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NPOによる第三原理マネジメント--原理融合の経営戦略論---香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第74巻 第2号 2001年9月 35-74

NPO

による第三原理マネジメント

一原理融合の経営戦略論一

は じ め に

原 田

佐 藤 茂 幸

民間非営利組織,いわゆる

NPO

に対する社会的な期待が高まっている。少子 高齢化,地球環境の問題,地域の安全対策,地域社会の衰退など,

NPO

が近年 発生す刷るこれら問題を解決する新たな社会装置として考えられている。すでに,

1

9

9

8

1

2

月には特定非営利活動促進法

(NPO

法)が施行されていた。そして,

NPO

法により,地域のボランティア団体,市民による社会的な任意活動団体 が,

NPO

法人化することで,組織基盤を闇める動きがおきている。認証された 団体は

4

2

5

3

団体

(

2

0

0

1

6

2

2

日現在)であり,ここ数年間で

1

万団体を超 えるとの予想もある。

NPO

とは,ノン・プロフィット・オーガニゼーション

(

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)

の略のことで,民間の非営利団体や公益組織を意味する。そして,自主的, 自発的に活動し,営利獲得それ自体を目的としない組織や団体の総称とするこ とができる。営利獲得を目的にしないということは,組織が活動することによっ て得た利益を,一般の企業とは異なり組織や出資者に配分しないということで ある。また,

NPO

が本意とする自発的,自主的な活動ということは,行政の画 一的,限定的な事業とは異なり,社会が求めるものを自らの意志で提供してい こうとすることである。 狭義には

NPO

法による法人格を有する組織を

NPO

と特定するが,広義に は行政でも民間企業でもない第三の組織形態として捉えられている。つまり,

(2)

-36- 香川大学経済論菱重 188

NPO

は,ボランティアグループやボランティア団体,市民団体,社団・財団法 人,社会福祖法人などの公益法人の一部や協同組合などまでも含む概念として 使われている。 本論において

NPO

といったときは,事業性のある非営利組織に限定したい。 つまり,健康,安全,環境,芸術・文化,教育,雇用などの地域の課題解決を 使命として,営利を第一義にしない民間組織体とする。宗教,差別・人権問題 などを扱う,いわゆる運動型

NPO

は本書では対象からはずす。また,組織形態 は,もちろん組織的人格を有した

NPO

法人が中心になるが,法人格を有しない が事業性のあるボランティアグループなども本書でいう

NPO

に含まれるとす る。 こうした

NPO

には,どのようなマネジメントが求められるのだろうか。

NPO

の活動は r何が必要なのか」という問いかけから始まり「必要なものを 提供する」ことに存在意義がある。利益を得ることが最終使命の民間企業や, できる事業の範囲を確定させている行政とは異なる。また,継続的なサービス の提供や社会的な使命に対し責任をもって担うという点で,好みや興味で集う ボランティアとも異なる。そこに,

NPO

においては,営利企業と行政,ボラン ティア団体と異なる運営方法,すなわち第三原理のマネジメントが必要である と考えたのである。 本論を概観してみよう。第

1

章において,生活者の価値の分類から始めてい る。今日,生活者が求めている価値には解決価値と関係価値があり,それを融 合するものとして創発価値があるとした。解決価値を提供する経営モデルを第

2

主主で,関係価値においては第

3

章で解説している。そして,それぞれの経営 モデルにおいて価値創造力の限界も併せて示した。こうした論述を踏まえて見 えてくるのが,創発価値を獲得する原理融合の経営戦略であり,

NPO

がそれを 実践する有効性を第4主主にて整理した。さらには,結びの第5章にて第三原理 のマネジメントとして具体的方法論を解説した。 なお,

NPO

による第三原理のマネジメントは,実は

NPO

だけのものではな いと考える。本論においては,営利組織とボランティア組織の経営の発展性か

(3)

189 NPOによる第三原理マネジメント -37ー ら,原理融合の経営モデルを提起している。したがって,

NPO

に限った経営手 法ではなく,営利組織とボランティア組織においても,第三原理性を生かした マネジメントは有効なのである。

1

.顧客価値からの

3

つの原理

組織の存在意義は「価値」を創出し,これを顧客や従業員,社会に提供して いくことである。今日,顧客を基点においた経営が重要視されるなか,この「価

f

直」をどう捉えるかで組織戦略が決定づけられるといっても過言ではない。こ のことは,営利企業であっても,

NPO

であっても本質的には変わりがない。 そこで本章では,価値の変質を探ることで,イントロとしての原理融合の経 営戦略のフレームを明らかにしたい。 Ll 社会変革のパワー 顧客,とりわけ生活者が新しい価値を求めている。日本の社会が成熟するな かで,人はより自分らしい生き方を求めて初僅し始めている。そして,これが 生活者の新たな欲求のパワーを生み出し,社会を大きく変える源泉となる。こ の変化を個人の生き方の成熟度合いによって,図表1-1で示すような三段階 の生活者価値から整理を試みた。それぞれ,簡単に触れておこう。 第ーは,生活者のライフシーンで発生する問題を解決しようとする欲求であ る。この欲求を満たす価値を,解決価値と呼びたい。近年,生活上の解決策を 他者に求めようとするニーズが高まっており,これが高度なアウトソーシング 社会の形成を促している。生活のアウトソーシングとは,単なる衣類のクリー ニングから外科手術まで,あらゆるサーピスが含まれる。工業化社会の恩恵に より,人々の聞に生活必需的なモノが充足すると,生活者の関心はコトの提供, すなわちサービスの享受に重点がおかれるようになってきた。各種サービスの 充実は,生活者に生活シーンに応じた他者解決という選択肢を拡げる。その一 方で,自分でやりたいコト,やらざるを得ないコトは自分自身で実行する自己 解決を選択する。このように,生活者の他者解決と自己解決で構成されるアウ

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-38- 香川大学経済論叢 190 図表1-1 生活者価値の分類モデル 価値の大きさ

+

1

)解決価値

・便利・安い ・快適・美しい [ライフシーン]

2

)関係価値

・共感 ・信頼 ・学び ・所属感 【ライフスタイル] -自己実現 人生 創造 ・社会貢献 ・夢の実現 [ライフステージ】 L _ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー _ ...

E

困 回 生 議

トソーシング社会が本格化している。 第二の欲求のパワーは,人が新しいつながりを求めようとする動きである。 人と関係をもち集団に所属することで得られる価値を関係価値と定義し,これ が人々のライフスタイルに大きな影響を及ぼしている。たとえば,情報ネット ワーク技術の進展が,我々の生活の風景を変える引き金となる。あらゆるもの が電子的手段でコネクトしようとしている。モノも人も企業も国も,すべてが 結びつこうとしているのである。こうしたネットワ}クの発達は地縁・血縁の 閉鎖的な枠組みを飛び越え,世界中の人々とダイレクトにつながる可能性を高 める。こうした新しい関係性は,自分にとって未知の情報や知識,感情を交換 させ,人はつながること自体の価値を意識することになる。 第三ωの生活者のパワーは,人間的な成長を実感したいとする欲求である。あ るいは,個人の創造的な活動が社会をも変革させようとする自己実現のエネル ギーである。この背景には,今日の産業や社会の成熟化がある。人々は一定の

(5)

191 NPOによる第三原理マネジメント -39-生活利便性を手に入れた一方で,地球環境の問題,高齢化社会の本格的な到来, 硬直化した官僚機構などを眼前にし,社会や自分自身に対して閉塞感を強めて いる。地域のボランティア活動,自分の特技を活かした起業,生涯学習への取 り組みは,こうした閉塞的状況を打破しようとする個人的な行動の表れといえ る。これが叶ったとき,生活者はライフステージを引き上げるような「創発価 {直」を獲得することになる。 以上のように社会は大きく変容し,生活者は新しい価値を模索している。価 値を見出すことで,より良くより豊かに生きようとしているのである。そこで, 生活者が生き抜いていくための価値獲得をまとめると次の3点に整理すること ができる。 ① 生活者の行動が自己解決と他者解決の組み合わせで構成され,これらが もたらす「解決価値」により総体的に生活のレベルが向上していく ②高度に発達したネットワーク社会の形成により,知識,安心,信頼,感 情などを交換する r関係価値」を強く求めるようになる ③成熟した社会や人生における閉塞感への反動が,社会改革への参画や自 己実現による「創発価値」の期待を高める 組織経営において,顧客価値や生活者価値をいかに創出し提供するかが戦略 の本質である。そこで,次節以降において,それぞれの価値の質的変化をもう 少し詳細に整理していこう。 1.

2

第一原理 解決価値の追求 解決価値とは,生活者が生きていくうえで課題を解決する価値であり,生活 の向上をもたらす価値のことである。商品やサービスがもたらす機能性,利便 性,デザ、イン性,時間消費性,快適性,などが解決価値の源泉となる。たとえ ば,多忙な独身サラリーマンにとって,生活必需品を24時間態勢で取り揃える コンビニエンス・ストアは解決価値をもたらす存在であるといえる。コンビニ エンス・ストアは,品揃え,サービス,時間,アクセスの面から徹底した利便 性という解決価値を追求した業態である。

(6)

-40- 香川大学経済論議. 192 こうした解決価値を供給サイドから考えるとき,-顧客の生活上の課題は何な のか」を捉える必要がある。そこで,戦後からの生活課題の変遷を簡単に考え てみよう。戦後から高度成長期にかけて生活課題は,衣食住を中心にした生活 に必要な基本的なモノの有無が重要になっていた。その後,工業化社会の進展 とともに,多くのモノが流通すると,それが安く手にはいるか,または容易に 入手できるかが生活者の関心事へとシフトしていくのである。そして今日,モ ノによる豊かさが定着していくとともに,生活課題は人生を充実させる新しい 生活シーンへの取り組みや,冠婚葬祭などの社会的行事をいかに楽しみスムー ズに済ませるかといったことへと広がっている。 このように生活者の生活課題が時代とともに変化し,解決価値のあり方も変 容してきている。したがって,今日においては,良質廉価のモノを入手する価 値よりも,より豊かで潤いある生活を演出するといったコトによる価値の方が 高くなる。これはいうなれば,生活者の価値観が画一的なモノから個々人のパー ソナリティに関わるコトへとシフトしているということである。そして,-便利」 や「早い」といった生活的合理性に加え,-きれい」や「好き」といった人格的 感性が生活者の価値基準に大きな影響を与えている。 また,解決価値の獲得方法も変化している。生活課題を解決する行為は,他 人にまかせる他者解決と,自分で行う自己解決の

2

種類の組み合わせで構成さ れる。他者解決においては,社会が高度化しモノやサービスが多種・多様にな るにつれ,それを選択できる機会が増えている。機能性の高い製品の使用や手 厚いサービスの利用を,生活者のニーズに応じて選択することで,豊かさやゆ とりを獲得していくのである。 一方,自己解決は,自分の手で解決せざるをえない,自分の手で解決したい という状況が原点になる。特に,自分で解決したいというニーズは「このこと は自分でやりたい」という,体験すること自体の楽しみや喜びといった価値が 根底にある。そこに,自己解決の支援ニーズが生まれ,生活者の行動を支援す るツールやサポートサービスへの期待が高まるのである。このように,生活者 個々のその時々の状況により,自己解決と他者解決の組み合わせ,これによっ

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193

NPO

による第三原理マネジメント -41-て最適な解決価値を得ょうとするのである。 生活者の解決価値に対するニーズは,成熟した日本の社会において人それぞ れ異なる。また,同一個人においてもライフシーンによって違う欲求を示し, 、十人十色グどころかいわば、一人十色汐のニーズが顕在化している。こうし た多様化・複雑化した解決価値を提供していくことが,組織経営に求められて おり,これを実現するのが第一原理のマネジメントとなる。 1.3 第二原理 関係価値の追求 人聞は,より便利で豊かな生活をしたいと思うものである。それが,解決価 値を求める源泉となる。その一方で,人聞は社会的動物であり,人や社会との 関わり合いのなかで,自分の人間的な存在価値を見出そうとする。こうしたつ ながりによる価値,すなわち関係価値を,人や社会,モノ,ペットなどの動物, 自然との関係構築・維持の過程で得られる価値と定義する。具体的には,安心 感や共感,癒し,帰属感,尊敬,学び合いなどの精神的な価値を指す。これら 関係価値の受けとめ方は生活者のライフスタイルに大きく影響される。たとえ ば,都会の殺伐としたマンションでの一人住まい者であれば,ペットとの関係 がその心を癒してくれるだろう。田舎の自然に固まれた生活者であれば,自然 との対話が重要な関係価値をもたらすといった具合である。 こうした生活者の関係価値に対する認識は,近年

2

つの事柄から高まってい ると考えられる。

1

つは,インターネットなどのネットコミュニケーションに おける新たな関係性の出現である。チャットやネットコミュニティは,新しい 出会いとニュータイプのコミュニケーションを実現する。家族や企業,学校な どの従来型の関係性から,ネットを介し時間と距離をいとわず人につながる関 係性へと拡大している。新しいつながり方は,これまでにない自己表現の方法 や,相手から魅力的なメッセージの受信を獲得する。こうした関係価値が,新 たな自分を発見することを予感させるのである。

2

つには,ボランティア活動の広がりが,地域コミュニティを深耕している ことである。ボランティアへの参加は,個人の好みと正義感が起点になり,そ

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42ー 香川大学経済論叢 194 れを間じ価値観の人々と共有したいという欲求が動機となる。第一線をリタイ アしたシルバ一層や,時間的ゆとりのできた主婦層の増加に伴い,ボランティ ア活動を実践することで地域の人間関係の再構築を図ろうとする動きが出てき ているのである。 第二原理の経営は,こうした関係価値の創出が起点になる。生活者や従業員 などに対して,参加すること,所属することによる安心感や信頼感を醸成させ るようなサービスを提供するのである。 1.4 第三原理 創発価値の追求 創発価値は,解決価値や関係価値の延長線上で発生する。インパクトのある 解決価値は,単に生活上の課題をクリアするのにとどまらず自己変革の引き金 になる。たとえば,何気なく時間つぶしに観た映画が,自分の生き方に影響を 与えたことはないだろうか。生活者は日々の生活に追われる一方で,何らかの 夢を実現したいと考えている。生活者に訪れた偶発的な解決価値が一気に新し いライフステージに誘うこともあり得るのである。また,関係価値が長い間継 続し,信頼性の度合いが増してくると,自己満足にとどまらず社会的な価値を 自らが創出することがある。社会を自己の関係性のなかで「世の中をよくした い。そして自分も成長したい」という心のブレイクスルーが発生する。たとえ ば,これは草の根レベルのボランティア活動を通じて新しい地域社会を形成し たり,生活者のネットワークの広がりが魅力的な生活文化を創出するといった ところにみられる。これらは,生活者の成熟した関係性のなかで実現するので ある。 このように,創発価値とは,自己の変身,夢の達成,社会への貢献,自己実 現などの生活創造,人生創造,社会創造にかかわる高度な価値のことである。 つまり,創発による変革パワーがもたらす人間的成長の価値である。創発とは, 混沌(カオス)の状態と構造化した秩序の状態のはざまで起きる現象である。 こうした不安定な状態においては,新しい秩序を形成しようとする自律的なパ ワーがはたらく。このパワーによって新しい価値が創出され,これを創発と呼

(9)

195 NPOによる第三原理マネジメント -43-ぶことができる。 ネットワーク社会の進展が創発の環境を生む。ネットワ」クが拡充していく と,コネクションの数だけ関係が生まれる。企業と企業,企業と顧客,顧客と 顧客,顧客と政府,自社の従業員と他社の従業員,顧客とシステム,システム とシステム,モノと顧客,など多種多様の関係性が限りなく広がる。旧来の境 界の多くが崩れ,新しい秩序へと向かう。製品とサービスが融合する。買い手 が売り,売り手が買う。整然たる流通チャネルが乱雑なネットになる。家が職 場になる。構造とプロセス,所有と使用,知識と学習,現実と仮想の境界線が ぽやけていく。対照的なものの関係があいまいになる。生活者もこうした変化 の渦に巻き込まれていく。第三原理の経営は,知恵ある生活者とともに,環境 の変化をポジティブにとらえ解決価値と関係価値をコーディネートするなかで 創発価値を見出していくものである。

1

ι

NPO

にみる原理融合のアプローチ 本論においては,経営戦略は価値を創出するための手段と考える。そうする と,上述してきた3つの価値,すなわち解決価値,関係価値,創発価値から, 3タイプの戦略原理が浮き彫りになる。ここでは,本章のまとめとして,図表

1

-2

を参照しながら概説しておこう。 第一原理の解決価値を追求する経営モデルは,価値提供者である企業などが, 価値受益者である顧客に対して,合理的・効率的に価値を提供していくもので ある。第一原理においては,自社が顧客とするニーズを規定することが重要と なる。そしてそれを充足するため,複数の商品,サービス,情報などを加工・ 編集し最適な解決価値を求めていく。 第二原理である関係価値型の経営モデルは,顧客との結びつきに重点をおい た関係強化のプロセスを構築するモデルである。組織と顧客がパ‘ートナーの関 係になり,お互いの情報や意思,感情を交流させるための手法を編み出す。ま た,個人の意思や好みで組織化されるボランティア組織においては,その運営 に参加する人々に関係価値を如何に提供していくかが重要となる。

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-44ー 香川大学経済論叢 196 図 表1-2 原理融合の経営モデル 企業側の境界 顧客側の境界 女組織硬直の毘 顧客翻弄の畏女 第三原理の創発価値型は,解決価値型と関係価値型を統合した経営モデルと なる。解決価値を重視し過ぎると組織や商品の機能硬直の罵に陥る。たとえば, 専門性・分業性を追求した官僚的な組織は,顧客不在の経営スタイルの象徴と いえよう。また,関係価値に偏り過ぎると,顧客に振り回される罵に陥る。合 理性が失われ,組織としての求心力を欠いてしまうことになる。したがって, 創発価値型の経営モデルでは,顧客と企業の境界線の中庸に位置することで, 創発的な効果を目指す経営スタイルとなる。そして,これこそが第三原理のマ ネジメントであり,それを実行できる組織体がNPOであると考える。 なお,創発価値型のみならず解決価値型,関係価値型とも顧客と組織の聞の 創発ゾーンにあって,新たな価値創造を実現できる。しかしながら,解決価値 型,関係価値型ともに,価値創造のパワーにおいては限界がある。そこで次章 からは, 3つの価値の経営モデルをさらに詳細に解説していくことにする。

2.

第一原理の経営戦略と営利組織の限界

第一原理の経営戦略では,解決価値を合理的・効率的に提供していくことが 主眼となる。顧客の課題やニーズに対応する商品やサ}ビスを供給することで, 利益の最適化を図ろうとする。そこで本章では,営利企業による経営モデルの

(11)

197

NPO

による第三原理マネジメント -45-アプローチから,第一原理の経営戦略を明らかにしていきたい。 それを踏まえて,第一原理の経営戦略に限界があることも示す。つまり,顧 客起点、を拡張し社会的な起点に立ったとき営利企業では解決価値を充足できな い,ということを指摘する。それを超える存在が

NPO

であり,この組織が提供 する解決価値の有効性を本章の結論としてまとめておく。 2..1 第一原理の経営モデル さて,営利企業は,第一原理の経営モデ、Jレをどのように構築するのか。第一 原理の真髄である解決価値を顧客へ提供するには,単体の商品や画一的サービ スの提供で完結させる発想を捨てる。そのためには,顧客の生活シーンの切り 口から,統合的に商品やサービス,情報をもって解決策を提示していくことが 必要である。つまり,顧客のある特定の生活テーマをトータルに解決していく ことを求めるのである。 それを実現する経営モデノレを図表

2-1

で示した。このモデノレは,標的とす る生活テーマの設定を前提に,価値編集力を中核能力とし3つの経営要素を駆 図表2-1 解決価値の経営モデル

(12)

-46ー 香川大学経済論叢 198 使していくことである。その3つとは,ひとつに自担が強みとなる商品分野の 特定 2つに解決価値の総合性を高める情報力 3つに解決価値の顧客への定 着化を図る人的提案力である。第一原理の経営モデルとは,営利組織であれば, 一人一人の顧客に対して解決価値を提供できる仕組みであり,合理的・効率的 に構築し利益の最適化を図る枠組みとなる。 この経営モデルをもう少し理解してもらうため,生活テーマの設定と価値編 集力について解説をしておきたい。まず,第一原理の経営モデル構築の第一歩 は,顧客の生活テーマを特定していくことである。そこで i顧客にとって自社 の役割は何かJ i自社が顧客に提供できる解決策は何か」という顧客起点の思考 が求められる。たとえば,生鮮三品を中心に提供するミニスーパーを考えてみ よう。近年の低価格性や豊富な商品からのまとめ買いのニーズの高まりから, ミニスーパーは大規模スーパーマーケットや郊外型のショッピングセンターに 圧倒されている。しかし,地域生活者の解決価値を考えたとき,ミニスtーパー (1) の新たな存在意義を見出すことは可能である。ミールソリューションは,その 一つであり,地域住民の健康と豊かな食生活を提供する業態が注目されてきて いる。ミニスーパーがミーノレソリューションを目指すとき,良質廉価な食材を 提供するという従来の発想から,家庭の食生活に係わる生活テーマを総合的に 捉える発想、に変わるのである。 顧客の生活テーマには,ライフスタイルから生じるテーマと,ライフステー ジから生じるテーマが考えられる。ライフスタイルには,食生活,ファッショ ン,美や健康,レジャー,スポーツ,エコロジー,ワークスタイルなど,ライ フステージでは出産,子育て・教育,就職,新生活,結婚などの生活テ}マが 想定される。 第一原理の経営モデルは,標的とする顧客層を再設計し,生活テーマによっ (1) ミールソリューション r今日のおかずは何にしよう」といった消費者の食生活の課題 解決をする考え方。米国を中心に,食品スーパーが惣菜を充実させることで消費者の中食 市場を切り開いていく,新業態として注目されている。ミールソリューションを実践する スーパーでは,メニューを考えるだけではなく,調理時間,買い物時間,ごみ処理など, 従来の商品カテゴリーを越えた売り場提案が考え出されている。

(13)

-47-そして,標的顧客の生活テーマに て事業分野を編成し直すことからはじまる。 合わせた,商品・サービスラインの再構築化が重要となる。第一原理の経営モ NPOによる第三原理マネジメント 199 デノレでは,商品差別化戦略に基づく品質向上やコストの削減はさほど重要では ない。つまり,効率性や収益性の面から平均的な商品を揃えるという視点を一

E

捨て去り,生活テーマに合わせた品揃えに再編成することにウェートがおか れるのである。 たとえば, そのためには,生活テーマを生活者の視点、でストーリー化する。 といった生活テーマを考えたとき,図表

2-「健康で豊かな食生活をおくる」 2のようなストーリーが考えられる。上述したミニスーパーによるミールソ リューションでは,すべての工程で何らかの解決価値を見出していくことにな となるだろう。総菜 コア商品分野 このように, コアとなる商品・サービス分野は「総菜」 によってもたらされる解決価値は「食材調達」と「調理」になる。 解決価値を創出する源泉となる商品・サービス分野を絞り込む。 を軸に,顧客に提供する解決価値を拡充していく。 この場合, る。 そして,情報提供の総合化 トータルな解決策を提供するのである。 と人的な提案力の強化によって,

ゴミ処理

後片づけ 生活課題のストーリー化(例) 食 事 調 理 食材の調達 図表2-2

レシピの確認

献 立 の 検 討 家族の健康考慮

」一~

総菜としてのコア商品分野による解決価値

Y

情報提供・人的提案で食生活シーンの解決 を網羅的にカバー

(14)

-48- 香川大学経済論叢 200 2.2 価値編集カ 第一原理の経営モデルで中核になるのが価値編集である。商品やサービス, それに付帯する情報,販売人材の提案,これらはすべて価値編集の力によって, 顧客に提供されなくてはならない。しかも,一人一人の顧客の生活シーンに合 わせてカスタマイズする必要がある。つまり,価値編集とは,顧客の課題解決 を前提にモジュール化された価値要素を統合していくことで,解決価値を明ら かにしていくことである。価値要素とは,商品やサービス,情報,ノウハウな ど,組み合わせが可能である極小化した単位である。そして,価値編集のねら いとするところは,価値要素を柔軟にカスタマイズしていくことで,顧客の変 化する生活テーマに柔軟に対応していき,解決価値の適合性,有効性を高める ことである。 さらに,価値編集は予想、もつかない偶発的な付加価値を生むことがある。こ のような価値は,顧客に意外性や感動を与えることが少なくない。したがって, 価値編集では,顧客の課題を分析し必要な価値要素を積み上げていくといった, 合理的な発想だけに捕らわれてはいけない。異質な冗長とも思われる価値要素 も取り入れていく。たとえば,次のような視点から,解決価値の高付加価値化 をねらう。 ① 時間という要素を取り入れる。スピードやタイムリー性,タイミングな どの時間軸を解決価値に組み込んでいく。そのためには情報のオンライ ン化のみならず,商品やサービスのリアルタイムの管理をおこなう。 ② あらゆるところとのネットワークをはっていく。顧客と担当の販売人材 との接点のみならず,必要に応じて顧客と企画担当者,顧客とトップな どのコネクトを図る。また,関連しそうな企業や,団体や公的機関,企 業向けサービスなど,情報ネットワークの力を借りて,ネットワーク網 を拡大する。 ③商品にあらゆるサービスを組み込んでいく,あるいはサービスに商品を 組み込んでいく。顧客価値を起点にした場合,小売業,サービス業,製 造業という捉え方はナンセンスである。モノとサービスの微細なレベル

(15)

201 NPOによる第三原理マネジメント -49-でのミックスが,思わぬ価値を生み出す。 ④解決価値が高くなるよう双方向性を求める。提供される解決価値は,そ のときは満足の高いものであっても,その次を保証するものではない。 顧客とのコミュニケーションによって,解決価値自体が改善,高度化し ていくような再編集のしくみを構築する。 ⑤価値編集者の主体的な意志を持つ。価値提供側は,適切な価値要素を選 択し,最後は自分の直感や洞察,感性をもって解決価値をプロデユ}ス していく。 上述のようにある種の冗長なことを取り込むことで高い付加価値を求めよう とするとき,経済合理性の壁に突き当たる。営利組織にとっ、て,リターンの見 えない投資はごの足を踏むことが多い。もちろん,リスクをとってこうした高 度な価値編集力を発揮する企業も存在はする。しかし,利益という果実がとれ るかどうかわからない顧客ニーズに対して,これを企業が黙殺するケースは少 なくないと考える。そこに,営利組織における第一原理の経営モデ、ノレの限界を 垣間見ることができる。次節では,これをもう少し詳細に解説しよう。 2,,3 第一原理の経営戦略の限界 企業が顧客や社会のあらゆる解決価値を充足できるとは限らない。営利組織 の市場原理に基づく行動は,けっして万能ではないのである。具体的には,次 に示す

2

つのポイントから営利組織の第一原理の経営戦略には限界があると考 える。そして,その限界を超える組織形態として

NPO

の存在を指摘しておきた し〉。 その第

1

には,営利組織の本分である収益性の確保の問題があげられる。社 会が多様化,複雑化するなかで,少子高齢化にともなう福祖,地域環境,まち づくり,国際協力,芸術文化など公共性の高い分野において,地域レベルで事 情の異なる問題が発生している。これら課題はある特定のエリアに発生する ニーズであったり,特定の生活者層が抱える少数意見であることも少なくない。 営利企業では,これに木目細かに対応することは可能であるが,採算のとれな

(16)

-50ー 香川大学経済論叢 202 い事業においては現実として対応はしない。一定の事業規模が確保できず,合 理性・効率性による経済的利の獲得が困難となるケースが少なくないのである。 かといって,営利性を追求しない行政のサービスでは,公平性の原則から,画 ーなサ}ビスの提供にならざるをえない。したがって,地域社会や個々人に フィットしたニーズに対応できないのである。このように企業や行政が提供で きない隙間のサービスを埋める組織制度や経営原理が,新たな解決価値の提供 者として求められている 第2には,営利組織では社会的な解決価値を提供できないことがあげられる。 人間の社会的な活動は,ある種われわれが生きていくうえでの問題を解決する 活動であり,これが時代とともに変化しているということである。つまり,解 決の主体者が国家や家庭,企業であったものが,地域社会にシフトしているの である。それを歴史的経緯から簡単に整理しておこう。 古代,中世において,国家的・民族的な利害の対立を,戦争という武力によっ て解決するという方法が多くとられてきた。軍事行為は,極端な言い方をして しまえば最終的な問題解決であったといえるかもしれない。そして,近代資本 主義社会においては,社会的問題を大きく 2つの方法をもって解決してきた。

1

つは,民主主義に基づく政治的な解決があげられる。法制度を定め,それを 行政や司法が執行することで社会の問題をクリアするスタイノレである。 2つめ は,市場メカニズムによる経済的解決である。モノやサービスの需要が発生す ると,企業は生産活動によってそれを提供し,そのことによって社会が豊かに なるという構図である。日本の20世紀は,まさにこの2つの社会的解決手法を もって発展してきた時代といえる。しかし,新世紀を迎えた現在,これら解決 方法では限界が生じていると考える。 加藤敏春の著書『エコマネー』のなかでは,政治的な解決と経済的な解決の 2つの方法は,各個人とその個人が関わる問題とを切り離したものだと指摘し ている。政治的な手法では代議士や行政担当者が,経済的な手法では製品やサー ビスを提供する企業が,各個人の問題を切り取ることでその解決を代行してい るのである。これにより,われわれは効率的に,物質的な豊かさや一定の自由

(17)

203

NPO

による第三原理マネジメント -51-を手にいれることができた。しかし,今日,閉塞感が蔓延する日本が抱えてい る問題や危機感は,各個人のライフスタイルに根ざした問題であり,政治的・ 経済的手法では自ずと限界があるといったことを加藤敏春の同著において示し ている。 その顕著なものが地球環境問題であろう。環境問題は,万人が大量消費型の 生活スタイルを改めなくては根本の解決がなされない。しかも,地域によって は,問題の事情がさまざまである。地球環境問題は,人間の欲望やニーズを満 たすという経済的な活動の果てに発生したものであり,したがってこれを経済 的な手法ですべてを解決できるかは非常に疑問である。また,自由や豊かさを 手に入れた人々に対して法制化といった政治的手法の行使も,さまざまな車

L

離 や利害の摩擦によって解決が難航するに違いない。こうした各地域や個人に根 ざすような地球環境問題のみならず,複雑化,成熟化した社会において,介護 や教育といった問題に対しでも,政治や経済まかせの解決方法では,人々の満 足は充足されなくなってきているのではないだろうか(図表

2-3

参照)。 図表2-3 第一原理の限界 .'ー..・・・・・・・... , 、 , 、 , 、

主 持

H

政 治 家 官 民

H

企 業 起 業 家 外 遊 家 触 手 法

H

帥 的 融

H

経 済 欄 決 ト [ 官 三

f

J

J

変革の目的

H

権 力 蹴

H

利益猷ト[註弘

.

.

川平官ま

解決の場所

H

国 家

H

市 場 、 , , 、 第一原理の解決価値 ‘ '-ー・・----・.."

(18)

-52- 香川大学経済論叢 204 2"4 コミュニティによる解決価値の創造 そこでみえてくるのが個人の自発性,自律性に基づく協働による解決価値の 創出である。これが第三の解決方法としてのコミュニティソリューションの出 発点となる。コミュニティとは,空間となる場や目標,価値観といったものを 共有する「縁」としての共同体である。コミュニティの仲間たちといっしょに なって,自らの問題を解決し自己の欲求を満たしていくことが,コミュニティ ソリューションの定義となる。実は,このコミュニティによる問題解決は以前 から行われている。コミュニティの種類には,地域や家庭における地縁や血縁, 職場の関係である社縁があり,それぞれの場において政治的,経済的とは無縁 なところで,協力的な問題解決がなされていた。そこにきて,今日,新たなタ イプのコミュニティがいたるところに生まれている。 その一つに,新種の社会の枠組みとなる地域コミュニティを注目したい。こ れには,

NPO

やボランティア組織といった社会グループが該当する。実は,こ れら社会グループの発足の多くは,地域や個人に立脚した問題意識からスター トしており,個人と問題を一体化した解決行動をおこしているのである。こう した「一体化した解決行動」は,営利組織ではみられない行動であり,社会グ lレープのなかでとくに

NPO

がその特徴を備えている。

NPO

の価値創造について,もう少し説明を付け加えておこう。地域には生活 者として,行政や企業が提供する地域サービスに物足りなさや不満を抱く者も 少なくない。生活者の視点から「地域にこんなサービスがあったらよいなあ」 といったことに気づいている人々である。こうした生活者の中には,特定のニー ズはあるが営利にならないサービス,公平さをベースにすると対応できない サービス,などの事業のシ}ズをもっている。これらの人々が自ら事業を起こ し,自分の行いが他人の幸せにつながり,地域生活が豊かになることを実感で きたとしたら,それは究極の自己実現ではないだろうか。

NPO

はこうした身の 丈にあった事業を実現する組織形態である。そしてこれがコミュニティソ リューションの原点であり,営利組織では提供することが困難な属性の解決価

1

直なのである。

(19)

205 NPOによる第三原理マネジメント -53 こうして実感される解決価値は,創発価値とよんでよいだろう。そして,営 利組織が実践する第一原理の経営モデルを超える存在として,

NPO

が得意と する第三原理!のスタイルがここに見え隠れしている。

3

刷第二原理の経営モデルとボランティア組織

関係価値の高まりの背景には,ネットワーク社会の本格的な到来があげられ る。たとえば,インターネットの普及は,地縁や血縁,職場や学校での従来型 の人間関係を飛び越え,世界中の人々や組織へのアクセスを可能とする。ここ では,顧客と営利企業がつながることによって,関係価値を創出する第二原理 の経営モデルを解説する。 その一方,営利企業の提供する関係価値は,経済原理や組織制度の面から一 定の制約が生じる。そうしたなか,人々は新しい関係価値を求めて,ボランティ ア活動への関心を高めている。ボランティア活動は,参画者に営利企業では成 し得ない価値を提供できるのである。そこで本章の後半では,ボランティア組 織の価値創造性に言及するとともに,その問題点も指摘しておきたい。 3,,1 営利企業による関係価値の経営モデル 生活者のライフスタイルを形成するものとして,解決価値以外に感情の価値 要素が双方向に交換される関係価値が重要となる。感情は,ロイヤルティー, 尊敬,興奮,約束といった形態で人と人,人と組織,人とモノの間で流通する。 企業と顧客においても,感情的な一体性が強固な関係を育むことになる。感情 指向のビジネスが大きな力をもつことになる。 顧客にとっては,企業と感情を交換することによって関係価値を享受するこ とができる。簡単な例でいえば,自然保護への寄付と預金が結びついたエコファ ンドという金融商品があげられる。受け取る利息の一部が環境保護への資金に 固されていく。これによって,顧客は自然環境への関心という感情をエコファ ンドの提供企業と共有することになる。ここに顧客,自然,企業がつながるこ とでの関係価値が成立するのである。

(20)

-54- 香川大学経済論議 206 このような関係価値を顧客も企業も享受できる経営スタイルを,関係価値型 の経営モデルとして,図表

3-1

によって概念化した。中核には,強固な関係 を築くベースとなる「ビジョンの共有」を据えることになる。そして,より付 加価値の高い関係価値を見出す経営機能として,顧客接点,人材創造,知識創 造の

3

つの機能を求めた。顧客接点の機能とは,顧客との接触機会を増加させ たりフレンドリーな対応によって顧客満足度を高める仕掛けのことである。ま た,人材創造とは,従業員が顧客と触れ合うことで人間的成長を実現する人材 開発プログラムを意味する。さらに知識創造の機能は,提供する商品やサービ スを,顧客とともに創りあげていくシステムのことである。 図表 3ー 1 関係価値の経営モデル

告ゲョー

3つの機能に一貫することは r顧客の人生に深く関わるなかで,顧客ととも に成長していこう」とする仕組みを築くことである。そして,顧客との結びつ きのなかで,本音の感情を相互交流させ関係価値を見出していくのである。 3..2 ビジョンの共有 上述したように第二原理の経営モデルの枠組みは,企業側が示す経営理念と

(21)

207

NPO

による第三原理マネジメント -55-顧客が抱くビジョンとが重なることが前提となる。つまり,企業の経営理念が 関係価値を生むスタートとなるのである。顧客とのビジョンの共有があって, はじめて信頼できる関係性が維持できるのである。ただし,適切な企業ビジョ ンを企業に定着させ,顧客価値を創出していくことはそれほど簡単なことでは ない。顧客と共有できる適切なビジョンとは,いったいどんなものなのか。ど のようにして,企業ビジョンを経営システムや顧客行動の中に定着させていけ ばよいのだろうか。 関係価値型の経営モデルでは,適切な企業ビジョンを構築する要素として次 の

3

つがポイントとなる。まず,第

l

には,顧客満足の視点があげられる。つ まり,ビジョンの中身に「どのような価値を顧客に提供していく企業なのか」 といった要素が盛り込まれていなくてはならない。ここでいう価値とは,解決 価値を表現するのが一般的である。顧客に対する解決価値の実践が関係価値を 生み出すことになる。第

2

には,ビジョンが組織の行動指針となることである。 顧客との関係性において,組織スタッフに対して「どのようなマインドで接し てもらいたいのかJrどのような人間形成を果たしてもらいたいのか」を明確に 示す。これにより,顧客を起点にした組織文化を形成するのである。 企業ビジョンの第

3

には,社会貢献の思想、が流れていることが求められる。 「自社は社会にとって,どのような存在でありたいのかJr社会に何をもって貢 献していくのか」といったアピールが重要となる。こうした社会貢献を反映す るビジョンが顧客の共感をよび,ビジョンの共有化を実現する。また,社会と の係わりを明示するビジョンは,第 4章で解説する創発価値へのアプローチに もつながっていく。 企業ビジョンは必ずしも明文化されている必要はないが,明確に存在しなけ ればならない。明確なビジョンが顧客との距離を縮め,関係価値を提供するベー スとなる。裏を返せば,ビジョンに共感してもらえないのならば顧客になって もらうのは諦めざるをえないという,スタンスを示すことになる。優れた企業 ビジョンは,顧客と希望,期待,夢を共有する。そして究極的には,まるで身 体が一つになったかのように融合し,物理的な距離を超えたコミュニケーショ

(22)

-56- 香川大学経済論叢 208 ンを成立させるのである。

3

.

.

3

ボランティア活動の高まり 企業にとって第二原理の経営モデルの構築は,ますます重要なテーマとなる。 しかし,企業と顧客との関係価値の創造は,取引関係をベースにした営利追求 が前提となる。つまり,営利組織は当然のことながら経済的な見返りのある関 係性のみを重視するのである。したがって,企業が生活者や社会に対してオー ルマイティに関係価値を提供できるものではない。そうしたなか,人々は新た な関係価値を享受するものとして,ボランティア活動に熱い視線を投げかけて いる。 全国で活動しているボランティア数は毎年着実に伸びている。(社福)全国社 会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センターがまとめた「ボランティア 活動年報J

(

1

9

9

9

年)によると,

1

9

9

9

4

月時点で

6

9

6

万人となり,

1

9

9

2

年と 比較して1..

6

倍となった。また,ボランティアに未経験な人でも,多くの人が その活動に高い興味を示している。旧経済企画庁「国民生活選好度調査J

(

2

0

0

0

年)によると r今後ボランティア活動に参加してみたいJr機会があれば参加 してみたい」と回答した人の割合は,合計で65%であった。さらには,これま でにボランティア活動をしたことがないが,活動への参加意欲を持っている人 は同調査において

37%

で あ れ 国 民 の

3

人に

1

人が未経験だがボランティア活 動に参加を希望していることになる。 こうしたボランティア活動が注目されている背景には r共感関係」が重視さ れてきていると考える。そこで,図表

3-2

をみてもらいたい。生活者におけ るつながりは,地縁・血縁による同属関係,国家や行政との権利義務の関係, 市場経済における取引関係・職場,価値観を共有する共感関係の4つに大別で きる。 戦前においては,同属関係の紳が人と人を強く結びつけていた。戦後の高度 成長期になると,都市化による地域の衰退と企業在会の台頭によって r社縁」 という取引関係にとって代わった。「会社人間」という言葉に象徴されるように,

(23)

209 NPOによる第三原理マネジメント 図表3- 2 4つの関係価値

・・、

-f

営利企業 } 、 、 . / 自由な出会い 選択的

ヘ 、

、 働

-h イ

-一

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-一

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〆 ボ ¥

取 引 職 場 関 係 │

好縁関係

-市場経済 -ボランティア-友人 ノ 対 協 抗 調 的 的

権利義務関係

同属関係

-行政 -地縁・血縁

-57-一

一 正 治 一

-M

自 一

E

方 一 一地一

f

'

家族・地域ヘ、) 限定的・あるいは選 択の余地無し 平成12年 版 国 民 生 活 白 書 第1-1-19より加筆作成 職場での人間関係が生活の大きなウエートを占めていたのである。しかし,バ ブル崩壊を経て,経済の成熟化,終身雇用制度の崩壊など,会社への帰属意識 が希薄になるとともに,こうした社縁のつながりも弱まっている。こうした変 化のなか,ボランティア活動が新しい縁をつなぐものとして期待されている。 ボランティアのような,自らの好みと正義に基づいて行動する仲間づくりを共 感関係に基づく「好縁」と呼び,新しい関係価値を見出しているのである。 ボランティアの底流にあるのは,自分の好きなことをやって,人とのつなが りを築いていくことであり,その人間関係から新しいものを学んでいくという 過程を大切にする意識である。しかも,主体性が活動の核心である。ほかから 強制されるのではなし自分から動くことによってつながりが聞けていくので

(24)

-58 香川大学経済論叢 210 ある。 こうして得られる高度な関係価値は,営利組織では産出が不可能であろう。 その理由は,営利企業との関係における顧客の立場はある一定の枠を超えた主 体性は発揮できない,ということにある。顧客は,どうしても商品やサービス を受容するという受身にならざるを得ないのである。また,経済原則に基づく 取引関係は関係価値の深まりや継続性に制限を加えているのも,その要因と考 えられる。 3..4 ボランティア組織の問題と NPO 前述のように考えると,ボランティア組織においても,営利企業とは異なる 第二原理の経営モデルがみえてくるかもしれない。そして,ボランティア組織 の経営モデルは,柔軟で変化への対応が早く,革新的な組織体として,価値創 造性が極めて高いものと一見期待される。 しかしながら,現実はそうではない。大部分のボランティア組織は,動きが 遅く,アマチュアで,人材や設備なども乏しく,新しいアイデアも受け入れな い。ボランティア活動は個人間の関係性を重視するあまり,組織的な統一性を 欠くことが大半なのである。したがって,その活動は一過性であったり,提供 されるサービスの品質にはばらつきがあったりする。こうしたボランティア手直 織の一般的な問題を下記に整理しておく。 ① ボランティアに参加する人々は時間的な制限がある。このことは,組織 が提供するサ}ビスの継続性や安定性の確保を阻害する。 ② 「自分たちは良いことをしている」という自己満足が高くなり,周囲から の評価や新しいアイデアを受け入れる意識が低くなる。 ③ ボランティアの参加者はたいていアマチュアが多く,レベノレの高い品質 のサービスをいかに確保するかが問題となる。 ④ 限定的な価値観や好みで集まっているため外部排他的な側面もあり, ネットワークの広がりに欠けることもある。 以上のように,ボランティア組織には,一般的に潜在的・瞬間的な能力はあ

(25)

211

NPO

による第三原理マネジメント 59 るものの,安定的・継続的な関係価値の創出力が欠如している。また,解決価 値を生み出す能力はもともと乏しく,生産的な事業活動には限界が生じる。そ こで,ボランティアにおいても

NPO

という組織的枠組みが求められてくるの である。

NPO

は,柔軟でかつフラットな組織であることに加えて,創造的でオープン な組織をつくりだす。

NPO

のリーダーは起業家精神をもち,ユーザー,パート ナー,資金提供者との聞に複雑でオープン,かつダイナミックな関係を築く。 これらの活動を通して,彼らはさらに優れたアイデアや人材,資金を獲得し, 活動の範囲を拡大していく。ボランティア組織の活動が,特定の目的に限定さ れ,外部とのネットワークもそれほど大きくないのに対し,

NPO

の活動は,と どまることなく発展しつづけるのである。 ボランティアの精神は,人や社会のために貢献したいという感情である。こ うした人々が

NPO

の枠組みをもって統一性のある行動をとったとき,新たな 社会が生まれていくにちがいない。人々が特定の目的意識をもって交流するこ とで,生活者同士のネットワークが拡大し地域が生き生きしてくるのである。 この新しい社会づくりの実感が,個々人の生活意識を充実させ生きがいを高め る。このように

NPO

は,社会と個人を再生するという点において極めて創発的 な価値を提供するのである。ここに,第三原理の経営モデノレが見えてくると考 える。

4

.

.

原理融合の経営戦略

前章までにおいて,第一,第二原理の経営モデノレの有効性を説きつつ,それ には限界があることを示した。そして,

NPO

によって第一,第二を原理融合す る第三原理の経営が存在することを示唆した。そこで本章では,解決価値と関 係価値を超える価値,すなわち創発価値を創造する組織として,

NPO

の経営戦 略に焦点を当てていきたい。

(26)

-60- 香川大学経済論叢 212 4..1 社会資源変革装置としてのNPO 原理融合の経営戦略を実践するのは

NPO

である。それでは,

NPO

は社会に 対してどのような価値をもたらすのか,改めて整理をしてみよう。 経営学者の

P'F

・ドラッカーは,

NPO

をこれからの社会構築の重要な担い 手になるとして,-社会資源変革装置」とたとえている。それを筆者なりに,図 表

4-1

をもって体系化してみた。ここでは,

NPO

を在会資源をインプットし 3つの価値をアウトプットする事業体であると位置づけた。社会資源には,地 域の人的資源,企業や行政の組織体,地域施設など物的資源,地域の文化・芸 能,地域社会のニーズなど,有形・無形を問わず多種多様なものを含んで、いる。

NPO

はこうした社会資源をコーディネートし,地域事業の価値,雇用の価値, 社会形成の価値へと変換する。図表

4-1

に照らし合わせ,産出される

3

つの 価値についてそれぞれ説明をしていこう。 図表 4ー NPOの社会資源変換装置 ア J e - ア ン 者 者 ラ齢婦隙 ボ高主身 0 0 0 0 社会形成の価値 (創発価値) 地域事業の価値 (解決価値) 人材の価値 (関係価値) 地域事業の価値とは,地域の課題解決をする社会サービスがもたらす解決価 値のことである。その源泉にあるのが,-どうあるべきか」といった地域のニー ズや問題意識である。たとえば,これには,健康,安全,環境などに関わる生 活テーマがあげられる。また,文化,芸能,教育,産業などの地域振興のテー

(27)

213 NPOによる第三原理マネジメント -61-マもあるだろう。これらテーマにもとづく住民の意志と,地域の眠れる施設, 忘れ去られそうな文化や伝統が合わさり,

NPO

によって新しい社会サービス に変換される。 人材の価値とは,新しいワークスタイルの創出のことであり,関係価値の源 泉のーっとなる。地域には豊富な人的資源が眠っている。たとえば,一般の企 業では雇用されにくかった主婦や中高年層は,地域住民主体の

NPO

にとって は貴重な人的資源となる。

NPO

で働く人々は,社会性を帯びた仕事に携わるこ とでそこに生きがいをみつけ,自己実現を果たすことも少なくない。また,

NPO

は人々のボランティアへの欲求を受けとめ,社会貢献や社会参画の意欲を実現 する存在ともなる。このように,

NPO

は,社会の眠れる人的資源を活力ある ヒューマンパワーへと変換する機能を有するのである。 社会形成の価値とは,地域の活性化や新しいまちづくりといった,コミュニ ティーの形成の創発価値である。民間企業や行政が,直接には参入できなかっ た事業の領域でも,

NPO

が介在することで参画への可能t性を広げる。つまり,

NPO

は企業や行政の協働機会を提供するための有効な機関となる。

NPO

によ り,地域社会に属する企業や行政,他の

NPO

,専門家,住民がコ}ディネート され,新しい社会が形成されるのである。 このように

NPO

は,

3

つの価値を産出する社会資源変換装置といえるメカ ニズムを内在している。そしてそこには,企業,行政,生活者,社会,文化な どをコーディネートし硬直化してしまった組織の限界にみられる従来型マネジ メントを乗り越える経営手法が存在する。さらには,高い志のもとリスクをあ えて取りながらも,閉塞する産業を変革したり,労働市場を創出するなど,新 しい事業価値を切り開いていくという原理融合の思想が流れているのである。 4.2 第三原理の経営モデル

NPO

の特徴は,多様なステークホルダ}が存在していることである。

NPO

のステークホルダーは,無給の理事,ボランティア,受益者,資金提供者,自 治体など様々である。こうした関係者を融合し,解決価値,関係価値,創発価

(28)

-62- 香川大学経済論叢 214 値を提供していく視点、が, NPOの舵取りにおいて重要になる。とくに,第三原 理の経営モデルでは,このなかでも創発価値をいかに生み出していくかがポイ ントとなる。そこで,図表

4-2

をみてもらいたい。関係するステークホルダー によって

4

つの戦略を浮き彫りにしている。そしてこれら

4

つの戦略の組み 合わせが,第三原理の経営戦略としたのである。それぞれ簡単に説明をしてお ち ミ

第1は,融合のマーケティング戦略である。実は, NPOには受益者とボラン ティアという

2

つの顧客が存在しており,異なる価値判断を持っている。それ ゆえに, NPOの経営を複雑なものにしてしまっている。 2つの顧客の価値を融 合するマーケティングによって,創発価値を高める戦略をとる。 第2は,人材再生の戦略である。企業人材や生活者からNPO支援者への転換 のプログラム開発によって実践される。地域には,働きたくても働く機会の少 ない女性や中高年者が埋もれている。また,企業においても職場で閉塞感を抱 図 表4-2 第三原理の経営モデル 圃 人 材 再 生 の 戦 略 回融合の

マーケティング戦略

,寸-c社会起業家〉 一 貨 一 h 、 一 通 一 1 一 域 一 一 地 一

-ファンドレイジング

の 戦 略

-コラボレーション

の 戦 略

(29)

215 NPOによる第三原理マネジメント -63-いている労働者も少なくない。こうした人材を

NPO

のスタッフに引き入れる ことによって,生き生きとした人材へと再生する。 第

3

は,ファンドレイジング戦略である。

NPO

といえども事業を行う限りに おいては,資金需要が発生する。そこで,求められてくるのが資金調達として のファンドレイジングである。営利性を第一義としない

NPO

は,異なる点とし て,事業収入が少なく企業からの寄付や地域生活者からの会費に頼らざるを得 ないことがある。したがって,戦略的に資金調達の施策を展開する必要がある。 具体的には,寄付者は自分が高く評価した

NPO

を選択し資金を提供すること から,組織活動の客観的評価を行い,正当にそれをアピールしていくなどの対 応が求められる。 第

4

は,自治体や企業とのコラボレーション戦略である。

NPO

は総じて小規 模組織体である。したがって,ヒト・モノ・金・情報,そして事業ノウハウと いった経営資源が不足しているという問題を抱えている。自治体や企業と連携 をすることで,こうした経営資源を補い事業創造性を高めるのである。自治体 や企業においては,それぞれ公平性の原則,営利追求の原則から,ある種の地 域事業には対応できない面がある。したがって,

NPO

Win-Win

のコラボ レーションは重要なテーマとなるだろう。 本論においては,とくに重要と考える融合のマーケティング戦略と人材再生 の戦略を取りあげ,次節以降で詳説していく。また,これら4つの戦略を実施 するマネジメント手法として,社会起業家,コミュニティビジネス,地域通貨 があげられる。これについては,第

5

章の第三原理のマネジメントにおいて論 述を試みたい。

4

.

3

融合のマーケティング戦略 マーケティングとは,顧客に対し価値を提供したり交換するための技術や仕 掛けのことと定義できる。営利企業においては,これを合理的・効率的に実施 していくことで適正な利益の獲得を目指す。そして今日,企業の経営戦略を構 築していくうえで,マーケティングは重要な機能を担っている。

(30)

64 香川大学経済論叢 216 一方,マーケティングは,価値提供の技術としての営利企業だけのものでは ない。

NPO

にとっても,顧客や社会と適切な関係を築くための重要な経営手法 である。しかし,

NPO

のマーケティングを考えるうえで,

2

つの顧客を想定し なくてはならない。ひとつは受益者であり,サービスの提供による解決価値の 提供方法が主なテ}マになるだろう。もうひとつはボランティアや支援者が対 象となり,関係価値をいかに獲得してもらうかが課題となる。そして,こうし た顧客の二重性が

NPO

のマーケティングを困難にさせている元凶となってい る。逆にいえば,これを戦略的に展開していくことで 2つの顧客に対して創 発価値を有効に提供することができるのである。 もう少し具体的に

NPO

マーケティングの問題点を整理しておこう。図表

4

-3

をみてもらいたい。

NPO

のサービスは,市場を通さず直接的に受益者に対 図表4-3 融合のマーケティング戦略 融合のマーケティング して供給される。そして,受益者は多くの場合その対価を支払わず,感謝をもっ て

NPO

に応える。このことは受益者のサービスに対するチェックを困難にし, その結果,

NPO

側にマーケティングの本質である顧客志向の考え方が生まれ にくいという問題を発生させる。つまり r無料でやってあげている」という意

(31)

217 NPOによる第三原理マネジメント -65-識が,受益者不在のサービス提供てなってしまうのである。 また,ボランティアや寄付者に対するマーケティングにおいても問題を抱え ている。むしろ,支援者に対するマーケティングという発想や方法論が欠如し ていると言った方がよいだろう。

NPO

側は,ボランティアに対しては「手伝っ てもらっている」という意識が高しこれを「関係価値を提供するJ といった 視点に転換する必要があり,そこに顧客満足を獲得する手法が求められてくる。 逆にいえば,この分野のマーケティングが実践されていないがゆえに,多くの 支援者の理解や共感を獲得できないのである。 このように考えると

NPO

のマーケティングは,営利企業のそれにはない要 素を取り入れる必要がある。その要諦は,二重化している顧客を融合するマー ケティングプログラムを開発することである。つまり,受益者の満足の源泉で ある解決価値の提供が,ボランティアの満足の源泉である関係価値につながる システムが求められてくる。ここでは,これを融合のマーケティングとよび, 原理融合の経営戦略の重要なファクターとしたい。融合のマーケティングの実 (2) 践を

'4

つの

PJ

であるマーケティングミックスの切り口によって整理してみ ょう。 まず,プロダクト

(

P

r

o

d

u

c

t

)

であるサービス開発については,協創による価値 創造を行う。ここでいう協創とは,受益者やボランティア,

NPO

のスタッフが 一緒になってサービスを開発し,日々進化させていくことを意味する。こうし た行為によって,サービスの質が高まり,受益者満足が向上するのは想像する のに難くないだろう。また,協創のプロセスは

2

つの顧客の聞に情報や感情 を交流させる。これによって,ボランティアは受益者に対する関係価値を創発 させるのである。 価 格

(

P

r

i

c

e

)

については,サービスの評価を明確にし流通性を高める工夫を 行う。

NPO

サービスは往々にして,無償に近い価格設定にこだわることがあ (2 ) マーケティングミックス:マーケティングミックスとは,製品,価格,チャネlレ,販売 促進で示される4つの施策の組み合わせで考えられるのが一般的である。顧客層を同質 的性格の市場に細分化し,そこに最適なマーケティングミックスで,経営資源の投入を図 ろうとする。

(32)

66- 香川大学経済論叢 218 る。しかし,妥当な価格設定は,受益者の価値認識を高め,ボランティアに対 する責任意識を喚起させるものとなる。そこで,考えられるのが地域通貨の利 用による価格政策である。地域通貨の詳細の解説については,次章でふれるこ とにする。 販路(Place)については r協創の場」を設定することが重要である。販路と は,サービスを提供するチャネルであり,営利組織の製品であれば,たとえば 販売庖舗が販路となる。融合のマーケティングにおいては,ボランティアや受 益者がフラットな関係を築ける場が有効な販路となる。たとえば,地域に密着 するコミュニティ施設などはその代表となるだろう。 最後は,プロモーション(Promotion)である。プロモーションとは,顧客に サービスの有効性を的確に伝達する仕組みである。

NPO

においても,こうした 活動は大切になるが,融合のマーケティングでは,とくに次の

2

点のプロモー ションを展開する。ひとつには,伝道者を増やすことで口コミによる

NPO

の認 知度を高めることである。そのためには,

NPO

に共感を抱く顧客との関係をさ らに深めるようなコミュニケーションをとっていく。もうひとつは,受益者が ボランティアに,ボランティアが受益者になるプロモーションシステムを作る ことである。満足度の高い受益者のなかには,ゆくゆくはボランティアとして 提供者側にまわりたいとするニーズは高いと思われる。また,ボランティアが 生活環境の変化によって受益者になるケースも少なくないだろう。タイムリー な情報提供,

NPO

活動の適切なる情報開示によって,こうした移行システムを 構築する。 以上のような融合のマーケティングは,受益者とボランティアの満足を同時 に達成する。つまり,解決価値と関係価値を融合させることで創発価値を創出 するという原理融合の経営戦略を実践するのである。

4

.

4

人材再生の戦略 人材再生の戦略とは,企業人材・生活者をボランティア・支援スタップへ誘 導していく戦略である。これによって,

NPO

への主体的な参画が人材を活性化

参照

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