1.研究の背景と目的 昭和43年創設の区域区分制度によって定められる市街化 区域は、指定当初から現在に至るまで区域を見直しながら 拡大してきた。しかし指定当初に比べて、現在の日本は人 口減少局面に突入しており、今後は市街化区域を拡大する のか検討が求められる。都市計画法施行令(以下、施行令 と略)第八条1項二号では、おおむね十年以内に優先的か つ計画的に市街化を図るべき区域として市街化区域に定め るべきでない土地の区域として、イからニまで4つの規定 があり、同号ロでは、原則として、溢水、湛水、津波、高 潮等による災害の発生のおそれのある土地の区域を含まな いものとされている(1)。区域区分制度の創設から現在に至 るまで、土砂災害や豪雨被害をもたらした自然災害(2)では 住宅地の被害が報告されている一方で、この条文がどの程 度守られているかは把握されていない。 これまで、市街化区域に着目した研究1)2)3)では、市街化 区域の拡大や、当初の区域区分指定の問題点や課題を示し ている。また、災害と土地利用規制に関する研究4)5)では、 開発許可制度の運用と浸水想定区域との関係、津波危険区 域と同制度の運用の課題が明らかにされている。また、松 本らの研究6)では、災害危険区域の指定を実施する際の考 慮すべき事項を示している。しかしながら、当初指定から 現在までの市街化区域の拡大と災害リスク区域(3)の指定状 況に関連した研究は見られない。酒井ら7)は昭和50年以降 に都市化した地域を抽出して浸水想定区域との関係を考察 しているが、市街化区域の拡大過程で施行令第八条1項二 号がいかに扱われたのかは不明である。 そこで本研究では、当初決定時とそれ以降に拡大した市 街化区域が施行令第八条1項二号の条文を満たしているか を、市街化区域内の災害リスク区域の指定状況を分析する ことで明らかにする。また、市街化区域の拡大が災害の虞 のある場所に行われた場合あるいは災害の虞のある場所を 避けて行われた場合、これらの背景を明らかにし、今後の 市街化区域のあり方について示唆を与えることを目的とす る。 なお、本研究で定義した災害リスク区域(浸水想定区域、 土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域)は全て平成13 年に創設された制度だが、これらが想定する災害は恒久的 な地勢に大きく起因しており、近年に限らず洪水や土砂災 害は都市に甚大な被害を与えている。本稿では災害リスク 区域の指定時期に留意した上で、施行令第八条1項二号の 観点から市街化区域を評価し、そのあり方を論じる。 また、施行令第八条1項二号は新市街地に対する規定の ため、当初線引き時に河川や急斜面等の周辺が既に市街化 していた場合はやむを得ず災害リスクを抱えながら市街化 区域が設定されたと推察できるが、その近隣を新市街地と して区域指定する場合は条文の対象となる。よって、本稿 では特に拡大した部分に重きを置いて論を進める。 2.対象都市の選定 本研究では、①人口10万人以上(平成22年国勢調査)、 ②用途地域を昭和40年までに指定、③区域区分を昭和50年 までに設定し現在まで維持、④災害リスク区域のデータが 存在(平成30年1月31日時点)、⑤地方圏(4)という条件を 満たす71都市を対象とした。この71都市の市街化区域拡大 の傾向を把握するために、GISを用いて災害リスク区域を 当初と現在の市街化区域(5)に重ね合わせて分析した。当初 と拡大した部分の市街化区域が安全な区域か危険な区域 (災害の虞のある場所)かについて、以下の4類型に分類 した。 * 正会員 日本国土開発株式会社(JDC Corporation)
** 正会員 長岡技術科学大学大学院工学研究科環境社会基盤工学専攻(Nagaoka University of Technology) *** 正会員 新潟工科大学工学部工学科(Niigata Institute of Technology)
市街化区域と災害リスク区域の関係に関する研究
-当初決定とその後の拡大に着目して-
Study on Relation between Urbanization Promotion Area and Disaster Risk Area
- Focusing on Comparison between Original Area and Expanding Area
蕨裕美*、松川寿也**、中出文平**、樋口秀*** Yumi Warabi*, Toshiya Matsukawa**, Bumpei Nakade** and Shu Higuchi***
This study aims to suggest the ideal way of future Urbanization Promotion Area. For the purpose, paying attention to Article 8 of City Planning Act Enforcement Order, we clarify whether the expanded area of Urbanization Promotion Area adapts on this Article by analyzing Disaster Risk Area designated in Urbanization Promotion Area. We select 7 case study cities from the analysis of 71 local cities. For the cities, we examine the ratio of the Disaster Risk Area to the expanded area at each regular review to understand the expansion period to the area with the disaster risk.
We find that Urbanization Promotion Area has expanded to the place with the risk of the disaster by the housing development of Prefectural Housing Supply Corporation or the land readjustment project. Moreover, there are cities preventing the expansion to the area with the risk of the disaster by giving priority to the maintenance of the Agricultural Promotion Area.
Keywords: Urbanization Promotion Area, Article 8 of City Planning Act Enforcement Order,
Disaster Risk Area
A. 当初、拡大した部分ともに安全 B. 当初は危険、拡大した部分は安全 C. 当初は安全、拡大した部分は危険 D. 当初、拡大した部分ともに危険 4類型に分類するために、当初市街化区域に占める土砂 災害リスク区域(6)の割合別の都市数、拡大した部分の市街 化区域に占める土砂災害リスク区域の割合別の都市数の頻 度分布を作成し、これを基に当初市街化区域・拡大した部 分の市街化区域に占める割合ともに2%(7)を安全と危険の 閾値として、土砂災害リスク区域を4類型に分類した。ま た、浸水想定区域も同様の頻度分布を作成し、災害リスク がより大きいと考えられる想定浸水深50cm以上の区域に着 目し、この区域が当初市街化区域に占める割合30%(8)、拡 大した部分の市街化区域に占める割合6%(8)を安全と危険 の閾値として、浸水想定区域を4類型に分類した。それら を組み合わせて16類型に分類した。各類型の都市群のうち、 平地以外に市街化区域を拡大しており、かつ実際の拡大範 囲以外にも安全な場所(標高差が激しい場所や災害リスク 区域以外)に市街化区域を拡大する余地があったと推察で きる都市(9)の中から、市街化区域の拡大面積が類型内で最 大又は二番目に大きい都市である、7都市(八戸、弘前、 大垣、大分、山形、松本、岐阜)を詳細対象都市とする (表1、図1)。 図1 詳細対象都市(5) 市役所 浸水想定区域 A(安全→安全) B C(安全→危険) D(危険→危険) 土 砂 災 害 リ ス ク 区 域 A -B -C -D 松本 ①11.5% ②13.1% ③ 2.9% ④ 2.9% 大垣 ①59.5% ②77.8% ③ 0.1% ④ 0.0% 大分 ①0.2% ③1.2% ②0.2% ④2.0% 山形 ①0.0% ②6.3% ③3.8% ④5.6% 都市名 ①当初市街化区域に占める浸水想定区域の割合 ②拡大した部分の市街化区域に占める 〃 ③当初市街化区域に占める土砂災害リスク区域の割合 ④拡大した部分の市街化区域に占める 〃 *浸水想定区域は想定浸水深50cm以上の割合 八戸 ①7.9% ②0.0% ③1.0% ④0.4% 2 km 弘前 ①8.8% ②8.0% ③0.1% ④0.0% 岐阜 ①74.2% ②50.3% ③ 5.6% ④ 6.5% N 浸水深0~0.5m 浸水深0.5~2.0m 浸水深2.0m~ 土砂災害警戒区 域 土砂災害特別警 戒区域 災害リスク区域 当初 現在 市街化区域 表1 対象都市(5) 浸水想定区域 (想定浸水深50cm以上の割合) A B C D ①30%未満 ②06%未満 * ①30%未満 ②06%以上 ①30%以上 ②06%以上 土 砂 災 害 リ ス ク 区 域 A ①2%未満 ②2%未満 函館 苫小牧 青森 八戸 郡山水戸 宇都宮小山 前橋 松阪 明石 -旭川 釧路 弘前 盛岡 秋田土浦 太田 富士 豊橋 今治 帯広足利 伊勢崎長岡 富山高岡 福井 甲府 大垣津 加古川 佐賀 B ①2%以上 ②2%未満 小樽福島 会津若松 日立 - 高崎金沢 倉敷 C ①2%未満 ②2%以上 大分 -沼津 三島 豊川 石巻 D ①2%以上 ②2%以上 山形 いわき 桐生 呉 下関 周南 高知長崎 佐世保 別府 鹿児島那覇 姫路 松江 長野 松本 各務原 大津 岩国 松山 岐阜 和歌山 鳥取 福山 防府 徳島 ①当初市街化区域に占める割合 ②拡大した部分の市街化区域に占める割合 赤字:市街化区域の拡大が700ha以上の都市(24都市) 赤字:詳細対象都市(7都市) *①30%以上 ②6%未満
3.市街化区域の変遷と災害リスク区域の関係 7都市に対しては、対象都市71市よりも詳細な市街化区 域の変遷を見るため、まず各定期見直し時の区域区分設定 調書を入手して各定期見直し時の編入箇所、面積を整理に した(10)。各定期見直しで拡大した部分の災害リスク区域 との重複範囲をGISで抽出し、災害の虞のある場所へ拡大 した時期と面積等を把握した。これらの空間分析結果を根 拠として、ヒアリング調査で災害リスク区域と重複する場 所又は重複していない場所への拡大の理由を確認し、追加 の資料収集と現地調査もあわせて実施した(11)。本研究は 特に拡大した市街化区域での災害リスクを評価することか ら、本章では詳細対象7都市のうち、当初は安全だったが 浸水被害の虞のある場所に拡大した弘前市と、同じく当初 は安全だったが土砂災害の虞のある場所に拡大した大分市 を取り上げる。 3-1.都市の概要と市街化区域の変遷 (1) 弘前市 弘前市は、人口(12)約18万人、面積約524㎢の都市である。 詳細対象都市の中で拡大面積が一番狭く現在の市街化区域 面積も一番狭い都市である。岩木川と平川の河川に囲まれ た沖積台地に市街地が形成され、北西に岩木山、南に白神 山地があることから東側に区域を拡大した。市街化区域と 同様に、鉄道や国道等の交通網が市の中心部より東側を中 心に通っている。当初市街化区域指定から、6回の定期見 直しを実施し現在の市街化区域に至っている。 (2) 大分市 大分市は、人口約48万人、面積約502㎢の都市である。 詳細対象都市の中で当初市街化区域を最も広く指定した都 市である。また、拡大面積も三番目に広く現在の市街化区 域面積も一番広い都市である。市の北側に別府湾があるこ とから南側に区域を拡大した。鉄道や国道等の交通網が市 街化区域の東西、南方向に通っている。当初市街化区域指 定から、6回の定期見直しを実施し現在の市街化区域に至 っている。 3-2.各定期見直し時の災害リスク区域への対応 (1) 弘前市 弘前市は、浸水想定区域C、土砂災害リスク区域Aに分 類される。平成16年に浸水想定区域、平成20年に土砂災害 リスク区域の指定を開始した。 当初指定の市街化区域は、想定浸水深50㎝以上の場所を 8.8%、土砂災害リスク区域を0.1%含む(図2上段、表 2)。これは、岩木川や平川の浸水想定区域が指定される 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 逆線引き 1 km N 1 km 定期見直し 当初 現在 市街化区域 市役所 浸水深0~0.5m 浸水深0.5~2.0m 浸水深2.0m~ 土砂災害警戒区 域 土砂災害特別警 戒区域 災害リスク区域 岩木川 平川 丹生川 乙津川 河川名は当該河川による浸水想定区域の 位置に対応 200m 弘前 大分 図2 市街化区域の変遷と災害リスク区域の指定状況(上段:弘前 下段:大分)
場所に市街化区域を指定したことが影響していると考えら れる。 定期見直しで拡大した部分に着目すると、第2、3回定 期見直しで拡大した場所に占める想定浸水深0.5~2.0mの 割合が高い。当初市街化区域の北側に拡大したことが影響 していると考えられる。ヒアリング調査によるとこの区域 で青森県の住宅供給公社による宅地造成が行われたため拡 大している。一方、市の南部の土砂災害リスク区域に指定 される場所には市街化区域を拡大していない。ヒアリング 調査によると、この場所は営農が盛んに行われていたこと から大規模な整備を行わなかったことが土砂災害の虞のあ る場所への拡大を防いだと考えられる。これは施行令第八 条1項二号の条文と照らすと、同号ハ(1)に準じた区域指定 といえる。第4回定期見直し、第5回定期見直しで拡大し た場所は災害リスク区域に指定される場所に拡大しておら ず、災害リスク区域が指定された後の第6回定期見直しで 拡大した場所は、浸水想定区域に指定された場所を含むが、 想定浸水深の浅い場所での拡大のみであった。 拡大した部分全体に着目すると、宅地造成の影響を受け て浸水被害の虞のある場所へ拡大したが、農地を考慮し土 砂災害の虞のある場所への拡大は防げたと考えられる。 (2) 大分市 大分市は、浸水想定区域A、土砂災害リスク区域Cに分 類される。平成16年に浸水想定区域、平成18年に土砂災害 リスク区域の指定を開始した。 当初指定の市街化区域は、想定浸水深50cm以上の場所を 0.2%、土砂災害リスク区域を1.2%含む(表3)。これは、 乙津川や丹生川の浸水想定区域が指定される場所に指定し たことが影響していると考えられる。また、南西の地形の 影響を受ける丘陵地に指定したことが土砂災害リスク区域 の占める割合に影響していると考えられる。 定期見直しで拡大した部分に着目すると、第1回定期見 直しのみ浸水想定区域が指定される南側の飛び市街化区域 に拡大しているが、その後の定期見直しで拡大した場所は 浸水被害の虞のある場所へは拡大していない(図2下段)。 ヒアリング調査によると、市街化区域周辺の拡大しなかっ た場所は、優良な農地として当時から使用されていたため、 農地保全の観点から、その周辺は拡大しなかったことが浸 水被害の虞のある場所への拡大を防いだといえる。一方で、 第1、2、4回定期見直しで拡大した場所は土砂災害リス ク区域の占める割合が高い。これらの場所を拡大した理由 は、①市街化区域に接して地形的に一体的に整備する必要 がある、②開発等で整備された既成住宅団地の良好な住環 境の保全を図るため、③無秩序な開発を防ぐため、のいず れかに該当する区域を拡大した結果、土砂災害の虞のある 場所への拡大につながったことがヒアリングから得られた。 第5回定期見直しの後、災害リスク区域が指定されたが、 この定期見直しとその後の第6回定期見直しでは、災害リ スク区域に指定された場所へ拡大していない。 拡大した部分全体に着目すると、浸水被害の虞のある場 所への拡大はほぼ避けることができたが、元々が丘陵地で あった場所を団地として切り開いて開発した結果、土砂災 害の虞のある場所への拡大につながったと考えられる。 4.詳細対象都市の比較 他の詳細対象都市についても、弘前市、大分市と同様に 空間分析とこれに基づくヒアリング調査を進め、災害の虞 のある場所への市街化区域拡大の理由及び今後の市街化区 域の方針を明らかにした(表4)。 4-1.市街化区域の変遷と災害リスク区域の関係 3都市間で比較できる3つの視点に着目した。まず、浸 水想定区域Aグループ(図1左端縦方向の3市)を考察す る。このグループの3都市(八戸、大分、山形)は、当初 決定時から浸水被害が想定される場所に市街化区域を指定 しなかった都市である。この背景として、農用地区域など の存在を考慮したことが考えられる。しかし、土砂災害リ 表3 各定期見直しで拡大した部分に占める 災害リスク区域の割合(大分) 0-0.5 0.5-2.0 2.0- 警戒 特別 警戒 当初 7,630.4 2.4 0.2 0.0 0.9 0.3 96.1 1 361.6 0.2 1.0 0.0 1.7 0.5 96.6 2 414.4 0.0 0.0 0.0 2.3 0.8 96.9 3 229.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 100.0 4 264.7 0.0 0.0 0.0 2.3 0.6 97.1 5 168.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 100.0 6 52.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 100.0 拡大 1,491.5 0.0 0.2 0.0 1.5 0.5 97.8 定 期 見 直 し ( 回 ) 面積 (ha) 想定浸水深(m) (%) 土砂災害 リスク区域 (%) 災害 想定 なし (%) 表2 各定期見直しで拡大した場所に占める 災害リスク区域の割合(弘前) 0-0.5 0.5-2.0 2.0- 警戒 特別 警戒 当初 1,762.1 33.3 8.0 0.8 0.1 0.0 58.3 1 289.4 49.2 2.4 0.0 0.0 0.0 48.4 2 191.9 20.8 15.0 0.0 0.0 0.0 64.2 3 26.1 16.5 83.5 0.0 0.0 0.0 0.0 4 130.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 100.0 5 62.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 100.0 6 17.1 42.7 0.0 0.0 0.0 0.0 57.3 拡大 717.5 27.0 8.0 0.0 0.0 0.0 65.0 定 期 見 直 し ( 回 ) 災害 想定 なし (%) 土砂災害 リスク区域 (%) 想定浸水深(m) (%) 面積 (ha)
スク区域は類型の違いが生じている。八戸市と大分市を比 較すると、2市とも新産業都市の指定を受け、市の北部は 工業地帯として整備された。その影響と、農用地区域の指 定状況等から、市の南部で市街化区域を拡大した。その際 に、八戸市は地形の制約をほぼ受けないで拡大できたが、 大分市は元々が丘陵地であった場所を団地として切り開い て開発した。このことが、土砂災害が想定される場所に市 街化区域を拡大した要因につながったと考えられる。また、 山形市は市街化区域西側の農用地区域を考慮して、東側の 限られた場所で土地区画整理事業を中心に拡大したが、こ の場所は地形の影響を受ける場所であった。当初線引き時 からこの場所の北側に市街化区域が指定されていたことか ら、土砂災害が想定される場所に市街化区域を指定、拡大 したと考えられる。これらのことから、市の発展に伴い、 どこに住宅地を拡大できたかや、土地区画整理事業をどこ で実施したかによる違いが影響していると考えられる。 次に、土砂災害リスク区域Aグループ(図1上端横方向 の3市)を考察する。このグループの3都市(八戸、弘前、 大垣)は、当初決定時から土砂災害が想定される場所に市 街化区域を指定しなかった都市である。この背景として、 地形や農用地区域等の土地利用を考慮したことが考えられ る。しかし、浸水想定区域は類型の違いが生じている。同 じ青森県内の八戸市と弘前市を比較すると、八戸市では農 用地区域を考慮し、浸水被害が想定される場所への拡大を 避けることができたが、弘前市で同様のことを考慮したと ころ、市の南部や西部に拡大はできず、より浸水被害の影 響を受ける市の北部か東部への拡大を余儀なくされた。ま た、当初の市街化区域は、岩木川や平川の浸水被害の影響 を受ける場所を避けて指定することができず、当初市街化 区域の北側のより浸水被害の影響を受ける場所で宅地造成 され拡大したことが類型の違いにつながったと考えられる。 一方で、農用地区域を考慮して拡大した大垣市は当初決定 時から浸水被害の想定される場所に指定している。これは、 大垣市には多くの河川が存在することが影響していると考 えられる。これらのことから、浸水被害の影響を与える河 川が市街化区域周辺にどれだけ存在するかや、宅地造成を どこで行ったかによる違いが影響していると考えられる。 最後に、土砂災害リスク区域Dグループ(図1下端横方 向の3市)を考察する。このグループの3都市(山形、松 本、岐阜)は、当初決定時から土砂災害が想定される場所 に市街化区域を指定した都市である。この背景として、地 形や河川が多く存在する等の制約条件があったことが考え られる。しかし、浸水想定区域は類型の違いが生じている。 山形市では農用地区域を考慮したことで浸水被害の虞のあ る場所への拡大を避けることができたと考えられる。一方、 松本市は、松本城周辺の河川の影響を受ける場所に拡大し たことが、浸水被害の虞のある場所への拡大につながった と考えられる。また、岐阜市は、浸水被害の虞のある場所 が多く存在する条件に加えて、丘陵地形の影響を受ける場 所も多く、当初決定時から災害の虞のある場所に市街化区 域を指定したと考えられる。これらのことから、河川に対 して都市がどのように発展したかや、河川による影響をど の程度受けるかによる違いが影響していると考えられる。 4-2.立地適正化計画にみる今後の方針 詳細対象都市の市街化区域内の災害リスク区域に関する 今後の考え方として立地適正化計画での居住誘導区域の方 表4 各都市の知見と今後の方針 八戸 弘前 大垣 大分 山形 松本 岐阜 ① AA CA DA AC AD CD DD ② 当初決定時から浸 水被害が想定され る場所に指定せ ず、農用地区域や 水田等の土地利用 と、河川の影響を考 え拡大し、安全な場 所に拡大 当初決定時は浸水 被害が想定される 場所に指定しなかっ たが、青森県住宅 供給公社による宅 地造成を実施した 場所を拡大し、浸水 被害が想定される 場所に拡大 当初決定時から浸 水被害が想定され る場所に指定し、農 用地区域を考慮し て拡大したが、河川 が多く存在し浸水被 害が想定される場 所に拡大 当初決定時から浸 水被害が想定され る場所に指定せ ず、農地保全の観 点を考え拡大し、安 全な場所に拡大 当初決定時から浸 水被害が想定され る場所に指定せ ず、農用地区域を 考慮して、安全な場 所に拡大 当初決定時は浸水 被害が想定される 場所に指定しなかっ たが、城下町として 発展し河川が多く存 在したことで、浸水 被害が想定される 場所に拡大 当初決定時から浸 水被害が想定され る場所に指定し、河 川の影響を受ける 場所に拡大したこと で、浸水被害が想 定される場所に拡 大 ③ 当初決定時から土 砂災害が想定され る場所に指定せ ず、土地区画整理 事業等で拡大した が、地形を考慮した ことで安全な場所に 拡大 当初決定時から土 砂災害が想定され る場所に指定せ ず、農用地を考慮し たことで安全な場所 に拡大 当初決定時から土 砂災害が想定され る場所に指定せ ず、農用地区域を 考慮したことで安全 な場所に拡大 当初決定時は土砂 災害が想定される 場所に指定しなかっ たが、丘陵地を団地 として切り開いて開 発した場所で、土砂 災害が想定される 場所に拡大 当初決定時から土 砂災害が想定され る場所に指定し、東 側の地形の影響を 受ける場所で土地 区画整理事業を実 施したことで、土砂 災害が想定される 場所に拡大 当初決定時から土 砂災害が想定され る場所に指定し、東 側の地形の影響を 受ける場所で県営 団地の開発等を実 施したことで、土砂 災害が想定される 場所に拡大 当初決定時から土 砂災害が想定され る場所に指定し、そ の周辺の丘陵地形 の場所に拡大したこ とで、土砂災害が想 定される場所に拡 大 ④ (A)H13 (B)H19 (A)H16 (B)H20 (A)H15 (B)H23 (A)H16 (B)H18 (A)H16 (B)H22 (A)H19 (B)H19 (A)H18 (B)H25 ⑤ (A)今後公表予定 (B) 〃 ①類型(浸水、土砂) ②市街化区域の拡大と浸水想定区域に関する考察 ③市街化区域の拡大と土砂災害リスク区域に関する考察 ④指定開始年 ((A)浸水想定区域、(B)土砂災害リスク区域 ⑤立地適正化計画での居住誘導区域からの除外方針((A)浸水想定区域、(B)土砂災害リスク区域) (A)想定浸水深6m 以上の区域を除外 (B)除外 (A) 2.0m以上の浸 水の危険性がある 区域を除外 (B)除外 (A)除外しない (B)除外 (A)除外しない (B)除外 (A)除外しない (B)土砂災害特別 警戒区域のみ除外 (A)除外しない (B)除外
針を比較して考察する(表4)。 土砂災害リスク区域は、ほとんどの都市が除外する対応 をとっているのに対して、浸水想定区域は対応に差がみら れる。八戸市や弘前市のようにより危険性のある場所を除 外する対応をとる市がある一方で、大垣市、大分市、松本 市、岐阜市では浸水想定区域を除外していない。大分市で は、洪水リスクの周知啓発等による理由から除外しない方 針である。それに加えて、大分市の市街化区域内で浸水想 定区域が指定されている場所が少ないことが理由として考 えられる。除外しない対応をとっている大垣市、松本市、 岐阜市の理由として浸水被害の影響を受ける場所が多く存 在し、浸水想定区域を除外する対応をとると、居住誘導区 域を確保できないことが理由として考えられる。また、河 川改修等の対策が土砂災害リスク区域での対策よりも実施 しやすいことも理由として考えられる。 市街化区域内の災害リスク区域の場所に対して、市街化 区域拡大後の浸水被害や現在の状況から、市街化調整区域 への変更を検討しているあるいは検討した都市は少ないが、 立地適正化計画では、市街化区域を拡大している時期に把 握できなかった災害リスク区域の場所に対して対策をとっ ていることも分かった。 5.総括 詳細対象都市とした7都市はいずれも、地形や河川等の 制約条件を考慮して市街化区域を拡大している。7都市の 市街化区域の変遷と災害リスク区域の指定状況を比較する と、八戸市のように安全な場所に指定、拡大できた都市が ある一方で、災害の虞のある場所に拡大せざるを得ない都 市もみられた。農用地区域を考慮して土砂災害の虞のある 場所への拡大は避けた都市として、弘前市、大垣市が挙げ られる。しかし、これらの都市は、浸水被害の虞のある場 所へ拡大している。弘前市では、農用地区域を考慮した結 果、農振法の規制がない浸水被害の虞のある場所で宅地造 成された。また、大垣市は市街化区域内や市街化区域周辺 に河川が多く存在することから、浸水被害の虞のある場所 に当初から指定せざるをえなかった。 一方で、農用地区域を考慮して浸水被害の虞のある場所 への拡大を避けた都市として、八戸市、大分市、山形市が 挙げられる。しかし、大分市では、農用地区域を避けた結 果、南部の丘陵地を切り開いて団地の開発が行われた。ま た、山形市では、優良田園地帯を避けて東側の限られた場 所で開発した結果、土砂災害の虞のある場所での拡大につ ながった。 当初から、河川や地形等の制約条件をかなり受けた都市 が、松本市と岐阜市である。この2都市は、浸水被害や土 砂災害の影響を受ける場所に指定、拡大せざるをえなかっ た。しかし、松本市では、次回の第7回定期見直しで、長 野県の見直しの方針(土砂災害危険箇所等で、現に市街化 がされていない場所での逆線引きを推奨)に沿って、土砂 災害リスク区域に指定されている2か所と想定浸水深5m 以上の場所の一部の計3か所を市街化調整区域へ変更する ことを考えている。 以上まとめると、農用地区域を考慮したことで、浸水被 害あるいは土砂災害の影響を受ける場所への拡大を避ける ことにつながったが、もう一方の災害の虞のある場所に拡 大せざるを得なかったのが、弘前市、大垣市、大分市、山 形市であるといえる。 各都市から提供を受けた区域区分設定調書から、当初市 街化区域を指定するときから、市街化調整区域内の優良な 農地を保全すべき区域を考慮していることが分かった。ま た、河川の整備方針も市街地の整備にあわせて河川改修を 実施する方針を定めていること等も把握した。しかし、浸 水想定区域や土砂災害リスク区域が区域として明らかにな ったのは最近である。そのため、既存の市街化区域や開発 された場所等を拡大し、災害の虞のある場所に市街化区域 を指定、拡大した都市が存在すると考えられる。 これらのことから、施行令第八条1項二号では、おおむ ね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域と して市街化区域に定める土地の区域は、原則として、同号 ロで「溢水、湛水、津波、高潮等による災害の発生のおそ れのある土地の区域」、同号ハで「優良な集団農地その他 長期にわたり農用地として保存すべき土地の区域」を含ま ないものとすることとあるが、農林調整のこともあり、前 者よりも後者を優先して市街化区域を拡大した都市が多い と考えられる。7都市は全て、類型は異なるが、農用地区 域の保全を検討して拡大したといえ、災害の虞のある場所 を考慮したわけではないといえる。 今後は、立地適正化計画の居住誘導区域での対策に加え て、市街化区域内の安全な場所での居住環境整備が必要で ある。また、人口減少にあわせて市街化区域を縮小するな らば、災害の虞のある場所から縮小することが求められる。 <謝辞> 本研究成果の一部は、科学研究費補助金(基盤研究(B)、平成30~令和2 年度、研究課題/領域番号18H01604)によるものである。丁寧に資料提供 及びヒアリングに応じていただいた八戸市、弘前市、山形市、松本市、岐 阜市、大垣市、大分市の担当者に謝意を表します。 【補注】 (1) 施行令第八条1項二号の条文のうち、イは「当該都市計画区域におけ る市街化の動向並びに鉄道、道路、河川及び用排水施設の整備の見通し 等を勘案して市街化することが不適当な土地の区域」、ロは本文中に記 載したように災害の発生のおそれのある土地の区域、ハは「優良な集団 農地その他長期にわたり農用地として保存すべき土地の区域」、ニは 「優れた自然の風景を維持し、都市の環境を保持し、水源を涵養し、土 砂の流出を防備する等のため保全すべき土地の区域」。 (2) 昭和47年7月豪雨では河川氾濫や土砂災害によって死者421名、行方 不明者26名という甚大な被害を出した。近年も、平成26年8月の広島豪 雨、平成27年9月の関東・東北豪雨、平成29年7月の九州北部豪雨、平 成30年7月の西日本豪雨などが発生している。 (3) 水防法第十四条に基づく洪水浸水想定区域(本稿では浸水想定区域と 表記する)、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関 する法律第八条に基づく土砂災害警戒区域、同法第九条に基づく土砂災 害特別警戒区域をあわせて災害リスク区域と定義する。データの出典は 全て国土数値情報。 (4) 大都市圏である首都圏整備法の既成市街地及び近郊整備地帯、近畿圏 整備法の既成都市区域及び近郊整備区域、中部圏開発整備法の都市整備
区域に含まれない領域とし、その内、政令指定都市を対象都市から除外 (5) 工業地域、工業専用地域を非可住地として分析から除外した。平成の 合併によって旧市域以外にも市街化区域のある都市や都市計画区域が再 編された都市があることから、平成の合併以前の市域を対象とした。対 象都市の現在市街化区域は平成23年時点の市街化区域とする。2章の71 市に対する分析データの出典は国土数値情報と過去の都市計画総括図。 3章以降の詳細対象7都市に対する分析データの出典は各市の最新の都 市計画総括図等。図1の山形市は71市の分析時点では拡大部分に占める 浸水想定区域割合が6%未満だったが、詳細対象都市の分析でGISの誤 差によって僅かに市街化区域面積が変化したため、6.3%となっている。 (6) 土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域をあわせて土砂災害リスク 区域とする。 (7) 当初市街化区域に占める土砂災害リスク区域の割合を見ると、0%は 6市、1%は20市、2%は12市が該当する。拡大した市街化区域に占め る割合では、0%と1%にそれぞれ17市ずつ、2%に6市が該当する。 重複が一切ない都市は安全な都市であり、1%及び2%の都市もGISで の計測の誤差の範囲と考え、2%を閾値とする。 (8) 当初市街化区域に占める浸水想定区域の割合を見ると、24%未満は49 市、30%以上は22市である。土砂災害リスク区域で閾値に設定した2% 未満は浸水想定区域で見ると10市のみであった。71市の中には城下町の ように河川との位置関係を重視して形成された都市があるため、一定程 度の浸水割合は許容できると考え、30%を閾値とした。また、拡大した 市街化区域に占める割合は、30市が6%未満であった。土砂災害リスク 区域と同様に、GISでの計測の誤差を考慮し、6%を閾値とした。 (9) 平地かどうかの判断及び標高差の確認には、国土数値情報の土地利用 細分メッシュデータ及び標高・傾斜度5次メッシュデータを利用。 (10) 区域区分設定調書、都市計画総括図、市街化区域変遷図のいずれか を各都市から提供を受けた。 (11)詳細対象都市へのヒアリングは平成30年9月から平成31年1月にかけ て、各機関の都市計画担当者に対して行った。岐阜市のみ資料の事前送 付と電話による調査。その際に、区域区分設定調書等を収集した(①現 地調査日、②ヒアリング調査日 松本市:①7/10、②9/5、八戸市: ①9/24、②9/26、弘前市:①9/25、②9/27、大垣市:①11/14、② 11/15、岐阜市:①11/14、②1/15、大分市:①11/24、②11/26、山形 市:①12/9、②12/10) (12)本研究では、特に断りのない限り、人口は平成27年国勢調査による。 【参考文献】 1)濱松剛・中出文平・樋口秀(2004)「地方都市の市街化区域指定のあり方に関 する研究」,都市計画論文集,No.39-3,pp.367-372 2)田中洋・中出文平・樋口秀(2005)「地方都市における区域区分の当初指定と その後の運用に関する研究」,都市計画論文集,No.40-3,pp.409-414 3)佐藤大樹・松川寿也・佐藤雄哉・中出文平・樋口秀(2015)「当初線引き時の市 街化区域と拡大した市街化区域の空間特性の差に関する研究」,都市計画 論文集,No.50-3,pp.992-997 4)松川寿也・佐藤雄哉・中出文平・樋口秀(2014)「開発許可条例運用時におけ る都市計画法施行令第八条第1項第2号ロの区域に関する-考察-3411 条例と浸水想定区域との関係に着目して」,都市計画論文集,No.49-3,pp.459-464 5)浅野純一郎・上田政道(2016)「津波危険区域の市街化調整区域における開 発許可制度運用と課題に関する研究-浜松市を対象として」,都市計画論 文集,No.51-3,pp.944-951 6)松本英里・姥浦道生(2015)「東日本大震災後の災害危険区域の指定に関す る研究」,都市計画論文集,No.50-3,pp.1273-1280 7)酒井莉奈・猪八重拓郎(2016)「土地利用の変遷からみた都市化の実態と浸 水想定区域の関係性の研究-佐賀低平地を対象として-」都市計画学会論 文集,No.51-3,pp.401-408