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均衡の示し方について-香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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均衡の示し方について

筆者は金子(2008)の p.16でこの論文で定式化した投票のモデルにつ いて,「N,k,B,C というパラメーター,f(d)の形状(F(d)の形状)に よって,ベイジアン・ナッシュ均衡("!!!)は変化するが,そもそも均 衡が存在しない場合もある。このモデルについて一般的なことはほとんど わからない。」と書き,具体的に N,k,B,C の値を与えて均衡を示した。 このような方法を採ったのは,均衡が存在する十分条件がわからなかった ためである。 均衡の存在を示す論文を書くときには十分条件を示して「…という条件 が満たされている場合に均衡が存在する」という形で均衡の存在を示すの が通常である。投票の均衡を示す論文を探してPublic Choice 誌を!って

行くと,Ledyard(1984)では Brouwer の不動点定理(fixed point theorem) や Gale−二階堂の研究が使われている。 本稿では不動点定理と関係の深い Gale−二階堂の補題(Gale−Nikaido− Debreu の定理)をふり返って,「均衡を示す」ということがもともとどう いう議論であったかを思い出してみよう。 Gale−二階堂の補題(Gale−Nikaido−Debreu の定理)は様々な文脈で均衡 41(173)

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の存在の証明によく使われる以下の命題である。 Gale−二階堂の補題(Gale−Nikaido−Debreu の定理) +をエル$次元のシンプレックス(+%.'(#"$!! &%" $ '&%"/)とし, #:+ #$+か ら #$へ の 多 価 写 像(multi-valued mapping(対 応 (correspondence)とも呼ぶ))とする(矢印が二重になっているのは 多価写像を表す)。 #,$-が弱いワルラス法則(Walras’ Law)を満たし,つまり, すべての'(+,すべての +(#,'-に対して '$+&!で, 上半連続(upper semicontinuous)で(上半連続の定義は後で説明する), 各 'に対して#,'-が非空(nonempty),凸(convex) (このような多価写像,対応を凸値(convex-valued)と言う)で あるとき, *'#(+(*%&)&$)#,'#-'!# " $)%" (#,'#-'!# " $)%"を満たす '#(+が存在する) が成り立つ。

Urai(2010)の Chapter4の題が Gale-Nikaido-Debreu’s Theorem で,この

定理を「#,$-が上半連続で,閉(closed),凸値」よりも緩い LDD(Local Definiteness condition for Directions)という条件の下で証明している。証

明はわずか15行,証明の方法は背理法で,「もし#,'#-'!#"$)%"となる ような'#が存在しないと仮定すると,不動点(fixed point)が存在するは ず な の に,存 在 し な い こ と に な っ て し ま う。こ れ は 矛 盾。よ っ て, #,'#-'!# " $)%"となる '#が存在する」という論理である。論理的にはも ちろんこれで十分なのだが,専門家でもないとちょっとシンドイ話なの で,もともとこれはどういう議論だったか,ふり返ってみよう。 まず,記号,経済学的解釈について説明しよう。 #,'-とは超過需要関数(多価の場合を考えているので超過需要対応)で 42(174)

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ある。つまり,!$$%#!$$%!#$$%($,!,#,!はすべて "次元ベクト ル)である。0次同次性を想定しているから,価格は相対価格だけを考え ればよく,すべての財の価格の和は=1と正規化できるから,価格は""" のシンプレックス上だけを考えればよい。各家計の需要関数(対応)も各 企業の供給関数も0次同次関数であることから,それらを集計しその差を とった超過需要対応もこの性質を引き継ぐ。 ある消費者 の需要対応!$$%は ""","次元ユークリッド空間のシン プレックスを定義域とし,値は財の数の"次元ユークリッド空間に出て来 る。この対応は,効用関数が連続で,予算集合の動き方がコンパクト値で 連続だと,Berge の最大値定理によって,コンパクト値で上半連続になる。 Bergeの最大値定理について言葉で説明しておこう。ミクロ経済学のテ キストの消費者行動の理論の所得制約のところを見れば,所得の制約を満 たす消費計画の集合(予算集合(budget set))はコンパクト集合(有界・ 閉集合)であることは容易にわかる。この予算集合は価格の空間を定義域 として財の数の次元の空間に出て来る多価写像と見ることができる。この 多価写像は価格のスムーズで微小な変化に対してはやはりスムーズで微小 にしか変化せず,予算集合はやはりコンパクト集合のままであることもわ かるだろう。このことから予算集合という多価写像は価格の空間上でコン パクト値で連続であることがわかるだろう。 こ う し た 予 算 集 合 上 で 消 費 者 が 連 続 の 効 用 関 数 を 持 て ば,Bolzano-Weierstrassの定理から必ず効用の最大値が存在する。 価格→予算集合→効用の最大値,と話を進めて来た訳だが,こう考える と効用の最大値の関数は価格の関数として見ることができる。 Bergeの最大値定理とは,価格に対して効用の最大値を与える関数が価 格の空間上で連続となり,最大の効用を与える消費集合,つまり需要対応 !$$%はコンパクト値で上半連続になることを主張するものである。 この定理は消費者の効用関数が財だけでなく,価格と財の空間の上で連 続な場合にも成り立つ。つまり,やはり効用の最大値を与える関数は価格 43(175)

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上で連続になり,最大の効用を与える消費集合,つまり需要対応%)0* はコンパクト値で上半連続になる(一般化された Berge の最大値定理)。 消費者が .人いて,各人がコンパクト値,上半連続な需要対応を持っ ていれば,それを .人について集計した%)0*もコンパクト値で上半連続 な対応となる。 集計された各財の供給関数は有界で一価の連続関数であるとしよう。す ると,超過需要対応")0*$%)0*!()0*はコンパクト値で上半連続にな る。 多価写像,対応")#*がコンパクト値とはすべての 0(&に対して ")0* がコンパクト集合(有界・閉集合)になることである。 多価写像,対応")#*がある点 0"において上半連続であるとは,")0"*' *となる任意の近傍(neighborhood,開集合(open set))*''#に対して, 0"の適当な近傍)を選ぶと,")0*'*,/1+--0()( "))*&! 0()")0*'* と書くこともできる)とできることである。単に「")#*が上半連続である」 とは,")#*が全ての点において上半連続であるということである。これ は")#*が一価関数の場合は連続性の定義に等しい。 ")#*が弱いワルラス法則(Walras’ Law)を満たすとは,+0!2,%" ,/1 +--0(&!+--2(")0*となっていることである。 この定理は2次元で描くと直感的に理解し易い(図を参照)。0が)#!"* の所から話をスタートしよう。弱いワルラス法則から,")#!"*は第2象 限か第3象限になければならない。もし,第3象限(!'"$:2次元ユーク リッド空間の非正部分)にあるとすれば,そこでこの定理の結論が成り 立っていることになる。そうならない都合の悪いケース,つまり,")#!"* が第2象限にあるケースを考えよう。そして,0を)#!"*から )"!#*まで '"$のシンプレックス上をゆっくりと動かして行く。ゴールは 0が)"!#* の 所 で あ る。0が)"!#*であるとき,やはり弱いワルラス法則から, ")"!#*は第3象限か第4象限になければならない。第3象限にあれば, 44(176)

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スタート ₂ ₁ (1,0) ζ (p) ゴール ₂ ₁ (0,1) ζ( p ) その途中 ₂ ₁ P ζ( p ) R 2 + −R 2 + 45(177)

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そこでこの定理の結論が成り立っている。そうならない#%"!#&が第4象 限にあるケースを考えよう。超過需要対応#%)&は,弱いワルラス法則を 満たしたまま,シンプレックス上の%#!"&から %"!#&へのスムーズな価 格の変化に対して連続に動いて行く。すると,#%)&は必ず第3象限を通 らざるを得ない。ここでこの定理の結論が成り立つことになる。 ちなみに,Takayama(1985)p.263の説明では,この定理は超過供給対 応について述べられているので,「超過供給対応が上のような価格の変化 に対して第1象限を通らざるを得ない」という説明になっている。 幾何学的,直感的にはこのように言うことができるが,以下で$次元 でもこのことが成り立っていることを確認しよう。 #%$&は $というコンパクト集合のコンパクト値で上半連続な対応によ る像(image)だからコンパクト集合である。#%)&を寄せ集めた集合は一 般に凸集合にはならないから,その凸包(convex hull)をとり,これを% と置くことにしよう。つまり,すべての )に対して#%)&を求めていくと, 様々な値の#%)&という集合が値域に出て来る訳だが,その #%)&の凸包 とは,それらのすべてを含む最小の凸集合のことであり,'(と記す。 %"'(#%)& すると,#:$ %はコンパクト値,凸値,上半連続となる。 次にこれとは反対方向の対応を考えよう。つまり,":% $を以下 のように定義しよう。 "%,&!')#$+))!,*!$&+ *#$ )*!,*( これは$次元の超過需要ベクトル ,に対して,最大の成分に対応する ) の成分を1とし,あとの成分は0にするという対応である。,の中に最大 な要素が2つあったら,それに対応する )の成分を 1,1とし,あとは 0とする,,の中に最大な要素が3つあったら,それに対応する )の成分 は 1 3,13,13とし,あとは0とする,などという対応である。これは非 46(178)

(7)

常にドラスティックな価格の調整を表していると考えられる。 !は,一般化された Berge の最大値定理により,コンパクト値,上半連 続になる。一般化された Berge の最大値定理とは,効用関数が価格と財の 空間の上で連続であるとき,効用の最大値を与える値域における集合,需 要対応がコンパクト値,上半連続であるということだったが,内積(内積 は連続関数)の最大値を与える超過需要からシンプレックス内の価格の集 合への対応はコンパクト値(コンパクト値であることはシンプレックスが コンパクト集合であることから明らか),上半連続になるということであ る。また,この !のつくり方から,すべての $に対して!$$%は凸集合に なるので,!は凸値になる。 まとめると,!:" #はコンパクト値,凸値,上半連続となる。 これで超過需要対応":# "と価格の調整関数 !:" #が得られ た。これらを組み合わせて #という対応をつくる。 #"!!":#!" #!" これは$#!$%に対して !$$%!"$#%を対応させる多価写像である。 #と "はともにコンパクト集合で凸集合だから,それらの直積 #!"も コンパクト集合で凸集合である。 "$#%はコンパクト集合で,!$$%もコンパクト集合であるから,!$$%! "$#%はコンパクト集合とコンパクト集合の直積だからコンパクト集合に なる。ということは#"!!"という多価写像はコンパクト値である。 "$#%は値域を Z という凸集合にしていたので凸値である。!$$%も凸値 だから,!!"は凸値である。 !も "もコンパクト値であり,上半連続であるとき,それらの直積の写 像!!"も上半連続になる(片方でもコンパクト値でないとこのことは成 り立たない)。 47(179)

(8)

以上のことをまとめると, (!&%%"%:コンパクト,凸集合 $$"!#:(!& (!& コンパクト値,凸値,上半連続 よって,角谷の不動点定理によりこの $$"!#:(!& (!&という 多価写像,対応には不動点(fixed point)が存在する。 角谷の不動点定理とは以下の命題である。 角谷の不動点定理 $%%% コンパクト,凸集合 #:$ $ 多価写像 コンパクト値,凸値,上半連続であるとき, 2"&#)2"*となる 2"&$が存在する この定理がナッシュ均衡の存在を証明するのに使われたことはよく知ら れている。 「$$"!#:(!& (!&という多価写像には不動点が存在する」とい うことは,')-"!3"*&(!&/1(*0*'0)-"!3"*&)"!#*)-"!3"*,)-"!3"*と いう点を$$"!#という写像によってそれ自身 )-"!3"*に移すような点, 不動点)-"!3"*が存在するということである。これはバラバラに書けば, -"&")3"*!3"&#)-"* となる。 -"&")3"*ということは,超過需要が 3"であるときは,これを-"で評 価したときに価値が最大になるということである。したがって,その他の 価格で評価したときの3"の価値はこれ以下になる。 +-!3",#+-"!3",),.'++-&( 3"&#)-"*ということは,3"が価格が-"であるときの超過需要の1つで あるということだが,弱いワルラス法則から 48(180)

(9)

+&#!'#,%"

この2つの式を組み合わせると

+&!'#,%" for all p∈Δ

が得られる。 &がシンプレックスの中のどんな価格ベクトルに対してもこの式が成り 立つのだから,特に &!$)#!"!-!"*をとって来てもよい。この価格ベ クトルで'#を評価すると +&!!'#,$' # #%" 次に,同様に &として &"$)"!#!"!-!"*をとって来ると +&"!'#,$' $ #%" こ の 議 論 を 最 後 の &○!$)"!-!"!#*ま で く り 返 し て い く と,'#$)' # #! '$#!-!'$#*の $個の成分はすべて非正である,つまり,'#'!%"$という ことになる。 '#というのは&#に対する超過需要対応の#)&#*の1つだから, '#'#)&#* '#というのは!% " $に入っていて#)&#*の中に入っているのだから, #)&#*&!% " $($" となる。こうして先に2次元で幾何学的,直感的に成り立っていると思わ れたことは,一般の$次元についても成り立っていることがわかった。 新政治経済学とも呼ばれる現代の合理的選択理論の政治経済学の理論が 行っている研究というのは,非常に大雑把な言い方をすれば,政治経済学 のモデルにおいて均衡を求めて,その均衡がプレイヤーのどのような戦略 の組によって構成されているか,その均衡は社会厚生(social welfare)の 観点からどのように評価できるか,といったことを調べているのである。 現代のこうした政治経済学が均衡を求めている場は多くの場合,上のよう な抽象的なモデルではなく(上のような経済モデルはabstract economy と 言う),様々な構造(structure)や制度(institution)を含む政治・経済の場 49(181)

(10)

である。構造や制度を外生的なものとして扱うこともあれば,内生的なも のとして説明しようとする理論もある。ただ,いずれの場合でも,各プレ イヤーの最適反応の組=均衡を求めようとしており,その1つの数学的な 表現が本稿で説明した不動点論法(Fixed Point Arguments)なのである。

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丸山徹『経済数学講義』(慶応通信 1984年)

(かねこ・たろう 法学部教授)

参照

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