内に設置した白色光の LED ラ イト(GEX( ジェックス ) クリア LED POWERIII 600) を用い、タイマーコンセント(REVEX(リーベックス) PT70DW)を使用して 16 時間日長(16L-8D)の長日条 件を継続した。
低温処理した蛹は、2020 年 2 月 4 日に卵や幼虫を管 理した同じ飼育条件の恒温室内に戻した。約 1 ヶ月後の
28 角正美雪 2020 年 3 月 5 日に翅の模様が透けてみえはじめ(図 5)、 翌日の 3 月 6 日にオスが羽化した(図 6,7,8)。産卵から 羽化までの成長日数と飼育条件を表1に示す。 表 1. 成長日数と飼育条件 ステージ 日数(日) 設定温度および光周期 備 考 卵 4 25℃ 16L-8D 産卵2019 年 5 月 18 日 幼虫 19 25℃ 16L-8D ふ化2019 年 5 月 22 日 蛹 154 25℃ 16L-8D 蛹化2019 年 6 月 10 日 14 22℃ 16L-8D 飼育条件変更2019 年 11 月 12 日 14 19℃ 16L-8D 飼育条件変更2019 年 11 月 26 日 56 16℃ 16L-8D 飼育条件変更2019 年 12 月 10 日 32 25℃ 16L-8D 飼育条件変更2020 年 2 月 4 日 計 270 蛹期間の合計 成虫 − 羽化2020 年 3 月 6 日 産卵 - 羽化 293 今回の飼育環境の温度設定は、確実に個体を羽化させ るため当館で休眠蛹飼育を行っているナガサキアゲハの 温度設定(未発表)を参考に、上記の条件で試みた。本 種 1 個体の飼育記録ではあるが、16 時間日長(16L-8D) の一定の日長でかつ管理温度だけを変えた条件で羽化が 可能な一例である。筆者は羽化後に飼育個体の標本を作 成した。標本は伊丹市昆虫館で保管している(登録番号: ICMI18216)(図 9)。 謝辞 本稿の中で貴重な写真データを提供していただいた昆 陽池公園野鳥観察グループ「チーム K」の尾崎由紀氏、 羽化後の飼育個体の写真撮影および提供において奥山清 市館長に感謝申し上げる。 引用文献 広畑政巳・近藤伸一 (2007) 兵庫県の蝶 , 301. 岩峰社 , 東京 広畑政巳 (2016) 兵庫県におけるミカドアゲハの記 録 . きべりはむし 39(1):42-43 角正美雪・大櫃成章・尾崎由紀・尾崎雄二・松本好子・ 松尾雅仁・田淵千里・大橋昭仁・坂本昇・前畑真実 (2020)兵庫県伊丹市におけるミカドアゲハ(チョウ 図 3. 前蛹 撮影:尾崎由紀 目 , アゲハチョウ科)の記録 , 伊丹市昆虫館研究報告 (8):25-26. 伊丹市昆虫館 , 兵庫 岡田善嗣・近藤伸一 (2018) ミカドアゲハを兵庫県加古 川市内で採集 . きべりはむし 41(1):26 白水隆(2006)日本産蝶類標準図鑑 , 28-29. 学習研究社 , 東京 梅田博久 (2014) 妙見山(大阪府能勢町)でミカドアゲ ハを目撃 . きべりはむし 37(1):39 図 1. 1 齢幼虫 撮影:尾崎由紀 図 2. 5 齢幼虫の飼育容器内のようす 撮影:尾崎由紀
29 兵庫県伊丹市で採集したミカドアゲハ(チョウ目 , アゲハチョウ科)の飼育記録 図 4. 蛹 撮影:尾崎由紀 図 5. 羽化直前の蛹 図 6. 羽化直後の成虫 図 7. 成虫(背面) 撮影:奥山清市 図 8. 成虫(側面) 撮影:奥山清市 図9. 成虫(標本)